ダンガンロンパ~黄金の言霊~   作:マイン

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今回はアイズオブヘブン編を投稿します
…他が書けてないからの場つなぎじゃないですよ?


特別番外編 アイズオブヘブン~完全なる敗北~

 一方その頃、希望ヶ峰学園では…

 

「…苗木君をワームホールに送り込むなんて、とうとう死にたいみたいですね左右田先輩…?」

 あっさりとバレていた。

 

「ま、待てッ!これは『合意』の上だ!だから俺は悪くないッ!!」

「左右田さんがこんな機械を作らなければ良かっただけですよね…?それとも、苗木君『も』悪いとでも言うんですか?」

「そ、それは…その…ほら!科学の発展にはなんちゃら~…って…な?」

「むくろちゃん、ナイフ貸してくれます?とびっきり『切れ味が悪い奴』を♡」

「ちょ…おま!何物騒なお願いして…」

「あるよ。私がフェンリルに入りたての頃から使ってる、『拷問用』のやつが…」

「お前もなにしれっと要求応えちゃってんだよ!え?俺何されんの?」

「あらあら~…聞かないと分からないんですか?」

「…い、嫌だーッ!助けてくれーッ!!」

 

 

「ま、舞園っち怖ぇ~…。目がイッちまってるべ…」

「ぼ、僕の気のせいかなぁ…?舞園さんの眼で、『黒い炎』が燃えてるように見えるよぉ…」

「あ、安心したまえ不二咲君。…僕にも見えているぞ」

「アイツが一番ギャングに染まっちまってやがるな…」

「本当にゴメンなさい皆さん。左右田さんがおバカなことに巻き込んでしまったみたいで…」

「フン。アイツが行くと言い出したのだろう?ならアイツの自業自得だ。イチイチ謝られるようなことじゃあない」

「まあ確かに…『ワームホール』などと聞けば『男のロマン』が小宇宙(コスモ)の如く燃え上がってしまう気持ちは理解できますからなぁ…」

「ハーッハッハ!流石は我が朋友だ!遥かなる次元を超えしゲートを創り上げるとは、それでこそこの田中眼蛇無の好敵手よッ!」

「その友が今にも殺されそうなのはいいのかよ…」

「左右田おにぃだからね~!残当?」

 

「………」

「…どうした?お前が何も言わないとは珍しいな?」

「…左右田さん、もう一度ワームホールを開くのには一時間かかるのよね?あとどれぐらいかかるのかしら?」

「え?えーと…あと10分ぐらいか?大体そんなもんだ」

「その時間を『短縮』させることはできないのね?」

「…生憎そいつは無理だ。こいつは俺も創ったはいいがまだまだ分からねえことばかりの代物だ。その分デリケートだから、下手に電圧を上げると過負荷でぶっ壊れるかもしれねえ。チャージが済むまでは待つしかねえよ」

「…そう」

「…どうしたの?響子ちゃんも待ち遠しいの?」

「というより…『焦って』いませんか?」

「…何か気になることでもあるのか?」

「気になる…程の物でもないんだけれど、…『胸騒ぎ』がするのよ。今誠君に、何か『大変な事』が起きているんじゃあないか、…そんな気がしてならないの」

「…霧の瞳の隠者よ、そう急いたところで運命の女神は微笑むとは限らんぞ」

「だ、大丈夫だよ!苗木君が強いのは、霧切さんが誰よりも知っているでしょ?彼ならきっと大丈夫!」

「とはいえ…『超高校級の探偵』の『勘』だからね。杞憂であってくれれば何よりだけど…」

「ええ…」

 この時、誰もが苗木の無事を信じていた。しかし、チャージ状態の『ワームホール発生装置』の沈黙が、彼らにはとても『不気味』に感じ、得も知れぬ不安を募らせていた。

 

 

 

 

 

 

 

 その頃、『平行世界』で行われている『親子喧嘩』は、形勢に変化が起き始めていた。

 

 

 

タタタタタッ…!

「…ッハァ…ハァ…」

「…どうした、苗木誠よ?先ほどまでの威勢は何処へ行った?」

「…煩いッ…!」

 倒壊した建物の陰に隠れ、通りを闊歩する『DIO』に悪態をついているのは『満身創痍』の苗木であった。

 

 何故このような展開になったのか…闘いが始まった直後まで遡る…。

 

 

 

 

 

 

 

「行くぞ…DIOッ!」

「来い、苗木誠ッ!」

 互いにスタンドを構えさせると、苗木とDIOは正面からぶつかり合った。

 

『フンッ!』

『オラァ!』

 同時に放たれた右ストレート、全くの同速で拳同士が衝突する。

 

「ほう…大した一撃だ。今の我が『ザ・ワールド・オーバーヘブン』に引けを取らんとはな…」

「感心しているとは…余裕だなッ!!」

 

『無駄ァッ!!』

『ムンッ!』

 隙を観て放たれた『G・E・R』の回し蹴りを、『ザ・ワールド・OH』が受け止める。怯むことなく苗木は更なる追撃を仕掛ける。

 

『無駄無駄無駄無駄ァッ!』

「ムッ!?」

 

チッ…

「…ラッシュの速さ比べか。イイだろう、乗ってやろう…」

 わずかに掠ったことにカチンと来たのか、『G・E・R』の連打に対抗心を燃やしたのか、DIOが間合いに入ると同時に、互いのスタンドは最速最強の連打を打ちはじめる。

 

『無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ッ!!』

『無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ッ!!』

 5メートルほど離れあった苗木とDIOの中心で行われる嵐のような拳のぶつかり合い。その衝撃は足元の雪を吹き飛ばし、拳が交錯するごとに舞う風圧で周囲の建物が崩れていく。しかし、そんな拳の『暴風雨(ストーム)』の中心にあっても、互いのスタンドは全く退かずにあった。

 

「…パワー、スピード。どちらもこの『ザ・ワールド・OH』と互角とはな。少々驚いたぞ。これほどのスタンドをよくぞ手中にしたものだ。流石は我が息子よ…」

「そりゃどうも…!」

(けど、これじゃ本当に埒が明かない…。やはり勝負は奴が『時を止めた瞬間』…!アイツは僕が『時が止まった空間』の中でも動けることを知らない…!アイツが良い気になって僕に近づいた瞬間…、そこに賭けるしかないッ!…だが、気になるのは奴のスタンドだ。承太郎さんから聞いた親父のスタンドは『ザ・ワールド』、…けれど今のアイツは『ザ・ワールド・オーバーヘブン』と言っていた。『オーバーヘブン』…奴自身も『天国に至った』とか言っていたが、一体どういう意味があるんだ…?)

「…しかし、そろそろ埒が明かんな。スタンドのスペックが互角だというのなら、我が『ザ・ワールド・OH』の『能力』を以て勝負をつけさせてもらおう!」

(ッ!来た…ッ!)

 承太郎から聞いていた『ザ・ワールド』の『能力』に備えるべく、苗木は安定した場所で迎え撃つため距離をとる。

 

(さあ来いッ…!時を止めて見ろ…!)

 

 

 しかし、苗木の思惑とは裏腹に…

 

「距離をとったか…何かを『予感』したか?ならば…試してみるがいいッ!」

 DIOは時を止めるようなそぶりを見せず、『ザ・ワールド・OH』の『両手』を突出し突っ込んできた。

 

「ッ!?」

(時を…止めないッ!?悟られた…?いや、そんな風でもないッ!…まさか、僕の『レクイエム』と同じように、奴の『ザ・ワールド』にも『新しい能力』が宿っているのか!?)

「死ねェッ!!」

(あの『両手』…!なにかヤバい…よく分からないが、何かヤバいぞッ!!)

「クッ!」

 触れられる寸でで身を捩って躱そうとする、が

 

「無駄ァッ!」

 

ボギィッ!

「ぐふッ!?」

 かろうじて『ザ・ワールド・OH』の腕からは逃れたが、避け切ったところにDIO自身の蹴りを叩きこまれ吹っ飛ばされる。

 

ドザザザッ!

「グッ…糞…!」

(しまった…今まで『人間』のスタンド使いばかりが相手だったけど、親父は『吸血鬼』…!親父自身も近接タイプのスタンド並の戦闘能力があるんだった…ッ!)

「隙ありだッ!」

 地面に叩きつけられ呻く苗木にDIOはあっという間に詰め寄ると、再び『ザ・ワールド・OH』の腕を突き出した。

 

「マズッ…!?」

 痛む体を押して転がってなんとか躱そうとするが…

 

チッ…

「しまった…!」

 躱しきれず、『左腕』に『ザ・ワールド・OH』の指が掠ってしまった。

 

(クソ…!一体、何が…!?)

 『スティッキー・フィンガーズ』、『パープル・ヘイズ』、『リトル・フィート』、『スパイス・ガール』、そして自身の『ゴールド・エクスペリエンス』。数々の『殴る、又は触れることで発動する能力』のスタンドを知っている苗木は、これから自分に起きる事態を冷静に判断し、DIOの能力を探ろうとする。

 

 

「…チッ、掠っただけか。俺にもジョナサンにも似ないそのヘナチョコな体の割にやるではないか。…だが、確かに『触れた』ぞ。この『ザ・ワールド・OH』がな」

 

しかし…

 

「今、貴様はほんの少しだが体感している筈だ。我がスタンドの『能力』をな…!」

 

 苗木を待ち受けていたのは、想像を超える『現象』であった。

 

 

「これ、は…!?なにも、『見えない』…。何も、『感じない』…?僕の『五感』が、機能していない…ッ!?」

 口に出して自己分析をしているものの、苗木には自分が何を言っているのかすら聞こえていなかった。今の苗木は、薄暗いもやがかかった世界に一人閉じ込められているような、そんな感覚の中にあった。

 

(一体どういうことだ…!?『感覚を奪う』のが奴の能力なのかッ!?…いや、違う。これはそんな生半可なものじゃあないッ!もっと、恐ろしい『何か』の片鱗のような…)

「…フン。今の『ザ・ワールド・OH』ではその程度が限界のようだな。やはりまだ『魂』のエネルギーが十分ではないようだ。だが…今はそれで十分だ」

(…ッ!奴が、来るッ…!見えもしない、聞こえもしない…でも『感じる』ッ!この『首の痣』が、奴の接近を教えてくれるッ!五感が効かなくても、奴との『血の繋がり』だけは感じている!)

「その血と魂…貰い受けるッ!」

「…!そこだァーッ!!」

『無駄ァッ!』

 失われた五感以外の『第六感』、己の『直感』に従い苗木は『G・E・R』を繰り出す。そしてその手刀は、紛れもなくDIOへと向けられていた。

 

「何ッ!?」

 まさか反撃してくるとは思わなかったDIOは反射的に身を捩るが、避けきれず手刀によって右腕が切り落とされる。

 

ドチャ…

「くっ…小賢しいマネをッ!」

 

バキィ!

「があッ!」

 腕を失ったことでバランスを崩したDIOは、追撃を避けるために空いた左足で苗木を蹴り飛ばし距離をとる。

 

「…よもや、反撃してくるとはな。流石はジョースターの血統…いや、どうも『俺の血統』の方が奴に味方したようだな」

 千切れた腕を拾い上げると、DIOは当然のようにそれを切断面に押し当てる。

 

ブォン…

「血の繋がりというのは、思ったより厄介なものだな…ム?」

 傷口に再び『歪み』が発生し、繋がった腕の調子を確かめながら苗木へと視線を向けるが、蹴っ飛ばしたと思った先には既に苗木の姿は無かった。

 

「逃げたか…五感が効かない身で良く動けるものだ。だが、奴が俺を感じる様に、俺もまた奴の存在を感じている…。奴はこの辺りのどこかに隠れているな……いいだろう!今度はじっくりと痛めつけ、もう抵抗などできなくしてから殺してやろう!」

 

 

 

 

 

 

 そして状況は現在、苗木がDIOから隠れている今へと繋がっている。

 

(…目が少しずつ見えてきた。耳はもう聴こえる…。問題は『触覚』だ。蹴りの威力からして骨の2~3本は折れていると思うけど、感覚が無いせいでどこを怪我しているのか分からない。下手に『ゴールド・E』で治療しようとすれば、加減が効かなくて過剰な生命エネルギーで自滅する恐れもある…!治療は後回しにするしかないか…)

「さて、どのあたりにいるのかな…?」

(くっ…。悔しいけど、今の親父には僕では勝てない…!今は逃げるしかない。幸い、もうすぐ『あの時間』だ、なんとか奴に見つからないように『あの場所』に戻ることができれば…)

 

 

 

 

ボゴォッ!!

「ッ!?」

 突如、苗木のすぐ真横の壁を突き破って、DIOの腕が伸びてくる。

 

「…ここかなぁ!?」

「糞ッ、バレたか…!」

 捕まる前に苗木はその場を離れ、『目的地』目掛けてスタンドのパワーを借りて跳躍する。

 

「逃がすかッ!」

 それを見たDIOも苗木を追って跳び上がり、もはや『飛翔』と言わんばかりのスピードで苗木の後を追う。

 

「チィ…!親父の方が若干早い…、このままじゃ追いつかれる…!…やむを得ない、これしかないかッ!」

 『苦肉の策』を選択した苗木は高度を下げ、『目的地』の若干手前で着地する。

 

「諦めたかッ!ここまでだ苗木誠ッ!」

「…誰がッ!」

 後ろから接近するDIOに振り返ると、苗木はポケットから『ライフル銃の銃弾』を取り出す。

 

「仗助さんの真似だが…くらえッ!」

『無駄ァッ!』

 

ドギュン!

 『G・E・R』の手にそれをセットすると、『コイン弾き』の要領でそれをDIOの頭めがけて撃ち出す。承太郎や仗助が得意とする『ベアリング弾』戦術である。

 

「ムッ!?」

 高速で接近し合うDIOと銃弾。並の人間であればどれほど強力なスタンドを以てしても躱しきれないであろう。…『並の人間』であれば、だが。

 

「小賢しいッ!」

 人間を遥かに超える動体視力を持つDIOは即座にそれの存在を察知し、銃弾が命中する寸前でスタンドを呼び出す。

 

「『ザ・ワールド・OH』!」

『無駄ァッ!』

 気合と共に拳が振るわれると、拳が銃弾に当たった瞬間…ほんの一瞬であるがまた『歪み』が発生し、次の瞬間には銃弾は掻き消えていた。

 

(…ッ!?い、今…確かに視えたぞ!奴のスタンド能力の『正体』の一片が…!)

「悪あがきを…!だが、所詮は無駄な努力だったな!」

 驚く苗木にDIOはスピードを落とさず接近し、あっという間に間合いを詰める。

 

「しまっ…!?」

「これで止めだ、苗木誠ぉッ!!」

 飛び掛かったスピードそのまま、DIOは苗木を思い切り殴り飛ばした。

 

「がっ…!?」

 咄嗟に腕を交叉してガードしたものの、それがどうしたと言わんばかりのパワーで殴られた苗木は、両腕とその奥の肋骨から『イヤな音』がするのを聞きながらそのまま『後方』に吹き飛ばされる。

 

「これで『チェックメイト』だ。もう逃げることは…」

 手ごたえを感じたDIOが勝ち誇ったその先で、

 

「…かかったな、DIOッ…!これは僕の、『計算通り』だッ!」

 苗木『も』そんなDIOに勝ち誇った笑みを浮かべる。

 

「何……ッ!?」

 その言葉に訝しげな顔をしたその瞬間、DIOは目撃する。苗木は吹っ飛んでいく方向の先に、突然『黒い渦』のようなものが発生したのを。

 

「なんだ、アレは…!?」

「流石左右田さん…、時間ピッタリだ。…クソ親父ッ!今は僕の負けだッ!だが、アンタは必ず僕が斃すッ!」

 吹き飛ばされながらそう言い残すと、苗木はそのまま『黒い渦』…『ワームホール』の中に突っ込まれ、それと同時にワームホールは消失していった。

 

 

「……」

 一人残されたDIOは、苗木が消えたワームホールのあった場所までやって来る。

 

「…もうなんの違和感もない。どうやら完全に消えてしまったようだな。奴が何の迷いもなく飛び込んだところを見るに、今のが奴がこの世界にやって来た方法のようだな…」

 心底残念そうにそう呟くが、やがて再び笑みを浮かべると消えた苗木に向かって叫ぶ。

 

「…いいだろう!我が息子よ、今は束の間の安息を楽しむがいい!…だがッ!忘れるなよ、貴様に流れる『ジョースターの血』、そしてこの『俺の血』がある限り、貴様はこのDIOから逃れることは出来んのだッ!いつかまた、貴様と俺は再び巡りあうであろう。貴様がこの俺を倒すというのなら、その時までにこの俺を越える『真実』を手にしておくことだな!…フフフ、フハハハハハハッ!!」

 再び静寂を取り戻した荒廃の街に、DIOの高笑いがいつまでも響き渡っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 一方その頃、希望ヶ峰学園ではチャージが済んだ『ワームホール発生装置』を左右田が再起動させていた。

 

「よーし、これで…起動ゥッ!」

 

バジッ…ジジジジ…ギュワァァァァ…!

 左右田がスイッチを入れると同時に、再びワームホールが発生する。

 

「わ、わわッ!ほ、ホントにできた!」

「こ、これがワームホール…ッ!まさか、生きているうちにお目にかかることができるととは…」

「…それで、苗木君は?」

「焦んなって。多分向こうの出口辺りで待ってるだろうから、そろそろこっちに戻って…」

 そう言いながらワームホールの中を覗きこもうとした時

 

 

 

 

ズオッ!!

「うおッ!?」

 ワームホールの向こうから突如苗木が吹っ飛ばされながら飛び出してきた。

 

ドガッ!

「ぐあッ…!」

 苗木はそのまま部屋の壁に激突し、うめき声を上げながら床に崩れ落ちる。それと同時に、ワームホールも徐々に小さくなりやがて消えていった。

 

「お…おい!苗木、今モロにぶつかったぞ!?」

「ず、随分荒っぽい戻り方だな…」

「…おかしいぜ。俺が手を突っ込んだ時にはこんな風にはならなかったのに…?」

「な、苗木君!だいじょうぶですか…」

 壁に叩きつけられた苗木に、舞園が心配そうに駆け寄ると

 

「…ゴハッ!」

 

ビチャ…ッ!

「…え?」

 その舞園の眼前で、苗木は多量の吐血をした。

 

「な、苗木君ッ!?どうしたんですか!?」

「…左右田さん、これはどういうことかしら…ッ?」

「し、知らねえよッ!向こうの事は俺にもさっぱりで…」

「…な、なあ。俺の見間違いかな…?」

「あ?どうした?」

「苗木っちの『腕』よ…なんで『掌が外に向いている』んだ?」

「…え?」

 葉隠の指摘に恐る恐る苗木の腕を見てみると…

 

 

 

 

 苗木の両腕は二の腕辺りから捻じれ曲がる様に折れており、手のひらが本来向くはずのない方向に曲がっていた。

 それだけではない。腕だけではなく苗木の身体はあちこちに傷ができており、はたから見ても満身創痍であることは見て取れた。

 

「…う、うわあああッ!?」

「こ、こんな…酷いッ…!」

「ひゃあああッ!?た、大変ですぅ~ッ!」

「苗木ッ!どうしたの、ねえ…返事してよッ!」

「苗木君…!お願い、目を開けて…!」

「…誠君ッ!」

 皆が必死に呼びかけると、やがて苗木がかすかに目を開ける。

 

「…みん、な…?ここ、は…?」

「…苗木君ッ!」

「おおっ!気が付いたぞッ!」

「安心しろ、苗木。ここは学園だ、お前は戻って来たんだよッ!」

「…そ、うか…、よかった…」

「…誠君、一体あなたに何が有ったの…!?」

「…ぼ、くは…そ…だ……むこ…は……おや、じ…」

「…!?」

 そこまで言って、苗木は糸が切れた人形のように再び意識を失う。

 

「お、おい苗木ッ!?」

「…だ、大丈夫ですぅ。気を失っただけみたいです…。でも、はやく手当をしないと…」

「…そんな悠長なことは言ってられないわ」

「き、霧切ちゃん?」

「罪木さん、誠君をすぐに医務室に連れて行って目が覚めないように『麻酔』をしてください」

「ま、麻酔ぃ?」

「今の誠君は両腕が複雑骨折しているのよ。しかも吐血したところから見て、内臓系にもダメージがあるわ。もし目を覚ましたら激痛でまた苦しむことになるわ…。それを避ける為よ」

「わ、分かりましたぁ!」

「よ、よし!俺も手伝うぜ、担架とってくる!」

「ワシもじゃ!」

「こ、こっちですぅ!」

 苗木を安静に運ぶため、大和田と弐大が罪木の案内の下医務室へと走る。

 

「…でも、いくら罪木でも流石に一人でこんな怪我の治療は難しいんじゃあねえか?」

「確かにな…『超高校級の保険委員』といえど所詮は『保険委員』だ。よし、十神財閥のお抱えの医師を呼んでやろう…」

「言ったでしょ?そんな『悠長』なことはしてられないって…」

「…ど、どういうことですかな?」

 首を傾げる一同を尻目に、霧切は携帯を取り出すとどこかへ電話をかける。

 

トゥルルルル…トゥルルルル…

「…もしもし、東方さんですか?私です、霧切です」

「東方さん…?…あッ!そういうことですか!」

「そういうことよ。…今お時間よろしいですか?至急希望ヶ峰学園に来て欲しいんです。……誠君が、重傷を負って意識不明です。…ええ、ではお願いします」

「…どういうことだ?」

「東方さんのスタンド、『クレイジー・ダイヤモンド』は『触れたものを治す』ことができるんです。それなら苗木君をすぐに治してあげることができます!…あれ?でも響子ちゃん、東方さんって杜王町に住んでるはずじゃ…」

「先日誠君から今東京に来ていることを聞いていたのよ。お忙しい所を呼び出すのは気が引けるけど…この際手段は選んでいられないわ。それと左右田さん、そのワームホール発生装置だけど、誰も触れられないようにしておいてもらえます?」

「あ?な、なんでだよ?」

「なんでもなにも、苗木がこんな目に遭っているのにそんなものを放っておけるわけないでしょ!」

「それもあるけど…私の聞き間違いでなければ、もしまたあのワームホールが開けば、きっととんでもないことになると思うの」

「聞き間違い…苗木が何か言ったのか?」

「…誠君が気を失う前に言い残した言葉。掠れそうなほどの弱い声だったけど、私には確かに聞こえたわ。…『向こうには、親父が』…とね」

「ッ!?」

「親父、って…」

「お父様…のことじゃないよね?」

「つーか、苗木が『親父』なんて呼ぶの一人しかいねーだろ?」

 江ノ島の言葉に頷くと、霧切はその名を重々しく呟く。

 

 

「…『DIO』…!誠君をこんな目に遭わせたのは、紛れもなくその男よ…ッ!」

 

 

 

 

 

 

 数十分後、大急ぎで駆け付けた仗助により、苗木の身体は瞬く間に元通りとなった。

 

「…ふう、これでもう大丈夫だぜ。その内目を覚ますだろ」

「す、凄い…。あの大怪我が、一瞬で治っちゃった…」

「これが兄貴が言ってた『クレイジー・ダイヤモンド』…!仗助さんマジスゲエっすよ!」

「にしても…こう言っちゃ失礼ですけど…」

「見た目に似合わず優しい能力だねー?」

「ハッハッハ、よく言われるよ…」

「……う…」

 やがて、小さな呻き声と共に苗木は目を覚ました。

 

「おっ!目を覚ましたぜ!」

「苗木君ッ!大丈夫ですか!?」

「ここ、は…?」

「学園の医務室よ。ワームホールの向こうから大怪我をして帰って来たあなたをここへ運んだの。それで、ついさっき東方さんに治してもらったのよ」

「そう、でしたか…。ありがとうございます、仗助さん」

「気にすんなって、これぐらい朝飯前だからよ。…にしても、お前がここまでやられるとはな」

「ええ…」

「…それが、『DIO』って奴の力なのか?」

「ッ!仗助さん、何故それを…?」

「霧切の嬢ちゃんに教えて貰ったんだよ」

「ごめんなさい…。誠君が気を失う前に『親父』って言ったのを聞いてて…もしかしてと思ったのだけど…」

「…いや、その通りだよ。僕はあのワームホールの向こうで、親父と…『DIO』と闘った」

「…だが解せんな。お前の父親は空条承太郎に倒されたのだろう?それがなぜワームホールとやらの向こうに居たのだ?」

「あのワームホールは、どうやら『平行世界』…『パラレルワールド』に繋がってたみたいなんだ。だからあの親父は、僕の知る親父とは『同一人物であって別人』…そういうことなんだと思う」

「…???」

「な、何が何やら…」

「さっぱりだべ!」

「簡単に言えば、あのワームホールの向こうでは『この世界とは違う歴史』が流れているのさ。けど、どうやらあの世界とこっちの世界はかなり近い関係にあるみたいで、親父だけじゃなくジョースターさんや承太郎さんも向こうに居たみたいなんだ」

「…あれ?空条さんがいるんだったら、DIOもやっつけられちゃうんじゃないの?」

「ならば、後のことは向こうの空条殿が片付けてくれるのではないか?」

「…それは、できないんだ」

「え?」

「向こうの世界では…ジョースターさんも、承太郎さんも…それだけじゃない。仗助さんもホリィさんも、…多分徐倫ちゃんや向こうの世界の僕も、全てDIOに殺されてしまった…ッ!もう向こうには、『ジョースター家』の血縁は誰一人として残ってはいないんだッ!」

「!?なッ…!?」

 その言葉に一番動揺したのは、やはり仗助と日向であった。

 

「あっ!あり得ねえッ!承太郎さんが、無敵の『スタープラチナ』が負けるなんてッ!…つーか、俺まで死んでるってどういうこったよッ!?」

「一体、向こうの世界で何が有ったんだ…!?苗木、お前なにか知らないのか?」

「…関係があるとすれば、親父のスタンドが…というより、『親父そのもの』が僕の知っているそれと異なっていたことだろうね」

「異なる…?」

「僕の知っている親父は、空条さんから聞いた情報と、この写真に写っている姿だけなんだけど…」

 苗木が懐のパスケースから取り出したのは、かつて母がDIOに襲われた際に置いて行ったというDIOの顔写真であった。

 

「あ、そういえば初めて見るや苗木のホントのお父さん。…へぇ~、こんな顔なんだ」

「うん、それが僕の知っている親父だった。…けど、向こうで会った親父は、全く別の姿に変わってしまっていたんだ」

「…それが、こちらの世界と向こうの世界の『分岐点』になったと、誠君は思っているの?」

「ああ…。奴は自分の事を、『天国に到達した』とか言っていた…。意味は分からないが、おそらくその『天国』とやらがキーになるだろう」

「天国ぅ?…いっぺん死んだってことか?」

「だとすれば…一度死んでから蘇るなど、まるでキリストのようではないか…ッ!」

「いやいや…、流石にそれはねえだろ…」

「…本当にそうかは分からないけど、その影響なのか親父のスタンド…『ザ・ワールド』も『ザ・ワールド・オーバーヘブン』と名を変えて…いや、『進化』して能力も変化していた」

「進化って…康一の『エコーズ』とかお前の『レクイエム』みたいにか?」

「康一さんのとは少し違います。康一さんのは『進化』というより『成長』ですから。どちらかといえば、僕の『レクイエム』に近いかもしれません」

「…で、どんな能力だったんだ?」

「…僕は、奴の能力をほんのちょっとしか体感しなかった。多分奴の本当の能力はあんなものじゃないと思うんだけど…奴のスタンドに触れた瞬間、僕の『五感が失われた』んだ」

「ご、五感を失っただとッ!?」

「うん。どういう理屈かは分からなかったけど、『ザ・ワールド・OH』に触れられてからしばらくの間僕はまるで真っ暗な闇の中に閉じ込められたような感覚を味わった。しかも、狛枝さんの時のように、僕への攻撃に対して常に発動していた『レクエイム』の力も一切効果を示さなかったんだ。…本当に、手も足も出なかった」

「…成程な。詳しいことはわかんねーけど、要するにDIOの能力がパワーアップしていたせいで、承太郎さんとジョースターさんは負けちまったってことか。…承太郎さんから聞いた話だが、俺がガキの頃に高熱で死にかけたのはそのDIOのせいだって言ってたな。だから俺も、そのせいで死んじまったってことかよ…」

「…大変、だったんですね」

「まあね…」

「しっかし…正直なとこ悪いけど、別の世界のことで良かったべ。もしこっちの世界のDIOがそんなんになってたら、俺達だってヤバかったかもしれねえしなあ…」

「葉隠君、その物言いは感心できないぞ!例え別の世界であろうと、そこにいる人間が傷つき亡くなっているのだぞ!」

「…けど、実際あいつの力は想像以上だった。現に向こうの世界は、奴がジョースター家を滅ぼす『ついで』とかで完全に崩壊していたからね…」

「ま、マジかよ…!?」

「とんでもないですわね、苗木君のお父さんは…」

 苗木の口から語られる向こうの世界のDIOの化け物ぶりに、皆も驚く以外の言葉を口にできずにいた。

 

「…とはいえ、負けたままで終わるつもりはさらさらないけどね」

「え?」

「左右田さん、例のワームホール発生装置ってどうなりました?」

「あ、あれか?あれは霧切に頼まれて開発室の奥に封印しといたけど…」

「…じゃあ左右田さん。それを『何時でも起動できる状態』にしておいてまた仕舞っておいてもらえますか?」

「な、苗木?」

「そりゃ別にいいけどよ…お前、何するつもりだよ?」

「無論、リベンジです。…最も、今じゃないですけど」

「リベンジって…また向こうに行くつもりなんですかッ!?」

「だ、駄目だよッ!今度こそ殺されちゃうって!」

「そういう訳にもいかないんだ。別の世界とはいえ、僕の父親の不始末だ。向こうのジョースターさんたちの為にも、奴は僕の手で倒さなくてはならない…!でなければ、もっととんでもないことになる気がしてならないんだ…」

「…勝算はあるの?」

「それは…正直わからない。けど、今の僕にできるのは『レクイエム』の力をより使いこなす様にすることだけだ。例え何年かかってでもこの力を完全に使いこなして…いや、スタンドだけじゃない。僕自身ももっと強くなって、必ず親父を倒す。それが、僕の『最後の闘い』になる…そう思うんだ」

 力強く宣言する苗木。彼と付き合いの長い面々はその言葉に悟ってしまった。『止めるだけ無駄』だと…

 

「……」

「…?響子…」

 

ギュウッ!

「!?あ痛だだだだだッ!?」

 霧切が苗木の頬を無言で抓りあげる。

 

「…まったく、つくづく言っても聞かない頑固者ね貴方は。今回は今までとは訳が違うのよ?本当に死ぬかもしれないのよ?」

「…し、死なないさ。響子たちを置いて死ぬなんて真似は、絶対にしない…痛たた!」

「…だそうよ。あなた達はどうするの?」

「…もういいですよ。苗木君がこう決めたら聞かないのは知ってますし、実際私はそれで救われてますから、止めるつもりはありませんよ」

「それに!苗木はこういう時は絶対に『嘘をつかない』もんね!」

「私は…苗木君の意見を尊重する」

「…そう言うと思ったわ」

 

パッ

「あ痛たた…久しぶりに痛かったなあ…」

「これからかける心配の前倒しだと思いなさい。…貴方のそういうところは私たちももう分かっているわ。それに、そういうところを込みで貴方を好きになったのだしね。だから、もう止めはしないわ。思う存分けじめをつけてきなさい」

「あ、ありがとう…」

「…でも約束して。絶対に『生きて戻ってくる』って。DIOとの闘いで何があっても、必ず私たちのところに戻ってきて頂戴。それが、たった一つの『条件』よ」

「…当然だ。僕は必ず生きてケリをつけてくる。僕の『戻る場所』は、皆のいるここだけなんだから…」

「…うん」

「はい!」

「うんうん!」

「…そうね」

 

 

 

 

 

「……ッこいつら、人前で堂々とイチャつくんじゃあねーッ!!嫌味かコノヤローッ!!」

「引っ込んでてください『負け犬』ッ!」

「!?そ、ソニアさん…その負け犬って、もしかして俺の事…?」

「それ以外に誰が居るってんだ?」

「言っとくけど、今回だけはフォローできないわよ。全部が全部悪いとは言わないけど、アンタには一応この騒動の責任の一端があるんだからね」

「犬は犬らしく遠吠えしてたらー?それとも田中に『調教』してもらうー?」

「じょ、冗談じゃあねえ!どうせ調教されるならソニアさんのほうが…」

「………」

「…ざ、残酷な眼だッ!まるで養豚所のブタを見て『可哀想に明日にはお肉として出荷されてしまうのね』とでもいうような、そんな冷徹な眼だ…ッ!…でも、それがイイッ!!」

「…オレ、こいつとの友達づきあい考え直そうかな…」

 

 

 

 

 

 苗木とDIOの親子喧嘩の初戦は、『苗木の敗北』で幕を閉じた。しかし、両者には確かな『予感』があった。いずれ再び、決着をつける時が来るということを…

 

 

 

 そしてそれは、その日から『1ヵ月後』に思いもよらぬ『来客』と共に訪れることとなる。

 

 

 

 『聖なる遺体』とそれを追う者達の来訪によって…

 




今のDIOの能力はゲームでの技をそのまま劣化版の能力として使用してみました
次回からアイズオブヘブン編も本筋入りですが、これはifストーリーなので次回からは本編のネタバレになる内容も含んできますのでこっちの更新はゆっくりめにさせてもらいます

あ、あと苗木君の誕生日もバレンタインデーも特別ネタが無かったので100記念にアホ話もおまけしておきましたのでよかったらどうぞ
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