今回懐かしいキャラに登場してもらいましたが、また時折こういう描写が挟まるかもしれないので嫌いな人はごめんね!
ゴゴゴゴゴゴゴゴッ…!!
未来機関本部が、崩れ去っていく。未来機関の象徴にして、復興した世界の中心となる筈だったそれが瓦礫と化していくのを、脱出した面々と崩落の騒ぎを聞きつけて合流した葉隠、億泰、康一たちは黙って見ていた。
「……」
己の牙城が消えていく様を、宗方は感慨深そうに見送っていた。宗方にとって、これが馬鹿にならない損失であることは間違いないことである。しかし、それでも宗方の心はどこか晴れやかであった。『目に見える物』を失った代わりに、自分が求めていた…否、忘れかけていた『真実』を手に入れることができた満足感が、その喪失感をチャラにしていた。
「…良かったのかよ、宗方」
「ああ…。もういい、これでいいんだ。『力』や『権力』だけでは、俺の理想は叶いそうにない。また一からやり直しだ、その為に…ある意味で、これはいい機会だったと考えるさ」
「そうかよ…」
「…だが、心残りがあるとするなら…アイツの亡骸を、きちんと葬ってやりたかったな」
「…そうだな。まあその辺は、あの野郎がなんとかするんじゃねえか?気に喰わねえ野郎だが、そういうことには気は利くみたいだからな」
「…フッ、そうかもな」
逆蔵が顎で示した先では、舞園と朝日奈に泣きながらしがみつかれ、どうしていいか困惑する戦刃を霧切と共に微笑ましく見守る苗木の姿があった。
「むくろちゃん…ッ!ごめんなさい、何もできなくて…でもッ、生きててくれてよかった…!」
「ひっぐ…むくろちゃん…ッ!また、また会えてよかった…!」
「あ…え、えっと…その、誠君…えっと、どうしたら…?」
「…しばらく我慢してあげてくれないかな?二人とも、本当に気に病んでたから」
「特にさやかさん、貴女を見殺しにしてしまったって落ち込んでたわよ。…愛されていると思って喜んでおきなさい」
「う、うん…」
「いやー…しっかしホッとしたべ。占いで戦刃っちが死ぬって出たから、今迄ずっと気が気じゃ無かったべよ」
「ふん…。この女がそう簡単にくたばるものか」
「…って、言うか…誠ッ!さっきから気になってたけど、もしかしてむくろちゃんが生きてたこと『知ってた』の!?」
「あー…うん。一応ね」
「酷いですッ!どうして教えてくれなかったんですか!?」
いきなり矛先を自分に向けられ、舞園と朝日奈に詰め寄られた苗木は腰引き気味に説明する。
「い、いや…話してる暇が無かったというか、万が一の事態に備えて秘密にしておきたかったから…一応ほら、こうして脱出の為のルート確保をして貰った訳だし…」
「…まあ、そこはもういいよ。それで、何時から知ってたの?」
「それが…むくろが無事だったことを知ったのは、3回目のタイムリミットが終わってしばらく経ってからなんだけど、むくろの方から医務室まで来てくれたんだ。その時は動けなかったから説明は後回しにして脱出ルートの確保の指示だけをしたんだけど…」
「…指示って、アンタ動けないのにどうやってこいつに指示したのよ?」
「えっと…誠君、その時まだ傷が完全に塞がってなくて、傷口から出血してたんだけど…その流れた血が『文字』の形になって、それで何が言いたいかを分かったの」
「血ィ…!?」
「『血液操作』の応用みたいなものだよ。ゴズさんの時からできないか考えてたんだけど、なんとかうまくいってね…ちょうど響子たちにモノクマの注意が向いてたからばれずに済んだしね」
「…なんでもありだな、お前」
「ま、まあその辺は置いておいて…そう言う訳だから、僕もどうして助かったのかまでは知らないんだ。むくろ、そろそろ教えてくれないか?」
「あ…うん。そうだね」
皆の視線が集まる中、戦刃は『自身に起きたであろうこと』を話し出す。
「…私は、『助けてもらった』の。私一人だったら、本当にどうしようもなかった…」
「助けてもらった?…一体、誰にじゃ?」
「『盾子ちゃん』と、『F・F』に…」
「…ええッ!?」
「江ノ島ちゃん…はともかく、『F・F』!?どういうことなの?」
「それは…」
それは、3度目のタイムリミットの直後、天願達がトレーニングルームを去っていった後の事…
「……」
トレーニングルームに残された戦刃の身体は、間もなく死を迎えようとしていた。戦刃は『元超高校級の軍人』、体力や代謝能力は苗木を除けば未来機関の幹部たちを遥かの凌ぎ、経験上毒に対する多少の免疫も備えていた。…しかし、喉を切り裂かれたダメージや出血も相まってその耐性も永くは持たず、限界を迎えようとしていた。
ガチャ
しかし、そんな戦刃の元に奇妙な来訪者が現れる。
「…あーあ。ったく、何勝手に死んでんのよ。残姉ちゃん」
それは、戦刃の妹であり現在苗木の『レクエイム』により『死の輪廻』に囚われている筈の江ノ島盾子であった。
「……」
「…アンタがこんなあっけなく死ぬなんてね。ホント、『超高校級の軍人』…あ、今は『元』か。それが聞いて呆れるよね~…こんなんだったら、コロシアイ学園生活の時に殺っときゃよかったかな~。キャハハハハハ!」
姉の無残な姿を前に江ノ島はケタケタと嗤っていたが、ふと嗤い止むと戦刃の傍に屈みこむ。
「…ま、アンタが死のうが今更どうでもいいんだけどね。苗木の『駒』が一つ減ってプッチを有利にすんのも癪だし、それに…アンタを『希望』のまま死なせてやるほど私は優しくないのよね…!」
江ノ島は戦刃の身体を弄り、懐からナイフを一振り失敬すると、なんとそれを戦刃の身体に突き立て、麻酔も無しに『手術』を敢行し出したのである。
「……ッ」
「お?意識は無くっても痛いのは痛いんだ?ま、アンタの都合なんか知ったこっちゃないし、精々我慢しててよね~♪うぷぷ…道具も情報も一切なしで麻酔無しの外科手術とか、絶望的にも程があるって感じ~!…あ、無菌室は?とか、消毒した?とか真面目なツッコミしないでよね?超天才の私がやってんだからそんなの要るワケないじゃん!うぷぷぷぷ…!」
軽口を叩いてはいるが、松田を通じて名だたる名医たちの技術を『分析』した江ノ島の執刀は正確かつ手際のいい見事なもので、傷口が汚染される前に戦刃の術式を終わらせてしまった。
「ふぅ~…術式完了、って感じ?我ながらブラックジャックも真っ青な手腕だね!…色も似てるし!」
「……」
「…ま、毒で死にそうだってのに外科手術で助かるワケないんだけどね~!…私がやったのは喉の縫合と肉体を『仮死状態』にする処置だけ。今すぐ死にはしないけどだからと言って助かるわけでもない…。けど、君にはそれで十分だろう?苗木…」
…ダダダダダッ!
「…ん?」
一仕事終えた江ノ島が一息ついていると、部屋の外から何かがこちらに近づいてきた。
ガチャッ!!
『ここか!姐さん…ッ!?貴様は…』
「あれ?アンタ確か…『フー・ファイターズ』、『F・F』とか言ったっけ?」
ドアをぶち破る勢いで飛び込んできたのは、イタリアのパッショーネ本家にいる筈の『F・F』であった。
『江ノ島盾子…!?何故貴様がここにいる!』
「ん~…端的に言えば『死にに来た』ってのが答えなんだけど、ここまでわざわざ来たのは単なる『気まぐれ』だよ。…まあまあ、そうカッカしないでよね~。心配しなくてもアンタの大ボスのせいでこっちは悪さなんかできないんだしさ?」
『…その割には随分と楽しそうじゃあないか。ジョジョが『レクイエム』を解いたとは聞いてないぞ?』
「そうなんだけどね~。苗木ったら私に甘々でさ~、こっちの状況に影響しない程度だったらある程度は好きにしていいって風に『レクイエム』を設定しといてくれたみたいなんだよね~。…まー死に続けても私には意味ないから諦めたのかもしれないけど」
『…つくづくお前がニンゲンなのか分からなくなる。どんな生物だろうと、死ぬのは怖い。それは『理性』ではなく『本能』から来るものだ。絶望に染まった連中でも、最期の一瞬にはそれを恐れる。…なのにお前は死をむしろ『歓迎』しているようにも見える。それは人間どころか『生物』として破綻している』
「…理解できない、といった感じだね。だったら憶えておきなよ、…それが『絶望』なんだよ。理解できないから排他される、共感できないから忌み嫌われる。『絶望』というのは、誰もが持っているのにそれを認めようとしない、言わば『人類の産業廃棄物』とでも言うべきものなのさ」
『…そんなものを愛しているお前は、さしずめ人類種の『ゴキブリ』と言った所だな』
「その言い方酷くな~い?ま、それはいいとして…こっちからも聞かせてよ。…アンタの方こそ、何しにこんなところまで来てんの?しかも『そんな姿』で…」
『……』
江ノ島の言う『F・F』の姿は、趣味の悪いマネキンのような姿…最初に苗木を襲った時の、『フー・ファイターズ』の本来の姿であった。
『F・F』はプランクトンとスタンドが融合して生まれた『新生物』である。その体は無数のプランクトンの集合体であり、それらが水分を吸収し肥大化することで人間並みのサイズを保っている…が、その保水力はさほどの物ではない為、『F・F』本来の姿のままだと何もしないでも体から水分が抜けてしまい、1日もしないうちに豆粒並の大きさまで縮んでしまう。
なので、『F・F』は普段はヤドカリのように『生物の死体』を宿とし、水分を保持するための『外皮』としているのである。人間社会での活動の都合上、やはり『人間の死体』を基本としており、その多くはパッショーネ内部から志願のあった『ドナー』で賄われている。『F・F』は宿とした生物の『記憶』や『経験』を引き継げるため、元々優秀な人間を宿にすればその能力を十二分に発揮できるのだ。…無論、倫理学上誉められたことではないが、パッショーネ内外を問わず苗木に忠誠を誓うものは多く、例え死んでしまっても尚も苗木の役に立ちたいという者達が『F・F』に肉体を提供しているのである。
…つまり、近くに水場の無いここで『F・F』が本来の姿でいるのは、半ば自殺行為に近い、江ノ島の指摘はそういうことであった。
『…貴様に気にかけられる必要はない。どの道片道切符のつもりで来たのだ、覚悟はできている。…さあ、そこをどけ。私はそこにいる方の為にここにいるんだ…!』
『F・F』は江ノ島の後ろに横たわる戦刃に視線を移して言う。
「…ふーん、大した忠誠心だこと。人間でもないアンタがなんでそこまでする訳?ぶっちゃけアンタ一人なら人類滅んだって生き残れるでしょ?トンズラこいちゃえば楽なのにさ」
『…私は別にそんなつもりでジョジョに従っている訳ではない』
「…へぇ、じゃあなんなのさ?」
『ジョジョは…苗木は、私の『友達』だからな。友達に悲しい思いをさせたくないという気持ちに、人間である必要はないだろう?』
「……ぷっ、アッハハハハハハハ!!」
『F・F』の言葉に一瞬きょとんとした後、江ノ島は堰を切ったように笑い出した。
『な、何が可笑しい…?』
「クックック…いやあ、あのドンファンの『伝染力』を嘗めてたなあって。まさか『人外』まで希望に染め上げるなんてねぇ~…流石に私もそれは予想外だったわ。うぷぷ…愉快愉快♪」
『…どうでもいいが早くどいてくれ。時間が惜しい…!』
「はいはい。…んじゃ、用事も終わったし私もドロンしよっかな」
笑いきって満足した様子の江ノ島は、立ち上がるとそのまま先ほど天願が割ったガラスの方へと歩き出す。そして
『…貴様、何を…?』
「苗木に会ったら伝えといてよ。…希望でも絶望でもどーでもいいけど、あのハゲ神父にだけはいい思いさせんな、ってさ。…んじゃ、バイビー♪」
割れたガラスの向こうに身を投げ、真下の吹き抜けへと落ちて行った。
『な…ッ!?貴様…』
思わず動揺し落ちた先を覗き込むが、その下はトラッシュルームに直結した底の見えない縦穴になっており、当然江ノ島の姿など確認できなかった。
『…本当に何をしに来たのだ、あの女は…。まあいい、それより早く姐さんを…』
『F・F』は江ノ島の奇行に呆れつつも『目的』を果たすべく戦刃の傍により…気が付く。
『これは…手当がされている?まさか、あの女が…いや、そんなことはどうでもいい。これなら…まだ間に合うッ!』
「…ここ、は?」
戦刃が気が付いたのは、まるで映画館のような『劇場』の中であった。
「私は、一体……ッ!そうだ、私は…襲撃者に…!」
「…お目覚めかな、御嬢さん?」
「ッ!?」
ふと横からかけられた声に思わず腰のナイフを抜きながら振り向くと、そこにはアラビア風の衣装に身を包んだ螺髪の様な髪型のガタイのいい『中東系の男』が座っていた。
「…お前は誰だ?これはお前の仕業か?」
「…御嬢さん、そんな物騒なものはしまいなさい。心配せずとも、私は君に危害を加えるような真似はしない。それは約束しよう」
「……」
少々厳つい面構えながらも丁寧な言葉遣いの男の態度に、戦刃は渋々ナイフを引く。
「…さて、まずは自己紹介をしなければな。私の名前は、『モハメド・アヴドゥル』。しがない占い師だ。御嬢さんにとっては、ここの『先客』になるがね」
「…アヴドゥル?」
どこかで聞いた覚えのあるその名に、戦刃は片眉を下げて考え込む。それを見たアヴドゥルは笑いながら『ヒント』を問いかける。
「…『ジョースターさん』はまだご健在かな?御嬢さん」
「ジョースターさん……あッ!」
そこで戦刃は思い出した。かつて承太郎やジョセフたちと共にDIOを倒す為にエジプトへと向かい、志半ばで散ったというスタンド使いの名を。それこそが、『モハメド・アヴドゥル』。『魔術師』のアルカナを司るスタンド『マジシャンズ・レッド』の使い手であった男だ。
「え、えっと…お、お噂はかねがね?」
「ハッハッハ!そう畏まることは無いさ。言っただろう、しがない占い師だと。…ところで、御嬢さんのお名前をお聞かせ願ってもよろしいかな?」
「は、はい…戦刃むくろです」
「うむ、では戦刃さん。先の君の質問だが、ここはどこかという意味も含めて答えるのなら…『私という存在』がここにいることが答えだ、と言えば分かるかな?」
「え…あ、え……あ、ああ…ッ!?」
たどたどしい言葉を漏らしながら、戦刃は理解してしまう。…十数年前に死んだ筈の人物が隣に居るのなら、ここがどこかなど答えは『一つ』しかない。
「…私は、『死んだ』ん、ですか…?」
「……」
その言葉を口にした瞬間、戦刃の脳裏にあの瞬間がフラッシュバックする。
『ここは…希望ヶ峰学園?しかも…これは、コロシアイ学園生活が始まる前の…!』
『ラリホー!とうとうテメーがおっ死ぬ時が来たってな、戦刃むくろォ~!』
『ふざッ…けるな…ッ!誠君が、盾子ちゃんが、そんなことを言うものかッ!これ以上二人を馬鹿にすることは、私が許さない…ッ!』
『こいつ…自分の『意識』に逆らいやがっただと…!?』
『…あーッ!メンドクセェ~ッ!!こうなりゃ一思いにぶった切ってやんぜーッ!!』
『しま…ッ』
ブシュゥッ!!
「…え、あ…嘘…?わ、私…」
「…どうやら、思い出したようだね」
「あ…ああああ…ッ!」
震えが止まらない。死の恐怖など、とうの昔に捨てた筈なのに。江ノ島の道具に徹すると決めた時に、苗木に自分の全てを捧げると誓った時に、死ぬ覚悟など出来ていた筈なのに。
(なんで…どうして、今更…『死にたくない』なんて考えてるの、私は…ッ!?)
「…ワンッ!」
「……え?」
足元から聞こえた『鳴き声』に思わず顔を上げると、そこにはふてぶてしい顔で自分を観察する一頭の『ボストン・テリア』が座っていた。
「ワンワン…ワンッ!」
「…この子、は…?」
「『イギー』が言っている。『いい女がそんな酷い顔をするもんじゃあない』…とな」
「イギー…?」
「…戦刃さん。君のその感情は、決して不可解な物などではないぞ」
「ッ!?」
半ば恐慌状態になりかけていたところをイギーによって正気に戻された戦刃に、アヴドゥルは優しく語りかける。
「戦刃さん。君が今まで死を恐れなかったのは、君が江ノ島盾子という『絶望』に従っていたからだ。…人間にとって、『死』とは『絶望』に他ならない。人は誰しも死を恐れ、それから遠ざかろうとする。だからこそ彼女たち『絶望』は死を受け入れ、死を以てして多くの人々に絶望を伝染させた。…その中心に限りなく近くに居た君は、傭兵としての経験も相まって死を身近に考え過ぎていたのだ。だから君は死に対して『鈍感』になってしまったのだよ」
「…どうして、そんなことが分かるの?」
「…ここは死して尚この世に未練のある者達が迷い込む一種の幽世。言うなれば、『あの世シアター』とでも言うべき場所だ。…何故ここが『映画館』のような場所になっているのか分かるかね?…それは。ここから『この世』の様子を見ることができるからなのだよ」
フッ…!
アヴドゥルが正面のスクリーンを指差すと、後方の映写機が独りでに動き出し、やがて映像が…未来機関本部内の様子が映し出される。
「あ…ッ!?」
スクリーンの中では、雪染の真実を知り自棄になりかけている宗方に必死で応戦する霧切たちの姿が映っている。
「分かったかね?ここでは現実の様子が手に取るようにわかる。それこそまるで、我々の世界があたかも『映像作品』であるかのように、過去や未来の出来事であろうと自由に見られる。…大変失礼だが、君がここに来る前に君に関することを少々閲覧させて貰った。…ああ、もちろん君のプライバシーには最大限に考慮はさせてもらったよ」
「ワンワンワン…(ケッ…、血と硝煙ばっかで色気の欠片もネー記憶だったけどな)」
「……」
理解が追いついていないのか、フリーズ寸前の戦刃に呼びかけるようにアヴドゥルは続ける。
「ゴホン!…まあそう言う訳で、君は死に…と言うより、『生』に執着がなかった。江ノ島盾子の為に生き、そして死ぬ。そんな生き方に、君は納得してしまっていたからだ。…だからこそ、苗木君と出会い、彼に『恋』をしたことで君は変わった。愛する者に利用されるのではなく、ただ純粋に人を愛し、愛される喜びを知ってしまったことで君は『生きたい』と願うようになった。苗木君が齎した『真実の愛』によって、以前の『歪んだ愛情』で構成された『戦刃むくろ』は生まれ変わったのだよ。…だから今君が感じているものは、真っ当な人間なら誰もが抱く『当たり前の感情』なのだよ」
「…そっか。私…もう『普通』になってたんだ」
感慨深そうに、戦刃は呟く。江ノ島盾子の言いなりになっていたころの戦刃は、ただ江ノ島の命令を忠実に実行し、それを成すことに喜びを感じていた。どんなにひどい扱いをされようとも、それに一切の不満も不審も抱かず、彼女の手足となっていた。…そんな過去の自分を『異常』だと思えるくらいに、今の戦刃は真っ当な人間になっていた。
「ワンワンワン!(…へっ、やっといい顔になったじゃねえか。アンタ結構美人なんだから、もっと笑っとけよ)」
「フフ…ありがとう、イギー」
「…さて、これで君の疑問には全て答えたことになるかな?」
「はい…でも、もう意味はないみたい…。私は、もう…」
「…さて、それはどうかな?」
「え…?」
ポカンとする戦刃のアヴドゥルは懐から『カードの束』を取り出すとそれをシャッフルし、戦刃に差し出す。
「これは…?」
「『タロットカード』…占いは信じませんかな?物は試しに、一枚引いてください。…それが貴女の『運命』を導いてくれる」
「…じゃあ」
言われるがまま、戦刃はタロットカードの山札の一番上を引く。そのカードは…
「…ほう、『死神』のカードですか」
「…!」
奇しくも、自分を死に追いやったスタンド『デス13』と同じ『死神』のカードであった。
「…あ、はは…。やっぱり、私はダメみたい。自分を殺したカードを引くなんて…ツイてない…」
「…いいや、そうではありません。やはり貴女は『ツイている』。貴女の恋人が齎した『幸運』は、どうやらしっかりと勤めを果たしたようです」
「…え?」
そう言ってアヴドゥルは戦刃の持ったカード…戦刃から見て『逆向き』になった死神のカードを示す。
「確かに、『正位置』の死神のアルカナが示すのは『死』や『終わり』…場合にもよりますが縁起がいいカードではありません。…ですが、貴女は『逆位置』でこのカードを引いた。それが示すものは『新たな転換』、『始まり』、そして…『復活』…!』
ガチャ
ふとその時、背後の扉が開いた。
「……」
「え…だ、誰?」
劇場に入って来たのは、学生服に身を包んだ大人びた雰囲気の男性であった。
「おお、『形兆君』。存外早かったな」
「形兆…?」
「おっと、彼の事も紹介しておこう。彼の名は『虹村形兆』、君の知っている虹村億泰君の『兄』だ」
「ッ!?億泰さんの…お兄さん!?」
「フン…どうせ意味なんざねえってのに、わざわざ面倒なこった」
無愛想に応える形兆は、呆然とする戦刃に声をかける。
「戦刃むくろ…だったか?せっかく来たところ悪いが…お前に客、というより…『お迎え』だ」
「え?」
『…姐さん!』
「え、『F・F』!?」
形兆の脇を通って入って来た『F・F』に戦刃は驚く。
「ど、どうして…あなたがここに?」
『…済まない、姐さん。待機しているよう命令されたのは分かっていたのだが…どうにも、妙な胸騒ぎがして、積み荷に紛れて未来機関の本部までついてきていたんだ。そしたら、葉隠の奴が姐さんがヤバいって言いだしたものだから、居てもたってもいられず本部に忍び込んで…』
「…そう、そうなんだ。だったら、『丁度良かった』」
『…?丁度って、どういう意味だ?』
「『F・F』…私の身体を『使って』。そして、誠君達の力になってあげて」
『…ッ!』
ある意味で予想できていた言葉に、『F・F』は目を見開く。確かに戦刃の肉体を『F・F』が宿にすれば、現在苦戦している霧切たちの力になるのは間違いないだろう。殆ど助かる見込みがない自身の身体の事を考えれば、それが最善かつ最適解であることからの提案であった。
…しかし、その提案に対し『F・F』は首を振る。
『…いいや、姐さん。戻るのは私じゃあない、アンタの方だ』
「え…?でも、私の身体は…」
『大丈夫だ。…どういう訳かは知らんが、江ノ島盾子…姐さんの妹が姐さんの身体を手当てしてくれた。まだアンタの身体は死んじゃあいない』
「盾子ちゃんが…!?」
「…ほう、それはなんとも…」
「あんなバケモンにも情があったのかねえ…」
「ワウ…」
予想外の事実にアヴドゥル達ですら驚く中、『F・F』は戦刃を真っ直ぐ見つめる。
「で、でも…戻るって言っても、どうやって…?」
『…アンタがやれと言った方法、それを『応用』するんだ。アンタの身体に残った僅かな『生命』と『知性』…その足りない分を、『私の命』で代用する。そうすれば、アンタの命を取り戻すことができる』
「…ッ!?ちょ、ちょっと待って…そんなことしたら、あなたは…」
『…まあ、『消える』だろうな。『フー・ファイターズ』という存在はプッチが生み出した『DISC』だから残るだろうが、少なくとも…皆が知っている『F・F』という存在は消えるだろう。私がやってきたのは、そういうことだからな…』
「そ、そんな…ッ!駄目、あなたが死ぬなんて…」
『アンタが死ぬ方がもっと『駄目』なんだよッ!!』
「…!」
人間では無いからか普段冷徹なまでに冷静な『F・F』らしからぬ大声に、戦刃は気圧されてしまう。
『アンタは…『姐さんたち』は、死んじゃダメなんだ。もしアンタらが死んだら…ジョジョは、苗木は悲しむだけじゃなく、遠くに行っちまうような…そんな気がするんだ』
「『F・F』…」
『…ずっと前から、気になってたんだ。ニンゲンは普通一人のオスとメス同士で『つがい』になるのに、なんでジョジョだけ姐さんたち皆とつがいになったんだろう、って。…けど、その理由が少しだけ分かったんだ。今のジョジョは、苗木は『焦っている』。世界がこんなんになっちまっただけじゃなく、プッチがおかしなことを企んでるのを止めるために、無茶な事ばっかりやっている。誰かが止めないと、いつか苗木は死んでしまう。…だから姐さんたちは、皆で苗木がどんな時も『生きたい』って思えるように、精一杯苗木を愛しているんだ…そう、考えたんだ』
「…え、えと…そういうの、面と向かって言われると照れる…」
「…なあ形兆君、やはり今どきの女性は『カワイイ系』とやらが趣味なのだろうか?硬派な男と言うのは時代遅れなのだろうかなぁ…あいや、決して生前モテなかった僻みではないぞう!」
「知らねーよ…」
「がるる…(これだからブ男は…)」
会話に入れない為後ろで様子を見ている男2人とオス一匹を余所に、『F・F』は尚も戦刃を説得する。
『姐さん…これは姐さんだけの為じゃあない。苗木が『人間』で在り続けるために、私たちの『希望』が『希望』で在り続けるために、アンタは生きて、苗木を支えなくちゃだめなんだ。…それが、友達として私が苗木にしてあげられる、精一杯の事なんだ』
「『F・F』…」
ファァァ…!
そうしていると、突如『F・F』の身体が煙のようになり、それが戦刃の身体に吸い込まれるように消えていく。
「…ッ!?待って『F・F』ッ!私はまだ…」
『いいんだ…これが私の『覚悟』だ。私の命と知性…全部アンタにあげるよ。これでアンタは戻れる…だからアンタが苗木の力になってあげるんだ』
「それは…でも…」
『姐さん…もし私の事を想うのなら、一つだけ『お願い』したいんだけど、いいかな?』
「お願い…?」
『これで私という存在が消えてしまえば、もし次に『フー・ファイターズ』が発現しても…それはきっと『私』じゃないだろう。だから、私が居たことを…『F・F』という存在が確かに生きていたということを、どうか忘れないで欲しいんだ』
「…ッ!」
『苗木の為に死ぬのなら怖くない。…けれど、私が居たことを忘れられるのは、何より恐ろしい。…苗木はかつてそう言った私に、『それが心と言うものなんだよ』と教えてくれた。その私の心が、アンタを生かせと言っている。だから私に後悔はない。…けれど、背負って欲しい訳じゃないけど、そんな私が居たことを、どうか忘れないでくれ』
『F・F』の言葉に、嘘や強がりは一切なかった。彼女は本気で戦刃に命を託し、己が消えることを『納得』していた。それを理解した戦刃は、頬を伝う涙を拭って答える。
「…うん…ッ!忘れない、私も…誠君達にも必ず伝える!『F・F』が居たことを、私に命をくれたことを、絶対に忘れないからッ!!」
『…ありがとう。ああ…もう満足だ。死ぬことがこんなにも誇らしいなんて、知らなかったなあ…。…もし、次に…みんなと出逢えたら、また…友達に…』
フゥ…ッ
その言葉を最期に、『F・F』は完全に霧散して消えていった。
「…ありがとう、『F・F』。……アヴドゥルさん」
「分かっている。…『お帰り』はあちらだよ」
『F・F』の命が自身の中に溶けていったのを感じ入った戦刃に、アヴドゥルは一つ指を鳴らすと戦刃の後方を指し示す。そこにはいつの間にか、他とは明らかに違う様子の『扉』が存在していた。
「……」
「その扉を潜れば、君の意識は現実世界に戻れる。肉体が死んでいればまたここに戻されるだけだが…君にその心配は無用だろう」
「…それと、言い忘れてたがここでのことは向こうに戻ったら全て忘れているぜ。前に億泰の奴がここに来た時はぼんやりと憶えていたみてーだが、さっきの『約束』をアンタが憶えたままでいる保証はないぜ?」
「…その心配は必要ない」
「ほお?」
「『F・F』の命は…『心』は、私の中に残っている。それがある限り、私は絶対に忘れたりなんかしない。それが、私たちの『絆』…誠君が信じた『希望』なんだから」
「…ならば、私からも伝言をお願いしよう。承太郎とポルナレフに伝えてくれ、『お前たちはまだこっちには来るなよ』…とな」
「ワウワウ…ワンッ!(ジョースターのジジイには精々ボケるなって伝えときな!)」
「フン…だったら俺もダメもとで頼んどくか。…親父に伝えてくれ、『愛してくれて、ありがとう』…ってな。…それだけは、言えなかったからな」
「…うん。確かに、伝えるから…!」
アヴドゥル、イギー、形兆のメッセージを心に刻み、戦刃は扉を開く。
「皆さん、ありがとう…さようなら!」
「…『黄金の精神』を持つ者達に、正しき『希望』あれ!」
「……ッ」
微かな呻き声をしつつ、戦刃は目を覚ました。
「ここは…私、は…」
ぼんやりとする頭を抑えながら、戦刃は辺りを見わたし…ふと自分の手に何かが『握られている』のに気が付いた。
「…!これは…」
戦刃が手にしていたのは、一枚の『DISC』…『F・F』の意思亡き後の『フー・ファイターズ』のスタンドのDISCであった。それを見た戦刃はハッとなって自分の『喉』に手をやる。
『デス13』によって切り裂かれた戦刃の喉笛。そこは『傷痕』こそ残っているものの完全に塞がっており、毒が回って壊死しかけていた肉体も回復しており、毒による体色の変色も消えていた。『F・F』は傷を治しながら戦刃の体内の毒を取り込み、自らの身体で『血清』を作って解毒していたのである。
「…ッ!」
その傷痕に触れた瞬間、戦刃は理解した。無論、『向こう側』でのことを全て思い出したわけではない。ただ分かっているのは、妹によって命を取り留め、『F・F』に命を救われ、会ったこともない筈の『先達』たちによって送り出されたということである。そしてその事実は、戦刃を突き動かすには十分であった。
「…行かなくちゃ、皆が…誠君が待っている…!」
硬直しかけていた為未だに固い体を動かし、戦刃は立ち上がる。動きは鈍いが、戦刃の身体には力が漲っていた。今の彼女の身体には、『2人分の命』が燃え盛っているのだから。
「一緒に行こう、『F・F』…。貴女がくれた命を、絶対に無駄にはしない…ッ!!」
手にしたDISCを大事そうに懐にしまい、己の中に眠る仲間にそう言って、戦刃は力強く駆け出した。
「…そんな、ことが…」
戦刃の話を聞いた皆の表情は、やはり一様に信じきれていないものであった。内容を考えれば、当然と言えば当然ではあるが。
しかし、承太郎や仗助、億泰たちはその話をまるで得心が入ったかのように聞き入っていた。
「…アヴドゥル、イギー…。フン…死んでも律儀なヤローどもだ、やれやれだぜ…」
「兄貴…ッ!兄貴ィ~ッ!!」
承太郎が懐かしげに空を見上げ、億泰が男泣きにくれるのを仗助たちが宥めている中、苗木は戦刃から渡された『フー・ファイターズ』のDISCに目を落とす。
「…『F・F』。君は、僕にとってかけがえのない友達だった。君のおかげで、僕は…『大切なもの』を失わずに済んだ。…言葉にしきれないほどに、感謝している…!」
「…誠君、その…『フー・ファイターズ』は、どうするの?」
「…今は、使う気にはなれない。それだけ、僕等にとって『F・F』という存在は大きかった。またこれを使って『フー・ファイターズ』を生み出せば、きっと組織の皆が辛い思いをする。だから…しばらくは僕が預かっているよ」
「そうなんだ…」
「…ただ、これだけは約束する。また再び『フー・ファイターズ』の力が必要になって、このDISCを使うことになっても…僕は絶対に、『F・F』のことを忘れない。むくろの命の恩人を、僕の大切な部下であり友人の存在を、この魂に刻み込む。『F・F』がこの世界に生きていた事実を、僕は守り続ける…!」
「うん…!私も、守る。私に託された命を…『F・F』が生きた『証』を、生きて守って見せる。私の『軍人』としての誇りに懸けて…!」
「…さて。その話はまたゆっくり聴くとして…まずはこれからどうするか、じゃな」
天願が全員に音頭を取り、これからの方針を決めようとする。
「…どうするかったって…こんなとこ居たってしょうがないでしょ?私早く自分の支部に戻りたいんだけど。ヨイちゃんだって病院でちゃんと診て貰いたいし」
「でも、どうやって本土まで戻ればいいんだろう…?通信手段は全部本部の中だし…」
「俺らが乗って来たヘリじゃあ、いっぺんに7,8人ぐれーしか送れないしなぁ~…」
「グスッ……あ!だったらよ、アレ使えばいいんじゃあねえか?」
「アレ?」
「ほら、あれだよアレ!」
億泰が指差したのは、先ほどまで自分たちが調査していた『十三支部の輸送船』だった。
「アレは十三支部の…、何故アレがここに?」
「皆が閉じ込められてしばらくしたら、海の向こうからやってきたんだべ。…けど港についても誰も出てこねえから不気味でよぉ…」
「…康一君、中の様子はどうだったんだ?」
「それが…本当に『もぬけの殻』だったんです。人の気配も全然なくて…『積み荷』みたいなのは沢山載ってたんですけど、調べようとしたら本部が崩れ出したのでそこまでは見てないんです」
「…あ、けどよぉ~…。よく分かんねえんだけど、なんかあの中妙に『臭かった』んだよなぁ~。激クサって程じゃあねえんだけど、なんか生ごみが腐ったみてーな臭いがほんのり…」
「げ…大丈夫なのソレ?」
「贅沢を言っていてもしょうがないでしょう。…ひとまず、天願さんや宗方さんはヘリで先に戻って本土に状況を伝えるべきでしょうね。それと、負傷者の十六夜さんもね」
「そうだね…ここにも人手がいるだろうからね。ゴズさんと、雪染さんを…あのままにはしておけないから…」
御手洗が瓦礫の山と化した本部に目を向ける。…と、そこで苗木がふと思い出した。
「…そういえば御手洗さん、さっき言いかけてた『気になること』ってなんだったんですか?」
「え?あ、ああ…別に、そんな大したことじゃあないんだ。ただ、ちょっとだけ変に思っただけで…」
「…構わないわ、教えて頂戴」
「へ?あ、はい…」
「響子ちゃん?」
真剣な面持ちで御手洗に詰め寄る霧切に皆が怪訝そうな顔をするが、苗木はそんな霧切に当たり前のような表情で尋ねる。
「…やはり、響子もまだ気になることがあるんだね?」
「ええ…。今回の一件に関しては、これで『殆ど』終わったと見てもいいわ。けれど…まだ、まだ何か引っかかるの。それがハッキリしないと、全てが終わったとは言えないわ」
「…うん。御手洗さん、続けてください」
「えっと…僕が襲撃者になる時に使った『洗脳ビデオ』なんだけど、その『再生回数』がちょっとね…」
「再生回数?」
「僕が襲撃者になったのは、モノクマの決めたタイムリミットの犠牲者が全部襲撃者によるものなら全部で『5回』。そして苗木がビデオの内容を確かめるのに『1回』再生したから、再生回数は全部で『7回』の筈なんだ。…けど、実際の再生回数は『6回』なんだよ」
「…あれ、1回足りない…?」
「…さっき宗方の言ったとおり雪染がビデオを用意したってんなら、最初の1回はアイツが見せたんじゃあねえのか?こいつが憶えてねえだけでよ」
「…というか、そもそも雪染さんは『何時』御手洗さんのスマートフォンに洗脳ビデオを入れたんでしょう?」
「…御手洗、事件が起きる以前に雪染と会ったのは何時だ?」
「え…いや、僕が雪染さんと会ったのはあの会議室が初めてで…それより前となると、希望ヶ峰学園から逃げ出したあの日しか…」
「ということは…雪染君がそれをできたのは、『最初のタイムリミット』のあの時しかないという訳じゃな」
「…あれ?じゃあ…」
「もしそうだとするなら…彼女は最初のタイムリミットの時には『眠っていなかった』、ということになるわね」
「…そいつはちっとばかし腑に落ちねえなあ。あのちさちゃんが、いくら油断していたとしても…言っちゃ悪いが御手洗君にやられるなんてヘマをするかね?」
「…それ以前に、その『前提』があるともっと根本的な問題があります」
「問題?」
「雪染さんが起きていたのなら、どうやって襲撃者…『眠っている相手しか攻撃できない』筈の『デス13』が雪染さんを殺せたのか、ということです」
「あ…ッ!」
苗木のもっともな指摘に皆が目を丸くする。
「確かにそうだよ…!『デス13』が夢の中でしか相手を殺せないのなら、起きていた雪染さんをどうやって殺したんだろう?」
「宗方君の言うとおり自ら殺させたにしろ、あの状況ではどう殺したところで証拠が残ってしまう。まして雪染君の遺体は『シャンデリアに吊るされていた』、御手洗君の細腕でそれができたか…」
「…まさか、『自殺』…?」
霧切の推理がそこに行きついた、その時
ガララッ…!
「ッ!?」
瓦礫の山の一部が突如崩れ、皆がそれに反応してその方向を向く。
「な、何!?」
「…気のせい、か?」
「…おーい、皆さん…!聞こえていますかー…」
「ッ!?その声…まさか、『ゴズさん』!?」
音の方向から聞こえてきたのは、なんと『ゴズの声』であった。
「ご、ゴズさんッ!どこに…どこに居るんですかーッ!?」
「…こ、ここです…!私はここですよー…」
「…!グレート…皆、見つけたぜ!」
思わずその方向に皆が駆け出し、声の出所を探っていると、仗助が崩れた瓦礫の隙間から僅かに伸びた『ゴズの手』を見つけた。
「ゴズさんッ…!良かった、無事だったんですね!」
「ははは…まあなんとかですが。と言っても、既に死んでいるので元々無事とは言い難いのですが…」
「言ってる場合かよ…ったく…!」
「なんとまあ…こんな奇跡もあったものか」
置いて行ってしまった引け目もあってか、瓦礫の下から聞こえるゴズの声に皆も安堵の表情を浮かべる。
「…とはいえ、ちょっと今身動きが取れない状況でして…。済みませんが仗助さん…貴方のスタンドで引き揚げてもらってもよろしいでしょうか?貴方でしたら軽いものでしょう?」
「…おう!任せとけ、『クレイジー・ダイヤモンド』!!」
一番近くに居た仗助が張り切って『クレイジー・ダイヤモンド』を発現させ、ゴズの手を掴んで瓦礫の山から引き揚げようとする。
(…なんだ、今の違和感…?)
それを遠巻きに見ていた苗木だったが、ゴズの言葉端に『違和感』を憶えてふと考える。
(瓦礫に挟まれて動けないのはいい、スタンドを使って引き上げるというのも変じゃあない……けど、なんで『仗助さん』なんだ?)
この場にいるスタンド使いの中で、ゴズの巨体を瓦礫から引き上げられるほどのパワーを持っている者は限られている。しかしそれでも、仗助を『名指し』で指名したことに苗木は不審に思う。…まるで、『仗助が近くに居るのを知っていた』ようだと。
「よし…一気に行くぜ、我慢してくれよ!」
「はい…どうぞ!」
「……」
目の前でゴズが引き揚げられようとする中、苗木は念のためにと足元…正確にはゴズが居るであろう『瓦礫の下』の生命エネルギーを探る。
「行くぜ…せーのッ!」
『ドラァッ!』
『クレイジー・ダイヤモンド』が力を籠め、ゴズを思い切り引っ張りだす瞬間、苗木は感じてしまった。
「…!」
瓦礫の下のゴズが居るであろう場所から、微かではあるが『生命エネルギー』が上へと引き揚げられるのを。
「…仗助さんッ!!その手を離せ!!離すんだァァァァッ!!!」
「え?」
苗木が叫んだ時には、既に遅かった。
ヒュパァン…ッ!
『クレイジー・ダイヤモンド』が掴んだゴズの腕から飛び出た『何か』が一瞬閃くと同時に
ボトリ…
「…え?」
仗助の両腕が『切り落とされた』。
「…う、おお…ッ!?」
仗助がそのことに気づくよりも早く、ゴズの身体から『何か』が飛び出し、皆の間を神速の如く駆け抜けていく。
「……あ…」
その射線上に居た舞園が正気に還るより早く、接近した『それ』は腕を振り上げ…
「さやかッ!!」
ドンッ!
寸前、間に割って入った苗木が舞園を突き飛ばした…が。
シュパァン…ッ!
「……え?」
一瞬閃光が走ったかと思うと、舞園の長く美しい黒髪が半ばから断ち切られ…
「なッ…!?」
射線上に割り込んだ苗木の『脇から下』が腕ごと切り飛ばされ、上半身が宙を舞った。
パスッ
ズザザザザ…
苗木を切り裂いた張本人は宙を舞う苗木の身体を抱きとめ、そのままの勢いで駆け抜けていきやがて自らブレーキをかけたことでようやく停止する。
「……は?」
そこでようやく、皆は何が起こったのかに気が付いた。
「じょ…仗助ッ!!」
「仗助君!?」
「仗助ェーッ!!?」
腕を失い気を失った仗助に承太郎たちが駆け寄る。
「…!?さ、さやかちゃん!その髪どうしたの…って、きゃあッ!?」
「え…?これ、誠君…え…?」
「な、苗木っち…?なんで腕と体だけ…ど、どういうことなんだべェーッ!!?」
「何が、何が起きて…」
「…う~ん、苗木君が庇うだろうから二人まとめて…と思ったんだけど、そううまくはいかないね」
「…え?」
後方から聞こえてきた声に皆が思わず目を見開き、その方向を振り返る。
「うあ…な、ぜ…?」
「うん?…へぇー、そんなになっても死なないんだ。吸血鬼も思ったより頑丈だね。…にしても君もちょっと油断が過ぎたみたいね。早く『レクイエム』を戻していればこうはならなかったのに」
そこにいたのは、苗木の胸から上の部分を大事そうに抱える一人の『女性』。皆はその姿に、その声に余りにも見覚えがあった。…特に、宗方と逆蔵は目だけでなくあんぐりと口を開き、まるで恐ろしいものを見ているかのように絶句していた。
「…な、なんで…?」
「嘘…」
皆もまた言葉もない中、苗木が絞り出すような声でこの場の全員の気持ちを代弁するように問う。もう決して問いなどできない筈だった、彼女に向けて。
「何故…どうして貴女がここに居るんです、…『雪染さん』ッ!!?」
『光り輝くサーベル』を腕から生やした『雪染ちさ』は、そんな苗木に目を落とし、妖艶な笑みを浮かべるのであった。
…その頃、かろうじて崩壊を免れた放送棟。その管制室に、『奴』の姿があった。
「…ここか」
輸送船から億泰たちの目を盗んで島に上陸し、誰にも気づかれることなくここに忍び込んだそいつは、管制室のモニターの前に立つとそれを操作し始める。
ピッピッピ…ピコーン!
「…ふむ。どうやらこの施設は問題ないようだな。先ほど本部が崩壊した時は少し焦ったが…ひとまず私の『目的』を果たすぶんには支障は出ないか」
本来未来機関の『支部長クラス』しかパスできない認証システムを、どこで手に入れたのか未来機関の『身分証』を使って軽々とパスしたそいつは、管制室の『衛星データ』を操作しにかかる。
「現在、この世界で唯一機能している未来機関の『気象衛星』…。そのデータを基に検索すれば、必ず見つかる筈だ…。私の求める『条件』を満たす『場所』が…!」
「…そうか。だが、お前がそれを知ることも、知る必要もない。何故ならお前はここで死ぬからだ」
「ッ!?」
後方から聞こえてきた声に振り返ると、出入り口からこちらを睨みながらゆっくりとやってくる男…『ウェザー・リポート』の姿が見える。
「…やはりお前だったか、ウェザー。その様子では、どうやら自分の『真実』を知ったようだな。…私が憎いか、ウェザー?お前は私に『復讐』する為にここに来た、そうだろう?」
「…いや、違う。その気持ちも無くはないが、今の俺の『目的』はそれじゃあない」
「…何だと?」
ウェザーの意外な返答に本気で驚くそいつに、ウェザーは顔の険を少し緩めて語りかける。
「…正直に言おう。『ペルラ』のことで、もうアンタを恨んじゃあいないよ『兄さん』」
「…ッ!!?」
先程とはうって変わって穏やかな声音のウェザーが放った余りにも衝撃的すぎるその言葉に、今度こそそいつは心臓が止まるかと思うほどに動揺した。
「……何を、何を言っている…!?お前が私を恨んではいないだとッ!?そんな…そんな馬鹿なことが…」
「ああ…確かに、馬鹿げたことを言ってると思うよ、自分でも。記憶が戻っただけだったら、俺はきっとアンタを許すことなんかできちゃあいない。…けれど、ジョジョの…苗木の傍に居て、いろんなことを考えるようになって…それで、分かったんだ。アンタはきっと、ペルラと俺の事を想って俺達の仲を引き裂こうとしたんだって。俺と彼女では…『血の繋がった兄妹』では幸せになれない、そう考えたからだろうって」
「…!」
「…結果的に、アンタがしたことは全部裏目に出た。ペルラは死に、俺はアンタを許せなくなった。だからアンタは俺から『記憶』を奪った。半分は自分の為だが…それでも、俺を辛い過去から遠ざけようとして。…少なくとも、その時のアンタはそうだったんじゃあないか?」
「……」
ウェザーの言葉に、視線に、そいつは身が竦む思いをする。全てを奪い、忘却の果てに置き去りにした筈のウェザーが、いつの間にか自分の真後ろについているような、そんな錯覚を覚えていた。
「だから俺は、アンタを『恨み』では殺さない。憎しみに任せて復讐はしない。…俺がアンタを倒すのは、苗木の為…そして、アンタの『弟』として下らねえ真似をさせねえためだ…ッ!」
ドォンッ…!
ウェザーが己のスタンドを、『ウェザー・リポート』を発現させる。それと同時に、ウェザーの頭上に今まで無かった筈の『虹』が…ただしどこか不気味な禍々しい雰囲気の虹が現れる。
「『ヘビーウェザー』…アンタが奪った俺の『能力』…。この力で、アンタを止める…!それが、俺の『ウェス・ブルーマリン』としての最後のケジメだ…!」
「……そうか。お前は、そこまで『成長』したのか。私を憎しみではなく、責務として倒す覚悟が定まるほどに…」
そいつはウェザーを観察するように見つめ、一瞬だけ懐かしむような顔になり…しかしやがて表情を殺しウェザーに向き直る。
「だがもう遅い…もう遅いのだ!お前がどれだけ変わろうが、既に『運命』は定まっているッ!貴様の『悪魔の虹』を以てしても、運命は変わらないッ!!」
「変わるさ…過去は変わらなくとも、未来は変えられる…!未来を変えられるなら、運命だって変えてみせる…!それが俺達、『パッショーネ』の生き様だ…!」
「…いいだろう。ならば見せてやろう、既に『月夜』は終わりを告げた。『白夜』の時は終わり、『三日月』へと時は進む。…『新月』へと至る過程の力を、その身に刻め…ウェザー!」
苗木達の知らぬところで、もう一つの決戦の幕が開けた。
黒 幕 襲 来。
あー疲れた…次回の更新はちょっと間が空くかもなので気長にお待ちください
色々言いたいことはあるでしょうけど詳しいことは次回で説明します