ネタに詰まったらまた間隔空くかもしれないけど、どうか気長に待って下さい
ドガァァァン…ッ!
ビックバンモノクマが崩れ去ったところは、プッチを探して街中を駆けずり回る苗木にもしっかりと視えていた。
「こまる…腐川さん…!やったな…ッ!」
二人の勝利を喜びつつも、苗木の神経は今も街中の『生命エネルギー』を探ることに集中していた。
「どこだ…どこに居る…!?江ノ島さんがああ言った以上、奴はまだこの街に居る筈だし、そう易々と逃げられる場所には居ない筈だ。…しかし、何故奴はこの街に居るんだ?一体何の『目的』でここに来た?腐川さんの様子からして、彼女もプッチとこの街で会っていたみたいだけど…奴は何を考えているんだ?」
霧切らから得た情報しか未だこの街で起きたことを知らない苗木は、プッチの目的を見出せず疑問に思う。
「…ん?」
ふと、その時苗木は『憶えのある』生命エネルギーを捉えた。
「この生命エネルギーの波長は…まさか…!…そうか、『彼』もこの街に…ッ?!」
と、その生命エネルギーの持ち主の進行方向へと意識を向けた時、苗木はその先に感じ取った。
自分が探している男の、しかしどこか『異常』な…まるで『2つの命が混ざりかけているような』生命エネルギーを。
「………」
塔和シティの外れ、地上から高い位置に作られた無人の『環状道路』を、『黒い長髪』の青年が手押し車を押しながら黙々と歩いていた。…その荷台には、『白』と『黒』のふたつの『モノクマの首』が乗せられている。
『まったくテメーあっさりやられちまいやがってよぉ!苗木誠はしょうがねーにしてもあの嬢ちゃんぐらいもうちっと粘れっての!』
『しょうがないじゃないか…。苗木誠からのダメージで結構やられちゃってたし、まさかこまるちゃんがあそこまで強かったとは…それに、あの『ウェザー・リポート』ってスタンドも地味に厄介だったしさ』
『しょぉぉぉがねぇなぁぁぁぁあ!…ったく、折角オレ様が張り切って『メイク』して大人達のところに『送り込んでやった』のに、最後の最後で詰めが甘いんだからよ!』
『それは君だってそうじゃあないか…。子供たちの言いなりな『ふり』をして、実際は子供達の行動を『誘導』する…。でも、力尽くで破られたんじゃあ意味ないじゃんか』
『うっせー真っ白!テメーなんか自転車のサドルについた鳥のフンと同じ色じゃあねーか!』
『そんな言い方ないだろ真っ黒…。君だって、服と一緒に洗濯しちゃってインク漏れしたボールペンの染みと同じ色の癖に…』
『シロクマ』と『クロクマ』。互いに異なる陣営の味方だった筈の二人が、まるで旧友と語らうかのように和気あいあいと話している。…いや、それも当然であろう。彼らは最初から『他人ではない』のだから。
『つかさ、お前あのデッカイの操縦してるときなんか潰さなかったか?』
『そういえば…なにかを殴って潰しちゃったような気がするけど…、『よく見えなかった』や』
『ま、どうでもいいわな!ガキが死のうが大人が死のうが、こっちには関係ねーし!』
『そうそう、元からこの街に『目的』なんてなかったんだからね』
『おうよ!俺達はただ『一つになる』為にここに集まっただけ。他の事はぜ~んぶただの『暇つぶし』ってワケだ!』
『そもそも、まだ『存在している』存在の2代目を創ろうだなんて、僕等が言い出したことだけど、最初から『破綻』してるよね。苗木誠だって、きっと気づいてたけど言わなかっただけだよ。モナカちゃんを傷つけないためにさ』
『全くあの野郎もバケモンのくせして大概甘ちゃんだよなー!なんで俺らあんなのに負けたんだろ?』
『化け物なのは僕らも人の事言えないでしょ?こんな生首で喋ってるんだからさ』
『まあな!…つーか、俺らって言うか…『俺』?つーか…』
『僕と言うより…』
『…『私様』…かな?』
『うぷ、うぷぷぷ…!』
突如、クロクマとシロクマの言葉と雰囲気が一変する。
『まったく、苗木君さえ来なければこの街ももう少しツマラナイ結末になってたのにさー。彼が来ちゃったもんだから色々なところに火がついちゃって、結局『希望』にほんのちょっぴり傾いちゃったよね』
『『黒い希望』、『白い絶望』…混ざり混ざってぐちゃぐちゃになる予定だったのに、彼のおかげで全部が全部『黄金の希望』に塗り替えられちゃった。色の3原則もビックリのワンマンっぷりだよね』
『クロでもシロでも黄金を塗りつぶすことはできなかった…じゃあ、一体なになら彼を消すことができる?』
『うぷぷ…それをこれから『創る』んじゃあないか。『永遠の希望』を塗りつぶす、『混沌の絶望』に、私たちはなるんだよ…!』
『そう、その通りだね。うぷぷ…!』
『うぷぷぷぷ…!』
『『…ねえ、君ならどう思う?』』
グシャァンッ!!
問いかけられた青年から返答代わりに返って来たのは、シロクマのクロクマの頭を突き破る『貫手』であった。
『あ…ら、やだ…』
『だい、たーん…』
「…正直言って耳障りです。必要もないのに喋らないでください。『無駄』です」
『うぷぷ…無駄、なんてさ…苗木君みたいなこと言っちゃって…』
『ま、しょうがないよね…。今のアンタは、『空っぽ』なんだからさ。無理やり誂えたドでかい『器』に目一杯に注がれた『希望』は、もうアンタには残っていない…。苗木誠って言う『ネズミ』に空けられた『穴』のせいでね…』
『今のアンタに残っているのは、ガラス細工みたいに引き延ばされた『元々のアンタ』が持っていたものだけ…。なみなみ注がれている時に慣れ切ってしまったアンタには、今のそれが不安で不安でしかたないんだよねえ…?だから自分の記憶にある苗木誠の真似をしてでも、『自分』を確立しようとしてるんだろう…?』
「……」
表情にこそ変化は無いものの、青年はその言葉に確かな『苛立ち』を感じていた。
バキキキ…ッ
そんな感情を表すかのように、シロクマとクロクマの頭から青年は『電子回路』のようなものを無理やり引き抜いた。
『…じゃあ、『ソレ』は任せたよ。ちゃんと『向こうの私』に渡しておいてよね』
『じゃあね…と言っても、多分『その内会うことになる』だろうけどね。その時は、もしかしたらお互い『違う姿』かもしれないねえ…』
「…どうでもいいことです。もう僕はアナタにはなんの興味もないのだから…さようなら」
ブチィ…ッ!
感情も無くそう言いながら、青年は電子回路を引き千切った。
『ガガガ…ガ…go…』
「…ツマラナイ」
やがて完全に沈黙したシロクマとクロクマを見下しながら、青年は一言そう呟いた。
「…ご苦労だったな、『カムクライズル』」
「…!」
そんな青年…『カムクライズル』の名を呼びながら、エンリコ・プッチは姿を現した。
「…これで貴方から『頼まれたもの』は全て集めましたよ」
「感謝するぞカムクライズル。…これでようやくこの街での『用事』が全て片付いた」
カムクラの方へと歩み寄るプッチ。しかしその足取りは妙におぼつかなく、顔色も悪く脂汗を滲ませていた。
「…?どうしたんですか?顔色が悪いようですが…」
「…キミが気にすることではない。これは私に課せられた『試練』なのだから…」
心配と言うより単純な疑問からかけられたカムクラの問いをそっけなく跳ね除けながら、プッチはカムクラが差し出した2つの『電子回路』を受け取った。
「…さて、これで僕はアナタとの『契約』を果たした。今度はあなたの番です、プッチ神父」
「…そうだな。ではカムクライズルよ、お前は何を望む?」
「今更それを聞きますか…。言うまでもない、あなたが持っているという『スタンド能力』の『DISC』…。それを『全て』渡してもらいます。…それが僕とあなたの『契約』だった筈です」
「…そうだったな。だがその前に一つだけ聞かせてくれ。お前はそれを以て何を成す?」
「…『決着』」
プッチの問いに、カムクラは普段の無感情な言動とは異なるどこか『執念めいた声』でそう答える。
「あの闘いで、僕と苗木誠はそれぞれ失った。…僕は『才能』を、苗木誠は『命』を、それぞれ失った。…だが、彼は『人』であることを捨てて失ったそれを取り戻し、なおも前に進もうとしている。…僕は彼を越えるために生まれてきた。ならば、僕もまた前に進まなくてはならない。その為にも…『力』が必要なのです。今の僕が持つ、この『進化を止めたスタンド』だけでは足りない…もっと多くの力が…」
「…それが、お前の『希望』か」
「そうです。僕は『希望』であれと願われて生まれた。僕を創った連中がなにを僕に求めたのかは知りませんし、知りたくもありません。ですが、『そう在れ』と願われて生まれた以上、僕は誰よりも『希望』であり続ける。…何もかもが予想できたあの時の僕は既に有りません。ならば、あの男に…僕と同じ『超高校級の希望』である苗木誠に勝つことだけが、僕が僕である何よりの『証明』なのです」
「…そうか」
プッチは納得したように頷くと、懐から数枚の『DISC』を取り出す。
「約束だ、受け取るがいい。全部で『16枚』…私の持つ残りすべてのスタンド能力の『DISC』だ。無論、その全てがお前に適合するとは限らんがな…」
「構いません。どう使おうが、僕の勝手ですから…」
差し出された『DISC』の束にカムクラが手を伸ばし、それを掴んだ…その時
ズッ…!
「…ッ!?」
カムクラが『DISC』に触れた瞬間、プッチはその内の数枚を指でカムクラの手に無理やり押し込んだ。
「な、にを…ッ!?」
その『DISC』が体に入った瞬間、全身の力が抜けていく感覚にカムクラはプッチを睨むが、プッチはどこ吹く風と言った表情でカムクラを冷たい視線で見下す。
「…落ちぶれたな、カムクライズル。もう貴様は『超高校級の希望』などではない、『才能』という玩具を失くし代わりの物を求める赤子の様なものだ。…故に、以前の貴様なら簡単に見抜けたであろうこんな手にも易々と堕ちる…」
「僕に…なにを、した…!?」
「…私はお前に一つ『嘘』をついた。私が持つ残りのスタンドの『DISC』は『13枚』だ。…お前に挿し込んだ内の一枚は『白紙のDISC』だ。…少しだけ、私が『書き加えた』ものだがな。残りは…お前が知ったところで意味は無いな」
「裏切った…のか…!」
「裏切る?私は『契約』を破ってはいない。約束通りお前には私の持つ『力』の全てをくれてやった。…だが、『状況』が変わった。何事も無ければこんなことをする必要はなかったのだが…『今の私』では到底『奴』から逃れることは出来ん。故に…使わせてもらうぞ、お前と言う『存在』をな…」
「く、そ…ッ!」
久しぶりに感じた『屈辱』という感情に心を震わせながらも、肝心の体はその感情に応えることなく、カムクラはそのまま肉体の自由を手放した。
ガクッ…
「……」
「…どうやら、『間に合った』ようだな」
脱力したかのように棒立ちとなったカムクラをプッチが確認したその時
「…プゥゥゥゥッチィィィィィッ!!」
「…来たか」
ドガァァンッ!!
プッチの名を叫びながら飛来した『紅い閃光』が道路に墜落するように突き刺さる。足元のアスファルトを砕き、その場にクレーターを作ってやって来たのは、再びドーピングで髪を赤く染め、最速のスピードで参上した苗木誠であった。
「…2年ぶりだな、苗木誠。その姿…父であるDIO以上にその力を使いこなしているようだな。流石と言わせて貰おう…」
「…黙れ。もう貴様にくれてやる物など無い。貴様は今、ここで死ね。…だが、その前に教えろ。彼に…カムクライズルに何をした…ッ!?」
苗木には数キロ先から視えていた。プッチがカムクラに『DISC』を渡した瞬間、カムクラの様子が急変したところが。
「……」
倒すべき相手である苗木が目の前に居るにも関わらず棒立ちのまま呆けるカムクラをちらりと見て、プッチは再び苗木に向き直る。…その時、苗木は見てしまった。プッチの首が少し動いた拍子にその『首筋』に見えた、プッチに『ある筈が無いもの』を。
「お前…その首のそれは、まさか…!」
「…知る必要があるのか?お前にとって優先すべきは私を倒すことの筈だ。お前はその為に苗木こまると腐川冬子にこの街の『未来』を託してここに来たのではないのか?」
「…ああ、そうだな。知る必要はないみたいだな。…ここで貴様を始末すれば、もうそんなことを気にする必要はない…!どうやらカムクラ君に渡した『DISC』に『細工』をしていたようだが、それは元々お前の『ホワイトスネイク』が作った物…、ならば、お前が死ねばそれも消えるだろう…ッ!」
「…それは違う」
「何…?」
プッチの返答に苗木は怪訝そうに眉を顰める。
「我が『ホワイトスネイク』が作った『DISC』は、私が死のうと消えることは無い。スタンドであれ記憶であれ、『DISC』になった時点で『固定』されるからだ。故に、私を殺したところで十神白夜や腐川冬子のスタンド能力が消えることは無い」
「…だからなんだ?そんなことはどうだっていい。お前が死んでも消えないというのなら、無理やり引きずり出してでも…」
「私の『DISC』が消える条件は『2つ』。一つは、『DISC』の状態で破壊すること。そしてもう一つは…」
「…プッチ?貴様何を…」
妙に饒舌なプッチに不審を憶える苗木。そんな苗木を見つめたまま、プッチは言葉を続けた。
「…『DISC』が挿入された者が『死ぬ』ことだ」
「…ッ!?貴様まさか…ッ」
苗木が気づくよりも一瞬早く、プッチは口元に笑みを浮かべて『命令』する。
「…カムクライズル、『自害』し『飛び降りろ』」
「…はい」
ズドッ!
プッチの命令に何のためらいもなく、カムクラは己の胸を『回転する爪先』で『貫いた』。
「なッ…!?」
…ブシュゥゥゥッ!!
「何ィィィィッ!!?」
勢いよく指先が引き抜かれると同時に、胸から噴き出した血飛沫に苗木は思わず思考を止めて叫んでしまう。
「ぐ…ふッ…」
そうこうしている間に、カムクラはふらふらとよろめきながら移動し…命令通り環状道路から身を投げ出した。
「ひなッ…カムクライズルッ!!」
それを見た瞬間、苗木はようやく事態を理解し正気に戻った。
「さあどうする苗木誠…?今の貴様は『時を止められる』のだろう?2秒か、3秒か…だが、選べるのは『一つ』だ。『私の命』か、『彼の命』か…さあ、お前はどうする?」
「プゥゥゥゥッチィィィィィッッ!!」
「猛っている暇など有るのか?…間に合わなくなるぞ」
「貴様ッ…!」
プッチの行為に怒り狂いながらも、苗木は至極冷静に事態を分析する。ドーピングにより普段より研ぎ澄まされた思考能力が、この刹那の時間に打開策を見出そうとする。
(落ち着け…!落ち着くんだ…ッ!カムクライズルは決して見捨てるわけにはいかない…!だが、プッチも逃がす訳には…。…ならばどうする?決まっている…、『両方』貰うッ!)
即座に判断を下すと、苗木は『G・E・R』を呼び出した。
「…成程…!『両方』選んだか…そうだ、お前ならそうすると思ったぞ…!」
「お前の『選択』なぞ知ったことか…!僕はもうなにかを諦めたりはしないッ!」
(『G・E・R』の最大有効射程はおよそ『150m』…既にカムクライズルは10メートル程落ちている…!地表までの距離を考えると、僕がヤツを仕留めてから『3秒』時を止めて全速力でスタンドを飛ばせば…まだ間に合う筈ッ!)
苗木が今にも躍り掛かろうとしたその時、プッチがふと思い出したように呟く。
「…言い忘れていた。先ほどカムクライズルに挿し込んだ『DISC』だが…私は『白紙(ブランク)のDISC』の他に『2枚』の『DISC』を挿し込んでおいた」
「2枚…?」
「…『空条承太郎の記憶のDISC』、そして…『ウェザー・リポートの記憶のDISC』だ」
「な…ッ!?」
その言葉に苗木の足が止まる。
「何故…承太郎さんの記憶はともかく、何故お前がウェザーの『記憶のDISC』を持っているッ!?」
「聞いている暇があるのか?おそらくお前は私の『DISC』が消えるギリギリでヤツを治すつもりのようだが…はたして間に合うかな?よしんば奴は助かっても、奴より先に記憶の『DISC』が消える方が早いだろう…。今一度問おう、『己の宿命』か『他者との絆』か…さあ、お前はどちらを選ぶ?」
「ッ…ぐ…ッ!」
罵ってやりたい気持ちを抑え、苗木はちらりとカムクライズルへと視線を向ける。落下していくカムクライズルの額から飛び出た承太郎とウェザーの顔が映された『DISC』が崩れていく光景に、苗木は即座に判断を下し…決断する。
「…クッ…ソォォォッ!『スタープラチナ・ザ・ワールド』ォッ!!」
ドギュゥゥゥン…ッ
三度時が止まり、この世の全てが静止する。苗木の眼前に居るプッチもまた例外なく、完全に無防備な状態となる。…しかし、ほんの十数メートル先に居るプッチを射程に収めながらも…苗木はプッチに『背を向けた』。
…ギュゥゥゥゥッ…!
やがて時が再び動き出した時、プッチの視界から苗木の姿は消えていた。しかし、プッチに動揺や驚きは無い。むしろ当然とでもいうような顔をしている。
「…そうだろう、そうだともな。お前は『そうする』しかあるまい…!」
確信を持ってプッチが高架下へと視線を移すと、そこには落下しているカムクライズルを抱きかかえる苗木が地上へ落ちていくのが見えた。
「プッチ…貴様ァ…ッ!」
「お前ならそうすると『確信』していたぞ。…お前は友を、仲間を…家族を、決して見捨てない。他の誰かの為に笑い、泣き、怒り、悲しみ…そして己の力の限りそれを守ろうとする。それがお前の『強さ』だからだ。故にお前は誰よりも『情』を捨てきれない。どれほど冷酷に徹しようとも、『信じる』という気持ちを捨てきれない…いや、『捨てようとしない』。かつて江ノ島盾子の『本質』を見抜いておきながらも、彼女を受け入れようとしてそれを『信じた』ようにな…」
「……ッ!」
「軽蔑している訳ではない。むしろ私はその精神を『尊敬』すらしている。お前のその在り方は『弱さ』ではない。不可能を可能にしようとするその『覚悟』は紛れもない『強さ』だ。…だがッ!それはあくまで『人間』としての強さだ!『化け物』にとっては致命的な『弱点』となるッ!」
憎々しげに自分を見上げる苗木に、プッチは厳かにそう言い放つ。
「『化け物』とは、誰よりも『傲慢』でなければならない。人間は一人では生きられない、だが化け物は違う。『一人で存在できる』からこそ『化け物』なのだ!お前の父のように…『DIO』のように、怪物とは『孤高』でなければならない!孤高であることこそが、怪物を『無敵』足らしめる要因なのだ!」
「……」
「故にお前は必ず『情』によって滅ぼされる。誰よりも『人間』であろうとする最強の『吸血鬼』よ。…お前はここに『置いて行く』。お前にはもう、私とDIOが求めた『天国』へと至る資格は無いのだから…」
「…お前の…ッ!」
「む…?」
「お前の御託は…聞き飽きたッ!!」
ドドゥッ!!
苗木達から視線を外しその場を去りかけたプッチ目掛け、苗木の目から放たれた『スペースリバー・スティンギーアイズ』が空を裂く。
「何ッ!?」
ズドォッ!
「ぐ…お…ッ!?」
予想外の反撃に反応が間に合わなかったプッチはそれを避けきれず、二条の閃光の一つはプッチの脇腹を掠っただけだが、もう一つはプッチの『左二の腕』を貫通した。
「苗木誠…ッ!貴様…」
「…プッチ、お前は…お前は、僕が必ず倒すッ!僕たちの未来を…お前に邪魔させたりはしないッ!!」
己の敗北に悔しげに、しかし決意の籠った眼でプッチを睨みながら、苗木とカムクラは街へと落ちて行った。
「…イタチの最後っ屁、という奴か。流石にジョースターの血統なだけはある…が、ヤツから逃げ切れるのにこの程度の痛手で済んだのは僥倖か…」
貫通した傷から血が流れ出てはいるが、命に関わるほどの深手ではない。そのことに安堵しながらプッチは止血をしようとする。
…が、プッチはまだ知らなかった。苗木が吸血鬼として、既に自分が既知る領域を超えていることに。
ズグ…ズチャ…
「…?なんだ…」
微かに感じた傷口の『疼き』に、怪訝そうにそこを覗き込んだ、その時
ズリュズリュズリュズリュッ!!
「ッ!?こ、れは…ッ!」
突如傷口から『触手』のようなものが飛び出したかと思うと、それはプッチの左腕に侵入し、激痛を齎しながら腕を侵蝕していく。
「まさか…ッ!これは、『肉の芽』ッ!?」
痛みに顔を歪ませながらも、プッチはその触手の正体を看破する。かつて友が見せてくれた、人間を思いのままに操ることができる、吸血鬼の『能力』を。
「馬鹿な…!あれを植え付けるには『吸血鬼の細胞』が必要な筈…ぐうッ!あ、あの攻撃でそれができるとは…ッ!?」
そう言った時、プッチは思い出した。苗木の『ゴールド・E』の『本来の能力』を。
「そうか…ッ!奴め、『自分の血液』に『生命エネルギー』と『吸血鬼エキス』…吸血鬼細胞の一部を流していたのか!そして…体液を私に撃ち込んだ瞬間、生命エネルギーによって吸血鬼細胞を活性化させ、それを『肉の芽』になるまで『成長』させたのかッ!苗木誠…、まさかここまで…とは…ッ!」
そうしている間にも、肉の芽はプッチの左腕を蹂躙し、肩を上って全身を犯すべく躍動を続ける。自分の知る肉の芽より遥かに苛烈なその動きに、プッチは戦慄を覚える。
「こ、こいつッ!最初から私を操ろうとする気などない!ただ私を殺す為に…私の肉体を喰い荒らすためだけの肉の芽だというのかッ!?」
操るつもりなら、肉の芽は本来、肉体を傷つけないよう『脳』だけを目指す筈である。しかし、苗木の撃ち込んだこれは触れた肉を片っ端から滅茶苦茶に破壊している。
…『ジガバチ』という蜂の仲間は、芋虫や他の昆虫に卵を産みつけ、孵った幼虫はその虫を食べて成長するという。その間、餌となった虫は鮮度が落ちることが無いよう麻酔され、身動きできず、生きたまま喰われる恐怖を味わうこととなる。プッチは、その哀れな餌の気持ちを理解した!
「このままでは…やめろッ!やめるのだ苗木誠ッ!既に『彼』は私の中に居るのだ!あとは『約束の場所』に辿りつくだけだというのに…それまで、この肉体を失う訳にはいかんのだッ!」
プッチは必死になって肉の芽を止めようとするが、そんなもので止まる筈が無い。肉の芽は、自分たちの『青春』を壊し、『友』を良いように利用された苗木の怒りを表現するかのように、なおも苛烈にプッチを蝕み続ける。
「く…ぐッ…ぐおああああああああッ!!!」
プッチの断末魔の叫びが、静けさを取り戻した塔和シティに木霊した。
「…どうやら、うまく『肉の芽』を撃ち込むことはできたみたいだな。思いつきだったから不安だったけど…」
そんな悲鳴を聞きながら、街へ無事に着地し、なんとかカムクライズルを治療し『DISC』を取り戻した苗木は自分の策の成功を確認する。
「…だが、どうやら仕留めるまでには至らなかった、か…」
落胆したようにそう漏らす苗木は、上の道路をゆっくりと移動する生命エネルギー…プッチの存在を感じていた。
「どうやって肉の芽から逃れたのかは知らないが…どの道無傷では済まない筈だ。けど…追いかけるのは、無理そうだな…」
移動していたプッチが動きを止めたかと思うと、その場所から一機の『ヘリコプター』が飛び上がった。どうやら、既に逃走の準備を完了していたようだ。
「…まあ今は、彼の無事と…これが戻って来ただけで良しとするしかないか」
苗木は腕の中で気を失っているカムクライズル、そして手に持った承太郎とウェザーの記憶の『DISC』を手にそう自分に言い聞かせる。
「だが気になるのは、何故奴が『ウェザーの記憶』を持っていたのかということだ。ウェザーは『人類史上最大最悪の絶望的事件』が起こる直前まで、アメリカの『グリーン・ドルフィン刑務所』に収監されていて、それ以前の記憶が無いと言っていた。…ならば、これにはその記憶が記されている筈だが…何故奴が…?」
苗木はウェザーの記憶の『DISC』に目を落とし…やがて決心する。
「…済まないウェザー。少しだけ…少しだけ君より先に、見させてもらうよ…」
ウェザーに心の中でそう謝りながら、苗木はその『DISC』を頭に挿し込んだ。
ズズッ…
「…ッ!?」
『スタープラチナのDISC』を挿し込んだ時と同じ、一瞬にして膨大な量の情報が流れ込んでくる。その記憶の奔流を整理し、確認する中で…苗木は『見て』しまった。その決定的な『理由』を。
『あんたの妹…は、あんたの依頼でこうなったんだ。そして…怒りはおさまらない。このケリはつけさせてもらう…』
『違う。わたしはお前の…』
「…ハァ!」
結局全ての記憶を見た後、苗木は今まで呼吸することを忘れていたかのように盛大に息を吐いて『DISC』を取り出した。
「ハァ…ハァ…ッ!」
その『事実』を知ってしまった苗木は、全身から汗を滲ませ、荒い呼吸を繰り返す。
まさか、そんな。…何度もそんな言葉が頭をよぎるが、それが『真実』であることを苗木自身は既に確信していた。何故ならそれを肯定するように、自分、プッチ…そしておそらくウェザーにもあるであろう『首筋のそれ』が疼いているのだから。
「ウェザー…。君は、プッチの…」
「…苗木、誠…」
「ッ!」
呆然としている苗木に、目を覚ましたカムクラが声をかける。
「カムクライズル…気が付いたのか、よかった…!」
「…理解、できません。何故僕の無事を喜ぶのですか?あなたにとって、僕は友人の、そして自分にとっての『仇』の筈です。それが生きていることをどうして喜ぶのですか?」
「…そんなの決まってるじゃなあ無いか。僕が君に『生きて欲しい』からさ」
「…貴方が望んでいるのは『かつての僕』なのでしょう?ならば、僕という『人格』は必要ない筈だ。貴方にとって重要なのはこの『身体』であって僕では…」
「…それは違うよ!」
「!」
他人事のようなカムクラの言葉を、苗木は力の限り否定する。
「僕は最初から何かを切り捨てるつもりなんかない。君も、…『彼』も、全部守る。全部助ける…!僕はそうすると決めた…いや、『誓った』んだ!」
「…貴方は僕も助けるつもりだと…?そんなことをしても、あなたにはなんの得も無い筈だ。今の僕は『存在意義』を失ったただの『抜け殻』…まして『敵』である貴方に命を救われた僕には、もう生きている価値なんて…」
「…違うよ、カムクライズル。『生きる価値』なんて、求めるものじゃあないんだ。そんなものは、最初から皆持っているものなんだから。全ての命は『生きるため』に生まれてくるんだ。そこに『理由』なんて要らない。生まれてきた以上、『生きる』ということに目的や意味を求める必要なんてないんだよ。最初から存在を否定された命なんて、この世のどこにも在りはしないさ。江ノ島さんだって、プッチだって…そうなんだから」
「…だとすれば、僕は彼らと同じで『否定されるべき命』なのでしょうね。僕は自分の都合の為だけに、『彼女』を、そして『彼』を殺した。取り繕うつもりなどありませんが、僕にはもう…」
「…いいや、『まだ』だ。確かに『彼女』は君に殺された。けど『彼』は…『彼』はまだ『死んでいない』、今も君の中に『生きている』」
「何を…彼が死んだからこそ僕がこうして…」
「だったら…何故君はまだ『これ』を持っているんだ?」
苗木がカムクラの首にかかった、赤い宝石の付いた『2つのリング』がかかったネックレスを示す。
そこに填められた宝石の名を、苗木は知っていた。その宝石の名は…『エイジャ』。かつてローマ皇帝が愛し、とある『一族』にとってはかけがえのない宝であるその石を『ペアリング』にするような酔狂な男を、苗木はこの世に『一人』しか知らない。
「それ、は…!」
「彼が彼女に贈った、愛の証である『婚約指輪』…!君の中にもう彼が居ないというのなら、君が未だにこれを肌身離さず持っている理由なんてない筈だ。…キミはこれを捨てきれなかったんだ。それは、君の中の彼が…それを拒んだ証拠の筈だ」
「……」
カムクライズルは否定しなかった。カムクラ自身、それに思い入れなどなかった。だが、何故か捨てようとは思わなかった。それが単なる気まぐれなのか、苗木の言うとおりまだ自分の中に『彼』の残滓が残っているのか…あるいは、最期の瞬間まで『彼』を想い、欠片も絶望することなく自分に立ち向かった『彼女』への敬意なのかは分からなかった。だが、何故か捨てる気にならない、捨ててはならないと…そう思い続けていたのは事実だったから。
「君がどう思おうが、僕は絶対に『君たち』を助ける。それが僕の望みであり…同時に、あの時間に合うことができなかった『彼女』への手向けでもあるのだから…!だから…キミは、僕に『勝手に救われる』んだ」
「苗木…誠…」
「今まで君が勝手にやった分、今度は僕が勝手にやる番だ。今更文句は言わせないよ。何を言ったって全部論破してやるからね。無駄なことはさせないでよ?無駄無駄…」
肩を竦めてそう言う苗木を見上げるカムクラ。やがてその目から、一筋の涙が零れ落ちる。
「…好きにすればいい。かつて満身創痍の貴方と戦い、それでも勝ちきれなかった挙句、こうして命を救われた以上、今更あなたと戦って仮に勝った所でそんな勝利に価値など無い。もう僕には『目的』はありません。ならば…見せて頂きます。貴方の希望が、この世界が求めたという希望が…どれほどの『可能性』なのかを。絶望と希望、そのどちらがこの世界の『在るべき姿』なのかをね」
「…ああ、見届けてくれ。そして、その中に見つけ出してくれ。君の『在るべき場所』をね…」
「…僕の、あるべき場所…」
「…あなたもね、『狛枝さん』」
「…ッ!」
苗木が声をかけた先、二人の近くの物陰で、狛枝は座り込んで涙を流していた。あのビックバンモノクマの暴走の中で、狛枝は一人ヒルズを逃げ出していた。…そして、『幸か不幸か』たまたまここを通りがかった拍子に、今の話を全て聴いてしまっていた。
「狛枝凪斗…そこに、いるのですか?」
「カムクラ君…僕は、君に…」
「…狛枝さん。アナタはまだ『希望』を捨てていない。貴方だけじゃない、他の77期の皆さんも…まだ希望を捨てきれていない筈だ。だから僕は、何があってもあなた達を守る。『彼等』があなた達の中に残した『希望』が、正しいものであると証明してみせる…!だから…僕を、信じてください」
「…ッ!…ごめん、ごめんよ…『…君』、『…さん』…!間に合わなくて、何もできなくて…ごめん…ッ!」
「……」
絶望の堕ちながらも悔い続けた『懺悔』を嗚咽と共に呟く狛枝を、苗木…そしてカムクラはただ黙って聴きいれ続けた。
バラバラバラバラ…!
塔和シティを離れ行くヘリコプター。こまる達の戦闘により塔和ヒルズの屋上が崩壊し、ジャミングが解除されたことで、ヘリコプター等の移動手段も使用可能となっていた。
「うぐ…うおああ…ッ!」
そのヘリの中で呻いているのは、左腕の『肘から先が無い』プッチ。…しかし、そんな彼を乗せたまま飛行するヘリの操縦席には『誰も乗っておらず』、操縦桿だけが独りでに動いていた。
『まったく君も大概無茶するよねえ?いくらああするしかなかったからって自分の腕を『切り落とす』なんてさ?』
ヘリの通信機から聞こえてきた『声』に、プッチは戸惑うことなく応える。
「…そうしなければ、死んでいた…!これは『罰』だ、苗木誠の…『覚悟』を、見誤った私への『罰』なのだ…!」
『かーッ!これだから聖職者ってのは…どいつもこいつもドMかっつの!…ま、君には世話になったからね。後でいい『義手』を用意してあげるよ』
「…受け取らせてもらうとしよう」
『で、これから君どうするの?まだ例の『天国』とやらは手に入ってないんでしょ?』
「…それは、違う。私が求めるのは『天国』そのものではなく、そこに至る為の『手段』だ。あとは『約束の場所』へ向かうだけだが…まだ『その時』ではない。それまでにこの体を癒し、苗木誠を足止めする手を打たねば…」
『…あ、だったらさ!また一口噛まない?僕もまだ『準備』ができていないからね。それまで『残りカス』を使ってちょっと『暇つぶし』を考えたんだけど…』
「…いいだろう。お前のことならば、どうせ苗木誠を『絶望』させようというのだろう?…それに、『ちょうどいい』かもしれんしな。付き合おうのではないか…」
「オッケー!そんじゃーまずは本土目指して…しゅっぱーつ!」
ヘリは一路本土を目指して飛び続ける。止血を済ませたプッチは、ヘリの窓から遠ざかる塔和シティを見て、そこにいる苗木に呟く。
「苗木誠…!まだ終わりではないぞ…。奴の『企み』程度、お前であればきっと打ち払うであろう。だが、お前がどう動こうが、決して『運命』は変わらない。お前に『運命を変える力』があろうが、私の『覚悟』がそれを打ち砕こうッ!…苗木誠よ、世界は『天国』を望んでいるのだ…!」
歪んだ『希望』は再び逃れた。その災厄と苗木が再び見えるのは…そう遠くないことかもしれない。
現時点では、ここのカムクライズルは「日向・Z・創としての能力」以外のすべての才能と超分析能力を失っています
理由はゼロ編で描きますが、劇中の会話から薄々分かると思いますが苗木の仕業です
なのでカムクラちょろくね?と思うのも当然なのです。カムクラの異常な強さは才能と未来予知に近い分析能力あってのものなので、それが無ければ精神年齢は希望の戦士とどっこいどっこいなので。