ダンガンロンパ~黄金の言霊~   作:マイン

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男の約束

「ッ!?な…何言ってんだテメエ…!?そんなの…」

「セレスさんはジャージの色については何も言わなかった。なのにどうして君はそのことを知っていたんだい?」

「…セレスさん。不二咲君が持っていたジャージの色は覚えているかしら?」

「…確か、『青』で間違いなかったはずですわ」

「セレスが不二咲とすれ違ったのは深夜の事件直前、寄宿舎から更衣室まではどんなに急いでも10分はかかる。時間的にも場所的にもその間に不二咲を目撃したとは考えにくい。…となるとジャージの色を知ることができる人物はただ一人。不二咲と一緒に更衣室に入った人間、つまり犯人だけだ」

「ぐっ…!」

 

皆が信じられない表情で大和田を見る。この中で一番不二咲の死に感傷的になっていたのは他ならぬ大和田だった。特に石丸に至っては、そのことを未だに受け止めきれずにいる状況であった。

 

「…墓穴を掘ったわね」

「桑田に続いて貴様も存外マヌケだったようだな」

「ま…待て!!これは何かの間違いだッ!!兄弟がそんなことをする筈が無いだろうッ!!その推理には何かが決定的に欠落している!!兄弟ッ!君もなんとか言ってやりたまえ!!そんなもの全てでっち上げだと!言ってやりたまえよッ!!!」

「……ッ!」

必死で大和田を弁護する石丸と対照的に大和田は何かを堪えるような表情で押し黙るのみ。そんな大和田に、苗木はとっておいた切り札を叩きつける。

 

「…それと大和田君。君に確認したいことがあるんだ」

「…何だよッ…!?」

「君の持っている電子生徒手帳、…それは本当に君の物なのかい?」

「!?」

「な、何を言っているんだ苗木君!兄弟の物でないというなら一体誰のだというのだね!?」

「…玄関ホールに会った壊れた電子生徒手帳。あれを僕たちは処刑の時に壊れた桑田君のだと思っていた。けれど、これはあれぐらいの衝撃ではそう簡単には壊れない物の筈なんだ。そうだろうモノクマ?」

「はい!電子生徒手帳は硬球がぶつかろうがオラオラされようが壊れません!!」

「けれど、電子生徒手帳には一つだけ弱点があるとも言っていた。色々な可能性を考えた時、僕は一つだけこの学園の中で電子生徒手帳を壊せる場所を見つけた」

「そ…それは一体…?」

「…サウナだ」

「サウナ…だと!?」

「精密機械の弱点の一つ、それは高熱によるオーバーヒート。サウナ内の温度は平均で80℃から100℃近くまである。それだけの高温なら大抵の精密機械はおじゃんになる」

「そう!電子生徒手帳は、一定以上の高温下に長時間さらされると熱暴走して壊れてしまうのです!!」

「…だが!それと兄弟の電子生徒手帳が何の関係があるというのだ!!」

「…さっき山田君がサウナで見つけてきてくれたんだ」

そう言って苗木が取り出したのは壊れて暗い画面のままの電子生徒手帳。

 

「!それって…まさか大和田の?」

「いや違う、これは不二咲さんの物だ。ここに来る前『ゴールド・E』の能力で確かめたから間違いない」

「あ!だからわざわざ現場に一旦戻ったのですね!!」

「不二咲の…!?しかし、何故…」

「おそらく犯人が置いていったのよ。…意図的にね」

「意図的…?わざとってことか?」

「そう、この犯人は間違いなく電子生徒手帳の壊し方を知っている。何故なら、自分の生徒手帳を同じ方法で壊してしまったからだ。そして、それを知ることができる可能性がある人物はこの中でただ一人、…大和田君、君だけだ」

「…!」

「どっ!どうしてそうなる!?」

「忘れたの石丸君?あの我慢比べの時、大和田君は服を着たままサウナに入ったんだよ。当然制服の中に入ったままの電子生徒手帳は長時間高温にさらされて壊れる。その時に大和田君は知ってしまったんだ。電子生徒手帳の壊し方を」

「じゃ、じゃあ今大和田っちが持ってる電子生徒手帳は…?」

「…不可抗力とはいえ電子生徒手帳が使えなくなってしまっては今後の学園生活に支障が出る。だから大和田君は、まだ動いている電子生徒手帳と自分の生徒手帳を入れ替えたんだ」

「まだ動いている…?」

「そう、舞園さんのと一緒に置かれていた筈の、桑田君の電子生徒手帳とね」

「ということは…!」

「もし君が犯人でないというのなら、その電子生徒手帳を見せてくれ!…けれど、きっとその電子生徒手帳の名前にはこう書かれている筈だよ。……桑田怜恩、とね」

 

苗木の言葉に大和田は何も答えない。しかし、やがて学ランのポケットに手を突っ込み何かを取り出そうとする。

と、そこで隣で反論を考えていた石丸が何かに気づいたような表情になり、それはすぐに勝気な顔つきになって苗木に詰め寄る。

 

「…ははは、そうだ、そうだとも!苗木君、君は重要なことを見落としているッ!!」

「…重要なこと?」

「不二咲君のスタンドだよ!彼の『20CB』が容易に突破できるスタンドではないことは周知の事実だ!共に更衣室に入った以上あの狭い空間で不意打ちで彼を殺すことはほぼ不可能!ましてまだスタンドに目覚めていない兄弟が、一体どうやって彼のスタンドを攻略したというのだね!!兄弟を犯人扱いしたいのなら、その謎を解いてからにしたまえッ!!」

「…あー、それなんだけどさあ。僕にもどうやって不二咲君のスタンドを破ったのかよく分からなかったんだよねえ。苗木君、もし見当がついているのなら教えてくれないかなぁ~?」

モノクマでも分からなかったという事実に、一同はそのことを思いだすと同時に困惑した顔つきとなる。事件の一部始終を見ていた筈のモノクマですら分からない。増してやスタンドの事をまだよく知らない自分達にとっては全く考えが付かない。十神や霧切ですらその答えには未だ至っておらず、誰も口を開けずにいた。

そんな中、問いかけられた苗木は自身の至った結論を語りだす。

 

「…石丸君、大和田君はスタンドを発現していないんじゃあない。…もうすでに持っている筈なんだ。見せていないだけでね」

「なっ!?ほ、本当なのか兄弟ッ!?」

「……」

大和田は何も答えない。しかし、それが無言の肯定を示していることは明らかであった。

 

「では、一体どのようなスタンドで彼を殺したのでしょう?」

「…確かに不二咲君の『20CB』は防御に関してはほぼ無敵だ。真っ当な方法で挑んだところで突破できるスタンドではない」

「では…!」

「けどそれは、あくまで不二咲さんがスタンドを展開しているときの話だ。スタンドを出す以前の不二咲君なら、無敵じゃあない」

「…どういうことだ?」

「大和田君は、不二咲さんが『20CB』を発動する前に殺したんだ。スタンドを展開するよりも早く、ね」

「じゃ、じゃあやっぱり不意打ち…?」

「いや、図書室での事を考える限り不二咲君のスタンドの展開スピードはかなりの物だ。二人きりであることを認識されている以上、不意打ちを仕掛けた所で防がれてしまうだろう」

「…ではどういうことなのだ!はっきり言いたまえ!」

「…おそらく不二咲君は大和田君の突発的な攻撃に対し防御が間に合っていた。けれど、大和田君はその上で彼の殺害に成功した。…僕の予想を超えるような攻撃力を持ったスタンドでない限り、そんなことを可能にする能力は一つしか考えられない。『三次元』の攻撃を超越した、『四次元』を司る能力…!」

苗木は未だ俯いたままの大和田に向かい、問いかける。

 

 

 

 

 

 

「…大和田君、君のスタンドは『時を巻き戻す』スタンドだね?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「……は?」」」

苗木の結論に、裁判場が沈黙する。

 

「…な、苗木っち。と、時を巻き戻すってそんな…」

「そうですぞ…漫画やゲームの中の話じゃあないんですし、いくらスタンドでもそれは…」

「いや、あるよ」

流石に信じられない様子の生徒たちに、苗木は自分でもよく分からない確信を持って自身の考えを述べる。

 

「スタンドの能力は千差万別、どこまでが限界なのかすら分からない物だ。ならば当然時間に作用する能力があってもおかしくはない。…以前噂でどこかに『時を止める』スタンド使いがいると聞いたことがある。だとすれば、時間を巻き戻すスタンドが存在したとしても不思議じゃあない」

苗木の話に、誰も口を出せない。いや、理解が追いついていないという方が正しいだろう。ただでさえガラクタから動物を生み出したりあちこちから鋏を創り出したりと常軌を逸脱した現象を見てきたのに、ここにきて時間そのものを巻き戻すという話にまで発展したことに誰もまだそのことについて考えるほどの余裕ができていなかった。しかし、その中で二人だけ様子の異なる人物がいた。考えるまでもなく否定している石丸と、苗木の話を聞いてどこか達観したような表情の大和田である。

 

「…は、ははは、ははははは!何を言うかと思えばとんだ与太話ではないか!時を巻き戻す?そんなことがあり得るわけないだろう!いくら方法が思いつかないからと言って、出鱈目を言うのはやめたまえッ!!」

「……」

「なあ兄弟、君も苗木君のこの頓珍漢な推理を笑って…」

 

 

 

 

 

ブオンッ!

『!!?』

突如として大和田の肩に現れたその存在に、全員が驚く。それはまるでタコのように楕円状の球体から幾本もの触手のようなものが生えており、球体の部分には格子模様のような紋様があった。その存在は触手を大和田に絡みつかせ緩やかに動いており、その珍妙な形は誰が見てもスタンドとしか思えなかった。

 

「きょ、兄弟…それは、まさか君の…?」

「…こいつの名は『マンダム』。能力は6秒、きっちり6秒だけ『時を巻き戻す』能力だ」

「時を…!じゃあやはりあなたが…」

もはや大和田は何も反論しなかった。霧切の問いに、静かに頷く。

 

「…認めるのですね。不二咲君を殺したことを」

「……ここまで言い当てられてまだ悪あがきなんざ、格好悪くて仕方ねえからな」

「きょ、兄弟…!?」

「…モノクマ、始めてくれや。投票タイムって奴をよ…」

「ラジャー!!」

「ま、待て!待ってくれぇッ!!」

 

石丸の叫びも空しく再び現れたスロットが生徒達のスイッチの結果を受け回転を始める。いくらかの回転の後、ゆっくりとスロットが止まる。そして、そこに映し出されていたのは―大和田の顔であった。

 

「きゃっほーい!!またまた大正解!不二咲千尋君を殺したクロは、大和田紋土君でした!……ちなみに、投票は全員一致とはなりませんでした。石丸君、自分に投票するってのはどうかと思うなぁ~?」

判決の内容を受けても、大和田はそれを否定しようとしない。そんな大和田に、隣でワナワナと震えていた石丸が食って掛かる。

 

「…何故だ…!何故だ兄弟ッ!何故不二咲君をッ…!!」

「…すまねえ…」

大和田は何も答えない。が、そんな大和田の代わりに空気を読まない奴がべらべらと喋り出す。

 

「えー、それじゃあ黙秘権を使用した大和田君に代わりボクの方からお話ししましょう!」

 

モノクマの口から語られたのは、不二咲千尋の過去。生まれつきの華奢な体と女々しい仕草からいつも「男のくせに」といじめられてきた不二咲。彼がそんな現実から逃げるために取った行動、それが女性になりきるということであった。それは不二咲にとって絶対に知られてはならないことである。もしバレてしまえば、今まで以上に責められることは目に見えているだろうから。

そんな時、彼に訪れた最悪の事件。それがモノクマの用意した動機、「知られたくない過去」に関する物であった。もしこのことが世間にばらされればその結果など目に見えている。彼は深く動揺した。しかし、彼はそこで折れることはなかった。直後に受けた大和田からの言葉と『男の約束』。それが彼を奮い立たせ、ある決断へと導いた。そう、「今の自分を変える」という決断に。

 

『今こそ、今だからこそ強く変わるんだ!』

彼はまず体を鍛えるところから始めることにした。しかし今まで碌にスポーツすらしたことが無い不二咲には何をどうすればいいのか分からない。その道の専門家である朝日奈や大神にアドバイスをもらおうにも異性である二人とどう接していいのかも分からない。そこで彼が頼ったのは、同性で自分にとっての『男』の象徴でもある大和田であった。そして同時にもう一つのことを決めた。大和田に自分の真実を知ってもらおうと。人気のなくなった深夜、彼は大和田を更衣室に呼び出し、そこで自分が男であることと、弱い自分を変えるために協力して欲しいと願い出た。

 

『僕、大和田君みたいな強い人になりたいんだ…。いつかこの秘密を自分で話せるように、いつまでも嘘から逃げている自分を変えたいんだ!!』

 

「…しかし不二咲君は知らなかったのです。大和田君にも、誰にも言えない過去があったということを。…じゃあ折角だから言っちゃおうか。大和田君が絶対に知られたくなかったこと、それは…

 

 

 

 

 

 

        自分のお兄さんを殺したんだよ!!」

 

『!!?』

「……ッ!!」ギリッ…!

皆が驚愕する中、感情を抑え込もうと歯を食いしばっていた大和田がしとしととその全容を話し出した。

 

元々彼が暴走族に入ったきっかけは、彼の所属するグループ『暮威慈畏大亜紋土(クレイジー・ダイアモンド)』の創設者であり彼の兄、大和田大亜であった(チーム名の由来は彼の親友である大和田と似た髪型の青年の言葉らしい)。チームを全国規模にまで大きくさせた兄を大和田は心から尊敬しており、バイクの免許を取りチームに入ると兄の背中を目指して突っ走り、あっという間にチームのナンバー2にまでのし上がった。

しかし、チーム内に置いて彼と彼の兄との差は決して小さいものではなかった。兄が引退し弟が二代目を継ぐことになった時、チーム内では不安の声が上がっていた。

「ナンバー2に二代目が務まるのか?」

大和田はそんな陰口を黙らせるため、総長の座を賭けて兄に勝負を挑んだ。豪雨の中でひっそりと行われた峠の一本勝負。勝負は一進一退の白熱したものだったが、勝ちを焦り過ぎたあまり無茶な走りをした大和田。

 

そんな大和田の前方から大型トラックが突っ込んできた。豪雨による視界の悪さとスピードの出し過ぎで躱すことなど到底不可能。直後に迫る自分の運命に大和田は思わず目をつむり、

 

 

横からバイクをぶつけてきた兄によってバイクもろとも側道へと突き飛ばされた。

吹き飛んだ先で痛みを堪えながら大和田が起き上がると、先ほどまで自分がいた場所には無残にひしゃげた兄の愛車が転がっており、その横には四肢があらぬ方向に曲がり頭と口から血を流す兄の姿があった。

 

『兄貴ッ!しっかりしてくれ!!どうして、俺なんかの為に…ッ!』

もはや助からないであろう兄を抱きかかえ泣き叫ぶ大和田君に、兄は昔から変わらぬ優しい笑みで大和田に言う。

 

『後は…託したぜ…紋土…!俺とお前で作ったチーム…、潰すんじゃあねーぞ…『男の約束』だ…』

そして彼は息を引き取った。

 

『兄貴ィーーッ!!!!!』

 

そうして大和田紋土はチームの二代目に就き、先代の事を訪ねてくる連中に対しこんな嘘をついた。

 

「負けそうになった兄が無茶な走りをして自滅した」

それにより、チームは「兄に勝った弟」の下で再び一つとなった。以降、大和田はその嘘によって形作られた強さでチームをけん引していく『覚悟』を決めた。しかし、真実を知る大和田自身には分かっていた。その『強さ』が、同時に自分の『弱さ』を象徴するものであるということを。

 

「不二咲が俺に相談しに来た時、正直俺はあいつを尊敬したよ…。自分の弱さと向き合う『覚悟』を持ってたんだからな。…けれど、それ以上に俺はあいつに嫉妬しちまったんだ。それもただの嫉妬じゃあねえ、とんでもなくイカれたぶっ壊れた嫉妬をよ…!」

 

『……嘘から…逃げている自分に、だと…?俺がやったことは、間違いだってのか…!?』

『…え?』

『お前も…仗助さんと同じことを言うのかよ…!秘密がバレたら、チームは…兄貴との『約束』が終わっちまうんだぞ…!』

『ぼ、僕、そんなつもりじゃあ…ただ、その、大和田君みたいな強い人に憧れてて…』

不二咲の言葉を聞きながら、大和田はゆっくりと足元のダンベルを手に取る。

『…ああ、そうだ。俺は強えぇんだ…!俺は強い、強い強い強い強い強い…お前より、兄貴よりもだあぁぁぁぁーッ!!!』

『!ひっ…』

雄叫びと共に振り下ろされたダンベルに対し、不二咲の『20CB』がそれを迎え撃つべく展開される。

その瞬間、大和田は無意識に『それ』を発動した。

 

「『マン…ダム』…ッ!」

次の瞬間、時間は6秒前の状態に戻り発動していた『20CB』も発動前に戻される。

 

『……え?』

時間の逆行による反動を理解しきれず立ち尽くす不二咲に

 

『兄貴よりもだあぁぁぁぁーッ!!!』

大和田の振り下ろしたダンベルが、いともたやすくその頭蓋を打ち砕いた。

 

 

「気づいた時には血塗れのアイツが足元に倒れてて…アイツは何も悪くねえ。自分を抑えきれなかった俺が弱かっただけなんだ…」

「大和田君…」

「兄弟…ッ!」

「…一つ聞きてえ、苗木、霧切、お前らいつから俺の事目ぇつけてたんだ…?」

「…あなた、男性と女性で呼称が違うのよ。女性の事は「あの女」みたいに言うのに男性は「アイツ」と呼んでいた。そして事件後からあなたは不二咲君の事を「アイツ」と呼んでいた。…その時気づいたのよ。あなたは彼が男だと知ってたんじゃあないか…って」

「…壊れた電子生徒手帳を見た時点で君が何らかの形で事件に関わっているとは思っていた。そして、不二咲くんの電子生徒手帳が壊れていたことを知って事で、君が犯人だと確信できたんだ」

「…何だと?」

「仮に他の人が犯人だとするなら、不二咲さんの電子生徒手帳を壊すことにメリットなんてないし、そもそも壊し方が分からない筈。壊すことに意味があるとするならそれは一つ。不二咲さんに関する何らかの『情報』を隠蔽するため。そして、不二咲さんが隠していることといえば男であること。その事実を知ってなおそれを隠そうとする人物、そして電子生徒手帳の壊し方を知っている可能性がある人物といえば、不二咲さんとの間に『男の約束』を結んでいる大和田君、君しかいないと考えていたんだ」

「……ケッ、霧切。テメエはつくづく恐ろしい女だと思ったが、苗木の方がよっぽどとんでもねえな。事件だけじゃなく、俺の心の中までも見透かしてきやがる。十神の言うとおり、オマエ絶対ただの学生なんかじゃあねーよ。意外とどこぞのヤクザの元締めとかそんなんなんかじゃあねーのか?ハハハ…」

力なく笑う大和田は、もはやこれより起こるであろう事態を諦めていた。

 

「あっはっはっは!そら見なよ!たかが思い出や過去の為仲間を殺しちゃうなんてさ!そんな奴らのどこが『希望』だってのさ!ちゃんちゃらおかしいよ!」

「ぐっ…」

「なんだと貴様ッ!もう一度言ってみろッ!!」

「やだね!それにそろそろおしおきを始めないと皆を待たせちゃうからねえ」

「!おしおき…!」

モノクマの無慈悲な言葉に、先日の桑田の光景がフラッシュバックする。

 

「ま、待て!この裁判は無効だッ!やり直しを要求する!!」

「はあ?何言ってんのさ、何度も言うけど秩序を乱したものは罰を受ける。それが社会のルールってもんでしょ?『超高校級の風紀委員』の石丸君になら、分かる筈だよねえ~?」

「や、やめろ…」

「…済まねえ兄弟、気を遣わせちまってよ。それと『マンダム』、こんな情けねえ奴がお前の本体で悪かったな。今度誰かのスタンドになるときは、もっと『男らしい』奴のところに生まれ変わってくれや…」

涙ながらに訴える石丸、そして自分の肩にしがみついている『マンダム』に大和田が呟く。

 

 

モノクマの前に、再びあのスイッチ。処刑執行の合図となるスイッチがせり上がってくる。

「『超高校級の暴走族』の大和田君の為に、スペシャルな、おしおきを、用意しましたー!!」

 

 

 

「うおおおおおッ!待ってって言ってるじゃあないかぁぁ!!!!!」

 

 

 

「済まねえ兄貴…。『男の約束』、守れなかった…!」

 

 

 

 

「あああああああああああああ!!!!!!」

 

 

 

 

 

石丸の絶叫が響く中、モノクマが手にした木槌でスイッチを、押した。

 

 

 

 

 

 

モノクマがスイッチを押すと同時に、再び壁が開き大和田が引き込まれる。そんな大和田を、石丸が叫びながら猛追し残った生徒達もそれを追いかける。

やがて開けた空間に出ると、その先である一点がスポットライトに照らされる。そこにいたのは大型バイクに騎乗する似合わないリーゼントヘアーのモノクマとその後ろに括り付けられ観念した表情の大和田であった。駆け寄ろうとする石丸の前に、無情にもシャッターが下りてその行く手を阻む。やがてモノクマがエンジンを吹かし、バイクから轟音が鳴るとそのバイクの先、進行方向であろう場所が照らされる。

そこにあったのは、サーガス楽団の大道具のようなテントや虎のパネルとその中央にあちこちにコイルや電線やなにやら太いパイプが繋がっている球状の鉄檻が鎮座されており一つだけ入り口が開いていた。

 

 

「たらららったった~ん!猛多亜最苦婁弟酢華恵慈(モーターサイクルデスゲージ)!!」

モノクマが宣言と共に檻の入り口めがけ突っ走る。そしてそこに突っ込む瞬間、

 

「緊急離脱ッ!」

モノクマの座席が跳ね上がりモノクマだけが脱出し大和田は運転手をなくし慣性に従って動くバイクと共に檻に突入する。猛スピードで突っ込んだバイクは球状の檻に激突することも停止することもなく檻の形に従って大和田を乗せたままぐるぐると檻の内側を激走する。

そして檻の入り口が閉じられると同時に、檻に繋がったコイルや電線から電流が流れ檻の鉄柵が電気を帯びて発光する。電気ということは当然ただ光るだけでなく凄まじい熱が檻の中で発生し、猛スピードで回るバイクとの相乗効果で大和田はまるで電子レンジの中にいるかのような状況に置かれる。それを呆然と見る生徒たちと檻の外で呑気にフラフープをしているモノクマの眼前で、檻の発光が一段と強まり凄まじい光と熱をまき散らしその視界を一瞬奪う。

 

視界が回復すると既に檻に発光は無く、檻の中のバイクも煙を上げながら停止して横たわっていた。しかし、肝心の大和田が檻の中にいない。すると、檻に繋がったパイプの先、ところどころ血錆が浮いた機械が動きだしランプがいくらか点滅すると扉が開いて中からなにやら箱のようなものが出てきた。モノクマがそれを手に取りこちらに見せると、その箱のパッケージにはこう書かれていた。

 

 

 

 

『大和田バター 内容量80㎏』

 

それを見た瞬間、全員がその箱の中身が何なのかを悟った。あのパイプは檻の中に繋がっていた。大和田の姿が檻の中にいない以上、大和田がそのパイプに引き込まれたのは想像できる。ならばその先にあった機械より出てきたコレの原料は…

それを想像しショックを受ける一同の前で、モノクマはどこから持って来たのかテーブルとホットケーキの乗った皿を用意し、その上に『大和田バター』の中身とハチミツをかけ満足そうに言う。

 

 

「死よ、優しく笑え…。そしてあなたの魂に、安らぎあれ…」

 

 

 

「うわああああああああああッ!!!!」

堰を切ったかのように石丸が崩れ落ちて絶叫する。他の生徒達も、その凄惨さにショックを隠し切れず、ただただ立ち尽くしていた。

 

 

 

 

 

 

 

「いやあ、それにしてもなかなかいい調子なんじゃあないかな?うん、ディ・モールト ベネ!(すごくイイ!)いいペースだよ!」

学園のどこか、モノクマの自室にてモノクマは先ほどの口直しに紅茶を啜っていた。が、基本ぬいぐるみのモノクマが飲み食いできるはずもなく飲んだ端から口から垂れ流しになっている。

 

「やっぱり、膠着状態になる前に最初の殺人に及んだ舞園さんの功績が大きいよね。あれでタガが外れたっていうかさあ…でも…」

しかし問題なのはそこではない。テーブルに置かれたティーカップの数は、2つ。一つはモノクマ、もう一つはモノクマと向き合うもう一人の人物。

 

「残念なのは折角連中の元に送り込んだ君の出番が無くなってしまったことだよね。本来なら君が口火を切る筈だったんだけど…。…まあ今はとりあえず引き続き苗木君の監視と霧切さんのスタンドの調査をよろしくね!」

「……」

モノクマの言葉に、その人物は何も答えない。しかしモノクマには分かっている、こいつに拒否権などない。例え嫌でも協力せざるを得ないということを。

 

「…んー、今日は少し機嫌が良いから何でも答えてあげるよ。なんか質問とかある…?」

その言葉に、黙っていたその人物が口を開く。

 

 

 

 

 

「……『16人目の高校生』と『矢』って一体…?」

「ブーッ!!」

その質問にモノクマは思わず噴き出した。

 

「だ、ダメダメ!それだけはぜぇーったい答えられない!それを言っちゃあ全部終わっちゃうからね。却下却下!」

咳き込んだ息を整えながらモノクマは目の前の人物に向けて言う。

 

 

「流石にそれは教えられないよ。…いくら『内通者』である君でもね」

 

 

 

 

 

不二咲千尋―大和田紋土に殺害されて死亡。再起不能 スタンド名『20th センチュリー・ボーイ』

大和田紋土―不二咲千尋を殺害、学級裁判にてクロと見破られおしおきを受けて死亡。再起不能 スタンド名『マンダム』

内通者―正体不明。 スタンド名『???』

 

生き残りメンバー、残り11人。

 




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