ダンガンロンパ~黄金の言霊~   作:マイン

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今年最後の更新です
今話を以て交錯編の本編は終了になります。その内、おまけとしてキラーキラー編の話をやる予定です。

オーブ外伝の方も更新してますので、興味のある方はそちらもどうぞ




交錯編:運命の地、その名は…

 …それからの流れはスムーズなものであった。承太郎たちの後を追ってきた未来機関の救助部隊が到着したことで、崩壊した本部の後始末が始まった。毒を苗木の血液によって強制的に解毒した万代や黄桜、舞園に戦刃、そして薬物により体に負担をかけた忌村と宗方は念のために医療班による精密検査を受けたが、特に異常は見受けられなかった。…しかし、十六夜は舞園のように毒の影響を遅効していた訳でもなく、また解毒に使用した苗木の血液も時間が経っていたことで完全な解毒までは至らず、左半身に多少の麻痺が残る後遺症を負うこととなってしまった。

 

 宗方や天願は疲労をおして後始末の陣頭指揮を執り、苗木により左手を再生させてもらった逆蔵を筆頭に瓦礫の片付けやそこかしこに散らばる遺体の始末が進む。絶望の残党たちの遺体はもはや識別不能なまでにバラバラになってしまったため、仕方なく一か所に纏めて火葬することとなった。雪染により殺されゾンビとなった第五支部と第十三支部の機関員たちの遺体は丁重に扱われ、本土にて埋葬される。…グレート・ゴズとウェザー、そして苗木の両親の遺体は特別丁寧に扱われ、それぞれ天願、苗木の手によって棺に納められた。

 

 この後始末で活躍したのが、舞園と朝日奈であった。未来機関の機関員たちは幾多もの死線を潜って来た精強な人たちであったが、今回ほど凄惨かつ異常な状況に遭遇したことは無く、少なくない人数が現場を見るや否や嘔吐しギブアップしていた。未来機関の『元気印』である二人はそんな機関員たちを鼓舞し、自ら死体の後始末を買って出るなどして精力的に活動し、それを見た機関員たちは『あの二人にばかりやらせるわけにはいかない』…と奮起し、立ち直ることができた。

 

 …そんな中で、苗木も当然後始末に尽力していたものの、その姿には以前ほどの覇気は感じられなかった。ゴズと雪染という犠牲、見る影もなくなってしまった未来機関本部、…そして、あと一歩というところで逃げられてしまったプッチ。全てが自分の責任ではないが、少なくない犠牲を出しておきながらプッチを仕留めれなかったことが、苗木の雰囲気に陰りを見せていた。この世界における『英雄』である苗木のそんな姿を見て機関員たちは、今回の件の深刻さを改めて思い知らされることとなった。

 

 

 

 そして、その日の夜…

 

 

 

 

「…プハァ」

 疲れ切った皆が眠るテントから少し離れた場所…崩れた瓦礫の山の上で、苗木は無事だった物資からたまたま見つけた酒瓶を片手に何をするでもなくただぼんやりとしていた。夜空には『三日月』が浮かんでおり、それを見るたびにプッチのことを…そして迫る『新月のタイムリミット』のことを思い出し、それを掻き消す様に酒を煽る。

 

 

「…ガラでもねえ事してるな。自棄酒なんてのは俺の役目だろうに、君らしくねえぞ?」

「…黄桜さん」

 いつの間にか隣にいた黄桜に呆れ顔で窘めながらも、苗木は未だ表情を崩さない。…当然のように差し出された黄桜のスキットルに、酒瓶から酒を注ぎながら。

 

「んぐ…ぷはぁ。…あんまり気に病むのもよくないぜ。皆も言ってるけど、今回のことで君に非は無い。むしろ、君がいたからこそ『この程度』の被害で済んだんだ。だから…その、なんだ。いい加減機嫌治せって、な?」

「…別に落ち込んでるとか、自己嫌悪している訳じゃあないですよ。ただ…単に、『悔しい』だけなんです。ゴズさんを助けられなかったことも、雪染さんの心の内を察せれなかったことも、プッチに逃げられてしまったことも…」

「……」

 酒を飲みながら『聴き』の態勢になった黄桜に、苗木はポツリポツリと心境を吐露する。

 

「僕は、僕にできる限りの万事を尽くしたつもりでした。今考えれば、もう少しやりようがあったこともありますけど、少なくともあの状況でできる最善の手を尽くしました。…でも、それでも『救えないもの』はあった。『果たせなかったこと』はあった。…もし仮に、僕にもっと先が視えていたとして、もっと要領よく事を進めていたとすれば…はたして一体、何が違っていたのか、それとも同じ結末なのか…そんなことが、頭から離れないんです」

「……」

「前に、プッチに言われたんです。…『お前がいくら足掻こうが、運命は変えられない。お前の行為は、荒れ狂う大河に一石を投じて流れをせき止めようとするに等しいものだ』…って。…もし奴の言う『運命』とやらが実在するとして、僕のやっていることが文字通りの『焼け石に水』のようなものだとすれば…僕は、あとどれほどの事をすれば運命に打ち克つことが…」

 

 

コン!

「あ痛…!」

 いきなりスキットルの底で頭を小突かれ、怪訝そうに横を見てみれば、そこには呆れたような苦笑いを浮かべる黄桜が。

 

「…ったく、何をナイーヴになってんだよ苗木君。あの学級裁判で言ってたじゃあねえか、どんだけしんどい道だろうと、自分が正しいと信じた道を進む…ってよ。そんな君が、2度や3度の失敗でヘコんでちゃ駄目だろう?」

「黄桜さん…」

「確かによ…今回の件が起きる前と後で、何が変わったって言われりゃ…プラスよりもマイナスの方が大きい結果になっちまったさ。内輪もめの種は無くなったとはいえ、ゴズ君とちさちゃん…そして第五支部と十三支部の犠牲は馬鹿にならねえ。…けど、けどな苗木君。それでも俺達は『前』に進めたと俺は思っている。ゴズ君が命を賭して未来機関を守り、ちさちゃんの絶望を宗方君は受け入れた。それはきっと、未来機関を必ずいい方向に進めてくれる。あの二人の戦いは、決して無駄じゃあねえし、無駄にしちゃいけねえ。それは君が一番分かってることだろう?」

「…はい」

「だったら迷うな。君が正しいと信じた道は、決して間違っちゃあいない。それは君を信じてついてきてくれた皆が証明してくれてるだろう?…君が折れない限り、俺達はどこまでも君を信じて力を貸すぜ。だから…その、何が言いてえかっつーとだな……もうちょっと、『大人』を頼りな少年。君らに後腐れの無い未来を託すのが俺らの仕事だ。後の事は俺らに任せて、君は…前だけ見て進みな。皆と一緒によ…」

「……はい。ありがとう、ございます…!」

 迷いを断ち切る様に酒を煽り、そう言った苗木の顔は先程よりも格段に晴れやかであった。それを見て取ると、黄桜は一つ息を吐いて表情を緩める。

 

「…さてと!こんな幼気も無いおじさんにガラでもない説教させたんだ、今日は夜通し付き合ってもらうぜ苗木君よ」

「…それは構いませんけど、今迄黄桜さんが僕より先に潰れなかったことがありましたっけ?」

「んぐッ…言ったな呑兵衛ルーキーの癖によ。だったら俺の本気を見せてやるよぉ!」

「仕事で本気出して欲しいんですけどねぇ…」

 

 

 

 

 

 

 

 …そんな二人の酒盛りが繰り広げられている瓦礫の山の麓。そこに腰を下ろして二人の会話を聞いていた者達が居た。天願と宗方である。

 

「…どうじゃ、気懸りだったものとやらは晴れたかのう?」

「……ああ。なんとなくだがな」

 宗方は夜空を見上げ、隣の天願にではなく自分に言い聞かせるように話し出す。

 

「苗木と戦い、言葉を交わし…俺はその中で、俺が目を背け続けてきたことに気づくことができた。目の前の絶望に囚われていた俺に、決して捨ててはならないものがあるということを奴は伝えてくれた。…だが、だからこそ思った。俺が奴に気づかされたものに、アイツはどうやって『自分自身で気づく』ことができたのか…ということを」

「……」

「奴とて、絶望を憎まなかったことなど無い筈だ。江ノ島盾子の絶望はアイツの日常を、友を、そして家族を奪った。まして自分自身も一度ならず二度も殺されかかったというのに、それを忘れられる筈がない。…そんな奴が、絶望を『滅ぼす』のではなく『受け入れる』道を選んだのは、奴も俺と同じように…絶望の中に『希望』を見出すことができたからだろう。苗木にどうしてそれができたのか…それが、ようやく分かった気がするよ」

「…聞かせて貰えるかのう?」

 

「天願、俺や貴方は絶望と戦うことを選んだ時から、ただひたすらに目の前のことに向き

合い続けてきた。より多くの絶望を消し去る為に、より多くの人々を救うために…自分がしてきたことを一度たりとも『振り返る』ことなく、がむしゃらに進み続けた」

「うむ…」

「そのこと自体は間違っていないと俺は思っている。俺達だけではない、霧切や十神も過去を振り返ることなくただ目の前の事に尽くしてきた。それが上に立つ者の『在り方』だからだ。…だが、苗木は…奴は違った。アイツは自分が何かを得るたびに、何かを失うたびに…そのたびに立ち止まり、何度も己の道程を『振り返って来た』。そしてそのたびに、自分の行動が齎したものと直面し続けてきたのだ」

「……」

「それは悪いことではない。…むしろ、それは多くの人々にとって『当たり前』のことだ。人は誰しも自分の選択を疑い、何かを選ぶたびにそうしなかった結末を想定し、『ifの可能性』を模索する。そして自分の選択が間違いだったことに気づいた時、多くの人間はそこで膝を突き、立ち上がれなくなる。仮に立ち上がったとしても、選択のたびに己の間違いを思い出し、それから逃避するために思考を放棄し、短絡的な行動をとりがちになる。…江ノ島盾子を見逃してしまった逆蔵や、忌村を信じれなかった安藤のようにな」

 救助部隊の到着を待つ最中で、宗方は逆蔵から自分に対する想いと共にずっと隠していた事実を聞かされていた。

逆蔵は人類史上最大最悪の絶望的事件が起きる以前に江ノ島と接触したものの、返り討ちに遭い脅しに屈して彼女を見逃してしまった。その結果、逆蔵はその事実をひた隠しにし宗方たちを除いたすべてに対し攻撃的な姿勢を取るようになった。もう二度と自分の事で宗方の足を引っ張ることがないように、宗方の指示にのみ従う機械になろうとした。…その結果、逆蔵は愛する男と友人の抱える『絶望』に気づくことができなかった…と。

同性、しかも無二の友人からの愛の告白に戸惑った宗方であったが、その話を聴いたことで宗方は苗木の強さの根底に気づくことができたのである。(ちなみに逆蔵は言うだけ言って心の整理がついたのか、その後はまた『友人兼部下』としてやっていくと言っていた。)

 

「…まあ、それが人間の性と言うものじゃな。だがその迷いこそが絶望を生み、自分の信じる希望を曇らせる。ワシらはそう考えたからこそ、振り返らないことを選んだ。切り捨てたものに未練を残さず、己の成すべきことを迷わない為にな…」

「そうだ。…だが苗木はそうして何度も立ち止まり、迷いを抱きながらも…それでも前を向いて進むことを選んだ。自分の意思で、時にはああして仲間に助けられながら奴は自分の意思を貫き通した。立ち止まる度に背負うものを増やし、失ったものから目を背けずに受け入れつづけた。そんな茨の道を、奴は『望んで』選んだ。…その覚悟こそが、奴の強さの根底なのだと俺は思う」

「…大した男じゃよ、彼は。この世界において『希望』を求めるものは、誰しもが『理想』を夢見…そして、『絶望』という現状を目の当たりにしたとき、その多くは当初の理想を『妥協』してしまう。…まあ、その辺りは平和だったころも同じじゃがの。じゃが、彼はその頃から秘めていた理想を今も尚貫こうとしている。…きっと、彼の心には今の尚あの頃の『憧憬』が焼きついておるんじゃろう。それを過去の遺物と切り捨てず、己が罪として…そして自分の『希望の根幹』として守り続ける。かつての自分を見失わぬようにな」

「……」

「…宗方君、分かっているとは思うが」

「ああ、分かっているさ。…俺にはそんな生き方はできん。だからこそ俺は一度『過去』を捨てた。『想い出』に蓋をした…そうしなければ立っていられなかったから。俺は苗木とは違う、奴と同じものを見ることはできない…」

「……」

 

「…だが、それがどうした!苗木と同じ地平には立てなくとも、俺は俺なりのやり方で『未来』を築いてみせる。同じ景色は見れずとも、『目指す方向』は俺も苗木も同じだ。絶望に屈することなく、誰もが『明日の希望』を信じ、今の自分を信じられる未来…それが、俺の求める希望。…雪染が望んだ、俺の進むべき道だ…!」

「…それでいい。君はようやく、『答え』を得た…これで心残りなく、『後』を託せるよ」

「天願…」

「後始末はワシに任せておくがいい。…後の事は頼んだぞ、『宗方会長』」

「…はい」

 人知れず後進に道を譲った天願と、それを受け取った宗方。互いにがっしりと手を握り合うその光景は、天願がかつて未来機関に入ったばかりの宗方達を導いていたあの時のようで…それを思い出してか、二人の顔には自然と笑みが浮かんでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして翌朝。今回の件を未来機関全てに公表するために、天願を始めとした後始末の為の居残り組を島に残し宗方達は一足早く本土に帰還することとなった。同時に、苗木達も一刻も早くプッチの足取りを追うべく一度本土の杜王支部に向かうことになっている。

 

「ではな、宗方君。そちらのことは任せたぞ」

「…ああ。会長もご無理をなさらぬよう」

 未だ表向きは会長である天願に挨拶をする宗方に、帰りの準備を済ませた苗木が声をかける。

 

「宗方さん。…本当にいいのですか?響子たちをこちらに戻してもらって…」

「構わん。今最も優先すべきはヤツを…エンリコ・プッチの野望を阻止することだ。我々も混乱が落ち着き次第総力を挙げて捜索に当たるが…いかんせん、未来機関は大きくなり過ぎた。混乱が収束するには時間がかかるだろう。ならば、せめてこちらの最大限の戦力を託すのが最善の手だろう」

 宗方は本土に帰還するに当たり、霧切を始めとした第十四支部と月光ヶ原の第七支部、承太郎ら杜王支部の全戦力をパッショーネに一時『貸与』すると宣言した。これにより、未来機関に所属するおよそ『九割』のスタンド使いが一時的に苗木の指揮下に置かれることとなった。…それが宗方にできる、プッチと戦う苗木達へのせめてもの餞別であった。

 

「…お気遣い、感謝します。その期待には、必ず応えます」

「ああ…頼むぞ。…それと、お前の『本来の目的』であった『彼等』だが、既に杜王支部に移送するよう伝えてある。後はお前の好きにするがいい」

「…ありがとうございます!」

 

「…おい、苗木」

「…十六夜さん?」

 声をかけられ振り返ると、そこには何やら『布の包み』を持った十六夜とそれを支える安藤が居た。

 

「何かご用でしょうか?」

「…お前に、渡すものがある」

「僕に?」

「アンタ、プッチとのドンパチで『銃』壊れちゃったでしょ?だから、ヨイちゃんが無理して昨日の内に『代わりの銃』を創ってくれたの。…私や静子ちゃんも手伝ったんだから、大事に使いなさいよ!」

 霧切が苗木からくすねていた銃だが、あの戦いの最中に壊れてしまっていた。プッチに壊されたのか絶望の残党の人間ミサイルにより壊れたのか…それを知った十六夜は今回のことで碌に力になれなかった償いとして、安藤や忌村に協力してもらい麻痺が残る体をおして『新しい銃』を作ったのだ。

 予想外のことに呆然としつつも十六夜から包みを受け取った苗木がそれを解くと、そこには『二丁の銃』が収められていた。

 

「これは…!」

 外観は以前使っていた物とよく似ており、手に持った重さもしっくりくるものであった。黒を基調とし金色のラインが入ったカラーリングで、要所要所に『テントウムシの意匠』が施されたそれは『苗木専用』と言っても過言ではなく、常識的に考えればとても一夜で仕上げられるような完成度ではなく、十六夜の『超高校級の鍛冶師』としての才能の高さを感じさせる逸品であった。

 そして目を引くのは、持ち手の柄部分に彫られた『逆十字』のエンブレム。…一見ただのカッコつけのようであるが、それは十六夜からの『メッセージ』であることを苗木は感じていた。

 

「『ブラッディ・クロス』…とでも名付けておこう。狂った聖職者を打ち倒すには、ちょうどいい名前だ…どうだ?使い心地は」

「…ええ、気に入りましたよ。お二人とも、ありがとうございます!」

「フン…!」

 気恥ずかしそうにそっぽを向く安藤の両手は、あちこち火傷や火脹れで赤く爛れていた。あれほど自分たちを毛嫌いしていた安藤が、パティシエの命である両手を酷使してまで自分にこれを託してくれた。その事実を深く噛みしめ、苗木は受け取った銃を仕舞うと深々と頭を下げる。

 

「礼は要らん。…その代わり、必ずヤツを倒せ。ようやく取り戻した俺達の『未来』を、あんな奴の好きにさせてたまる物か…!」

「…私が一番嫌いなのはね、知らない所で勝手に人の生き方決められることなのよ。運命だか天国だか知らないけど、あんなのに好き放題させられんのは気に入らないのよ…!絶望も、あの神父も、私達の邪魔をするんなら『敵』よ。…けど、私達には手に負えそうにないからアンタに任せるわ。だから、絶対になんとかしなさい」

「…はい!必ず、奴を止めます。忌村さんにもよろしく…」

 プッチの打倒を二人に誓い、苗木は自分を待つ皆の元へと向かう。

 

「…ふん、やっと挨拶回りが終わったか。余計なお世話かもしれんが、組織のトップがあまり軽々しく頭を下げるものじゃあないぞ」

「アハハ…その辺はまだ慣れてなくてね。皆、準備はできてる?」

「おう、何時でも行けるべよ!」

 杜王支部へと向かうヘリの前に集まっているのは、78期生組と承太郎たち杜王支部の面々、月光ヶ原。そしてプッチ打倒の後の身の安全の保障と引き換えに協力することとなった聖原と麻野といった面子であった。

 

「なら、とっとと出発しようぜ!早くあのヤローをぶちのめさねえと、とんでもねえ事になるんだろ?」

「はい。…絶対に、プッチを止めましょう!」

 仗助、そして髪を切られたことを期にショートヘアーにした舞園(余談だが、ショートカットになったことで未来機関でのファンが3桁は増えたらしい)に頷き、皆がヘリに乗り込もうとすると…

 

「…ちょっと待って!その前に、皆に伝えておきたいことがある」

 神妙な面持ちの苗木がそれを呼び止める。

 

「どうしたの?」

「プッチを追う前に、『やっておきたいこと』がある。だから少しだけ、僕に時間をくれないか?」

「何をするってんだよ?」

「…『彼等』を、『あの装置』の所に連れて行く」

「彼等…って、『77期生』の人たちの事?」

『あの装置って…もしかして、アレの事でちゅか!?』

「ああ。…もう完成はしているんだろう?」

『そ、そうでちゅけど…。でもジョジョ、できればあの装置は使いたくないってジョジョが…』

「…ああ。僕も本来なら、彼等には『彼ら自身の意思』で立ち直って貰いたかった。アレを使えば、一時的に元には戻れるけれど…それは、彼らにとって自分の『絶望』から目を背けさせることになる。そんな形で本来の彼等に戻ったとしても、それが意味のあることとは思えない。自らの『絶望』から目を背け続けているだけでは、前に進んだとは言えないのだから」

「……」

「けど、もう時間が無い。それに今回のことで感じたんだ…プッチを倒すためには、『日向君』の力が必要だ。そして日向君に戻って来て貰うためには、他の皆さんの存在が不可欠だ。プッチを倒すためにも、皆には一刻も早く立ち直ってもらう必要がある。だから…あの装置と、『彼女』の力を借りる事にしたんだ」

 今なお『絶望の底』にいる彼等を利用するようなことをしたくはないが、プッチのスタンドの力とその目的の危険さを改めて思い知った今、彼らの助力は不可欠である。…それを決めた苗木は己のふがいなさに歯噛みしつつも、決めた以上彼らを必ず立ち直らせるという強い意志を以て皆に頼む。

 

「…分かったわ。それが貴方の意思だというのなら、私は貴方を信じるわ」

「フン。まあ御守をしなくてもいいのならその方が面倒でなくていい…俺も構わんぞ」

「うん!私も、誠を信じるよ」

「皆…ありがとう」

「でも、その装置ってどこにあるの?未来機関が新しいものを作ったなんて報告は聞いてないけど…月光ヶ原さんの支部?」

『違うでちゅよ。アレの存在は未来機関にも内緒だったでちゅから、完成した後に『ある島』に運び込んだんでちゅ』

「…アレはその為の買い物だったのか。フン…道理でわざわざこの俺に回りくどいやり口で利権を買わせたわけだ」

 その島に未来機関を立ち入らせないために、苗木に頼まれ未来機関に悟られないよう島を買収させられた十神が嘆息する。

 

「…それで、その島の名前は?」

「それは…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハァ…ハァ…」

 …一方その頃、苗木達から逃れたプッチはとある港に身を隠していた。

 

「ぐっ…!やはり、まだ『C・MOON』の力が馴染んでいない…のか…!」

 苦しそうに呻くプッチの身体には所々『異常』が生じていた。髪を始めとした体毛が異様なスピードで伸び、爪も目に見えるスピードで伸びていた。それはまるで、プッチの周囲だけの『時間の流れ』が異なっているようで…

 

「だが…ふ、ははははは…!目的は既に『達した』…DIOが記した『約束の地』。その『場所』は、既に把握している!感謝するぞ御手洗亮太、雪染ちさ。お前たちの献身が、私に『道』を示してくれたのだよ…!」

 しかし、そんな苦痛にむしろ歓喜するかのように笑うプッチは、溢れる感情を抑えきれないかのように、自分が見つけた『答え』を口にする。

 

「そう、そこは…!」

 

 

 

 

「その島は、かつてリゾート地として栄えた島…。ジョースター家に関わりの在る『ある存在』が守り神として祀られた島…その名は」

 

「赤道に近く、周囲の海抜が異様に高いが故に地球上で最も『引力』の弱い土地として、観光業の傍ら宇宙開発の中継地としての側面を持っていた、その島の名は…」

 

 

 

 

 

 

 

「「ジャバウォック島!!」」

 

 

 今、運命が交錯する。その先にあるのは希望か絶望か、それとも…

 

 

 

 

 

 

 

 

 新月まであと、『24日』…!

 




プッチの目的地と2の舞台を重ね合わせる…僕が3の話を1部と2部の間に割り込ませた意図がこういうことです。
舞台はいよいよ決戦の地へ…けどその前に、未だ絶望の底にいる彼らの青春の日々を少しだけ振り返らせてもらいます

…というわけでこの後に追憶編をパパっと完結させたのち、2部に移らせてもらいます。交錯編がだいぶ長引いたので、追憶編はスマートに終わらせる予定です。その分、内容は濃く書くつもりではありますが

では皆さん、良いお年を。…僕は大晦日まで仕事なので

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