ダンガンロンパ~黄金の言霊~   作:マイン

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今回もオリジナルの波紋が出てきますがご了承ください。


次世代の波紋戦士と過去の遺物

 狂喜乱舞する狛枝を前に、日向は腕に巻かれたバンダナを外し頭に巻く。日向がツェペリとして闘うときの儀式のようなものである。苗木もまた『G・E・R』を傍らに呼び出し普段とは異なる強い目つきで狛枝を捉える。

 

「日向君…!」

「…苗木君、来てくれた…!」

「…チッ、遅えんだよお前ら!」

 七海と舞園が歓喜の表情を見せる。クラスの皆も遅れてやって来たヒーローの登場に希望の色を取り戻す。日向はそんな彼らの中で苦しむ小泉と負傷した七海に目を向け、隣の苗木に耳打ちする。

 

「…苗木、俺が時間を稼ぐからお前は先に小泉と七海を治してやってくれ」

「日向君…?」

「お前の能力はさっき聞いたから分かってる。あの二人の容態からして、俺の波紋よりお前のスタンドの方が早く治せるだろう?…けれど、俺の『鉄球』じゃあスタンドを相手取るには少し面倒だ。倒せないこともないけど必然的に狛枝本体を狙うことになるから危険だし、下手をしたら俺にほうが負けるかもしれないからな。…イイトコ譲ってやるお膳立てはしてやるから、早く治してくれよ…!」

「…分かった、しばらく頼みます…ッ!」

 その言葉と共に苗木はまず小泉の元へ向かい、日向マフラーをたなびかせ狛枝へと向かっていった。

 

「へえ?日向君が来るんだ。いいの?スタンドはスタンドでしか傷つけられない。苗木君に任せるのがベストだと思うけど?」

「嘗めんなよ狛枝…!お前ぐらいなら俺でも十分だ!」

 低い姿勢で突っ走りながら、日向は首にかかったマフラーを掴みとって叫ぶ。

 

「波紋ッ!」

 叫びと共に日向の手から波紋が溢れマフラーに流れていくと、マフラーはピンと立ってまるで剣のような形状になってそのまま固定される。

 

「へえ…!そのマフラーそんなことができたんだ!」

「このマフラーは、サティポロジア・ビートルという虫から得られる波紋を100%伝導する糸を編んで作られたもの!波紋を流せば如何様にも操ることができる!しかもッ!」

 日向が固定されたマフラーを狛枝に振り下ろす。狛枝は『キラークイーン』で受け止めようと考え…直後に嫌な予感を感じて身を翻して躱す。次の瞬間狛枝がいた場所をマフラーが空振る…かと思いきや突如マフラーがまるで蛇のようにうねり回避したばかりの狛枝へと襲い掛かった。

 

「何ッ!?『キラークイーン』ッ!」

 予想外の軌道変更にとっさにガードするが、軌道を少しずらす程度しか間に合わずマフラーは狛枝の肩口を掠め、深々と肩を切り裂いた。

 

「ッ!?これは…ッ!?」

「ただマフラーを波紋で固めただけだと思うなよ!今このマフラーには細かな波紋を連続して高速で流している。そうすることでマフラーにチェーンソーのような切れ味を付加させることができる!これが波紋一族のかつての宿敵、カーズの流法『輝彩滑刀』を参考に俺が生み出した波紋、『輝彩滑刀の波紋疾走(リスキニハーデン・オーバードライブ)』だッ……ぅえ?」

 余裕かましていた狛枝に一太刀入れ、力強く己の技を宣言した日向であったが、技を喰らった狛枝の様子がおかしいことに気が付いた。

 

「あっ…がっ、がああああああッ!?」

 狛枝は切り裂かれた肩の傷など目もくれず、なぜか額を抑えてのたうちまわっていた。頭痛かもしくはPTSDの類かと思ったが、苦しむ狛枝の顔は瞳孔が縮み、目が血走り、涎を垂らし、まるで拷問でも受けているかの如き表情と化していた。

 

「ど、どうしたんすか凪斗ちゃん…?」

「あ、あんな苦しみ方異常ですよぉッ!?」

「怪我させられといてなんだけど…ちょっと気の毒になるぐらいの苦しみっぷりね」

「…頭に何かあるのかな?」

 闘っている間に苗木によって傷が完治した小泉と七海を含めた避難組も、狛枝の様子の変化に戸惑いを隠せない。

 

「…これは一体どういう状況なの?」

「あ、霧切さん!皆も…!」

「舞園ちゃん!無事だったか、良かった~!」

「舞園君が無事なのは良いのだが…」

「あれ、狛枝先輩だべ?どしたんだべ?」

「すっごく苦しそう……あ、起き上がるよ!」

 そうこうしている間に追いついた霧切達78期生を含めた面々の前で、やっと落ち着いた狛枝がゆっくりと起き上がる。

 

「…ふ、くっくっく…くっははははははははッ!!」

「ど、どうした狛枝…ッ!?」

 起き上がるなり馬鹿笑いをし出した狛枝に日向が声をかけると、狛枝は笑いを止めてギョッとこちらに顔を向ける。

 

「…酷いよ日向君、物凄く痛かったじゃあないか。まるで脳みそがかき回されたみたいな痛みだったよ。波紋が人体に無害だっていうのは嘘だったのかい?」

「こ、狛枝…?」

「おいおいおいおい、アイツ血の涙流してるぞ、大丈夫なのか?」

「つーか顔怖っ!」

 日向を見る狛枝の表情は、目は三白眼、口は三日月のように反り返り、口や鼻だけでなく目からの出血しているというどう見ても重症な様子であったが、当の本人はもはや痛みを感じるレベルを通り越して笑いながら喋っていた。

 

「嬉しいよ、それが君から僕への愛なんだね?だったら僕も君の気持ちに応えさせてもらうよ…」

 どこかおかしなテンションが高まった狛枝は、ポケットから財布を取り出しそこから小銭を引き抜いて前に突き出し、『キラークイーン』がそれに触れたのを確認すると宣言する。

 

「このコイン全てを『爆弾』にしたッ!避けられるものなら、避けてごらんよ!」

「ッ!?」

「あ、あれ全部!?30枚ぐらいあるっずよ!」

「狛枝の奴、意外と小銭で溜め込む奴だったんだな…」

「んなこと言っとる場合かぁーッ!!」

「くはははっ!さあ、この爆弾全てをどうやって…」

「…できないよね?」

 混乱する面々に高笑いする狛枝に、七海が言い放つ。

 

「…え?」

「狛枝君、それ全部爆弾になんてできないでしょ?」

「ど、どういうこと!?」

「…闘ってるときから気になってたんだ。狛枝君、爆弾を絶え間なく投げてきてたけど一発づつしか来なかったんだ。もしそんなに沢山爆弾をつくれるなら、一気に投げればもっと簡単に勝てたはずなのに。それに、皆が逃げようとするたびにしつこいぐらいその机のことを強調してきてた。…だから思ったんだ。そのスタンドは『爆弾を作ることも起爆させることも一発づつしかできない』んじゃあないかって…と、思うんだけど間違ってる?」

「………参ったな、僕の能力をこうもあっさり見破るだなんて。流石『超高校級のゲーマー』なだけのことはあるね」

「じゃ、じゃああの机は…」

「ただの机だよ。そう思わせるために演技してみたんだけど、どうだったかな?」

「…つーことは、俺ら…」

「ありもしない爆弾に騙されていた…ということか…?」

「…んがぁぁぁッ!!ム・カ・ツ・クゥ~ッ!!日向おにぃ!さっさと懲らしめちゃってよ!」

「落ち着けって西園寺、口調が地に戻ってるぞ」

「さっきから戻ってるわよ!いいから早く…」

「いや、日向君悪いけどここでバトンタッチだ」

 西園寺を遮り苗木が前に歩み出す。

 

「苗木…?なんだってこのタイミングで、この調子なら別にお前に変わらなくても…」

「いや、勝てるとか勝てないとかの話じゃあない。狛枝さんにこれ以上波紋を使ってはいけない。だから僕が行く」

「?…まあよく分からんが、分かった、交代だ」

 日向は首を傾げながらも苗木とバトンタッチし、苗木は狛枝の前に立ちはだかる。

 

「…やっと来てくれたね苗木誠君」

「アンタ、僕を巻き込むためだけにこれだけの騒ぎを起こしたのか?」

 普段の丁寧口調とは異なるいささか粗暴な言葉遣いの苗木に、狛枝は再び狂った笑みを見せる。

 

「ッハッハッハ!…僕はね、君に会った時からずっと気になっていたんだよ。過去にも僕は僕と同じ『超高校級の幸運』を持つ生徒と会ったことがある。けれど、その誰もが僕の求める絶対的な『希望』とは程遠い存在だった。実際直接会うまで君も同じだと思っていたよ。…けど直にこの目で見てすぐに分かったよ。君が凡人とも、『超高校級』の才能を持つ人たちとも一線を画す存在だということがね!けれど、それが『希望』なのか『絶望』なのか、そこまでは分からなかったんだ。だからここで確かめさせてもらうよ!君が本当に『超高校級の希望』となりえる存在なのかということをねッ!!」

「な、何言ってやがんだアイツ…キレてんのか!?」

「そう言う次元の問題じゃあない…ッ!奴はもはや狂ってるッ!!」

 初めて見る狛枝の異常なテンションに戸惑う78期生と、さっきから見ている筈だが未だにどう反応していいか分からない77期生の眼前で、当の苗木が発した言葉は非情にシンプルなものであった。

 

「…御託はその辺でいいのか?」

「…ん?」

「それだけくだらない妄言をつらつらと喋れる以上、僕は君を『覚悟』している人間とみなしたッ!だからこの場でブチのめすッ!!」

 宣言と同時に苗木は飛び出した。怒りとも、憐憫ともしれない表情で向かってくる苗木に狛枝はニヤリと笑う。

 

「…いいのかな、君は僕のスタンド能力をもう分かっているんだろう?だったらそれが無謀極まりない行為だということは分かっている筈だよ…」

 狛枝は未だ手にしていたコインの一枚を苗木に向かって突き出す。

 

「確かにこのコインすべてを爆弾にすることは不可能だ。けれど、爆弾自体は作れるッ!たった今このコインのいずれかを『爆弾』に変えたッ!一枚あれば君を木っ端みじんにするには十分な威力だッ!」

「な、何ィッ!?」

「……」

「…さあ苗木君、この一枚は『爆弾』かどうか、君の『幸運』で当ててみなよッ!」

 指から弾かれたコインは苗木目掛けて一直線に飛んでいく。

 

「か、躱せ苗木ッ!爆弾だったらお前はお陀仏だぞッ!」

「…フン、やかましいぞ野蛮女。あれが爆弾な筈が無いだろう」

「…どういうことですの?」

「よく考えてみろ、あんな位置で爆弾を爆発させれば狛枝自身も爆発に巻き込まれる。いくらイカれているとはいえ自殺まがいの方法で攻撃するはずが無いだろう」

「な、なーるほど。じゃあアレはハッタリ…」

「…いや、そうじゃあないッ!苗木!それこそが『爆弾』だッ!躱すか弾くかするんだッ!」

 十神の言葉に納得しかけた一同であったが、何かに気が付いた日向が大声を上げる。

 

「は、創ちゃんどうしたんすか?」

「貴様、何故そう断言できる?今言っただろう、あの位置で爆発すれば自分も…」

「だからなんだッ!自分も巻き込まれる可能性があるからこそ、アイツはその瞬間に賭けたんだッ!」

「…どういうこと?」

「…アイツの性格、お前らも知ってるだろ?」

「……ッ!そういうことかッ!」

 日向の言葉に、77期生達はしまったと言わんばかりの表情をする。

 

「ど、どういうこと?」

「アイツは目的の為なら自分が傷つくことすら厭わん性格なんだッ!しかも性質の悪いことに、アイツの持つ『超高校級の幸運』も相まって半ば自爆まがいの行動でもアイツは大した被害を被ったことが無いんだ!そしてアイツはそれらの行動を確信を持ってやっているッ!だからこそ奴はこう思っているッ!『苗木は死んでも自分はきっと無事だ』と!!」

「…ッ!に、逃げてください苗木君ッ!」

 舞園が悲鳴を上げるが、既にコインは苗木の顔の手前まで接近していた。

 

「ハハハハハッ!気づくのが少し遅かったねぇ!もう回避は不可能だよ!弾こうとしても無駄だよ。そのコインはただの『爆弾』じゃあない、『接触弾』だ!触れた瞬間に爆発するから防ぐことはできないよッ!!」

「せ、『接触弾』ですとぉ~ッ!?」

「や、やべえッ!!」

「ハハハハハ…じゃあね、苗木君ッ!」

 避けようのない現実を突き付けてもなお突っ込んでくる苗木を嘲笑う狛枝の眼前で、コインは苗木の鼻先に当たり…

 

ボゴォォォォンッ!!

 轟音と共に苗木の体を爆破させた。

 

「どあああああああああッ!!?」

「い、嫌あああああああああッ!!」

「…なんだ、思ってたよりあっさり終わっちゃったな…」

 弾けるようにではなく、崩れ落ちるように破壊される苗木を目の当たりにし、悲鳴と絶叫、そして狛枝の落胆の声が飛び交う。

 

「結局君もその程度だった、ということか…」

 心底がっかりしたような様子の狛枝が俯き大きくため息をついて、せめて最期ぐらい見届けてやろうと顔を上げると

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そこには全く無傷の状態の苗木が目の前に仁王立ちしていた。

 

「……え?」

 想定外の範疇すら超えた現実に、狛枝の脳は自身が見ているものを処理できずにいた。狛枝だけではない、その場の全員がその事実を受け止めることだけに無我夢中になっていた。何故ついさっき目の前で死んだと思っていた苗木が次の瞬間には何事もなかったかのように狛枝の前に居るのだろう。

 

「な、なんで…」

「…アンタの疑問に答える必要はないし、実際僕自身この能力の全てを理解している訳ではないから答えようがない。けれど、これだけはハッキリ言える」

 理解が追いつかない狛枝に対し、苗木は眉一つ動かすことなく冷酷な声音で返答し、『G・E・R』が拳を握りしめる。

 

「もう誰も、僕を傷つけることはできない。どんな能力を持とうと、どれほどの才能を持っていようと、僕の前に立つことはできない。…だからアンタはここで負けるんだ」

 拳を振りかぶった『G・E・R』が、音速のスピードでその拳を振り下ろした。

 

「き、『キラークイーン』…!」

「『無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァッ!!!!』」

 『キラークイーン』の防御など間に合う筈もなく、嵐のようなラッシュが狛枝へと突き刺さった。

 

「ぐおおおおおおおおおおおッ!!?」

 全身の骨が砕ける感触と大量の出血を感じながら、狛枝は『キラークイーン』もろとも天井へと叩きつけられた。

 

「な、なんてパワーのスタンドだ…」

 未だ何が起こったのか理解できぬままに、狛枝は天井から落下し動かなくなった。

 

「うおおおおおおおッ!?狛枝が死んだぁぁぁッ!!?」

「こ、この人でなしィ~ッ!!」

 流石にここまでやるとは思っていなかったのか、正気に戻った77期生達が変わり果てた同級生の姿に悲鳴を上げる。

 

「…死んでませんよ、死なない程度に手加減はしましたから。最も、体中の主要部位の骨をへし折っておいたんで目覚めたとしても起き上がることはできませんがね」

「そ、そうか…」

「よ、良かった…良くはないですけど、生きてて良かったですぅ~!」

 虫の息ではあるが、どうにか生きているということを知ってほっとする一同。そんな中、倒れ伏した狛枝に近づく苗木に日向が声をかける。

 

「けど苗木、ただブッ飛ばすだけなら俺の方がうまくやれたんじゃあないか?強力な波紋を流し込めば狛枝を傷つけることなく気絶させれたんだし、なにもここまでしなくとも…」

「だから言ってるでしょう、波紋を流してはいけないって。もしこれ以上波紋を流したら、狛枝さんが気絶する前に死んでしまいますよ」

「はあ?…いやいや、狛枝は吸血鬼でも屍生人でもましてや柱の男でもないんだぞ?ただの人間が波紋で死ぬはずが…」

「確かに、ただの人間ならそうでしょうね。…けれど今回は事情が違うんですよ」

 苗木は狛枝の傍まで来るとその場で膝をつく。

 

「始めに聞いておきたいんですけど、狛枝さんって前からこういう人だったとかそういうことはありませんよね?」

「んなわきゃねえ…とはハッキリ言えねえけどよ、少なくとも今のこいつはこんな無茶苦茶やる奴じゃあもうねーよッ!!」

「まあ確かに一年目の頃はちょっとおかしなところはあったけど、だからってこんなことするような奴じゃなかった筈だよ!」

「…でしょうね。これで納得がいきましたよ」

「…どういうことだ、一人で納得していないで説明しろ苗木!」

 流石に痺れを切らした十神にどやされ、苗木はゆっくりと語りだした。

 

「どうにもおかしいと思っていたんだ。昨日まで特別変わった様子の無かった狛枝さんが何故今日に限ってこんな豹変をしたのかということが。…ずっと妙な違和感を感じていたんだけど、それの原因がさっきの日向君の波紋でようやく分かったんだ」

「何だと…?」

「普通の人間に波紋は基本的に無害だ。スタンド使いであろうとそれに変わりはない。けれどあの狛枝さんの異常なまでの拒否反応は普通じゃない。だから考えたんだ、もしかしたら体のどこかに波紋を拒否するものがあるんじゃあないかって…」

「波紋を…?」

「…波紋を苦手としているのは、さっき日向君が言った吸血鬼、屍生人、柱の男。狛枝君はそのどれでもない。…けれど、例外的に波紋を弱点とするケースが存在することを以前聞いたことがある」

 苗木は気絶したままの狛枝の前髪に手を掛ける。

 

『まさか…!?』

「狛枝さんが豹変した理由、波紋を苦手とした理由、その全ての原因が…」

 苗木が狛枝の前髪を掻き上げ、額を晒すと

 

「…ここにあるッ!」

 そこにはうねうねと蠢く肉片のようなものが突き刺さっていた。

 

「うわキモッ!!」

「な、なんだそりゃあッ!?」

 不気味極まりない存在に一同は気味悪がるが、それを見た日向と七海の『ハイエロファント』が信じられない物でも見るかのような様子となった。

 

『ばっ、馬鹿なッ!何故こんなものが狛枝にッ!?』

「?『ハイエロファント』なにか知っているの?」

 七海の問いに答えたのは日向であった。

 

「これは…まさか、『肉の芽』!?」

「肉の芽ェ?」

 聞きなれない単語に疑問を感じた一般人たちに、苗木がその正体を話し始める。

 

「…『肉の芽』、吸血鬼の体細胞の一部が人間の体に寄生したものだよ。この肉の芽を植え付けられた人間は脳を刺激され、好戦的な性格になったり、人間としてのタガが外れて普段なら本能的にやめるようなことを平気でするようになる。本体の吸血鬼にカリスマのようなものがある場合は忠実な下僕になってしまうこともあるらしいけど…今回はそういうのは一切なくてただ理性のタガが外れただけみたいだね」

「そ、そんな危なっかしいもんさっさと手術かなんかで取っ払っちまえばいいじゃあねーか!」

「肉の芽は脳の中枢深くにまで入り込んでいる。いくら優れた外科医でも摘出することは不可能だ」

「そ、それに脳はとってもデリケートなんですぅ!うまく摘出できたとしても万が一脳に少しでも傷がついたら死んじゃいますよぉ!」

「…ぬうう…ッ!」

「…アレ?でも吸血鬼の体の一部ってことは、波紋に弱えんだよな?よっしゃ日向!波紋でそんなタコの赤ちゃんなんてやっつけちまえ!」

「…駄目だ」

「…え?」

「ど、どどど、どうしてだいぃ?」

「植えつけられたばかりのまだ初期の段階ならそうすることもできただろう。…けれど、ここまで成長してしまえば、例え波紋を流したとしても死に際に激しく暴れられて狛枝の脳をめちゃくちゃにしてしまう…ッ!」

「は、波紋が駄目ってのはそういうことかよッ!?」

「ぐっ、おのれ鮮血を求めし悪魔めッ!なんという姑息な真似をッ!!」

「…今は田中のテンションのが正しく思えちまうのがスゲエ腹立つな…」

「で、では放っておくしかないというのですか!?」

「いや、それもダメだ。肉の芽はこうしている間にもどんどん狛枝の脳の奥深くに侵入して、数年で脳を喰い尽くしてしまう…ッ!」

「ま、マジかよ…」

「…どうしようもないということですか?」

 次々と解決の糸口を潰され、途方に暮れる一同。そんな中、ふと『ハイエロファント』がぽつりと呟きだす。

 

『…実は私も以前この肉の芽を見たことがある。…というか私自身が肉の芽に寄生されたことがある。』

「えっ…!?」

「…どうしたの七海さん?」

「…えっとね、『ハイエロファント』が前に肉の芽にやられたことがあるって…」

「はあ?…つかそいつスタンドだろ?肉の芽ってのはスタンドにも効くのかよ?」

『詳しい事情は後ほど説明しよう。…以前は私はある吸血鬼に肉の芽を植え付けられ、やつの言いなりとなっていた。しかし、私は幸運なことにその時は助かったのだ』

「えーと…、理由は後で話すらしいんだけど、前に肉の芽を植えられたときは助かったんだって」

「なんと…!では方法があるのかッ!?」

 七海を通じて伝わる『ハイエロファント』の言葉に、彼らの目に希望の光が戻ってくる。しかし、それに応える『ハイエロファント』の声音は明るくはない。

 

『…確かに、方法はある。かなり危険な方法ではあるが、これしか手は残されてはいない。』

「…そう、肉の芽から狛枝君を解放する…」

『ハイエロファント』の言葉を苗木が引き継ぐ。

 

「…その方法は一つッ!!」

 その言葉と共に、『G・E・R』が再び現れ、苗木の傍の狛枝の額に手を伸ばす。

 

「ちょ、ちょっと苗木君!何をするつもり…!?」

「僕のスタンドで、肉の芽を引っこ抜くッ!」

「お、おいッ!手術じゃ無理ってテメエが言ったんじゃあねーか!」

「大丈夫、僕の『G・E・R』は超至近距離から放たれたマシンガンの弾を摘み取るほど正確な動きができる。肉の芽が暴れないよう静かに、なおかつ万力のような力で引き抜くことが可能だ…ッ!」

『…そうだ、私の時もあるスタンドにそうしてもらうことで助かったのだ』

「だ、だが危険だぞ苗木ッ!肉の芽の事を知っているのなら、何故肉の芽がわざわざ一部を体外に露出しているのか、分からないお前ではないだろう!優れた外科医や波紋使いでも不可能な理由がそこにあるんだッ!」

 日向の警告も空しく『G・E・R』が肉の芽を摘まむと、肉の芽から触手のようなものが飛び出し苗木の手首に潜り込んだ。

 

「…ッ!」(流石にコレまでは防げないか…ッ!)

「うわっ!?なんか出たよ!?そんで苗木の中入ってったよ!?」

『肉の芽が触手を出したッ!あれが脳に到達してしまえば、苗木君も肉の芽を植え付けられてしまうッ!急ぐんだ苗木君!』

 体を蹂躙される感覚に嫌悪感を感じつつも、苗木は身じろぎひとつすることなくスタンドを操作して肉の芽を引きずり出す。いかにスタンドとしての枠組みから逸脱した『G・E・R』といえど、流石に他人の体に関しては慎重にならざるを得ないのかその動きは力強くもナメクジが這うかのようにゆっくりとしたものであった。

 

「お、おい!そんなゆっくりで大丈夫なのかよ!?もう肘ぐらいまで来てんぞ!?」

「…静かにしててくれ、僕だってロボットではないから集中力を乱すかもしれないから…」

「アッハイ、すんません…」

 目の前で少しずつ剥がされていく肉の芽と頭に向かって侵食していく触手だけしか見えないためスタンドが見えない組にとっては冷や冷やものであったが、集中しているが故か普段よりさらに研ぎ澄まされた様子の苗木に思わずたじろぐ。

とその時

 

「…うっ」

 気絶していた狛枝が目を覚まし、自分の置かれている状況を見てぽかんとする。

 

「こ、狛枝!気が付いたのか!?」

「僕は…?苗木君、君は何を…」

「動かないでください狛枝君。少しでも動いたらあなたの脳はめちゃくちゃにされてしまいますよ…!」

 苗木の忠告に、狛枝はため息をつくように笑うと諦めたかのような声で話し出す。

 

「…何故君が僕を助けるんだい?僕は君を殺すために僕のクラスメートだけじゃなく君のクラスメートまで傷つけたんだよ?助ける道理なんてないじゃあないか。…それに僕の命なんかどうだっていいじゃあないか。だから僕の事なんかほっといて…」

 そこまで言った所で、苗木は狛枝の両肩を押さえつける。肩を握りつぶさんばかりに力を込めながら、苗木は強い口調で狛枝に語りかける。

 

「話なら後でいくらでも聴いてやる…、だから今だけは黙ってろ…ッ!どうせ死んでもいいって言うなら、その命、僕に預けろ…ッ!!」

「…苗木君…」

 怒りを滲ませながらも、決して狛枝から目を離さない苗木に、狛枝の目からふと涙が零れる。何故泣いたかなど理由は分からないが、狛枝は自然とそうしてしまったのである。

 そうしている間にもどんどん肉の芽が引き抜かれていくが、それを上回るスピードで触手が苗木の体の中を突き進んでいく。

 

「おいおいおいおい…、もう首まで来てんぞ…!」

「は、早く苗木ィ!」

「………」

 もはや外野の声など耳に入っておらず、苗木はただ狛枝を救うことだけに集中していた。

 

「と、とうとうこめかみまで来ましたぞぉッ!?」

「も、もう駄目だぁ~!」

 そしてその瞬間

 

ズルウゥッ!

「!ぬ、抜けたッ!」

 狛枝から肉の芽を引き抜くや否や既に眼球の横にまで来ていた触手を体外に引っ張り出すと、苗木は日向の方に肉の芽を投げる。

 

「日向君ッ!」

「応ッ!」

 既に準備をしていた日向は飛んできた肉の芽に集中し、呼吸を整える。

 

「コオォォォォォォォ…ッ!」

 そして肉の芽が日向を新たな宿主とすべく触手を伸ばしたその瞬間、日向の手刀が振るわれた。

 

「波紋疾走(オーバードライブ)ッ!」

 直撃すると同時に放たれた波紋は肉の芽全体に回り、肉の芽は激しく悶えながらチリとなって消えていった。

 

「………」

 すべてが終わったにも関わらず、皆一言も言葉を発せずにいた。そんな中

 

「…むっ!」

 短い気合のと共に苗木の手から黄金の光が漏れ出し、それが狛枝を包み込む。

 

「…もういいですよ。体の怪我はすべて完璧に治しましたから。起き上がっても平気な筈です」

 その声に先ほどまでの鋭さはなく、いつもの温和な声音でそう言うと苗木は立ち上がる。その苗木に、狛枝がゆっくりと起き上がりながら再び問いかける。

 

「…どうして、僕を助けたんだ…?」

「……」

 先ほど答えなかったその問いに対し、苗木の用意した答えは至極シンプルなものであった。

 

「…理由が無かったら、助けちゃ駄目なんですか?」

「ッ!?」

 それは苗木にとって紛れもない本音であった。もともと苗木は生来のお人よしで損得勘定で動くような人間ではない。ギャングとなって相応の価値観を身に着けた今であっても、理屈より感情で動く人間であったため、今回の事も『このままだと死ぬから助けた』というだけのことであった。

 

「…まあ、納得がいかないなら『運が良かった』、ということにでもしておいてよ」

「………」

「…まあなんだ、結局こいつも日向と同じ人種だったっつーことか」

「お人よしなくせに無駄に格好つけなところとかそっくりだしねー、プークスクス!」

「そんでそれを素で言ってる辺りホント一緒よね…」

「…分かったか貴様ら、アイツらがいかに救いがたい人種であるということが、…そしてだからこそ心惹かれる人間であるということがな」

 日向という前例があったせいか何となくではあるがその答えを受け入れた77期生。一方、苗木の本心の一部を知った78期生達はその答えに考えさせられていた。その中でも舞園は一瞬ぽかんとしたかと思うと、すぐに満面の笑みを浮かべて苗木を愛おしそうに見やる。

 

(…やっぱり苗木君は変わってなかった。どんなに見た目や雰囲気が怖くなっても、心までは変わっていない。苗木君は今も、あの頃の優しい苗木君で、…私の好きな苗木君のままでいてくれた…!)

 そんな彼女の気持ちなど知る由もない苗木を見て、狛枝は突如噴き出すように笑うとこう言った。

 

「…そうか、僕は最初から間違っていたんだね。君を他人と比べる事自体が間違っていたんだ。君はいわば鏡のような人間なんだ。だからこそ、君を見ても君自身を図ることはできない。君の器を知ろうとしても、そこに映るのは見た人間自身なんだ。だからこそ君という存在を正しく評価することはできない。それは、君が評価されるような存在から逸脱した人間だからなんだ…」

 ゆっくりと立ち上がり、狛枝は自分より頭一つ低い苗木をまるで見上げるかのような目で見てこう言う。

 

「君や日向君のあり方は、希望ヶ峰学園が求める『希望』とは違うのかもしれない。…だから見届けさせて貰うよ。君たちのその輝くような精神が、『超高校級の希望』と呼ぶにふさわしいものなのかということをね」

「…ええ、精々頑張らせてもらいますよ」

 

 様々な視線を受ける中、苗木は力強くそう応えるのであった。

 




今回のオリジナル波紋

・輝彩滑刀の波紋疾走(リスキニハーデン・オーバードライブ)…日向が過去の柱の男に関する資料から考案した対スタンド使いを想定した波紋。波紋をよく流す物体に小刻みに超高速で波紋を流し続けることで表面にチェーンソーのような連続して波打つ波紋を発生させ、対象に命中すると同時に削り取るように切り裂くことができる。流石にカーズのようにマシンガンの銃弾を切り裂くことはできないが、拳銃の銃弾程度なら正面から切り伏せることができる。
 数ある波紋の応用技の中でもかなりの殺傷性があるため普段は禁じ手としている。
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