ダンガンロンパ~黄金の言霊~   作:マイン

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ひゃあ我慢できねえ、投稿だッ!

今回だいぶ長いです。2つに分ければ良かったかな…


交錯編:泡沫の邂逅

「……え?」

 苗木は気が付いた時には、何もないだだっ広い空間に一人佇んでいた。

 

「ここは…?僕は確か、御手洗さんのスマートフォンにあったビデオを見ようとして…」

 

 

 

 

「…よう、苗木」

「ッ!?」

 聞き覚えのある声にハッとし、振り返った先で苗木は愕然とする。

 

 

「…桑田、君…?」

 そこに立っていたのは、あのコロシアイ学園生活で最初の『クロ』となり処刑された筈の『桑田怜恩』であった。

 

「おう、憶えていたみてーだな」

「…当たり、まえだよ。忘れる訳が、ないじゃあないか…!」

 

「…ああ、そうだろうな。お前の事だ、忘れるワケねーと思ってたぜ」

「うむ、君ならきっと憶えてくれていると信じていたぞ」

「うん…だって、苗木君だもんねえ…」

「…!」

 その桑田の後ろから、さらに3人の人物が姿を見せる。

 

「大和田君…、石丸君、不二咲君…ッ!?」

「うふふ、もし忘れていたりでもしたら『おしおき』するところでしたわ」

「ま、僕はそんな心配は全然してませんでしたけどね」

「フッ…久しいな、苗木よ」

 さらに反対側から、またも苗木のよく知る人物が姿を現す。

 

「セレスさん、山田君…大神さん…!なんで、これは一体どういうことなんだ…?」

 かつての級友たち…希望ヶ峰学園でそのことを思い出せぬまま死んでしまった彼らの存在に、さしもの苗木も狼狽を隠し切れない。

 混乱する苗木に、再び桑田が声をかける。

 

「…お前、俺らの事まだ引き摺ってんのか?いい加減忘れちまえばいいってのによ」

「ッ!…それは、嫌だ。僕はどんなことがあっても、君たちの事を…君達を『死なせてしまったこと』を忘れたりはしない…忘れたくない。それだけは、絶対に曲げたりしない」

「…苗木誠殿、そうは言っても君は既に『人間ではない』のですぞ?これから何百年生き続けることになるのかもわからないのに、そう意地を張り通す必要はないのではありませんか?」

「今はアイツらが一緒だからそうかもしれねーが…確実にアイツ等はお前より早く死ぬぜ。そうなっちまったら、もうお前が義理を通す相手なんざいなくなるんだぜ?」

「そうですわよ。…もう好きになさっても構いませんのよ?この機会に、ギャングらしく『世界征服』でもおやりになればいいんじゃないですの?」

 桑田に続き山田が、大和田が、セレスが苗木に囁く。『もう楽になっていいよ』と…

 

「…駄目だッ!これは義理だとか、義務感なんかじゃあない!僕が、僕自身がそれを望んだから…皆と出会ったことを、僕が忘れたくないだけなんだ!」

「…でも、その想いはいつか君の邪魔になるかもしれないよぉ…?」

「出会いがあるからこそ、人は『成長』できる。…だが出会いには別れがつきもの。それから目を背けては、お主はそこから進むことができぬのではないのか?」

「…もういいのだよ苗木君。今は君だけの時間だ、君だけの『世界』なのだ。我々の様な『過去』など捨て去っても誰も咎めたりは…」

 不二咲の、大神の、石丸もまた苗木を誘惑するように囁きかける。それを…

 

 

 

 

「それは違うよッ!!」

 苗木の弾丸の様な一喝が論破する。

 

「僕にとっては、『想い出』こそが力になるんだ!良い想い出も、辛い想い出も、その全てがあってこその『僕』なんだ!例えどんなに思い出したくない記憶でも、過去を忘れてまで前に進んだとしても…その『後』には、何も残らないじゃあないか…ッ!!だから僕は、君達のことを絶対に忘れたりなんかしないッ!!…あの時、何もできなかったからこそ、君達を糾弾し命を奪うことを強いてしまったからこそ、僕はそのことから逃げたくないッ!!…皆の想い出は、僕にとっての『希望』なんだ…!」

 苗木の本心からの叫びを、皆は黙って聴き入り…やがて、ぽつりと呟く。

 

「…だったら、俺らの『望み』を叶えてくれよ…!」

「…え?」

「俺達の存在が、お前の『希望』だってんなら、俺らが『本当に望んでいること』をお前が代わりにやってくれや」

「望み…?一体、なんのことなんだ?」

「決まっているでしょう…」

 

 

 

 

 

「…『復讐』だ…ッ!」

「………え?」

 思いもしなかった言葉、そしてその言葉に込められた『憎悪』の感情に、苗木は思わず呆然としてしまう。

 

「何をすっ呆けた表情をしておられるのですかな?…我々はあの江ノ島盾子殿に、『絶望』によって理不尽な死を押し付けられたのですぞ?それを恨まない筈が、憎まない筈がないことぐらいお日様が東から昇るぐらいに当たり前のことでしょうが?」

「それは、そうかもしれないけど…でもッ!江ノ島さんには僕が罰を下した!もう彼女は死んでいるのと同じだ。…だったら、君達は一体何に『復讐』をするっていうんだ!?」

「決まっているだろう!…『全て』だッ!!」

「な…ッ!?」

「この世界に蔓延る『絶望の残党』共、そもそもの発端であるカムクラプロジェクトを計画した『希望ヶ峰学園』、そして江ノ島に加担した『カムクライズル』と『エンリコ・プッチ』…それに、それらに手玉にされながらなおも身内同士で醜く殺し合う『未来機関』…!それらすべてに復讐を成さねば、我らの気持ちはおさまらん…ッ!」

「もし『運命』というものがあるとするなら、絶望が世界を覆い尽くしたのも運命ということでしょう?…なら、そのクソッタレな運命を野放しにしていた『この世界』がそもそも間違ってんじゃあねーのかよ!?アァンッ!?」

「そんな…そんなの違うよッ!!この世界にだって、『希望』を信じて絶望に抗おうと、生きようとしている命が沢山あるんだ!それを間違ってるだなんて…」

「…ねぇ、苗木君。…僕たちだって、『生きたかった』んだよ?まだやりたいことが沢山あったんだよ?…それを、江ノ島さんに忘れさせられたってだけで諦めなきゃならなくなった僕たちの気持ち、苗木君になら分かるよねぇ…?」

「それ、は…ッ!」

 皆の言葉は、ある意味で至極当然とも言える言い分であった。しかし、苗木は信じたくなかった。彼らが、自分にとってかけがえのない友人である彼らが、死してなおもここまでどす黒い『憎悪』を撒き散らすことを願っているということを。

 

「なあ…苗木、俺らのことをまだ『ダチ』だと…大切だと思ってるんならよ…俺らの代わりに、この気持ちを晴らしてくれよ。何もかもぶっ壊して、どいつもこいつもぶっ殺して、俺らの無念を世界に示してくれよ…ッ!」

「な…あ…ッ!?」

「…殺せ」

「殺せ…!」

「殺せッ!!」

 怨念の籠った声とともに、皆の姿が変わっていく。あの時の…苗木が最期に見た、彼らの『死に様』の時の姿に。鈍く輝く狂気と絶望を宿した目の彼らの声が、苗木を捕えて離さない。…まるで、苗木を『道連れ』にしようとするかのように。

 

 

 

 

 

 

 

殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せコロセ…ッ!!

 

『殺せ、殺せェーッ!!!』

 

「う…うわああああああああああああッ!!?」

 

 

 

 

 

 

 

「ああああああああああああーッ!!!」

『ッ!!?』

 映像を目にした途端、突如発狂するように叫びながら頭を抱えて蹲る苗木に、周りに居た皆もギョッと目を向く。

 

「ど、どうした苗木君!?」

「ぎッ…が、あ゛あああ…ッ!!」

「ま、誠君!?一体何が…」

 心配した舞園が駆け寄ろうとしたが…

 

「…く、るな…来るなぁッ!!」

「ッ!」

 大量の汗を掻き、鋭い牙をむき出しにし目を真っ赤に血走らせた苗木の絞り出すようなその叫びに踏鞴を踏んでしまう。

 

「僕に…今の僕に、近づくな…ッ!でないと、抑えきれなくなる…ッ!!」

「抑えきれないって…どういうことよ?」

「…御手洗君、なにかわからんか?」

「そ、そんな…僕に聞かれても…。確かに、僕もサブリミナルのような効果を映像に組み込んだりしましたけど、ああまでおかしくなるほどになんてしていません…!」

「誠…何がどうなってるの…?」

 近づくこともできずただただ遠巻きに見守るしかない皆の眼前で、苗木はなおも頭を抱えて苦しみもがく。

 

「…違う、違うんだ皆…ッ!そんなことの為に、殺すなんて…ギッ、間違っ…てる…ッ!」

「皆…?」

「あ、ぐあぁ…ッ!やめろ…やめてくれぇぇぇぇぇぇッ!!」

 次第に苗木の目にかつての江ノ島の様な『淀み』が生じ始めると、苗木は大声を上げて天を仰ぎ、そして再び蹲ると沈黙する。

 

 

「………」

「…ど、どうなった…?」

「あいつ、大丈夫なの…?」

「…誠君、誠君ッ!返事をして、誠君!」

 

「…『ゴールド・エクスペリエンス・レクイエム』…」

 皆が恐る恐る様子を窺っていると、蹲った苗木の背後に『G・E・R』が現れる。

 

「誠…?なんでスタンドを…」

「何をする気じゃ…?」

 訝しむ皆の前で、『G・E・R』は拳を固く握りしめ、思い切り振りかぶると…

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ごめん、皆…。まだ、『そっち』には…行けないよ…!」

 

 

ドゴォッ!!

 

 凄まじい勢いで『苗木の頭』目掛け振り下ろし、渾身の力で『殴り飛ばした』。

 

 

 

「ッ!!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

ブシュゥッ!!

 

「なッ…!?」

「…っ痛う…!流石に、痛いね…これは…」

「な、苗木…お主一体何を…!?」

 突如側頭部から大量の出血を起こし、その場に崩れ落ちた苗木に、先ほどまで狂ったように『殺せ』と唆していた桑田たちも驚きそれを止めてしまう。

 

「…こうするしか、無かった…からね。こうでもしないと…僕は、僕自身を抑えきれなかった…。君達にとっては、残念かもしれないけどね…」

「…!」

「…気づいて、いたのですか?私たちが、『なんなのか』ということに…」

「ああ…。君達は、僕の深層心理の中にある…『罪悪感』そのもの。皆との記憶を忘れてしまった僕の自己嫌悪と、君達を救えなかったことに対する後悔…。それがあの映像の効果によって形を成したのが君達だ…。つまり、君達の言葉は他でもない、『僕が僕自身に向けた言葉』なんだ。だから、僕はここまで強い影響を受けてしまった…。自分の本音を否定できるはずが無いからね…」

「……」

「でも、それでも…僕は『そこ』に堕ちる訳にはいかない。僕にはやらなければならないことが、求めている『未来』があるんだ。そして、こんな僕を信じ、共に闘ってくれる仲間が、愛する人が居る…。その人たちの為にも、僕は…立ち止まる訳にはいかないんだ…!仮に僕が進んだ先に、『僕自身の未来』が無かったとしても…それでも、僕は前に進む…!例え僕がそこに居なくても、僕が望んだ『希望』がそこに息づいているのなら…僕が戦うことに、生きることには意味がある…。その為にも、僕は自分の『希望』を裏切ることはできないんだ…ッ!」

「……」

「君たちの無念は痛いほどわかる…。君達には確かに復讐する『権利』があるのかもしれない。…でも、君達はもう『死んでいる』んだ…!死者の想いが、今を生きる人たちの未来を脅かすことが、そんなことがあってはいけないんだ…!『希望』は、今を…明日を懸命に生きようとする人達の物なんだ…。何も知らないその人たちの希望を、自分だけの都合で奪うなんてことが…正しいことの筈が無い…!そんなものは復讐なんかじゃない、ただの『悪』だ…!僕は君達の為にも、僕の大切な友達の『誇り』の為に、そんなことを許す訳には…いかないんだ…ッ!!」

 

 息も絶え絶えになりつつも、苗木は自分の想いを叫ぶ。例え幻想であろうとも、再び逢うことができた友たちの歪んだ姿を、苗木は許す訳にはいかなかった。

 

「……」

 そんな苗木を、皆は押し黙って見つめ…やがて口を開いたのは桑田であった。

 

「…ったく、ホント馬鹿だよオメーはよ」

「…ッ!」

「…全くだとも!友を想いやることは素晴らしいが、自己犠牲も度を過ぎればそれは友を裏切るのと変わらないぞ!」

「つーか、死人が生きてる奴の邪魔すんなっつっといて、死人の為に生きてるテメーが死んでちゃ説得力がねーんだよ」

「み、んな…?」

 朦朧とする意識を振るい苗木が皆の顔を見上げると、そこには先ほどまでの狂気じみた『憎悪』の色は残っていなかった。その姿も、あの惨たらしいものではなく苗木の記憶の通りに戻っていた。

 

「苗木君…。僕たちは、君のことを恨んでなんかいないよ。…確かに僕たちは死んじゃったけど、それでも…僕は君と出会えたことを一生の宝物だと思ってるんだよぉ…!」

「苗木誠殿?まさか拙者から託されたバトンを中途半端に手放すことはないでしょうな?…君が生きて、沢山の人たちの希望になってくれることが、僕があの時最期に願ったことなんですぞ」

「豚がなにかしたのかは知りませんが…貴方が私たちの希望であることは賛成しておきますわ。…ただ、心残りがあるとするなら…今の貴方の背中を、最期に見れなかったのが残念ですわ」

「…苗木よ。汝は生きろ、汝が信じる『希望』の為に。汝を信じる『仲間』の為に。そして…我が友、『朝日奈』の為にも…汝は生きるのだ。我らは例え死せども、汝の希望を信じている…!」

「皆…」

 

 

 

 

 

 

 

「…誠」

「ッ!?」

 後ろから聞こえてきた更なる『声』に、苗木はハッとし…余りにも聴き慣れたその『声』の主を直感しつつ、振り返る。

 

「…あ…!」

 そこに立っていたのは、互いの腰に手を回し仲睦まじい様子の『二人の男女』。苗木を見るその穏やかな笑顔に、苗木は予感していながらも驚き絶句する。

 

「…誠。お前はこんなところで立ち止まる訳にはいかないんだろう?なら、お前は戻れ。…お前が前を向いて、未来に向かって進むことが、俺達にとって何よりの『弔い』になるんだ」

「誠…。貴方には、貴方の帰りを待っている人が沢山いるんでしょう?…だったら、その人たちを待たせちゃ駄目。どんな形でも、どんな世界でも…貴方を愛すると決めた子たちを、悲しませちゃ駄目よ」

「…ッ!」

 二人の優しくも力強い激励を受け、苗木は自らを奮い立たせなんとか立ち上がる。そして男女の、友の顔をもう一度見渡し、ニコリと笑う。

 

「…うん。分かってるよ…!僕は前に進む。僕に希望を託してくれた人たちの為に、僕の希望を信じてくれた皆の為に…僕は、前に進むしかないんだ!だから…これで、お別れだ」

 その言葉と共に、苗木の意識が揺らいでいく。そんな苗木に、皆は最後の言葉を告げる。

 

「…じゃあな!舞園ちゃんを大切にしろよ!」

「次に会う時には、朗報を聴けることを期待しているぞ!」

「テメー、ソッコーでこっちに来やがったらぶん殴って追い返してやっからな!」

「ばいばい…信じてるよぉ!」

「桑田君、石丸君、大和田君、不二咲君…」

 

「もしあの世に賭場がありましたら…私、私の全てを賭けさせてもらいますわ。…貴方の希望ある未来に!」

「でしたら拙者はそれを見届けさせて貰いますぞ!…生まれ変わったら、その時こそ君のマンガを描くためにね!」

「苗木…朝日奈を、我のかけがえのない友を任せたぞッ!」

「セレスさん、山田君、大神さん…」

 

 

「誠…負けるなよ!」

「こまるをお願いね、誠…!」

 

 

コツ、コツ…

 

「…!」

「…私から言う事はもう何もない。君には既に全てを託している。だが、これだけは言わせてくれ…未来を、響子を…頼む…!」

 

「…はい、『学園長』。そして…行ってきます、『父さん、母さん』…!」

 

 

 

 

 

 

 

「…ん、…と君…!誠君ッ!!」

「…う…」

 やがて再び覚醒した苗木がゆっくり目を開けると、視界には涙目で自分に縋りつく妻たちが映った。

 

「…皆…痛ッ…!あ、そっか…なんとか、生きてたのか…」

「…ッ!生きてたのかじゃあないわよ馬鹿ッ!!」

「何考えてるのよッ!…死んじゃったかと、思ったじゃない…!」

「何の為に私たちが居たと思ってるのさ!?なのに、なのに…誠の馬鹿ァッ!!」

 側頭部の激しい痛みと視界を赤く染める出血に、自分がやったことを思い出したように呟く苗木に霧切たちは怒りを爆発させる。

 

「…えっと、それに関しては…本当にゴメン。謝っても許してもらえないだろうけど…ゴメン」

(あ痛たた…これ、脳は無事だけど頭蓋骨だけじゃなくて首もイッてるなあ…。吸血鬼じゃなかったら即死だったな…。『予定通り』とはいえ、流石に自分のスタンドに殴られるのはキッツイなあ…)

 彼女たちに謝りつつも自分の状態を確かめていると、その後ろで自分が目を覚ましたことにホッとしつつもどこか怒りと呆れを滲ませた支部長たちが近づいてくる。

 

「…ったく、君は本当にとんでもないことをいきなりやってくれるな。折角命拾ったってのに心臓止まるかと思ったぜ」

「あ、はは…ごめんなさい…」

「…謝っとる暇が有ったらさっさと傷を塞がんか。そんなザマでは説教もできんわい」

「は、はい…」

 

シュオオオオ…!

 先ほど苗木を打ち据えた『G・E・R』の手が再び苗木の頭部に触れ、黄金の光と共に生命エネルギーを流し込むと、苗木の傷は瞬く間に塞がっていった。

 

「…ふう。もう大丈夫、治りましたよ」

「…本当に大丈夫なんですよね?」

「大丈夫だって。…さて、御手洗さん。話をしてもいいですか?」

「…え、あ…あ、ああ…」

 先ほどの一連の流れが処理能力を超えてしまったのか、放心したように呆ける御手洗を苗木が呼び戻す。

 

「…で、誠君。今の『奇行』について説明はしてもらえるのね?」

「…うん。おかげで分かったよ、御手洗さんの多重人格の『カラクリ』がね」

「え…ッ!?」

「カラクリ…やっぱり、あの映像になにかあるのか?」

「はい。…あの映像は、おそらく見た人間の『殺意』を増長させる効果を持ったビデオだと思います」

「殺意…!?」

「ええ。あくまで僕個人の意見ですが、アレは見た人間の深層心理にある『罪の意識』を増幅させ、それを『他者を害する』という行動を以て発散させるように行動を誘導する、一種の『洗脳』に近い効果があります」

「洗脳…!?僕が洗脳されてたっていうのか!?」

「はい。しかも、御手洗さんが何度もそれを繰り返したところからして、おそらくアレには無意識的な『中毒作用』があると思われます。…まさに『電子ドラッグ』とでも言うべき代物でしょう。僕ももしあのまま誰かを殺していたら、あの映像の虜になっていたかもしれない…」

「…!じゃあ、さっき誠君が自分で自分を殴ったのって…」

「…膨れ上がった殺意を消すには、何かにそれをぶつけるしかなかった。けれど、物に当たったところで意味は無いし、この場の誰かにそれを向けるなんてもってのほかだ。…だから、『自分』を殺した。死ぬ気は無かったけど、僕自身が『死ぬかもしれない』って思うぐらいの攻撃じゃないと消しきれそうになかったからね」

「君がそこまでしなければどうにもならんかった程とはのう…」

「……」

 苗木はあの映像によって自分が体感したことを思い返し、微かに身震いする。

 

…スッ

「!」

 そんな苗木の内心を察したのか、霧切たちは苗木の傍に寄り添い、それに気づいた苗木は自分の顔色を窺う彼女たちに優しく微笑んだ。

 

「…それで、結局それがなんで僕が多重人格だってことにつながるんだよ?」

「…おそらく、あの映像によって増幅された『殺意』こそが御手洗さんの人格を入れ替える『スイッチ』なんだと思うんです。…仮説ですが、御手洗さんのバングルに仕込まれた『睡眠薬』は、他の人に比べて『効果が弱く』なるよう調整されているはずです。それにより御手洗さんは他の人よりかなり早いうちから目を覚まし、そのタイミングで…おそらくモノクマから送られてきた『洗脳ビデオ』を見てしまい、殺意を増幅させられ襲撃者に仕立て上げられる。…その時の『罪悪感』に耐えきれなくなった御手洗さんが生み出してしまったのが、江ノ島さんに植え付けられた人格…本当の襲撃者、『デス13』のスタンド使いとしての御手洗さんなんです」

 

 

「……」

 御手洗は、ただ茫然としていた。要するに、『殺人者』になってしまうことに耐えきれなかった自分がその現実から『逃避』するために江ノ島によって植え付けられた人格を利用したということ。…詰まるところ、結局自分が襲撃者であるという事実は変わらなかったのである。

 

ドサッ…

「…は、はは…。なんだよ、それ……なんで、なんで僕がそんな目に遭わなきゃならないんだよッ!?」

「…御手洗君」

「江ノ島盾子の、アイツの目的はお前だったんだろ!?だったら、僕は関係ないじゃあないかッ!なのに…なんでお前とアイツの問題に、僕が巻き込まれなきゃならないんだよッ!!」

「……」

「ちょ…そんな言い方ないでしょ!?そもそも、御手洗さんだけじゃなくて世界中の人たちが大変な目に遭ってるんだよ!誠だって、何度も酷い目に遭って死にそうになって、お父さんとお母さんまで死んじゃったのに…」

「…そんなの、苗木が江ノ島盾子をなんとかしていれば起きずに済んだことじゃあないか!宗方さんの言うとおりだ…お前がアイツを放置したからこんなことになったんじゃあないかッ!」

「そんな…ッ!誠君が全部悪いみたいな言い方、やめてください!」

「そうですぞ御手洗君、いくらなんでも言い過ぎですぞ!」

「……」

 崩れるように膝を突き、癇癪を起こしたように苗木を非難する御手洗を、苗木はただ黙って受け入れていた。

 

「僕は…襲撃者になんて、なりたくなかったのに…。僕のせいで、雪染さんや戦刃さんが…アイツさえ、江ノ島盾子さえ居なかったら、こんなことにはならなかったのに…!お前が江ノ島を倒していれば…」

「貴方、いい加減に…ッ!」

「…いいんだ、響子」

「誠君…!?けれど、貴方は…」

「御手洗さんの怒りは、決して理不尽なものなんかじゃあない。…御手洗さんにとっては、江ノ島さんの計画に組み込まれたことは本当にただの『災難』でしかなかったんだ。…もし僕がそれを止めれていたら…なんて、仮定の事にまで責任を負うつもりは無いけど、少なくとも彼女に計画を推敲する時間を与えてしまったのは僕だ。だから、僕を恨んで気が済むのなら、それで構わない」

「……」

「…けれど御手洗さん、だからといって貴方が襲撃者として行動したことから逃げることは許さない。貴方は雪染さんとむくろ…ゴズさんも含めれば『3人』もの人間を手にかけようとした。例え意識がなかろうと、その事実は一生貴方に付きまとうことになる。…腐川さんも、かつてジェノサイダー翔として人を殺めていた事実と向き合い、自分にできることで償いをしようとしている。彼女のように、貴方は『貴方自身の為』にも、そのことから目を背けてはいけないんです…ッ!」

「…ッ!」

「…苗木、アンタ結構辛辣なんだね」

「自分の『罪』から目を背けたところで、そこにある『真実』が消えることは無い。…前に進む為には、それを受け入れ自分でどうするか考えるしかないんです。自分の見たくない部分を…自分の『絶望』を受け入れなければ、本当の『希望』は見えませんから」

「…そう、だな…。俺も、流流歌も…許されないことをした。それを、忘れることは…できん、からな…」

「…うん」

 堂々と御手洗の紛糾を受け入れ、それでいて御手洗の逃避を戒めようとする苗木に、御手洗はそれ以上何も言う事ができず、その場にへたり込んでしまった。

 

「…もう、いいよ。殺したかったら好きにすればいいだろ。僕は戦刃さんの仇なんだ…僕が死ねば全部解決するのなら、さっさと殺せよ…」

「…ッ!!」

 

グイッ!

 投げやりにそう言う御手洗に、苗木はその胸ぐらを掴みあげて顔を上げさせる。

 

「な、なんだよ…」

「Fare Playful(ふざけるなよ)…ッ!今僕が言ったことをもう忘れたのか?僕はアンタに、『自分がやったことから目を背けるな』と言ったんだぞ…!それを、死んで終りだなんてこと許す筈が無いだろッ!もしそのことを償いたいと思うのなら、死んで償う気概があるというなら…『生きろ』。生きて、生き恥を晒してでも自分の罪と向き合え。…僕はアンタを、『絶望』を抱えたまま死なせはしない…!」

「苗木…」

 苗木は御手洗を解放すると、後ろにいる皆の方を向いて言う。

 

「…皆さん。僕に手を貸してくれませんか?」

「何…?」

「…何をする気じゃ?」

 

 

「…御手洗さんを、『デス13』のスタンドから『解放』します…!」

「ッ!?」

 苗木の発した宣言に、御手洗も含めて皆が驚く。

 

「解放って…そんなことができるの!?」

「ええ。…御手洗さんは既にあの『洗脳ビデオ』の中毒作用の影響を受けています。例えこのスマホを壊しても、未だ『黒幕』の存在がいる以上、また同じものが御手洗さんの周囲に現れない保証はない…。ならば、『大元』を断つ他にこの状況を解決する術はありません…!」

「け、けど…それって御手洗のスタンドを倒すってことだよね?そんなことして大丈夫なの?」

「…本来なら、スタンドは使用者の『精神そのもの』。それを倒すということは、本体となる使用者の精神にも多大な影響がある。…例え死ぬことは無くても、良くてスタンドの発現不可による再起不能、最悪『廃人』になる可能性もあります。…けれど、御手洗さんはプッチの『スタンドのDISC』によってスタンドを与えられているだけですし、葵のように完全に定着している訳でもありません。ならば、例えスタンドを倒してもDISCが破壊されるだけでさほど影響は残らないかもしれません」

「…成程な。で、俺らは何をすりゃいいんだ?」

 黄桜の問いに、苗木は一度皆を見渡し、一つ息を吐いて口にする。

 

「…もうしばらくすれば、再び『タイムリミット』が来て皆さんは眠らされます。…御手洗さんには、その時にもう一度だけ『襲撃者』になってもらいます」

「ッ!?」

 苗木の提案に、皆は思わずギョッとする。

 

「それは…つまり、我々に『デス13』の術中に嵌れと、そういうことですか…?」

「はい。…『夢の中』を自らのテリトリーとする『デス13』は、他のスタンドと違って本体を…御手洗さんを痛めつけたところで倒すことは出来ません。まして、スタンドを操っているのは『今の御手洗さん』ではなく『別の人格』なので、御手洗さんを攻撃しても意味は無いでしょう。…となると、奴を倒すためには奴の領域で…『夢の中』で戦うしかない…!」

「ちょ…ちょっと待ってよ!…アンタそれマジで言ってんの?」

「勿論、皆さんに危険な事をお願いしていることは分かっています。…なので、無理強いはしません。できないというのであれば、この場でバングルを破壊してタイムリミットから解放することを約束します」

「…それでいいのか?お前にどんな考えがあるのかは知らんが、誰も参加しなければ意味が…」

「…問題ないわ。私が居ればいいのだから」

 困惑する皆を余所に、霧切が先陣を切って同意を示す。

 

「響子…」

「今更確認なんて無粋なことは聞かないわよね?…私は、あの時からもう貴方に全てを懸けているのよ。その貴方が必要だというのなら、私はなんであろうと喜んで手を貸すわ」

「響子ちゃんの言うとおりです!私たちは、いつだって誠君の味方ですよ!」

「そうそう。…誠の事、信じてるもん」

 霧切に追随するように舞園が、朝日奈が苗木の意志を受け入れる。

 

「…やれやれ、そこまで言われちゃ俺も手を貸さねえ訳にはいかねえよな。俺らだって、君の『希望』に懸けてんだからよ」

「うむ。この手を治してもらった借りを返すには丁度いいじゃろう」

 それに続くように天願や黄桜ら、苗木に好意的だった者達も同意し

 

「…アンタさ、ホントに大丈夫なんでしょうね?もしこれで死んだりしたらマジで許さないからね?」

「はい。皆さんは必ず守ります。僕の命に代えても…」

「…なら、いいだろう。どうせこの体では、そんなことぐらいにしか役に立てんだろうしな…」

 元々苗木に否定的だった安藤達も、渋々ながら協力の意志を示す。

 

「…皆、本気なのか…?死ぬかもしれないんだぞ!?僕なんかの為に、そこまで…」

「…言った筈じゃぞ、御手洗君。我々は誰であろうと仲間を見捨てたりなどせん。君がどれほど危険な存在であろうと、君が『絶望』を望む者でない限り、君は未来機関の大切な仲間じゃ」

「…別に、アンタの為なんかじゃないから。…一応、色々迷惑かけちゃったし…チャラになるとは思ってないけど、ちょっとぐらいは手を貸さないと私の気が済まないの!」

「皆…」

 理由はどうあれ、自分の為に命を賭けることを約束した皆に、御手洗は呆然としつつも胸の奥に熱いものを感じていた。

 

「さて、つーことは『全員参加』ってことでいいんだよな?まあ『赤信号、みんなで渡れば怖くない』って言うし多いに越したことはねえよな」

「それは例えとしては少々不適合なような…。ま、まあともかく…ありがとう、皆」

「…ふん」

「…で、どうすんの?タイムリミットまではもうちょっとあるけど…」

「……あ!」

 と、そこで朝日奈がいきなり大きな声を上げる。

 

「ど、どうしたの!?」

「いや…宗方さんと逆蔵、どうしよう?まだこのこと知らないよね?」

「あ…!そういえば…」

「…別に放っておいてもいいんじゃないの?どうせタイムリミットになったらあいつ等だって眠っちゃうんだし」

「いやしかし…見えている争いの種を見過ごすのもどうでしょうか?それに…副会長のことも気になります。私には、どうにも今の彼がただ疑心暗鬼のまま暴れているだけには思えないのです」

「…うむ。それについてはともかく、今の状況を伝えた方がいいじゃろうな。襲撃者の正体が判明した以上、ワシらが戦う理由は今度こそないのじゃからな」

「…で、誰がそれ行くよ?」

「……」

 皆が皆、気まずそうな顔になる。何しろ相手は未だ思惑の読めない武装した未来機関のNo2とその忠実な部下で未来機関きっての脳筋なのだ。何の拍子に戦闘になるか分からない以上、『デス13』の領域に入る以上に不安なことであった。

 

「…やれやれ、ならばワシが行こう。苗木君のおかげで手も治って快調じゃしのう。…『会長』だけにの」

「…ぷっ」

「…会長、こんなときにんな下らねえダジャレ言わんでも…」

「ハハハ、まあそう言うな。…ともかく、今ならあの二人相手でもなんとかなるじゃろう。皆が目覚めるまでの時間稼ぎぐらいは…」

「…待ってください、天願会長。…言い出しっぺの立場で申し訳ないけれど、それは私に行かせてもらうわ」

「響子ちゃん…?」

 軽い調子でそう言う天願を遮り、霧切が二人との対話役に名乗り出た。

 

「…何故君が行くのじゃ?いくらスタンド使いとはいえ、そもそも君は戦い向きではない。万が一のことがあれば、君一人では手に余ることぐらい分かっているだろうに」

「…なら、『そうならないように』行動するまでよ。『探偵』の立場上、多少の話術は心得えているわ。…身近にそれの『達人』もいますから。それに…」

「それに?」

「…宗方さんのあの様子の変貌に、『心当たり』があるの。もし、私の推理が当たっているのだとしたら…今の宗方さんに事情を説明したところで無駄よ。それを確かめるためにも、私が行く必要があるの」

「…分かった。響子がそう言うのなら、きっと意味があることなんだろう。僕はまだ宗方さんと会ってないからよく分からないけれど、もし宗方さんが何かを思いつめているのなら、できればなんとかしてあげたいからね」

「ふむ…そういうことなら、君に任せるとしよう」

「…ごめんなさい皆さん。私の勝手で…」

「気にしないでください響子ちゃん。私たちは響子ちゃんの事も信じていますから」

「うんうん!こっちは任せて、宗方さん達の方をお願いね」

「ええ、分かったわ」

 霧切が別行動をとることが決定すると、黄桜が苗木の方を見る。

 

「…苗木君」

「分かっていますよ。…響子のことを、お願いします」

「おう、任されたぜ」

「…でしたら、私もお二人の護衛につきましょう。そもそも、私は一度やられていますので、私が居てはその『デス13』とやらに怪しまれるでしょうし」

「……そう、ですね。………ゴズさん、済みません。貴方はもう…」

「皆まで言わないでください苗木君。…私の事は、私が一番分かっています。『その時』が来るまでは…私は戦いますよ。君が示してくれた『希望』の為にね」

「……」

 気丈に振る舞うゴズを悲壮な目で見ていた苗木に、ゴズは目線を合わせその両肩に優しく手を置く。

 

「私の事を案じてくれているのであれば、どうか憐れまないでください。私は、君に『感謝』しているのです。君のおかげで、私はまだ『自分自身の為』に動くことができる。今こうしているのは、私自身が望んだことなのです。ですから…同情は不要です。君は、君の思うがままに進めばいい。あのコロシアイ学園生活の時のように、どんな時でも希望を捨てない貴方の心に、私はこの世界で抗う事の『意味』を見出したのです」

「ゴズさん…」

 ゴズは服の下に巻いた包帯にねじ込んでおいた苗木の銃を差し出す。

 

「…これはお返しします。これはやはり君が持つべきでしょう。これを作った方も、きっと君の希望を信じたからこそ、これを託したのでしょうから」

「…はい。ありがとう、ございます…!」

 ゴズから銃を受け取り、苗木はそれを力強く握りしめ頷いた。

 

「…おーいゴズ君、そろそろ行こうぜ」

「分かりました。…では会長、行ってまいります」

「うむ、気を付けてな。宗方君を頼んだぞ」

「はい。それが私の務めですので」

「…おっと、その前に…響子、黄桜さん、ゴズさん。『バングル』のある手を出してください。3人は眠る必要はないですから、もう壊してしまってもいいでしょうし」

「お、そうだったな。んじゃ、手っとり早く頼むぜ」

 

 苗木は御手洗の時のように自身とスタンドの手刀を振るい、ゴズと黄桜のバングルを破壊した。

 

バキィン…

 そして最後に、霧切の手に嵌められたバングルを自らの手で破壊する。

 

「…ありがとう、誠君」

「これぐらいいいさ。…響子、くれぐれも無理はしないでくれ。万が一の時は、僕が向かうまで待っていてくれ」

「…心配症ね。その言葉は貴方にだけは言われたくはないわ」

「仕方ないだろう?…『霧切さん』は涼しい顔していっつも無茶な事をするんだから」

「…!…『苗木君』の癖に、生意気よ…」

 からかうように昔の呼び方で互いを呼ぶと、霧切は片方の『手袋』を他の人に見えないように外し、苗木も言われるでもなく自分の体でその手を隠し、無言で互いの手を組んで握り合う。

 

ぎゅっ…

 組んだ手を通して感じる、霧切の手…普段手袋の下に隠された、かつて探偵の仕事の中でなったという酷い『火傷』のある手の感触。『家族になる人にしか見せない』という霧切のポリシーの下、今となっては『火傷の真相』も含めて自分と霧切の祖父の不比等しか知らないであろうその温もりを、苗木は噛みしめるように受け止めていた。霧切もまた、『NG行動』から解放されたことでやっと触れ合うことができた苗木の体温を感じ、自分の中に微かにあった『恐怖』が溶けていくのを感じていた。

 

「…気を付けてね」

「君もね。…愛しているよ」

「ええ。愛しているわ、誠君」

 時間にしてほんの数秒、しかし二人にとっては永劫の様な蜜月の時間は終わり、手を放した二人の顔には再び真剣味が戻る。

 

「じゃあ、行ってくるわ」

「うむ、頼むぞ」

 言葉短くそう言い残し、霧切は足早に部屋を出て行った。

 

 …出ていく直前耳がほんのり紅かったのは、ほんの少しとはいえ夫婦の逢瀬を見られていた気恥ずかしさもあってのことであろうが。

 

「お熱いねえ…じゃ、俺らも行こうぜ」

「ええ。…やはり、結婚とはいいものですね」

 そんな霧切に苦笑しつつも、黄桜とゴズもその背を追って去っていった。

 

「…いーなー?響子ちゃんばっかりいーなー?…仕方ないのは分かるけど、やっぱりちょっと妬けちゃうなぁ」

「ですよねえ…。今は仕方ないですけど、落ち着いたらもう少し…ですよねぇ?」

「うんうん。…でもその前に、むくろちゃんをきちんと迎えに行ってあげないと、だね」

「…そうですね」

「……」

「…辛いのは分かるが、今は耐えるときじゃぞ。このコロシアイに幕引きをせんことには、戦刃君も浮かばれんじゃろうからな」

「…はい。分かっています」

「ヨイちゃん、体大丈夫?辛くない?」

「…心配、するな。俺は生きるさ…生き残って、お前のおいちいお菓子を…もう一度食べるためにな」

「……」

「…あんまり、硬くなってもしょうがないよ御手洗。結局、なる様にしかならないんだから…アンタは落ち着いて構えときなよ」

「わ、分かってるよ…!」

 皆、思い思いに時を過ごし、その瞬間が来るのを待っていた。そして…

 

「…そろそろ、時間だね」

「そうだね。…じゃあ、僕は一旦部屋から出ますね」

「え!?な、なんで…?」

「いや、そもそも僕はバングルをしてないのでタイムリミットは関係ありませんし…。それに、入れ替わった方の御手洗さんもすぐ傍に僕がいたら警戒して能力を使ってこない恐れもあるので」

「け、けど…それじゃどうやって『デス13』を倒すんだよ!?」

「…それに関しては、僕を『信じて』欲しい…としか言えません。詳しいことは言えませんが、僕は必ず『デス13』を倒します。皆さんも、誰一人として死なせるつもりはありません。ですから…僕を信じてください」

「きゅ、急にそんなこと言われたって…」

「…安藤君、悩んだところで今更じゃろう。この現状を打破するには、苗木君の策に乗る他に術は無い。ならば、多少不安でも彼を信じるしかないじゃろう」

「…分かったよ。マジで頼むからね、苗木」

「はい…!では皆さん、また『後ほど』…」

 そう言って苗木が部屋を辞した、直後

 

ピンポンパンポーン!

「ッ!!」

 モノクマが不在でも訪れた5度目のタイムリミットを告げるメロディがバングルから鳴り、投与された睡眠薬が皆を眠りに…『死の悪夢』が待つ眠りに誘った。

 

「これで、最後に…し、よう…ね…」

「はい…また、起きたら…みんな、で…」

「頼むぞ、苗木君…」

 それぞれが覚悟を決め眠りに就いたのを見送って、バングルがないことにより一人起きたままの御手洗も手にしたスマートフォンに視線を落とす。

 

「…これで、本当に終わるのか…?でも、例え終わったところで、僕が犯した罪は……考えるのは、後だ。今の僕にできることは、一つしかないんだ…!」

 震える指をなんとか抑えながら、御手洗はスマホの電源を入れ、先ほど苗木が見たビデオのアイコンに指をかけ…ふと、先ほど苗木が出て行った入り口に視線を向ける。

 

「…苗木、お前は凄いよ。どんなに傷ついても、どんなに辛い目に遭っても、『たった一人』で戦い続けた。僕も、叶うならばそうしたかった。それができていれば、皆も、今頃…けど、無理だった。僕には無理なんだよ…。弱い僕は、結局自分一人じゃ…何もできないんだ…」

 力なくそう呟いて、御手洗は映像を再生させた…

 




洗脳ビデオの内容に関しては大体原作と一緒です。違うのは殺意の矛先が「自分」か「他人」かということです。
ちなみに、江ノ島が御手洗に人格を植え付ける時に使ったビデオはこれとは違いますのであしからず。

ニコ動に投稿されていたV3組の血界戦線EDパロ…いい、実に良かった…!
僕に画力さえあれば、あんなのを作ってみたいのに…やっぱり職人さんはすごいですね
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