ダンガンロンパ~黄金の言霊~   作:マイン

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追憶編に入る前にキラーキラー編をやります。思ったより長くなったので前後編です

パソコン買い換えてたので遅くなってすみません。新型のノーパソにしたは良いもののデスクトップの使い勝手の違いに四苦八苦してました

最近、ジョジョ5部のタイトルが商標登録されたということでいよいよアニメ化か?…という噂がありますが、個人的にはやはり「GIOGIO」ではなく「JOJO」なのが気になる…。まあイタリア語で商標登録するのが面倒だという理由でしょうが、早く続報が知りたい…

未来編の舞台も徐々にキャストが明らかになってきてますし、いよいよダンガンロンパの新シリーズが着想に入ったとみるべきでしょうか。頑張れスパチュン、頑張れ小高さん!





交錯編:害伝 デッド・イズ・ビューティフル 前編 

 私の名前は麻野美咲!未来機関第六支部の『特殊捜査課』…通称『特査』に所属するピッチピチの20歳!本当は警官を目指していたのだけれど、在学中に起きた『人類史上最大最悪の絶望的事件』のせいで社会全体が崩壊。当然学校どころではなく帰る家すら失った私は路頭に迷う羽目に…。

 でも、幸運にも未来機関に保護され、警官志望だったことによりそのまま未来機関第六支部、未来機関における『警察組織』であるここに就職することができた。本当に渡りに船…勉強していて良かったー!

 

 そんな私の憧れは第六支部の支部長である逆蔵支部長!…は、ちょっと暴力的すぎて苦手。…ではなく、特査の課長である堂上課長!…もだけど、それ以上に憧れているのは…全ての元凶、『超高校級の絶望 江ノ島盾子』を打ち倒した希望ヶ峰学園のコロシアイを生き抜いた生徒達だ。特に霧切響子ちゃん!私より年下の筈なのに凛とした美貌とどんな時でも冷静さを失わないその姿勢は、『超高校級の探偵』に相応しい在り方!ついたあだ名は『レディ・ホームズ』!…私が勝手につけたんだけど。未来機関に保護されるや瞬く間にその才覚により支部長の座にのし上がった彼女は、どんなに恐ろしい絶望にも立ち向かう私たちの希望の星なのだ!

 …そして、そんな彼女の恋人であり、あの江ノ島盾子に『宿敵』とまで言わしめた彼…『苗木誠』。『幸運』と『ギャング』という二つの才能だけでなく、限られた人にしか見ることも触れることもできない『スタンド能力』…その頂点である『レクイエム』に選ばれた少年。温和な見た目と雰囲気とは裏腹に、霧切支部長にも劣らぬ洞察力と中継越しでも全てを見透かされているようなその眼に、背筋が凍りついたことは一度や二度では済まない。

 その彼であるが、保護されて数日と経たぬうちにイタリアへと向かってしまった。噂によれば、未来機関の上層部と揉めたからとか、江ノ島盾子の共犯者である戦刃むくろを匿うためだとか、未来機関に反旗を翻すための下準備だとか言われているが…私には、彼がそんな人だとは思えない。だって、そんな人があんなにたくさんの人たちから信頼される筈が無いのだから。

 

 そんな彼らと共に戦うことを夢見、意気揚々と特査に入職した私を待っていたのは…変な人であった。

 

 

「…麻野、俺は疲れた。寝る」

「ちょっとぉ!?聖原さぁぁんッ!!」

 

 聖原巧実。私の一個下だけど、私よりも先に特査に所属していた年下の先輩。ぐーたら気質でロッカーの中や机の下といった狭い場所に引き籠もるのが大好き、けれど仕事は割とできるために落ちこぼれることも死ぬこともなく、特査きっての『変人』として扱われている人だ。なぜこんな人が特査に…と思ったことは数え切れないほどあるが、噂によれば彼がここに配属されたのは第三支部支部長である黄桜支部長と第五支部支部長の雪染支部長による推薦だという。

 

『確かにぱっと見はちと頼りねえが、…こと『殺人』に関して彼以上に頼れる奴はそうそういねえよ』

『信用できるかはともかく、彼の『死』に対する姿勢だけは『信頼』に値するわ』

 

 …私はこの二人の言葉を、彼が以前経験した『事件』によるものだと思っていた。

 

 『宜保浦中学校大量殺人事件』…平和だった学校を突如襲った悲劇。正体不明の殺人鬼が校内にいた生徒や職員を次々と虐殺し、一切の証拠を残すことなく消息を絶った猟奇的殺人。5年経った今も犯人は特定されることなく、当時15歳だった私も衝撃を受け警察官になるという義務感をより一層憶えることとなった事件。…その唯一の生き残りが彼、聖原さんだった。掃除用ロッカーに隠れていたが故に奇跡的に助かった彼は、その時のことを忘れないがために狭いところを好むようになった…それが堂上課長の、そして特査内での聖原さんに対する認識であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 …でも、本当は違った。彼は殺人を恐れるがために、憎むために特査に居るのではなかったのだ。

 

 ある事件の捜査の途中で出会った聖原さんの友人だという『不死川周二』さんから聞いた、聖原さんの『裏の世界』での通り名…『キラーキラー』。その意味は、『殺人鬼を殺す殺人鬼』。つまり、彼もまた猟奇殺人者の一人であったからだ。

 

 虐殺事件の時、ロッカーの中で犯人…当時まだ江ノ島盾子の言いなりであった『戦刃むくろ』の犯行の一部始終を見ていた彼は、あろうことかその光景に『憧憬を抱いた』という。飛び交う血しぶきに恍惚とし、切り裂かれる学友を熱の籠もった視線で見つめ、なんの感慨もなく殺人を実行する戦刃むくろに憧れすら抱いた。ロッカーに引き籠もるのはその時の光景を忘れないため…自身の『殺人』に対する初心を忘れないためである。

 しかし、同時に彼には『許せないもの』があった。それは、彼の評価に値することすらできないような、『お粗末な殺人』である。彼は死を愛するが故に、その過程や死に様にまでこだわる。その歪んだ『美学』に反する殺しを、彼は決して許しはしない。彼はそれを『殺し愛』と呼んだ。彼が殺すのは、そういった自分が気に入らない他の殺人鬼だけなのだ。…それでも、殺しには変わりはないのだけれど。

 

 それから彼は殺人鬼としての技術を高め、平凡な学生を気取る裏で『キラーキラー』としての活動を続け、当時同じように悪名を轟かせていた『キラキラちゃん』や『ジェノサイダー翔』と共に裏の世界にその名を広めていった。

 …ところが、彼が16歳の時突如として『キラーキラー』による犯行は激減した。警察関係者は困惑していたそうだが、その理由を黄桜支部長や雪染支部長は知っていた。

 彼が殺人を止めた理由…それは一人の希望ヶ峰学園生徒に対する『執着』であった。その生徒の名は、日向・Z・創。希望ヶ峰学園予備科に所属していた生徒である。事の発端は、たまたま聖原さんの犯行を彼に見られたからで、聖原さんは口封じをするべく日向さんに襲いかかった(本人曰く、その時は殺すつもりはなく気絶させて自分のことを忘れてもらうだけだったという)。…しかし、日向さんはただ者ではなかった。詳しいことは知らないが、彼は『波紋』という古武術を学んだ学園きっての実力者だったらしく、聖原さんと互角に戦い生き延びたという。

 その時、聖原さんの憧れは戦刃むくろから彼に変わった。単に強かっただからではない。聖原さんは戦いの中で自分とは『正反対』の筈の彼の奥底に、『自分と同じもの』を見いだしたという。

 

『奴は一瞬たりとも、俺を本気で殺そうとはしなかった。殺そうと思えば殺せたはずなのにだ…それだけなら、俺は何も思うところはなかっただろう。だが…俺は確かに見た!アイツの一挙一足の中に、俺と同じ…いや、俺以上にどす黒く、だがこの上なく美しい『殺意』があったことを!言葉にするなら、まさに『漆黒の殺意』という言葉が相応しい…目的のためならば、躊躇いなく他人を切り捨てられる冷酷さ!自分に関わるものを守るためにそれらを害そうとする者を殺せる、美しくも恐ろしい思考ッ!奴はそれを自覚していない…それ故に自身の『不殺の誇り』が殺意をひた隠しにしてしまう!もしその殺意を奴が自覚したとき、剥き出しになったそれが解き放たれたとき…奴には、『俺以上の殺人鬼』となる才能がある!!俺は、それを見てみたいんだ…だから、俺はアイツを…日向を必ず取り戻す!』

 

 …キラーキラーであることを明かされた後、そう言っていた聖原さんの目はこれまでにないほどに真剣なものであった。その証拠に、聖原さんは日向さんから再戦の条件として提示された『2年間誰も殺さない』という制約を律儀に守っていた。…その期限がおとずれる前に起きた人類史事情最大最悪の絶望的事件により、再戦が叶わなくなったことで聖原さんは再びキラーキラーへと戻ってしまったが。しかし、日向さんとの出会いは聖原さんの心情に影響があったようで、犯罪者を無闇矢鱈と殺し回ることはなくなった。とはいえ、『殺人』を愛する聖原さんにとってそれはかなりストレスだったらしく、自分の琴線に触れる殺人を目撃すると歯止めがきかなくなることがあったという。黄桜支部長や雪染支部長はその事情を考慮し、苦肉の策ではあるが彼が適度にストレスを発散できる環境として、彼を特査に推薦したというわけだ。

 

 …さて、私と聖原さんの紹介はこんなものだろう。肝心なのはその後のことなのだから。私が不死川さんと出会った時、本部からの指示を受けた私と聖原さん、そして成り行きでついてきた不死川さんは未来機関第八支部へと向かった。そこで目にしたのは…

 

 第八支部の職員をナイフ一本で殺し回る、『大勢の戦刃むくろ』であった。

 

 (苗木誠共にイタリアにいるはずの戦刃むくろが何故…?しかもなんでこんなにたくさん…!?)

 私がそんなことを考えている間に、聖原さんは戦刃むくろと戦闘を開始した。次々と襲いかかってくる戦刃むくろに、聖原さんは怒りを滲ませ互角以上に戦う。そしてついに、戦刃むくろの一人を手にかけようとした。私は思わず近くの職員の遺体から銃を拝借し先んじてそれを止めようとしたが…

 

 

ザシュッ…!

 

「…!?」

「アンタは…」

 私や聖原さんより早く、間に割って入った何者かがその戦刃むくろの首を跳ねた。

 

 

「…こんなもので、『私』になったつもりなんて…舐められたものね…!」

 それを成したのは、跳ねられた首と『同じ顔』の人物…戦刃むくろ『本人』であった。

 

「ま、また戦刃むくろが…!?」

「…違う。私は本物、こんな見かけだけの連中と一緒にしないで」

「ぴぃッ!?ご、ごめんなさい!!」

「…そこまで怯えなくても」

「…戦刃むくろさん!」

「え…あ、聖原…さん、だっけ。ひさしぶり…」

「はい、ご無沙汰してます戦刃むくろさん!」

「…え、ええ~…誰?」

 どうやら以前にも面識があったらしく、今までの気だるげな態度から一転して憧れのスポーツ選手を前にした少年のような顔になった聖原さんに私と戦刃むくろが若干引いていると

 

シュバババババッ!!

 周囲にいた大量の『偽戦刃むくろ』が襲いかかってくる。

 

「い、戦刃さん!危ない…」

 

 

「…『エアロスミス』!」

 

ドパパパパパパッ!!

 突如『偽戦刃むくろ』の数人がまるで『銃撃』でも受けたような傷を負って吹き飛ぶ。戦刃むくろが使用するスタンド『エアロスミス』による攻撃だ。それに怯んだ隙を突き、戦刃むくろと聖原さんはまるで示し合わせたかのように左右に分かれる。

 

「ひ、聖原さん!殺しては…」

 

 

ザシュッ!!

「…あ…!」

 私の制止が届くまもなく、聖原さんのナイフは『偽戦刃むくろ』を切り裂いていた。

 

「そんな、どうして…!?」

「…気持ちは分かる。けれど、もう『遅い』よ」

「遅いって、どういうことですか…!?」

 同じように仕留めた自分の偽物を悲しげに見ながら、戦刃むくろは私に告げる。

 

「彼らは、『整形』と『洗脳』によって自分が戦刃むくろであるとすり込まされた絶望の残党…。しかも洗脳の精度を上げるために、おそらく事前に本来の人格を『壊されている』…。仮に保護しても、もう以前の状態には戻れない…この人たちは一生、自分を戦刃むくろと思い込んだまま人殺しを続ける…。ただそれだけの存在でしかない」

「そんな…」

「この人たちのことを想うのなら、ひと思いに死なせてあげた方がまだマシ。『自分ではないまま』罪を重ねるぐらいなら…もっとも、貴方の気持ちはそうじゃないみたいだけど」

「ッ!」

 じっと見つめた私の瞳に何を見たのか…心の内を見透かしたような戦刃むくろの言葉に思わず息をのむ。

 

 

「本物の大量殺人っていうのは…こうやるんだ」

 

ザシュシュッ…!

「超大量殺人…!」

 そうこうしている間に、聖原さんはすべての偽戦刃むくろを全滅させてしまった。

 

「…!聖原、さん…なんで…」

「……」

「やっぱり、聖原さんは…」

 

 

「う、おぇぇぇッ…!」

「!?」

 後ろから聞こえてきた声にはっとして振り返ると、いつの間にか物陰に隠れていた不死川さんが盛大に吐いていた。彼は死体や血を見るのを極端に嫌うらしく、この惨殺死体の数々に耐えきれなかったらしい。

 

「ふ、不死川さん…大丈夫ですか!」

 聖原さんの視線から逃げるように私は不死川さんを介抱しに向かう。何故って、聞くのが『怖かった』から…もし聖原さんが、自分が『キラーキラー』であることを認めたら、私は何を思ってしまうのか…分からなかったから。

 

 …けれど、もしあの時私にそれを確かめる『勇気』があったなら。あのときの私の聖原さんに対する『想い』をきちんと理解できていたのなら…この後に起こる『悲劇』を、未然に防げていたのかもしれない。

 

 

「…ッ!待って!!行っちゃだめッ!!」

 ここでようやく不死川さんの存在を認識した戦刃むくろが『気づき』、警告を発するが…遅かった。

 

 

 

 

ドスッ…!

「…え?」

 うずくまっていた不死川さんがいきなり起き上がり、その手に握られていた『ナイフ』が私の腹部に深々と突き刺さった。

 

「あ、がッ…!?」

「麻野ッ!!」

「…どうして、どうしてなんだい聖原君ッ!!どうして君は、また『キラーキラー』に戻ってしまったんだ!?何故君は、こうでもしないと分かってくれないんだよッ!!」

「貴様ッ…その子を離せ!!」

 それまでの穏和な態度から一転し凶行したように聖原さんに吠え立てる不死川さん。一瞬動揺した聖原さんが動けない間に、戦刃むくろが私を助けようと不死川さんに突貫する。

 

 だが…

 

「近づくなッ!!薄汚い人殺しめッ!!」

 

 

 …ボゴォンッ!!

 私を抱え込むように拘束した不死川さんが戦刃むくろに叫ぶと、突如天井の一部が崩壊し瓦礫に混じって何かが落ちてきた。

 

「ッ!?」

 

バゴォン!

 すんでの所でそれを回避した戦刃むくろは、今し方自分が立っていた場所に『落ちてきたもの』…天井の瓦礫に混じり、未だ赤熱し空気を焦がす熱を放っているそれに目を見開く。

 

「これって…まさか、『隕石』?」

「い、隕石…!?」

「偶然落ちてきた…訳じゃなさそうだな。ということは…『これ』が『お前のスタンド能力』か」

「不死川さんが、スタンド能力者…!?」

「…ああ、そうだよ。それが僕のスタンド『プラネット・ウェイブス』の能力さ。僕が指定した『座標』めがけて『隕石を呼び寄せる』ことができる。と言っても、座標に指定できるのは『僕自身』か『僕が直接触れた人物』に限られるけどね。今のは僕を座標に指定して隕石を降らせたんだよ…ああ、自滅は期待しない方がいいよ。僕のスタンドが呼び寄せた隕石は『決して僕には当たらない』からね」

 嘲笑を浮かべながら自分のスタンド能力を話す不死川さんに戦刃むくろは小さく舌打ちする。私には見えないから分からないが、戦刃むくろの『エアロスミス』は『戦闘機』のようなスタンドらしい。その強みは、上空からの攻撃による制空権の支配と遠距離からの銃撃や爆撃ができることだ。…しかし、飛行機には共通して『弱点』が存在する。地上からの狙撃、あるいは更に上空からの攻撃…『上下からの攻撃』に対処できないことだ。そして隕石が落ちてくるのは当然、『宇宙空間』から。つまり、戦刃むくろのスタンドでは不死川さんのスタンドには対処できないのである。

 

「ああ…でも今のはちょっと失敗したなぁ。もっと近づかせてから降らせば、腕の一本ぐらいは取れたかもしれないのにな…」

「……」

「…なんだよ、その目は。お前が、よりにもよってお前が僕を『そんな目』で見るのか戦刃むくろッ!!史上最低最悪の殺人鬼め!…そうだ、すべてはお前から始まったんだ。お前が僕らの学校を襲ったりしたから、お前がみんなを殺したりしたから…お前なんかがこの世にいるから!聖原君も僕も、『キラーキラー』なんかになってしまったんじゃあないかッ!!」

「…不死川さんが、キラーキラー…!?」

「…お前、まさかあの学校の…?」

「そうだよ…。僕は、聖原君と同じ宜保裏中学の…お前が殺したあの学校の生徒の生き残りなんだよ!」

「…!」

 不死川さんのカミングアウトに驚いた戦刃むくろは聖原さんの方を向き、それを肯定するように頷いたのを確認し表情を歪める。

 

「お前に分かるかい…?大切な友達が、目の前で殺されていくのをただ見ていることしかできなかった僕の気持ちが、同じものを見た友達が、最も嫌悪する『殺人』という罪に傾倒していく様を見てしまった僕の気持ちが、お前なんかに分かってたまるかよッ!!」

「…言い訳をするつもりはない。あの学校の生徒を殺したのは私…そのことから逃げるつもりはないし、許されるとも思っていない。だから、復讐したいのなら私をやればいい。その子は関係ない…離して」

 手にしていたナイフを置き、両手を挙げて私の解放を求める戦刃むくろ。しかし、そんな彼女を不死川さんは鼻で笑う。

 

「…悪いけど、その手は食わないよ。たとえ素っ裸でもお前が僕を殺すことぐらい簡単だってことは分かってるんだから。それに…安心してよ。僕はもうお前に復讐しようだなんて『思ってない』から」

「…何故?」

「ああ、勘違いしないでよ。別にお前を許したわけじゃないし、機会があるなら殺したいとは思ってるよ。けどまあ…ここでお前に一か八かの復讐をするぐらいなら、もっと『確実な手』を使うだけさ」

「…不死川、お前…」

「そういう訳だから、僕を見逃してもらうよ戦刃むくろ。もしお前がそこから一歩でも動いたりスタンドを動かしたりすれば、僕は躊躇いなく麻野さんを殺す。…今の『弱くなった』君には、見捨てられないんだろ?」

「…くっ」

 悔しげに呻く戦刃むくろのいくらか溜飲が下がったのか、不死川さんは聖原さんに視線を向ける。

 

「…聖原君、こんなことになって本当に残念だよ。君のために、わざわざ絶望の残党なんかに取り入って、偽の戦刃むくろまで作ったっていうのに…。僕らのきっかけになったあの殺しを再現すれば、君も目を覚ましてくれると思ったんだけど…結局、君はキラーキラーのままなんだね…」

「…あんなお粗末な偽物など、俺を怒らせるだけだというのが分からなかったのか?」

「…まあいいや。君もおとなしくしていてよ。君だって麻野さんに死んでほしくはないだろ?…ああでも、君が金輪際『誰も殺さない』って誓ってくれるのなら、麻野さんを解放してあげるよ。聖原君…?」

「……」

「ひ、じりはらッ…さん…!」

 

 

 

 

「…前に、お前じゃない奴から同じことを言われたことがある」

 不死川さんと対峙していた聖原さんが、ポツリと呟く。

 

「何だって…?」

「アイツも、俺に『誰も殺さない』と約束させようとした。…俺はその時、自分でも驚くほど素直にそれに応じた。そしておよそ二年、俺はそれを守って誰も殺さなかった。…なぜだか分かるか?不死川」

「……」

「…アイツは、俺に殺しを止めさせると同時に『人殺しとしての俺』を受け入れようとしたんだ。アイツは俺が『キラーキラー』と知っても尚、俺を警察に突き出そうとも罪を償わせようともしなかった。奴は…日向は、俺が『人殺しを愛する異常者』だと理解した上で、俺と『俺のまま』友人になろうとした。…『二年間誰も殺すな』というのも、俺を試していたのだろう。俺が『理性ある人殺し』であるかどうかを確かめるためにな…」

「…何を、何を言ってるんだい聖原君?」

「分からないか?アイツは『キラーキラー』としての俺を認めてくれた。だから俺もアイツとの約束を守ろうと思えた。…だが、お前はどうだ?お前が見ているのは『過去の俺』だけだ。お前は『今の俺』を見ていない…認めようとしない。そんな奴との約束を、素直に守ろうとする奴がいると思うか…?」

「…ッ!」

「お前には、決定的に足りないんだよ…(キラーキラー)を受け入れる『殺し愛』が」

 

「――ッ!!」

 決別のような聖原さんの宣告。不死川さんはそれに声にならない叫びを上げる。

 

「…なんで、なんでなんだよぉッ!?どうして君は、分かってくれないんだよ!殺人なんて、ただ『奪うだけ』の醜い行為でしかないのに…なんで君はそこまでそれに拘るんだよッ!!?君は殺人に、何を『求めて』いるんだよッ!!」

「…それが分からない限り、お前は一生俺を理解できはしない」

「ッ!!…いいよ、だったら君に改めて分かってもらうしかないみたいだね。殺人の醜さを…大事なものを奪われる苦しみをッ!!」

 いきり立った不死川さんは私の心臓めがけナイフを振り上げる。痛みと出血で朦朧とする意識の中で、私は迫り来る死に思わず目を瞑る。

 

 

 

 

 

「…そしてそういう奴に限って怒りで周りが見えなくなる。例えば…お前の『足下』とかな」

 

 

ジパーッ!!

「ッ!?」

 突如、私と不死川さんの足下の床がまるで『くりぬかれたように切断された』。驚く私と不死川さんを落ちた先で待っていたのは…

 

アリーヴェ・デルチ(さよならだ)!!』

「何ッ!?」

 

ドゴォッ!!

「ぐああッ!!」

 床をくりぬいた犯人…舞園さやかの『スティッキー・フィンガーズ』に殴り飛ばされ、不死川さんは悲鳴を上げて廊下に叩きつけられる。

 

ぽすっ!

 一方、放り出された私は傍に居た朝日奈葵さんに受け止められる。

 

「よっと!大丈夫…じゃ、なさそうだね。すぐに手当てするからもうちょっと頑張って!」

「朝日奈…葵、さん?どうしてここに…?」

「むくろちゃんの偽物が出たって聞いて、むくろちゃんと一緒に来たんです。何かあったときのために下の階で待機していたんですけど…功を奏したみたいですね」

 

シュタッ!

「さやかさん、葵さん!あの二人は…」

「あ、むくろちゃん!大丈夫、こっちの子は無事だよ!」

「麻野…!」

「聖原、さん…えへへ、なんだか助かっちゃったみたいです」

「いいからしゃべるな、傷に響く…」

「待ってて、今『フー・ファイターズ』で治療を…」

 

 

 

 

「…どうして、こうも…邪魔ばかり入るのかなぁッ…!」

「ッ!」

 戦刃むくろが取り出した何かウネウネ動く不気味な物体を私の体にかけようとしたとき、不死川さんがよろよろと起き上がった。どうやら咄嗟に自分のスタンドを盾にしたらしく気絶にまでは至らなかったようだ。

 

「アイツ、まだ起きてたの!?」

「だったら、今度こそ…」

「待ってさやかさん!迂闊に近づくと…」

「まあいいさ…『目的は達した』。これ以上のことは高望みが過ぎるしね、僕はここで退散させてもらうよ。…待っていてね聖原君。君とは近いうちにもう一度、必ず会うことになる。その時こそ…僕が君を、『救って』あげるよ…!」

「不死川ッ!!」

「逃がすかッ…」

 逃げようとする不死川さんに聖原さんと朝日奈さんが追撃をかけようとした、その時

 

カチッ

 不死川さんがポケットから取り出した『スイッチ』を押す。

 

 

ピーッ…

ボゴゴォンッ!!

 すると、突如上の階から『爆発音』が鳴り響き、崩れた床が瓦礫となって上から降り注いだ。後で聞いたのだけど、どうやら不死川さんは偽戦刃むくろに『爆弾』を仕掛けていたらしい。

 

「アハハハハハ…!」

 瓦礫の奥に高笑いと共に消える不死川さん。その声を最後に…私は意識を手放した。

 

 

 

 

 

 

「…、…ぅ」

 

「……ん?」

「すぅ、すぅ…」

 目が覚めたとき、私の視界に入ったのは見覚えのある寝顔であった。

 

「…わあッ!?め、『めくるさん』!!

「むにゅ…あ、おはよーあさみん」

 寝ぼけ眼で返事をしたのは、特査最年少にして特査きってのエリート…『眠りのめくる』の異名を持つ睡眠探偵『葛城めくる』さんだった。レム睡眠状態に入ることですさまじい集中力と推理力を発揮し、あまたの難事件を解決してきた霧切支部長にも負けない名探偵である。聖原さんとは昔からの知り合いらしく、その縁もあって知り合いではあるのだが…その彼女が何故私が寝ているベッドに…ベッド?

 

シャッ!

「あ、目が覚めましたか麻野さん!」

「舞園さやかさん!?どうしてここに…」

「どうしてって…お見舞いに来たんですけれど」

「お見舞い…?」

 カーテンを開けて現れた舞園さやかさんに驚き、ふと周りを見渡すと…そこは見覚えのある、第六支部の『医務室』であった。それを認識すると共に、私は気を失う前の出来事を思い出してくる。

 

「あさみん大丈夫?ここに来たとき血まみれだったんだよ。…なんか、ふー…なんとかっていうスタンドで傷は塞がってたけど」

「あ…はい。体は、なんともないです…あ、そうだ!聖原さんは…」

「…聖原さんは、今取り調べを受けています。一応今回の件は貴方たちが当事者ですし、それにあの不死川って人と聖原さんは知り合いらしいので…そのあたりを」

「そう、ですか……」

 私が黙り込むことで、医務室に沈黙が訪れる。それを破ったのは、めくるさんだった。

 

「…ショックだった?ひーくんが『キラーキラー』だって知って…」

「!…やっぱり、めくるさんは知ってたんですか」

「うん。…でも私は、ひーくんを一度も『怖い』と思ったことはないよ」

「え…?」

「確かにひーくんは面倒くさがりやだし、人殺しだって好きだけど…でも、『本当に悪いこと』はしないから。人殺しに良いも悪いもないかもしれないけど、それでも…ひーくんの人殺しは、ただ殺すってだけじゃあないと思うんだ」

「…私には、よく分かりません。何が正しくて、何が間違っているのか…」

「麻野さん。大切なのは、正しいとは間違ってるとかじゃないんです。本当に大切なのは、貴女が『どうしたいか』なんですよ。…私は一度、それをろくに考えもしないで大失敗して…いろんなものを失いましたから。だから、貴女には同じ過ちを犯してほしくないんです」

「舞園さん…」

「あさみん、あさみんはどうしたいの?ひーくんを信じたいの?それとも…もうひーくんとは会いたくないの?」

「それは…それ、はッ…!」

 

 

 

 

 

 

「…おいッ!なんだこの『配信』は!?」

 その時、医務室の奥にいた医療スタッフたちの困惑した声が聞こえてくる。

 

「…配信?」

「…!あさみん、これ…!」

『はいはーい!皆さんこーんにちはー!』

「ッ!?」

 めくるさんが見せてくれたスマホのモニターに、不死川周二が映り込んでいた。

 

 

『…お、もう閲覧数10万超えた?いやー、これで僕も立派ななんとかちゅーばーの仲間入りだね!おっと、まずは自己紹介しないとね…初めまして、僕は『キラーキラー』。巷で噂の殺人鬼でーす!』

 

 

 

 これが、後に起こる『未来機関本部崩壊事件』の前日譚…『メテオブレイク事件』と呼ばれるようになる騒動の始まりであった。

 




最近考えたどうでも良いネタ

もしジョジョ3部の時代が現在で、承太郎が今時の男子だったら…

ジョセフ「承太郎!ホリィを救うためにエジプトに旅に出るぞ!!」
承太郎「今『火ノ丸相撲』が良いところなんだ、完結したら行くぜ」
ジョセフ「」

聖原と日向の接点に関しては今作オリジナルの設定です。日向の奥底に潜む「漆黒の殺意」を嗅ぎ取った聖原が興味を持った、という感じです。今作の聖原は若干ですが黄金の精神の影響を受けているので丸くなっています。同じ殺人フェチでも吉良とは違うんですよ、吉良とは。…吉良好きだけどね!

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