と言うのも、以前言ったかもしれませんが僕は「北陸民」でして…。つまりは先日全国でも騒ぎになった大豪雪の被害をモロに喰らいまして…ここ2週間弱、連日酷い目に遭って精根尽き果てた状態だったのです。
…まさか普段「10分」で着く通勤に「3時間」かかることになるとは思わなかった…。おまけに途中何度も車が雪にタイヤをとられて沈黙。アクセル全開で吹かしているとマフラーが雪に埋もれたせいで危うく一酸化炭素中毒になるところでした…。
しかも僕の仕事上どんな天候だろうと休めないので、一般企業が軒並み休みになる中家族で僕一人だけが雪道をひーこら言いながら通勤…ぬわぁ~ん、ちかれたもぉ~!止めたくなりますよ雪国県民~!
…と言うわけでして雪が落ち着くまで続きを書く気力が湧かず、ようやく書き上げることができました。でも間が空いたせいで内容を整理できず今回で害伝を終わらせられなかった…。後編と書いてはありますがまだエピローグがありますので続きはまた次回で…
長々と前書き、お目汚ししました。ではどうぞ
ブオオオオオオ…!
人気の無い大通りを、一台の『自動車』が走り抜ける。人類史上最大最悪の絶望的事件により信号をはじめとした各交通機能はほぼ麻痺状態となったが、それでも道路は健在であるため車は貴重な交通手段となっている。とはいえ、暴動より多くの車が破壊されてしまったため一部の企業や個人を除けば、走ってる車の多くは未来機関のものばかりだ。
そんな貴重な車に一台に、私と聖原さんは乗っていた。
「遅くなって悪かったわね。車の手配に思ったより時間がかかったわ」
「そ、そんな…とんでもないです『霧切支部長』ッ!!」
第六支部を後にした私たちを迎えに来たのは、霧切支部長の運転する車であった。通算で二度目の邂逅となる憧れの支部長に驚く私にかまうこと無く、霧切支部長は私たちを車に押し込むとそのまま走り出したのである。
「…ところで支部長さん。この車どこに向かってるの?」
「あ…そういえば。もしかして、もう不死川周二の居場所が分かったんですか?」
めくるさんの当然の疑問に、霧切支部長は振り返ること無く答える。
「いいえ。私は不死川周二がどこに潜んでいるのか知らないわ」
「えッ?じゃあ…」
「…けれど、貴方なら知っているはずよね?聖原君」
「……」
「聖原さん…?」
霧切支部長から問われた聖原さんは、しばらく黙っていたがやがて口を開く。
「…一つ教えろ。何故あんた達は俺達の味方をする?確かにあんた達とは知らない仲じゃあ無いが、あんた達との関わり自体はそれほど深いものじゃあ無い。正直『他人』と言ってもいいぐらいだ。なのに…どうしてここまでして俺達を助けようとする?」
「…理由は『2つ』あるわ。ひとつは、貴方たちじゃなく不死川周二のことよ。むくろさんから聞いた不死川周二のスタンド『プラネット・ウェイブス』。…けれど、彼の身辺調査の結果彼は『生まれついてのスタンド使いでは無い』ということが分かったわ」
「…じゃあ、あの人は『後からスタンド使いになった』の?」
「ええ。そして後天的にスタンド能力を得る手段は限られている。その内の1つが…『ホワイトスネイク』の持つ『スタンドのDISC』を入手することよ。もし不死川周二がその方法によってスタンド能力を会得していたのなら…彼はほぼ確実に『あの男』と接触した可能性が高いわ」
「あの男、って…?」
「…エンリコ・プッチ。人類史上最大最悪の絶望的事件の時から江ノ島さんと結託し、そして今なおどこかに潜んでいる…私たちの『敵』です…!」
「不死川周二がプッチに関する何らかの情報を持っているのなら…正直望みは薄いけれど、可能性がある以上私たちは不死川周二に問いただす必要がある。…その過程で彼の目論見を潰せば一石二鳥というわけよ」
「はぁ…」
正直あまり分かっていない私の生返事にかまうこと無く、霧切支部長はバックミラー越しに聖原さんを見る。
「そして、もうひとつ。…聖原君、貴方は自分が生み出してしまった『不死川周二』という怪物と向き合おうとしている。貴方がどんな理由で彼と戦おうとしているのかは知らないけれど、私たちは…自分の『運命』と向き合う人たちの味方よ。そうして戦ってきた人をずっと近くで見続けてきたから…」
「…そうか」
「響子ちゃん、変わりましたよね。今回聖原さんたちを助けるよう言い出したのだって、響子ちゃんなんですよ」
「えッ!?そうなんですか?」
「…ええ、自分でもつくづく変わったと思うわ。以前の私なら、余計な軋轢を生まないよう静観していたでしょうね。…でも、放っておけなかったのよ。『他人の思惑』で勝手に振り回されるようなことがね」
「…きりりん、思ってたよりお人好しだね」
「十神君じゃ無いけど、誠君のが感染ったのかしらね。…あと、きりりんは止めて頂戴」
「き、きりりん…!う、ふふふ…」
「…ぷぷッ!」
「…貴方たちね…」
「『宜保裏中学』だ」
「ッ!?」
突如聖原さんが口にしたその場所に、私は聞き覚えがあった。そこは、不死川周二と聖原さんが『同じ体験』をした母校であり…同時に二人が異なる『殺人鬼』になるきっかけとなった場所だからだ。
「アイツが俺に固執している以上、奴は過程はどうあれ『俺に会おうとする』筈だ。だが、おおっぴらに呼び出せば未来機関もこぞって押しかける。それを避け、なおかつ俺をおびき出すためには…俺とアイツだけが知る『秘密』に関わる場所で待つのがうってつけだろう。ならば、そこ以外には考えられない…」
「…そう。なら『予定通り』宜保裏中学校に向かうわ」
「…へ?予定通りって…霧切支部長知らなかったんじゃあ…?」
「ええ、ついさっきまで知らなかったわ。…けれど、『推測』はできていたわ。聖原君と不死川周二の経歴を調べれば、宜保裏中学校が鍵であることぐらいは推理できて当然よ」
「きりりん…すごい。寝ないでも推理できるんだ…」
「俺のはただの答え合わせかよ…」
「ま、まあまあ…それより場所が分かったなら急いで…」
ドガァァンッ!!
「ッ!?」
その時、突如道路の傍にあったゴミ置き場が『爆発』した。
「ッ!」
キキキキキィーッ!!
霧切支部長は咄嗟にドリフトしながら急ブレーキをかけて爆風を躱す。
「きゃああッ!?…な、何が起きたんですか!?」
「…『ブービートラップ』ね。ゴミの中にセンサー式の『爆弾』が仕掛けてあったみたいよ」
「爆弾!?だ、誰がそんなことを…」
「…『あれ』だろ」
「あれ…?」
聖原さんが指さしたビルとビルの間にある路地裏を見ると…
ザッザッザ…
「絶望…絶望…!」
「江ノ島盾子様に絶望あれ…未来機関に絶望あれ…!」
どこから湧いてきたのか、モノクママスクを被った『絶望の残党』たちがゾロゾロと現れる。車に近づくその手には、バールや金属バットといった凶器の類いが握られている。
「ぜ、絶望の残党!?なんでここに…」
「決まってるだろ。不死川の計画が成功すれば大勢の人間が死ぬ、こいつらも含めてな。そういうのを…『絶望』って言うんだろ?」
「しかもこんな罠まで仕掛けているところからして、おそらく事前に不死川周二から計画を知らされていたんでしょう。そして未来機関からの妨害を防ぐために利用された…」
「ど、どうしましょう…!?」
「相手にするのも時間の無駄ね。…振り切るわよ、しっかり掴まってなさい!」
ギャルルルルル…!ブオオオッ!!
霧切支部長は手慣れた動きでギアを操作し、アクセルを踏み込んですさまじいスピードで絶望の残党達を振り切り車を走らせた。
ドガァンッ!ドガァァン!!
ギャルルルル…キキィィーッ!!
道中幾度も仕掛けられた爆弾が車を襲ったが、霧切支部長は映画のようなカーアクションを披露し爆発を顔色1つ変えず躱していく。
「きゃわぁぁぁぁッ!!?き、霧切支部長…運転激しすぎますよーッ!!ていうか…支部長なんでこんな運転できるんですかー!?」
「そりゃ…『良いお手本』が近くにいましたので…!誠君も急ぐときはこれぐらい運転荒っぽくなってましたので…」
「あれを良いお手本とは言ってはだめなんでしょうけどね…」
「…あさみん、私気持ち悪い」
「うぇッ!?ま、待ってくださいめくるさん…ひ、聖原さんなにか袋ありませんか…」
「…麻野、俺も気持ち悪い」
「ええええッ!?…が、我慢してくださーいッ!!」
両隣で揃って真っ青な顔のめくるさんと聖原さんを介抱しながら、車は一路宜保裏中学校へと向かっていった。
「…響子達はうまくやったみたいだな。不死川周二のことは聖原さんに決着を任せるとして…僕も動いておかなくちゃな。猶予は…衝突の『3時間前』までが限界か。それまでに決着がつけられなければ…『最後の手段』に出るしかない。人類を、希望を守るために…!」
ザッ…
「…ここだ」
「はい…!」
不死川周二の配信からおよそ『8時間』後、本来なら車で3時間もあれば着く距離の筈が、相次ぐ妨害により進路を阻まれ遠回りを強いられてたり、パニックを起こした人々による暴動に巻き込まれ、舞園さんを足止めのためにその場に置いていくことになってしまった。その上酷使し動かなくなってしまった車を放棄して途中から徒歩で移動することになり、めくるさんや私の体力を考え要所要所で休憩を挟みながら…ついに私たちは、宜保浦中学校の校門前へとやってきたのだった。
隕石の衝突まであと『4時間』。時間はかかったがまだ余裕はあると思っていたのだけど…
「…急ぎましょう、もう一刻の猶予も残されてはいないわ…!」
「え…あ、はい!」
妙に急かし立てる霧切支部長に言われ、私たちは学校の中へと入っていく。
「…ああ、来てくれたんだね聖原君。きっと君なら、ここに来るって信じていたよ。麻野さんを『救う』為にね…。でも…周りの奴らは邪魔だな。今回はオーディエンスはいらないんだよ…ね!」
ピッ
ピーッ…!
ボゴォォンッ!!
『ッ!』
校舎の玄関へと入った矢先、突如天井が崩れ瓦礫が私たちに落下してくる。
「麻野!」
「葛城さんッ!」
「きゃあッ!?」
「わ…!」
いきなりのことに動けずにいた私を聖原さんが、めくるさんを霧切支部長が引き寄せる。
ガラガラガラガラ…!
「…ッ、おい…無事か麻野?」
「聖原さん…はい、なんとか。めくるさんたちは…」
間一髪で瓦礫から逃れることはできたが、振り返った先には玄関を完全に塞いでしまった瓦礫の山だけがあり、めくるさんや霧切支部長の姿は無かった。
「ま、まさか…めくるさーん!!霧切支部長―!!大丈夫ですかーッ!!?」
「…あさみーん…!」
大声で呼びかけると、瓦礫の向こうからめくるさんのか細い声が聞こえてくる。
「めくるさん!無事なんですか!?」
「私は大丈夫…でも、きりりんが私を庇って…」
「えッ!?」
「…問題ないわ。少し、足を捻っただけよ…」
霧切支部長の声も聞こえてきたが、その声は痛みを堪えているのか少し上擦っていた。
「でもきりりん、足…『変な色』になってるよ。すっごく痛そう…」
「これぐらい平気よ、それより…聖原君、麻野さん!私たちはいいから先に行きなさい!!」
「えっ…で、でも…!」
「迷っている時間はないわ!一刻も早く、不死川周二を止めなさい…!」
「…行って!ひーくん、あさみん!きりりんは私が看てるから…」
「……行くぞ、麻野」
「聖原さん……分かりました。二人とも待っててください、必ず不死川周二を止めて…戻ってきます!」
瓦礫の向こうに二人を残し、私と聖原さんは校舎の中へと入っていく。
「急いで聖原君…あと『45分』、それまでに不死川周二を止められなければ…私たちには、もう手の打ちようがない…ッ!」
カツカツカツ…
「……」
カツカツカツ…ガラッ
「……」
キィィィィ…!
「…やあ、聖原君」
「やはりここだったか…不死川」
「ほ、ほんとにいた…しかもロッカーの中に…!」
勝手知ったる我が家のように迷うこと無くずんずんと校内を突き進んで行った聖原さんの後を追い、やがて『とある教室』の前までやってくるとそのまま教室の中に入り、隅にあった『掃除用具入れロッカー』を開くと…そこにはちょこんと座り込んでいた不死川周二が収まっていた。
不死川周二はにこやかに聖原さんを迎えると、おもむろに立ち上がって辺りを見回す。
「憶えているかい、この教室…このロッカー。あの時君は隣のロッカーに、そして僕はこのロッカーに隠れて…目の前で友達が、先生が…戦刃むくろに殺されていくのを見ていた。…そう、ここは『僕たちがキラーキラーになった場所』なんだよね」
「…ああ、そうだ。あの日俺達は同じモノを見た。そして俺は殺人に『敬愛』を、お前は『憎悪』を抱き、正反対の思想を持ったキラーキラーになった」
「そう、その通りさ。あれから僕は全ての殺人を憎み、それを成したクソッタレ共を決して許しはしなかった。もちろん、最初はいくら殺人鬼だからといって殺すのはどうかとも思ったさ。…けどね、その内気づいたんだ。白の絵の具の中に一滴落ちた黒の絵の具を誤魔化す為に、いくら水で薄めたり白の絵の具を足したりしても結局黒を消すことはできないだろう?だったら…その黒を『完全に取り除く』しかないってね。この世界を綺麗なままで保つためには、汚いモノは元から絶たないと意味が無いんだよ」
「…ッ!何が、綺麗な世界ですかッ!!そんな犠牲の上に成り立った世界が正しいはずが…」
「お前は口を挟むんじゃあないよ雌豚ッ!!今お前が生きているのは僕の『温情』だっていうことを忘れるな!僕と聖原君の会話に割り込む資格なんかお前には無いんだよッ!!」
「ひっ…!?」
聖原さんと話している時とは一変、恐慌したような表情で吠え立てられ私は竦んでしまう。
「……」
そんな私を庇うように聖原さんが立ち塞がると、不死川周二はますます顔を歪める。
「…そう、それだよ。分からないのは『それ』なんだよ。何故君はそんな小娘にそこまで拘るんだい?そんな奴、どこにでもいる凡人と変わらないじゃあ無いか。正直さ、江ノ島盾子や苗木誠みたいな奴が君の隣にいるのならまだ納得できたさ。でも…そんな女の為に君がここまでするって言うのが、理解できないんだよ…!」
「ッ…!」
あんまりな言い方であったが実際その通りであるため言い返せない私に変わって、聖原さんが口を開く。
「…不死川、それを答える前に1つ『訂正』させてもらうぞ」
「…なんだい?」
「お前は麻野を『凡人』と言ったが、それは違うぞ。こいつは 凡人なんかじゃあない…」
「聖原さん…!」
「…こいつは、『バカ』だ」
「………へ?」
「…はい?」
フォローかと思いきやの罵倒に、私も不死川周二も揃って間の抜けた声が出てしまった。
「こいつが凡人なんて可愛いものな筈が無いだろう。こいつは正真正銘のバカ…いや、大馬鹿女だ。すぐにコロッとだまされて人質にされる上に、それを禄に反省もせず繰り返した結果がこのザマだぞ。これをバカと言わずになんというっていうんだ。ピー○姫の方がまだ可愛げがあるぞ」
「……」
「ちょっとぉぉぉぉッ!!?この状況で何言ってんですか聖原さん!ほら…不死川さんがちょっと引いてるじゃないですか!…ていうか、例えが酷くないですか!?」
「…だがな、こいつは俺が『キラーキラー』だと分かってからも、俺に『今までと変わらず』接してきた。今の俺を頑なに認めないお前と違ってな…」
「…ッ!」
「その上…こいつは俺に『自分を殺してくれ』とまで言ってきた。そして俺はそれを受け入れた。…つまり、麻野の命は『俺のもの』だ。俺は俺のものをお前から『取り返しに来た』だけだ。俺がここに来た理由は、ただそれだけのことでしかない」
「ひ、聖原さん…」
「…ふうん。つまり君は他の連中の命なんてどうでもよくって、ただ麻野ちゃんを助けにここに来たってこと…」
「…『助ける』?お前は何を言ってるんだ?」
「え…?」
「今言っただろう、麻野の命は『俺のもの』だと。俺のものなのに助ける必要など無い。俺はただ俺のものをお前に壊されるのが『気に入らない』だけだ。…要するに、俺がここに来たのは『100%俺の都合』だ。麻野の意思はどうでもいい」
「酷ッ!?」
「……」
声を荒げてしまった私と対照的に、不死川周二は唖然とした表情で固まっていた。
「不死川、勘違いしているようだからハッキリ言ってやる。俺は何があっても『自分以外の為』に殺人をするつもりはない。お前には俺が麻野を守っているようにでも見えたのかもしれんが、それはたまたまこいつが近くに居ただけだ。…仮にお前と和解したとしても、俺はお前の『妄想』に協力する気などないし、そもそも何の興味も無い。やりたければ勝手にやってろ」
「…なんで、なんでッ…なんで君は僕の思い通りに動いてくれないんだよッ!!君を理解してあげられるのは、僕だけなんだッ!その女はただ流されているだけだっていうのがどうして分からないんだ!?君を本当に幸せにできるのは、僕しかいないんだよッ!!」
「…ならば何故、お前は『殺人』を否定する?」
「決まってるじゃ無いか…殺人は『何も生まない』、ただ『奪うだけ』の最低最悪の下劣な行為でしかないからだよ!みんなそれを分かってるから、『殺人はいけないこと』なんでって常識があるんじゃあないか!それを君は…」
「…やはりな。お前は俺のことを何も分かってはいない」
「……え?」
愕然とする不死川周二に聖原さんは淡々と告げる。
「お前の言うとおり、『殺人は許されないこと』だ。そんなことは誰もが分かっている。…だが、だからこそ人間は許されないことだと知って尚『殺人をする』と決めたとき、自身の全てを以てそれを成す。どう殺すか、何のためにするのか、自分の仕業だとバレないためにはどうすればいいのか…それらを考え、行動に移す瞬間。俺はその瞬間こそに『人間の可能性』が表れると思っている。タブーと知って尚挑むからこそ、殺す側も殺される側も…命は美しく燦めく。俺はそれを信じているからこそ、殺人を愛する。殺人こそが、『人間が最も強く、美しくなれる行為』なんだよ。…アイツの言葉を借りるなら、これが俺なりの『人間賛歌』だ…!」
「…聖原君、何を…言って…?」
「不死川、お前のここに至るまでの経緯…正直言って文句のつけようが無い。事情を知らない麻野を介して俺に近づき、あの戦刃むくろすら直前まで欺いた。ナリだけとはいえ精巧な戦刃むくろのコピーを造り出し、市民どころか『この星』すらも人質にとって未来機関を手玉にとった。お前を『殺人鬼』として評価するなら文句なしの『花丸100点』だ」
「おい、聞けよ…!僕は殺人鬼じゃ…」
「…だが、『人間』としてお前はどうだ?お前がやったことは所詮何もかもを『利用した』に過ぎない。戦刃むくろの『超高校級の絶望』としての側面、エンリコ・プッチを介して手に入れたスタンド能力、そして麻野…。そこに『お前の可能性』は欠片も感じられない。お前の『殺意』はドブのように腐った黒でしか無い。俺の憧れた…あの『漆黒の殺意』には程遠い」
「ひ、じり…はら…」
「お前には決定的に足りないんだよ…『殺し愛』が」
「■■■■■■■■―ッ!!!!」
言葉になっていない絶叫が不死川周二から放たれる。聖原さんからの『決別』ともとれる自身への評価に、不死川さんは理性を無くしたかのように絶叫した。呆然と見ていた私にも、ハッキリと分かった。不死川周二は今…『絶望した』のだと。
「…は、ははは…。そうか、もう君は…とっくに『手遅れ』だったんだね。…いいよ、だったらもういい…。君は、ここで終わらせる…。安心してよ、今の君は手遅れでも…せめて『僕の中の聖原君』だけは綺麗なままで居させてあげるからさ…!」
「お前の知る『俺』なんぞ存在しない。今ここにいる『俺』…それが『聖原拓実』の全てだ。…麻野、下がっていろ」
「は、はい!」
物陰に隠れた私の前で、不死川周二は拳銃とナイフを、聖原さんはナイフ一本を手に構える。武器だけを見れば聖原さんが圧倒的に不利に見える…が、私にはそんな不安は欠片も無かった。今の聖原さんが不死川周二に負ける筈が無い…私にはそんな根拠も無い確証があったからだ。
「あああああああああ゛ッ!!」
「はぁッ…!」
ザシュッ!
ガキィン!!
ドンドンドンッ!
聖原さんと不死川周二の戦いが始まる。始めこそナイフで斬り合っていたが、ナイフの太刀筋は聖原さんに分があったらしく不死川周二は劣勢になりかけるとすぐに距離をとって拳銃を撃ち放つ。
ギンギンッ!
しかし、聖原さんは一切慌てること無くナイフの刃を構えると、不死川周二の放った銃弾は狙い澄ましたかのように刃に当たり、甲高い音を立てて『切断』される。
「なッ…!?」
「殺人鬼を殺し続けてきた俺に、今更銃なんてものが通じると思ったか…!それに、あの訳の分からん『鉄球』に比べれば銃弾など恐るるに足りん!」
「チッ…!」
突っ込んでくる聖原さんに不死川周二は無用の長物と化した拳銃をポケットにねじ込むと聖原さんと同じナイフ一本で迎え撃つ。
ギィンギィンッ!
…ガキィン!
武器を1つに絞ったことで太刀筋は先ほどより鋭くなったものの、やはり聖原さんには及ばず不死川周二のナイフが弾き飛ばされる。
「これで終わりだ、不死川ッ!!」
「…ッ!」
ナイフを失い体勢を崩しかけた不死川周二に聖原さんが止めを刺そうとする。
「…ッ!?」
…その瞬間、私は見た。体勢を崩したことで俯き加減になった不死川周二を『正面』にしていた聖原さんには見えてなかっただろうが、戦いを『横』から見ていた私には見えていた。
止めを刺されようとしている不死川周二が、『嗤った』のが。
「聖原さん、危ないッ!!」
「ッ!?」
私の警告の悲鳴も間に合わず…
ガツゥンッ!!
「…が、はッ…!?」
聖原さんの後頭部が何かに『殴りつけられ』、聖原さんはそのまま前のめりに倒れ込む。
「…ッハァ!」
不死川周二は待ってましたとばかりに倒れる聖原さんを抱き込むと、聖原さんを羽交い締めする形に拘束する。殴られた衝撃で意識が朦朧としながらも聖原さんは拘束から逃れようとするが、不死川周二は蛇のように聖原さんを捕らえて放さない。
「ぐっ…!今のは、まさか…お前の『スタンド』かッ…!」
「ああ、そうさ!僕のスタンド『プラネット・ウェイブス』はただ隕石を落とすだけが能じゃあ無いんだよ!確かにスタンド同士の戦いが出来るほど戦闘能力は高くは無いけど、スタンドが視えない君を不意打ちするぐらいならできるんだよぉッ!!」
私や聖原さんには視えていなかったが、聖原さんを捕らえた不死川周二の後ろにはまるで人体模型のように皮膚の無い筋肉が露出したような存在…『プラネット・ウェイブス』のビジョンが浮かんでいた。
ジャキッ…!
その『プラネット・ウェイブス』が不死川周二のポケットから拳銃を手に取ると、それを聖原さんの頭に突きつける。
「…!」
「この距離なら防ぎようはないよね?…さよなら聖原君、僕の一番の友達だった人…」
「わあああああああッ!!!」
「!?」
気がついたとき、私は手近に転がっていた椅子を振り上げ不死川周二めがけて走り出していた。どう転んでも太刀打ちできないことはわかりきっていた。それでも…黙って見ているなんてできなかった。
「やめろッ…来るな、麻野ッ!!」
「…しつこいだよお前…!毎回毎回弱いくせに、何の価値も無いくせに…僕の聖原君に縋り付いてくるんじゃあないッ!!」
『プラネット・ウェイブス』の持つ拳銃の銃口が私へと向けられる。
パンパンパンッ!
チュンチュンチュンッ…!
一切迷い無く放たれた銃弾は、しかし私に当たること無く通り過ぎていく。どうやらあのスタンドは精密な動きは苦手らしく、『銃を撃つ』ということはできるが『狙って撃つ』のは難しいようだ。そうこうしているうちに私は距離を詰め、頭だけは守るように椅子で隠しながら不死川周二に飛びかかろうとする。
「…糞ッ!!お前なんかにッ…」
痺れを切らした不死川周二は聖原さんの拘束をスタンドに任せると、自ら銃を構え私に狙いを定める。
「お前如きが…僕の邪魔をするなァァァァァァッ!!」
「止めろ…止めろ、不死川ぁぁぁぁ!!」
パァンッ!
怒りと共に放たれた不死川周二の弾丸は…
チュンッ…!
「あ…」
私のガラ空きだった『左胸』に狙い違わず突き刺さった。
「麻野ぉッ!!」
「…あーあ、結局こうなっちゃったか。『あと少し』ぐらい生かしておいてもよかったんだけど、しょうがないよね。アイツが僕の邪魔をしようとするんだから…」
「不死川ッ…!」
「…まだ、『終わってない』ッ!!」
「「ッ!!?」」
銃弾の勢いで後ろに倒れ込みながらも叫んだ私に、二人は思わず目を剥く。その動揺を突き、私は『隠し持っていたもの』を不死川周二に投げつけた。
バフッ!!
不死川周二の顔面に命中した『それ』は、当たると同時に『大量の白い粉末』を吹き出し不死川周二の視界を奪う。
「ゲホッ!?なんだこれッ…この匂い、『チョークの粉』…『黒板消し』か!?」
「聖原さんッ!!」
「…うおああああああああッ!!」
「なッ…!?」
強引に目元を拭って視界を回復した不死川周二であったが、その時には既に拘束から抜け出した聖原さんがナイフを手に躍りかかっていた。そのことに驚く不死川周二であったが、聖原さんの片腕が『垂れ下がっている』のを見て理由を察する。
「『肩の関節を外して』ッ…強引に拘束から逃れたのか!」
「スタンドに任せなければこうはならなかったろうな…終わりだ不死川ァァァァァ!!」
「させるかぁぁぁッ!『プラネット・ウェイブス』!!」
ガシィィッ!!
聖原さんのナイフが不死川周二の胸を貫く寸前、割り込んだ『プラネット・ウェイブス』の手がその刃を掴み侵入を阻む。聖原さんはなんとか押し込もうとするが、掴まれたそのナイフはピクリとも動かない。
「ぐううううッ…!」
「無駄だよ、僕のスタンドは素早い動きは無理でもパワーだけはあるんだ。人間の力じゃ押し切れっこない…!」
「それはッ…どうかな…!俺にはまだ…『切り札』があるッ!」
そう言って聖原さんは大きく息を吸い込み…吐く。
「コォォォォォォッ…!」
どこか厳かなその吐息と共に、聖原さんの腕が『赤く輝く』。
「それはッ…!?」
「俺が一体、『誰』を目標にしてきたか…お前は知らないだろうッ…!俺はアイツとの戦いの中で、あの『呼吸』をずっと観察してきた!そして少しでもアイツに近づくために、俺なりにそれを『研究』してきたッ!その集大成…お前に見せてやる!」
「『鮮血の波紋疾走(ルビーレッド・オーバードライブ)』ッ!!」
ギギギギギギギッ…!
聖原さんが一呼吸するたびに輝きが増し、微動だにしなかったナイフがジワジワと動き出す。
「ば、バカなッ!?この力は、一体…!?」
「これが、お前の知らない『俺が見た世界』…!『人間の可能性』を突き詰めようとした『男』が俺に見せた、『命の輝き』…俺の『殺し愛』の答えだッ!!」
「あ、あああああああッ!!」
「うおおおおおおおッ!!」
堪える不死川周二と押し切る聖原さん。技術も哲学もない、力と意地のぶつけ合いはしばらくの拮抗の後、徐々に形勢が傾いていき…そして
ドスッ…!
聖原さんのナイフが、不死川周二の胸を貫いた。
「プラネット・ウェイブス」の破壊力はAになってますが、あれは隕石の威力も込みでのAなので本体のパワー自体はC程度です。
今回聖原が使った本作オリジナルの波紋…若干盛りすぎたと思っている。波紋の種類としては単純に身体能力の底上げになります。威力は正式な修行を受けたわけではないので4部のジョセフと良い勝負程度になります
オーブ外伝やらEOH編やらはもうちょっと待ってね…。今頑張って書いてますので…今後とも応援よろしくです!