ダンガンロンパ~黄金の言霊~   作:マイン

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1.5部、ついに完結です。
長かった…本当に長かったここまで…!しかし、まだまだ終わらないんだよなぁ…来年中に第2部の中盤まで書ければいいけど…いけるかなぁ…?

ジョジョ4部、噴上が男を魅せましたね。康一やポルポル然り、やはり主人公の影響を受けて覚醒するキャラはかっこいいですね!僕もそういう話を書きたいけど…200話記念辺りでやろうかな?

…今月のキラーキラー読んでて、今作でなら聖原と戦刃を対面させられるなと思ったけど、収拾が尽きそうにないなあ…。そもそも今作では聖原も設定をちょこっとだけいじる予定ですし…。ところでふと思ったんですけど、聖原っていくつなんでしょうね?霧切が君付けしていたのでタメか年下だと思うけど、20歳そこらならキラーキラーになったのは6年ぐらい前…。どう帳尻を合わせようか…


エピローグ2 漸進-progressive-

 街の方針が決まったその夜、各自に割り当てられた部屋の一室…苗木の部屋に十神、腐川、葉隠、こまる、ホル・ホースとパッショーネ組…未来機関にて『苗木一派』と称されている面々が集まっていた。

 

「さて…皆、疲れているところ集まってくれてありがとう。…ここからは、『僕たちの戦い』の話をしよう」

「うん。他の皆を、巻き込むわけにはいかないもんね」

「…今更だけどこまる、アンタは別に関わる必要はないのよ?正直アンタはこっちの事情とは無関係なんだし…」

「そんなことないよ!…お兄ちゃんや腐川さんの敵なら、私の敵でもあるんだから!友達や家族の力になりたいのなんて、当たり前だよ!」

「あっそ…。…ありがと、こまる」

「えへへ…」

 塔和シティの行く末に関しては、灰慈や希望の戦士たちの手に委ねられた。…しかし、この問題に関しては、苗木としては必要以上の人間を巻き込みたくは無かった。敵が増えれば増えるほど、『奴』はその状況を利用して悪辣な手を打ってくる。それを理解していたからである。

 

「じゃあ…腐川さん、教えてくれ。奴が…『プッチ』がこの街で何をしようとしていたのかを」

「ええ…。と言っても、アタシもこまるも殆ど意味が分からないんだけどね…」

「うん…」

 

 腐川とこまるは、この街で起きたプッチが関連しているであろう事態を全て説明した。プッチが裏でモナカに協力していたこと。モナカから聞き出した、『36人の罪人の命』。下水道で見つけた『緑色の赤ん坊』とそのスタンド。こまるが見た『夢』。そしてプッチが口にした『天国』と言う言葉。そして…カムクライズルが自供したプッチがこの街から『持ち去ったもの』。

 苗木の情報と照らし合わせてはいるものの、全く持って意味不明な事実の羅列に皆は首を傾げていたが、苗木だけは一人、時折鷹揚に頷きながら考え込んでいた。

 

「…そのプッチとかいう奴はマジモンの『イカレ』なのか?ハガクレだってそこまでオカルト染みてねーぞ…」

「まったくもって同感だべ。俺っちもいろんな『儀式』とかは知ってっけど、マジで『生贄』をするとかドン引きだべよ…」

「…話を統合するとこういうことかい?…プッチの目的は嬢ちゃんに懐いていたあの気色悪い赤ん坊で、そいつを生み出す為にモナカを利用して『36人以上の罪人』を生み出して殺させた。…そしてあの赤ん坊にあった『痣』が、大将が出会ったプッチにもあったことからして、どうやらプッチはあの赤ん坊と『一つになった』らしい…とても信じられねーがな。そんで、そのプッチの『最終目的』は…」

「…『天国』、か」

 ホル・ホースがまとめた考察を十神が締めくくる。

 

「でも、結局一体なんなのかさっぱり分からなかったんだよね。私も夢で見たこと以上のことは知らないし…」

「どうせただの妄想よ…。大方『DIOに会いたい』とか、そんなんじゃあないの?」

「どうやって?」

「どうやってって…それは、その…」

「ただの『殉教』か、DIOの『復活』か…。その程度で済むのなら、俺達が雁首突き合わせて話し合うまでも無い。奴が蘇ったところで、苗木の敵じゃあない。問題は…」

「そんな程度の問題じゃあない…ということか、ジョジョ?」

「……」

 皆の視線を受け、苗木はゆっくりと口を開く。

 

「…僕はついさっき、承太郎さんの記憶を見た」

「承太郎の…?確か、プッチに奪われたやつだよな、やっぱなんか意味があったのか?」

「ああ。その中で、気になる記憶を見たんだ。…親父が『僕に宛てて』書いたと思われる『ノート』だ。そのタイトルが…『Over Heven』…『天国への行き方』だった」

「天国…ッ!?」

「おそらく、プッチの目的はそこに書かれていた内容の『実行』だろう。…現に、その内容はこまるの夢やプッチの行動とほぼ一致する。最終的にどうなるのかは分からないけど、あの親父がメンヘラ拗らせてあんなものを書くとは思えない。おそらく、想像以上にヤバいことになるのは間違いないだろうね。それこそ…『チャリオッツ・レクイエム』の暴走の時に匹敵するほどのね…」

「チャリオッツって…話に聞いた世界中の魂が入れ替わったっつーアレだよな?それ以上ってどうなっちまうんだよ…」

 憶えこそないものの、かつて世界中を巻き込んだというレクエイムの暴走。それ以上の事態になりかねないということに、皆の顔に不安の色が浮かぶ。

 

 しかし、苗木の目にはまだ『希望の光』が宿っていた。

 

「分からない。分からないが…まだ僕たちには『救い』がある」

「救いだと?」

 十神が怪訝そうに眉を顰めると、苗木はこまるへと視線を向ける。

 

「こまる、お前が夢で聞いた『天国』とやらの条件の中の『場所と時間』だが…『最も重力の影響を受けない場所』の『新月の日』で間違いないんだな?」

「え?う、うん…そうだけど…」

「…そうか、なら『イイ』。これ以上ないぐらいの『最高の日』だ」

「…は?」

「ど、どういうことだべ?」

「重力の影響を受けない場所とやらは分からないが…『新月』というのは『ツイテいる』。僕等にとっては最高の条件だ」

「ど、どうして?…もしかして、次の新月がいつか分かるの?」

「ああ、知ってるさ。…勿論プッチもね。だから今頃歯噛みしているだろうさ。奴にとっては、『今日』は最悪の日だろうからね」

「…そうか!今日が…」

 苗木の言葉を理解した十神が思わず立ち上がって窓から夜空を見上げる。その視線の先、珍しく雲一つない闇の中に…『月は出ていない』。

 

「そう。…『今日』がその『新月』だ。そして今日は間もなく終わる。それまでに奴が条件を満たした場所に辿りつけるとは思えない。故に、奴は今日を捨てるしかない」

「ということは…」

「『月齢』は大体『1ヵ月』で一周するから…今日から数えて『1ヵ月後』が奴の目的の日ってワケね。成程…アタシらにとっては考えられるタイムリミット一杯ってことね。それはアイツにとってはさぞや『不運』だったでしょうね、いい気味だわ…!」

「…案外、苗木と狛枝のおかげかもしれんな。二人も『超高校級の幸運』が同じ場所に居れば、帳尻合わせで誰かが『超高校級の不運』を押し付けられても不思議ではない…ククッ、ザマアないなプッチ…!」

(…十神さん、すっごく小物臭い…)

 人間は思い通りに事が進むと誰であろうと小物臭くなるということを憶えたこまるであった。…『似た者同士』と言いかけて、嫌な予感がして思い留まったのは内緒である。

 

「でも、決して長い訳じゃあない。奴がどこに隠れたのかは知らないが、この世界情勢で人間一人を特定するのは容易ではない…。未来機関にも協力を要請したいところだけど…難しいだろうね」

「…ヤツを探すより、ヤツの『目的地』を探し出す方が賢明だろうな」

「目的地…『最も重力の影響を受けない場所』だっけ?」

「俺が知る限りでは、アメリカの『ケープ・カナベラル』がある。あそこは『引力』の影響を受けにくい土地柄を生かして、『ケネディ・スペース・センター』を始めとした宇宙開発の拠点として利用されている。候補の一つとして考える価値はあるだろう」

「うん。そこも踏まえて、ヤツの目的地を絞り出さなければならない。『一ヵ月』の間にね…そして、それはプッチのとっても同じことだ。だからこそ、奴はその『時間稼ぎ』の為にアレを持ち去ったのだろう」

「クロクマとシロクマの『アルターエゴプログラム』、そして…」

「…お父さんと、お母さんの『死体』…ッ!」

 こまると苗木の顔が怒りで歪む。死体とはいえ、大切な家族の体を持ち去られて、アタマにこない筈が無い。増して犯人はあのプッチだ、どんなことに利用されるか知れたものではない。

 

「誠君…」

「…大丈夫、僕は冷静だよ。ともかく、奴が事を起こす前にヤツを始末するか、奴よりも早く条件を満たす『場所』を探す。それが僕たちのこれからの方針になるね」

「…フン。勝つ条件が増えただけマシと考えるか」

「…いよっし!なら方針は決まったっつーことで…」

「…待てよ。その前に、ハッキリさせておかねえといけねえことがある」

 話がまとまりかけたところに、アナスイが待ったを入れる。

 

「あ?なんだよアナスイ?」

「…ウェザー、分かってんだろ?テメーの事だよ」

「……」

「…ウェザーだと?」

「そいつが…どうかしたの?」

「ウェザー…?」

 皆の視線を集める中、ウェザーは表情を変えることなく自らの『首筋』を皆に晒した。

 

「ッ!?」

「ちょ…ッ!?それ…」

「あれって…」

「それ、は…ッ!?」

 アナスイ、エルメェス、むくろ以外の面々は、そこに『ある』ものに驚愕を隠せなかった。…ウェザーの首筋にハッキリと浮かんだ、『星形の痣』の存在に。

 

「そ、その痣は…『ジョースター家』の証と同じじゃあねえか!…まさかお前、ジョースター家の『縁者』だったのか!?」

「さあな…俺には過去に記憶が無い。だから誰が親だったかすらも知らん。だが、少なくともこの街に来る前までこんなものは俺には無かった。…塔和ヒルズでアナスイに言われて初めて気が付いたんだ」

「突然できたとでも言うのか?そんな馬鹿げた話が……いや、まさか…!?」

「ああ、俺も最初はなんかのジョーダンかと思ったさ。…だが、ジョジョからプッチの野郎にも同じ痣があったって聞いて…本気で悪い冗談であってくれと願ったぜ…」

「ウェザーとプッチ、『ほぼ同じタイミング』で『同じ痣』ができた二人…関係が無いとは考えられないわね」

「ウェザー、あなたは一体…?」

「……」

 

「…その『答え』は、もう分かっているよ」

『ッ!?』

 ウェザーに向けられた猜疑に、ウェザーに代わって苗木が答えた。

 

「な、なんでアンタが知ってんのよ!?」

「…僕は、もう『見た』からね」

「見た、だと?」

 苗木は懐から一枚の『DISC』を取り出した。

 

「…そりゃなんだ?」

「これは、承太郎さんの記憶と一緒に奴から取り返した物…ウェザー、君の『記憶のDISC』だ」

「ッ!!俺の…!?」

「…は?ウェザーの記憶ゥ!?なんでんなもんをプッチが持ってんだべ!?」

「その答えも、全てこの中にある。…が、僕の一存でそれを話す訳にはいかない。決めるのはウェザー…君自身だ」

「……」

「ウェザー…」

 ウェザーはしばし沈黙し、やがて意を決した表情で苗木に言う。

 

「…教えてくれ、ジョジョ。俺は…『何者』なんだ?」

「…いいんだね?」

「ああ、俺はその為に生きてきた…。アンタの言うとおり、誰であろうと『真実』から逃れることは出来ない。ならば…俺はそれに『立ち向かおう』。それが、アンタ達から教わった俺の『覚悟』だ」

「…分かった。ならば教えよう、君の『真実』を…」

 ウェザーの覚悟を受け、苗木は口にする。ウェザーにとって、余りにも残酷な『真実』を。

 

 

 

「…ウェザー、君は過去の記憶が無いと言った。だがそれは少し違う、君の記憶は忘れてしまった訳ではない、『奪われた』んだ。プッチによってね…」

「プッチが…?どうして?」

「…プッチからすれば、邪魔者を排除しただけのつもりだったかもしれない。けれど、奴はウェザーを殺さなかった。『記憶を奪う』だけで、殺しはしなかった。…それは、奴の『肉親』への最後の慈悲であり、自分が発端となったしまったことへの奴なりの『贖罪』だったのかもしれない…」

「……あ?」

「今、アンタ…なんて言った…?」

「な、苗木っち?俺の聞き間違いだよな…。ウェザーが、プッチの…なんだって?」

 

 

 

 

 

「…ウェザー、君の本当の名は『ウェス・ブルーマリン』。兄の名は…『エンリコ・プッチ』。…キミは、プッチとは『双子の兄弟』なんだ」

『ッ?!!』

 

 

 その言葉に、その場の全員に戦慄が走った。

 

「ウェザーが…プッチの、『弟』…ッ!?」

「おい、苗木…ッ!性質の悪いジョークにも程があるぞ…!」

「…残念だけどジョークじゃあない。紛れもない『事実』だ」

「け、けど…ッ!苗字だって違うじゃあねーべか…?」

「ウェザーの親は『実の両親ではない』。ウェザーは生後間もなく、ある事情で同じ日に生まれ、不幸にも無くなってしまった赤ん坊と取り換えられたんだ。…だからウェザーも、自分に兄弟がいたことを知らなかった。…プッチにその事実を告げられるまではね」

「じ、じゃあ…その首の痣は…」

「…これは、あくまで僕の推論だが…。プッチが『緑色の赤ん坊』…おそらく、『親父の骨』を取り込んだことでジョナサンの肉体を介して『ジョースター家』の血脈を体に取り込んだ際、弟であるウェザーにもなんらかの影響が生じ、ウェザーにもプッチと同じ痣ができたんじゃあないか…と、僕は考えている」

「親父の骨って…アレが『DIOの骨』から生まれたものだっていうの!?」

「そう考えれば辻褄があう…。親父の骨から産まれた以上、その赤ん坊も『親父』と言ってもいいだろうしね。…それに、自分が実際になってみてよく分かったよ。『吸血鬼』と言う存在が、どれだけの可能性を秘めているのかということにね。…直接関わっていない肉親にすらも、影響を齎してしまうほどにね…」

「……」

「ウェザー…」

 知らされた『真実』を受け止めきれないかのように、ウェザーは呆然とその場に立ち尽くす。苗木はそんなウェザーに持っていた『記憶のDISC』を握らせる。

 

「全ての真実を知る覚悟があるのなら、そのDISCを使うと良い。それは元々君のものだ。それを頭にねじ込めば、DISCは本来の鞘に戻る。…そして君は、失っていた『自分』を思い出すだろう。プッチが君から記憶を『奪わざるを得なかった』、その理由もね…」

「……」

「…だがウェザー、これだけは憶えていてくれ。君が全てを思い出し、ここに記されている『ウェス・ブルーマリン』に戻ったとしても…僕らにとって、君は『ウェザー・リポート』だ。かけがえのない、僕等の仲間で…『ファミリー』だ。君がどんなに変わったとしても、その『真実』は永遠に変わらない。君は、決して『一人』ではない。それだけは、忘れないでくれ…」

「ジョジョ…」

「…ま、そういうこったな。オメーがプッチの弟だってのは驚いたけどよ、だからってオメーがなんか悪い訳じゃあねえしな!」

「ウェザー、俺はお前が気にくわねえ。妙に上から目線だし、徐倫も時々お前のことチラチラ見てるし…気にくわねえが…それでも、お前ほど『信頼』できる奴はいないとも思っている。だから…なんだ、下らねーこと考えたりなんかするんじゃあねーぞ?」

「…ウェザー。貴方の気持ちは、私が一番分かるつもり。私も、盾子ちゃんの…『江ノ島盾子の姉』っていう立場のせいで、沢山の人から恨まれている。…勿論、私自身にも恨まれる理由は十分にあると理解している。でも、だからこそ…その『立場』から目を背けちゃ駄目なんだと私は思っている。私という『存在』を証明できるのは、私だけなんだから。誠君たちが味方をしてくれても、それだけは私自身がやらなければならない。…だから貴方も、向き合って…戦って。貴方が『そう在りたい自分』である為に…」

「エルメェス、アナスイ、姐さん…」

 苗木が、戦刃が、アナスイが、エルメェスが、ウェザーの目をしかと見つめて言い切る。こまる達もまた、ウェザーを見る目に『疑い』などない。『エンリコ・プッチの弟』としてではなく、ただの一人の『ウェザー・リポート』として、例えどう変わろうとも彼を受け入れる。言葉はなくとも、ウェザーはそれを『魂』で理解した。

 

 

「…ありがとう、皆。俺はこれから、『俺』を取り戻す。だが…俺もひとつ『約束』しよう。例え俺が『俺』でなくなったとしても…俺は、お前たちを守る。そしてジョジョ…いや、苗木誠。俺の命は…アンタに預ける。それが、俺の新しい『目的』だ…!アンタが、俺の『希望』だ…!」

「ああ…!ウェザー…僕も、君を信じている」

 苗木の言葉に、皆が頷く。それを見届け、ウェザーは…『DISC』を頭にねじ込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ねえ、お兄ちゃん。ウェザーさん、大丈夫なのかな…?」

「確かに、相当顔色悪かったし…ちょっと心配だね…」

 その後、記憶を取り戻したウェザーであったが、取り乱したり豹変こそしなかったものの、気分が悪いと言って碌に口も利かず部屋を去っていってしまった。見かねたアナスイやエルメェスが付き添うことになったこともあって、その場はそこで解散となった。流石に今までの疲れがどっと出たのか、ホル・ホースや葉隠、十神はさっさと自分の部屋に引き上げてしまい、腐川も迷ってはいたがこまるに背中を押され十神の後について行った。現在この部屋…苗木に割り当てられた部屋にはこまると戦刃だけが残っていた。

 

「さあね…。僕にも、今のウェザーが果たして『ウェザー』なのかは分からない。けど、今のウェザーには時間が必要な筈だ。今の自分を受け入れるための時間がね。だから…信じよう、ウェザーを」

「…うん」

「そうだね」

「…さて、そろそろ寝ようか。響子たちが来るのに寝坊なんて恰好がつかないからね」

「うん…じゃあ、こまるちゃんを部屋まで送ってくるね…」

「あ…!お、お兄ちゃんッ!」

 突如、こまるが大声を上げて苗木を呼び止める。

 

「ん?…どうしたこまる?」

「あ…えっと、その…」

「?」

 顔を赤らめ、しどろもどろになりながらも、こまるは精一杯の勇気を振り絞って言う。

 

 

 

「えと…きょ、今日だけ…一緒に寝てもいいかな~…って、…駄目?」

「…え?」

 妹からの唐突な提案に苗木は思わずポカンとしてしまう。

 

「えっと…こまるちゃん?それはどういう…」

「どういうって…そのままっていうか、その…」

「…二人で『一緒のベッドで寝たい』、ってことか?」

「あ、うん…」

「…まあ、気持ちは分からないでもないけど…」

「ま、誠君?なんでそんな平然と受け入れてるの?」

「…こいつさ、子供のころから雷が苦手で、つい最近…と言っても2年以上前なんだけど、夜中に雷が鳴る度に僕のベッドに逃げてきてたんだよ。だからまあ、『慣れた』っていうか…」

「な、慣れたって…そんなにしょっちゅうだったの?」

「う、うん…本当に小さい頃はお父さんとお母さんの所だったけど、小学校の頃から大体…」

「…まさか、ね…それは流石に…」

「お、お義姉ちゃん?」

 戦刃はこの手の事には『残念』の呼び名に恥じぬほどに鈍い。が、苗木との恋を経験したことで多少マシになったのか、こまるが兄に対して抱いている『感情』にも薄々感づいている。…なので『そういう事態』に至ってしまうのは自然な事なのだ。…決して残念を一周回って拗らせている訳ではない。

 

「…何を想像しているのか大体予想つくけど、やってないからね?あくまで一緒に寝てただけだから。…ね?」

「へ?…ッ?!!ち、違…ッ!そういう意味じゃなくって、その心細かったからっていうか…や、やましいこととかじゃないよッ!」

「そ、そうだよね…!当たり前だよね…うん…」

(…ある意味じゃあむくろが一番『乙女』なんだよね…。ちょっと思考がズレてるのかアレだけど…)

「それに…ちょっと『話したいこと』もあるの」

「話…?」

 慌てた様子から一転、真面目な表情でそう言うこまるに、苗木はこまるの『本気』を感じた。

 

「…うん、分かったよ。多分またしばらく会えないかもしれないからね…。むくろ、君も一緒に居てくれないかな?いいだろ、こまる?」

「え?わ、私はいいけど…」

「う、うん!それいい!むくろお義姉ちゃんも一緒に寝よ!ね?」

「あ…うん」

「アハハ…」

 

コンコン…

「ん?」

 と、そこに部屋の扉がノックされる音がする。

 

「誰だろ、こんな時間に…?どうぞ」

 

ガチャ…

「あ…!キミ達…」

「お、お邪魔します…」

 恐る恐る入って来たのは、新月たち希望の戦士の一同であった。

 

「どうしたの?何かあったの?」

「えっと…」

「あの、俺っちたち…」

 言い辛そうに口ごもる彼等の様子を見て、苗木はそれを察して苦笑する。

 

「…こまる、悪いけど少し窮屈になりそうだ」

「へ?」

 

 

 

 

 

 

 その後…

 

「……」

「……」

「……」

「……」

「…どうしてこうなった?」

 苗木の部屋では、3つのベッドをくっつけて『7人』が横になって寝ていた。こまると戦刃が両端でこまるの隣に苗木、そして苗木と戦刃の間に大門、蛇太郎、新月、言子が挟まれる形になっていた。

 

「ご、ごめんなさい父さん…僕たちの我儘で…」

「気にしなくてもいいさ。…『親子』なんだ、これくらい当然だろう?」

「えへへ…なんか、いつもより暖かいや…!」

「そうですね…。ジュンコお姉ちゃんとパパに助けられた頃は、皆で一緒に寝てましたけど…今日はその時よりもうずっと暖かいです…」

「モナカちゃんも一緒だったらもっと良かったんだけどなぁ…」

「…そう、だな…」

「…ああッ!ぼ、僕チンまた空気読めないことを…ああ、こんなことばっかりだから僕チンは嫌われ者なんだなぁ…」

「まだ自覚してなかったんですか?本当に蛇太郎くんはおバカさんですね」

「うぅ…」

「…まあ、でも…今のは特別に許して差し上げます」

「ふぇ?」

「本当は…俺っちたちも、同じ気持ちさ。確かにモナカちゃんは俺っち達を裏切っていた。…でも、モナカちゃんはやっぱり『モナカちゃん』なんだよ。俺っち達の…大切な『友達』だったんだよ…」

「今は正直、モナカちゃんのことを許すことは出来ない。僕たち自身、許されるような立場じゃあないんだからな…。でも、この街を直して、僕たちの罪を償うことができた時…その時に、モナカちゃんともう一度正直な気持ちで話すことができたら…その時は、また『友達』になれたらって…僕は、そう思っている…」

「皆…」

「…ああ、それでいい。君たちはには、まだまだ沢山の『時間』があるんだ。モナカちゃんと向き合うのも、罪を償うのも、急ぐ必要なんてない。ゆっくり、ゆっくり大人になってくれ。道を違えそうになった時は、僕が何度でも止めて見せる。その中で、『自分にとって本当に正しいこと』を見つけて行けばいい」

「…はい!」

 傍らで微笑む苗木の温もりを噛みしめるように子供たち互いに手をつなぎ、は笑顔を浮かべて横になり…

 

『すぅ…すぅ…』

やがてあっという間に眠りに就いてしまった。

 

「…もう寝ちゃったのか。流石に疲れてたのかな?」

「う~ん…、それもあるけど…お兄ちゃんと一緒で『安心』したんじゃないかな?」

「そうかもしれないね。…フフッ、無邪気な寝顔だね…」

「そうだね。…さて、そろそろ聞かせてくれないか?こまる。お前の『話したいこと』ってやつをさ」

「…うん」

 子供たちが寝静まったのを見計らって、こまるは自分の『決断』を告白する。

 

 

 

「…お兄ちゃんたちって、明日にはこの街から行っちゃうんだよね?」

「…ああ。プッチのこともだけど、カムクラ君と狛枝さんをきちんと保護しないといけないし、未来機関にも少し『用』があるからね」

「それがどうかしたの?」

「…あのね、私…いろいろ考えて、腐川さんとも相談して決めたんだけど…」

 

 

 

 

 

「…私、この街に『残ろう』と思うの」

「「ッ!?」」

 

 

 

 

 

 …数時間前、ビックバンモノクマを撃破したこまると腐川は、皆と合流する前にこのことについて話していた。

 

「この街に残るって…アンタどういうつもりなのよッ!?」

「ふ、腐川さん落ち着いて…」

「落ち着けったって…もう全部『終わった』でしょうが!?白夜さまも助かった、アンタ達も助かった、あのガキ共ももう何もできない…この上こんな街に残る『理由』があるって言うの!?」

「……」

 捲し立てる腐川に、こまるはハッキリと告げる。

 

「…それは違うよ、腐川さん。まだ『終わってない』、終わってなんかないんだよ!」

「ハァ…?」

「確かに、この街で起きたことはこれで終わったのかもしれない…。でも、オトナとコドモの『憎しみ』が全部消えた訳じゃないと思うの。今は、お互い傷ついて…戦う力なんてないから、大丈夫かもしれない。でもいつか、なにかのきっかけでまた争いが始まって、それが『殺し合い』にまでなっちゃて…その時に、私がこの街に居なかったら…何も出来なかったら、きっと『後悔』すると思うの…!」

「そ、そんなの…そいつらの『自業自得』じゃないの。散々骨を折って戦いを止めてやったのに、まだやり足りないってんなら…そんなのアタシらが構う必要なんてないわ。勝手にやってりゃいいのよ。アンタにそこまでしてやる『義務』なんてないわよ」

「義務とかそんなんじゃあないんだよ!…ただ私は、もう誰にも『後悔』して欲しくないだけなの。私も、あの時腐川さんが止めてくれなかったら…お兄ちゃんが来てくれなかったら、きっと今頃後悔していると思うから。だから…これは私の『自己満足』。私がこの街の皆に『幸せ』になって欲しいから…私は、『私自身の為に』この街を守りたいの!」

 真剣な眼差しで宣言するこまるに、腐川は一瞬呆気にとられた後、やれやれと言った風に嘆息する。

 

「…ったく、散々忠告してやったのにこの期に及んでまだアイツの『真似』みたいなことを…。アンタ考えて言ってるんでしょうね?」

「もう!またそんな言い方して…私だってちゃんと考えてるよ!」

「へぇ…?」

「要するに、腐川さんは私に『自分にできる範囲で頑張れ』…って言いたいんでしょ?だから、これが私にできる精一杯。お兄ちゃんみたいに『希望』とか『絶望』とか、『世界』みたいなものは背負えないけど…私がこの街で関わって来た皆の『幸せ』を守るぐらいなら、私にもできるかなって…そう思うんだ」

「……ハァ。まったく…本当にどうしようもなブラコンなんだから…」

「い、イイじゃん別に!…ていうか、それ関係ないじゃんッ!」

「…アンタね、この街にその『火種』抱えて燻ってる連中が何人いると思ってんのよ?」

「へ?」

「大人にしろ子供にしろ、今の現状に納得してない奴なんて山ほどいるわよ。そんな奴らを、アンタ『一人』でどうにかできると思ってんの?」

「それは…やってみなくちゃ分からないよ!」

「…そういうのは、『できなかったとき』のことをちゃんと考えたうえで言うものよ。もしできなかったとき…後悔するのはアンタなんだからね」

「う…」

「……」

「……」

 腐川の反論に消沈するこまる。そのまましばらく沈黙が続いたが…それを破ったのは腐川の方であった。

 

「…あーもうッ!やっぱりアンタ分かってないわね!」

「へ?」

「一人でできる自信がないんだったら、…素直に『助け』を求めればいいじゃないの!何の為にアタシがいると思ってんのよ!?」

「腐川さん…それって…」

「…アタシも一緒に残ってあげるって言ってんのよ!言わせんじゃあないわよ恥ずかしい…」

「で、でもッ!腐川さんはお兄ちゃんや十神さんの手伝いをしたいんじゃ…」

「…確かに、それはそうよ。アタシにとっての『一番』は何時どんな時であろうとも白夜様よ。その白夜様が苗木に協力するっていうのなら、アタシもお力になれたらとは思うわよ…」

「だったら…」

「けどね…今のアタシがお傍に居ても、白夜様は絶対に振り向いてはくれないわ。…アンタをこの街に残したことをいつまでも引き摺っているようじゃあ、アタシはきっと白夜様のご期待に応えられない…。だから、アタシは自分が『納得』するまでアンタに付き合って、自分の気持ちにケジメをつけたうえで白夜様の下に戻るわ!それが、アタシの信じる正しい『道』よ…!」

「腐川さん…」

「それに…『友達』が無茶しようとしてるって時に、それを黙って見てるだけなんて今のアタシには我慢できないわよ。だから…とことん付き合ってげるわよ。アンタの望んだ『未来』が来るまで、ね…」

「腐川さん…ッ!ありがとうッ!」

「フン…精々感謝しなさい。こまる…アタシの、大切な『友達』」

 

 

 

 

「そうか…それが、お前の決めた『選択』なんだな?」

「腐川さんが、そんなことを言うなんてね…」

「…最初はね、私…この街のこと『大嫌い』だったんだ。酷い目にもあったし、痛い思いも、嫌な思いも沢山した…。でも、この街で腐川さんと出会って、沢山の人たちに助けられて…お兄ちゃんが来てくれたおかげで、私は…私が本当に望んだ『希望』を見つけることができた。だから今度は、私がこの街と、この街の人たちの為に頑張りたいの。私が希望を見つけたように、この街の人たちが自分の希望を見つけて、それを信じて歩き出せるように…私は、自分にできることをやってみたいの!」

「……」

 真剣な眼差しで自分をみつめるこまるに、苗木はその瞳を正面から見据え…やがて顔を綻ばせるとこまるの頭を優しくなでる。

 

「…いつの間にか、お前も『大人』になったんだな。その決断を、僕は『尊敬』するよ、こまる」

「お兄ちゃん…」

「分かった…!思いっきりやってみろ。お前の手の届かない所は、僕たちが手を貸してやる。僕たちは、お前の『覚悟』を応援する。だから…お前は、お前の希望を信じて進め。それが、父さんや母さんへの何よりの手向けになる…」

「…うん!」

「一緒にいられないのはちょっと残念だけど…こまるちゃんがそう決めたのなら、私にはもう何も言う事は無いよ。何かあったら、いつでも相談してね?」

「うん、ありがとうむくろお義姉ちゃん!」

「…さあ、僕等もそろそろ寝よう。おやすみ…」

「おやすみなさい…」

「おやすみ…」

 こまるの決意を聞き届けた後、苗木達もまた眠りに就く。微睡の中で、こまるは隣の兄の寝顔を見ながら思いを馳せる。

 

(…やっぱり、まだ遠いなあ…。私じゃあ、まだお兄ちゃんの『隣』に立つ自信は無いや。それに、お義姉ちゃんたちのことも大好きだし…今は、このままでいいや。……でも…)

 やがてほんの少しだけ苗木の傍にすり寄り、その体に軽く抱き着いた。自分より背は低いもののがっしりとした体から伝わってくる熱が、こまるの奥底を刺激する。

 

(私がこの街でやるべきことをやり遂げて、ほんの少しだけ自分に『自信』が持てたら…その時は、もう少しだけ…勇気を出しちゃっても…いいよね?)

 ずっと求めていた充足感とほのかな背徳感に笑みを浮かべながら、こまるは深い眠りに就いたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …翌日、未来機関14支部から霧切らが塔和シティへと到着した。ヘリから降り立った彼女たちはこまるや苗木の無事に胸をなでおろしたのち、それぞれの身内の下へと向かっていく。

 

「姉ちゃん…姉ちゃんッ!!」

「悠太…ッ!良かった、本当に…生きてて良かった…ッ!」

「悠太君…良かったね!」

「うん!…こまる姉ちゃんのおかげだよ!こまる姉ちゃんが居てくれたから、俺は生き残れた…また姉ちゃんと会えたから!」

「こまるちゃん…ありがとう!悠太を守ってくれて…」

「いやあ…。むしろ悠太君の方が頑張ってたし…」

 ヘリが着陸するなり飛び降りた朝日奈に、弟の悠太が駆け寄り互いに無事を喜び合う。

 

 

「…お爺様、結お姉さま。久しぶりね…無事で良かった」

「ふっ、年寄扱いするでないわ響子。…あの『バカ』の代わりに『ひ孫』を抱くまでは死なんわい」

「響子ちゃん…なんだか大人びた感じになったね。すっごく綺麗になって……あーあ、私が男だったらほっとかなかったのになぁ~」

「そう…。でもごめんなさい。私は誠君以外の男性に興味が無いから」

「…ちょっと、聞きました師匠!?あの響子ちゃんが『惚気』ましたよ!」

「別に珍しいことでもないぞ。ワシの所に挨拶に来た時もこんな感じじゃったしのう。…しかし、『一夫多妻状態』と聞いた時は正気を疑ったが、円満そうじゃな。これならひ孫の顔も生きているうちに拝めそうじゃな」

「フフ…そうなるよう頑張るわ」

 霧切もまた、祖父の不比等と朝日奈姉弟と比べればそっけないものの再会を喜び、それを見た五月雨がやれやれと言った感じで苦笑していた。

 

 

「…アンタが、舞園さやかね」

「…はい、そうです」

「言いたいことは、分かってるよね?…ついてきてよ」

「勿論です」

「さ、さやか…」

「…大丈夫よ、あやか。覚悟していたことだし…それに、私の『答え』はもう出ているから」

「…うん」

 舞園は、羽山に見送られながら桑田の従妹である花音と共に一同の輪を離れ物陰へと向かう。…やがて二人の大声と殴られるような音が聞こえてきたが、数十分後に戻って来た二人は、互いに顔を赤く腫れさせながらもどこか清々しそうな笑顔で笑い合っていた。

 

 

 そんな要救助民たちへの対応の最中、苗木は霧切たちと希望の戦士たちを立ち会わせていた。

 

「…それで、この子たちを養子にするってことね?」

「…勝手に決めて済まない。だが、これが『最善』の選択だと僕は思っている。この子たちにとっても、この街にとっても…僕自身にとっても」

「私からもお願い。お義姉ちゃんたち…この子たちのことを認めてあげて?」

 苗木とこまるの嘆願に、霧切たちはしばし希望の戦士たちをみつめ、やがて目配せし合うと彼らの前に立つ。

 

「あの…えっと、その…」

「…大門君、煙君、空木さん、それに…新月君?」

「は、はいッ!?」

「…私たちのことを『母親』と思えとは言わないわ。あなた達にとっての『母親』は、きっと江ノ島さんなのでしょうし…。でも、これだけは憶えておいて。何があっても、誠君はあなた達を裏切ったりはしないわ。だから…あなた達も、誠君の…『お父さん』のことを信じて頂戴」

「…え?」

「それって…」

「…確かに驚いたけど、誠がそう決めたのなら、私たちは反対なんかしないよ。私たちは、誠を信じてここまで来た、ここまで来ることができた。だから、私たちは最後まで誠を信じる。その誠が君たちを信じるって決めたのなら、私たちも君たちを信用する。『誠が信じた君たち』をね…」

「大人に酷いことをされたあなた達に、見ず知らずの私たちを信頼してもらえるとは思っていません。…でも、私たちはあなた達を守りたいんです。例え罪を犯しても、それを認めて償う『覚悟』さえあれば、何度だって立ち上がれることを私は誠君に教えて貰いました。…だから今度は、私があなた達にそれを示してあげたいんです。あなた達の『未来』が、きっと素晴らしい物であってほしいから」

「さやかお姉さん…」

「言子ちゃん、あの頃は気づいてあげられなくてごめんなさい。…でも、もう大丈夫だから。これからはずっと、私たちが傍に居るからね」

「…ッ!はい…!」

 彼らを受け入れてくれた妻たちに、苗木はほっとしながらもそのことを喜ぶ。

 

「…ありがとう、皆。僕の我儘を聞き入れてくれて…」

「ううん。…むしろ私たちは嬉しいよ。誠君が、『自分の為の我儘』を言ってくれて」

「ホントだよー!誠はいっつも自分のことを後回しにするからさー。そういうの、頼りにされてないんじゃないかって、不安になるんだよ?」

「い、いや…そんなことはないけど…」

「誠君はもっと『欲張り』になるべきです!ギャングのボスなんですからそれぐらいしないと駄目ですよ!じゃないと部下の人たちだって我慢しちゃうかもしれないじゃないですか?」

「そういうもの…かなぁ…?」

「そうだよお兄ちゃん!お兄ちゃんは頑張ってるんだから、それぐらいしても大丈夫だよ!」

「そうね…さしあたっては、そろそろ『夫としてのお仕事』を励んでもいいんじゃあないかしら?私たちも『女』なんだし、あなただって『男』なんだから…ね?」

 苗木の顎に手を当て、霧切は妖艶にそう囁く。…子供達への教育的配慮からか彼らには見えないようにはしていた。

 

「…ぜ、全部片付いてから…ね?流石に今皆に抜けられると僕も未来機関も困るだろうし…」

「…そうね」

(むしろ、『今だからこそ』なのだけれどね…)

 希望の戦士たちに自分の『母性』を擽られた霧切たちに苗木が手玉に取られつつも、未来機関と塔和シティの事後処理は進んでいく。

 

 

 塔和シティは、苗木の目論見通りパッショーネの管轄する『自治区』として扱われることとなった。無論、宗方らを始めとした『過激派』の反対もあったが、SPW財団による情報統制と天願の鶴の一声により正確な情報が漏れぬうちに可決されることとなった。

 表向きの街の管理者は塔和グループの御曹司である灰慈と、苗木の養子となった希望の戦士たちだ。とはいえ流石に幼すぎるとの声があったため、後見人の一人として実情を知るホル・ホースも塔和シティに残留することとなった。(本人いわく、『俺はもう一生分働いたから引退みてーなもんだ』とのこと)

 

 また、要救助民の全員生還を果たしたとはいえ、狛枝の情報に騙され未来機関に少なくない犠牲を出してしまった責任により、十神は十四支部の支部長を降りることとなった。後任には支部長代理を務めていた霧切がそのまま新支部長となった。…身内人事との声もあったが、本人の能力や支部長代行としての実績もあって滞りなく人事は進んだ。

 

 カムクライズルと狛枝凪斗は一旦十四支部にて身柄を預かることとなり、その後苗木と共にパッショーネへと向かう予定になっている。…しかし、『ミリオンクラス』の殺人を犯し、『超高校級の絶望』でもある彼等の存在を危険視する未来機関からは『即刻抹殺せよ』との命令が下っている。それをなんとかするために、苗木は霧切らと共に未来機関の幹部との『会談』へと赴くこととなった。

 

 

そして現在…塔和シティを離れる苗木達が乗ったヘリを、こまるは皆と共に見送っていた。

 

「…これで、いいのね?こまる」

「うん…!お兄ちゃんと一緒に居ても、きっと私じゃあ足手まといになっちゃう。…でも、この街には、私にできることが有る筈だから。だから今は、自分にできることを精一杯やって、いつかお兄ちゃんが私を頼ってくれた時に、自信を持って手伝えるようになりたいの。だから…今は、これでいいんだ」

「…ふん。なら、精々頑張んなさい。アタシも、できる限りは手伝ってやるからさ…」

「…ありがとう、『冬子ちゃん』!」

「ッ!!?…い、いきなり名前で呼ばないでよッ!心の準備ができなかったじゃあないのッ!!」

「たかが名前呼びでアホらしいやっちゃな…。いい加減それぐらい慣れろっての」

「ほんと、これだから『ぼっち』は…」

「…ッ!い、言ったわね…!例え事実でも言ってはならない事を…ッ!それを言ったら…、戦争じゃあないの…ッ!」

「おおげさな…」

 いつも通りのこまると腐川の漫才染みた話に、皆がツッコミを入れながらも笑い出す。

 

「…さて、コントも結構だが呑気にもしてらんねーぞ。俺達にはやらなきゃなんねーことが山積みなんだからな!」

 その場の皆を鼓舞するように、灰慈が苗木に治してもらった『右腕』を掲げて声を上げる。

 

「んなもん言われなくても分かってるっての!…ったく、怪我が治ったら急にはしゃぎだすとかガキかっつーの…」

「まあまあ…で、こういうことアタシはさっぱりなんだけど…どっからかかるの?」

「まずは治安の維持からだろう。…こうしている間にも、不満を抱えた大人や子供がいつ爆発するか知れない状況だ。我々が中心になって、有志を募って『自警団』を組織するべきだろう」

「うむ…。それに、破壊された施設の復旧も急がねばならんだろうな。特に病院や宿泊施設を早急に治さねば、皆も安心できんだろう」

「…それよりもまずはメシだね。腹が減ってちゃあ復興も進まないし、気が立って馬鹿な事をする奴もいるだろうしね。街中の食糧かき集めて『炊き出し』でもしようかねえ?」

「わ、私も手伝います!…こう見えて一応アイドルですから、さやかみたいに皆を元気づけられるかもしれないし…」

「だったら僕は、塔和ヒルズの設備を借りさせてもらうよ。あそこはまだ機能が生きてるから、街のインフラの復旧に役に立つかもしれないからね」

「…なんか、山積みってレベルじゃあないね」

「文句を言うな馬鹿弟子。探偵たるもの、やる前から不満を漏らす様では2流以下だぞ」

「ま、案外何とかなるだろ?人間やってできねえことなんかねえしよ!」

「おう、その通りだぜ!」

「うみゃぁ~ん!」

 

「……」

 街の復興に向け話し合う皆を見ながら、こまるは優しく笑みを浮かべる。

 

「…何ニヤニヤ笑ってんのよ?」

「えへ…。なんていうか、…頑張って良かったなぁ…って、思っただけ!」

「フン…相変わらずお姉ちゃんはお子様だな。そういうのは復興が終わってから言うことだろ?」

「へへ~!コドモにコドモって言われてやんの!」

「もう…酷いなぁ…」

「まあ、小難しい話は大人の皆さんにポーイ!…して、私たちもやることは沢山ありますよ?…とりあえず、モナカちゃんを探さないといけませんしね」

 今朝、朝食を持って新月がモナカを起こしに行くと、部屋はもぬけの殻であり、モナカの代わりに『モナカは好き勝手やるので探さないでください』という置手紙だけが残されていた。

 

「うう…どこ行っちゃったんだろうね、モナカちゃん…」

「全く…ホント最後まで面倒事ばっかりなんだから…」

「まあいいじゃん冬子ちゃん。…これからは、『前』に進んでいくんだから。ちょっとずつでも、今より良くなっていけるように頑張らないと!」

「そうだぜ。俺らが頑張りゃ大将の助けにもなるんだからよ、ぶつくさ言ってねえで張り切って行こうぜ!」

「…そうね。コツコツ努力なんてアタシの柄じゃあないけど、アタシ達は…『超高校級の漸進シスターズ』だもんね…!」

「うん!」

 

 

 街を覆い尽くそうとした『絶望の残り火』は、二人の少女の『勇気』によって払われた。…戻らない物は多く、これからもまた彼らは『失う恐怖』と向き合っていかなければならないだろう。

 

 

 しかし、それでも彼らは前に進み続ける。何度立ち止まっても、何度振り返っても、それでも彼らは少しずつ前に『漸進』する。

 

 『特別』でなくとも、『英雄』でなくとも、『希望』でなくても…それでも人間は諦めないことができる。二人の少女が、それを証明してみせた。

 

 

 そんな彼女たちの『漸進』もまた、これから続いていくのである。『暗闇の荒野』を切り拓けずとも、『真っ白な明日』を染めていくように、彼女たちは歩き続けるのだ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…数日後

 

ババババババ…!

 苗木達を乗せたヘリが、真っ赤な空の色を飲み込み赤く染まった海上を飛行する。行き先は…『未来機関本部』、天願がセッティングした『会合』の会場である。

 

「…もうじき、着くわね」

「うん、そうだね…」

「…ねえ、今更だけど私たちだけで良かったの?ジョセフさんとか空条さんが目覚めるのを待って一緒に来てもらった方が良かったんじゃ…」

「いいや、これは『僕個人』の問題だ。下手にSPW財団の協力を受ければ、ジョセフさんたちまで未来機関の反感を買うことになってしまう。…僕としては、それはできるだけ避けたいんだ」

「…確かに、今回のことは未来機関にとってはあまり面白い話ではないかもね」

「『超高校級の絶望』…もとい、『希望ヶ峰学園77期生第一クラスの引き渡し』、ですからね…」

 今回の会合の主目的は、カムクライズルや狛枝の保護の許可もあるが、未来機関がこれまでに確保している『超高校級の絶望』と呼ばれる者達…苗木達にとっては最も縁深い先輩である『77期生』の面々を保護することでもあった。

 

「まーけどよ、こっちは山ほど手土産持ってんだし…それに、第5支部の『雪染っち先生』ならきっと味方してくれんだろ?」

 手が空いていた為付き添いでついてきた葉隠が、ヘリの下に吊り下げられた彼らの身柄と交換にする予定の『物資』に目を落としお気楽に言う。

 

「…そうだと、いいんだけどね」

「…?どうしたんですか?」

「なにか、気になるの?」

「少し、ね…ただの杞憂だとは思うんだけど…」

 塔和シティで江ノ島に告げられた『忠告』、それが苗木に漠然とした不安を抱かせていた。

 

(江ノ島さんの言う『面白いこと』…それがロクでもないことは目に見えている。無論、だからといって踏鞴を踏むわけにはいかない。例え進む先が『絶望』だと知っていても、僕等は立ち止まったりはしない。その絶望と向き合い、受け入れて前に進んだ時にこそ、『本当の希望』がある…そう僕は信じているのだから…ッ!)

 決意を新たに、苗木は遥か彼方で尽力しているであろうこまる達のいる塔和シティの方を見る。

 

(こまる…。お前はお前の『信じる道』を進め。その先にどんな未来が待っていたとしても、僕は必ずお前の帰りを待っている。その為にも…僕は戦う。絶望と、プッチと…『自分の運命』と向き合い、必ず生きて勝つんだッ!)

 

 やがて水平線のかなたに、かつて建設予定だった『希望ヶ峰学園海外分校』を改装した『未来機関本部』が見えてくる。

 

 そこで待つのは希望か絶望か、…あるいはもっと『恐ろしい結末』か…

 

 

 

 

 

 

 

 新月まであと、『27日』…!

 




一話にまとめようとしてたら総文字数が2話分相当になってしまった…。時間がかかって申し訳ない

ウェザーが原作のように暴走しなかったのは、非戦闘状態で精神が落ち着いていたのと、原作以上に信頼できる仲間が傍にいたからです。…というより、ここでヘビーウェザーをやらかすと収拾がつかないので…
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