ダンガンロンパ~黄金の言霊~   作:マイン

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いや、ほんとお待たせしました…。新作の方を見ていない方は約一ヶ月ぶりです

新作の方にモチベーションをとられたのと、ちょっと将来のことでナイーヴになって筆が遅くなってしまいました。またオーブ外伝も含めてぼちぼち進めていきますのでコンゴトモヨロシク!

…転職、しよっかなぁ…?


交錯編:害伝 デッド・イズ・ビューティフル 終章 

「コアッ…!?」

 聖原さんの渾身の一撃により床にナイフで縫い付けられた不死川周二は、口から力なく血を吐き出す。それと同時に、不死川さんから出ていた言いようのないプレッシャーが消え去ったような感覚を憶える。どうやら不死川周二が力尽きたことで『プラネット・ウェイブス』も消滅したようであった。

 

「…うおっ…、ぐ…」

「聖原さん!!」

 聖原さんはそれを確認すると自分もまたふらふらと後ろに倒れるように座り込む。けがでもしたのかと慌てて立ち上がって駆け寄り確かめるが、先ほど脱臼した肩を除けば目立った外傷は見当たらない。単なるガス欠だったようで心底ホッとした。

 

「大丈夫ですか、聖原さん?」

「…心配するな。少し、疲れただけだ…。それより、お前どうして…!?『心臓』を撃たれた筈じゃ…!」

「え?きゃあッ!?」

 聖原さんがしがみつくように私の上着の胸元を引っ張る。。

 

ポロッ…コロンコロン…

 すると、私の左胸から微かに硝煙の立ち上るそれ…『黒板消し』が転がり出る。

 

「黒板消し…!?まだ隠し持っていたのか…」

「えへへ…2個落ちてたので一個はぶつける用に、もう一個は撃たれたときに備えて服の下に入れてたんです。結構頑丈そうだったしスポンジのところがクッションになってくれるかな~って…。頭さえ守っていれば心臓以外なら撃たれても死なないと思ったので…」

「…道理でいつもより胸がデカいと思った」

「ななッ…!?せ、セクハラですよ!!…と、ところで…さっき聖原さんの腕が赤く光ってたのって一体…?」

「…あれは『波紋』だ。もっとも、俄仕込みの半端な威力だけどな」

「『波紋』って…SPW財団やパッショーネに居た変な格好の人たちが使ってたやつですよね?聖原さん波紋使いだったんですか!?」

「見よう見まねだ…精々ほんの一,二秒常人より強くなれる程度のな。もっとも、こいつ相手ならそれで十分だったがな」

 

 

タッタッタッ…!

 その時、教室の外からこちらに近づく足音が聞こえてくる。

 

「…麻野、聖原!」

「えっ…堂上課長!?それに…めくるさん!霧切支部長に舞園さんも…」

「あさみん、ひーくん…無事でよかった」

 大声で飛び込んできたのは第六支部で別れたきりだった堂上課長、そしてその後ろにはめくるさんや足に添え木をした霧切支部長とそれを支える舞園さん、そして課長の部下の人たちがいた。

 

「課長、どうしてここに…?」

「市民の避難も一段落ついたのでな、黄桜支部長やグレート・ゴズ支部長の計らいでこちらに人を回す余裕ができたんだ。それで来てみれば玄関が崩落して霧切支部長が怪我をしていたので急いで来たが…どうやら杞憂だったようだな」

「…どうも」

「麻野さん、聖原さん…!よかった、途中ではぐれちゃったから心配だったんですよ」

「舞園さん…ありがとうございます」

「…麻野、その…なんだ。色々と悪かったな、すまん…」

「あ…いえ、そんな気にしてませんから…」

 

「…申し訳ないけど、おしゃべりは後よ。先にやることがあるわ…」

「!」

 舞園さんや謝罪する同僚と話をしていると、霧切支部長の一声で皆すぐさま注意を倒れた不死川周二に向ける。

 

「……」

「…聖原、殺したのか?」

「いや…急所はギリギリ外しておいた。万一奴の『任意』でしか能力を解除できないのなら、生かしておく必要があったからな」

「そうか。…不死川周二!聞こえているな、今すぐ麻野にかけたスタンド能力を解除しろ!もう貴様に逃げ場はない…指示に従えば、命だけは保証すると約束しよう!」

 不死川周二を包囲した上で堂上課長が投降を勧告する。不死川周二は倒れたままそれに答えることなくピクリとも動こうとしなかったが、課長が二度目の勧告をしようとした時…突然『笑い出した』。

 

「…ふ、ふふふ…。その必要は、ないよ…。さっき、僕の意識が一瞬途切れた時点で…スタンド能力は『解除されている』からね。もう麻野ちゃんは、自由の身だよ…」

「ほ、本当ですか!?よかったぁ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…もっとも、『少し遅かった』けどね…!」

「え…?」

「惜しかった、本当に惜しかったね…。あと『5分』早く僕を倒せていたら、『ハッピーエンド』で終わることができたのにねぇ…」

「5分…ッ!!堂上さん、タイムリミットまであと何時間!?」

「あ、はい…あと、『2時間55分』ですが。まだ3時間近く残って…」

「…なんてことッ…!『間に合わなかった』ッ…」

「えっ…?ど、どうしてですか!?まだ時間は残ってるじゃあないですか!」

 まだ時間があるにも関わらず顔を青くする霧切支部長に首を傾げていると、不死川周二が馬鹿にするような口調で語りかけてくる。

 

「アハハハ…君、本当に幸せな頭をしてるよね…。まさか『12時間以内』に僕を倒しさえすれば、何もかも解決すると本気で思ってたわけ?」

「…どういう意味だ?」

「僕の『プラネット・ウェイブス』が降らせる隕石はさ、スタンド能力で生み出した訳じゃあない。実際に宇宙を漂っている岩やデブリなんかを『引き寄せている』に過ぎないんだ…。だからスタンド能力が解除されれば、その『引き寄せる力』…『引力』も消失する。けどさ…隕石自体は消える訳じゃあないんだよ。あくまでそこで『停止する』だけ、そして…『地球』にも『引力』はあるんだよね…!」

「…!不死川、お前まさか…」

「流石にここまで言えば分かるよねぇ…?僕のスタンド能力が消えたとしても、隕石が『地球の引力が働く範囲』に存在していれば、隕石は何もせずとも地球へ向けて『落ちてくる』。そして、その圏内に到達するまでの時間は…衝突の『3時間前』だったんだよね!」

「…ということは…!?」

「もう分かるだろう?隕石は既に『地球へ向けて墜ちてきている』ッ!正確には元々のターゲットだった麻野ちゃんが能力解除時点で居た場所…つまり、『ここ』にねッ!」

 

 勝ち誇ったような高笑いをする不死川周二を、私たちは愕然としたまま見ているしかなかった。ズタボロなのはあっちの筈なのに、言い知れない『敗北感』が私たちを包んでいた。

 このときになって、私は霧切支部長が何故あんなにも焦り、急いでいたのかをようやく理解した。支部長は知っていたのだ、タイムリミットまでに不死川周二を倒すだけでは意味がないということを。それを言わなかったのは、私たちにプレッシャーを与えないためか、それとも言ったところでどうにもならないからか…いや、そんなことはもうどうでもいい。こうなってしまった以上、過ぎたことを突き詰めたところでどうしようもない。私たちは『間に合わなかった』…それが『真実』なのだから。私たちは、『負けた』のだから。

 

「アハハハハハ…!ああ、ここまで近づいてくれば隕石の大きさもよく分かるよ…。大きさは…大体直径『1㎞』ぐらいかな?流石に地球を壊すほどの威力はないけど、少なくともここの『周囲100㎞』を消し飛ばすぐらいの威力は十分にあるだろうね!逃げるのはいいけど、どこまで逃げられるかなぁ?アッハハハハハハハハハッ!!」

「そ、そんな…そんなの、今から逃げたって間に合いっこねーじゃねーかッ!」

「もう駄目だわ…みんな、みんなここで死んじゃうのよッ…!」

 ダメ押しのように告げられた被害予測に、みんなの悲痛な嘆きが飛び交う。堂上課長や霧切支部長が落ち着かせようとするが、どう声をかけるべきか分からず言葉に詰まる。それでも、何か言わねばならないと口を開きかけたとき…

 

 

 

ピロロロロロロロロロッ!

 突如、霧切支部長の携帯電話から着信音が鳴る。

 

「…電話?こんな時に誰が……ッ!」

 心当たりがないのか訝しげに携帯を手に取った霧切支部長であったが、待ち受け画面を見た瞬間驚いた表情で電話に出る。

 

「…もしもし」

『もしもし、響子かッ!?』

「誠君…!」

「え、誠君ですか!?」

「誠って…苗木誠!?」

 電話の相手の名に真っ先に舞園さんが反応し、周りのみんなも『超高校級の希望』からの電話に思わず顔を上げる。それを見た霧切支部長は携帯の音声をスピーカーモードにし、周りにも聞こえる状態で通話を続ける。

 

『響子、そっちは無事か?不死川周二はどうなったんだ?』

「…ええ、皆なんとか無事よ。不死川周二も拘束したわ。けれど…ごめんなさい、隕石の落下は阻止できなかった…!」

『ッ!…そうか、間に合わなかったのか』

「今、不死川周二が言っていたわ。隕石の直径は約1㎞、周辺被害は半径100㎞以上になるらしいわ。…悔しいけれど、今からここを離れても被害圏内から逃げ切れそうにはないわ」

「アハハハッ…!ザマアないね、アッハハハハハハハッ!!」

「…不死川、気は済んだか?だったら、もう終わらせて…」

 未だに嗤い続ける不死川周二に聖原さんが半ば自棄気味で止めを刺そうとすると…

 

 

『…そうか。なら、『なんとかなりそう』だね』

「…え?」

「えッ?」

「……は?」

 電話の向こうから聞こえたその言葉に、不死川周二も含めて皆が固まった。

 

『響子、1つだけ確認しておきたい。さっき不死川周二を確保したと言っていたけど、それはつまり彼のスタンド能力は既に解除されたということでいいんだね?』

「え、ええ…。不死川周二のスタンド、『プラネット・ウェイブス』の能力は解除済みよ。今落ちてきている隕石は麻野さんではなく地球の引力に引かれてここに落ちているだけよ。…本人の自己申告だけれど」

『そうか、分かった。…なら今すぐにその場から退避するんだ!できる限り遠くに逃げろ!少なくとも、隕石の直径…『1㎞以上』は離れるんだ!!』

「逃げろって…そりゃ逃げますけど、逃げ切れるかどうか…」

『いいから、とにかく遠くに離れるんだ!隕石は僕が『必ずなんとかする』!!だから、僕を信じろッ!』

「…ッ!」

「なんとかするだと…?馬鹿な、直径1㎞の巨大隕石だぞ?いくら苗木誠でもどうにか出来るはずが…」

「…皆、聞こえたわね。すぐにこの場から離れるわよ」

「き、霧切支部長!?」

 苗木誠の言葉に堂上課長が疑念の声を上げるのも束の間、それを聞いた瞬間即座に電話を切った霧切支部長が苗木誠の指示通りに命令を下す。

 

「…本気かい?本気であんな言葉を信じるの?…君たちの『希望』とかいう耳障りの良い『なれ合い』は下らないとは思っていたけど、ここまで来るといっそおめでたいね…。コロシアイの中継の時の君はもう少し利口だと思っていたけど、随分とふぬけに…」

「…御託は結構よ。それより、最後に聞きたいことがあるわ。貴方にスタンド能力を与えた男…『エンリコ・プッチ』について、貴方は何を知っているの?」

 不死川周二の嘲笑を相手にもせず、霧切支部長は冷たい口調で問いただす。

 

「…ふん。まあいいさ…よく僕がスタンド能力を与えられたことを知っていたね。確かに、僕はあの神父…プッチとか言う奴にこの能力を与えられた。『未来機関の妨害をする代わりに、好きに使ってかまわない』ってね…。けど、生憎アイツがどこへ行ったとか、何が目的なのかは知らないよ。…ああ、でも…『探しているものがある』…とか言ってたかな?」

「…そう。随分気前が良いのね」

「なあに、僕からのプレゼントだよ。…どうせ僕も君たちも助からないんだ。冥土の土産ぐらい、いくらでもあげるよ」

「それはどうも。…もういいわ、すぐに行きましょう」

「は、はい…!でも、本当に大丈夫なんでしょうか…?」

「大丈夫ですッ!…だって、誠君が『なんとかする』って言ったんですから、きっとなんとかしてくれます!」

「ええ。…彼と過ごした時間はあまり長くはないけれど、少なくともこれまで彼が私たちの期待を裏切ったことは一度たりとも無いわ。誠君は、自分の言葉に決して『嘘』はつかない。その彼がやると断言した以上、私は彼を信じるだけよ」

 そう言う舞園さんと霧切支部長は、苗木誠を決して疑っていない目をしていた。その余りにも堂々とした態度に、私は不思議と『安心感』を憶えるほどであった。

 

「分かりました、私も信じます!…聖原さん、行きましょう!」

「…ああ」

「仕方が無い…総員、退避!」

 堂上課長の指示を受け機関員達もそそくさと教室から飛び出していく。最後に私と聖原さんが教室を出ようとし…出口をくぐる直前、聖原さんがふと立ち止まり…しかし振り返ることも、何も言うことも無く私に続いて去って行った。

 

「…ははは、最後の挨拶もなしかぁ…。まあ、どうせ同じ運命を辿るんだし…別にいいか。聖原君、今回は君とわかり合えなかったけど…『次』こそは、君を殺人鬼なんかにはさせないよ。そして今度こそ…友達になろう。先に行って待ってるよ、聖原君…!」

 

 隕石衝突まで、あと2時間…

 

ブオオオオオッ…!

 私たちを乗せた車は一目散に宜保浦中学校から遠ざかっていく。

 

「霧切支部長…その、離れろとはおっしゃいましたけどどこまで逃げれば…?」

「最低限、ここから1…いえ、3㎞以上は離れて!…確か、近くにこの辺りが見渡せる丘があったわね。そこまで退避して!」

「は、はい!」

「…どうするつもりなんでしょうか誠君…?」

「見当もつかないわ。…でも、今は賭けるしかないわ。誠君の希望に…!」

 

 

 隕石衝突まで、あと1時間30分…

 

「…天願会長、本気でこのまま座して待つつもりですか?」

 その頃未来機関第一支部の支部長室にて、第2支部の宗方副会長は逆蔵支部長と雪染支部長を伴い天願会長に直談判していた。会長の両隣にはグレート・ゴズ支部長と黄桜支部長が控えている。

 

「そうは言うがよ宗方君…この状況で俺達に何が出来るっていうんだい?」

「…黄桜支部長、貴方には聞いていない」

「へいへい…」

「…宗方君、少し冷静になりなさい。儂とてこのまま手をこまねいて滅びを待っている訳ではない。打てる手は全て打った、あとは天に任せるだけじゃよ」

「…あの連中に丸投げすることがか?随分頼りねえ策じゃあねえか。昔のアンタが嗤ってるぜ?」

「逆蔵支部長!」

「逆蔵君、言い過ぎだよ!」

「…会長、逆蔵ほどではありませんが俺も今回の貴方の指示には不審を感じざるを得ません。既に隕石の衝突まで2時間を切っている…空に見える『あれ』が何よりの証拠だ…!」

 宗方が示した窓の外には、赤く染まった空の中で一際赤く輝く1つの光…『隕石』が既に肉眼で捉えられるほどに接近してきていた。

 

「民衆も何が起きているのかを薄々感じ取っている…もはや暴発するのは時間の問題だ!仮に人的被害を最小限にできたとしても、起きてしまった事態は止められない!あの配信で衝突を回避する方法が示されてしまった以上、犠牲が出れば未来機関の信用は地に堕ちる!全ては…貴方の怠慢と驕りが生んだ不祥事だ!」

「…ふむ。宗方君、確かに君の言うことは一理ある…しかしだ、この事態はこうは考えられんかね?」

「何…?」

「あそこまで接近してしまった以上、もはや衝突を回避する方法はないじゃろう。それに関しては言い訳のしようが無い。…だが、もしあの隕石による被害を我々の想定する『最小限以下』に抑えられるとするなら、巨大隕石の衝突と言う未曾有の危機を『人的被害0』で凌ぐことができたのなら…それは我々人類にとって、奇跡と言うべき『希望』ではないか?その事実が、我々が絶望と戦う上での精神的支柱になってくれるのではないかと…儂は思うのだが」

「…正気か?直径1㎞の巨大隕石だぞ!そんなものが落ちれば、被害など天文学的数値になる!地下シェルターとて安全である保証など無いッ!…もしそんな世迷い言を本気で信じているというのなら、貴方は既に耄碌…いや、狂っている…!」

「か、会長…流石に私もそれは無理かと…」

「ハハハ。…では、試してみようではないか。儂の賭けが勝つか、君の常識が通るか…見届けようじゃあないか」

「…愚かな」

 

 

 隕石衝突まで、あと1時間…

 

 搭和シティー…

 

「おいおいおいおいおいおい…冗談だろありゃあ…?」

「空から…真っ赤な星が落ちてきてる…」

 遠く離れた搭和シティからも、本土めがけて落ちてくる隕石がハッキリと見えていた。復興活動に従事していたホル・ホースや灰慈たちも思わず手を止めて唖然として空を見上げていた。

 

「腐川さん…お兄ちゃんたち、大丈夫だよね?」

「き、きっと大丈夫よ…。それより、アイツらの心配もだけどあたし達だってどうなるか分かったもんじゃあ無いわよ…!」

「うう…神様、なんとかしてよぉ…!」

「…神なんているのなら、そもそも世界は滅んだりなんかしないわよ。いつだって行動できるのは、今を生きるあたし達だけなんだから。だから…なんとかしなさい、苗木…!」

 

 

 隕石衝突まで、あと30分…

 

 私たちは宜保浦中学から10㎞ほど離れた小高い丘の上まで避難し、そこからもう既にすぐそこまで迫ってきている隕石を見上げていた。

 

「…まるでこの世の終わりだな。ここまで絶望的だと、逃げる気すら失せるものなのだな…」

「き、霧切支部長…!衝突までもう30分切ってますけど、本当に大丈夫なんでしょうか…?

「…もうここまできたら信じるしかないわ。誠君の策を…!」

 

 そうこうしている間に、隕石は刻々と地表に近づいてくる。大気を灼く隕石の熱気が徐々に強くなってくるのを感じつつ、霧切支部長たちはただ待ち続ける。

 

 

 …そして、隕石衝突まで10分を切ったその時。

 

「…!響子ちゃん、あれ!」

「え…」

 ふと眼下の市街地に目を向けていた舞園さんが指さした先には、隕石の落下地点である宜保浦中学めがけて移動する『赤い人影のようなもの』が居た。それは血液ドーピングにより身体強化した苗木誠である。

 

「誠君…!やっと来てくれたのね」

「え…あれ苗木誠さんなんですか!?」

「し、しかし…明らかに一人だぞ!?一人で何をしようというんだ?」

「…さあ、見せてみろ苗木誠。アイツが認めた、お前の『希望』の力を…!」

 

 

 

 …シュタ!

 苗木誠は宜保浦中学の屋上に降り立ち、そこから真上の隕石を見上げる。

 

「…壮観なものだね。恐竜たちもこんなものを見上げながら、滅んでいったんだろうか。…だが、僕らは恐竜の二の舞になるわけにはいかない。絶望で世界を終わらせはしない、この世界に『希望の力』を証明するためにも…この悲劇は必ず防いでみせるッ!」

 苗木誠は隕石を見上げたまま、叫ぶ。

 

「『スタープラチナ・ザ・ワールド』ッ!時よ止まれ!」

 

ズギュゥゥンッ…!

 苗木が承太郎から預かった『スタープラチナ・ザ・ワールド』の能力を解き放つと、世界全ての時間が停止する。当然、超高速で落下している隕石も例外では無い。

 

「…ふっ!」

 苗木は足に力を篭めると全力で跳び上がり、その手が隕石へと届いたと同時に

 

 

…ゥゥゥゥンッ!

 再び時は動き出し、隕石が落下を再開する…

 

 

「『ゴールド・エクスペリエンス・レクイエム』ッ!!隕石の『運動エネルギー』を0にッ!!」

 

 

 

 

 その瞬間、猛スピードで落下していたはずの隕石が…『止まった』。

 

 

「…え?」

 隕石と苗木誠を注視していた私たちはその光景に思わず目を疑う。あり得ないとは分かっていても、端から見れば『苗木が腕一本で隕石を止めた』ようにしか見えなかったからだ。

 

「……あれ?」

 それは、隕石の真下で待ち構えていた不死川周二も同じであった。数秒後に自らに落ちるはずだった地獄が、何故か訪れない。不死川周二は痛みを忘れそんな間の抜けた声が出てしまう。

 

グラァ…

 しかし直後、隕石は再び落下し…ただし、落ちてきた時とは比べものにならないほど緩やかに墜ちていき…

 

 

 

「…畜生」

 

 

ズズゥゥンッ…!!

 寸前に失敗を悟った不死川周二のつぶやき諸共、宜保浦中学校を押し潰した。

 

グゴゴゴゴゴッ…!

 隕石が落ちた衝撃が周囲へと拡散する。辺りの建物が揺れ、ガラスが割れ、元々崩れかかっていた家屋の一部が倒壊する。霧切たちの避難していた丘にも、その余波が及び足下を揺らした。

 

 

 …しかし、『それだけ』であった。隕石の衝突によるクレーターも、衝突時に発生する衝撃波による被害も無い。終わってみれば、隕石が破壊したのは宜保浦中学とその周辺の建物の一部のみ。隕石自体はほぼ原型を保っており、街の中央に巨大な岩石が鎮座したままという異様な風景を残し、不死川周二の最後の足掻きは終了した。

 

 

「…あの、何が…起こったんでしょうか?」

 世界の終末から一転、眼下に広がる異様な光景を前に私はそう呟く。

 

 

 

「そうだね。敢えて言うなら…あれが僕の『レクイエムの力』だ、としか言えないね」

「ッ!?」

 私の言葉に答えたのは聖原さんでも、霧切支部長でもなく、後ろから聞こえてきた『聞き覚えのある男の声』であった。

 

「ま…誠君!!」

「やあ皆、無事で何よりだ」

「苗木誠…!?いつの間に…」

 そこに立っていたのは、たった今隕石に立ち向かって行ったはずの苗木誠であった。

 

「誠君…一体何が、どうやってここに…?」

「ん、ああ…簡単に言えば、隕石が落ちてくる勢い…隕石の『運動エネルギー』を僕の『G・E・R』の『僕に向けられた力を0にする』能力で消したんだ。隕石が落ちたときに甚大な被害をもたらすのは、宇宙空間から超高速で落下してくることによる莫大なエネルギーが原因…ならば、そのエネルギーを消してしまえばいい。今回は地表から100メートル上空で勢いを殺したから、あの隕石は『100メートルの高さから落ちただけの岩』と同じエネルギーしか持っていない。そんなものの被害なら、たかがしれている」

「…待て、どうやってアンタは隕石に近づいたんだ?隕石は超高速で落ちてきている上に摩擦熱でとても近づけないだろうに…」

「ああ、そこは承太郎さんの力を借りたよ。『スタープラチナのDISC』…返す前で本当に良かったよ」

「そうか、時を止めて近づいたんですね!」

「うん。後は潰される前に隕石の表面を走って迂回して、落下する前に地上に降りたんだ。…流石にその時はかなり熱かったよ」

 

 

 

(…なんて少年だ、苗木誠…!)

 平然と隕石への対処の過程を話す苗木誠を、堂上課長は驚愕の目で見つめていた。

 

(我々が『隕石の衝突を回避する』、もしくは『隕石が落ちた場合に備える』ことに尽力しているときに、彼は…『隕石そのものをどうにかする』ことを考えていたというのか…!?発想のスケールが違いすぎる…これが天願会長が見いだした『超高校級の希望』なのか…)

「…僕がやったことがそんなに意外でしたか?」

「…!」

「別にそこまでぶっ飛んだことを考えていたわけじゃありませんよ。僕はただ、『信じて』いただけです。響子たちが隕石を止めるための努力を尽くしてくれると、未来機関が人々を守ってくれると、聖原さんが必ず不死川周二に勝つと…それを信じていたからこそ、僕は『最悪の事態への備え』にだけ集中することが出来たんです。…まあ、色々考えた結果こんな無茶苦茶な手しか思いつかなかったんですが」

「…その無茶苦茶な策を実行に移せるのは、君ぐらいなものだろうな。…苗木誠、未来機関を代表して礼を言わせてもらう。皆を救ってくれて、ありがとう…」

「こちらこそ、僕を信じていただいて感謝しています。…さて、これでひとまず不死川周二の件に関しては片がつきましたね。あとは…」

 苗木誠に釣られるように、皆の視線が聖原さんに集まる。

 

「……」

 聖原さんは何も言わない。ただじっと、自分を見つめる幾多もの視線…そして右往左往する私を見据えるだけだ。

 最初に口火を切ったのは、苗木誠だった。

 

「…一応聞くけれど、聖原さんがキラーキラーだってことは…」

「ええ、一般市民や未来機関の末端にまでは知られては居ないけど上層部では周知の事実よ。前々から宗方さんは怪しんでいたらしいから…」

「そうか…堂上さん、もしこのまま聖原さんが帰還した場合…どのような処断が下ると思いますか?」

「…最終的な判断は天願会長や宗方副会長が下すので断定はできませんが、私的な意見を述べるなら…少なくとも、今まで通りの扱いを受けられることはないでしょう。腐川冬子のように研修生扱いで未来機関員としての権限を制限されるか、或いは…『それ専門』の私兵となるか。その辺りが妥当でしょうね…」

「そんな…!?」

 要するに、首輪をつけられ飼い殺しになるかもしれないと堂上課長は言う。動機はどうあれ、命懸けで不死川周二と戦った聖原さんに対してあんまりな待遇に私は非難の声を上げる。

 

「麻野、分かってるだろう。聖原は『殺人鬼』だ、どうあってもこの事実を覆すことはできん。舞園さやかのように極限状態で追い詰められたが故の殺人ならともかく、自分の意思で殺人をするような人間を未来機関の存在意義上、大手を振って迎えるわけにはいかない。…今回の一件で、人々の中には『死の絶望』に対する恐怖心がより一層根付いてしまった。そんな時に殺人鬼を仲間にしたとあれば、未来機関の信用に傷がつきかねない…!」

「でも…!」

「麻野、もういい…やめろ」

「聖原さん…」

「どうせ一時のねぐらのつもりだっただけだ…。今更未来機関に未練は無い」

「ってことは…聖原さん未来機関辞めちゃうんですか?」

「…それが一番妥当だろうな」

「課長…」

「そんな顔をするな。…確かに立場上私は止めるべきだろうが、聖原も私の大切な部下だ。例え未来機関の意思に反することになったとしても、無事で居てくれるのならそれでいい。今の私なら、そう言える…」

「課長…だったら、私も聖原さんと一緒に行きます!」

「は…!?」

 私の発言に全員が『何を言ってるんだこいつは?』とでも言いたげな表情で私を見る。

 

「ま、まて麻野!それはおかしいだろう!?聖原はともかく、何故お前までそんなことをする必要がある!?」

「えっと…ほら、あの配信で私顔と名前が全国に知れ渡っちゃったじゃないですか。仕方がなかったとはいえ、未来機関も私を捕まえようとしましたし…だから、私があんまり堂々と居座ってると他の人たちが気まずいかな~…って」

「それは…」

 思うところがあるのか、機関員の何人かが私から目を逸らす。

 

「…それに、絶望の残党達も一度表舞台に上がったことで麻野さんは他の未来機関員たち以上に狙われる恐れがある。連中はなんであれ、知名度のある人たちを殺すことで絶望を広めようとしている。未来機関に居れば以前にも増して危険になる可能性は確かにありますね」

「むう…」

 苗木誠が続けてそう言うと、さしもの課長も言葉に詰まる。それを確認した私は、呆然とこっちを見ている聖原さんの方を向く。

 

「それに…聖原さん約束してくれましたよね?いつか必ず、『私を殺してくれる』って。だったら、傍に居ないと駄目ですよね?」

「…お前はそれでいいのか?特査はお前の夢だったんじゃないのか?」

「確かにそうでしたけど…今は、もっと『大切なもの』が見つかりましたから。だから…今度は、それを守っていきたいんです。誰かの為じゃなく、『私自身のため』に…散々苦労したんですから、ちょっとぐらい我が儘してもいいですもんね?」

「……勝手にしろ」

「はい!勝手にします!」

 呆れたようにそっぽを向く聖原さんに、私は満面の笑みでそう返す。それを見た課長は呆れたような表情を浮かべていたけれど、その目には止めようという意思は無かった。

 

 

 

「…ちょっといいかしら?未来機関を抜けるのは自由だし後始末ぐらいはしてあげるけれど、貴方たち未来機関を出てアテはあるのかしら?」

「それは…あるんですよね、聖原さん?」

「……」

「…あ、あれ?聖原さ~ん…?」

 霧切支部長の問いに黙り込んだ聖原さんに、私の顔や背中に冷や汗が滲む。

 

「…課長、退職金…」

「馬鹿を言うな。お前達を逃がすためにはあの隕石に巻き込まれて『MIA』…生死不明で行方不明になったことにするしかない。そんな奴に退職金なんぞ出るはずが無い」

「で、ですよね~…」

 容赦の無い事実に乾いた笑みしかでない私。聖原さんは当てが外れたとばかりに虚空を見上げてボケッとしている。私はその考えなしの顔を初めて殴りたくなった。

 

「…やれやれ、しょうがない。響子、近日中にパッショーネ宛てに適当な荷物を送っておいてくれないか?飛行機だと足がつきやすいから船で送ってくれ」

「…成る程、分かったわ。任せて頂戴」

「え…え、ええ?ど、どういう…」

「…黙っていろ」

 苗木誠に頼まれた霧切支部長がどこかに電話をかける。それを唖然として見ていると連絡を終えた霧切支部長がこちらを見る。

 

「明日、十三支部から出るヨーロッパ行きの船に『荷箱』を用意してもらったわ。今からそこまで送るから、船が出るまでそこでおとなしくしていて頂戴」

「え、ええ…荷箱って…?」

「…その荷物っていうのは『俺達』のことか」

「Exactly。今日本にとどまっていると未来機関にいつ見つかるか分からないからね、しばらくお二人の身柄はパッショーネの方で保護させてもらうよ。ほとぼりが冷めたら、何処へなりともお好きにどうぞ。それまでは我々パッショーネが責任を以て面倒を見るよ」

「あ…ありがとうございますッ!…でも、どうしてそこまでしてくれるんですか?」

「前にも言ったでしょう?…この人はお人好しなのよ。強い『覚悟』を持って道を切り拓こうとする人には、特にね…」

「はい!それが、私たちの希望…苗木誠君なんです!」

「…やれやれだね」

 困ったように笑う苗木誠。しかし私はその時ようやく、江ノ島盾子が彼を何故『脅威』と見なしたのかを、本当の意味で理解したような気がしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…作戦に参加した機関員の被害はほぼ0。宜保裏中学校を除いた周辺建物への被害も軽微、唯一損害と言える被害は被疑者である不死川周二と聖原拓実、麻野美咲の行方が分からない程度…。直径1㎞の巨大隕石の落下…下手をすれば地球の危機とも言える事態の結果がこれか…」

 …翌日、呼び出された第一支部の支部長室で渡された報告書を読み上げた宗方は、忌々しげにそう吐き捨て目の前の天願を睨む。

 

「これも貴方の想定通り、と言うわけですか?」

「いやいや、そうでもないぞ。…正直『メテオブレイク』などと作戦名につけておきながら、結局隕石は墜ちてしまったからのう。少々格好をつけすぎてしまったわい、ハッハッハ…」

「しかし会長。まだ調査中ではありますが資材班より、あの隕石には相当量の鉱石資源が含まれているとの報告が出ています。それを使えば、復興はより捗るかと思われます」

「『怪我の功名』ってねえ…それとも、『塞翁が馬』って奴か?行方不明者が出ちまったのは残念だが、想定していた被害よりは遙かにマシだ。なら前向きに考えるのが吉ってね…」

「そうじゃな。前に進む意思こそが、彼らへの何よりの手向けとなるじゃろう…」

「……」

 気落ちしたような雰囲気でそう言い合う天願や黄桜たちであったが、宗方には茶番にしか見えなかった。行方不明とは言ったが、彼らは聖原や麻野が何処へ行ったのかを知っているはずである。かくいう自分も断定こそできないものの、都合良く『当事者だけ』が行方不明になるということがあるはずが無いことぐらい分かっていた。

 

…バンッ

「…貴方の目論見通り、隕石の被害を『未来機関が』回避したことで我々の信用は高まった。今の士気なら、絶望の残党共を全滅させるのも可能だろう。今回はそれで良しとしておこう…では、これで失礼させてもらう」

「うむ、呼び出して済まなかったな。行きたまえ」

「…失礼する!」

 報告書を机に叩きつけ、宗方は勇み足で支部長室を出て行った。

 

「…若いのう」

「若いねぇ…」

「若…いやいや!私はまだ若いですぞ!」

「またまた~、ゴズ君だっていい年の癖によ?いい加減こっちにこいよ」

「いえッ!私は生涯現役ですので!」

「ハッハッハ!…さて、では頭の痛い問題も片付いたことじゃし苗木君から申し出があった『会談』の手はずを整えるとしようかのう…」

 

 

 一方、宗方は帰路の中で報告書の内容を思い返していた。

「…苗木誠、報告書にこそ無かったが今回の件を終わらせたのは奴の仕業に違いない。あんなふざけたことを出来るのは、人外の化け物である奴以外には不可能だ。…だが、それでも俺は認めはしない!奴とて元は人間、奴に出来ることが我々に出来ないはずが無い!人間の希望を、可能性を奴に任せる訳にはいかん…!待っていろ苗木誠、今度の会談で貴様の化けの皮を剥がしてやる…!」

 天願も、そして宗方ももはや不死川周二のことを過去のこととし次なる事に切り替える。彼らは未来機関、人類の明日を担うもの。彼らの戦いは、まだ終わってはいないのだから。

 

 

 

 

 

 

 その後、私と聖原さんは霧切支部長の手配で十三支部へと秘密裏に護送され、荷物に紛れて船へと積み込まれた。…しかし、その船は絶望の残党であった雪染ちさの企みでヨーロッパでは無く完成間もない未来機関の本部へと向かわされた。…かつて十三支部の同僚達であった、大量のゾンビ軍団と共に。島へとやってきた私たちは既に交戦中であった苗木誠たちと共に戦い、黒幕であったエンリコ・プッチこそ逃したもののなんとか事態を収拾することが出来た。

 

「…なんだか、思い返したらとんでもないところまで来ちゃったなぁ」

 そして今、私たちは未来機関としてではなく苗木誠の『協力者』として彼らの仮の総司令部である杜王支部へと向かっている。私たちだけで無く、十四支部の十神さんや朝日奈さん、葉隠さん。パッショーネから戦刃むくろを始めとした幹部スタンド使い達、そして搭和シティにいる腐川冬子や杜王支部のスタンド使いたちも集結しているという。言うなれば、今の人類の『最強戦力』が揃いつつあると言っても過言では無い。

 

「…そう身構えるな麻野。どうせお前一人が居たところで変わらん、なんの戦力にもならんからな」

「酷いッ!そりゃそうですけどぉ…」

「…だが、安心しろ。お前は必ず俺が『生かして』やる。俺がお前を殺す、その時までな」

「…はい。信じてます、聖原さん!」

 私が場違いなのは分かり切っている。危険だって百も承知だ。…けれど、私に不安は無い。希望を信じる彼らの力と、…聖原さんの『殺し愛』を信じているから。必ずプッチを倒して、私たちの『明日』をつかみ取ると、信じているのだから…!

 

 




こんな終わり方でなんか申し訳ない…特に終盤は途切れ途切れで書いたのでちょっと駆け足だったかも。
ともかく交錯編はこれで終わりです。次からは追憶編、そして第2部へと移りますのでお楽しみに!

話は変わりますが先日の某クソアニメ最終回は笑いましたねwww
速水さん&中田さんのWプッチとか草不可避ですわwww

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