何分ホワイトスネイクのスタンド能力が曖昧なので表現がうまくいったかどうか分かりませんが、どうぞお楽しみください
「ハァ…今日も疲れたわ…」
都心の一等地に聳える希望ヶ峰学園。基本的に学校関係者以外近寄る者など皆無なのだが、土地柄オフィス街にもほど近いので都心付近で働く人々の通勤路の一部にもなっていた。今、深夜の夜道を仕事帰りでぼやきながら歩く彼女もまた、そんな人々の一人であった。
「…希望ヶ峰学園、か」
横目でちらりと見た先にある巨大な学校に、女性はどこか諦観したような声音でため息をつく。彼女は今でこそしがないOLだが、学生時代は『超高校級の歌手』と呼ばれるほどの凄腕シンガーであった。順調に行けば、おそらく希望ヶ峰学園にスカウトされ、今頃はトップシンガーとしての道を約束されていただろう。
…しかし、『才能ある者』は本人の人柄や意思に関係なく『妬み』の対象となるのが世の常である。ある日の収録現場にて、たまたま同じ日にレコーディングをしていた同年代の…しかし人気では天と地ほどの差が有った歌手の一人に、飲んでいた飲み物に劇薬を混ぜられ、収録中に喉にやけつくような痛みを憶えてそのまま病院へ直行。声を失うことこそ無かったものの喉に酷い炎症があり、そのせいで今までとは全く違う声質になってしまった。結果、今までの人気が嘘であったかのように落ち目となり、引退。今は芸能界から離れOLとして静かに生活していた。
「『才能』なんて…あっても良いことなんかないわ。皆はここの子たちを羨ましがるけど、私からすれば『哀れ』よ。望んでもいないしがらみを一生抱えて生きていくんだから…」
落ち目だったころに身についてしまった独り言を呟きながら、彼女は家路を急ごうとする。
その時であった。
「…あの、よろしいでしょうか?」
「え?」
ふと声をかけられ振り返れば、そこには長い髪を晒した小柄な女性が立っていた。顔つきからして日本人ではないようだが、同性であるということが彼女から警戒心を薄れさせていた。
「あの…どなたでしょうか?」
「いえ、少し『お願い』があるのですがよろしいでしょうか?」
「お願い…ですか?構いませんけど、なんでしょう?」
「ええ、では申し訳ないのですが…
俺の『晩飯』になってくれや」
「…不審死体?」
翌日、クラスへとやって来た苗木が石丸から聞いた言葉がそれであった。
「うむ!今朝日課の乾布摩擦に外へ出たのだが、校門の周りに警察官が集まっていてな…。何事かと事情を聞いてみたのだが、…どうやら学園の近くで女性の死体が発見された様なのだ」
「ぶぶ、物騒だなあ…」
「道理で今朝から教師連中の雰囲気がピリピリしてやがる筈だ」
「うむ…。しかも、その発見された死体とやらが『奇妙』なのが拍車をかけているようなのだ」
「奇妙だと?」
「実際に見た訳ではないので詳しいことは分からないのだが…被害者の女性の首筋には美ビー玉程の『大きな孔』が空いていたそうなのだ」
「孔…ですか?」
「うむ、どうやらその傷が死因のようなのだが…女性の死体の状態が『異常』だったらしい」
「異常?」
「これは偶々耳に入っただけなので信憑性に欠けるのだが、…被害者の女性の体には『殆ど体液が残っていなかった』と言っていた」
「…ッ!」
「体液が…無い?」
「うむ。体内からまるで『人工的に抜かれた』かのように血液が無くなっており、出血も殆ど無かったとのことだ。…『吸血鬼』にでも襲われたのではないかと言われていたよ」
「ひえッ!?お、おっかねえべ…」
「まっさか~!吸血鬼なんて…あ、そういえば居たね。苗木のホントのお父さん…」
「ま、まさかアンタじゃないでしょうね苗木…?」
「苗木君な訳ないでしょう!」
「……」
「…あ、あのー…、苗木誠殿?怖い顔されて、どうしました?」
「ああ、ゴメン…」
「…何か心当たりがあるの?」
「うん…。おそらく今回の事件は、僕に対する『宣戦布告』だ」
「せ、宣戦布告!?」
「この間の狛枝先輩のことを憶えてる?」
「え?…ああ、『肉の芽』とかいうのを植えられた…ってまさか」
「ああ、おそらく犯人は狛枝先輩に肉の芽を植え付けた『吸血鬼』に間違いないだろう」
「やはりか…だが、宣戦布告とはどういう意味だ?」
「…僕が吸血鬼…『DIO』の息子だということは、学園長を始めとして皆を含めた一部の人間しか知らない。まずそれ以前に、吸血鬼の存在そのものが眉唾ものだからね。…そして、その僕が居るこの希望ヶ峰学園でもし立て続けに今回のような事件が起きれば、まず間違いなく希望ヶ峰学園に疑いが掛けられる。無論犯人が居ない以上それ以上の事は無いだろうけど、疑いがかかれば突き止めようとするのが人間だ」
「…なるほど。もし何者かが苗木君の出自を突き止め、苗木君が『吸血鬼』の血を引いていることを明らかにすれば、疑惑の眼は苗木君に集中する…」
「そうやって苗木を追い詰めようってハラかよ…」
「ぬうう…なんと卑劣な!」
「ということは、今回の事件は…」
「ああ、さしずめ『自分を放っておくとお前が濡れ衣着せられるぞ、早く見つけてみろ』…とでも言いたいんだろう」
「嘗められんなお前…。言っとくが、厄介ごとは御免だぜ?」
「桑田君!」
「いや、いいんだ舞園さん。当然だよ、これは僕の問題だ。皆を巻き込むわけにはいかない。皆は普段通りしていてくれ、僕がなんとかしてみせる」
「そ、そんな危ないよ!」
「大丈夫大丈夫、この間の見ただろ?そう簡単に僕は負けないさ。…そういうことだから、僕のことは気にしないでくれ」
「……」
(prrrr…)
「…あ、承太郎さんですか?僕です、苗木です。実は…」
程なくして、SPW財団と連絡を取り始める苗木。皆も心配ではあったが、苗木に気にするなと言われた以上余計なことをする必要もなく、また吸血鬼のような化け物と関わることもないといつもの日常へと戻っていった。
それから数日後、希望ヶ峰学園付近にある廃ビルをそいつは根城にしていた。
「…ったく、『ホワイトスネイク』の野郎、あれから全然音沙汰無くしやがって。いい加減こんなケチな喰い方にも飽きたぜ…」
愚痴りながら落ちていた瓦礫を弄んでいるのは、今回の事件の犯人でもあり、『ホワイトスネイク』に手懐けられた吸血鬼…またの名を『ヌケサク』である。かつてエジプトでジョースター一行への刺客の『補欠』として館の中で挑みかかり、呆気無く敗れた後DIOの所までの案内係をさせられた挙句、主人であるDIOに八つ裂きにされてしまったのだが、あの後すぐに日が暮れたため日光で焼かれることはなく、吸血鬼の生命力でどうにか生き延びていたのである。その後、食事の為にたまたま襲った『ホワイトスネイク』の本体に散々に打ちのめされ、SPW財団に黙ってもらうことの条件に『DISC』化していた適当なスタンドを与えられ、『ホワイトスネイク』の部下としてこき使われていたのである。
「折角のスタンドとやらも『水を熱湯に変える』なんて能力じゃあクソの役にも立ちゃあしねえ。苗木誠とかいう『半端者』を引きずり出すためとはいえ、吸血鬼のこの俺様がなんでこんなケチくせえことを…。ぶっ殺されかかったとはいえ、DIOの野郎に仕えていたころの方がマシだったぜ…」
と、ヌケサクがぼやいていると。
フワフワ…
「…ん?」
ふと目の前に『シャボン玉』が入り込んできた。
「なんだ…?ガキでも入り込んだか?こんな時間に…」
子供が遊んでいるのかと思ったが、時刻は既に夜の9時。日は既に落ち暗くなっているというのに、何故こんなものがあるのであろうか。不思議に思いながら、ヌケサクはシャボン玉をうっとおしそうに払いのけようとし…
バジィンッ!!
「ッ!?うぎゃあああああッ!!?」
シャボン玉に触れた瞬間、電流を受けたかのような衝撃と共に、『自らの手が溶ける』痛みに男は悲鳴を上げる。
「な、なんだコイツは…!?い、いや…俺は知っているぞ!こいつは、ジョセフ・ジョースターが使うという…『波紋』!」
「…面倒かけさせやがって、探したぞ…!」
「はッ!」
部屋の外から聞こえた声に振り返ると、部屋の入口の陰から指ぬきグローブをはめバンダナを巻いた青年…日向・Z・創が現れた。
「お、お前は…」
「今世の波紋戦士、日向・Z・創だ。爺さんのやり残し、ここできっちり清算させてもらう!」
「やはり波紋使いか…!だが、たった一人で勝てると思っているのか!?ああん?」
「当然だ…と言いてえが、生憎俺の波紋の才能は爺さんたちには及ばねえ。ちこっと厳しいかもしれねえな。だがよ…俺が『一人』で来るとでも思っているのか?」
「何ィ…!?」
バッ!!
「!?」
突如外の闇夜が光に満ち溢れる。何事かとヌケサクが外を見ると、そこにはいくつもの『照明器具』をビルに向ける大勢の人たちがビルを取り囲んでいた。
「こ、これは…」
「SPW財団の人たちだ。お前の事を苗木から聞いてすぐ、ジョセフさんの『隠者の紫』によってお前の居場所を『念写』させてもらった。相変わらずのピンぼけ写真だったが、最近の画像処理システムってのは大したものでよ、あっという間に見やすいように修正してくれたからこのビルの存在をすぐに知ることができた。…逃げ出そうだなんて思わない方が良いぜ。あの照明はただのライトじゃねえ。財団が保管していた『紫外線照射装置』の改良型だ。生憎数は揃えられなかったが、お前を灰に還すぐらいは簡単にできるぜ…」
鉄球を構え、油断なく吸血鬼の男を睨む日向。それに対し、ヌケサクは焦った様な表情で辺りを見渡し…ふと『足元』に目をやり、やがて笑い出した。
「くっくっく…」
「…何がおかしい」
「確かにこりゃ参ったぜ。もうジョセフは老いぼれ、ポルナレフは死に、承太郎しか敵はいないからって調子こいてた俺様がマヌケだったようだ。だがよ…」
ヌケサクはそう言うと、片足を思い切り振り上げ
「ッ!妙な動きをするんじゃあ…!」
「『逃げ道』は『外』とは限らねえんだぜぇ~ッ!!」
次の瞬間、振り下ろすと同時に足元の床を『踏み砕いた』。
「しまッ…!」
日向は即座に波紋を込めた鉄球を投げるが、既にヌケサクは砕いた床から階下へと落ちていった。
「糞ッ!俺としたことが、あんなマヌケそうな奴にしてやられるとはッ…!…仗助さん、億泰さん!下に逃げられました!」
『何ィ!?下だと!?』
「済みません…床を破壊して逃げられました…」
『チィッ…!分かった、こっちで追い込むからお前は上から挟め!』
「了解です!」
1階で待機していた仗助たちにすぐさま連絡を取り、日向は急いで下へと下りる。
「しくじったぜ…。だが、辺りを封鎖している以上どの道回り込まれるだけだ。あの野郎何を考えてやがる…?」
1階へと辿りついた日向は先程の部屋の真下へと向かう。しかし、そこにいたのは苦虫を噛み潰したような表情の仗助、億泰、康一『だけ』であった。
「仗助さん!」
「…日向か」
「あの吸血鬼は…」
「……」
日向の問いに、億泰は無言で日向に場所を譲る。その先には、『人一人が通れるほどの大きな穴』がぽっかりと空いていた。
「これは…!」
「見ての通りだ…。どうやらここから『地下』に逃げたみてえだ」
「僕の『エコーズ』である程度追跡してみたんだけど、どうやらこの先は『地下鉄』の線路まで繋がってるみたいなんだ。奴はそこから多分市街地に…」
「クソッタレ!ここまで来て逃げられちまったのかよぉ~…!」
「…いや、こればかりは奴の方が一歩上手だったとみるべきでしょう。いくら吸血鬼とはいえ、地下鉄まで繋がるようなトンネルをこの短時間に掘れるはずが無い。おそらくだいぶ前からこうなることを想定して用意していたんでしょう。…となると、奴にはある程度の『目的地』があると考えた方が良いでしょうね」
「あ?なんでだ?」
「考えてみてください。東京の地下鉄はかなり入り組んでいて複雑です。迂闊に線路を歩いていれば電車と鉢合わせになるし、下手にホームに入れば大騒ぎになる。奴はきっとこの穴からどの出口に安全に出られるのか下調べをしている筈です。…康一さん、この辺りの一番手近な地下鉄の出入り口ってどこにありますか?」
「え?ちょっと待って…えーっと、この辺りの地下鉄乗り降り口は…」
携帯で情報を検索する康一。やがてその結果が出ると、その表情に焦りの色が浮かぶ。
「こ、康一?」
「…この辺りの最寄りの地下鉄ホームは2か所。『永田町』ともう一か所……そこは、『希望ヶ峰学園前』…!」
「何ィッ!?」
「ってことは…奴の向かった先は…」
『希望ヶ峰学園!?』
「…はぁッ、はぁ…ッ!糞ッ、人間風情が…、この俺様にドブネズミみてえなことさせやがって…。癪だが、『ホワイトスネイク』の助言を聞いておいて正解だったってとこか…」
希望ヶ峰学園の校門前。日向たちの予想通り、ヌケサクは地下鉄を辿ってここまでやってきていた。
「だが…ケヒヒ。予定とはちと違うがようやくこの時が来たってもんだぜ。俺様を八つ裂きにしやがった憎きDIOの息子め、今ぶっ殺しに行ってやんぜぇ~ッ!」
ヌケサクはそう意気込んで学園の周りの塀を吸血鬼の身体能力を持って飛び越えた。
…が、飛び越えた先で待っていたのは塀の向こうの地面ではなく…
「…え?」
「…ブォナ・セーラ(こんばんは)、吸血鬼さん」
『G・E・R』を従え臨戦態勢を整えた苗木であった。
「な、なんッ…!?」
『無駄ァッ!!』
ゴゴシャアッ!
「げぶっ!?」
反応する間もなく、『G・E・R』の一撃を受けたヌケサクは塀に叩きつけられた。
「…首をちぎり飛ばすつもりで殴ったんだが、本当に頑丈だな吸血鬼って奴は…。承太郎さんから事前に聞いておいてよかった。あやうく『手加減する』ところだったからな…」
「ぐ、ぐぶッ…!な、なんでテメエ…!?」
「僕がSPW財団の人たちに丸投げしてグースカ寝てるとでも思ったか?…嘗めるなよヌケサク。こっちはお前を始末するためなら一徹だろうが二徹だろうがしてやるよ。皆をこれ以上僕の問題に巻き込むわけにはいかないからな…」
瞳に殺意を宿らせ、砕けた顔面を修復するヌケサクに苗木は迷いなく拳を向ける。
「クソ親父が発端のこの『因縁』…、日向君には悪いけど僕の手できっちり始末をつけてやる…!」
「ち、チクショウ…ッ!こんなクソッタレに…」
そしてその拳が振り下ろされようとした時、
『…そこまでだ、苗木誠』
「「ッ!!?」」
突如校舎の陰より聞こえた声に振り返ると、そこには全身に塩基配列の文字を刻んだスタンド、苗木の前にいるヌケサクの雇い主である『ホワイトスネイク』が立っていた。
「『ホワイトスネイク』…!」
「て、テメエ遅えんだよ!今まで何やってやがったッ!?」
『…全く、君には期待外れだったよヌケサク。あれほど自信満々であったから君にすべてを任せていたというのに、こんなにあっさりと負けてしまうとは…』
「な、何だと…!」
「……」
ヌケサクに対し落胆の意を表す『ホワイトスネイク』を、苗木は苦虫を噛み潰したような顔で睨む。
『…おや、どうした苗木誠?そんな顔をして…まるで『人質』でもとられたようじゃあないか…?』
「…貴様ァッ…!」
「あん?」
『ホワイトスネイク』が自分の後ろに向けて『合図』を出すと、暗闇から『2人』の人影…先日このヌケサクに喰われた筈の『女性』と、その腕に捕まっている霧切が現れた。
「霧切さんッ!!」
「苗木君…ごめんなさい…!」
「……」(ググッ)
「ぐうッ…!」
「…あ、そいつはこないだ俺が喰った女じゃねえか!屍生人(ゾンビ)になってやがったのか…」
『やはり意図して作った訳ではなかったようだな。貴様に食われた後、蘇って街中を徘徊していたのだよ。もぬけの殻のようだったから、『DISC』を埋め込んで操ることができた。…そしてこの女は、貴様の後をつけまわっていたから捕まえただけの事…さて、苗木誠。賢明な君なら今の状況が理解できるな…?』
「……チッ」
苦々しく舌打ちし、苗木は拳を降ろす。その瞬間、倒れていたヌケサクは瞬時に起き上がるとそのまま苗木に殴り掛かる。
「クソガキ、よくもやってくれやが…」
パシュゥン…
「……った?」
しかし、苗木に拳が触れようとしたその瞬間、ヌケサクの体は『苗木に殴り掛かる以前』の体勢にまで戻る。
「な、なにが…」
『…やはり君はヌケサクだ。苗木誠のスタンド能力は未だ健在のままだ。それが存在する限り、苗木誠を傷つけることは不可能だろう』
「……」
「ぐっ…だ、だったらどうすんだよ!?」
『無論、私が貰う』
そう言うと『ホワイトスネイク』は苗木の元へと歩み寄る。
「…やはり貴様、『スタンドをDISC化する能力』を持っていたのか」
『ほう?察しが良いな。…その通りだ。私はその能力を使い、今から君のスタンドを貰う。もし君が、純粋に『DIOの意志』を追い求める者であったなら、そのままにしておくのもやぶさかではなかっただろう。だが、もう手遅れだ。君はジョースターの奴らの影響で『黄金の精神』とかいう腐った『偽善』の虜になってしまっている。君がその幻想に夢破れて目を覚ますのを待つのも良かったのだが、こちらのほうが手っ取り早い。君のその『究極のスタンド』を持って、『DIOの求めた物』を完成させる!』
やがて手が届くところにまで近づくと、『ホワイトスネイク』はゆっくりと苗木の頭に手を伸ばす。
ペリ…ペリ…
すると、苗木の頭からズルリと『DISC』が飛び出してくる。苗木の体を突き破るようにして出てくるが、苗木に苦痛を感じている様子はない。
「……」
『ヌケサク、『DISC』を抜いた後の『残り』は好きにするがいい。残りカスに用はない…』
「へっへっへ…だとよ、残念だったなぁ…」
「苗木君ッ!」
「…動くな」
「ぐうっ…」
そして『ホワイトスネイク』が『DISC』を掴もうとした…その時。
「…ようやく、ここまで来てくれたな」
『何…?』
「『待っていた』んだ…、お前がここまで自分で来てくれるのをな…!」
『何を言って…』
ピーン…!
苗木の手から、何かが弾かれるような音がする。やがて『ホワイトスネイク』とヌケサク、そして苗木の顔付近に弾かれた『モノ』が現れる。
「…コイン?」
『百円玉…?』
二人がその正体を見た、その瞬間
「…もろとも吹き飛べッ!」
カチッ…!
『…ッ!しまっ…』
「あへ?」
ドガァァァンッ!!
『百円玉』は3人を巻き込んで『爆発』した。
「…あ゛っ…!」
「な、なえ…」
その光景に霧切とゾンビ女が愕然とした瞬間
「…隙を見せたね」
「…ッ!」
「『ハイエロファント』!」
『承知!』
いつの間にか地面に這われていた『法王の緑』が霧切を確保し、ゾンビ女が正気に戻るより早く引き寄せる。
「…七海さん!?」
「大丈夫だった?霧切さん」
「え、ええ…ッ!それよりも苗木君が…」
「…返せッ!!」
主である『ホワイトスネイク』の命に従うべく、ゾンビ女は再び霧切を捕えるべく二人の方へと駆け出そうとし…
ドドドドドッ!!
「!」
足元から飛来した『エメラルド・スプラッシュ』に体を貫かれる。既に七海は『ハイエロファント』の結界を完成させ、辺り一帯を覆い尽くしていた。
「がッ…!」
「…ごめんね。もう死んでるから痛くないかもしれないけど、女の人なんだから、体に傷がつくのは嫌だもんね。だから…終わらせてあげて、狛枝君」
「了解…」
頭上からの声に顔を上げると、上から落ち来る『火の付いたマッチ』、そして…
『コッチヲミロォ~!』
それを追いかけてくる、『シアーハートアタック』の姿。
「おやすみ…」
「あ…」
ドゴォォォォン…!
マッチがゾンビ女の額に当たると同時に、その熱に反応した『シアーハートアタック』は超至近距離で爆発し、ゾンビ女の体を跡形もなく消し飛ばした。
「あんな体で残るぐらいなら、いっそ消し飛ばした方が彼女の為かと思ったんだけど…あれで良かったのかな?」
「…いいと思うよ。私も、あんな体で日向君と会うぐらいなら、消えた方がマシだから…」
『それにしても…またあの『ヌケサク』と会うことになるとはな。承太郎が聞いたら苦笑いしそうだ…』
「…ッ!そうだ、苗木君は…」
「大丈夫だよ霧切さん、彼なら…」
「呼んだかい?」
「ッ!!」
ハッとして声の方を向くと、爆発が起きた場所の傍の塀の上に、あちこち服を焦げ付かせているものの無事な姿の苗木が立っていた。
「苗木君!」
「心配かけてごめんね、霧切さん」
「爆発が起きた瞬間、スタンドのパワーであそこまでジャンプしたんだね」
「最も、ただのスタンドじゃあ絶対に間に合わないタイミングだったんだけど…ホント、彼の規格外っぷりには脱帽だね」
「…もしかして皆さん、最初からうち合わせしてたんですか?」
「アハハ…、まあね。狛枝さんに今回の件について話したらぜひリベンジがしたいって言ってね。そしてら七海さんも協力してくれることになって…あ、他の皆には内緒だよ。スタンド使いの問題はスタンド使いの僕たちで片付けるべきだからね。…さて」
種明かしが済んだところで、苗木は先程まで自分がいた所に目を降ろす。
「『キラークイーン』による爆発はスタンド攻撃だ。爆発源がコインだったとしても、スタンドパワーによって生じたものである以上、スタンドにもダメージがある」
やがて爆発による土煙が収まり、その中から姿を現したのは…
「だからうまくいけば『まとめて』始末できるかと思ったんだけど…」
頭を跡形もなく吹き飛ばされ、物言わぬ骸へと戻ったヌケサク『だった』死体と
「…そううまくはいかなかったか」
その死体を手にして苗木を見上げる、多少焦げ付いているものの無事な『ホワイトスネイク』であった。
『……』
「吸血鬼が…!あの『ホワイトスネイク』は!?」
「…まだ生きてるよ」
「寸でのところであの吸血鬼を盾にしたみたいだね。勘のいい奴だよ…」
『……』
「命拾いしたようだが、もう貴様を逃がすつもりはないぞ。既に七海さんの『ハイエロファント』の結界でこの辺りを囲っている。そして直にSPW財団の人たちもここに来る。いくら貴様が『遠隔操作型』であったとしても、貴様をここに釘づけにしておけば本体も動けない。そうすれば、虱潰しに探せばいずれ…」
『…素晴らしい、『期待通り』だ。苗木誠』
「…何?」
しかし、『ホワイトスネイク』の口から出たのはそんな意外な言葉であった。
「…どういう意味?」
「…?七海さん、奴はなんて言ったの?」
「期待通り、だってさ」
「どう言う意味だ…!」
『言葉通りだ。先ほどは君を切り捨てるようなことを言ったが…私はまだ君の『可能性』を諦めた訳じゃあない。確かに君はDIOとは全く別の性の持ち主だ。君はジョースター共の影響を受ける以前から、既にDIOとは違う生き方を選んでいた。…だが、私には分かるのだ!君には確かに、DIOと同じモノになれる『素質』がある!誰であろうと膝を着かざるを得ない、『悪のカリスマ』としての素質が確かにあるのだ!事実、君はそのことに気づいている。気づいているからこそ、『超高校級のギャング』としての自分を受け入れているッ!』
「…で、僕がクソ親父と同じ穴の貉だったとして、何をさせるつもりだ?」
『…それは、私にも分からない』
「はぁ…?」
『我が友DIOが何をするつもりだったのか、何を成そうとしていたのか。その答えを知る者はもはや存在しない。だが、私は諦めるつもりはないッ!必ずやDIOの遺志に辿りつき、彼の成そうとしていたことを『完成』させるッ!…苗木誠、君には私と共にそれを成す『権利』がある。私と共に来い…』
「断る」
『…そうだろう、そうであろうな。『今の君』はそう言うと思っていた。だが、どれほど足掻こうとも、『運命』には逆らうことは出来ない!そして運命は、この私に常に味方しているッ!…次に会う時、君が快い返事をしてくれることを期待しているよ』
「…随分余裕じゃあないか。もう逃げ切ったつもりかい?」
「逃がさないよ…!」
「前に言った筈だ…、貴様は必ず殺すと!」
『ホワイトスネイク』を取り囲む3人。しかし、それでも『ホワイトスネイク』から余裕の色は消えない。
『随分血気盛んなことだが…私に構っていていいのかな?』
「何?」
「…え…!?な、何これ…ッ!?」
「霧切さん…?」
焦った様子の霧切の声にその方向を向くと、霧切は自分の体を見渡して酷く狼狽えていた。
「どうしたんだ、霧切さん!」
「苗木君…助けて…!私の体が…『溶けてる』…ッ!」
「…?溶けてるって…一体何が…」
「…ッ!お前、まだ生きてたのかッ!」
「へ?」
狛枝の叫び声に訝しげに目を向けると、そこには先ほどまで自分と一緒に『ホワイトスネイク』を取り囲んでいた狛枝と七海が互いにスタンドを出した状態で睨みあっていた。
「こいつ…この体でどうして生きているッ!?」
「…考えるのは後だね、まずはこいつを倒すよッ!」
『覚悟しろ、『ヌケサク』ッ!』
「ヌケサク…?狛枝さん、七海さん、何を言っているんだ?『お互い』のことを吸血鬼呼ばわりするだなんて……ッ!!」
苗木はハッとして『ホワイトスネイク』の方を見る。
「貴様…貴様の仕業かッ!」
『さて、どうだろうな…?ところで苗木誠、早く彼等を助けた方が良いのではないか?今はまだ肉体へのダメージ自体は無いとはいえ、このままでは本当に霧切響子の体が溶けてしまうぞ?この二人にしても、まともにやりあえばどちらかが死にかねないぞ?それとも…君が私を倒すのが先か、彼らが死ぬのが先か、試してみるかね?』
「……糞ッ!」
苦々しく吐き捨てると、苗木は『G・E・R』を狛枝と七海の間に割って入らせ、自分は霧切の元へと駆け寄る。
『無駄ァ!』
バキャアッ!
「ぐふっ!」
『ぐおッ!?』
「きゃあ!」
「…なえ、ぎ…くん…」
「…ッ!ごめん!」
ピシッ!
「…え?」
「霧切さん、落ち着いて!これは奴の『幻覚』だ!心を強く持つんだ!」
「…苗木、君?」
「…あれ、僕は何を…?」
『何故我々は、狛枝の事をヌケサクだと…』
「まさか…『ホワイトスネイク』の?」
霧切は苗木に、狛枝と七海は『G・E・R』にそれぞれ叩かれたことでどうにか正気に戻る。
「なんともない…苗木君、私は…」
「霧切さん、良かった…。…『ホワイトスネイク』ッ!」
声を荒げて振り返るが、そこには既に『ホワイトスネイク』の姿は無かった。
『私の『幻覚能力』も通じないとはな…。増々興味深いよ、苗木誠…!』
姿が見えない中で、『ホワイトスネイク』の声だけが聞こえてくる。
「…七海さん、奴はどこに?」
「…駄目、幻覚を見せられてる間に『結界』から逃げられたみたい」
『面目ない…』
「…貴様、憶えておけ!貴様が次に何をしてこようと、貴様は必ず僕が始末する!首を洗って待っていろッ!」
『『次』か…。君にその『次』があればいいのだがな』
「…?何を言っている?」
『今はまだ知る必要はない…。だが憶えておくと良い、敵は『私だけではない』と言うことをな。…しばしの別れだ。さらばだ、我が友の息子、苗木誠よ…』
そう言い残すと、今度こそ『ホワイトスネイク』の声は聞えなくなった。
「…逃げられちゃったみたいだね」
「うん…」
『くっ…次こそは必ず…!』
「…霧切さん、立てるかい?」
「ええ、大丈夫よ。…それより苗木君、さっきは目を覚ますためとはいえよくもひっぱたいてくれたわね?」
「うえぇっ!?い、いや…あれはその、仕方が無かったというか…」
「…ええ、分かってるわ。苗木君があの時無理やりにでも目を覚まさせてくれたおかげで助かったってことは分かってるわ。当然よ…」
「そ、そう…?ならよかっ…」
ギュッ!
「あひ!?」
「…けれどね、女の子の肌をひっぱたいておいて、ただで済むとは思ってないわよね?生意気な苗木君…?」
ギリギリギリギリ…
「い、いひゃいひゃい…ご、ごめんひりひりひゃん…!」
「…仲良いね」
ブルルルルルルル…
遠くから聞こえてくるSPW財団の物であろう車の音を聞きながら、こうして苗木誠と『ホワイトスネイク』の最初の闘いは終わった。
希望ヶ峰学園の外壁の外、苗木達が闘っていた場所から20メートルほど離れたところに、その男は立っていた。
「…やはりあの『レクイエム』の力は危険すぎる。苗木誠があの力を持っている限り、彼は私の言葉に耳を貸すことはないだろう」
浅黒い肌故に目立ってはいないが、男の体にはあちこちに軽い『火傷』が生じていた。
「彼の心に私の言葉を届けるためには、あの『レクイエム』を『封印』する必要がある。…しかし、今の私の力ではそれは難しいと見るべきか。やはり『あの女』が動く時を待つ方が無難と言えよう…」
向こうからやって来るSPW財団の連中に気づかれぬよう、男は黒い肌に黒の神父服の自身の容姿を利用し物陰から物陰へと姿を消す。そして去り際にもう一度希望ヶ峰学園を振り返り、そこにいる者に向けて呟く。
「…苗木誠、我が親愛なるDIOの息子よ。しばしの休息を楽しむがいい。しかし、忘れるな、お前の体に流れる『偉大なる血脈』がある限り、『運命』から逃れることは出来ん!私には『探さねばならない物』がある。いずれ再び、君を迎えに来る時がくるであろう。それまで…『神(Dio)』のご加護がありますように、Amen…」
そう言い残し、男…『ホワイトスネイク』の本体である『エンリコ・プッチ』神父は去っていった。
それからおよそ『2年後』、苗木誠と『エンリコ・プッチ』は再会し、再び闘うことになるのだが…それはまた別の話である。
今回でとりあえず番外編からはホワイトスネイクとプッチはしばらくフェードアウトします
次に出てくるのは番外編のクライマックス頃でしょうか…いつになるんでしょうね?