主演の横山さんの演技は文句なしでしたし、ディケイドが完全に空気の破壊者になってたのも最高でした。それと七海と狛枝の完成度が思ったより高くてびっくりしました。ただ一言…弐大、お前もっとテンポよくしなさい(褒め言葉)
それとついでに一言…東京遊戯王民のレベル高すぎぃ!(地方民感)
渋谷の東映で前売り券販売に40分待つとは思わなんだ…あ、もちろん3枚確保しました。
大和田が墓参りから戻った翌日、前日に仗助に言われたことへの困惑と、騒ぎを起こした後ろめたさを抱えたまま、大和田は渋々教室へと入る。
ガラッ
「…うーす…」
「…ッ!!大和田君ッ!先日は申し訳なかったッ!!」
「うおっ!?」
扉を開けた彼を真っ先に出迎えたのは、斜め45度の綺麗なお辞儀をしたまま大声で謝罪する石丸であった。
「な、なんだよ急に…?」
「先日の事を、僕なりに色々考えたのだ。理由はどうあれ、僕の言動が君を不愉快にさせてしまったという事実に変わりは無い…。できるものなら昨晩の内に謝罪したかったのだが、迷惑かと思い今日まで待たせてしまった。…本当に済まなかった」
「…構わねえよ。俺だってあんときはちょっとやり過ぎたって思ってるしな。俺の方こそ、乱暴しちまって悪かったよ…。だから、お前も気にすんな」
「…ッ!!ありがとう、大和田君ッ!」
「おう。…ま、気が済まねえってんなら髪型と制服ぐらいは大目に見ろや」
「それとこれとは話が別だッ!」
「ケッ、何だよシケてんなあ…」
互いに謝罪し合った後は、いつものように言い合いをする大和田と石丸を皆は遠巻きに呆れたように、しかし何事も起きなかったことに安堵しながら見ていた。…だが、苗木や霧切といった勘のいい面々は、大和田の言葉や表情の端々から感じられる『違和感』を拭いきれずにいた。
「…大和田君、ちょっといいかな?」
「あ?…どうした、苗木?」
「話があるんだ…少し付き合ってくれないか?」
「お、おう…」
昼休み、苗木は食事を終えた大和田に声をかけ、共に屋上まで連れ出した。
「…で、なんだよ話って?」
「…先に断っておくよ。僕はこれから、君にとってすごく『不快』になるかもしれない話をする。無論君が望まないのであれば深く訊くつもりはないし、君も答えなくても構わない。…それでもいいかい?」
「なんだよ、随分水くせえなあ…とにかく言ってみろよ」
「大和田君…君と君の『お兄さん』との間に、何が有ったんだ?」
「ッ!!」
その質問をした瞬間、大和田の表情が一変し、殺気すら感じられるほどに周囲の空気がピリピリとし始める。
「テメエ…なんのつもりだ?」
「…別に僕は、君と石丸君の仲を無理やり取り持つつもりもないし、ましてや君の『弱み』を握ろうだなんて思ってもいないさ。ただ…今の大和田君からは『迷い』のようなものを感じるんだ。その原因があるとするなら、先日の口論の時に出てきた君の『お兄さん』の存在…そのことが君を迷わせているのなら、僕はできれば力になりたいんだ」
「『力に』…だぁ?笑わせんなッ!!お前なんざに、『俺達』の何が分かるってんだよッ!!」
「確かに、僕には君の心境は分からない。…でも、それを『理解』することは出来る筈だ」
「あぁ!?何言って…」
「…僕も、『受け継いだ』人間だからね」
「…あ…!」
そこで大和田は思い出した。苗木もまた、自分と同じように『託された』立場にあるということを。自分が兄から『チーム』を『託された』ように、苗木もブチャラティを始めとした仲間たちから『組織』と『希望』を『託された』ことに。
「君とお兄さんの間にあったことをに無理に関わろうとは思っていない。…でも、もし叶うなら君が迷っていることを教えて欲しい。自惚れかもしれないけど、僕なら君とは『違う視点』で、何か伝えられることがあるかもしれないから…」
「……」
「……」
しばしの静寂、やがて先に口を開いたのは、大和田の方であった。
「…俺が率いているチーム、『暮威慈畏大亜紋土』は元々『兄貴』が創ったチームなんだよ。チーム名の由来は…俺も良く知らねんだが、仗助さんを知ってるお前なら分かるんじゃあねえか?」
「あー…うん、まあね…」
「始めは兄貴とその舎弟、たまに遊びに来た仗助さんとで思いっきり走り回るだけの集まりだったんだ。けど、他のチームとの抗争や縄張り争いなんかをしているうちにどんどんチームはデカくなっていってよ、兄貴たちが高校を卒業してから仗助さんは就職したとかで顔を見せなくなったんだけど、兄貴はずっとチームの『ヘッド』としてあちこちのゴロツキどもを纏め上げて、ついには『日本一の暴走族』なんて呼ばれるようになった。…そんな兄貴の背中を、俺はガキの頃からずっと追いかけてきたんだ」
「……」
「『暴走族』っつても、兄貴はその辺の不良とは違った。カツアゲやクスリは絶対やらなかったし、下の連中にもそれを徹底させた。喧嘩はしょっちゅうだったが、無関係な奴を巻き込んだりはしなかったし、卑怯な手も使ったりはしなかった。…兄貴は、俺にとって…いや、『俺達』にとって『理想の暴走族』の在り方そのものだったんだ」
「…立派なお兄さんだね」
「ああ、そうさ…俺にはもったいねえぐらい最高の兄貴だった。だからこそ…俺はその兄貴の背中を追いかけていくことが『不安』だった」
「大和田君…?」
「…16になってすぐバイクの免許をとった俺は念願だったチーム入りを果たした。兄貴の身内ってこともあって俺を慕ってくれる奴もいたし、自慢じゃねえが俺もチームの中じゃかなり喧嘩も走りもできたからな、そう経たないうちに俺はチームの『ナンバー2』になった。兄貴が『1番』で俺が『2番』、それはチームにとっても、俺達兄弟にとっても最強のチームの在り方だと思っていた。…けど、それからしばらくして急に兄貴が『引退』を宣言したんだ」
「引退…?」
「当然チームの連中は混乱したさ、なにしろ俺だってそこで初めて聞いたんだからな。何度も兄貴に問い詰めたんだが、兄貴の答えは『いずれ分かる』の1点張りさ。思いなおすよう説得もしたが、兄貴の考えは変わらなかった…んで結局、兄貴の後任の『ヘッド』を決めることになったんだよ」
「後任って…大和田君が『ナンバー2』なんだからそのまま跡を継いだんじゃあないの?」
「…そこなんだよ」
「?」
「兄貴は、俺達にとってあまりにもデカすぎる存在だった。その兄貴が引退し、俺が『二代目』を継ぐことになった時、チームの古株を始めとした何人かがこう言いやがったんだ。…『2番手の弟に大亜の代わりが務まるのか?』…ってな」
「…そうは言っても、大和田君は『実力』でナンバー2になったんだろう?だったら、反対したところで代わりの人なんていないじゃあないか」
「確かにな…他の連中じゃあ大きくなり過ぎたチームを纏められるだけの『カリスマ』ってやつがあるとは思えなかった。とはいえ、俺に兄貴と同じぐらいの『カリスマ』があるかって言えば自信持って首を縦に振れねえのは事実だ。だが、このままじゃあチームは方向を見失って空中分解しちまう。だから俺は…足りない分のそいつの代わりに『箔』を求めた」
「箔…?」
「俺は兄貴に『勝負』を挑んだ。地元の山道の1本勝負。俺が勝てば、俺は『兄貴を倒した弟』として胸を張ってチームの連中を纏められる、…そう思ったんだ。兄貴も最初は渋っていたが、どうにか納得してくれた」
「……」
「…その日の真夜中、チームの連中に何も知らせずに俺と兄貴は勝負を始めた。生憎その日は雨で視界が悪かったが、俺達は死力を尽くして戦った。…だが、俺がどれだけ頑張っても、兄貴との差を縮めることは出来なかった。焦った俺は勝負の終盤に賭けに出て兄貴の外から加速して追い越そうとした。…カーブの向こうから突っ込んできた『トラック』のことなんか気にしないで、な…」
「…ッ!」
「案の定、俺はトラックの真ん前に躍り出ることになった。スピードを出し過ぎた俺に躱す時間の手も残っちゃいねえ。本気で『死んだ』と思ったぜ……『横合い』から思いっきり突き飛ばされなきゃ、俺は今頃墓の下だろうよ」
「…そうか、君のお兄さんは…」
「ああ…。突き飛ばされて道路に転がった俺が起き上がってみたのは、俺の代わりにトラックに轢き飛ばされた兄貴だった。手足が変な方向に捻じれ曲がっていて、全身から血を吹き出して倒れていた。…素人の俺でも、『助からねえ』って思っちまうぐらい酷え有様だった。…けど、死に物狂いで駆け寄って謝る俺に、兄貴は『笑いながら』こう言ったんだ…!」
『後は…託したぜ…紋土…!俺とお前で作ったチーム…、潰すんじゃあねーぞ…『男の約束』だ…』
『兄貴ィーーッ!!!!!』
「俺には分からなかった…ッ!なんで兄貴は、自分が死ぬって時に俺に『チームを託す』なんてことを言ったのか…!なんで俺の事を、一言だって罵ってすらくれなかったのか…ッ!!訳が分からないまま、俺はその場で夜が明けるまで泣いて…兄貴の遺体を家に連れ帰ったのは明くる日の『夕方』だった。家族やチームの連中には、その日が『命日』ってことにした。そうじゃねえと…俺はとてもじゃねえが墓参りなんてできそうになかった。一人じゃねえと、墓の前で皆から責められ続けそうで、怖かったんだ…」
「……」
「兄貴が死んでからは、俺はしばらく『抜け殻』みてえだった…らしいぜ。俺自身、よく覚えていねえんだがよ…。チームに顔を出すどころか、部屋から一歩も出ないで俺は自己嫌悪に陥っていた。いっそこのまま、死んだ方がマシなんじゃあねえかとも思ったさ…」
自嘲気味に嗤う大和田の瞳に、苗木はその頃の『名残』であろう『空虚さ』を見て取った。
「結局、葬式の日に来てくれた仗助さんに全部打ち明けて、思いっきりぶん殴られて喝を入れられるまで俺はそんな感じだった…」
ドゴォッ!
『ガハッ…!?』
『テメエ…寝言ほざいてんじゃあねーぞコラァッ!!確かに、お前が馬鹿やったせいで大亜は死んだのかもしれねえ…、だけどよぉ…、テメーがいつまでもしょげてたって、何にも変りゃあしねえんだよッ!テメエが死んだら、大亜が生き返んのか!?違ぇだろッ!だったら今お前にできるのは、お前と同じように大亜を失って行き場を見失ってる奴らを、お前が導いてやることだろうがッ!…本気で大亜のことに責任を感じてんなら、大亜の最期の願いを無駄にしないようにしやがれッ!!…テメエの身の振り方は、その後に考えろ。今のお前は、『生きろ』。生きて、大亜の『遺志』を考えろ。それが、おまえにできることなんじゃあねーかなあ…紋土』
「…仗助さんらしいね。きっちり叱った後に、大和田君にやるべきことを示してくれたんだ」
「ああ。あの人が居なかったら、俺は多分立ち直れていなかっただろうさ。…それから俺はチームに復帰して、正式に『二代目』に就任した。兄貴のことについて聞いてくる奴もいたが、俺が『俺と勝負して負けた』とだけ言ったら納得した。兄貴が死んだことも含めて、『そういうこと』だと思ったらしい。…俺は否定しなかった、…否定『できなかった』…ッ!『負けそうになった兄が無茶な走りをして自滅した』…?違う…ッ、『バカな弟を庇って兄貴は死んだ』んだッ!!…俺はその言葉を、口に出すことができなかった」
「後はお前らが知ってる噂通りさ…。兄貴を倒した最強の『二代目』の俺がヘッドになったことでチームはさらに団結して、噂を聞いた周辺のチームを併合して『日本最大』のチームを作った俺は『超高校級の暴走族』なんて呼ばれるようになった。…それが真っ赤な『嘘』だと自覚していても、俺はそれを隠し通していくことを決めたんだ。それが、兄貴との『男の約束』を守るための、たった一つのやり方だからよ…」
全てを言い尽くした大和田は大きく息をつくとどっかりと背後の手すりにもたれかかる。
「これが俺の…『最弱の暴走族』大和田紋土の『罪』だ。…軽蔑したか?」
「…しないさ。君はお兄さんの『願い』の為に、自分を殺してまでチームを守ろうとしたんだろう。なら、それが『間違い』である筈が無いさ」
「そう、か…。ありがとうよ…」
「…でも大和田君、いつまでもそれじゃあいけないことは、君も分かっているんだろう?」
「…ッ!!?」
「君がやったことは、確かにその時では『唯一』の方法だったかもしれない。もしその時に本当の事を言ってしまえば、多分君のチームは崩壊していただろう。…でも、君がいつまでもその『嘘の肩書き』を背負ったまま自分を殺し続けるのを、君のお兄さんが望むと思うかい…?」
「……」
「もう、いいんじゃないかな?今の君を、『大和田紋土』っていうリーダーの『強さ』を知っている仲間たちなら、君の『痛み』を理解して…」
バキャアッ!!
「…ッ!」
「ハァッ…、ハァッ…!」
言い切らないうちに、苗木の顔面を大和田の拳が殴り飛ばしていた。
「テメエが…テメエが兄貴を語んじゃあねえッ!!兄貴は…兄貴は、俺に『チームを託す』って言ったんだッ!だったら、俺は例え『俺』じゃなくなったとしても、チームを守り通さなきゃあなんねえんだッ!!」
「……」
口元から滲む血を拭おうともせず、苗木は猛る大和田をじっと見る。
「俺が『強い』だと…!?違う…、俺の『強さ』は、ただの『嘘』なんだよッ!俺は、自分の『罪』とすら向き合うことができない、『臆病者』なんだ…ッ!けど、それでも…それでも俺は、兄貴との『約束』を守らなきゃなんねえんだッ!『嘘』で塗り固められた『強さ』だろうが、俺はそれでチームを…」
「…それは違うよ」
「…な、に…?」
力強く苗木が口にしたその言葉に、大和田は思わず止まってしまう。
「君は、もう十分に自分の『罪』と…自分の『弱さ』と向き合っている筈だ。君自身が、それに気づいていないだけだよ」
「何言ってやがる…!?俺は…」
「だって…君は自分の『過ちを理解』しているじゃあないか」
「ッ!?」
「本当の『弱さ』っていうのは、『自分のやったことを認められない、理解しようとしない』ことだと僕は思っている。自分の心が傷つくのを恐れ、過ちを『正当化』して逃げようとする…、それが『弱い』っていうことなんだ。…君は自分の心ではなく、『お兄さんの誇り』を守る為にあえて嘘をつき、自分の気持ちを傷つけながらチームを守った。君のその『優しさ』は、紛れもない『強さ』なんだよ」
「苗木…」
「だからこそ、君はいつまでも『お兄さんの代わり』のままでいちゃいけない。君は君自身として…『大和田大亜の弟』としてではなく、『超高校級の暴走族』大和田紋土としてチームを率いて行かなきゃならないんだ。『お兄さんより強くなる』だけではいけない、いつかは『お兄さんとは違う自分』にならなきゃいけない。何故なら…『君の強さ』と『お兄さんの強さ』は『別物』なんだから」
「俺の…強さ…」
「…大和田君、君のお兄さんが何故突然引退をしたのか、分かるかい?」
「いや…まだ、分からねえ…」
「僕はこう思うんだ。…君のお兄さんは、大和田君に『自分とは異なる可能性』を見たんじゃあないかとね」
「可能性…?」
「大和田君はチームに入ってそう時間もかからずに『ナンバー2』にまでなったんだろう?それは大和田君個人の力もあるけど、大和田君に惹かれた皆が認めてくれたからだとも思う。お兄さんは、そんな大和田君に『自分には無い物』を見出したんだ。だからこそ、お兄さんはあえて『後継者』を指名せずに引退した。自分が何も言わなくとも、大和田君が『二代目』となることを信じてね…」
「俺にあって…兄貴に無いもの?そんなもんが…あんのか?」
「多分ね。…といっても、大和田君自身には気づきにくいことかもしれないな。でも、それを感じている人はきっといる筈だよ。…石丸君みたいにね」
「石丸…?」
「彼がどうして、いつも無下にされているのに大和田君にしつこく注意をし続けているのか分かるかい?きっとそれは、大和田君の持っている『何か』を感じたからだと思うんだ。だからこそ、なんとかして規律正しい学生になった貰おうと思ってるんじゃあないかな?でなければ、あんなにしつこく張り合ったりしないし、正面切って謝ったりなんかしないさ」
「…けど、俺は…」
「大和田君、これは僕の個人的な見解でしかないんだけど…きっと君のお兄さんが『本当に君に託したかったもの』は、そういうことなんじゃないかと思うんだ」
「何…?」
「お兄さんは、自分と大和田君で作ったチームを『ありのまま』残してもらいたかったんじゃあない。大和田君の…大和田君『だけ』が創ることができる、そんなチームにしてもらうために君に『二代目』を託したんだと思うんだ。だからお兄さんは自分の『影響力』がでないようにあえて後継者を指名せずに引退した。大和田君のことを何も悪く言わなかったのも、大和田君が『生きてくれること』が、お兄さんにとっての『望み』…『希望』だったからこそ、悔いも恨みも無かったんじゃあないかな…?」
「兄貴…」
大和田の脳裏には、兄の死に際の『遺言』が反芻されていた。
『俺とお前で作ったチーム…、潰すんじゃあねえぞ…『男の約束』だ…』
(…そうか、だから兄貴は『潰すな』とだけ…『守れ』ではなく、『潰すな』と…。例え『形』が変わっても、俺達が創り上げたチームを、『俺』にすべて任せるために、ただそれだけ言ったのか…)
それと同時に、墓前で仗助と話をした時の事も思い出していた。
(…仗助さん、だからアンタは兄貴の事で俺に『何も』言わなかったんスね。俺が見失っていたものを、『俺達』が当たり前みたいにしてきたことを、俺に『自分で』気づかせるために…)
大和田は顔を上げると、両手を左右に大きく広げ…
バチーンッ!
思い切り自分の両頬をひっぱたいた。
「わっ!?」
「…っ痛ぅ…!…済まねえな苗木、ぶん殴っちまって。おかげで目が覚めたぜ…、そうだよな、リーダーがいつまでも『仲間』に嘘をつき続けているようなチームで、兄貴が納得するはずがねえよな…!」
「大和田君…!」
「今のは、『俺自身に対するケジメ』だ。…んで」
そう言うと大和田は苗木の前で仁王立ちする。
「これは『お前に対するケジメ』だ。…苗木、一発殴れ」
「え?」
「さっき殴っちまったからな、『恩人』を殴りっぱなしなんざ俺のプライドが許さねえ。だから、殴れ」
「…悪いけれど、それはできないな」
「ああ?」
「もうさっきの一撃の『代金』は貰ってるからね。僕からやり返したんじゃ過払いも良い所だからね」
「代金だ?」
「…君が自分の『隠したい傷』を曝け出してまで僕に心の内を話してくれたんだ。『拳の一発』でも貰わないと、僕は君のその気持ちに応えることなんてできないからね。僕の言葉なんて『チップ』みたいなものさ。だから、これで『お相子』だ」
「…ハッ!言う事が気障なこった」
「僕もそう思うよ…さて、それよりも君には『行くところ』があるんだろう?後のことは僕に任せていいから、行ってきなよ」
「苗木…サンキューな!」
言うが早いか大和田は屋上から出るとそのまま脱兎の如くバイクで学園を後にしていった。
「…『男の約束』、か。大和田君達にとっての『男の在り方』を守ること、きっとそれがお兄さんが言いたかったことなんだろうな。それを貫き通せるかどうかは、大和田君次第だ。『その後』は…それこそ大和田君次第か。僕にできるのは、大和田君を『信じる』ことだけだ。…頑張ってね」
遠く離れゆくその背中にエールを送りながら、苗木は学校への大和田のフォローの内容を考えながら屋上を後にした。
「…うわっ!?ど、どうしたんですか苗木君その頬!?誰にやられたんですか!?」
「え、えーとこれは…『青春』?」
「はい?」
その日の夜、地元に戻った大和田はチームの主要メンバーを全員召集し、彼らと共に兄の眠る墓地へと赴いていた。
「…急にどうしたんですかヘッド?リーダー格の皆さんを全員ここに呼びつけるなんて…、おまけに俺まで…『話がある』っておっしゃってましたけど…」
怪訝な表情のまま集められた一同を代表して、大和田の舎弟でもありチームの次期幹部候補とも言われる『雪丸竹道』が問いかける。
「…おう。誰よりも前に、お前らに聞いて貰いてぇことがあってよ。急で悪いが、お前らだけでも来てもらったぜ」
「別にいいんですけど…どうしてここなんです?先代…ヘッドのお兄さんの墓までわざわざ来るなんて…」
「ここじゃなきゃ『駄目』なんだ。…兄貴にも、聞いてもらいてぇからな」
「?」
「…俺は、お前らに謝らなきゃなんねえことがあるんだ」
「あ、謝る…!?いきなりどうしたんっすか?俺たちはヘッドに不満なんて…」
「そうじゃねえんだ!…俺は、兄貴と交わした『約束』を…お前らに絶対しねえと誓ったことを、破っちまった…!だから俺は、お前らに対して『ケジメ』をつけなきゃなんねえ…ッ!」
「…一体、何が有ったって言うんですか?」
「…俺は、お前らに『兄貴は無茶をやって死んだ』…そう言ったよな」
「ええ、確かに…」
「だが、それは違う…!バカをやったのは兄貴じゃあねえ、…俺なんだッ!!」
『ッ!!?』
そうして大和田は皆に語りだした。自分が二代目になることを不安がっている連中を黙らせるために、兄に勝負をけしかけたことを。その結果、暴走した自分を庇って兄が死んだことを。…そしてチームを守るためとはいえ、そのことを隠し嘘をつき続けていたことを。メンバーたちはその告白に口を挟むことなく、ただじっと黙ったまま聴き入っていた。
「俺はお前らに『嘘』をついちまった…『2年』もの間だ!『ダチには絶対に嘘をつかねえ』、『ダチとの約束は死んでも守る』…それが俺と、兄貴と、仗助さんとで決めた『男のルール』なんだ…。俺はそれを、よりにもよって2つとも破っちまった…!チームを潰さねえためと言い聞かせて、お前らに嘘をついて、それで兄貴と交わした『ルール』を…『男の約束』を破っちまった…ッ!!」
必死の涙をこらえ、俯いたまま大和田は絞り出すように己の罪を吐露する。
「俺が言いたかったのはそれだけだ…。許してくれなんざ言わねえ…、気が済むようにすりゃあいいさ。チームを抜けるなり、俺を殴るなり罵るなり好きにすればいい。…けど頼む。兄貴だけは…兄貴の『誇り』だけは貶さないでくれッ!兄貴はなんにも悪くねえ…悪いのは全部俺の『弱さ』なんだッ!例え二代目として失格になったとしても、それだけは守らなくちゃなんねえ…ッ!だから、頼む…兄貴の生きざまを、汚さないでくれッ!この通りだッ!!」
膝を着き、頭を垂れて大和田はメンバーに土下座する。『暮威慈畏大亜紋土』を知る者からすれば、それがどれほど異常で、情けない物であるかということは大和田にも分かっていた。だが、それでも大和田は決意していた。例え兄の後を追うことになったとしても、兄の『誇り』とチームの『看板』だけは必ず守ると。
「……?」
しかし、いつまで経っても大和田には覚悟していた痛みも、誰かが去る足音も聞こえてきなかった。そのことに大和田が疑問を感じると、ふと頭上から声が掛けられる。
「…んなこったろうと、思ったよ。あの大亜が、お前に負けそうだからってそんな死ぬような無茶するはずがねえもんな」
「…ッ!?」
声を上げたのは、大和田を除けばチームの中でも一番の古株で、大亜と共に『暮威慈畏大亜紋土』の創成期を築いた大和田にとって数少ない『先輩』であった。
「お前から大亜が死んだ経緯を聞いた時、俺はすぐそれが『嘘』だと気づいたよ。…でも俺はそれを追及しようとは思わなかった。何故だかわかるか?」
「……」
「俺だってお前らが決めた『男のルール』は知っている。もしお前が自分の名声の為だけにそんな嘘をついたのなら、俺は速攻お前を問い詰めてチームから叩きだすつもりだったさ。…だが、お前があくまで『二代目』という地位にのみこだわろうとしてるのなら…きっとお前は自分の為じゃなく、『チームの為』に嘘をついたんじゃあねえか。…そう思ってな」
「先輩…」
「…ヘッド。実は俺達も謝らなきゃなんないんです」
「何…?」
「俺たち、実は気づいてたんス。ヘッドが俺達に何か『隠している』んじゃないかって」
「なっ…!?」
「ヘッドは、俺達の前じゃいつも男らしくて、理想のヘッドで居てくれていました。…けど、ほんの一瞬、ここを…先代の墓のあるこの山を見た時だけ、今まで見たことのない、寂しそうな…悔しそうな…そんな顔になっていたのを見たんです。でも、俺達はそれを聞くことができなかった。ヘッドを怒らせちまうんじゃねえかって…傷つけちまうんじゃあねえかって…それが怖くて、何も聞けなかった…!」
「雪丸…」
「ヘッドは俺達を、チームを守る為に自分をずっと傷つけ続けてきた。なんで今それを話してくれたのかは分からないですけど、俺達がもう少し…ほんの少し勇気を出してそれを聞いていれば、ヘッドをその苦しみからもっと早く解放してやれたかもしれねえ…。そんな自分が情けなかったんッス!スイマセン!」
「…お前ら、なんでそんな…お前らがそんなことを気にする必要なんざねえんだぞ…!悪いのは俺だ、俺なんだッ!なのになんでお前らは、俺を責めねえんだよッ!?兄貴と一緒で、どうして俺に恨み言の一つも言ってくれねえんだッ!?俺は一体…誰に償えばいいんだよ…」
「…紋土よ、お前の『償い』はもう終わったんだよ」
「え…?」
「お前はもう十分に苦しんだ。2年もの間、自分の心と、プライドを犠牲にしながらチームの為に精一杯二代目としてやって来たんだ。そして今、お前は自分の意志で俺達にすべてを話してくれた。…もうこれ以上、お前に与える『罰』なんて俺には思い付かねえよ」
「ヘッド!…いいや、『紋土さん』!俺たちは先代の頃からずっと、紋土さんが二代目になるって思っていたんです!だから紋土さんがどんなことをしたとしても、俺達のとっての二代目は紋土さんなんです!」
「お前ら…」
「大亜の奴は言ってたよ…」
『俺の跡を継げるのは、紋土しかいねえと俺は思ってる。アイツは、俺には無い物を持っている。俺はただがむしゃらになる物を見つけるために、突っ走り続けるためにこのチームを創った。なんだかんだでここまでデカくなっちまったが、今でもその気持ちは変わらねえ。…けどよ、もうこれからはそれじゃ駄目なんだわ。今のチームを引っ張るためには、ただ強いだけじゃねえ、アイツ等が心底信じられる『人情』って奴を持った奴じゃねえといけねえ。…アイツの『優しさ』はまさしくそれなんだ。強い奴にも、弱い奴にも、分け隔てなく接して、時には力を貸してやることができるアイツだからこそ、俺はわざわざお膳立てをしてやる必要なくアイツに全部任せられるんだ』
「お前の『優しさ』は、紛れもなくこのチームを守った…大亜との『男の約束』を守ったんだ。そしてもう、お前を縛る物は何もなくなった。だから、こっから始めりゃいいんだよ。『大和田大亜の弟』としてじゃなく、『暮威慈畏大亜紋土二代目総長』としての大和田紋土としての、人生って奴をよ…」
「立ち上がってくださいヘッド。もうヘッド一人に全部背負わせなんかさせません。先代が俺達の『前』をずっと突っ走って行ったのなら、ヘッドは俺達の『半歩先』に立って引っ張ってくれる人なんです。くじけそうになったら、いくらでも俺たちが支えます。だから…一緒に行きましょう、ヘッド…!」
真剣な眼差しで自分を見つめるメンバーに、大和田は小刻みに震えながらしばし蹲った後、ゆっくりと立ち上がりながら口を開く。
「…ったくよお。全くお前らは物好きばっかりだぜ…。こんな情けねえ総長の為に、テメエの時間を投げ出そうなんてよ…!」
「何言ってんスか。その酔狂者を集めたのはヘッドと先代じゃないっスか」
「違ぇねえ…!」
「ハッ…!しょうが、ねえな…!望みどおり、突っ走ってやろうじゃねえか、『兄貴の代わり』としてじゃなく…『俺』としてよ…!」
「ヘッド…!」
『…やっと分かりやがったか。回りくどかったとはいえ、世話の焼ける弟だぜ…』
「ハッ!?」
背後から聞こえた懐かしい声に思わず振り返るが、そこにあるのは静かに佇む墓だけであった。
「…兄貴。サンキューな」
その主であろう男のいる徐々に白やんできた空を見上げる大和田の頬に、こらえきれなかった涙が伝う。
(…仗助さん、俺に何も言わないでいてくれてありがとうございました。おかげで俺は、自分で気づくことができました。俺が見失っちまってた、『仲間との絆』って奴を…。そして、兄貴が本当に俺に伝えたかったことを…)
晴れやかな笑顔で自分の言葉を待つメンバーに、大和田は涙を拭って盛大に叫ぶ。
「暮威慈畏大亜紋土ッ!たった今より、この大和田紋土が改めて引き継いだぁーッ!お前ら、地の果てまででもついてきやがれ―ッ!!!」
『ッッシャアァァァァァァァッ!!!!』
(苗木…お前にも礼を言うぜ。お前が背中を押してくれたおかげで、俺はこいつらと向きあう『勇気』を出すことができた。本当にありがとう、俺の…最高の『ダチ公』)
新たなる出発に歓喜する一同。そんな彼らの門出を祝うかのように、山の向こうから黄金の朝日が昇り始めた。
それから3日後、学園へと戻ってきた大和田の姿は、学園の一角にある空き地にあった。
「えーと…こいつが基礎用のコンクリで…あ、その前にレンガ組んで寸法取んねえとな。っくあ~…、どうにもこの『測量』ってヤツが難しいんだよな…」
「…頑張ってるね、大和田君」
「ん?…おお、苗木じゃねえか!」
普段の学ランとは異なり『作業服』に身を包み『ツルハシ』と『参考書』を手に資材の山の前で唸っている大和田に、差し入れのドリンクを持った苗木が声をかける。
「はいコレ」
「おう、サンキュー」
「最初聞いた時は驚いたけど…本当に『大工』になるんだね」
「おう!親父の知り合いに建築会社経営してる奴が居てな。元々進路のことなんざ考えたことも無かったし、今まで好き勝手やって来た分、何かを『作る』ことで世間様に恩返しができたらと思ってよ」
始まりは先日、親に本当の事を打ち明けた結果なのか顔中に痣を創った大和田は学園に戻るなり苗木を通じて学園長に『卒業後は建築関係の仕事に就きたい』との旨を報告した。最初は戸惑っていた学園長であったが、大和田の熱意は本物で、学園の蔵書にあった建築関係の参考書を毎日読みふけり、また過去に在籍していた『超高校級の大工』と呼ばれ現在は世界屈指の建築家となった生徒が残した資料を片手に実技を重ねていくうちにメキメキと頭角を現し、遂には学園長もそれを認め全面的なバックアップを確約させるに至ったのである。
「けど大和田君のチームの事は良かったの?今結構大変なんでしょ?」
「まあな…けど、アイツ等が『任せろ』って言ってくれたからよ。ちっとばかし甘えさせてもらったのさ」
大和田の口にした真相は、翌日チーム全体に広がった。無論事前に聞かされた皆の様に理解を示す者もいたが、皆が皆一枚岩というわけではないのでやはり大和田に失望してチームを去る者も少なからず存在した。その隙を狙ってか、今まで顔色を窺っていた他の暴走族による縄張り争いが起き始め、チームは若干慌ただしくなり始めていた。
そんな状況でも、仲間たちは大和田を学園へと送り出した。大和田に全て任せるのではなく、大和田の隣に立てるようになるためにと、次に戻るまでの間チームを守って見せると誓ったのである。
「まったく…俺にはでき過ぎた連中だぜ。アイツ等の心意気に応えるためにも、本気で勉強しねえと男が廃るってもんだぜ」
「そうだね……大和田君、カッコいいよ」
「そ、そうか?」
「うん、本気でそう思うよ。僕も…見習わないとね」
「…何言ってやがる。そいつは俺のセリフだぜ」
「え?」
「今回の事で思い知らされたぜ。俺には兄貴を越える前にやらなきゃなんねえことが山ほどあるってな。そして…今の俺の目標は『お前』なんだよ」
「ぼ、僕?僕はそんな…」
「謙遜すんなって。お前はスゲェんだよ。『男』としても、『人間』としても、俺はまだまだお前には及ばねえ。俺の求める『強さ』…兄貴が俺に見出した『強さ』ってやつを、お前は持っている。だからこそ、まずはお前を越えねえと、俺はいつまでも兄貴の背中を追っかけているままだと思うんだよ。…兄貴に会う前に、越えなきゃなんねえ壁が増えちまったな。テメエっていう、でっけぇ壁がよ…」
「大和田君…」
「けど、お前は俺の『目標』であると同時に『ダチ』だ。なんかあったら、いつでも言ってくれよ。何処だろうが駆けつけて、力になるからよ!」
「うん…ありがとう!」
「とりあえず…いつか今回の事の礼をしなきゃなんねえな。その為にも、俺は『世界一の大工』になる。そしたら苗木、テメエの屋敷だって建ててやるからな!」
「期待しとくよ、大和田君…!」
「…そうか、アイツは腹を括ったのか。なら、もう心配はいらねえな。サンキュー苗木、んじゃまたな」
ピッ
たまたま訪れていたSPW財団の目黒支部にて、大和田の一件の顛末を苗木より聞いた仗助は、フッと息を吐くと嬉しそうに微笑む。
「まったく、世話が焼ける弟分だぜアイツはよぉ~。…けど、これで良かったんだよな大亜。アイツは、自分で『進む道』を見つけた。もう俺たちが世話してやる必要はなくなったんだからよ…」
亡き親友に問いかけるように、仗助は空を見上げて呟く。
「『ダイヤモンド』だっていつかは壊れちまう。…けど、『とびきりブッ飛んだダイヤモンド』は…『クレイジー・ダイヤモンド』は砕けねえ。お前がかつてそう言ってくれたように、俺も、紋土も、砕けたりなんかしねえよ。だから…そっちに行くまで思う存分突っ走ってな、大亜…!」
ブォンブォン…ッ!!
仗助の言葉に応えるように、空のかなたからバイクが突っ走るような、そんな音が響き渡った。
これにて大和田編完!です。
これでやっと3人…霧切編を特別分厚くしたいからまだまだ大変だあ…。十神編にダンガンロンパ十神のエピソードを入れようかな…。あ、葉隠編はだいぶ薄くなりそうだから楽でいいけどね