驚愕の入学式が終わり、一旦自由となった生徒たちは状況整理の為に寄宿舎にある食堂へと集合し、互いの自己紹介も含めた今後の対策会議を行っていた。
「さて諸君!こうして自己紹介も済んだことだし、これからの事について話し合おうではないか!」
食堂の長テーブルに座る面々に立ち上がってそう促すのは、『超高校級の風紀委員』こと石丸清多夏だ。
「…そうは言われましても石丸清多夏殿…」
「これからことつったって、自力じゃあどうしようもねえのはさっき分かったばっかじゃねえか」
控えめに言ったのは『超高校級の同人作家』こと山田一二三、やや投げやり気にそう言ったのは先ほどリーゼントを燃やされた『超高校級の暴走族』大和田紋土である。
「けど、本当にどこも開いてないんだよね…」
「我の力をもってしても、あの鉄板を壊すことはできなかった。物理的な方法での脱出は不可能であろう」
「それに階段とか風呂みてえなとこもシャッター降りてて入れねえしよ」
「つーかお風呂入れないとかマジ最悪なんですけど!」
口々にそういうのは、上から『超高校級のスイマー』の朝日奈葵、『超高校級の格闘家』大神さくら(ちなみにれっきとした女性である)、『超高校級の野球選手』桑田怜音、『超高校級のギャル』こと江ノ島盾子である。
「そ、それぐらいシャワーで我慢しなさいよ!わ、私なんか三日も碌にシャワーに…」
「えっと、シャワーぐらいはきちんと浴びた方がいいよ…」
「そういう問題ではないと思うのですが…」
「つーか皆考え過ぎだべ?きっとこれもなんかのイベントなんだからもっと気楽に行くべ!」
それに対し若干ズレたコメントをするのが、『超高校級の文学少女』腐川冬子、『超高校級のプログラマー』の不二咲千尋、『超高校級のギャンブラー』であるセレスティア・ルーデンベルグ、そして『超高校級の占い師』葉隠康比呂である。
「フン、低能な会話だ。盗み見している奴に笑われてなければいいがな」
「……フゥ」
そんな光景を見ながら嫌味な台詞を言うのは『超高校級の御曹司』十神白夜、なにやら考え込みながら小さなため息をつくのは素性不明の少女、霧切響子である。
皆現状やモノクマの話した内容に不満を持っているのは確かではあったが、お互いの事をよく知らないせいもあってか会話に纏まりもなくただ口々に言い合うだけであった。
一方、先ほど鮮烈な宣戦布告をした苗木誠はというと
「……」
そんな彼らの喧騒を余所に、なにやら神妙な面持ちで考え込んでいた。そして、そんな彼に違和感を抱く人物がいた。
(苗木君どうしたんでしょう…?いつもだったらこんな時仲裁に入ったりするのに、ずっと俯いてばっかり。なにか考えごとでもしてるのでしょうか?)
この中で唯一苗木と面識のある舞園さやかである。短いながらも中学校を同じクラスで過ごした彼女は、苗木誠という人物をよく知っており、彼がこの喧騒のなか一人我関せずの姿勢を貫くことに疑問を抱いていた。そして思いのほか行動力のある彼女は、思い切って苗木に聞いてみることにした。
「…苗木君?どうしたんですか?」
「!…ああ、舞園さん。ごめん、ちょっと考え事しててさ」
「考えごと…ですか」
「うん…。ちょっと突拍子もないことなんだけどね」
「…よかったら聞かせてもらっていいですか?私こういう場で何言ったら良いか分かんなくて何もできないんですよ」
「いいけど……」
苗木は周りをちらりと見渡し、誰もこちらを見ていないのを確認すると舞園に顔を寄せ囁くように言う。
「舞園さん…あのモノクマの正体、黒幕が僕らの知り合いかもしれないって言ったら、信じる?」
「…ええっ!?」
軽い気持ちで聞いたつもりが想像以上の内容に、思わず声を上げる舞園。それは、先ほどまで騒いでいた生徒たちの注目を集めるのに十分なものであった。
「ど、どうしたんだ舞園君?そんな大声を出して…」
「えっ!?いや、その、な、何でもないですよ!」
「…もしかして苗木君が何か言ったのですか?」
余りにも挙動不審な舞園の態度に、皆の視線が彼女、そして必然隣にいる苗木にも向けられる。
「苗木誠殿!内緒話なんて水臭いですぞ!我々にも聞かせてくだされ!」
「いや、でもこれは…」
「私も是非聞かせてもらいたいわね」
言いよどむ苗木に、今まで会話に参加しなかった霧切が詰め寄る。
「あなたのその考えは、秘密にしておいて良いものではないわ」
「…霧切さん、もしかして聞いてた?」
「馬鹿か貴様。あれだけ派手な宣戦布告をする奴が、注目されてないとでも思っていたのか?」
十神の言葉に周りを見れば、セレスや大神、そして大和田に江ノ島までもが明らかに周りより真剣な表情で苗木を見ている。どうやら思っていた以上に見られていたことに小さくため息をつくと、苗木は表情を改めて全員に向き直って話し出す。
「…さっきも言ったけど、あのモノクマ…僕たちをここに閉じ込めた犯人は、僕ら全員と面識がある、あるいは一方的にかなり知り尽くしている人物だと思うんだ」
「…な、なんだってぇぇ!!!」
苗木の口から語られる仮説に、初めて聞く面々はもちろん、こっそり聞いていた彼らも改めて驚きの表情を見せる。
「…どうしてそう思うの?」
ポカンとする皆を余所に、平然とする霧切が苗木に問いかける。
「まず不審に思ったのは、閉じ込められたタイミングだ」
「…タイミングだと?」
「僕らがここに閉じ込められた日、つまり今日は希望ヶ峰学園の入学式だ。希望ヶ峰学園の情報は基本的には公開されていない。このタイミングで希望ヶ峰学園を閉鎖したのは、偶然にしてはできすぎている。つまり、犯人は僕ら全員がここに集まることを知っていた人物ということになる」
「で、でもさ!私家族とか友達とか、知り合いにここに入学すること話したよ!…ホントは駄目だって言われたけど」
「そうなると我々の個人的な知り合いも容疑者に含まれるのではないですかな?それにネットでは色々と噂も立っていましたし」
「うん、確かにこれだけでは絞れない。そこで二つ目の疑問、学園の封鎖の仕方だ」
「封鎖の…仕方?」
「学園の窓や玄関などに打ち付けられている鉄板は、大神さんでも傷一つつけられないぐらい頑丈なものだ。それに、プログラムに詳しい不二咲さんを警戒してか学園の電子機器はすべてアクセス不可能なものばかりだ。それがあるべき場所も、全て封鎖されている。黒幕がどれだけ用心深い人物でも、個人レベルで用意するには相当金が必要だし知りもしない新入生を警戒するにしては度が過ぎている。そうなると、黒幕は僕ら全員の情報をある程度知っている人物ということになる」
「な、成程…」
「…ですが、まだ決定的とはいえませんわね」
「だが苗木よ。それだけではないのだろう?」
「まあ、ね。最後…といっても、これが一番曖昧な疑問なんだけど、モノクマの口ぶりや態度が気になってね」
「モノクマの…?」
「あいつの言動や態度、どうもその場の思いつきで話しているにしては計画的すぎると思ったんだ。さっきだって、大和田君みたいな人にあれだけ詰め寄られたらたとえぬいぐるみでも普通なら少しでも腰が引けたり感情的になったりしてもおかしくないのに、あいつは平然と挑発して大和田君が怒りだすのを見払ったかのようにモノクマを爆発させた。…まるでこの一連の流れを見越していたかのようにね」
「…つまり黒幕は俺たちの性格や行動まで把握していたということか?」
「…まあ僕の個人的に感じたことだし、黒幕が想像以上に頭の切れる奴や度胸のある奴だけかもしれないけどね。けど、もしこの仮説通りだとするならおそらく…」
苗木は一旦そこで言葉を切り、改めて口を開く。
「…これらの条件を満たす黒幕の可能性は二つ。僕らと面識のある希望ヶ峰学園の関係者か、あるいはそういう人物から僕らに関する情報を手に入れた人物、ということになる」
「………」
苗木より語られた仮説に、一同は唖然とした表情を浮かべる。そんな中で、霧切だけが眉をひそませ考え込んでいた。
「…その様子だと、霧切さんもここまでは分かっていたみたいだね」
「!…ええ。私もこれだけ用意周到な監禁を行えるということは、黒幕は学園の関係者かもしれないとは考えていたわ。そうだとすれば、警察や政府にもある程度のごまかしができるでしょうしね…流石にモノクマの態度にまでは気が付かなかったけど」
「ああ、あれは偶々そういう風に思っただけで…」
「…フン。盛り上がっている所を悪いが、まだそうと決まったわけではないだろう。証拠もないのに決めつけるのは、些か気が早いんじゃあないか?」
「なになに?なんの話?ボクにも聞かせてよ!」
突如として発された聞きなれない、しかし忘れがたい声に全員がその方向を向くと、事の元凶であるモノクマ本人が何食わぬ顔でテーブルの上に立っていた。
「どえええ!?」
「あ、あんた一体どこから…!?」
「まあまあそんなことは置いといて。苗木君、面白い推理をするね!ボクがオマエラと知り合い?学園の関係者?…うぷぷぷ、ぶひゃひゃひゃ!なんでそんな結論になったんだろうね!おかしくって、笑いが止まらないよぶひゃひゃひゃ!」
馬鹿笑いするモノクマの態度に、仮説が否定されたと感じた一同は落胆の表情を見せる。
「ぶひゃひゃひゃ……まあ正解なんだけどね」
馬鹿笑いから一転、素に戻ったモノクマの言葉に一同は再び驚愕する。
「そ!ボクはオマエラと会ったことがあるのだ!だからオマエラのことはよーく知ってるよ!性格とか、好き嫌いとか、スリーサイズまで丸わかりなのだ!」
「な…!で、では苗木君が言っていたことは本当なのかぁー!!?」
「だ、誰なんだテメエ!俺のダチにこんなふざけたことをする奴は居ねえぞ!」
「さあ?そこまで言ったらネタバレになっちゃうからね。精々オマエラのその足りない脳みそ雑巾みたいに絞って考えてみなよ。…………それよりさぁ…」
と、モノクマが何か言い出そうとしたその時、
キーンコーンカーンコーン
「…おっと、いけないいけない」
突然のチャイムと共に、どこかへと走り去っていくモノクマ。それを訝しげに見送っていると、今まで真っ暗だったモニターに先ほどいなくなったモノクマが映る。
『えー、10時です。消灯時間になりました!まもなく食堂は施錠されますので、皆さん速やかに自室へ戻りましょう!』
モノクマより告げられし内容。言っていることは理解できるし正論ではあるのだが、タイミングと格好をつけて持っているワイングラスのせいか悪意としか感じられなかった。
「…消灯時間ならば仕方ない。この続きはまた明日にしよう!」
「確かに少し疲れましたわ。では今日はここでお開きとしましょう」
石丸とセレスの言葉に、不満はあったものの下手にモノクマに逆らえば体育館のような危険に晒される恐れがあるので、皆渋々部屋へと戻っていった。
その日の深夜、自室にいた霧切響子は未だ眠ることなくベッドに腰掛けて今日の出来事と情報を頭の中で整理していた。
「…何故、私はここにいるのかしら。思い出そうとしても、何も分からない。ここにいる理由も、自分の事も。ただ、自然とこの事件の犯人を捜そうとしている。…それが、私の記憶につながるのかしら…?」
霧切響子は、記憶喪失であった。他の生徒たちのように気が付いたらここにいたというだけでなく、苗木のように断片的に記憶を失ったわけでなく、自分自身の正体すらも忘れていた。自分の中にあるのは、目の前で起きている事件の謎を解くという無意識の信念のみ。それが今の霧切であった。
「苗木君には感謝ね。彼が私が考えていたことをうまく話してくれたおかげで、効率よく情報の共有ができたし、その分私も推理に集中できた。…けど、あれだけの推理ができるのに、何故誰も知らないのかしら、噂ぐらいにはなってもいいはずなのに………?」
とそこで、外の様子を探るためあえて半開きにしていたドアの外から、何やら足音のような物音が聞こえた。
「…誰かしら?こんな時間に」
こんな時間まで起きている自分も大概だが、出歩くのは増々怪しいものである。不審に思った霧切が気配を悟られぬようこっそりと外を伺う。足音の主は今にも寄宿舎を出ようとしていたが、夜目の利く霧切には体格と身のこなし、そして服についた特徴的なアクセサリーでその正体が分かった。
「………苗木君?」
苗木誠は誰もいない深夜の校舎を走っていた。別に緊張して眠れないとか、そんなちゃちな理由では無く。
(大神さんが試した通り、玄関の扉はともかく窓の鉄板は人の力ではどうしようもない。ならば、人以外の力ならどうだ…?)
そんなことを考えながら苗木がやってきたのは体育館であった。何故ここを選んだかといえば、体育館は他の教室に比べ広さの割にカメラの数が少ない場所、つまり黒幕の監視の穴をつける死角と成りゆる場所があるからであった。無論入ってくるところまでは隠せないが、こっそり調べなおしていたとでも言えば多少のごまかしは利くであろうとの算段であった。
「…ここでいいか」
そう言って立ち止まったのは観覧席上段の窓の鉄板。多少目にはつくだろうがカメラで見える範囲のギリギリで、なおかつ今からやろうとしていることは碌にカメラにも映らないであろう。
そして苗木は一呼吸置き、その名を呼ぶ。
「『ゴールド・エクスペリエンス』!」
呼び声と共に苗木の背後に現れたのは、金色の肉体を持つ苗木誠の分身であるスタンド、『ゴールド・エクスペリエンス』である。『ゴールド・E』は現れると、苗木の前にある鉄板に向き直り、拳を振り上げ叫びと共に振り下ろす。
『無駄ァ!』
鈍い金属音が響き、鉄板全体がかすかに震える。しかし鉄板に傷は無い。『ゴールド・E』は怯むことなくさらに拳の突き(ラッシュ)を叩きこむ。
『無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァ!!!!!』
ラッシュ!ラッシュ!ラッシュ!!
普通の人間やカメラのような機械的な視界から見れば、苗木がただ突っ立っていてその前にある鉄板より異音がするようにしか見えないだろう。しかし苗木の眼には、自分の指示する『ゴールド・E』が人間離れしたスピードでパンチを叩きこんでいるのが見えていた。
『ゴールド・E』のパワーは常人より少し強い程度、といっても大神と同等程度にはあるが、同じ近接パワー型のスタンドの中では非力な部類である。しかし、そのスピードはかの『スタープラチナ』や『シルバー・チャリオッツ』にも匹敵するものがあり、例えパワーが低くとも高速で拳を打ち込むことでその破壊力を高めており、その一撃は自動車の車体ぐらいなら軽く砕くほどの威力がある。それほどのパンチを数百発近く叩き込まれれば、大抵のものは破壊できる筈であった。が、
「…!くっ、流石に簡単には壊れてくれないか」
それでも分厚い鉄板は揺るがない。多少の拳の跡や僅かなへこみはできたものの、この調子で殴り続けた所で朝になっても大した変化はないだろう。まして、モノクマに感づかれて新しい鉄板に変えられようものなら骨折り損である。
「…だったら…!」
しかし、苗木の策はただ殴るだけで終わりはしない。今度は鉄板にもっと近づき、両手で鉄板に触れ、再び叫ぶ。
「『ゴールド・E』!」
すると、鉄板のあちこちから草が繁茂したちまち鉄板全体を覆い隠してしまった。これが『ゴールド・E』の能力、『生命を創り出す能力』である。苗木、又は『ゴールド・E』本体が手で触れた個所に生命エネルギーと呼ばれるエネルギーを流し込み、金属や石などの無機物を生き物や植物などの有機物に変換する能力である。生み出せる生命の種類は苗木は把握している限りの存在に自在に指定でき、この能力の為に様々な生物の図鑑やネット知識を読み漁った苗木ならば、現在確認されているほとんどの生物を生み出すことが可能であった。
苗木は鉄板全体を植物で覆ってもしばらく生命エネルギーを送り続ける。やがて鉄板から背の低い草だけでなく樹木のようなものまで生えてきたが、それが成長しきる前に突然弾かれたかのように鉄板から手を放しその場にへたり込んだ。
「…!ッハァッ、ハァッ、だ、駄目か…!質量が大きすぎて、スタンドパワーが持たない…」
その原因は、鉄板が巨大すぎたことにあった。今現在、苗木のスタンドはスタンド能力に目覚めたばかりの頃にまで弱体化しており、眼前の鉄板を丸ごと生命に変換させるにはスタンドを操る精神力、すなわちスタンドパワーが不足していたのである。精神的に成長したり『本来の』苗木のスタンドならばこの程度軽く行えただろうが、今現在の苗木では表面全体を変化させるのが精いっぱいであった。
「留め具の…ボルトも…錆びてて、鉄板とほぼ一体化しちゃってるし、この草むしっても…同じことだろうなぁ。…とりあえず、ばれないように元に戻さなきゃ…」
そう言うと苗木は『ゴールド・E』の能力を解除する。すると、鉄板を覆っていた草木が瞬時に消失し、元通りの状態に戻った。これが『ゴールド・E』の強みでもある。スタンドはスタンド使いにしか見えず、スタンドが発する炎や氷などといったものもそうであるが、スタンドによって生じた破壊跡や現象などは一般人にも見えてしまうのである。苗木の『ゴールド・E』が生み出した生命も例外ではない。そこに生まれてしまえば、それはスタンド能力ではなく、一つの命なのだから。だが苗木は『ゴールド・E』が生み出した生命を自在に操ることができる。その行動だけでなく、生死や寿命まで思うとおりにでき、死んだりスタンド能力を解除すれば元の物質に戻る。証拠隠滅が容易な点においては、実に優秀なスタンドと言える。
コツ…
「!?」
だがそれも…
「苗木君…今のは…一体…?」
「き、霧切さん…?」
直に見られていなければ、の話である。
今回ここまで
仮説の下りに関してはほぼ自己解釈ですのであんま気にしないでくださいね(笑)