ジャンプ流の荒木先生の奴を買いました。…いろいろ凄かったね。自分は漫画家志望でもないですけど、絵心の無い自分にとってはあのタッチをあのスピードで描けるというのはすごいということだけは分かりました。流石に露伴先生のようには無理でしたけど、流れとイメージでズバッと描いているというのはやっぱり露伴先生は荒木先生の理想なのだとつくづく思いましたね。
…あと、やっぱりあの人若くね?同年代のゆで先生とか高橋先生と比べても肌ツヤがおかしい…おかしくない?やっぱ石仮面やってるって、もしくは波紋
バババババババ…ッ!
未来機関杜王支部のヘリポートでは、一機のヘリコプターがプロペラを勢いよく回し出立の時を今か今かと待ちかねていた。そのヘリに、十神白夜、空条承太郎、東方仗助、虹村億泰、広瀬康一が乗り込んでいく。
「…広瀬支部長!物資の積み込みは終わりました。いつでも出発できます!」
「うん、ありがとう。…承太郎さん、こっちは大丈夫だそうです!」
「ならさっさと行くぞ!時間が惜しい…」
「ああ…なら…」
部下からの報告を受け、出発の準備ができたことを康一が知らせると、逸る十神の気持ちを汲むように承太郎はヘリの扉を閉めようとし…
…ガシッ!
「うおッ!?」
「…待ってくれ」
それを制するように突っ込まれた手が閉まりかかった扉を開き、その手の主…ウェザーがヘリに乗り込んでくる。
「…ウェザー!?貴様、なんのつもりだ!」
「…俺も連れて行ってくれ」
「何…?」
「…ウェザー…!」
ヘリのプロペラ音に掻き消されながらも、大声を張り上げウェザーの名を呼びながらやって来たのは徐倫たちであった。
「ヘイッ!ウェザー、テメエどういうつもりだ!?」
「父さんたちと行くなんて聞いてないわよ!…ていうか、急にいなくなって心配したじゃない!」
「…済まない、徐倫。だが、俺はどうしてもジョジョのところに行かねばならんのだ…!」
「あん?そりゃどーいう意味だよ?」
「…それは、俺にもよくわからない」
「はぁ?」
「だが…『疼く』んだ。俺のこの首の『痣』が…そこへ向かえと、俺を促している。今の俺が『ウェス・ブルーマリン』なのか、『ウェザー・リポート』なのか…それは俺にも分からない。だが、そこに向かえば、その『答え』が見つかる…そんな気がするのだ」
「ウェザー…」
「…おい、十神…さん。俺からも頼む、こいつを連れて行ってくれねえか?」
「アナスイ!?」
「俺は正直、こいつが嫌いだ。…だが、今のこいつはもっと嫌いだ。テメエが何者かも分からねえままボケッとしているその面を見ているとバラバラにしたくなる。…だから、そのしけた面がちっとはマシになるのなら、こいつはそうするべきだ。徐倫、君だってそうだろう?いつまでもこいつがこんなザマでいるのを、君は望んではいないだろう?」
「…父さん」
「………」
押し黙ったまま、承太郎は十神に視線を向ける。仗助たちもそれに倣うように十神を見る。
「…ええいッ!何故俺を見る!?」
「だって一番反対しそうなのオメーじゃねーかよぉ~」
「…チッ!勝手にしろッ!こっちは一刻を争う時なのだ、分かったらさっさと飛ばせッ!」
「…了解!」
「感謝する…」
ウェザーを乗せると、ヘリは徐倫達に見送られながら杜王支部を飛び立った。目的地は、『未来機関本部』。未だコロシアイの渦中にある苗木達を救うべく、ヘリは最大速度で大海原へと飛び出していった。
タッタッタッタ…!
「…お?ゴズ君どうした、今追いついたみたいだが…」
「ハハ…すみません。何やら人影のようなものが見えたのですが…私の気のせいだったようです」
忌村を先頭に、霧切たちは万代、舞園、安藤、十六夜のいる会議室へ向かっていた。
「…忌村さん、少しいいかしら?」
「…何?」
「貴女は、どうしてそこまであの二人に固執するの?…詳しくは知らないけれど、以前貴女が希望ヶ峰学園から処分を受けた時、あの二人も同じ処分を受けたと聞いたわ。それが何か関係しているの?」
「……」
霧切の問いに、忌村は閉口し苦い表情を浮かべるが、やがてぽつぽつと答える。
「…あれは、あまり関係ない。これは、どちらかというと…私の個人的な問題。アレがなくても、私たちはいつかこうなっていた。偶々…なのかは分からないけど、アレのせいでそれが早まって…その上、世界がこんなことになったせいで、今まで拗れてしまった。全部、『運が悪かった』だけ…」
「……」
「だから…今は、ううん…今だからこそ、私があの二人を止める。流流歌が何も『信じられなく』ても、私は流流歌を信じる。きっと分かってくれるって、信じている。十六夜は…分からないけど、アイツもなんとかしてみせる。じゃないと…村雨や苗木に、無駄な事をさせたことになってしまうから…」
「…忌村ちゃんよ、あの事なんだが…実はよ…」
「…言わないで。それは私一人だけが知っていいことじゃない。流流歌も、十六夜も…『皆』で聞く。だから、今はいい…」
「…そうかい」
言いよどむ黄桜を制しながら、忌村は決意を秘めた表情でひた走った。
一方、その会議室では…
「…奴らがこちらに向かって来ている。もうじき着くぞ」
「…あっそ。なら、ヨイちゃんもよろしくね」
「分かった…」
「うう…」
部屋の隅に押しこまれつつも舞園を庇う万代を睨みながら、安藤と十六夜はふんぞり返って忌村たちの到着を待ち構えていた。
「…安藤さん、十六夜さん!なんでこんなことを…?これ以上仲間同士で争っても意味なんかないよ!『スイカもメロンも同じ瓜』だよ!」
「…仲間?」
「そうだよ!…舞園さんだって、早く毒をなんとかしないと危ないのに、それなのにこんな…」
「…ハ、流流歌知らないし。そいつが死のうがどうなろうが、流流歌には関係ないもん」
「え…ッ!?」
「それに、アンタこそ状況分かってんの?…アタシ達は今その『仲間同士』で殺し合ってる最中なんだよ?そんな時によく碌に知らない奴の事なんか、信じられるわけないじゃん。どうせどいつもこいつも、いざとなったら誰だろうと見捨てられるんだよ…」
「……」
「そ…そんなの、分からないじゃないか!信じる前から諦めてたら、それこそ誰も信じてくれないよ!苗木君や会長も言ってたじゃないか、『何かを信じる心が希望なんだ』って!安藤さんや十六夜さんも、支部長なんだからそれぐらい分かって…」
「…そんなもん知るかッ!!」
「!?」
万代の反論を安藤は癇癪を起こしたように捻じ伏せる。
「なにが『信じる』だ…。所詮人間なんて、上辺だけ信じたふりをして、何かあったらすぐに掌を返す奴ばっかりなんだ…!アイツらみたいに…ッ!」
『…申し訳ないけど、希望ヶ峰学園の生徒でないのなら、これ以上材料をサービスは出来ないな。こっちも商売だからね…』
『あれ?アンタなんで帰って来てんの?希望ヶ峰学園に行ったんじゃなかったけ?…停学?…ふ~ん、なにやったのか知らないけど、ご愁傷さま』
『…聞いたよ、アンタ希望ヶ峰学園を追い出されたんだって?悪いけど、ウチの評判にも関わるから採用は見送らせてもらうよ』
「…ッどいつもこいつも…ッ!ドチャグソむかつくッ…、私のことを何も知らない癖に分かった風な事ばっかり言いやがって…!他人なんか信用出来るもんかッ!私には、流流歌と流流歌のお菓子が好きな奴とヨイちゃんさえ居れば、他の奴らなんかどうでもいいんだよッ!忌村みたいな…私のお菓子を『食べようともしない』やつなんか、信じられるもんか…ッ!」
「…流流歌」
「そ、そんな…」
吐き捨てるようにそう言い切り、安藤はひとつ息を吐くとポーチからマカロンをひとつ取り出した。
「…はいヨイちゃん。アイツとやる前に体力回復しとくでしょ?あーん…」
猫撫で声で十六夜の口元にそれを持っていくが、十六夜は差し出されたマカロンに一瞬眉を顰めると顔を逸らす。
「…いや、いい。まだ大丈夫だ…」
「………ヨイちゃんさあ、さっきから流流歌のお菓子全然『食べてくれない』よね?最初はお腹いっぱいと思ってたけど、もう最後にお菓子食べてから半日以上経ってるよね?いい加減お腹がすいてると思うんだけど…」
「……」
「…ねえ、なんで食べてくれないの?流流歌のお菓子が飽きる訳ないよね?小さいころからずっと食べてきたんだから、そんなはずが無いよね?なんで食べてくれないの?…どうして流流歌を信じてくれないの?」
「…俺は…」
問い詰める流流歌に言いよどむ十六夜であったが、ふと安藤が万代に視線を向けると、にやりと笑う。
「…ああ、そっか。そんなに食べたくないんだったら…意地でも食べる気にしてあげるよ。…流流歌のお菓子の『中毒性』、忘れた訳じゃないよね?」
「……」
「え…?」
安藤は十六夜に背を向けると今度は万代にマカロンを差し出した。
「万代、アンタのNG行動って確か『他人の暴力を見る』だったよね?…今この場でそいつを殴るところを見たくなかったら、アンタがこのお菓子を食べてよ」
「は…?え、えぇ…?」
二人の傍で寝かされている舞園を示しながらそう言う安藤に、万代は意図を理解できず混乱する。
「ほらほら♪はやく食べないとこいつの顔面ぶん殴るよ?…私は別にいいけど、アンタはそれだと困るんでしょ?死にたくないよね?…だったら、流流歌のお菓子を食べてよ。そんで、流流歌を『安心』させてよ。そうすればきっと、ヨイちゃんも食べたくなるだろうからさ…」
「……」
「え、えっと…これを、食べればいいの?」
「そっ♡…しっかり噛んで、よ~く味わってね。流流歌のお菓子は、世界一おいしいんだからさ…」
「う、うん…」
舞園を巻き込むわけにもいかず、条件も大したことではないと判断した万代は、言われるがまま安藤の差し出したマカロンに手を伸ばし…
ドバァンッ!
「…流流歌ッ!!」
「忌村…ッ!」
「…ちぇ、ホント空気読めないねアンタ…」
扉を押し開け会議室に飛び込んで来た忌村によってそれは阻止された。
「…ッ!流流歌、アンタまた…ッ!」
「あーあ、せっかく流流歌のお菓子のファンがまた増えるところだったのに…ホント、アンタは昔から余計な事ばっかりするよね、静子ちゃん…」
安藤が万代にマカロンを差し出しているのを見た忌村が表情を歪ませていると、その後ろから霧切らが追いついてきた。
「万代さんッ!」
「無事か万代君!?」
「き、忌村さん!?それに、霧切さんに黄桜さんまで…」
「…ゾロゾロとウザったいなあマジで…。アンタらはお呼びじゃ…」
「…万代さんッ!」
「…え?」
その直後、3人のさらに後ろからぬっと現れたグレート・ゴズに、安藤らは思わず呆然としてしまう。
「ご…ッ!?ご、ゴズさんッ!!」
「グレート・ゴズ…!貴様、生きていたのか…ッ!?」
「な、なんで…ッ!?アンタ死んだんじゃ…」
「…ええ、色々有りましてな。苗木君のおかげで、幸運にもこの場にいることができました」
「…?」
(…何?今のゴズさんの言い方…。なにか引っかかる…というより、『わざと遠回しな言い方にしている』…?何故そんな回りくどいマネを…)
ゴズの物言いに微かな疑念を感じた霧切であったが、今の状況を思いだし即座に思考を切り替える。
「…お二人とも、万代さんと舞園さんを解放してください。既にこの状況を打破する方法は見つかっています。これ以上、未来機関同士で殺し合うなど無意味です!会長もそれを望んではいません…ですから、もうやめてください!」
「…この状況を打破だと?」
「ふん、どうせ口からでまかせだよ」
「そうかい?なら、ちょいと聞いてくんな…」
「…未来機関のメインシステムを乗っ取ったモノクマのAIをシステムごと止める、それがお前たちの『策』か…」
「はい。既に朝日奈さんと御手洗君、そして会長が動力室へと向かっています。…妨害さえなければ、次のタイムリミットまでには十分間に合うでしょう。ならば、我々が余計な事さえしなければ、これ以上犠牲が出ることは無い筈…」
『うぷぷ、それはどうかな~?』
「ッ!?」
説得を試みる霧切たちを嘲笑うように、モニターにモノクマが現れケラケラと嗤う。
「…何がおかしいの?」
『あのね、僕はこう見えて君たちのことをか~な~り評価してるんだよ?半分ぐらいは苗木君がやったとはいえ、あの人類史上最大最悪の絶望的事件から1年足らずの間に世界の3割近くを、君たちは僕たちから奪い返しているんだ。それは僕も認めざるを得ない。…だからこそ、僕は『念には念』を入れてきているんだよ…!』
「何だと…?」
『うぷぷ…それじゃあ見せてあげるよ。君たちの賭けたそのちっぽけな希望が、無残に砕け散るところをさ…!』
そう言うと、今度はモニターに移動している朝日奈たちが映し出された。
「…急ごう!もう少しだよ!」
「ふむ…どうやら、次のタイムリミットには十分間に合いそうじゃな」
「そ、それなら…これで終わるんですよね。よかっ…」
ドガシャァァンッ!!
「ッ!?」
「なんじゃ!?」
廊下を走っていた朝日奈たちの前方にあった部屋の扉が突如吹き飛ばされ、それと同時に部屋から何かが次々と飛び出してくる。
『シャギャアアアアッ!!』
「うひぃッ!?な、なんですかアレェッ!」
「あれは…ッ!?確か、先日の塔和シティの件の報告にあった…」
「『ジャンクモノクマ』…!」
朝日奈達の前に立ち塞がったのは、塔和モナカが考案し、塔和シティでこまるたちを散々に苦しめたジャンクモノクマの群れであった。
「なんであいつが…!塔和モナカは、モノクマはいないって言ってたのに…」
「…もしかして、塔和モナカが持ち込んだんじゃ…?やっぱり黒幕と内通してたとか…」
「…いや、あの部屋はしばらく使われておらん『倉庫』だったはずじゃ。月光ヶ原君…もとい、塔和モナカがこの本部に来たのは今日が初めてじゃ。前々から準備をしていたとは考えられん…」
「…じゃあ、やっぱり黒幕が?だとしたら、黒幕は『何時から』準備を…」
『シャギャアアアッ!!』
「…考えるのは後のようじゃ。ともかく、こいつらをなんとかせねばな…!」
「うん!…絶対、絶対に死ぬもんかッ!むくろちゃんの分まで…皆で生き残るんだ!邪魔をするなぁッ!」
「か、会長!朝日奈さんッ!」
奇声を上げて迫りくるジャンクモノクマに、天願と朝日奈は果敢に挑みかかっていった。
「…なんで、どうして戦えるんだよ…?どうして皆は、そんなことができるんだ…どうして僕は、それができないんだ…ッ!」
後に残された御手洗は、それを追うこともできず、ただ立ち尽くすしかできなかった。
「おいおいマジかよ…!?」
『うぷぷ!在庫処分のつもりで用意しておいて良かったよ。手負いの天願会長とスタンド能力の使えない朝日奈さんでどこまでやれるかな~?御手洗君に至っては足手纏いだしね!うぷぷぷぷ!』
「…妨害があるとは思っていたけれど、まさかこんなものを…ッ!」
モニターの向こうでジャンクモノクマと戦う朝日奈らに、霧切は想定外の一手に歯噛みするしかない。
『さーて…このままあの3人が粗挽きミンチになるのを放送するのもいいんだけど、今別のところで面白そうな見世物やってるからさ~、僕はそっちを見物させて貰いまーす!うぷぷぷ!』
モノクマがそう言うと、モニターの画面が朝日奈たちから会議室の霧切たちに切り替わる。
「…ハン、見世物ね。確かに、良い見世物ね。調子こいて解決策があるとか言っておいて、結局アイツら無駄死にで終わっちゃってるんだからさ。笑えるよ!」
「…ッ!」
「…いいえ、まだです。会長も朝日奈さんも御手洗君も、『絶望』に屈したりはしません。必ず生き残って、あの忌々しいモノクマの想像を超えてくれる。かつて苗木君の希望が江ノ島盾子の『分析』を上回ったように、希望は決して絶望に負けはしません…ッ!」
「ゴズさん…」
「…なんでアンタにそんなことが言えるのさ?」
「無論、私がそう『信じている』からです」
「ッ!」
信じる、ゴズが迷いなく言ったその言葉に、安藤の表情が歪む。
「自分で言うのも恥ずかしいのですが、私には何を持って明確な『希望』とするのか、それは分かりません。…ですが、私には一つだけ『正しい』と分かっていることがあります。…かつて、暴力に明け暮れ、『地下格闘技界』で腐っていた私を会長…いや、『天願学園長』が拾ってくださったあの時…。そして、あのコロシアイ学園生活で、苗木誠がゆるぎない『覚悟』と絶望であろうと踏み出そうとする『意志』を以て江ノ島盾子を打ち倒したあの時…。私の中に熱く滾ったあの『感情』は、決して間違ってはいないのだと!だから私は、その感情に従って動くと決めたッ!誰かを想い、誰かを信じるその気持ちを『希望』と言うのであれば、私はその希望の為に戦うッ!それが、このグレート・ゴズの『覚悟』だぁッ!分かったか、タコゴラァッ!!」
「…誰かを、信じる…」
ゴズの力強い言葉を、忌村が人知れず復唱する。
「…やれやれ、ゴズ君にカッコイイところ先取りされちまったな。まあそういう訳だ、俺達はそう簡単に諦めたりはしねーよ。…俺はとっくの昔に『賭けてる』からよ。天願さんが、仁が信じた『黄金の精神』って奴に、仁が託した『超高校級の希望』苗木誠に、俺の人生とこの世界の命運ってヤツをな。…それに、今の俺には『自分以上』に守りてぇモンがある。そのためだったら、俺はなんだってやるぜ…!」
「…自分以上に、守りたいもの…」
黄桜の決意に、十六夜も何かを確かめるようにその言葉を口にする。
「…そうよ。私たちは、『希望』を捨てない。どんな困難が、理不尽が、絶望が目の前に立ちはだかろうと、その先に『未来』があることを信じて、前に進む。その力こそが『希望』なのよ。…私は、それを信じたい。誠君が信じたその希望を、私は信じたい。その気持ちを、誰にも否定はさせないわ。江ノ島盾子にも、エンリコ・プッチにも…まして、『信じるものが無い』貴女にはね…!」
「…ッ!」
そして霧切が言い放った一言で、ついに安藤の我慢が限界を迎えた。
「…ざけんなッ!!なにが『信じる』だ…何が『自分以上に』だ…!他人なんか信用できるか!誰もかれも、どうせいつかは私のことを『裏切る』んだ…ッ!希望も絶望も知ったことか!私は、私が『生きる為』にやってやってるだけだ!他の奴らがどう思おうが、私には関係な…」
「…だから、自分の『才能』で他人を思い通りにしているの?」
「ッ!?」
頭に血が上った安藤に、忌村が冷や水の如く冷ややかな声を浴びせる。
「才能…?」
首を傾げる万代やゴズに、黄桜が説明する。
「…安藤君の才能は、『超高校級のお菓子職人』。彼女の作る菓子は、味もさることながら驚異的な『中毒性』があってな。安藤君の作る菓子を目当てに、私財をなげうった資産家がいたほどなんだよ」
「なんと…!?しかし、ただの菓子にそのような…まさか…」
「いやいや、ヤバい物なんざ使っちゃいねえよ。純然たる彼女の『才能』の賜物さ。…だが、その中毒性故に、彼女のお菓子の虜になった奴はそれ欲しさに安藤君の言うことをなんでも聞いちまう、一種の『洗脳』染みた効果がある。実際、未来機関でも安藤君のお菓子を『自白剤』代わりに使っていたしな。…安藤君が短期間の間に第八支部の支部長にまで上り詰めたのは、彼女の要領のよさに加え支部の中心メンバーをそうやって自分の支配下に置いて自分に都合のいい組織に作り替えたからってワケだよ。…証拠もねえし実際有能だってんで、上の連中は黙認してたがな」
「そんな、じゃああのまま僕があのお菓子を食べていたら…」
自分が知らぬ間に大変なことになる一歩手前だったことに万代が戦慄する。その眼前で、厳しい表情の安藤に忌村が語りかける。
「…流流歌、昔のアンタはそんなんじゃなかった。ただ純粋に、自分のお菓子を食べてもらおうとしていた。…陰気で友達のいなかった私に声をかけてくれた時もそうだった。けど、自分の『才能』に気づいてからのアンタは変わっちゃった。気に入らない奴や自分が利用したい奴を自分のお菓子の虜にして、都合が良いように仕向けてきた。…私は、そんなアンタが嫌いだった。アンタが自分の大好きなお菓子を、単なる『道具』としてしか見ていないようで、…『怖かった』」
「…フン!流流歌のお菓子を『一度も食べようとしなかった』癖に、知った風なこと言わないでよ!アタシがアタシの作ったお菓子をどう使おうが、アタシの勝手でしょうが!アンタなんかに説教されたくねえんだよッ!」
「…一度も食べようとしなかった?」
その言葉に霧切が反応し、忌村へと視線を向ける。当の忌村は、何か言いたげではあったが、それを無理やり押し込めるような表情をしていた。
「アンタと話すことなんか今更ないんだよ…。私にとって、アンタが一番の『絶望』なんだよ!アンタを見ていると、あのドチャグソムカつく希望ヶ峰学園の時を思い出して、苛つくのよ…!アンタも、他の連中も、アタシの世界から消えてなくなれッ!!」
「…安藤さん、物騒な事をいうのも程々ですぞ…!」
「フン、強がっちゃってさ。こっちには『人質』がいるの分かってるよね?」
「うう…」
安藤は足元の舞園と万代を得意げに見る。碌に拘束もされていない為人質には見えないが、万代に科せられた『NG行動』が目に見えない鎖となってゴズ達の動きを阻害していた。無論、まともに戦えばいくら十六夜がいるとはいえ未来機関きっての武闘派のゴズやガタイのいい万代には到底敵わないであろう。しかし、万代の目の前でそれをしてしまえば、即座にNG行動違反となり、一度苗木の血で命拾いをしている万代は今度こそ助からない。目を瞑っていたとしても、その時には十六夜や安藤が何かをしようとした時に反応できない。
「さあヨイちゃん、流流歌たちの邪魔者を、全部ぶっ殺しちゃって!」
「……」
「チッ…やっぱこうなるかい」
「分かりきっていたことよ…来るわよ」
一方、万代の事など配慮する必要の無い安藤は十六夜に霧切たちの制圧を命じる。
「……」
…が、命令された十六夜は何故かその場から一歩も動くことなくただじっと安藤を見つめていた。
「…十六夜?」
「ちょ…何してるのさヨイちゃん!早くコイツらブチ殺しちゃってよ!」
「……」
「…ヨイちゃん?まさか…ヨイちゃんまで流流歌のことを『裏切る』の?コロシアイが始まってから『私のお菓子を食べようとしなくなった』けど、それは私を裏切るってことなの…?ねえ、答えてよヨイちゃん…!」
「…コロシアイが始まってから?」
「…流流歌」
底冷えしたような声音で問う安藤に、十六夜は静かに返答する。
「流流歌、俺はお前を裏切ってなどいない。俺はどんな時も、お前の為に行動する。俺はお前が幸せになってくれるのなら、どんなことでもしよう」
「なら…ッ!」
「だからこそ流流歌、改めて聞かせてくれ。…キミは、『これでいい』んだな?」
「ッ!?」
十六夜からかけられた思わぬ問いに、安藤は目を見張って驚くしかなかった。
安藤のアレが絶望編ときからなのか、それとも未来編でこじれたのかはよく分からなかったので、今作では「在学時から兆しはあったが、学園を追い出されて周りの人たちの扱いが変わってひどくなった」ということにしました