ダンガンロンパ~黄金の言霊~   作:マイン

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桑田メイン回です
タイトルはとある野球漫画のタイトルもじりました(笑)
原作にて桑田は高校野球で全国優勝…甲子園に行ったという設定ですが、入学時期や時系列から考えてそれだと都合が悪いので、今作では「高校入学直後に希望が峰学園へ編入した」という設定で行きます
なので作中で出てくる桑田の武勇伝はすべて中学以前の話になります


ブリリアントのエース part1

 希望ヶ峰学園。卒業するだけで将来が約束されるという夢のような学校。『超高校級』と呼ばれるほどの才能を持った一握りの学生のみが入学することを許されるその狭き門を求める者は毎年後を絶たない。

 

 …しかし、将来が約束されるのはあくまでその『才能』を開花させたものに限られる。といっても、この学園に入学した以上ほぼすべての生徒はその『才能』を伸ばすことに青春を捧げる為、卒業後に没落したという話は殆ど無い。だが、何事にも『例外』は存在する。この男のように…

 

 

カチカチ…カチカチ…

「おっ、返信来た。やっとデートの約束かー?…あ?………あ゛ーッ!!クソがァッ!!」

 長々と携帯をいじっていたかと思えば、かかって来たメールの文面を見るや否や苛立たしげに携帯を放り投げベッドに突っ伏したこの少年。名を『桑田怜恩』、『超高校級の野球選手』の肩書きを持ち、リトルリーグ、中学野球と所属するチームを全国優勝に導いた、日本…いや、世界最高レベルのベースボールプレーヤーである。であったのだが…

 

「クッソー…、ミサトちゃんが駄目となると、アキちゃん誘ってみるか?…いや、こないだデートした時に逃げられちまったし、今メールしてもシカトされっだろうなぁ…。……つーか、なんでこの俺がこんなことで悩まなきゃなんねーんだっつーのッ!!」

 …ところがこの男、この学園に入学してから未だに『一度も』野球の練習どころかトレーニングの一つもしていない。暇さえあれば携帯をいじってアドレス帳に記載されている女の子たちと連絡し合い、時折気が向くと部屋に飾ってあるギターを碌に楽譜も見ずに適当に演奏し、それにもものの数分で飽きると今度は隠してあるエロ本を見るか不貞寝するのが日常であった。入学の際に建前上持ち込んだバットやグローブ、ボールなどを『使用した』ことは一度たりとも無かった。

 

「…なんで俺、こんなトコ来ちまったんだろ…」

 ここ最近、桑田が思う疑問はそればかりであった。『超高校級の野球選手』としてスカウトされたは良いものの、その時には既に野球に対する『情熱』は燃え尽きており、その直後に行きつけの美容院でお気に入りの女性店員から聞いた『ミュージシャンがタイプ』の一言で『超高校級のミュージシャン』になるとあっさり鞍替えするほどに軽い調子であった。

 実際、桑田怜恩は『天才』であった。初めて触ったギターでもそこそこ弾くことができたし、歌唱力もカラオケによく行くだけあってまあまあうまい方であった。…しかし、実際希望ヶ峰学園でミュージシャンの勉強をしようとしても、『何故か』野球をやっていたころのような『上達感』も『やる気』も湧いてこず、野球に比べれば亀のような進歩速度に苛つき、次第に練習の頻度も減っていった。『ミュージシャン』の目標を半ば諦め、新しい恋に走ろうと同学年の舞園や1つ上のソニアなどに粉をかけてみたが、ソニアにはどこかズレた調子で流されてしまい、舞園は困った様子で相手にこそしてくれるものの、その心が『別の男』に向けられていることは桑田にも分かっていた。

 

「…あーッ!もう止めだ止めだッ!胸糞悪りーしさっさと寝るッ!!」

 乱雑に布団を被り、憤懣した表情のまま眠りに就こうとするする。そんな桑田の脳裏に、以前自分のギターの腕を見て貰った時に澪田から言われた言葉が浮かぶ。

 

『…はっきり言わせてもらうっすけど、君の音楽は『薄っぺらの空っぽ』っす!オブラートみたいに薄っぺらで、セミの抜け殻みたいに空っぽっす!音楽を愛するものとして、君の音楽を認める訳にはいかないっすよ!悪いこと言わないから、諦めた方が君の為っすよ?折角『野球』っていう立派な才能があるのに、こんなことで君の未来を無駄にするなんてもったいないっすよ…』

 

「…空っぽ、か」

 あの時は無茶苦茶に言われて何も考えないまま飛び出してしまったが、今になってその言葉が胸に突き刺さる。

 

『桑田ぁッ!オメーは人として『空っぽ』なんだよ!オメーに男としてのプライドがあるってんなら、その空っぽの部分を野球で埋めるぐらいのことやってみやがれぃッ!!』

 

「…テメーに言われたかねーんだよ、糞監督…ッ!!」

 かつて恩師に言われた同じ言葉に悪態をついて、桑田は今度こそ眠りに就いた。

 

 

 

 

 

「なぁ~舞園ちゃん、今度の日曜日デート行こうぜ~?」

「ご、ごめんなさい…その日は収録が…」

 翌日、いつものように舞園にちょっかいをかける桑田。周りにいる皆も、呆れたような表情でそれを見ている。

 

「…またかよ。この間からずっとそればっかじゃあねーか、ホントは収録なんてねーんじゃあねーの?」

「そ、そんなこと…!」

「じゃあなんの番組の収録?ゼッテェ見るから教えてくんね?」

 連日のように同じ返答で断られていることに痺れを切らした桑田が苛つきながらそう返す。

 

「そ、そんなことより桑田君、ミュージシャンの練習は順調なんですか?私も桑田君の音楽聴いてみたいですし、そっちの練習を大事にした方が…」

 話を切り上げる為適当に話題を上げる舞園。それに対し、桑田の返答はそっけないものであった。

 

「あ?ミュージシャン?…ああ、辞めた」

「…え?」

「いやさ~、どーにも気分が乗らねーっつーか?やってもやらなくても変わんねーっつーか…。ま、俺『天才』だしさ?別に『そんなこと』努力しなくてもできるっつーの?聴きてーんなら、いつでも聴かしてやるぜ?舞園ちゃんの為なら新しい曲だって書いてやるぜ~?ミリオン確実ってぐれーのをさ…あ、それとも舞園ちゃん付き合いたい職業とかあるか?俺ならなんだってなれるぜぇ~」

「………」

 すると、舞園の様子が急変し、

「…?おい、どうしたんだ舞園ちゃ…」

「…いい加減にしてくださいッ!!」

 突如、爆発した。

 

「な、なにを…」

「ふざけるのも大概にしてくださいッ!『気分が乗らない』?『努力しなくてもできる』?挙句の果てには『なんでもできる』?…あなたが『そんなこと』と言ったことに、どれだけの人が血反吐を吐きながら努力していると思っているんですかッ!!しかもなんにでもなれるだなんて、そんなこと、全ての『努力する人』に対する侮辱ですッ!桑田君がそんなことを言う人だなんて思いませんでした!もう顔も見たくありませんッ!!」

 そう吐き捨てると舞園は半泣きのまま教室から飛び出していった。

 

「ま、舞園さんッ!」

 急いでその後を追う苗木、…その途中呆然と立ち尽くす桑田の横で立ち止まる。

 

「…桑田君、『幸運』なんかで選ばれた僕の言えたことじゃあないかもしれないけど、憶えておいてくれ。君は確かに天才だ。君から見れば世間の多くの人は『要領の悪い奴』に見えるのかもしれない。…でも、それはその人たちが『下手』なんじゃない。君が『特別』なんだ、君は何事にも他の人たちから数歩先のスタートラインから始めているだけなんだ。…だから忘れないでくれ、『努力』することは格好悪いことなんかじゃあなく、当たり前のことなんだってことを」

「……!」

 桑田が反応するのを確認せず、苗木はそのまま舞園を追いかけて行った。

 

「…なんなんだよ、なんだんだよクソッ!」

 癇癪を起こされた理由も、苗木に言われた言葉も理解できないまま悪態をつく桑田。そんな桑田に、今度は霧切が歩み寄る。

 

「…桑田君、あなた舞園さんがどうして怒ったのか分かっているのかしら?」

「…知らねーよ!別に努力したい奴はすればいいだけじゃねーか…、なんで俺が努力してる奴のことまで考えなきゃいけねーんだよ…。俺がそんなことする義理なんかねーっつーの!」

「…やはり、あなたは何も分かってないわ」

「ああ!?何が言いてぇんだよ!?」

「あなたの言う『努力している人間』…舞園さんは、その筆頭とも言える存在なのよ」

「ッ!?」

「芸能界という奴は人間の下劣な品性が押し固められたような環境だ…。表向きは華やかだとしても、その舞台に立つまでは環境の中を血反吐を吐く以上の『努力』をし、気に入らない人間にも頭を下げてでもその資格を得なければならない…。『アイドル』などというおちゃらけた肩書きはともかくとして、そういう環境を生き延びたという点では、俺は舞園のことをそれなりに評価しているのだ」

「急にしゃしゃりでて何偉そうに言ってんのさ…」

「煩いぞ愚民。…桑田よ、貴様が他の連中の事をどう見ていようが俺は知ったことではない。だが、他人を上っ面だけで判断するようなら、この先貴様が何になろうが『成功』などない。なんなら賭けてやってもいいぐらいだ」

「んだと…ッ!」

「…桑田よ。十神の味方をするつもりはないが、奴の言葉にも一理ある。お主は視野が余りにも狭すぎる。他人に対しても、自分に対してもだ。お主にはまだまだ可能性がある。そしてそれは全ての人間にも言えることだ。努力が全て報われるとは言わんが、努力をせぬものが報われることは無い。…お主はもう少し、『己の在り方』について考えるとよかろう」

「…ッ!どいつもこいつも…『努力』なんかがそんなに大事かよ!?努力しねーでもうまくやってることの、何が悪いんだっつーのッ!…ケッ、あほらし…今日はフケるわ」

 舞園に拒絶され、苗木に諭され、皆に散々に言われた桑田は苛立ちを隠そうとしないまま教室から出て行ってしまった。

 

「桑田怜恩殿…大丈夫でしょうか?」

「あの程度で折れるようでしたら『超高校級』などという肩書きに相応しくありませんわ。放っておけばよろしいのですよ」

「けどよ…あいつの言っていることも分からないでもないぜ。実際アイツは自分の才能だけでここまでやってこれたんだ。今更それを否定されんのはキツイと思うぜ…」

「有り余る才能が故に生じてしまった意識の違いか…なんとかできないものだろうか?」

「フン、そんなこと俺の知ったことではない。セレスの言うとおり放っておけばいいのだ」

「あ、あんな捻くれた奴の世話を焼くなんてまっぴら御免よ…」

「…そうかなあ?」

「どうしたの不二咲ちゃん?」

「あのね…桑田君って、『捻くれてる』のとはちょっと違うと思うんだ」

「…っつーと、どういうことだべ?」

「う~ん…なって言ったら良いかよく分かんないんだけど…」

「…不二咲ちゃんよぉ~、んな深く考えなくてもすぐに分かんじゃあね~か~」

「え?そ、そうなの江ノ島さん?」

「教えて欲しい?欲しい?…残念ながら教えてあげません」

「だっ!?そ、そりゃあねえべよ!」

「気にする必要はありませんよ。…あの『お人よし』さんが彼を放っておくとは思えませんしね…その内勝手に解決しますよ…」

「…うん、そうだね」

 

 

 

 

 

 

 

 一方その頃、先に教室から飛び出した舞園は自室へと引き篭もり、先ほどの桑田への暴言に自己嫌悪に陥っていた。

 

「ぐすっ…桑田君が、あんなこと言うだなんて…。でも私も桑田君に酷いこと言っちゃった…どうしよう…」

コンコンコン

 と、そこに舞園の部屋のドアがノックされる。

 

「…誰ですか?」

「舞園さん…僕だけど、大丈夫?」

「!苗木君…」

 声の主に反応しドアを開けると、そこには両手に湯気の立つ飲み物を持った苗木が心配そうな表情で立っていた。

 

「ど、どうしたんですか…?」

「いや、心配になって…。あ、これ…インスタントだけどカプチーノ淹れたから良かったらどうかな?」

「あ、ありがとうございます…。…あ、苗木君もこっちでどうですか?」

「え…?いや、流石に女性の部屋に入るのは…」

「…お願いできませんか?なんだか一人だと心細くて…」

「……う、うん。分かったよ…」

 舞園に手を引かれ、苗木は舞園の部屋のベッドに腰掛けるとその隣に舞園が座る。

 

「…ごめんなさい。心配かけさせて、こんな気まで使ってもらって…」

「いいさ。それより皆も心配してたから、あとで顔見せといた方が良いよ?」

「はい…」

「……桑田君のことだけど、彼も悪気があってあんな言い方をした訳じゃないと思うんだ。ただ、多分今まで『自分と同じ世界』にそういった人が居なかったからああいう言い方しかできなくて…」

「…分かってます。桑田君がそんなつもりじゃなかったことは、分かってますから…」

 苗木が淹れたカプチーノを啜りながら、舞園は心の内をぽろぽろと呟き始める。

 

「…私の家、父子家庭だったんです。お母さんが居なくて、お父さんだけが頼りでした。そんな私にとって、テレビの中で華やかに歌い踊る『アイドル』は、雲の上みたいな憧れの存在でした。自分がアイドルになるって決めてから、私は自分で言うのもなんですけど沢山『努力』してきたつもりでした。辛いことも、悲しいことも、嫌なことも、なにもかも『アイドル』になる為に我慢してきました。…『超高校級のアイドル』なんて呼ばれるようになってやっと、自分の『努力』が報われたって、そう思えるようになったんです」

「……」

「でも桑田君は、私とは全然違う『生き方』をしてきた人でした。桑田君は、最初からものすごく『才能』があって、『超高校級の野球選手』になった経緯も、私とは違ったりしたのかもしれません。…だからきっと分からないんですよ。『最初から全部を持っていた人』には、『何かを犠牲にして大事なものを得た人』の気持ちなんて…」

 

グシャリ…!

 空になった紙コップを握りつぶした舞園の顔には、仕方ないことだと割り切ろうとしても納得しきれない、そんな複雑な感情が滲み出ていた。

 

スッ…

 そんな舞園の手を、苗木は両手で優しく包み込む。

 

「苗木君…?」

「舞園さん、君の気持ちは分かる。僕も、ここまで来るのに『大切な物』を失ってきたからね。…でもね舞園さん。桑田君の全てを、『才能』の一言で片づけるのは、少し違うと思うんだ」

「え…?」

「舞園さんも知ってるだろうけど、『野球』は『9人』でやるスポーツだ。いくら桑田君が『エースで4番』の天才プレーヤーだったとしても、たった一人で『9人分の活躍』をするなんてことは到底無理だ。桑田君の『超高校級の野球選手』としての肩書きは、共に闘った『チームメイト』の存在があってこそだと思うんだ。それに、どれほど『才能』があったとしても、それを『発見』して確かなものにするのだって一人じゃできないことだ。きっと桑田君にもいた筈だよ。自分を『導いて』くれた、桑田君のことを理解してくれる『恩師』の存在がね。…つまるところ何が言いたいかって言うと、『超高校級の才能』もそれを支えてくれる『周りの人』がいなければ成立しないってことさ」

「周りの人…」

「舞園さんにだっているだろう?自分の『アイドル』としての活動を支えてくれる人たちが?意地の悪い言い方になっちゃうけど、舞園さんはその人たちがいなくても、『超高校級のアイドル』としてやっていける自信はあるかい?」

「それは…」

 舞園の頭に浮かんだのは、事務所の社長とマネージャー、そして共に活動するメンバーの仲間。常に自分と共にあり、支え合ってきた彼らが自分の周りから居なくなったと想像し、舞園はそのショックに思わず首を激しく降る。

 

「舞園さん?」

「…あ、な…何でもないです!…そう、ですよね。桑田君だって、『一人』で全部やった訳ではないんですからね…」

「…うん、そうだね」

 舞園の様子にどこか『陰』を感じた苗木だったが、下手に踏むこむわけにもいかないので口には出さなかった。

 

「…さて、そろそろ僕は行くよ」

「え…もう行っちゃうんですか?」

「うん。…ちょっと、『もう一人』会っておきたいからね」

「…!…苗木君、私がこんなこと言うのは変かもしれませんけど、…頑張ってください」

「…うん、ありがとう」

 そう言って苗木は舞園の部屋を辞し、『もう一人』が居るであろう場所へと向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 希望ヶ峰学園新校舎の『屋上』。授業によっては『天体観察』などに使われるが普段は滅多に人が来ることが無いそこに、桑田は寝っ転がって空を見上げていた。

 

「…クソがッ!俺の何が悪いんだっつーの…」

 

 

 

 

「…桑田君!ピッチャーフライ!」

「?」

 

ヒュルルルル…

 

「!うおっと!?」

 懐かしい掛け声に反応すると、直後に上から落ちてきた『紙パック』を桑田は素早い身のこなしで捌いてキャッチする。

 

「な、なんだ…カフェオレ?」

「ナイスキャッチ、流石だね」

「…苗木」

 屋上の入り口に立っているカフェオレを投げた張本人、苗木に桑田は意外そうな目を向け…直後にため息をついてジト目で睨む。

 

「…手土産にしちゃあシケてんな。コーラぐらい持って来いっつーの」

「いやいや、ここのカフェオレは紙パックでもなかなかおいしいよ。…というか、投げたことには怒らないんだね」

「ケッ!俺を誰だと思ってんだ?『超高校級の野球選手』の、『天才』桑田怜恩様だぜ?あんなの寝てたって取れるっつーの」

「アハハ、それはゴメン。…少しいいかな?」

「…好きにしろや」

 桑田としては正直今は誰とも話したくは無かったのだが、からかいにきた様子もなくどこか神妙な苗木の雰囲気に断ることなく隣に座らせる。

 

「じゃあ、隣失礼するよ」

「ああ…」

「……」

「…舞園ちゃん、どうしてた?お前の事だから先に様子見に行ったんだろ?」

「まあね。…舞園さんも、少し言い過ぎたって反省してたよ。後で会ってあげて欲しいな」

「そ、そうか…。……なあ苗木、お前今までに『何かに夢中になった』ことってあるか?」

「え?…そうだな、僕もそういうのはあんまりないけど、イタリアで仲間たちと一緒に闘ったあの『1週間』の間…。辛いことも沢山あったけど、それでも『楽しかった』。皆と一緒に、一つの『目的』を果たす為に共に過ごしたあの日々は、僕にとって一番『夢中になった』瞬間だったと思うよ」

「…そうかよ」

「…君はどうなんだい桑田君?」

「……分かんねえ、分からねえよ。俺は、自慢じゃあねえけどガキの頃からなんだってうまくやる自信があった。頭の出来はいい方じゃあなかったけど、逆上がりだって学年で一番にできたし、縄跳びは『2重跳び』すっ飛ばして『3重跳び』だろうが余裕だった。おかげでモテてモテてしょうがなかったぜハッハッハ…」

「……」

「…そんな時によ、同級生の女子が『リトルリーグ』のチームに入ってるって聞いて、ちょっと気になって顔見に行ったんだ。そん時に、いっぺん試しにって1球だけ投げさせてもらったんだけどよ、…『結果』どうだったと思う?」

「…駄目だったの?」

「へっ…球速は『140㎞』、他の奴らなんざ目じゃねーぐれーの剛速球よ。おまけにキャッチャーの構えたところにストライク。野球なんざ正直ちょろいと思ったね」

「……」

「いい気になった俺はその場でチームに入団して、女子に良い所みせようと張り切ったもんだよ。ピッチャーだけじゃなく、キャッチャーも、ファーストも、ショートも、外野も、どこのポジションだろうが『完璧』にこなした。…『チームが勝つ』為なんかじゃあねえ、『俺自身のプライド』の為にやったんだ。当たり前だが、俺はチームの中で一番うまかった。俺のおかげで『全国大会』で『優勝』だってしたしな。中学に上がっても、他の奴らよりずっと巧かったし、レギュラーだって楽勝だと思ってた。…『監督』があの石頭じゃあなけりゃあな」

「…何が有ったんだい?」

「あの野郎…俺のプレーを見て誉めるかと思ったら、『野球に真剣じゃねえんなら外走ってろ!』…とかほざきやがったんだ…!確かにあん時の俺は、自分でも分かるぐらい調子に乗っていた。ライバルになる奴なんざいなかったから、サボっててもレギュラーを取れると思っていた。…けどよ、あんな奴にんな事言われる筋合いは無-んだよ!俺が『真剣』かどうかなんざを、テメーの物差しで測んなっつーのッ!!」

「……」

「…正直辞めてやろうかとも思ったさ。けど、ここで辞めたらアイツに負けた気がして癪だったからよ、むしろぐうの音も出ねーぐらいケチつけられねーようになってやるって決めたんだよ。…その後は世間で言われてる通りの俺だよ。わざわざダッセェ坊主頭になって、あの野郎が良いというまで走りまくった。そうなると、とうとうあの石頭も俺のことを認めたのか俺を『4番ピッチャー』のレギュラーに指名したんだ。そんな俺が他の連中引っ張って全国大会で『6連覇』っつー偉業を………あ?」

「フフ…」

「…お前、何が可笑しいんだよ?」

 自分の自慢話に笑みを浮かべた苗木に、桑田は怪訝そうな表情になる。

 

「いや、気に障ったならゴメン。でも…」

「でも…何だよ?」

「いやさ、自分のことを…というか、『野球』のことを話している桑田君が、すっごく『楽しそう』だったからさ」

「なっ…!?あ…アホアホアホ!『野球』なんざ『楽しくねー』に決まってんだろッ!!」

「本当に?」

「ぐ…」

「本当に、そう言い切れるのかい?」

「……分かんねーよッ…!自分でうまくなってることを自覚できるうちは、楽しかった…。周りの奴らを、どんどん追い抜いているのが快感だった。…けど、全国大会で3回目の優勝をした辺りから、もう俺に勝てる奴が居ないってことを実感した辺りから…『野球をやること』が『つまらなく』なった。勝つために誰にも打てねえボールを投げて、バッティングセンターみてーに来た球をスタンドに叩きこむだけの、ただ『野球をするだけ』の日々になっちまった。後から入ってくる後輩も、高校に上がってからも、俺についてこれる奴は一人も居なかった。俺が当然の様にできることを、他の奴らはゲロ吐くまでやってもできなかった。…そんな奴らを見ているうちに、『ああ…野球ってつまんねーな』って、そう思ってたんだよ…」

「……」

 

 桑田の独白を聞くうちに、苗木は桑田と自分たちの『意識の違い』の原因に気が付いていた。

 

(そっか…桑田君には、『比べる相手』がいなかったんだ。『才能』っていうのは、同じ目的を持つ『多くの人』の中で研磨され、より『完璧』な物へと完成されていく。けど、桑田君のそれは『余りにも完璧すぎた』。よく才能のある人の事を『ダイヤの原石』っていうけど、桑田君の場合は『既に99%磨かれた状態のダイヤ』のようなものだ。誰の手も借りることなく磨かれた才能は、桑田君を『孤独』にした。比べる相手が居なかったからこそ、『努力』をすることに『意味』を見いだせなくなった。自分のプライドを満たすためだけの『作業』しかしてこなかった。『競争』や『挫折』を経験しなかったことが、桑田君の『本当の気持ち』を隠してしまっていたのか…)

 

「ぶっちゃけ、『ミュージシャン』っつーのもテキトーなんだよ。いつもの美容室の姉ちゃんが『ミュージシャン』が好きって言ってたから決めただけで、本音を言うなら『野球』以外ならなんでも良かったんだよ。…あの時の俺は、とにかく野球から『離れたかった』。じゃねえと、あの石頭に笑われそうな気がして仕方が無かったんだよ…」

「……」

「ハハ…何ペラペラ喋ってんだろうな俺…。ワリィ、忘れてくれ…」

「…桑田君、根掘り葉掘り聞いておいてなんだけど、正直僕には桑田君の気持ちは分からない。僕と君では、生き方が違い過ぎる。だから君の心の内を聞いても、その気持ちに『同情』とか『共感』なんてできない」

「…ったりめーだろうが、んなもん…」

「でも、それでも、僕にも一つだけ『分かること』がある」

「…何だよ?」

「それは桑田君…君は今でも『野球が好き』だっていうことさ」

「なッ…!?な、な訳ねーだろッ!俺は…」

「桑田君、君がどれだけ言葉を汚そうとも、君の『本当の気持ち』を隠すことなんてできはしない。君が野球をやっていたころの話をしている時、君はいつもみたいな軽い調子なんかじゃあなく、『スポーツマン』としての君になっていたと思っている。それは、君が『野球に対する想い』を失っていない何よりの証明だ」

「……」

「…確かに、今の君は野球に対して『迷い』があるのかもしれない。それは他の誰でもなく、『君自身』の手で吹っ切るしかないだろう。でも、これだけは言わせてくれ。…どれだけ『道』に迷おうとも、君が『本当にやりたいこと』は、『既に決まっている筈』なんだ」

「俺の…『本当にやりたいこと』…?決まってるって…どういうことだよ!?」

「それは君自身が気づくしかない。…大丈夫、君ならできるさ。『目を背けているもの』にさえ、気づくことができればね…」

「はぁ…?」

 意味深にそう言い残すと、苗木は立ち上がって屋上を後にした。

 

 

「…なんなんだよ、俺が一体なにから『逃げてる』っつーんだよッ…!」

 苛立たしげにそう吐き捨てつつも、桑田にはその『答え』が予感できていた。しかし、認めきれない桑田は苛立ちを隠す様に再び不貞寝に戻るのであった。

 




私見ですが、実際桑田はそこまで鼻持ちならない奴じゃないと思うんですよね
ただ、十神ですら「競争相手」がいたというのに、桑田には野球においてそれが存在しなかったというのが、あれだけひねくれた原因だと思っています

番外編の各キャラ編ではそういうところを独自設定なりに掘り下げていければと思っています
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