ニューダンの公式設定資料集買ったけどいろいろ凄いね!詳しくは言わないけど面白いね!…気になった人はちょっと高いけど買おう!大丈夫、真面目に仕事してれば読み終える頃には買った金額分は稼げてるぐらいボリュームあるから!(ステマ感)
「……」
「はー…暇だべなー…」
本部前の待機組のウェザーと葉隠。葉隠は変化のない状況に退屈そうに欠伸をしているが、ウェザーはある一点をじっと見つめていた。
「…ウェザーっち、そんな真面目な顔して何見てるんだべ?」
「…葉隠、あの建物はなんだ?」
「あん?」
ウェザーが指差したのは、本部に隣接している塔のような建物である。
「あれけ?えーっと…確か、あれは…『放送棟』だってよ。なんでも未来機関が管理している『人工衛星』からのデータを受信したり、逆に世界中に向かって放送をするときに使う…って書いてあるべ。それがどうかしたんけ?」
「……」
支給されていた本部案内図を片手に葉隠が説明するが、それを聞いているのか聞いていないのか、ウェザーはなおもその放送棟を食い入るように見つめ…時折、思い出したように己の首筋の『星形の痣』を撫でる。
「…葉隠、ここは任せる。俺はあの塔に行く」
「へ!?ちょ、ちょっと待つべ!勝手に動いたら承太郎さんに怒られちまうべよ!」
「知ったことではない。俺はあの男の部下ではない。…俺は俺の為、そして『ジョジョの為』に行動する。俺はその為にここまで来たんだ…!」
「苗木っちの為…?」
首を傾げる葉隠に構うことなく、ウェザーは放送棟へと向かう。
「あッ!ウェザーっち!」
「…ジョジョと連絡がついたらこう伝えろ!…『奴』はここにいると!」
「や、奴…?奴って、まさか…」
その頃…
「…やっと、こちらで会えましたね。御手洗さん」
「…ッ!」
『デス13』のローブの奥から顔を覗かせる御手洗にそう言う苗木を、御手洗は忌々しげに睨みつける。
「み、御手洗!?なんであんなところに…?」
「御手洗君…ッ!」
「ま、誠君…なんであそこに御手洗さんがいるって…」
「…前々から気になっていたんだ。多重人格者の人格が入れ替わった時、『もう片方の人格』はどこにいるのだろう…って。けど、ディアボロの前例や腐川さんがジェノサイダーの人格をスタンドに移したことを聞いて、もしかしたら…と思ったんだけど、どうやら正解だったみたいだ」
「……」
その光景に皆も唖然とする中、苗木は御手洗に問いかける。
「御手洗さん。やはり貴方は襲撃者として行動していた自分を『自覚していた』んですね?そのローブの奥から、『デス13』として動く自分を見ていたんですね」
「ッ!なんで、そのことを…」
「え!?…で、でも御手洗君は憶えてないって…」
「おそらく、御手洗さん自身も『デス13』の能力の影響を受けて、目覚めている時はここでのことを忘れてしまっていたんでしょう。記憶を共有していないのなら、御手洗さんが憶えていなくても『デス13』側の人格には問題はありませんからね」
『…ら、りほー…!その通りだぜ、コンチクショー…!』
『G・E・R』に捕まったまま、『デス13』の仮面が息苦しそうに肯定する。
「あ、あれ?御手洗はそこにいるのに、そっちの顔の方が喋ってる…」
「…へえ。御手洗さんの意識だけでなく、『デス13』側の人格も別にあるのか。…さっきまでの行動を見るに、スタンドの主導権は別人格のほうにあるみたいだね」
『その通りよ…!けど、勘違いしてもらっちゃ困るぜ。オレ様は何もこいつから無理やりスタンドの主導権を奪った訳じゃあねー…。こいつは、自分からスタンド能力を『放棄』したのさ!』
「放棄…!?」
「……」
「…成程。そういうことか」
「誠、何か分かったの?」
『デス13』の言葉に何か得心を得たような苗木は、自分の推察を語りだす。
「さっきから気になってたんだ。何故この『デス13』…御手洗さんのもう一つの人格は、こうも『攻撃的』な性格をしているのか…って」
「どゆこと?」
「そもそも、御手洗さんが多重人格者にさせられたのは江ノ島さんが作った『洗脳ビデオ』のせいだ。江ノ島さんはあの時から自分の内にディアボロの精神を内包した疑似的な多重人格者だったし、一時的とはいえ松田さんの処置によって『音無涼子』という全く別の人物になった経験もある。その時のことを自己分析すれば、その程度のことはできる筈だ。…けど、『人格』っていうのはそんな簡単なものじゃあない。腐川さんが良い例…って言い方はあれだけど、その証拠になっているよ」
「腐川さんが?」
「腐川さんのもう一つの人格、『ジェノサイダー翔』は、腐川さんが周囲から受けるストレスやフラストレーションを抑えきれなくなった結果、それを『殺人』という形で発散するために生まれたものだと聞いています。つまり、多重人格の在り方を決めるにはなにかしらの『原因』がある筈なんです。御手洗さんにとってのそれが『洗脳ビデオ』なんですが、それだと人格を形成する『理由』がないんです」
「…ふむ。つまり、洗脳ビデオによって人格を植え付けられただけでは、こうも攻撃的な性格になる理由が無い…という訳じゃな?」
「その通りです。…ですが、おそらくその直後にプッチによって与えられたこの『デス13』の存在がそれを決定づけてしまったんです。御手洗さん自身、スタンドを与えられた時にはその能力を理解していた筈です。…しかし、江ノ島さんという『絶望』を目の当たりにし、自身の無力さを思い知った貴方は、その力に恐怖し、それを手放そうとした」
「……」
「…ですが、その時の感情、そして行き場を失った『デス13』のスタンドが起点となって、まだ虚ろだった貴方のもう一つの人格が形成されてしまったんでしょう。…自分や周囲への鬱屈した感情を、一方的に、かつ嗜虐的に力を振るうことで他者にも同じような『無力感』を味あわせようとする、そんな人格にね。貴方がここでのことを忘れてしまうのも、それを自分とは関係ないことだと切り離そうとしたからなんですね」
「……」
苗木の推察を黙って聴いていた御手洗であったが、それを聞き終えるとその顔が苦渋に歪む。
「…なんで、そんなことまで分かるんだよ…?僕の事なんか何も知らないくせに、まるで見てきたように言い当てて…」
「…確かに、僕はあの時に貴方に何があったのか、貴方がどれほどの心の闇を抱えているのかまでは分かりません。ですが、御手洗さんの立場を考え、その想いを推察することぐらいは出来ます。でなければ、貴方が抱える『絶望』を理解することはできませんから」
「…ッ!」
「…ってことは何?結局のところ、こいつが江ノ島盾子にビビッて逃げたせいでこんなややこしいことになった…ってワケ?」
『そういうことだぜ…ラリホ~…!』
「……」
ギリギリギリギリ…!
『あがががががッ!』
調子に乗りかけた『デス13』を『G・E・R』が力を強めて締め上げる。
「よくは分からないけど…このままこいつをやっつけちゃえばいいんだよね?」
「…いえ、そう言う訳にはいきません」
「え?どうして?」
「見ての通り、今、御手洗さんの精神と『デス13』は、中途半端に融合した状態にあります。このままこいつを倒してしまえば、現実の御手洗さんにもなんらかの影響が出てしまう恐れがあります。…まずは、御手洗さんとこいつを『引き剥が』さなくては…」
「だが、どうするつもりだ?…無理やり引っ張り出すのか?」
「…いいえ。あの様子では外部からの干渉で引き剥がすのは無理でしょう。それができるのは…『御手洗さん自身』だけです。御手洗さんが自分の意志で『デス13』を拒絶しなくては意味がありません」
苗木はそう判断するが、当の御手洗はその言葉を聞いても一向にその様子を見せなかった。
「…御手洗君!君の気持ちはワシとて分からんでもない。…いや、今この世界に生きる多くの人々にとって、その気持ちは程度の差こそあれ共通するものであろう。人間とは皆、『理解できないモノ』を恐れ、目を背けようとするものじゃ。…ワシとて、まかり間違えばこの世界に絶望し、妄信的に希望を求める愚か者に成り下がったやもしれん…」
「……」
「じゃがな御手洗君、だからといってそれから目を背け続けることが正しいことではないことぐらい、君にも分かっているじゃろう。まして我々は未来機関、人々を絶望から守り、『未来』を創ることを使命とする存在じゃ。…ワシが何故、保護した君を十支部の支部長に任命したのか分かるか?それは君が、その絶望を『乗り越えられる』人間だと思ったからじゃ。支部長となる人間に必要なのは『才能』や『人徳』だけではない。…この荒んだ世界で、生きようと…生きたいと真に願う『意志』がある者ことが未来機関を背負って立つ人間として相応しいと思っている。君は絶望から逃げはしたが、それでも死のうとはしなかった。御手洗君、君にならきっと…」
「煩いッ!!」
天願は諭すように呼びかけるが、御手洗はそれを拒絶する。
「御手洗君…」
「…天願さん、僕は貴方が思っているほど立派な奴なんかじゃあないんです。僕は生きようとしていたんじゃあない…『死ねなかった』だけなんです。何度も、何度も思いました。死ねば楽になれる、もうこんな苦しみに悩まずに済む…って。でも…いざ死のうとすると、怖くて…死ねなかった。僕は、死んで責任をとることも、まして償おうだなんて思う事すらしなかった、『臆病者』なんです…ッ!」
「…そんなの、当たり前だよ!誰だって、死ぬのは怖いもん。でも、こうして生きているのなら、御手洗さんはまだ生きようとしているってことだよ!」
「そうですよ!生きてさえいれば、きっといつかちゃんと向き合える時が…」
「そんなの無理だよッ!!…僕に、またあの『絶望』を味わえって言うのか?そんなの、僕は御免だッ!見たくないモノを見なくて、何が悪いって言うんだよ!?」
「御手洗…アンタ…」
「ああ、そうさ…!この世に『絶望』なんてものがあるから、皆がこうやって苦しむことになるんだ。苗木、お前が言ったとおり、人間が『絶望』する限りそのことから逃げられないというのなら、…いっそ、『絶望しなくなれば』いいだけじゃあないか…!」
「…それは、どういう意味ですか?」
御手洗の言葉に含みのあるものを感じた苗木が問いかける。
「…僕の持っていたスマートフォンには、僕が未来機関に居る間に完成させた2つの『映像ソフト』がインストールされている。一つは、映像を観た相手に暗示をかけて命令を実行させる『洗脳ビデオ』…」
「洗脳!?…アンタ、散々江ノ島盾子のこと貶しといて結局アンタも洗脳ビデオ作ってんじゃんか!」
「しょうがないだろ!そうでもしないと、僕なんかでは絶望の残党には敵わないんだ…」
「…まあ、それは今は置いておきましょう。肝心なのは、どうやらもう一つの方みたいですからね」
「…もう一つは、映像を観た相手の思考から『絶望』の感情を取り除いて、『希望』の感情を植え付ける…僕が追い求めた『希望のアニメーション』の完成形さ…!最も、脚本も演出も僕一人でやったから内容はお粗末極まりないけれどね…」
「希望のアニメ…!?」
「まさか、貴方がやろうとしていることは…」
「ああ、そうさ…!僕はこのビデオを世界中に…江ノ島盾子がやったように、世界中の人々に観て貰うんだ!そして、皆の中の絶望を希望の感情に『上書き』するッ!そうすれば、もう誰も絶望に苦しむことなんてない!絶望の残党もそうでない人も、もう誰かを傷つけたり悲しませることなんてなくなるんだ!!」
「世界中にって…そんなことできる訳が…」
「…いや、できる…!この本部には世界中に一斉放送を行える施設がある。君の狙いはそれじゃったのか…!」
「…正直、半信半疑だったけどね。今回の召集に応じたのだって、それの真偽を見極める為だった。…けど、どうやら本当にあるみたいで良かったよ…」
「…冗談じゃあないよッ!!そんなの、江ノ島ちゃんと一緒だよ!自分一人の勝手で皆の意識を書き換えるなんて、許されるわけないじゃんか!」
「あんな奴と一緒にするなッ!僕は、アイツとは違う…!僕は皆の為に希望を伝染させるんだ!自分の楽しみの為に絶望を振りまくような、あんな悪魔とは違う…ッ!」
「…だとしても、そんなことはさせません…!そんな形で平和になっても、それが正しいなんて思えませんから…!」
「…いいや、君らには無理だよ」
「何…?そんなもの、やってみなくては…」
「だから無理なんだよ…!忘れたの?この夢の中での出来事は、全て目が覚めてしまえば『忘れてしまう』んだよ?でなきゃ僕がこんなにベラベラ喋るわけないだろ」
「ああッ!そ、そうだった…!」
「そうさ、僕を止める事なんかできない。僕の計画を憶えている人間は、誰も居ないんだから!……『お前』を除いてな」
「……」
忌々しげに向けられる御手洗からの視線に、苗木は気圧されることなくそれをただ黙って受け止める。
「後はお前さえ邪魔しなければ、僕の計画は実行できる…!その為にも、こいつはまだ必要なんだよ。だから後少し、後少しでいい…僕を見逃してくれ。そうすれば、君がやろうとしている『絶望の残党たちと分かりあえる世界』が来るんだ…!」
「……」
「…それができないのなら、こいつを手放す代わりに、皆が僕の邪魔をしないようにしてくれ。『デス13』が危険だからできないのなら、それでいいだろ…?」
『なッ!?おい主人格テメー、勝手に…』
「煩い!この体は僕の体だ!お前は黙ってろ!」
「……」
「誠…」
御手洗からの要求を受けた苗木は、しばし御手洗をじっと見つめた後口を開く。
「…どの道、『デス13』を放置するわけにはいきません。貴方に悪用する意志が無かったとしても、こうして利用された以上、また同じ方法が使われない保証はない。『デス13』はこの場で倒させて貰います」
『チィッ…!』
「…そうか、だったら他の皆を…」
「そして、貴方を行かせるわけにもいきません」
「…ッ!」
「貴方にどんな理由があったとしても、そんな手段で絶望を失くしたところで、それは絶望を克服したことにはなりません。貴方がやろうとしていることは、ただ臭いものに蓋をしようとしているだけ…表面上の勝利を取り繕っただけに過ぎません。そんな仮初の平和はすぐに瓦解しますし、そんなものを分かりあえたこととは僕は認めたくありません」
「その通りじゃ。現に江ノ島盾子が施した絶望の洗脳ビデオも、苗木君たちの尽力により狛枝君を始めとしてその効力は徐々に薄れつつある。完全に解くのにはまだまだ時間がかかるじゃろうが、所詮洗脳などという手段で人の意志を思うがままになどできはしないぞ」
「だったらどうすればいいって言うんだよッ!!?」
苗木と天願の反論に御手洗は癇癪を起したように爆発する。
「絶望に勝てなかったから、世界はこんな風になったんだろ!?なのに…どうしてアンタ達はそうしていられるんだ!?皆がお前みたいに強い訳じゃあないんだぞッ!!」
「……」
「君は分かってない…いや、君には『分からない』んだ。君は強いから、あの江ノ島にだって勝つぐらい強いから、立ち向かう事すらできなかった僕らの気持ちなんか分かりっこないんだ…!誰もが君みたいに、アイツの『絶望』に立ち向かえるわけじゃあないんだ!だからこうするしか僕らは絶望から逃れることができないんだよ!君には、そんな僕らの気持ちが分からないんだ!君は…『強過ぎる』んだよッ!!」
御手洗の涙ながらの慟哭を、苗木は黙って聴きいれる。
『キキキ…燕雀安んぞ鴻鵠のなんとやら、の逆って奴だなぁ~?人間器がデカすぎると、かえってコイツみてーな小物の気持ちなんか分からねえもんってワケか?皮肉だねぇ~…ラリホ~…!』
「御手洗さん…」
「うっ…、ぐぅ…!」
「…それは、違うよ…」
苗木の口から出たのは、いつもの覇気の籠ったものではなく、どこか悲しみと寂寥感を感じる反論であった。
「…なんだって?」
「御手洗さん、分かっていないのは貴方の方だ。…僕は、ちっとも強くなんかない…ッ!」
「…ッ!?嫌味のつもり…」
度の過ぎた謙遜かと思い喰ってかかろうとした御手洗であったが、苗木の表情を見て思わず留まってしまう。…周りの皆も唖然とした顔で見る苗木の顔は、怒りと悔恨が入り混じった、普段に比べれば明らかに弱弱しいものであったからだ。
それは、苗木が普段心の奥底で押し殺していた、自身の『弱さ』を曝け出していることの証明であった。
「御手洗さん、先ほどの貴方の言葉、そっくりそのままお返しします。僕は、貴方が思っているほど強い人間じゃあないんです。…僕は結局、一番大事な時に…大切な人たちを、守れなかった…。アバッキオも、ナランチャも、ブチャラティも…生徒会の皆も、七海さんも、学園長…義父さんも、桑田君、大和田君、不二咲君、石丸君、山田君、セレスさん、大神さん…そして、父さんと母さんも…ッ!」
「誠…」
「誠君…ッ」
「…彼らの死に囚われるつもりは無い。そこで足を止めることを、彼らは望んではいないだろうから。けど…ッ、それでも…時折思ってしまうんだ…!もし、彼らが『生きていた』なら…僕の行動次第で、彼らを『救うことができた』というのならって…!だってそうだろう…彼らは決して、『死んで良い人間』では無かった筈なんだッ!!」
「……」
「御手洗さん、分かりましたか?…これが『僕』なんです。体がどれだけ強くても、最強のスタンドを持っていても…僕は、それでも仲間の…大切な人の死を割り切ることのできない、分かっていても後悔し続ける…そんな『弱い化け物』なんです」
「苗木…」
「けれど、だからこそ『分かったこと』がある…ッ!僕は、それを信じているだけだ!貴方が僕を強いと感じているのなら、僕と貴方の差はたったそれだけでしかないんです…!」
「君が、信じる事…?」
「『過去』を変えることは、どうやったってできはしない。どんなに辛いことや見たくない過去があったとしても、その上に今の僕たちが存在する以上、それを否定することはできない。…だからこそ、僕らは前に…『未来』に進むしかないんだ!過去を忘れたり、現実から目を背けてしまえば、それまでに死んでいった人たちが、本当に『無意味』なものになってしまう…。そんなこと、僕は絶対に嫌だッ!どんなに傷ついても、犠牲が出ることになってしまったとしても…僕は前に進む!今を戦う人たちの想いを、絶望の犠牲になった人たちの死を、無駄なんかじゃあないと証明する為に…僕は、『今』を諦めたりなんかしないッ!!」
「…でも、僕にはそんなこと…」
「いいやできる、だって貴方は自分の過ちを『忘れようとはしなかった』!怯え、苦しみ、逃げ惑いながらも自分がやってしまったことを自覚していた。…それは貴方が、その過ちの上にある『今の自分』を否定しなかった証だ!いまの貴方に必要なのは、それを償おうとするためのほんの少しの『勇気』だけなんだ!」
「…僕に、…僕は…ッ!」
「御手洗さん、貴方も僕も、江ノ島さんのもたらした絶望に少なからず関わってしまった。貴方は『手段』を、僕は『時間』を彼女に与えてしまった。その罪は、決して消えることは無い。…けれど、だからこそ僕等は負ける訳にはいかないんですッ!貴方一人で立ち向かえないのなら、僕が…皆が共に立ち向かう!未来機関は、その為の組織なんです!一人では絶望には勝てなくても、皆が力を合わせれば、きっと活路を見出すことができる!絶望なんかに負けはしないッ!…だから御手洗さん、僕たちを…『自分』を信じて、立ち上がってくださいッ!!」
「そうじゃ御手洗君!君は一人ではない、君の過去がどうあれ、君は我々の大切な仲間なんじゃ!この世界に蔓延する絶望に君が関わっていると言うのであれば、尚更君の力が必要なんじゃ!…頼む、御手洗君。ワシらを信じてくれんか…」
「御手洗…」
「御手洗さん!」
「…ッ!」
皆の呼びかけに、御手洗はローブの奥で顔を伏せ堪えるように歯を食いしばる。
『…ら、ラリホー!冗談じゃあねえぜ!今更こいつが許されるとでも思ってんのかよ?…なあ兄弟、あんな耳触りのいいだけの綺麗ごとに騙されんじゃあねーぜ?あんなこと言っておいて、きっとアイツらテメーの事今回の尻尾きりでぶっ殺すに決まってるぜ!そうなっちまうぐらいなら、いっそ派手に暴れて2,3人ぶっ殺しちまった方がすっきりするぜぇ~!』
「ちょっとアンタ、余計ないこと言ってんじゃあないわよッ!」
『ウルセー!ヒステリーママゴトビッチがッ!!テメーみてーなのが一番信用できねえんだよ!…ほら、分かるだろ?あんなのが味方に居る連中を信じちゃあ…』
「…うる、さい…ッ!」
『…あ?』
御手洗が絞り出すように、しかし明らかに今までとは違う声音で声を発する。
「僕は、嫌だ…ッ!」
『…へぇ、何が嫌だって?ほら、もっと大きな声で言って見なよ!』
「…僕は、『負けたくない』…ッ!」
『……は?』
「僕はッ!もう自分の『絶望』に負けたくないッ!!」
『…な、なにぃ~ッ!!?』
御手洗がそう叫ぶと同時に、『デス13』のローブが蠢き、その中から御手洗が身体ごと飛び出し、『デス13』と切り離されていく。
「御手洗さん…!」
『お、お前ッ!!分かってんのか!?そいつの言う事真に受けたところで、裏切られて殺されるかもしれねーんだぞ!それを…』
「それでも…それでも…ッ!僕は、もう一度『希望』を信じたい!こんな僕を、必要だと言ってくれるのなら、受け入れてくれるのだとしたら…例え殺されたって、僕は皆を信じたい!誰も信じられないまま死ぬぐらいなら、誰かを信じて僕は死にたい…いいや、『生きていたい』ッ!!」
『ぐ…ド畜生がぁーッ!!』
「…苗木、頼む!『デス13』を…僕の『絶望』を、壊してくれッ!!」
「…Se lo si desidere(貴方がそれを望むのなら)…!『ゴールド・エクスペリエンス・レクイエム』ッ!!」
御手洗から『デス13』が完全に切り離されると同時に、苗木は『G・E・R』の渾身のラッシュを叩きこんだ。
『無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァーッ!!』
ドゴゴゴゴゴゴァッ!!
『ギャァァァァァァアァ…ッ!!!』
パキャァァァン…ッ!
全身を悉く打ちのめされ、とどめの一撃で顔の仮面を砕かれた『デス13』は断末魔を上げながら霧散していく。それと同時に、周囲の風景が霞だし、苗木達の意識も遠のいて行った…。
「………」
「……う、ん…?」
後頭部になにやら心地よい感触を憶えながら、御手洗は目を覚ました。
「…ここ、は…?僕は…」
「お目覚めかな、御手洗君?」
「え、あ…会長…!」
目覚めた御手洗の様子を窺うように天願がその顔を覗き込む。
「会長、それに皆…ってことは、戻ってきたんですね……ッ!そうだ、『デス13』は…」
「それなら、そこだよ」
「え?」
朝日奈に指差された自分のスマホを握っていない方の手を見ると、その手の中には無残に砕け散った『DISC』の破片が存在していた。
「これって…!というか、皆憶えて…!?」
「うむ、どうやらワシらも夢の中の事を憶えておったようでな。…立派じゃったぞ、御手洗君」
「会長…、ありがとうございます…!」
「…つーか御手洗!アンタいい加減そこどきなさいよ!自分がどういう状況か分かってんの!?」
「へ?状況…」
そういえば先ほどから感じる後頭部の感触に顔を上げると、そこには朝日奈程ではないがスーツを押し上げる豊かな双丘…
「…ふわぁッ!!?」
それが女性の胸であることに気が付くと同時に御手洗はその場を跳び上がり、慌てて振り返ると今しがた自分が寝ていた場所に座る忌村を見つけた。
「き、忌村さんッ!?僕…『ひざまくら』…ッ!?な、なんで…」
「…ちょっと、寝苦しそうだったから…。それに、アンタも頑張ったし、ほっとくのもアレだったから…」
「え…!?その、あの…」
「御手洗~?アンタねえ、静子ちゃんの膝枕なんてアンタには勿体なさ過ぎるご褒美貰っといて、お礼の一つもないワケ?」
「えッ!?え、えっと…アリガトウ、ゴザイマス…?」
半ば脅すような安藤の強要に御手洗はカタコトでお礼をするが、当の忌村は気恥ずかしそうに顔を背ける。
「…その、御手洗。るるちゃんもだけど、…面と向かってお礼されても、困るっていうか…恥ずかしい…」
「あ…!その、ごめんなさい…」
「…ふ~ん、ふぅ~ん?」
「うん!『キャベツとレタスはお隣さん』!仲良きことは良いことだね!」
「…万代さん、それとはちょっと違うんじゃあないかなぁ~?」
「え?そうなの?」
ガラッ
「…皆、大丈夫ですか?」
そこに、部屋から出ていた苗木が戻ってきた。
「あ!誠ッ!」
「誠君!」
苗木の姿を捉えるや否や朝日奈と舞園は苗木に駆け寄り抱きしめる。
「…あれ?」
「お疲れさまでした、皆さん。…そして御手洗さん、信じてくれてありがとうございます」
「…お礼を言うのは、僕の方だよ。君だけじゃない、皆にも…本当に、ありがとう。もう僕は、絶望に惑わされたりなんかしません。希望を信じて、僕にできる罪滅ぼしをしていきます…!」
「…うむ。今の君なら、きっと大丈夫じゃ」
「はい…。…そして、できる事なら、77期の皆に…もう一度…!」
「…御手洗さん」
「……」
「…?どうしたの葵?さやかまで難しい顔して…」
自分の手を念入りに触りながら怪訝な顔をする朝日奈と舞園に苗木が問いかける。
「あ…うん。ねえ誠、なんか誠の体『冷たくない』?」
「はい…。言い方は悪いですけど、氷でも触ってるような…」
「あー…、うん。それはしょうがないんだ…僕ついさっきまで『ほぼ死んでた』からね」
「…えッ!?」
唐突な衝撃発言に朝日奈らだけでなくその場の全員がポカンとしてしまう。
「…ちょ、ちょっと!死んでたって、どういうこと!?」
「いやさ…ほら、僕は皆と違ってバングルしてないだろ?だからタイムリミットが来ても薬で眠ることがないんだよ」
「…そういえばそうだね。あれ?じゃあどうやって夢の中に来たの?」
「はい。体内でホルモンバランス操作してメラトニン(睡眠作用のあるホルモン物質)大量に分泌する手もあったんですけど、それだと時間がかかるので…手っ取り早く体の生命機能を極限まで停止させて『仮死状態』になって無理やり意識を失くしました」
「はぁッ!?仮死状態って…何とんでもないことしてるのさ!?」
「そう言われても…葵を助けた時にも同じことしたし、大丈夫かな…って」
「…ああ、もう!誠君は、本当にもうッ!」
「ごめんごめん…それより、ほぼ完全に意識をなくしちゃったから、響子たちの方の様子を全然確認してないんだよね。ちょっと確認…」
苗木は目を閉じ、本部内の生命エネルギー反応を探る。
「…ッ!これは…十神君と承太郎さん、それに仗助さん!?」
「えッ!?十神と仗助さんと承太郎さん!?」
「ということは…どうやら助けが来たようじゃな」
「ええ。あとは宗方さんたちと合流して……ッ!?」
と、そこまで言いかけた苗木が目を見開く。
「こ、これは…ッ!?」
「…誠?どうしたの…」
ダッ!!
「ま、誠君!?」
「ちょ、どこ行くのよ!」
いきなり駆け出した苗木の後を皆が追いかける。
「…ッ!!」
やがてしばらく走ると、とある曲がり角のところで苗木が立ち止まる。そこには…
「…うっ、ぐう…!」
「……」
後頭部を抑え呻きながら壁に寄り掛かる黄桜と、俯せのまま倒れ伏すゴズがそこにいた。
「黄桜さんッ!ゴズさん!」
「う…な、苗木君…か…?」
「や、やっと追いつい…って、黄桜さん!?」
「ゴズさん?…ゴズさん!しっかりしてください!」
「……う、ムゥ…。わ、私は…ぐうッ…!なんという…」
「…黄桜さん、一体何が…」
ゴズや黄桜の身体の様子を確かめながら問う苗木に、黄桜は悔しさを滲ませこう答えた。
「ぐぅッ…、すまねえ…苗木君…。響子ちゃんを、『攫われた』…ッ!!」
「な…ッ!?」
『…苗木誠、聴こえているか?』
「ッ!?」
その時、スピーカーから宗方の声が聴こえてくる。
「これって…」
「宗方…さん?」
「…今の声、宗方か?」
「そのようだな。…少なくとも、これで彼が生きていることはハッキリしたな」
「どっかの放送室にでもいるみたいッスね。…けど、一体なんの放送…」
『既に分かっていると思うが…霧切響子は預かった』
「ッ!?なんだと…!」
「卑怯と言いたくば好きにしろ。…だが、もはや手段を選びはせん。俺は、俺の信じる『希望』の為に、お前を力づくでも引きずり出そう…!」
「…宗方…ぐぅ…ッ!」
「……」
放送室でマイクに向けて話す宗方の背中を、顔色の悪い逆蔵が見つめる。
…その『左手』は手首から先が『存在せず』、小脇には気を失った霧切が抱えられていた。
『8階吹き抜けの連絡通路にて待っている。貴様の愛する女を取り戻したくば、逃げずに来い。…決着をつけるぞ。お前の希望と俺の希望、どちらが未来機関の…いや、この世界の未来を決めるに相応しいか…!』
「…なんということを…!」
「…宗方さん…ッ!!」
終わりの時は、近い。
今回の苗木のSEKKYOフェイズはとあるアニメのワンシーンを参考にしています。分かる人には分かるかも…
フラグ?ああ、あるかもね…お前の中ではな!(外道感)
さて、交錯編もいよいよ佳境。まだ伏線がいろいろ残ってるけどどうやって回収しようかな~…