あと、冒頭だけ分かる人にしか分からないネタがあるので注意。
それは、なんでもないとある一日のことであった。
「…あ、七海さんと日向さんですよ」
「あら、本当ね」
舞園、霧切、セレス、山田という奇妙な面子で寄宿舎をうろついていると、宿舎内にある休憩所のテーブルに七海千秋と日向・Z・創がテーブル越しに向き合っているのを見つけた。
「成程、今日は休日ですから予備学科の生徒もここに入れたという訳ですか。となると、今はデートの真っ最中といったところでしょうか?」
「それにしては…あんなところで何をしているんでしょうなあ?」
「…?何か、テーブルの上に広げてますね?」
「…カードかしら?」
「…『龍覇 ザ=デッドマン』を召喚。その能力で超次元ゾーンから『侵攻する神秘 ニガ=アブシューム』をバトルゾーンへ。ターンエンド時に、マナゾーンからドラゴン5体を手札に戻して龍解。『五邪王 ニガ=ヴェルムート』にしてターンエンドだよ」
「お、俺のターン…。『コッコ・ルピア』の効果で5マナで『ボルメテウス・ホワイト・ドラゴン』を召喚。バトルゾーンの『トット・ピピッチ』の効果でスピードアタッカーを得る。さらに3マナで『緑神龍 グレガリゴン』を召喚。1マナで『紅神龍 ガルドス』も召喚!…ボルメテウスでシールドをWブレイク!」
「ニガ=ヴェルムートの効果でアンタップしているクリーチャーを一体マナゾーン送りにするよ」
「…『コッコ・ルピア』をマナへ。ボルメテウスで今度こそWブレイク!シールドは効果で墓地送りだ!続けてグレガリゴンでシールドをWブレイク!」
「ニガ=ヴェルムートの効果はつど~…」
「ガルドスをマナへ!シールドをブレイク!」
「…トリガーは無しだよ」
「ターンエンド…」
(よし、今回は行ける…!まだ手札には『ボルメテウス・ゼロ』がいる…!残りのシールドは1枚、次のターンに『アレ』が来なければゼロとトットで止めを…)
「私のターン、デッドマンの効果で5マナで『永遠のリュウセイ・カイザー』を召喚」
「…ジーザス」
「えっと…カードゲームしてるんですよね?」
「ええ、アレは『デュエル・マスターズ』…通称デュエマというカードゲームですな。絵柄のカッコ良さが人気のTCGの一つなのですが…。僕の目から見ても、これはいわゆる『チェックメイト』ですな」
「そうなんですの?」
「ええ。このゲームでは出したクリーチャーは最初のターン『アンタップ』という状態で出しますので攻撃できませんが、その代わり普通は攻撃でやられることもありません。…ですが、あの『永遠のリュウセイ・カイザー』の効果でどんなクリーチャーも『タップ』…無防備な状態でしか出せなくなるのです。そして七海千秋殿の場には、パワー18000のニガ=ヴェルムートが居ます」
「…つまり?」
「出した傍から殴られて墓地送りになるため、パワー18000以上のクリーチャーを出すか呪文でリュウセイ・カイザーを退けるしかもう日向・Z・創殿に勝ち目はないのです。…とはいえ、まだシールドはあるのでトリガーさえ来れば……あ、『石像男』出されましたな。もうお手上げ状態ですな」
「日向さん死んだ目をしてます…」
「チクショウ、また負けた…」
「日向君もサイキック使ったら?そうすれば勝てると思うよ?」
「サイキックは俺にはややこしいんだよ…」
「じゃあゲーム変える?遊戯王やろー?」
「お前『ネクロス』とか『クリフォート』とか使うだろ…?『カオスドラゴン』の俺じゃあ速攻で負けるっつーの…」
「むー、しょうがないなあ日向君は。じゃあ手加減して『妖仙獣』で………あ、舞園さん」
「…え?」
「アハハ…お、お邪魔します」
舞園達が来たことで七海と日向は一旦デュエルをやめ、皆でお茶をすることにした。
「…恥ずかしい所見られちまったな。あんなボロクソに負けたとこ…」
「いや、アレは仕方がありませんよ。…それにしても、七海千秋殿がカードゲームまで嗜んでいたとは、流石『超高校級のゲーマー』ですな」
「下手なゲームソフトより高くつくのが難点だけどね~。山田君もやるの?」
「フッフッフ…。某がブ○ロード系統しか持っていないと思ったら大間違いですぞ。なんならこの僕の『霊獣』デッキの恐ろしさを…」
「お黙り豚」
「ブヒィッ!?」
「…それにしても、不思議に思ってたんですけど、どうして日向さんと七海さんがお付き合いするようになったんですか?」
「え?」
「だって、日向さんはその…『予備学科』の生徒なんですよね?こうやって個人的な付き合いをするならともかく、普通は予備学科と本科の生徒との交流は殆どないと聞いたんですけど…」
「…そういえばそうね。私たちの代にも予備科の新入生はいるけど、今まで会ったことが無いわ。お二人は…というか日向さんと77期の皆さんはいつお知り合いになったのですか?」
舞園と霧切のその問いに、七海はぽやんと、日向は気恥ずかしそうに頬を掻いて応える。
「う~ん…、ぶっちゃけあんまり話したくはないんだけどなぁ。…どうする?」
「別にいいんじゃないかな?…もう『時効』でもいいし」
「あ、ありがとうございます…」
「時効?」
「あー…。まあそれに関しては聞けば分かるさ。…んじゃ、折角だから教えてやるよ。俺と七海たちがどうやって知り合ったかってことをよ…」
「なあ、お前ら『予備学科』って知ってっか?」
事の始まりは77期生達がようやく馴染んできた5月の始め、教室での左右田のそんな一言であった。
「予備科?なんだそりゃ?」
「終里…貴様そんなことも知らんのか?」
「確か…、ここ最近始まったっていう希望ヶ峰学園の『一般枠』の俗称だっけ?」
「よーするにネームバリュー狙いの負け犬どもの巣窟でしょ?それがどうしたのよ?」
「いやさあ、予備学科っつっても俺らの同期なんだしさあ。やっぱちょっと気になるっていうか…」
「…要するに見に行きたいから一緒に行かねえかってことかよ」
「それは良い考えですわね!庶民の人々との見聞を広めるのは有意義なことですわ!」
「フムフム、一般ピープルの中にも可愛い子ちゃんがいるかもしれないしそそられる話ではあるねえ」
「うむ!まだ見ぬ才能を発掘するのもマネージャーの務めじゃしのう!」
「…悪くはないか。魔獣どもの眷属となりゆる者どもがいるやもしれんからな(意訳:僕と同じ動物好きがいると嬉しいな)」
「うっし!じゃあ皆で…」
「…僕はやめとくよ」
賛同するものが出始めた中で、狛枝が冷めた表情でそう言う。
「あ?んだよしけてんな、いいじゃねえか減るもんじゃねーし…」
「減るさ。何故君たちのような希望のタマゴともいえるような人たちがそんな才能の欠片も持ち合わせていないような連中の為に時間を割かなくちゃいけないのさ?そんなの、時間の無駄以外の何物でもないよ」
「…またこいつは訳の分からんことを」
「…俺も興味ねえ、パスだ」
「私もそうさせてもらおう」
「私もやだー!負け犬の顔なんかどーだっていいしー」
「わ、私も遠慮しときますぅ…。あの辺りってなんだか視線が怖いので…」
「…ったく仕方ねえなあ…」
狛枝を始め九頭竜、辺古山、西園寺、十神(偽)、罪木も拒否したため、左右田たちは仕方なく彼らを残して予備科へと向かった。
「………」
「………」
「……なんだこりゃ」
予備科の校舎へとやって来た左右田達を待っていたのは、予備学科生徒達からの凄まじい密度の視線であった。もちろん純粋に本科の校舎からやって来た生徒たちに対する憧れの視線もあったのだが、その多くは妬み、僻みといった嫉妬の感情から、自分たちの領域に入ってきた『異物』に対する警戒心のようなものなど、要するに敵意むき出しの視線が多かったのである。その視線は決して言葉を語ることはなく、ただただ遠くから彼らを射抜くように見つめているだけであった。
「がるる…こいつらなんか気に入らねえぞ」
「…か、完全にアウェーだねえ」
「なんだか怖いですわ…」
「…所詮平民は平民であった、ということか」
「…なんか悪ぃな皆、変な気分にさせちまってよ」
「べ、べつにいいっすよ!初ライブのときなんかこんな感じだったし…」
「…とにかく、もう戻りましょ…」
「…あれ?」
と、居心地の悪さに回れ右して帰ろうとした時、七海が何かを見つけた。
「どうしました七海さん?」
「いやね、ほらあれ…」
そう言って七海が指差した方向には、何やら奇抜な装いをした男子生徒がコップを片手に女子と談笑している姿があった。
「…それで日向君、手品って何を見せてくれるの?」
「慌てなさんなシニョリーナ。このコップをよーく見てごらん」
期待するような視線を向ける女子に対し、男子、日向・Z・創は手に持ったコップを指差し甘い口調で話しかける。
「コップの中身って…水?」
「ああ、ただの水だ。なんの仕掛けもないだろう?…よく見とけよ」
そう言うと日向はコップの中に指を一本突っ込み、そのまま深く息をする。
「コオォォォォォ…」
バジバジッ!
その瞬間コップに一瞬電気のようなものが迸ったかと思うと、日向は指を突っ込んだままのコップから手を放した。その先の展開を予想した女子は思わず離れようとした。が
「えっ!?……え?えええ?ええええええええッ!!?」
なんと支えを失ったはずのコップは下に落ちることなくその位置で止まっていたのである。まるでコップの中に入っている指で釣り上げられているかのようであったが、ただの水に浸かっているだけなのでそんなことは絶対にありえない。驚愕の余り大声を上げた女子を面白そうに見やると、日向は次の段階に移る。
「まだまだ、さらにこいつを…」
日向は指が中に入ったままのコップを手首を捻ってひっくり返す。しかし、コップの中身の水はぶちまけられるどころか波打ったまま決してコップから零れない。そして日向がその状態のままコップをゆっくりと持ち上げると
「ええええ…」
「ニョホホ、どうだいシニョリーナ、まるでプリンみたいだろう?」
日向の言ったとおり、コップの中の水はコップ本体と離れ、コップに入った状態のままの形で指が刺さったままプリンのようにプルプルと震えて固定されていた。さらに不思議なことに、水は決して完全に固まっている訳ではなく、形は崩さないまま水自体は対流していたのである。
予想以上の出来事にぽかんとする女子に、再び日向は甘い声で語りかける。
「どうだい?少しは気に入ってくれたかな?」
「…い、いや、あんまり凄すぎて…よくわかんなかったよ…」
「そうかい?だったら今度はもっと落ち着ける場所でじっくり見せてやるよ。例えばそう、俺の家なんかで…」
バクッ
「…ん?」
不意に感じた喪失感に日向が怪訝そうな顔でその方向を見ると、指先に固定されていた水の半分以上がまるで齧られたかのように無くなっており、その傍にはなにやら口をもっちゃもっちゃと動かす野性味溢れる女子、終里が立っていた。
「むごむご…ん?んだこりゃ?うまそーだと思って喰ってみたら口に入れた途端ただの水になっちまったぞ?」
「…そりゃそうだろ。それ寒天やゼラチンで固めた訳じゃあないんだぞ。…というか御嬢さんどなただよ?」
「おう!オレは終里朱音ってんだ!よろしくな!」
「俺は日向・Z・創。よろしく。…話の途中だったね、それでシニョリーナ…あれ?」
いきなりの闖入者に対処しつつ、日向がナンパを再開しようとすると、さっきまでそこにいた女子生徒はいつの間にかいなくなっていた。
「ありゃ、逃げられたか。残念…」
「なあなあ!今のもう一回やってくれよ!今度はプルプルの内に喰ってやっからよ!」
「だから無理だって…」
「おおーいッ!」
馬鹿丸出しの終里と話していると、向こうから左右田達もやって来た。
「おまえ今のすげえな!ホントに種も仕掛けもないのか!?」
「なんだ君らも見てたのか。まあね、一切イカサマはしていないよ。…なんなら御嬢さん方、もう一回見せてあげましょうか?」
「わあ!いいんですか?じゃあお願いします!」
「ようし!そのトリック見抜いてみせるッスよ!バッチャンの名に懸けて!」
「お前の婆ちゃん何モンだよ。…じゃあ早速頼むぜ!」
「あ、男はいいの。どうぞ、あっちへ」
「何ィッ!?」
「貴様…、俺をのけ者にするとはどういう了見だ!」
「男楽しませてなんか得があるのか?」
「うわっ!こいつ最悪だッ!」
「んふふ…言いたいことは分からないでもないけど、…実際やられると結構クルもんだね」
「…アンタ花村よりはまだマシだけど相当なナンパ野郎みたいね」
「その通り!男が女性が好きで何が悪い!?」
「開き直ったぞコイツ!」
「…なんだか面白いひとだね」
完全に女子中心的な思考の日向にテンションを上げ下げしながらも、彼らはなんだかんだで打ち解けていた。
「…予備学科にもお前みたいな奴がいるんだな。…名前聞かせてくれよ!俺は左右田和一、『超高校級のメカニック』って呼ばれてる」
「成程、見ない顔だと思ったらアンタたち本科の人か。…俺の名前は日向・Z・創だ。よろしくな」
七海はガチ、はっきり分かんだね。