ダンガンロンパ~黄金の言霊~   作:マイン

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ちょろちょろ続きを書いている間にどんどん文章が多くなって結局3部作構成に…。いっぺんに書ければこうはならなかったものを…
これも全部モンハンが悪いんだ。ネルギガンテ強いお…トビカガチうざいお…!




交錯編:害伝 デッド・イズ・ビューティフル 中編

「な、何これ…どういうこと!?」

 モニターに映った不死川周二の姿に戸惑いを隠せずにいる私。同じ映像を見ている周りの人たちも同じ反応をする中、不死川さんはニコニコと笑いながら話を続ける。

 

『…と、言ったところで信じてもらえるかなぁ?なので、まずは僕の発言の信憑性を高めるためにちょっと『実演』と行きましょう!』

 不死川さんはそう言ってモニターの外をごぞごそと探ると、目隠しと猿轡をした一人の『男性』を引っ張り出してきた。必死にもがく男性をよそに不死川さんは笑顔で続ける。

 

『さて、ここに居ますは一人の殺人鬼!人類史上最大最悪の絶望的事件の混乱を良いことに好き勝手に殺人、レイプを繰り返しその罪を全て絶望の残党に押しつけてきた正真正銘の屑です!こんな奴は…』

「…ッ!めくるちゃん、見ちゃだめ…」

 

 

ドスッ!!

「…ッ!?」

 舞園さんがめくるさんの目を塞ごうとするも間に合わず、不死川さんは何のためらいも無くその男の心臓をナイフで串刺しにした。

 

『…こうしてしまうのが、世のため人のためだって…思いませんか?』

 返り血を浴びたまま無表情に男性を切り刻む不死川さんに、動画サイトを閲覧していた人々から非難や怒号、中には賞賛や狂ったようなコメントが投稿され映像を走り去っていく。

 

『…これで少しは信じてもらえたかな?そう、僕こそが殺人鬼『キラーキラー』…『その一人』なんだよ!…どうして複数形かって?決まってるじゃあ無いか…今この映像を見ている貴方!貴方にだって『キラーキラー』になる可能性があるからだよ…!』

「な、何言って…」

『だってそうだろう?僕だって元はどこにでもいる普通の人間だったんだ。しかも、将来警察官を志望するほどに正義感にあふれた…ね。でも、そんな僕が今は殺人鬼を殺す殺人鬼…『キラーキラー』なんてものになっている。何故か?…それはね、『殺人』なんて罪がこの世にあるからだよ』

「……」

『殺人は、この世で最も唾棄するべき罪だ。僕はそれを排除するために日々殺人鬼を殺し回ってきた。…でも、ある日気づいたんだ。こんなにも殺人を憎む僕が、どうして殺人鬼相手だとこうも簡単に人を殺せるのか…って。それは、相手に『殺してもいい理由』があるからだ。殺人が許されないのは、殺された側に『殺されるだけの理由』が無いからだ。例えるなら…もし貴方が他の誰かに拳銃を突きつけられて殺されそうになったとき、その拳銃を奪って逆にそいつを殺してしまっても『正当防衛』ってことで許されるだろう?つまりはそういうこと…人間は理由が無ければ人を殺せないけど、ほんの少しでも正当化される理由さえあれば簡単に人を殺せるのさ…。それを証明してくれたのが、江ノ島盾子の『コロシアイ学園生活』なんだからね!』

「ッ!…貴方に、あの時のことの何が分かるって言うんですかッ…!」

 舞園さんが不死川さんに向かって怒りを滲ませた声で呟く。当事者である彼女たちにとって、あのコロシアイのことを軽々しく持ち出されるのは許せないことなのだろう。…まして、それを殺人の『理由』に持ち出されるというのは。

 

『要するに僕が言いたいのは、どんなに善人ぶっていようが人間なんて理由さえあれば誰もが殺人鬼になれるってことですね!…でもハイそうですか、と割り切る事なんて僕には出来ない。僕は殺人を許さない…どんなことをしようとも、僕は殺人という罪をこの世から消し去らなければならない。…そこで考えたんだ。人間がいる限り殺人が消えないのなら…『人間を消し去ってしまえば良い』、とね』

「…は?」

 その瞬間、私だけで無く動画を見ていた多くの人々が同じ気持ちになったであろう。

 

『あ、皆さん今『何言ってるんだこいつは?』って思いましたよね?でも、別に荒唐無稽な話でも無いと思いますよ。ほら、恐竜が絶滅したのだって『巨大隕石が降ってきた』からでしょう?…人間より遙かに強い恐竜が滅びてしまったのなら、『同じ事』が起きれば人間だって絶滅する…そうは思いませんか?』

「…まさかッ!?」

 意識を失う前に聞いた不死川さんの『スタンド能力』、咄嗟にそれを思い出した私の推測を肯定するようにモニターの向こうの不死川さんが嗤う。

 

『…ここで一つ、皆さんにお知らせしておきます。実は僕は、巷で話題の『スタンド能力者』なのです!僕のスタンドの名は『プラネット・ウェイブス』…その能力は至極単純、『隕石を飛来させる』というもの。そして僕は、ついさっき『とある女性』に向けて宇宙の果てから隕石を落下させるよう能力を発動しました!可能な限り巨大な隕石を呼び寄せたから、落下すれば『町一つ』…下手をすれば『日本が崩壊』することだってあるかもね!』

「なッ…!?」

『けれどご安心ください。皆さんには助かる方法が『たった一つ』だけ存在します。…それは、隕石のターゲットになっている女性を『殺す』こと。そうすれば能力はリセットされ、隕石の落下は防ぐことが出来ます。その女性の名は…未来機関第六師部、特殊捜査課に所属している『麻野美咲』ちゃん!』

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ぇ?」

 顔写真入りで私の名前が出た瞬間、私は声にならない声が出てしまう。それと同時に、周囲にいた人々が一斉に私に目を向ける。

 

『タイムリミットは『12時間』!それ以内に彼女を殺さなければ、隕石は彼女めがけてドッカーン!地上に墜ちれば大惨事、彼女を海のど真ん中に放り出しても大津波が来てこれまた大惨事!どう転んでも皆さんに無事である保証はありません!…さて、『理由』は与えました。皆さんが『殺す』か『死ぬ』か、どちらを選ぶのか…期待しているよ…!』

 

ブツッ…!

 その言葉を最後に、配信は終了した。

 

 

 

 

「…え?何、どういう…こと?」

 周囲からの奇異の視線を浴びながら、私自身もどういうことなのか理解できず呆然とするしかない。

 

「あさみん…」

「…麻野さん、今不死川周二が言っていた彼のスタンド能力は事実なんですか?」

「え…あ、はい…。一応私の目の前で本当に隕石を落としてましたし…」

「…そうですか」

 誰もが困惑する中、いち早く冷静になった舞園さんは私の不死川さんの言葉の真偽を問うとスマホを取り出しどこかに連絡を取ろうとする。

 

「…さややん、アイツが言ったこと信じるの?私にはちょっと信じられないっていうか…」

「さ、さややん?…まあ、そう思っても仕方ありません。でも、スタンド使いになった今なら私には分かるんです。スタンド能力は文字通り『自分自身の精神ビジョン』…それを『偽る』ということはそれだけ自身の能力を『制限』するってことなんです。例え不利になると分かっていても敢えて自身の能力を明かした方が、スタンドはその能力を十全に発揮できます。本気で人類を滅ぼすほどの隕石を呼び寄せるつもりなら、それぐらいのことはしないといくら何でも不可能です。……あ、響子ちゃんですか?私です…ええ、じゃあ『手筈通り』に…」

「…あの、舞園さん?誰と話を…」

 

 その時だった。

 

 

ドタドタドタドタ…ッ!

「…?何の音…」

「…!あさみん、逃げて…!」

 

バサッ!

「ッ!?」

「麻野美咲だな?貴様の身柄は我々が預かる!!連行させてもらうぞ!」

 遠くから聞こえてきた足音がどんどん近づいてきて、やがて私のベッドのカーテンが開かれると、そこには大勢の未来機関員が私たちを取り囲んでいた。

 

「あ、あの…私…!」

「黙れッ!貴様に拒否権など無い!今の話が本当なら、貴様がここに居ればどれだけの被害が出るのか分からないのか!?」

「それ、は…」

 

グイッ!

「痛ッ…!」

「あさみん…!」

 しびれを切らした男性機関員の一人が強引に私を引き起こそうとすると…

 

 

ガシッ!

「ん?」

ギリギリギリギリッ…!

「がああああッ!?」

 突如私の手を掴んでいた機関員の手首が『何かに掴まれた』ように動かなくなり、同時にそこから骨が軋むような音が聞こえてきて…いや、実際軋んでいたであろう、その機関員は悲鳴を上げて私を離すとそのまま飛び離れてしまう。

 

「き、貴様何をッ…抵抗する気か!?」

「え、え…わ、私は何も…」

「…今のは私がやりました。いくら非常時とはいえ、女性に対する扱いぐらいはきちんとしてください。そういうの、嫌われますよ」

「ま、舞園さん…?」

 通話を終え、底冷えした声でそう言いながら私を庇うように前に出る舞園さん。反抗しようとする機関員たちであったが、半眼で自分たちを睨む舞園さんが放つ殺気とそれが織り成す先ほどまで無かった美しさにたじろいでしまう。…現に何人かの男性機関員は若干顔が赤くなっている。

 

「ま、舞園さやかさん…。そこをどいてもらえませんか?我々は未来機関からの正式な命令を受けて彼女の身柄を保護するように…」

「『保護』?…『拉致』の間違いじゃあ無いんですか?仮にも怪我人を…しかも件のキラーキラーを名乗る彼に傷つけられた彼女の気持ちも考えず、あんな乱暴な真似をしてよく平然としていられますね?」

「ッ!…確かにそれは浅慮でした。ですが、我々の行動は未来機関の意向によるものです。貴女が麻野美咲を庇い立てするというのなら、貴女も『反逆容疑』にかけられる恐れがありますよ?…俺も貴女の一ファンとして、そんなことは望んでいません。どうかそこをどいてください…!」

「…へぇ、そうなんですか。だったら『奇遇』ですね、私もたった今未来機関からの『指令』を受けたところなんですが…そんな命令は『聞いていません』よ?」

『え!?』

 舞園さんの言葉に機関員達だけでなく私やめくるさんも思わず驚く。

 

「そ、そんな馬鹿な…!我々は確かに指示を…」

「…その指示、誰から言われたんですか?」

「それは…緊急と言うことで特例で『第二支部』の宗方副会長から指示が下りて…」

「そうですか。…じゃあ私の方が『正式』ですね。私に届いたのは『天願会長』からの指示ですので」

「なッ…!?」

 唖然とする機関員たちに、舞園さんはスマホを眺めながらそこに記されて居るであろう天願会長からの指示を読み上げる。

 

「こほん!…『緊急につき、特定の機関員に先んじて指示を下す。先の配信に対し、我々は毅然として『抵抗』することを命ずる。キラーキラーを名乗る彼にどのような思惑があろうとも、我々未来機関は人々を脅かす『絶望』に屈するわけにはいかない。…故に、この指示を受けた機関員は総力を挙げて麻野美咲、並びにそのコンビである聖原拓実と共に『キラーキラー』の行方を捜索、確保しそのスタンド能力の解除させるように。場合によっては、確保対象の『殺害』も許可する。…以上の作戦におけるあらゆる行動の自由を、未来機関会長天願和夫の名において保証する』…とのことです」

「…そ、そんな馬鹿な…!?そんなの、聞いてない…!」

 彼らが狼狽するのも無理は無い。未来機関のトップである天願会長によって舞園さんの行動が保証されていると言うことは、命令違反を起こしているのはむしろ彼らのほうだということになる。彼らからすれば、寝耳に水である。…かくいう私も、未だにその言葉の意味を理解し切れていない。

 

「あ…『追伸…尚、この指示を受けていない機関員が他の支部長からの指示により行動し予期せず妨害することになったとしても、それは緊急事態の対応につきやむを得ないものとして処罰しないものとする。以後は民間人の避難とパニックの抑制に努めるよう。…言うまでも無いが、明らかな妨害の意思による行動の場合はその後どうなったとしても個人の自己責任とする』…だそうですよ。よかったですね♡」

「……」

 唖然とする機関員達にニッコリと笑ってそう言うと、舞園さんは立ち上がって私の手を取る。

 

「麻野さん、歩けますか?辛いようでしたらおんぶしますけど…」

「い、いえッ!そんな…だ、大丈夫ですッ!!」

「そうですか。…では皆さん、そういうことですので失礼しますね」

「…ど、どうも…」

「ばいばーい…」

 キョドる私といつも通りめくるさんを引き連れ、思わず道を空ける機関員達の間をファッションショーの如く歩き舞園さんは堂々と医務室を後にしたのだった。

 

 

 

 

 

「…さややん、可愛い顔して『嘘つき』だね」

 聖原さんを迎えに行く道中、めくるさんが舞園さんにそう呟く。

 

「あら、バレてました?」

「うん。なんとなくだけどね」

「え…ど、どういうことですか?」

「んー…説明するより見てもらった方が早いですね」

 舞園さんはスマホを取り出すと『電源の入っていない画面』を私に見せる。

 

「…あの、これが何か?」

「これが、さっき私が『天願会長からの指示書』を読み上げたときに見ていた画面ですよ」

「……へ!?え、ということは…まさか、さっきの天願会長からの指示って…」

「はい。『100%アドリブ』で私が考えた文章…要するに、『口からでまかせ』です♡」

「うぇぇぇぇぇぇええッ!!?」

「私これでも『元超高校級のアイドル』ですから。この程度の『芝居』くらい朝飯前ですよ」

「…そ、それ大丈夫なんですか?」

「まあ大丈夫じゃあ無いでしょうね。…『今は』、ですけど」

「へ?」

 

ピロン♪

 そこに、私たちのスマホに同時にメールが着信する。

 

「あ、来ましたね」

「き、来たって何がですか?」

「私が言ったことが、何も全部嘘って訳じゃ無いってことですよ。…ほら」

 私たちに同時に届いたメール。それは今度こそ正真正銘、天願会長からの未来機関全職員に向けた『指示メール』であった。

 

『未来機関全職員に通達する。これよりキラーキラーを名乗る殺人鬼、不死川周二に対し捕縛作戦を敢行する。作戦名を『オペレーション・メテオブレイク』とする。本作戦は未来機関第十四支部を中心とした少数で実行する。他の機関員は市民の地下施設などへの避難誘導、並びにパニックの抑制に努めるよう。…尚、特殊捜査課所属の麻野美咲と聖原拓実は一時職務停止とし、重要参考人として十四支部の活動に協力するように 未来機関会長 天願和夫』

 

「こ、これって…!?」

 そこに書かれていたのは、先ほど舞園さんが言ったでまかせとほぼ同じ内容の指示であった。

 

「…打ち合わせしてたの?」

「ちょっとだけですけどね…っと」

「…あ」

 そうこうしている間に聖原さんがいる取調室の前までたどり着くと、その入り口の前には逆蔵支部長と堂上課長が立っていた。

 

「あん?…チッ」

「麻野…!大丈夫なのか?」

「課長…はい、一応…」

「…そうか」

 どうやら今のメールを既に見たらしく、逆蔵支部長は私たちを見るなり露骨に顔を顰める。課長も私の体を気遣ってくれてこそいるが、どう接して良いのか分からないのだろう…それ以上声をかけようとはしなかった。

 そんな二人を前にビクつく私にかまうこと無く、舞園さんは取調室の方へと歩いて行く。

 

スッ…

 そしてすれ違う瞬間、逆蔵支部長が舞園さんに呟く。

 

 

「…やってくれやがったな。やっぱりあの爺もテメエらと『グル』か…!」

「さあ、どうでしょうか?…ああ、言い忘れていました。逆蔵さんの部下は、私たちが責任を以て預からせてもらいますね」

「ふん…しくじりやがったらどうなるか分かってるんだろうな?」

「そんなことは考えたことがありませんね。…私たちは、絶対に負けませんから」

「ケッ、揃いも揃って口の減らねえ…この落とし前は、必ずつけるからな…!」

「ええ、その時はお手柔らかに…」

 終始笑顔のまま逆蔵支部長をいなした舞園さんに憮然としたまま、逆蔵支部長は去って行った。

 

「…二人を、頼む」

「ええ、お任せください…」

 堂上課長もそれに倣おうとして、ふと立ち止まって舞園さんにそう言うと振り返ること無く逆蔵支部長の後を追っていった。

 

「課長…!」

「…麻野さん、お気持ちは分かりますが今は急ぎましょう。あまり時間はありませんから」

「あさみん、ひーくんが待っているよ?」

「…はい、分かっています!」

 二人に促され、私は課長に背を向けると取調室の扉に手をかける。

 

 

ガチャ…!

「……麻野…!」

 そこに居たのは、椅子に縛り付けられたままの聖原さんだった。

 

「聖原さん!…って、なんで縛られてるんです?」

「…知らん。第八支部長の安藤とかいう奴に尋問されていたら、急に入ったメールを見て『聞いてない』とか『ふざけんな』と癇癪を起こして…気づいたらこのままで放置されていた」

「…多分嫌がらせですね。自分の部下を殺された手前気持ちは分からなくも無いんですけど」

「ひーくん、今解いてあげるね…」

 舞園さんとめくるさんが聖原さんの拘束を解く。解放された聖原さんは無言のまま立ち上がり、私の前に来る。

 

「…麻野」

「聖原さん。…本当に、聖原さんが『キラーキラー』だったんですね」

「…ああ。黙っていて、すまん…」

「…まあ、黙っていたことに関してはいいです。迂闊にしゃべれるようなことじゃないですし。それより…聖原さんに『お願い』があるんです」

「俺に…?」

「不死川周二の配信は見てましたよね?…あの人の言うことが本当なら、あと十二時間で私に巨大隕石が墜ちてくるそうです。それを止めるには、『私が死ぬ』か『不死川周二のスタンド能力を止めさせる』しかありません。私は死にたくありませんから、なんとか不死川周二を探すつもりです。…でももし、もし聖原さんがもう誰も殺さないって、『キラーキラーを止める』と誓ってくれるのなら…ここで『私を殺して』隕石を止めてください」

「ッ!?」

「あさみん!?」

「…麻野さん、本気ですか?」

「はい…。さっきも言いましたけど、私だって死にたくないです。まだやりたいこともたくさんありますし、折角入れた特査の仕事だってもっと続けたい…でも、それ以上に今は…私は、聖原さんに『生きて』欲しいんです。…この気持ちが、なんていうものなのかは…まだよく分かりませんけど、私はこの気持ちに嘘をつきたくないんです。私一人でみんなの命が、聖原さんが助かるのなら…私はそれでもかまいません。でもせめて、最期は聖原さんの手で終わらせて欲しいんです。…そして、『キラーキラーとしての殺人』をそれを最後にしてください」

 向き合った聖原さんに、私は没収されていた聖原さんの荷物からくすねたナイフを突き出す。声は震え、ナイフを持つ手も小刻みに震えている。どこから見ても、虚勢を張っているのはバレバレであろう。それでも、私の言葉に『嘘は無い』と…聖原さんをまっすぐに見据える。

 

「……」

 聖原さんは私の視線に真っ向から向き合うと、やがて差し出されたナイフを手に取る。

 

「ひーくん…!」

「聖原さん…」

 めくるさんと舞園さんが見守る中、目を瞑った私に聖原さんはナイフを振り上げ…

 

 

 

 

 

 

 

カラン、カラン…!

「…え?」

 しかしナイフは、私を切り裂くこと無く聖原さんの手からこぼれ落ちた。

 

「聖原さん…?」

「…悪いが麻野、俺は『今のお前』を殺さない…いや、『殺せない』」

「ッ!どう、して…?」

「俺が人を殺すのは、そこに俺の『殺し愛』があるからだ。人が『人を殺す瞬間』、人が『殺される瞬間』、…そして人が『死に抗おうとする瞬間』、その全てに俺は人間の美しさを…『可能性』を見いだしている。だからこそ俺は、それを否定するような『醜い殺人』を許さない。…そして今のお前を殺すことは、俺が最も嫌悪する『自己犠牲の殺人』だ。俺は誰かのために殺人をするつもりなどない。当然、お前の『自殺』に付き合うつもりも無い」

「…そんな」

「だが…お前のその『覚悟』を無碍にする気も無い。…受け売りだが、『男の価値は女を悲しませただけ下がる』らしいからな。俺はそこまで落ちぶれては居ないし鈍くも無い…」

 

 聖原さんは唐突に、私を抱きしめる。

 

「ちょ、聖原さん…!?」

「望み通り、お前の『最期』は俺がもらってやる。…だが、それは『今じゃ無い』。いつか、お前が心の底から死んでもいいと思ったとき、俺がお前を殺すことに『殺し愛』を見いだせたとき…その時には、俺が必ずお前を殺してやる。だから…お前も『生きろ』。俺はお前のために生きる、だからお前も俺が殺すときまで生きろ。それが…お前の気持ちに対する、俺の『殺し愛』だ」

「聖原さん…」

 

 

「……って、私の気持ち…?に、殺し…『愛』って…!!?なななな…な、何言ってるんですか聖原さん!?愛って!殺し…愛って!?」

「…うるさい、もう少し落ち着け」

「なんで聖原さんはそんな平然としてるんですか!?なんていうか、もっとこう…あるでしょう!?こういう状況で!」

 確信こそないものの薄々気づいていた『私自身の気持ち』に、聖原さんの返答が加わったことでテンパりだした私に、聖原さんはあきれたように目を逸らす。

 

「…私が言うのもなんですけど、不器用ですねぇ…二人揃って」

「ん…勝ち組の余裕?」

「あ、いや…そういうわけじゃ無いんですけど。…ところでお二人さん、そろそろいいですか?」

「え……あっ」

 舞園さんに声をかけられようやく二人が見ていたことを思い出し、私は思わず血の気が引く。

 

「え、えと…その、私…!」

「はいはい、分かってますよ。…その気持ちに答えを出せるのは、麻野さん自身だけです。だから、絶対に生き残りましょう!そして、いつか自分の口から聖原さんに伝えてあげてくださいね」

「…はい」

「…アンタ、苗木誠に似てきたな。その知ったような口ぶりがそっくりだ」

「当然です!私は誠君の…『超高校級の希望』のお嫁さんですから」

 誇らしげに胸を張りながら、舞園さんは取調室の扉を開ける。

 

 

「さあ、反撃開始と行きましょう!」

「ああ…!」

「はいッ!」

「おー…!」

 私たちの反撃が、今始まる…!

 




舞台版未来編の逆蔵役の役者さん…イケメン過ぎない?もうちょっと硬派な感じでもいいのよ?とはいえ肝心なのは演技力なので、そこに期待ですね
チケットの選考抽選は三,四月ぐらいになるかな?前回はギリギリで買えたから
よかったけど、今回は余裕を持って確保しておかねば…

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