しばらくカメナレフよりも遅いスピードになりますがぼちぼち再開していきます
まずはしり切れトンボになっている番外編に区切りをつけて、それから1.5部を始めます。ではどうぞ
(ああああああああああああああっ!!!何を、何をやってるんだ私はああああああああああッ!!?)
苗木の部屋を飛び出し、反対側の棟にある自分の部屋へと戻る道すがら、舞園は自分のしでかしたことに対して混乱していた。
(そりゃあ苗木君の事は好きですよ!告白だってするつもりでしたよ!…でも何も今じゃなくてもいいじゃあないですかぁーッ!!)
そう、苗木が初心であるように舞園もまた本気の恋愛に関しては初心者も同然。アイドルとして恋愛の芝居をすることには慣れていても自分が心から好きになったということに対しては芝居通りに進むはずもないのでどうすればいいか分からずにいた。今回は勢い余って思わず口走ってしまったが、もし芝居の世界ならばこれでお互い甘酸っぱい関係になるのがテンプレだろうが現実においては下手をすればドン引きされかねない行為でもある。
「ああああ…明日どんな顔して苗木君に会えばいいんだろ…」
と、一通り心の中でぶちまけて肩を落としながら部屋の前の通りに戻ってくると
「…あら」
「あ…霧切さん」
偶然廊下にいた霧切とバッタリ出くわした。
「あなた…どこへ行っていたの?」
「え!?え、え…と、それは…その…」
「…苗木君のところね」
「ふえっ!?どどど、どうして…!」
「私は探偵よ。あなたが向こうから来た以上苗木君の部屋に行っていた可能性ぐらいすぐに浮かぶわ。…というか、探偵じゃなくてもあなたのその赤い顔を見れば大体察しがつくわ」
「そ、そうですか…」
ポカンとする舞園に霧切はある質問をする。
「…ねえ、舞園さん。あなたって、苗木君のことが好きなの?」
「好きです」
「…ハッキリ答えるわね」
「苗木君に対することで嘘はつきたくないですから」
「…それで聞きたいのだけれど、人を好きになるのって、どんな気持ちなの?」
「え?」
「変なことを言うかもしれないけど、…私、人を本気で好きになったことが無いの。御爺様とか、知り合いの人とか、大事だと思う人はいるけれど本当の意味で愛情というものを持ったことがないのよ」
「ええ…?それは…なんというか、ちょっと考えにくい質問ですね。でも、普通にそういう気持ちになったりとかしません?家族、お父さんとかお母さんとか、兄弟とか…」
と、お父さんという言葉が出た途端霧切の表情が露骨に歪む。
「き、霧切さん?」
「…私は一人っ子よ。母は私が小さいころに亡くなったわ」
「…お父さんは…」
「私に父親なんていない…ッ!!」
吐き捨てるようにそう言い放つ霧切の表情は鬼気迫るものがあり、それでいて今にも切れそうな糸のような切なさも感じられるようなそんな顔をしていた。そんな霧切に、舞園は少し考えた後こう言う。
「…霧切さん。私には霧切さんが抱えている物がどんなものなのかは分かりません。だから霧切さんに対してどうこう言うことはできません。…けれど、私には一つだけハッキリと断言できることがあります」
「…何?」
「霧切さんはまだ誰にも愛情というものを持っていないかもしれません。…でも、霧切さんのことを大事に想ってくれている人は確かに居る筈です。だから、まずはその人のことを信じて、愛してみるところから始めてみてはどうでしょうか?」
「…私の事を…」
「少なくとも、さっき話してた御爺様や知り合いの人は、霧切さんが大事だと想っているならきっと向こうもそうだと思いますよ。…それに、私や苗木君も、霧切さんのことを大切な友達だと思っていますから」
「…そう、ありがとう。考えてみるわ」
「いえいえ!どういたしまして!じゃあ、お休みなさい!」
「ええ、おやすみ…」
舞園が部屋へと戻った後、霧切はしばし思案顔でその場に立ち尽くしていた。
「…大事な人を、信じる、か。…そうね、御爺様やお姉さまのことぐらいは本気で信じてみてもいいかもしれないわね。…そうすれば、あの男とも向き合う覚悟ができるのかしら。…苗木君にも聞いてみましょう。なぜかは分からないけれど、そうした方がいいと思うから…」
先ほどよりも少しスッキリした顔で、霧切もまた部屋へと戻っていった。
翌日、寝不足気味な苗木と舞園、片やスッキリした雰囲気の霧切は帰りの電車までの時間仗助たちの案内により杜王町を観光して回ることにした。
「杜王町を見て回るんならここは外せないっすよぉ~!」
と言う仗助の勧めに従い、苗木達は杜王町の各名物スポットの見学に赴いた。
「よっ、アンジェロ!」
『…ア、ギ…』
「…い、今あの岩喋りませんでした!?」
「まさか、岩が喋るわけがないでしょう…」
「…なるほど、これは酷い」
話しかけるとなにやらうめき声のような返事が聞こえる『アンジェロ岩』。
「ホントにこんなところが…?」
「まあ実際は僕の『エコーズ』の仕業なんだけどね」
「そして私たちの運命の始まりの場所でもあるのね!」
「わああ!それすっごくロマンチックですね!」
「…この嬢ちゃん、もしかして由香子と同じタイプかぁ~?」
崖から落ちた女の子が摩訶不思議な現象によって助かった時の光景から名づけられた『ボヨヨン岬』。
「いいところに来たね!実はまだ聞きたいことがあったんだ!具体的にはアイドル業界の裏事情とか君が関わった事件の詳細とか、ギャング社会の構造とか…」
「「「…ノーコメントでお願いします」」」
「なんだつまらない」
「…露伴先生、少しは自重してくださいよ」
「ふん、まあいいさ。その内取材の名目でお宅の学校にお邪魔させてもらうからその時にまた聞くさ」
「…あんた暇なのか忙しいのかどっちなんだよ」
一癖どころか回りまわっていっそ清々しいほどの変人漫画家、『岸部露伴の家』。
「おおーい!鋼田一のおっさーん!差し入れ持って来たぞーッ!!」
トントントントンッ!
「やぁやぁ仗助君達、来てくれて嬉しいよ。…おや、そちらのお三方は?」
「ああ、俺の親戚とそのダチでよぉ~…」
「初めまして、苗木誠です」
「舞園さやかです!初めまして!」
「…霧切響子よ」
「これはご丁寧にどうも。私は鋼田一豊大。この鉄塔に住んでいる者です。スタンドの名は『スーパーフライ』。この鉄塔を自由に操ることができます。まあその代りこの鉄塔から離れることもできないんですが、ここは私の家なので特に気にしないでください」
「…へ、へえ」
「…変わったご趣味をお持ちのようね」
「なんというか…良いようでそうでもないスタンドだね」
文字通り鉄塔と一心同体の男、『送電鉄塔に住む男』鋼田一豊大。
「…これも仗助さんの仕業ですか?」
「へへへ、まあな」
「俺も最初聞いた時はびびったぜぇ~」
「うわ…、なんか、ハ○―・○ッタ―に出てきそうな本ですね」
「内容はどう読んでも解読不能、…まあこのままカビが生えるのが落ちでしょうね」
かつて仗助が『エニグマ』と言うスタンドの持ち主である少年、宮本輝之助を『クレイジーダイヤモンド』で紙と一体化させた結果誕生した書籍、題名『エニグマの少年』。
そして、最後の名所にして苗木達の本来の目的の場所に彼らは来ていた。
「狛枝さんが言っていた、オーソンとドラッグのキサラの間にある、地図には載っていない小道…ここですね」
「うん…、もうここに入る意味はないと思っていたんだけどね」
「けどそう言うことがあった以上、調べねえわけにもいかねえしなぁ~」
杜王町名所にして今なお息づく杜王町で最も危険なスポット、『振り向いてはいけない小道』。かつては『少女の幽霊に会える小道』とも言われたが、その幽霊は既に成仏してしまっているため、この小道はもうただ振り返った存在を問答無用で連れ去ってしまうだけの道となっていた。
「いいかお前ら!ここでは何があっても絶対に振り返るんじゃあねーぞ!いくら俺でも後ろ向いたまま『ザ・ハンド』で空間削り取って引き寄せることなんか無理だからよぉ~、間違ってお前ら削り取っちまったらやべえからなぁ」
「…ホントは外で待ってて欲しいんだけど、どうしても行くの?」
「当然よ。探偵として未知の物を前にして指をくわえて待っている訳にはいかないわ」
「振り返らなければいいんですね、大丈夫です!」
返事こそ良いものの、やはり実際に目の当たりにした訳でもなく確信できるような出所の話を聞いた訳でもないせいか少し浮ついた返事に不安を感じつつ、苗木達はその小道へと足を踏み入れた。
その場所に入ってすぐに感じたのは、まるで世界から切り離されたかのような虚無感であった。
「なんだ…ここ…?見た限りではなんの変哲もない通りなのに、これっぽっちも生命エネルギーを感じない…。家の中からも、外にも、その辺に生えている草木からすらも何も感じない…、こ、これがあの世とこの世の境目ということか…」
「そ、そこまでビビるもんかなぁ~?俺には何も感じねえけどよぉ~」
「苗木君のスタンドは『生命エネルギー』、生物の命そのものを感じ取ることができるからね、その辺僕らよりも敏感なんだと思うよ」
「…よし超えたな。んじゃ、まずは鈴美さんがいるかどうか探すとすっかぁ~。お前ら、今は振り向いても大丈夫だけどよ、そこのポスト超えたからは振り返んじゃあねーぞ」
「ええ、分かったわ」
そうして苗木達は狛枝が聞いたという声、おそらく以前ここにいた幽霊の『杉本鈴美』であろうその声の正体を突き止めるべく調べ始めたが、彼女の生家や他の家をくまなく探しても彼女と愛犬のアーノルドの痕跡を見つけることはできなかった。
「やっぱいねえなぁ~…」
「そもそも鈴美さんなら僕らが来た時点で出てくる方が普通だから、これだけうろうろしていても出てこない以上、やっぱりもういないとしか考えられないよね」
「つーことは…その狛枝とかいう奴が聞いた声っつーのはなんだったんだ?」
「幽霊の声が聞こえたっていうだけでも眉唾物なのに、その上当の幽霊が成仏したっていうんじゃあもう説明がつかないわね」
「もう私はついていけませーん…」
皆が匙を投げる中、苗木がふと呟くように口を開く。
「…もしかしたら、吉良吉影のように、魂の一部が残留思念としてこの道に残っていたのかもしれませんね」
「ハァ?魂…っつったって、鈴美さんは元々幽霊だったんだぜぇ~?おっ死んだ吉良のやつならいざ知らず、鈴美さんがなんでここに魂が残ってたりすんだよぉ?なんか心残りでもあるってのか?」
「心残り…そうか、そうかもしれない」
「どういうこと康一くん?」
「鈴美さんはずっと吉良の奴がここに来るのを待っていた。そして奴はここにきて、鈴美さんの手で向こう側に連れて行かれた。けど、狛枝くんがここに来たときに、奴の魂が残っているのを知って、助けるために最後の力を貸してくれたんじゃあないかな?」
「…少しロマンチックすぎるかもしれませんけど、そうかもしれない…いや、そうだったんじゃあないかと、僕は思いますよ」
「…俺よぉ、頭悪いから難しいことはよく分かんねえけどよぉ、鈴美さんはまだここにいるってことでいいんだよなぁ~?」
「…ああ、そうだな。鈴美さんはずっとここにいる。この街をここからずっと見守ってくれている。今は、それでいいじゃあねえか…」
感慨深そうに空を見上げる仗助、康一、億泰。それを見ていた苗木、舞園、霧切、由香子もやがて表情を和らげ空を見上げると、例え見えなくともきっとここにいるであろう鈴美に感謝と尊敬の意を示すのであった。
さて、ある意味ここからが本番であった。
「…じゃあ、これから来た道を戻る訳なんだけど…」
康一の表情がいつになく真剣なものになる。やはり一度経験しているだけあって、ここでの帰り方には誰よりも気を遣うのだ。
「最初にしつこく言ったけど、この道は戻ろうとするとありとあらゆる方法で僕らを振り向かせようとしてくる。中にはあり得ないような手段を使ってくるときもある。だから、今だけはお互いのことも絶対に信じようとしないで。ただ出口に向かうことだけを考えて欲しいんだ。もしこの中の誰かから声を掛けられたとしても、絶対に振り向こうとしないで。それだけは約束して欲しい」
「え…で、でもそれじゃもし誰かが振り向いちゃったときに助けられないんじゃ…」
「その時は…もうどうしようもない」
「そんな…ッ!」
「実際に経験した僕には分かるッ!あれはスタンド能力とか、そういう理屈でどうにかなるもんじゃあないんだよ…!一度振り返ってしまったら、もう僕らにはどうしようもない。億泰君の『ザ・ハンド』の瞬間移動でもきっと追いつかれてしまう。今は露伴先生もいない。だから…皆、絶対に振り返らないで。約束してくれ」
「…わ、分かりました」
「了解したわ」
「はい…」(…まあいざというときは最後の手段もあるしなんとかなるだろう)
一同は真剣な表情で元来た道へと一歩を踏み出す。
ズザザザッ!
『ッ!!?』
と、その瞬間彼らの足元を何かが這いずり回るような音が通り過ぎる。
「い、今の…!?」
「気にしちゃあ駄目だッ!とにかく前に進むんだッ!」
「わ、分かったわ康一くん…」
音の正体に思わず振り返りたくなる衝動を抑えながら進むが、一歩進むごとに様々な障害が彼らの五感を刺激する。
ピチャ…ピチャ…
「ひいいいいっ!?」
「舞園さんッ…こらえて…!」
頬を嘗められるような謎の感触。
「ねー、これなんだろ…?」
「わっかんないねー?お兄ちゃんたち、これ何か分かるー?」
「…素で振り返んじゃあねーぞ億泰ぅ~」
「お、おお…。分かってんぜぇ仗助ぇ~」
いる筈のない、子供の声に呼び止められる。
「…康一くん?どうして無視したりなんかするの?そのお友達を紹介してくれないの?」
「…広瀬さん、この声…」
「駄目だ駄目だ…、今は無視するんだ。本物の鈴美さんならここで声を掛けたりなんかする筈が無い…ッ!」
探していた鈴美の声に呼び止められる。
「おーい!皆、ちょっとストップ!これを見てよー!」
「こ、康一…?」
「駄目だ億泰さん…!大丈夫、康一さんなら後ろについてきてます…。だから無視してください…」
康一の声に呼ばれる。(康一には由香子の声が聞こえたらしい)
…などの様々な妨害により何度も歩みを止められかけたが、逆にそのことが康一の必死さを裏付けることとなりどうにかあと少しというところまで戻ってこれていた。
「あ、あと少しだぜぇ~…」
「多分妨害があるとしたらこれが最後だ…、皆頑張って…!」
やっとのことで終わりが見えてきたことで苗木達の心にも少し余裕が生まれる。しかし、だからと言って妨害に気を緩めてはいなかった。
だからこそ予想できなかった。この道がここで手を変えてくるということに。
「…響子?」
「ッ!?」
後方より聞こえた女性の声に、霧切の足が思わず止まる。
「…霧切さん?」
「誰だ?今の声…?」
「知らない…女の人かな?でも響子って霧切さんの名前だったよね?」
「つーことか嬢ちゃんの知り合いか?…嬢ちゃん?」
「霧切さん?あの…どうしたんですか?」
顔は見れないものの、今まで動じなかった霧切の様子がおかしいことは皆感じていた。
「…何故、こんな時に…ッ!?」
「どうしたの響子?ほら…お母さんよ?こっちを向いて…」
「…嬢ちゃんの母ちゃんの声か?気にすんな嬢ちゃん!そんなのまやかしだ!」
「…いえ、もしかしたらまずいかもしれません」
「?どういうこと?」
「…昨日聞いたんですけど、霧切さんのお母さんって霧切さんが小さいころに亡くなってるんです。もしかしたら、私たちが想っている以上に霧切さんにとってショックが大きいのかも…」
「…霧切さん、落ち着くんだ。君のお母さんなら、例え生きていたとしてもこんなところで声を掛けたりなんかしない筈だ。だから今は前へ…」
「…あなたに、何がわかるっていうのよッ!?」
霧切に呼びかけた苗木に対し、霧切はヒステリック気味に叫ぶ。
「き、霧切さん…?」
「あなたに、何がわかるのよ!?私にとって、家族と呼べる人間はお母様と御爺様だけなのよ!なのに…あんなに早くに死んでしまって…あの男も居なくなって…、会ったこともないあなたなんかに、お母様のなにが分かるってのよッ!?」
「霧切さん、聞いてくれ…」
「煩いッ!あなたなんか、あなたなんかッ…!」
「聞けッ!」
「ッ!?」
苗木の怒号に霧切が思わず怯む。
「…確かに、僕は霧切さんのお母さんのことは何も知らない。けれど、今の君を見ていれば君のお母さんが、どんな思いで君を育てたのか、どんな人間になってほしいと願っていたのか、それぐらいのことは分かる!」
「お母様の…願い…」
「その上であえて言わせてもらう!君のお母さんは、どんな理由があるにせよ君を死地に引き込むようなことをする人だったのか!?君の未来を閉ざすようなことを強いるような人だったのかッ!?」
「…違う…。お母様は、そんなことは…」
「だったら前へ進めッ!今君の耳に届いているその声と君の心の中にあるお母さんの想い、君が信じているのはどっちなんだ!」
「…!私の、信じる…お母様…」
苗木の一喝にしばし考え込んだ後、決心した顔つきで一歩を踏み出そうとした、その時
「…響子」
「ッ!?」
聞こえてきたのは、今度は男の声であった。
「誰だ?この声…?」
「…マズイッ!」
その声に聞き覚えのある苗木は危機感を感じたが、霧切に声をかける前に事態は起こってしまった。
「済まなかった。お前が、それほど苦しんでいたとは知らず、僕は…」
「…ッ!!今更ッ!何を…!?」
声の主、父である学園長の言葉で怒りに駆られた霧切は思わず振り返ってしまう。そして
ギュオオオオオオオオオッ!!!!
「………あ」
憎むべき相手がいる筈だったそこには父の姿はなく、代わりに虚空より現れた無数の『腕』が霧切を引き込まんと迫って来ていた。
(…嘘、こんな…こんなもので終わりなの…?)
迫りくる無数の『腕』…例え理解できなくとも、それに掴まれてしまえば終わりだということは霧切には容易に想像がついた。
(嫌…、嫌ッ!私は、まだなにも…なにも成し遂げていないのに…!)
必死に逃れようとするも、まるで金縛りにでもあったかのように体が動かない。いつの間にか霧切の顔は蒼白となり、手は震え、目もとには涙が浮かんできた。
(…助けて、お姉さま、御爺様、お母様…お父さん…!)
頭の中に浮かぶ様々な人たちに助けを求めているうちに、霧切はふと呟いていた。
「…助けて、苗木君ッ…!」
「呼んだかい?霧切さん」
「ッ!?」
ハッとして顔を上げると、そこには『振り返って』自分の体を支える苗木の困ったような笑顔があった。
「あなた…どうして…!?」
「…学園長の声を聞いて、こうなると思ってね。…でも嬉しいよ。霧切さんがまだ、学園長の事を想っていてくれていたことが…」
「そ、そんなこと…ッ!それより、このままじゃああなたまで…!」
「…させないさ」
「え?」
「『コレ』がなんなのかは僕にはさっぱり見当がつかないが、そんなことはどうでもいい…!今の僕の思考はただ一つ、僕の大切な『友達』を手にかけようとするんだったら…例え『神』であろうと、僕が斃すッ!!」
苗木は迫りくる『腕』に対し、己の分身を呼び出す。
「『ゴールド・エクスペリエンス・レクイエム』ッ!!」
呼び声と共に現れた『G・E・R』は苗木達を掴もうとする『腕』一本一本に対し、正確無比なラッシュを叩きこんで虚空に打ち返す。
「『無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ッ!!』」
一発一発がビルを倒壊させるほどのパワーを秘めたラッシュ。しかし、そんな一撃を喰らっても、『腕』は虚空に消えた端から再び現れ、一向に数が減ることはない。
「…チィッ!やはり『押し切る』のは無理か…!」
「苗木君…」
「…だが、『食い止める』ことは出来た!それで十分ッ!」
「…え?」
「億泰さんッ!!」
「おうっ!」
苗木の呼び声に応えたのは、既に『道』を渡りきった場所にいる億泰。彼は苗木と霧切の状況を確認すると、すぐさま行動に移る。
「『ザ・ハンド』ッ!!」
現れたのは、スマートな体躯をした胸に『\』と『$』の文字を張り付けた、お面のようなシンプルな顔のスタンド、『ザ・ハンド』。仗助曰く『杜王町で最も危険なスタンド』と言われるそれは、出現するや否や右腕を大きく振りかぶり苗木達の方向に向けて野球の投球モーションの様に振り切った。
ガオンッ!!
虚空を空ぶった『右手』の軌跡。一見ただの空振りにしか見えないがこの『ザ・ハンド』に限っては意味がある。『ザ・ハンド』の能力、それは…『右手が触れたものを削り取る』というもの。例え石だろうと、金属だろうと、生物だろうと、スタンドだろうと…『空間』であろうと例外は無い。
「『空間』を削り取るッ!するとぉ~…ッ!」
ガウンッ!
「えっ!?」
「ベネッ!(良し)」
削り取られた『空間』が元に戻ろうとくっついた拍子に、苗木と霧切の体もまた『瞬間移動』したかのように『腕』から引き離される。
…が、かつて時を巻き戻すまでの力を得た『キラークイーン』すら引き込んだ『腕』がその程度の事で逃がす筈もなく、あっという間に苗木達との距離を詰め再び掴みかかる。
「ぐっ…!億泰さんッ!!」
「任せとけいッ!『ザ・ハンド』!!」
ドギャギャギャギャッ!
ガオン!ガオン!ガオンッ!!
『G・E・R』のラッシュが迫りくる『腕』を片っ端から跳ね除け、その間に『ザ・ハンド』が空間を次々と削り取って苗木達を入口へと引き寄せる。かつて康一を露伴が救った時よりもさらに強引な、規格外のスタンドのスペックをフルに使った荒業であった。その甲斐あってか、やがて苗木達と仗助たちとの距離はどんどん短くなっていき…
「これで…終いだぁ~ッ!!」
ガオォォーン…!
思い切り振り抜いた『ザ・ハンド』が削り取った空間が閉じたのを最後に、苗木と霧切はどうにか入り口まで戻ってくることができた。
「…ッハァ…ハァ…。た、助かった…の?」
「なんとかね…。ハァ~、久々にくたびれたや」
「だ、大丈夫ですか!?苗木君、霧切さん!」
「…平気よ、苗木君が守ってくれたから」
「ったく無茶するぜオメエはよぉ~!」
「まったくだぜぇ~!最初『いざとなった時の最後の手段』とか言って聞かされた時はマジに言ってんのかと思ったぜぇ~」
「…正直、僕も無茶だとは思いましたよ。億泰さんの『ザ・ハンド』が無かったらこんな賭けできませんでしたからね。…でも、守れてよかったです」
「…随分入れ込んでいるようね、あの子に」
「別に、そんなんじゃあありませんよ。ただ…可能性がある内にやらないで後悔だけはしたくなかった。…それだけです」
「…ふ~ん」
「…な、苗木君。彼女なんだか不機嫌になってないかい?」
「き、霧切さん?僕なんかまずいことしちゃった?」
「…別に、なんでもないわよ」
「いやでも…」
「なん・でも・ない…!」
「…はい」
「…む~」
こうしてどうにか『振り返ってはいけない小道』の難を逃れ、苗木達は若干疲れた様子で一旦ホテルへと戻っていった。
その日の夕方
「なんだかんだありましたけど、楽しかったですね!」
「そうだね。…お土産代が結構マジで洒落にならなかったけど」
家族や知り合い、クラスの皆へのお土産を購入し、あとは帰りの新幹線に乗り込むだけとなった苗木達は駅のホームで見送りに来るという仗助たちを待っていた。
「……」
「…霧切さん、どうしたんでしょう?」
「さあ…」
一人無言で立ち尽くす霧切を不審に思い、苗木は思い切って尋ねる。
「あの…霧切さん、どうかしたの?」
「…別に、なんでもないわよ」
「そ、そう…?」
「…ねえ苗木君、一つ聞いてもいいかしら?」
「な、なに?」
「苗木君にとって…『家族』ってなんなのかしら?」
その質問に、苗木は一瞬面食らったような表情をし、すぐに面持ちを正して口を開く。
「…その質問には、僕の個人的な考えでしか答えられない。それでもいいかい?」
「ええ、聞かせて頂戴…」
「…僕にとって『家族』は、『この命を犠牲にしてでも守るべき絆』だ。母さんが居てくれたから、今の僕がある。父さんが守ってくれたから、僕は生きていれる。妹が…こまるがいるから、僕は強くあろうと努力できる。…癪だけど、あのクソ親父が居たおかげで、僕は『力』を手に入れることができた。だから僕は今持てるすべての力を使って家族を守る。誰が相手であろうと、大切なものを守るためなら、僕は『誇り』を持って命を賭けよう。…それが、僕にとっての『家族』だ」
「…そう。…じゃあ聞くけど、苗木君は仮に自分の親が苗木君を捨てて出て行ってしまったとしても、そう胸を張って言えるのかしら?」
「…らしくないね。そんな例えを持ち出すなんてさ」
「………」
「そりゃ、そんなことになれば僕だって何も思わないことはないさ。酷く傷つくだろうし、恨みだってするかもしれない。…でもね霧切さん」
苗木はそこで表情を改め、霧切に優しく言い聞かせるように言う。
「…何も話さないまま、言葉を交わさないまま『絆』を断ち切ってしまう。それは…凄く寂しいことだと僕は思うよ」
「…!」
「人間には、向き合わなきゃ、言ってくれなきゃ分からない不器用な人もいるんだ。僕は少なくとも一人、そういう人を知っている。…君がどんな選択をしようが君の自由だ。でも君が迷っているのだとしたら、せめて一度…一度だけでいい。学園長と…お父さんと会って、話してくれないだろうか。少なくとも、迷いは吹っ切れると、僕はそう思うから…」
「………」
苗木の言葉に霧切はしばし顔を伏せ黙り込んだ後、やがてふぅ、と息を吐くと少しスッキリした表情で顔を上げる。
「…命の恩人にそこまで言われたら、しょうがないわね。分かったわ、一度だけ…あの人と会ってみる。会って、話して…それでこの気持ちにけじめをつけるわ。それでいいでしょう?」
「ああ、もちろん。…フフッ」
「…何よ?」
「いやなに…、何時ものクールな表情も似合ってるけど、霧切さんのそういう顔、素敵だなって」
「…ッ!!」
ガンッ!
「うぎゃあ!?」
瞬時に顔を赤くした霧切の放った踵が苗木の脛を直撃し、苗木は悲鳴を上げてその場に蹲る。
「な、なにか…悪いこと言った…?」
「…知らないわッ…!」
「ええ…?」
と、苗木が首を傾げていると
ポカッ!
「あたッ!?」
今度は頭をはたかれた様な痛みが生じ、振り返るとそこには頬を膨らませ目を吊り上げた舞園が苗木を睨んでいた。
「ま、舞園さん…?どうしたの?」
「…知りませんッ!!」
「えええ…?」
「…お~い、待たせたなー…って」
「…なんだ、この状況は?」
「苗木君?」
「…よく分からないけど、僕が悪いらしいです。はい」
「…女性というのは複雑ですね」
やってきて早々、頭と脛を抱えて蹲る苗木とその両側でそれぞれ顔を赤くして拗ねる霧切を舞園という状況に混乱する仗助たちに、苗木は力なくそう答えるだけであった。
それから数分後、どうにか宥めすかして機嫌の直った二人と共に苗木は新幹線へと乗り込んだ。
「…じゃあ、承太郎さん。『ホワイトスネイク』と『吸血鬼』の調査の件、よろしくお願いします」
「ああ、任せておいてくれ。我々の方で最大限にできることをやらせてもらう。君は友人と一緒に学園生活を楽しんでくれ」
「はい、ありがとうございます。…徐倫ちゃんにもよろしく言っておいてください」
「…ああ、偶には遊びに来てくれ。君が来てくれると、徐倫も喜ぶ」
「舞園ちゃん、霧切ちゃん。大変かもしれないけど、迷っちゃ駄目よ。あーいう男は、押して押して押しまくらないと効きそうにないんだから!」
「はい!頑張ります!」
「…努力はしてみるわ」
「…何の話してんだ?」
「さぁ~?」
「アハハ…」
ジリリリリリ…
「…苗木様、まもなく発車致します」
「ああ、分かりました。…それじゃあ皆さん、お元気で!」
「さようならー!」
「お世話になりました」
「また遊びに来いよなぁ~!」
「俺らは目黒支部に居っからな!困ったときはいつでも来いよぉ~!」
「…苗木君、君の進む道が『希望』に溢れたものであることを祈っておるよ」
「今度マジで取材に行くからな!話つけといてくれよー!!」
「お体に気をつけテー!」
「あばよぉ~!」
ブシュー…
ゴトンゴトン…
皆との別れを惜しみながら、苗木達を乗せた新幹線は再び東京へと発進する。
これから彼らの学園生活になにが起きるのか、それはまだ誰にも分からない。
彼らの『ゼロ』へと続く『奇妙な日常』は、まだ始まったばかりである。
これで杜王町編はお終いです。といっても、承太郎たちにはまだ出番はあるのでお楽しみに