キーンコーンカーンコーン
『えー、朝です。起床時間に…』
チャイムとモノクマの声が苗木の耳に響く。ぼうっとする頭を振って起き上がれば、そこは自分の記憶とは若干異なる自室によく似た部屋。
「あ…そうか、昨日は舞園さんの部屋で寝たんだった」
昨日はできるだけ起きていようと思っていたのだが、朝に石丸に叩き起こされ夕方に例の映像の件、そして昨日の舞園との会話もあってか一昨日の疲れが抜けきれず軽くシャワーを浴びてベッドに横たわったまま寝てしまったらしい。
「おっと、もうこんな時間か。そろそろ食堂に行こうかな…」
時計を見れば午前七時。皆と約束した朝食会の時間は八時なのであまりゆっくりしてもいられない。手早く身だしなみを整え食堂へと向かおうとする。
と、そんな時のことであった。部屋を出て食堂へ向かおうとする苗木がふと自分の部屋、今は舞園が眠っている筈の部屋にちらりと視線をやった時、その視線がある一点で止まる。
「…あれ?部屋のネームプレートが…」
そう、ドアの横に設置されたその部屋の主を示すネームプレート。本来苗木の名と共にドット絵になった苗木が描かれたプレートが張られているそこには、なぜか舞園のネームプレートが張られていた。
「妙だ…。僕は昨日プレートを取り換えてなどいない。とすれば入れ替わったのは昨日僕がこの部屋に入って以降ということになる。しかし、一体誰が?どういう意図で取り換えたんだ?……もしかして…」
嫌な予感を覚え、意を決してドアに手を掛ける。鍵が掛かっていることを願って捻ったドアノブは、願い空しく滑らかに回ってドアが開く。
「…!舞園さん!」
勢いよくドアを開け、半ば飛び込むように部屋に入る。部屋は、昨晩自分がいた時と全く異なる状況であった。部屋の備品は散乱し、床には昨晩の時点で棚に安置されていたはずの模造刀が鞘から抜かれた状態で打ち捨てられていた。
しかし、今の部屋の主である舞園の姿がどこにも見えないことにひとまずほっとする。既に食堂へ向かったのか、あるいは他の部屋にいるのか。プレートの事も含めてどちらにしろ知らせる必要があると思い振り返って部屋を出ようとする。
と、振り返った苗木の視線の端にシャワールームが入り、思わず足を止める。何故なら、その扉のドアノブがこじ開けられ、半開きの状態になっていたからである。昨日開け方を教えた舞園が、そんな状態で放置しておくとは考えられない。…話を聞いていなかった可能性もあるが、その状態はあまりにも不自然であった。
「…まさか…」
ゆっくりとシャワールームに向かい、そのドアを押す。力なく開いたドアの先にあったものは
血だまりに座り込み腹部に包丁が刺さった状態でいる舞園の姿であった。
「…舞園さぁん!!!」
思わず大声で叫び舞園に駆け寄る苗木。よく見れば包丁の刺し傷だけでなく右腕と胸元がまるで皮膚が焼けただれたかのようにグズグズになっており、彼女の魅力でもある白い透き通るような肌は見る影もない状態であった。包丁を抜けば多量出血の恐れがあるためそのままに『ゴールド・E』を発現させ手に触れる。
「……!まだ微かに生命エネルギーが…でも、このままじゃ…」
舞園から感じたのは、今にも消えてしまいそうな生命の鼓動。あともう少し遅ければ消えてしまう…いや、今にも消えそうなほどに微かな状態であった。
「…やるしか…ない!」
決意し、苗木は舞園に刺さった包丁に手を掛け勢いよく引き抜いた。そして傷口から血が噴き出すよりも早く包丁を放り捨て、両手で傷口を包み込んで叫ぶ。
「『ゴールド・エクスペリエンス』!!」
翳された苗木の両手から生命エネルギーが溢れだし、金色の光と共に舞園の傷口に殺到する。そのエネルギーは、舞園の制服の一部や既に流れ出て凝固しつつある血液を巻き込み、それを舞園の皮膚や血液、筋肉に変換させながら舞園の傷口を塞いでいく。『ゴールド・E』の『生命を創り出す』能力は、なにも生き物に限定されるわけではない。衣服や飛び散って死滅した血液を元に傷ついた部分の部品を創り出して埋めて塞いだり、あるいは四肢や内臓といったものまで創り出し欠損した部位を創り直すこともできる。
しかし、苗木には危惧していることがあった。一つは、これはあくまで欠損した部分を補うだけなので、もし治りきる前に死んでしまったら例え治ったとしても生き返る訳ではないということ。もう一つは、これ厳密には治療ではなく一種の復元に近いため傷を埋めるたびに痛みが生じ、体力の無いものにとっては厳しいものになるため舞園への負担が大きい恐れがあることである。しかし現状、舞園を救うためにはこの賭けに乗るしかなかった。
「おおおおおお!!!」
傷口が完全に塞がり、皮膚が元通りになってもなお苗木は生命エネルギーを送り続ける。未だに戻らぬ生命の鼓動を、自身の命で補うおうとするかのごとく。
「舞園…さん…頼む、目を…開けてくれッ…」
一昨日を越えるスタンドパワーの消費に眩暈を覚えながらも、苗木はそれを止めようとしない。尽きてしまった命に生命エネルギーを送っても無駄であるが、少しでも可能性があるならばそれを止めるわけにはいかなかった。
「……あっ」
しかし、舞園が目を開けることはなく遂に苗木の精神力が底をつき気が遠くなる。薄れゆく意識の中、苗木は奇跡を信じ、祈り続ける。
(ま…い…ぞの…さん……い…き……て)
その瞼が閉じられる瞬間、苗木の眼には映ったであろうか。
自身が塞いだ舞園の腹部に残された、小さな刺し傷のようなものを。
(ここは…どこだ…?)
苗木の意識は、暗闇の中にあった。自分以外にだれもおらず、自分しか感じられない虚無の暗闇。
「…まったく。あのような小娘の為に命を削るような真似をするなど、反吐が出る」
そんな暗闇に突如、一人の男が現れる。鍛えられ上げた肉体に透き通るような白い肌、黄金色の頭髪に心を鷲掴みにするような顔立ち。その口から放たれる罵声など気にもならないほどの妖艶さを持った男であった。
「やはり貴様はどこまで行ってもジョースターの人間という訳か。…だが、むしろこの状況ではそれも一興といえるか」
こちらを見ながらひとりで喋っているこの男に、苗木は不思議な親近感を感じていた。自分とはすごく遠いようでいて、実は一番近い存在のような気がする。それが苗木がこの男に抱いた感情であった。
「よく聞け我が…よ。これから貴様に降りかかるであろう運命は、貴様のその甘っちょろい考えでは到底乗り越えられんようなものだ。生き残りたくば、この…の血を受け入れるのだ。その時貴様は真の意味で世界の頂点に君臨することができるだろう」
ところどころよく聞き取れなかったが、自分にはこの言葉がひどく甘い誘惑のように感じられた。だが、自分の中の決定的な何かが、それを危険なものだと警告しているのも理解できた。
しかし、苗木が何かを言おうとした直前になって、朦朧とした意識が急に明確になり始める。それと同時に眼前の男も霞のように消えていく。
やれやれ時間か、と呟いた男は完全に消える直前自分にこう言い残した。
「今は理解できなくともよかろう。だがいずれ、貴様も理解するだろう。生きることは、恐怖を克服すること。その為には、何物をもねじ伏せる圧倒的な力が必要だということをな…」
「んん…」
次に苗木が目にしたものは、どこかの天井と心配そうに自分を見る朝日奈と不二咲の顔であった。
「あ!気が付いたよ!」
「大丈夫?苗木君…」
「え…?あ、うん。何ともないけど…」
起き上がってみれば、どうやら体育館のベンチに寝かされていたことが確認できた。周囲には彼女たちの他にも霧切や十神を含めた全員が集まっていた。
「僕は…一体?」
「…あのね、朝食の時間になっても苗木と舞園さんだけが食堂に来ないから、石丸と霧切ちゃんで呼びに行ったの。そしたらシャワールームで舞園ちゃんと苗木が倒れてて…」
「舞園さん……そうだ!舞園さんは!?舞園さんはどうなったの!?」
気を失う直前の状況を思い出し、舞園の安否を伺う苗木。しかし、皆下を向いたり視線を逸らしたりで何も答えようとしない。
「…その口ぶりからして、舞園さんを治療したのは苗木君で間違いないのね?」
そんな中、霧切が苗木に確認の為か質問してくる。
「…うん。僕が舞園さんを見つけた時には、まだ微かに息があったんだ。だからなんとか助かるよう、傷を塞いで血液も創って補充したんだけれど…結局僕の方が先に根負けしちゃって…」
「傷を塞いだって…なにやったんだよ…?」
「それ以前に血液を創ったって…」
苗木の口から出る不可解な言葉に首を傾げる生徒たちに構わず、霧切は苗木に事実を告げる。
「…苗木君、単刀直入に言うわ。舞園さやかは、死んだわ」
「…!そんなッ…」
「現場に多量の血液は残存していたけれど、舞園さんの傷自体は完全に塞がっていたわ。…けれど、彼女自体は既にこと切れていたわ」
「なんということだ…!!遂に恐れていたことが、あってはならないことが起きてしまったッ…!!」
涙を流して悔しがる石丸と同じように、大和田や桑田も憤っており、不二咲や朝日奈は悲しそうな表情でうつむく。
とその時
「イエーイ!やっと展開が進んで来たね。もう待ちくたびれちゃうところだったよ!」
意気消沈した雰囲気をぶち壊すかの如く、モノクマがハイテンションに現れる。
「ふん、やっとおでましか」
「はいはいお待たせしました!いやー、これでやっとこのコロシアイ学園生活も本番を迎えるというわけだよ。今からドキドキワクワク止まらないなぁ~」
「……なんで」
「ん?」
「なんで、そんなに嬉しそうにしてるのよ!あんたがここに私たちを閉じ込めたせいで舞園ちゃんが死んじゃったんじゃない!なのに、なんであんたはそんなに楽しそうにしてるんだよ!」
「はあ?今更なに言ってんのさ。僕としては十分すぎるほどに待ってあげたっていうのに、むしろオマエラがさっさと殺しあわないから待ちくたびれるところだったんだよ。はあ~、まったくオマエラのゆとりっぷりにはほとほとがっかりさせられるよ…」
モノクマの態度に怒った朝日奈が涙ながらに怒鳴り散らすが、モノクマはどこ吹く風であしらう。
「この…!」
「朝日奈さん駄目だ!」
「朝日奈!!」
モノクマに飛び掛かろうとする朝日奈を、近くにいた苗木と大神が羽交い絞めして抑える。もがこうとする朝日奈だが、やがて力尽きたように大神に縋りついて啜り泣く。
「やれやれ、…さて!今回舞園さんが殺されたということで、改めてこのコロシアイ学園生活の『卒業』に関するルールと説明をしたいと思います!」
モノクマの卒業、という言葉に今まで敵意を向けていた生徒たちの表情に緊張が走る。
「…その言い方だと、舞園さやかはこの中の誰かに殺された、ということで正しいのかしら?」
「はい!間違いありません。何故なら、僕は監視カメラで全部見ていたからです!」
「な、なんだってぇ!?」
「だ、誰だ!誰がやりやがった!?俺がぶちのめしてやる!!」
「こらこら!それを考えるのがオマエラの仕事だろうが!…えー、この中にいる舞園さやかさんを殺した犯人さん。これで卒業できると思ったら大甘です!残念ながらただ殺しただけでは卒業は認められません!そこで重要になってくるのがこのコロシアイ学園生活の目玉、『学級裁判』です!」
「…学級裁判?」
聞きなれぬ単語に皆が訝しげな表情をする。
「皆さん、まずはお手元の電子生徒手帳の校則のページをご覧ください!」
モノクマに促され全員が電子生徒手帳を起動させ校則について記された画面を見る。そこには、新たに3つの項目が追加で記されていた。
「仲間の誰かを殺したクロは卒業できますが自分がクロだと他の生徒に知られてはいけません…生徒内で殺人が起きた場合、一定時間後に全員参加の学級裁判を行う…なんだべこれ?」
「クロ…というのは犯人の事ですわね。つまり、私たちがこの中にいる犯人を突き止めるための場…それが学級裁判ということですか?」
「ピンポーン!その通りなのです!」
モノクマの話によるとこうだ。生徒内で殺人が起きた場合、全員でクロ…つまり犯人が誰なのか討論する学級裁判という物が開かれ、そこで正しいクロを指摘することができればクロがおしおきを受け、もし外せばクロが晴れて卒業、つまりこの学園から出られるという物である。
「ちなみに、もしクロを当てられなかった場合、クロを除いた全員を処刑させてもらうことになります!」
さらに続いたモノクマのこの言葉が、生徒たちに更なる緊張を生む。
「処刑って、なんのことぉ…?」
「処刑は処刑!電気椅子でビリビリ、毒ガスでヘロヘロ、ハリケーンなんちゃらでバラバラになるってことだよ…」
「…ふざけんなっての!」
ついに堪忍袋の緒が切れたのか今まで沈黙を保っていた江ノ島が爆発する。
「はあ?君まで何言ってんのさ?」
「あったりまえでしょうが!なんであんたの都合であたし達がそんなことやらされる羽目にならなきゃいけないんだっつの!あたしは嫌だからね、そんな胸糞悪いことに参加するなんて!」
「ぐすん。全くどうして君たちは素直に僕の言うことに従ってくれないのかな、これもゆとり教育の弊害なのだろうか?でもそんな生徒たちにも正面からぶつかっていくのがモノクマ流よ。そうしても嫌だというのなら、僕を倒してからにしろ!」
ガスン
ステージから飛び降り江ノ島に突っ込んだモノクマであったが当然相手になるはずもなく江ノ島に足蹴にされてしまう。
「…ふぎゅう」
「はい、これで満足!?」
「…そっちこそ!」
「…は!?」
「学園長であるモノクマへの暴力は禁ずる、校則にも書いてあるし僕もきちんと警告したよね?…召喚魔法発動!助けて、グングニルの槍!」
その瞬間江ノ島の足元の床が開き、そこから大量の鉄製の槍が発射される。至近距離から高速で放たれたそれは、名前の通り必中を以て江ノ島の体を四方八方から貫きその命を奪う筈であった。
間に苗木が割って入りさえしなければ。
江ノ島がモノクマを踏みつけてからの苗木の行動は迅速であった。
(!ヤバい!!)
モノクマがふんづけられるや否や苗木はベンチから飛び起き疾風のように生徒たちの間を駆け抜け江ノ島の前に躍り出る。突き飛ばそうとしたがその瞬間足元から槍が発射されたためやむを得ずその場でスタンドを呼び出す。
「『ゴールド・E!!』」
『無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァ!!!』
掛け声と共に呼び出された『ゴールド・E』はそのままの勢いで下から迫りくる槍にラッシュを畳み掛ける。正面から迎え撃っていては間に合わないので殴るというよりはたくようにして全方位から迫る槍を苗木と江ノ島の周りを回るようにして弾き返すが、さしもの『ゴールド・E』のスピードを以てしても高速で迫るすべての槍を防ぐことはできず急所への直撃を防ぐのが精いっぱいで、防ぎきれなかった数本が苗木の肩と江ノ島の腰と太腿に突き刺さる。
「グッ!?」
「あぐっ!?」
槍の勢いで吹き飛ばされる二人。突然の出来事に固まっていた生徒たちであったが、吹き飛んだ二人が床に叩きつけられるのを見て正気に戻る。
「!苗木!江ノ島!」
「ちょ、なななな何が起きたんだべ!?」
いきなり吹き飛んだかと思えば後方で体を太い槍で貫かれている二人に、戸惑いながらも駆け寄って安否を伺う。それを見てモノクマはため息をついて心底がっかりした風に言う。
「あーあ、また苗木君に邪魔されちゃったよ。どうせあの傷じゃ出血多量で間に合わないかもしれないけど、校則違反のお仕置きが失血死っていうのはねえ…」
とその時
「とおるるるるるん、とおるるるるるん」
突如としてモノクマが電話の着信音のような奇声を発する。誰もが苗木達の方に注意が向いていたため誰も気が付かなかったが、モノクマは自分のその声を確認するとどこからかコードの切れた受話器を取り出し耳に当てる。
「もうなに?今忙しいんだけど…」
(油断するな。奴がこの程度で死ぬと本気で思っているのか…?)
「んん?…はれ?」
通信相手などいない筈の受話器の奥より告げられる言葉に首を傾げてみれば、眼前で吹き飛んだ苗木が肩を抑えながらゆっくりと起き上がる。
「…ッ痛…!江ノ島さんッ…!」
肩の痛みを堪えながら起き上がった苗木は隣で未だ起き上がれない江ノ島の方を向く。どうやら予想以上にタフなようで息は荒いもののまだ血の気は失われてはいないが、槍が刺さった傷口からは止めどなく血が流れこのままでは出血多量で死んでしまうであろう。
しかし、この程度の傷なら苗木にとっては生きてさえいればどうとでもなる。
「だ、大丈夫ですかな苗木誠殿!?」
「い、医者だ!今すぐ医者を呼ぶんだぁぁ!!?」
「落ち着いてください。そんなものここには居ませんわ」
「…とりあえず止血だけでも…」
「…いい、それよりみんな、少し離れてくれないかな…?」
はあ?と首を傾げる一同の前で苗木は江ノ島の方に向き直ると両手を江ノ島の傷口に当てる。
「江ノ島さん、少し痛むけど我慢してくれ。絶対助けて見せるから…!」
「ハア…ハア…(コクン)」
「おい苗木、貴様なにを…」
「『ゴールド・E』!!」
再び現れた『ゴールド・E』は、先ほど二人を守ったその両手から今度は金色の生命エネルギーを溢れさせ江ノ島の傷口を覆う。苗木の突然の行動に眼を丸くしていた生徒たちの表情が次の瞬間驚愕に変わる。
なんと、江ノ島の体を貫いていた槍がどんどん消えていくではないか。しかもそれだけでなく槍が刺さっていた江ノ島の傷口も槍の消滅に比例して塞がっていく。槍を江ノ島の肉体に変化させ傷口を埋める苗木の表情はいつも以上に必死なのものであった。
(もう死なせるもんか。舞園さんを守れなかった分、今は江ノ島さんを死なせないことに集中するんだ!)
それは、間に合わなかった舞園への贖罪の表れなのであろうか。強い決意と共に発せられた生命エネルギーの奔流はたちまち江ノ島の傷口を塞ぎきってしまった。
「……んだこりゃあ…?」
「すごい…奇跡だよ…!」
驚く一同の前で、完全に傷が治った江ノ島が起き上がる。
「ん…あれ、アタシ……!ちょ、苗木!?」
「良かった…間に合って…本当に…!」
突然のことに驚きながら目の前で自分の怪我を心配する江ノ島に苗木は涙ぐみながらほっとする。江ノ島の無事を確認すると今度は自分の傷口の治療を始めた苗木を見るモノクマに、再びその相棒が話しかける。
(これで分かったろう。奴のしぶとさはゴキブリ並だ、生半可な方法では殺しきれん。この俺が直接手を下すことが、最も確実に奴を仕留められる方法なのだよ…!)
「……ふーん。まいいか、またおしおきが失敗しちゃったけどこれでオマエラも分かってくれたよね。…僕は本気だよ。オマエラがどうしても嫌がるっていうんなら全員校則違反でおしおきしちゃってもいいんだよ?」
受話器を放り捨てたモノクマからの言葉に、傷の癒えた苗木を含め全員が息を吞む。前回も今回も苗木が間に合ったから誰も死ななかったものの、もし次におしおきされれば助かる保障などどこにもない。結局、自分たちはこいつの手のひらの上で踊るしかないのだと痛感させられるのであった。
「えー、つきましてはオマエラじゃ現場検証とか死体検分とかできないだろうし、舞園さやかさんの死体も苗木君が治しちゃったから当時の現場状況も分からないだろうから、電子生徒手帳に事件直後の写真とある程度の現場情報を添付しておくから、捜査に有効活用してくださいね♡ではでは、学級裁判でまた会いましょう!」
そう言って再びステージ下へと消えていくモノクマ。後には、憎々しげにそれを見やる生徒たちだけが残される。
「…それで、これからどうするの?」
誰も言葉を発しない中、霧切が全員に問いかける。
「…奴の言いなりというのは癪だが、学級裁判とやらの為に捜査をするしかあるまい。……だが、その前に聞かねばならんことがある」
十神はそういうと足元で膝をつく苗木に視線を向ける。
「苗木、貴様のあの力はなんだ?初日の大和田の事といい今朝の舞園の事といい今の江ノ島の事といい、手品で説明できるようなものではない。捜査をする前にそのことだけははっきりさせておきたい。…言い逃れはできんぞ」
刺すような視線に苗木は口ごもる。説明することは可能だが説明したからと言ってそれで納得してもらえる保証はない。なんとかこの場をうまく収められないかと考えているとき、
「…それとも」
十神の口から思いがけない言葉が発せられる。
「貴様の後ろにいるその妙な奴が原因だとでもいうつもりじゃあないだろうな?」
「…えっ?」
思わず声が出てしまう。今自分の後ろには誰もいない、いや、正確にはいるのだが自分以外には見えていない筈である。それが十神は視えると言っている。
しかもそれだけではなかった。
「え!?十神っちも視えるのか?俺てっきり舞園っちのお化けかと…」
「葉隠お主もか…。どうやら幻覚の類ではないようだな」
「あらあら、皆さんも視えているようですわね。これでは私だけの秘密にはなりませんわね」
周りにいる皆も口々に視えると言い出す。人によってぼやけて見えているものとはっきり見えている者がいるようだが、全員がそれを視えているというのは共通していた。これが指し示すことは、一つしかなかった。
「まさか…皆、スタンド使いに…!?」
どうやらこの学園生活は、予想以上にただでは終わりそうになかったようである。
今回ここまで