事件現場を辞した苗木は寄宿舎の廊下を歩いていた。目指す場所は視聴覚室。その理由は、手にした現場のごみ箱から見つけた舞園宛のDVDを確認するためであった。
苗木にはどうしても気になっていることがあった。それは現場に残された使った跡があるメモ帳。あの部屋にあったということは元々苗木の部屋にあったのものであるはずなのだが、苗木にはあれを使った覚えがない以上使ったのは舞園か犯人のどちらかである。しかし、殺人を犯した以上犯人がのんきにメモを書いているとは考えづらいので、おそらく舞園が使用したのであろう。
(何のために使ったのかは分からない。だがもし、もしそういうことならきっと理由があるはずだ。そしてその原因はおそらく…)
そう考え手元のDVDに目を落とす。そして顔を上げたとき、視線の端に映るモノがあった。
「あれは…?」
それは寄宿舎と校舎をつなぐゲートの前に立っており、普段の明るさなど微塵も感じないほど沈鬱な雰囲気を漂わせている人物。
「…江ノ島さん?」
江ノ島盾子はひどく消沈していた。
(どうして、なんであの子は私を…?)
彼女の脳裏には先ほど殺されかかった光景がフラッシュバックしていた。あの時苗木が助けてくれなければ、自分はきっと死んでいたであろう。江ノ島にはその事実が受け止められずにいた。捜査にも参加せず部屋にこもっていたのだが、モノクマにずっと見られているようで我慢できずさっきから校舎を徘徊しているのである。そんな時
「…江ノ島さん?」
声を掛けられふと顔を上げると、そこには先ほど自分の命を救ってくれた恩人の苗木誠が心配そうに自分を見ていた。
「な、苗木君……あ、苗木何か用?」
(…くん?)「いや、なんだか元気がなさそうだったから大丈夫かなって…」
「ぜ、ぜーんぜん平気だって!苗木が治してくれたから怪我も何ともないし、今から徹夜でカラオケでも行けるぐらい元気ハツラツ?って感じ!…ハハハ…」
強がってはみたものの、やはり前のように明るく振る舞えない。それを見抜いてか苗木の心配そうな視線は変わらない。その視線に耐えきれなくなり、江ノ島はついこんなことを聞いてしまう。
「…苗木はさ」
「…ん?」
「もし、自分が一番信頼している人から裏切られたら、苗木はどうする?」
「え…?」
苗木のぽかんとした表情を見て、江ノ島はハッとする。あんなことがあった後でこんなことを聞けば黒幕と何か関係があると疑われて当然ではないか。慌てて江ノ島は取り繕おうとする。
「い、いやこれは別にさっきの事と関係なくて、ほら、アタシの業界って弱肉強食の世界じゃん?だからもし友達とか後輩とかにそういうことをされたらどうしようかなー…って」
「…」
そんな江ノ島に対し、黙って考えていた苗木が口を開く。
「もし僕がそういう風な裏切りを受けたら、まずは話を聞こうとするかな。…それが済んだら、もしくは話をしてくれないなら…」
「…くれないなら?」
「…ブッ飛ばす」
「……………へ?」
彼に似つかわしくないバイオレンスな答えに、思わずポカンとしてしまう。
「ぶ、ブッ飛ばすって、そんな…」
「理由はどうあれ、そいつが裏切ったということに変わりはない。信頼を裏切った人間は、必ずどこかで落とし前をつけなければならない。裏切り者は死ぬ、とまでは言わないけど僕がその場でできる落とし前のつけ方といえば、これしかないね」
その時江ノ島は感じた。目の前の温和そうな少年の中に眠る、他者を乗り越えていくことに躊躇いのない冷徹さを。
「それで…どうするの?」
「その後?…うーん」
おずおずと聞く江ノ島に苗木はしばし悩むと朗らかに答える。
「そこから先は、江ノ島さん次第だよ」
「…私次第?」
「一度落とし前をつけてしまえば、もうそいつに対し裏切りのけじめをつける必要はなくなる。あとは個人次第さ。仲直りするもよし、完全に縁を切るもよし、…要するに、自分が納得できる終わり方を選ばなければいけない。そうじゃないと、ずっと後悔しつづけるかもしれないからね」
「私が、納得できる…」
諭すようにいう苗木の言葉に、江ノ島は俯いて考え込むとやがて顔を上げて笑顔を見せる。
「…ありがと苗木。アタシ、頑張ってみるね!」
「どういたしまして。…ふふっ」
「?どうしたの?」
「いや、江ノ島さんなんかいつもぎこちなく笑ってたからさ、そういう風に自然に笑ってる方が素敵だなって」
「…へ?」
苗木としては下心など毛頭なく率直に思ったことを言っただけなのだが、そう受け取れなかったのか江ノ島は真っ赤になって捲し立てる。
「ちょ、ちょっといきなり何言いだすのさ!?あ、アタシを口説こうったってそうはいかないんだからね!アタシそんなに軽い女じゃあないんだからね!」
「別にそういうつもりじゃないんだけど…」
「と!とにかくアタシもう行くから!苗木、相談に乗ってくれてありがとね!それじゃ!!」
「あ、うん…」
踵を返すなりあっという間に走り去ってしまった江ノ島を見送って、苗木は改めて視聴覚室へと向かう。
「……悪く思うなよ苗木」
それを食堂の陰から見送る人影に気が付かぬまま。
「…ああ~、私何こんなにムキになっちゃったんだろう。…それにしても、このおなかの傷っていつ付いたのかな?なんかおへそが二つあるみたいで嫌だなぁ」
視聴覚室に到着した苗木は早速舞園のDVDを再生する。
(舞園さん、悪いけど見させてもらうよ…)
舞園のプライバシーに触れることを詫びつつ、苗木は画面を注視する。自分の時と同じように若干の砂嵐の後に映像が映し出される。そこには、同じグループの仲間と楽しそうに歌い踊る舞園の姿があった。テレビで見たのと変わらないその姿をしばらく眺めていると、
突如ナレーションが入ってくる。声の主は言わずもながモノクマである。
『超高校級のアイドルである舞園さやかさんがセンターマイクを務める国民的アイドルグループ。そんな彼女たちには華やかなスポットライトが本当によく似合いますね。………ですが』
と、そこで画面が暗転し映像が切り替わる。
「!!?…な…!」
切り替わった画面には、バックスクリーンに映し出されたモノクマと赤いライトで照らされたステージ上で倒れ伏す舞園を除いたメンバーが映っていた。
『訳あってこの国民的アイドルグループは解散しました!つまり、舞園さやかさんの『帰る場所』はもうどこにもなくなってしまったのです!』
「ば、馬鹿な!こんなことになれば世間が黙っている筈がないッ!……モノクマが言っていたのはこういうことか。こんな事態になっていたとしても警察もマスコミも動けないような状況に外はなっているというのか…?」
『ではここで問題です!この国民的アイドルグループが解散した理由とは!?』
正解発表は‘卒業’の後で!と記されたテロップと共に映像は終わる。ゆっくりとヘッドホンを外し電源を切ると、苗木はため息をつく。
「…真偽はどうあれこれではっきりした。舞園さんはこれを見て豹変したんだ。すると、彼女が僕の部屋で殺されていた理由は……」
コトリ。
考え込んでいる苗木の側に、突然水の入ったグラスが置かれる。
「ご視聴ご苦労様でした。お飲み物などいかがでしょうか?」
「ああ、ありがとう」
苗木はごく自然にそのグラスに口をつける。程よく冷えた水が乾いた喉を潤す感触を感じながら、苗木は気が利くことをしてくれた人物に改めて礼を言おうとして…そこで隣にいる存在に初めて気が付く。
「…!!?だ、誰だお前!?」
「誰と申されましても、私は『ヨーヨーマッ』という者です」
『ヨーヨーマッ』と名乗ったそいつはまるで漫画に出てくるゴブリンのようなちんちくりんの体躯をしており、頭からは槍の穂先のような突起がでており、ボタンを張り付けたような目と半開きの口からだらしなく涎を垂らしたいかにも珍奇な見た目をしていた。
その姿を見た途端苗木は理解した、こいつはスタンドだと!
「おいお前、誰のスタンドだ!?舞園さんを殺したのはお前か!?」
「…確かに舞園さやか様を死に追いやったのは私と私の本体でございます。しかし私の本体に関しましては誠に恐縮ですがお答えすることはできません。本体からそれだけは言うなときつく申し付けられていますので。もし喋ってしまえば本体がどのような暴挙にでるか分かりませんので、私が死んでしまうかも…」
その言葉が言い終わる前に、苗木は動き出していた。瞬時に『ゴールド・E』を発現させ『ヨーヨーマッ』を掴みあげるとそのまま壁に叩きつける。力強く握りしめた拳を突き出し、今まで見せたことがないような怒りの表情で怒鳴る。
「本体の正体を言って後で殺されるのと、今ここで僕に殺されるのとどっちがいい!?」
「お、おやめ下さいだんな様!…ヨーヨーマッ」
怒りながらも、苗木は目の前でもがく『ヨーヨーマッ』を観察する。
(こうして向き合って近づいてみるとよく分かったが、こいつやたらと臭い!特に口の中からゲロよりひどい臭いがする…。まるで卵が腐ってるみたいな……)
と、そこで苗木ははたと気づく。
(待てよ…腐卵臭の特徴は…!)
中学の理科で習った項目。腐卵臭を発する硫化水素は、確か「酸性」。その事実に気が付いた時にはもう遅かった。
締め上げられた『ヨーヨーマッ』の口から流れ出た涎が、突き出した苗木の拳に落ちる。
その瞬間、まるで砂時計の砂が落ちるかのように苗木の手の甲に孔が開いた。
「うおおおおおおおッ!!?」
突然自分の身に起こった異常に、苗木は『ヨーヨーマッ』から手を放すと後ろに飛びのき距離を取る。
「こ、こいつの涎!僕の手が溶けた!?しかもただの溶け方じゃあないッ!全く痛みを感じなかった。まるで孔が開くのが当然だと錯覚するかのように自然に溶かされた!同じ腐卵臭でも硫化水素の比じゃないほどの酸性!!間違いない、こいつが舞園さんを襲ったスタンドだ!」
眼前ではようやく解放された『ヨーヨーマッ』がもたもたと立ち上がろうとしている。予想外の手傷を負ったにもかかわらず全く痛みを感じないことにぞっとしながらも、苗木はより冷静に『ヨーヨーマッ』を観察する。
(…こいつは恐らく『自動追跡』型、しかもかなりの『遠隔操作』タイプのスタンドだ。確かにこれならシャワールームの扉越しでも舞園さんを攻撃することができる。だが、こいつの本当に恐ろしいところはそこではないッ!それはこいつの『態度』!ここまで自由に動いている所からすると本体からの制御をほとんど受け付けていないのだろうけど、そこが逆に恐ろしい!こいつの下手に出過ぎるほどに丁寧な態度からは、敵意を全く感じない!舞園さんの溶けた跡が胸元近くにまであったのはこういう訳か。ごく自然に傍にいて、ごく自然に殺している。こいつの在り方そのものが一番の武器となっているッ!)
いかにも本気でこちらを心配していそうな目で自分を見る『ヨーヨーマッ』に、苗木は強気な姿勢を崩さず問いかける。
「お前ッ!なにが目的だ!?」
「目的…?目的と申されましても……あなた様を始末することでございます」
『無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァ!!』
返答と同時に『ゴールド・E』のラッシュが『ヨーヨーマッ』を襲う。『ヨーヨーマッ』自体は相当脆く、あっという間に『ヨーヨーマッ』は潰れた饅頭のような肉片へと姿を変える。だが、
「うげぇぇー!ぐ、ぐぶっ!うごごご…」
「…くっ!やっぱり本体への影響はほとんど無しか!!しかももう元に戻りかけてきているッ!!」
遠隔操作型のスタンドはほとんどがスタンドへのダメージによる本体へのフィードバックの影響が少ない。ダメもとで殴ってみたもののスタンドを通じて本体が怯んだ様子もなく、しかも凄まじいスピードで回復していく様子に苗木は悪態をつく。
(どうする!?どうすればこいつを倒せる!?…いや倒せるどころの話ではない!どうすればこいつ相手に生き延びられる!?…逃げる?いや駄目だ!こいつはきっと僕を対象に発動したスタンド!例えここから逃げてもきっと追いかけてくる!そうなれば悪戯に被害を大きくしてしまう!なんとかここで奴を封じ込めなければ…!)
額から脂汗を滲ませ対策を考えている苗木に、復活した『ヨーヨーマッ』が話しかける。
「だんな様…汗などかかれてお熱いでしょう。エアコンでもつけて差し上げます」
誰のせいでかきたくない汗をかいていると思ってるんだ!と心の中でツッコミながら苗木に、『ヨーヨーマッ』が点けたエアコンから吹く風がかかる。どうやら風圧を最強にしたらしくそよ風ほどの冷風が部屋を循環し苗木の思考を冷ましていった。
(…とりあえず、こうして距離を保っていればこいつの涎には触れずに済む。後はこの距離を保って時間を稼げば…)
と、その時苗木は頬にかかる風が一段と冷たく感じられた。設定温度でも下げたのかと思いながら頬に手をあてると、
触れた頬には無数の孔が開いており、そこから体液が止めどなく流れ出ていた。
「なんだとおぉぉぉぉ!!!???」
予想外の事態に原因であろう『ヨーヨーマッ』の方を向いた苗木は何が起きているのか理解した。苗木は見た!エアコンの真下、ちょうどエアコンから出た風が通るその位置にいる『ヨーヨーマッ』の口元に流れる涎が、エアコンの風の流れに乗って自分にかかってきているのを!
「こ、こいつ!エアコンをつけたのは僕の為なんかじゃあないッ!より効率よく僕を始末するため!エアコンの風に強酸性の涎を乗せて僕に届かせるためにエアコンをつけたのだ!」
しかもそれだけではなかった。よく見れば、奴の口から何かチリのようなものが吹き上がり風に乗って自分のところに飛んでくる。タイミングを見計らい、自分の手前に来たところで『ゴールド・E』の両手でそれを叩き潰す。
パチィン!!
小気味よい音と共に押しつぶされたそれを見て苗木はさらに戦慄する。それは、日本人にとってはとてもなじみ深い生物。夏の風物詩とも言ってもよいそれは、苗木にとっては死神のようにしか見えなかった。
「蚊だ…!こいつの口から蚊が出ている…。そうか!こいつは奴にとっての言わば空爆機!マラリアを媒介するハマダラカのように、ねむり病を媒介するウェウェバエのように、奴の酸を僕に送り込む特攻兵器なんだ!」
ふと見れば、既に手や耳には多くの蚊が張り付いており蚊が刺したであろう個所は膨れ上がって炎症を起こしていた。
「ま、まずい!ここは今密室!これだけの数の蚊をすべて撃退するのは不可能!このままでは何もせずとも僕が溶けたアイスのようにグズグズになることは必死!…やむを得ない、一旦ここから脱出しなくては…!」
そう言って立ち上がった瞬間、突然足元がぐらつき再び倒れ伏してしまう。自分の足を見てみれば、既に半分ほど溶かされ骨や筋肉が露出している自分の足が見えた。
「し、しまった!既にここまで腐食が…!」
足を治そうと右手をやるが、足に届く前に右手の指が溶け切り崩れていってしまう。
(こ、このままでは…!なんとか…奴を…封じ…)
やがて、糸が切れたかのように苗木は完全に沈黙してしまった。
「…任務完了しました。…ヨーヨーマッ」
ピクリとも動かない苗木を見て、『ヨーヨーマッ』は静かに勝利宣言をする。
「随分とあっけなかったですが、これで本体の邪魔者は一人消えました。……?」
と、悦に浸っていた『ヨーヨーマッ』が倒れ伏した苗木を見てふと違和感を感じる。そして苗木に近づき、気が付いた。
「はて…?おかしいですね…」
「だんな様が着ていたパーカーはどこへ行ってしまったのでしょう?」
ムクッ!
その瞬間苗木は顔を上げ、ニヤリと笑った。
「かかったな!」
「なに!?」
その瞬間、『ヨーヨーマッ』の背後から何かが飛び掛かった。
「な、なんだこれは!?…ヨーヨーマッ」
必死に振りほどこうともがくが、相当な力でしがみついているからか引きはがせない。もともと『ヨーヨーマッ』自体のパワーは脆弱であるため、どうあがこうが振りほどける道理はなかった。何故なら襲い掛かってきたのは、
「さ、サル!?」
『ヨーヨーマッ』にしがみついているのは、長い腕と黒い体毛を持ったサルであった。
「…チンパンジー、さ」
声に気づき視線を向ければ、そこには既に残った左手で溶けた個所を創り直した苗木が立っていた。
「さっきパーカーをチンパンジーに変えてこっそり忍ばせておいた。チンパンジーの握力は300㎏近くある。人間は元よりスタンドですらそうそう引きはがせるものではない。ましてや遠隔操作型のお前にとっては逆立ちしたって無理な話だ」
実際、チンパンジーが握りしめている個所は大きく歪み、今にも引きちぎられそうになっていた。
「そして、僕の目的はッ!」
次の瞬間、苗木は能力を解除する。すると、『ヨーヨーマッ』の顔面を腹で覆い両手をしっかりと組んでしがみついていたチンパンジーはそのままの体勢でパーカーに戻り、結果『ヨーヨーマッ』を風呂敷で包んだかのような状態でその動きを封じ込めた。
「モガッ!?モガーッ!?」
「お前の涎を浴びていて気が付いたよ。お前の酸は僕の体は溶かしたが涎がかかった服は一切溶けていなかった。つまりお前の酸は生体組織だけを溶かす特性を持っていたんだ。だからこうして口元を布で包んでやれば、もう酸の涎も蚊も吐き出せない!」
そう言いながらエアコンのスイッチを切り、扉を開けると苗木は椅子に座って言い放つ。
「お前を殺しても無駄だということは分かった。だから僕はもう何もしない!このまま学級裁判の時間になるまで待たせてもらうよ!」
キーンコーンカーンコーン
ちょうどタイミングを見計らったかのようにチャイムが鳴り、モニターにモノクマが映し出される。
『えー、僕も待ち疲れちゃったんで…そろそろ始めちゃいますか。お待ちかねの、学級裁判を!!…それでは皆さん、学校の赤い扉の奥のエレベーターから裁判場へ来てください。うぷぷ、じゃあまた後でね~♡』
そのアナウンスと共に、本体も諦めたのか『ヨーヨーマッ』が消滅し後には涎で若干汚れたパーカーだけが残される。
「…やれやれ、タイミングが良いのか悪いのか。……うわっ汚な…。あとで洗わなきゃ…」
嫌な置き土産に顔を顰めながらパーカーを羽織い、苗木は指定された場所へと向かう。
最も近くにいただけあって、苗木は一番先にエレベータに乗り込み先ほどの闘いで疲れ切った体を休ませていた。すると、続々と他の生徒たちも乗り込んできて、じきに全員がエレベーターに揃った。
「…なんか苗木っち疲れてねえ?」
「き、きっとこれからどう逃れようか考えてたんでしょ?い、今に見てなさい人殺し…!」
「腐川ちゃんそんなこと言ったら可哀想だよ!!」
「…本当に大丈夫なの苗木君?」
「あ、うん…。なんとかね…」
「……」
そんな会話を交わしていると、やがてエレベーターが動き出す。下へと進むエレベーターが進むたびに、自分への疑いの視線が強まってくるのを感じる。しかし、苗木の心にはもう迷いも怯えもない。
(全ては出揃った。舞園さんが残してくれた希望を、僕自身の手で証明するんだ。真犯人は必ず、僕が示しだす!!)
エレベーターが止まり、扉が開く。その先には、紅いカーテンと絨毯が敷かれ、ドラマでよく見る証言台のようなものが円状に連なった物が中央に設置された部屋が存在していた。
「ここが、裁判場…」
「にょほほ!やっと来たね!」
視線の先には、部屋の奥におかれた玉座のような椅子に座ったモノクマがいる。
「どう?いかにも裁判場って感じじゃない?」
「どこがだ…、悪趣味だぜ。…あんな写真まで用意してよ」
大和田がそう言うのは、証言台の一つ、おそらく舞園が立つべき場所に鎮座されている写真の事である。まるで遺影のようにわざわざモノクロで映された写真には、赤く×印が刻まれ死んでいることを強調させていた。
「空席のままだと寂しいからね、せめて写真だけでも参加させてあげようと思ってサービスさせて頂きました。…さてさて、オマエラも自分の名前が書かれた席について!ハリーアップ!ハリーアップ!」
言われるがまま席に着くと、必然的に全員が向かい合う状態となった。それを確認すると、モノクマは咳払いをして開廷の音頭を取る。
「コホン、えーではこれより学級裁判を、開廷いたします!!!」
いよいよ学級裁判の幕が上げる。
命がけの裁判…
命がけの騙し合い…
命がけの裏切り…
命がけの謎解き…
命がけの良い訳…
命がけの信頼…
命がけの学級裁判が、今始まる。
そろそろストックが追い付いてきた…