犯人はやすひろ。そう言い残して山田は完全に息を引き取った。その事実に皆が沈鬱な表情を浮かべる中、十神が心底落胆したかのようなため息をつく。
「…興ざめだな。山田の奴も最後に下らん悪あがきをしてくれたものだ。おかげでゲームの難易度が下がってしまった」
「犯人はやすひろ…この学園でやすひろという名前の持ち主なんて、葉隠康比呂しかいませんわ」
「そして今奴は行方知らず…、ほぼ決定的という訳だな。未だ消えたままの霧切と江ノ島の行方も気になるところだが…」
「共犯の線は薄いでしょう。犯人に協力したところで出られるのは実行犯であるクロのみ、手伝う旨みはありませんわ。もはや捜査をする価値もありませんわ。学級裁判までゆっくりお茶でも…」
「…本当にそうなのかな?」
山田の遺した言葉により葉隠が犯人であるとほぼ決まりかかった空気に、苗木が待ったをかける。
「どうしたんですの苗木君?」
「…葉隠君が犯人だと決めるのは葉隠君を見つけてから直接確かめてからでもいいと思うんだ。どうせ学級裁判には出なければいけない以上、いずれ出てくると思うし…。それに、すこし気になることがあるから色々と確かめたいんだ。だから捜査だけでもしておきたいんだけど…」
苗木の言葉に、セレスはハァ、とため息をつく。
「…仕方ありませんわね。そこまで言うならやるだけやりましょうか。無駄だと思いますけれど…」
と、そこに
「ハイハーイ!お待たせしましたモノクマでございます!では今回も『モノクマファイル』を渡しておきますので頑張ってくださいな!それでは後ほど~!」
モノクマがひょっこり現れいつも通り事件に関するのデータを渡してさっと消えていった。
「…渡すだけなら黙って置いていけばいいものを…」
「まあ、今回はこれが無いと困るから大目に見るとしよう…」
モノクマファイルを手に、一同は捜査を開始した。とはいえ皆で一か所にとどまっていても仕方ないので、ある程度死体を観察すると皆は他の事件現場である娯楽室や保健室を回ったり、犯人候補である葉隠や消えたままの霧切と江ノ島を探しに出て行った。そんな中で、苗木は一人美術倉庫に残りモノクマファイルの情報を片手に死体の周辺や現場の状況を深く調査していた。
この時点で、苗木には分かっていることが一つあった。それは、山田はただ殺されただけの被害者ではなく、何らかの形で殺人に関わった『共犯者』かもしれないということである。
(石丸君の死体の下に敷かれたブルーシート、そして滑車と台の端に血痕が付着した台車。どちらも確か物理準備室にあったものの筈だ。それを使って石丸君の死体を運んだとして、台車での移動が困難な一階にあった山田君の死体がココにあるということは、…やっぱり山田君はあの時まだ生きていたんだ。でなければわざわざ死んだふりをしていた説明がつかない。どうやって心臓が止まった状態から蘇生したのかは分からないけれど…)
しかし、苗木にはまだ分からないことが残されていた。
(二人には共通して頭部に傷がある。凶器は恐らくそこにかかっている彫刻用の木槌を彩色して作ったあのジャスティスハンマーだろう。…だけど石丸君の死因はそれだけれど山田君の死因は『多量の内出血による失血死』となっている。それが心臓を抜き取られたことに起因しているとするならば、…分からないのはどうやって山田君を殺したのかということだ。…多分スタンド能力で間違いないだろうけど、何の制約もなしに相手の内臓を抜き取るような能力とは流石に考えにくい。おそらく何らかの『条件』を満たしたうえでそれが可能になるんだと思うけど……)
「……あれ、山田君の服の下に何か…これは、ノート?マンガのネームかな?だいぶ血で汚れてるけれど……これは!?」
と、山田の懐から見つけた思いがけないものに気を取られていると、突然美術倉庫の扉が開かれ何かが飛び込んでくる。
「…え?何?……うわっ!?」
振り返った苗木に飛びついてきたのは、一匹の犬であった。苗木には、その犬に覚えがあった。
「お前…!僕が生み出した犬か?何時までたっても帰ってこないと思ったらどこ行って…」
「苗木君」
入り口から聞こえてきた声の方を向くと、そこには行方知らずだった霧切がこちらを見ていた。
「き、霧切さんッ!?今までどこに…?…ってもしかして、こいつが帰ってこなかったのって…」
「…しばらく借りてたわ。中々優秀な子だったわ」
「勝手に人の能力を…まったく…」
「…それより、大変なことになったみたいね」
美術倉庫の二人の死体を見てそう言う霧切に、呆れていた苗木も表情を改める。
「…うん。まさか二人も一度に殺されるなんて。…あ、そうだ!霧切さん、捜査したいところ悪いんだけど、江ノ島さんと葉隠君知らない?まだ姿が見えないんだけど…」
「…そうね、その方が先かしら。苗木君、悪いけれど他の皆を集めてプールまで来てくれるかしら?」
「え?それはいいけど…」
「そう、じゃあ先に言ってるわ」
「…あ!ちょっと待ってよ霧切さん!江ノ島さんと葉隠君は…」
「来れば分かるわ。江ノ島さんもそこにいるわ」
「…え?」
そう言ってさっさと行ってしまう霧切に嘆息しながらも、苗木は言われたとおり全員を集めるため美術倉庫を去っていった。
しばらくして全員を集めてプールに向かうと、プールサイドの一番奥のロッカーの前に霧切と江ノ島が立っていた。
「…あ!やっと来た!みんな遅いってー!」
「…貴様らこんなところで何をやっていた?こんなところに呼び出して、何のつもりだ!」
「…これよ、さっき見つけたの」
そう言って霧切が後ろのロッカーを開くと、
「!?」
「ああッ!?」
「こ、これは…」
そこにはあのセレスの写真に写っていたジャスティスロボが無理やり押し込められていた。
「実はアタシらついさっきまで二階を虱潰しに調べてたらさ、霧切の連れてた犬がこのロッカーでこいつを見つけたの。…で、ちょうどその時『死体発見アナウンス』が流れたから様子を見に行こうとしたんだけど、霧切が「私が行ってくるから江ノ島さんは見張りをお願い」なんつって犬連れて一人で行っちゃうからずーっと待ちぼうけでさ…」
と、江ノ島が愚痴を零していると
「え、江ノ島っち!?霧切っちが戻って来たんけ?だったら早くここから出してくれ~ッ!!」
ジャスティスロボの中から聞き覚えのある声がした。
「!今の声って…」
「葉隠…!」
大神さんと苗木が二人がかりでジャスティスロボをロッカーから引っ張り出し、その頭部を外すと、どうやって収まっていたのか分からない爆発ドレッドの髪が印象的な葉隠の顔が露わになる。
「ぷはぁっ!いやあ苦しかったべ…」
「葉隠ッ…!やっぱりあんたがッ!!」
「はぁ?」
「どうやら隠れていたつもりらしいが、敵に助けられるとは貴様らしい醜態だな」
「ギャハハハハ!オッサンかっこ悪すぎ!」
「おっさんゆうな!まだ二十歳だべ!…っていうか何の話だべ?」
「とぼけないでください。あなたが山田君と石丸君を殺したのでしょう?あなたが着ているそのジャスティスロボの衣装がなによりの証拠ですわ」
「…はぁ!?山田っちと石丸っちを、俺が!?っていうか二人が死んだのか!?」
「なに知らないふりしてんのさ!あんた意外に誰がいるっていうのよ!」
「いやいやいやいや!俺ホントになんも知らねえんだって!…昨日夜中に変なメモで呼び出されてよ…」
「変なメモ?」
「ああ、『抜け穴らしきものを見つけたから、モノクマに見つからないように娯楽室に集合』って書いてあってよ…。んで娯楽室に行ってみたらいきなり後ろからクスリ嗅がされて眠らされちまって、気が付いたらこの有様だべ!」
「…昨日不審な情報に踊らされない様に、って僕言ったよね?」
「うう、面目ないべ…、いででで!どわぁッ!?」
と、なんとか動こうとした葉隠であったがうまく動けずもたついているとバランスを崩してすっ転んだ。
「…膝も満足に曲がらんような衣装をよくも用意したものだ」
「よくもこれだけ体にフィットしたものを着れたものだ…ッ!」
「あ、あででで!もう、もうちょっと優しく…」
「まったく…。…ん、これ外に留め具が…?」
四苦八苦しながらどうにか葉隠から衣装を引っぺがした。
「いててて…、着させられたんだから仕方ねえだろうが…」
「ならばそのメモとやらを見せてみろ」
「確か、ポケットの中に…あれ?無え…」
「…無実を証明したいのなら、それ相応の証拠を見せることだ」
「白状しなよ!あんたが皆を襲ったんでしょ!?」
「知らねえって!つーかあんな物着てたら襲うとか殺す以前に身動き一つとれねえよ!動けたとして万が一『ドラゴンズ・D』の大凶の位置踏んじまったらどうなることやら…」
と、呼ばれたのかと思ったのか葉隠の傍に『ドラゴンズ・D』が現れる。
『ヨウ!災難ダッタナヤスヒロ!』
「一応聞くが、貴様は事件の一部始終を見ていたのか?」
『知ラネーナ!俺はヤスヒロが寝コケチマッタ時点で何も分カンナクナルカラナ!マア、仮に知ッテタトシテモ俺は『中立』ダカラ教エネーケドナ!』
「そ、そんなぁ…」
『マアソレはソレとしてヤスヒロにお知らせダゼ!今日のオマエの運勢は大凶!』
「んなこと言われなくても分かるべよ!」
『話は最後までキケッテ…。タダシ、ラッキーカラー『ゴールド』を近くに置イテオクト逆転の可能性がアルゼェ~』
「ゴールドォ?…つーことは金色か、この学園で金色っつーと…」
葉隠の視線が向けられたのは、スタンド『ゴールド・E』を持つ苗木誠。
「苗木っちぃ~!ヘルプミーだべ~!!」
「うわっ!?急に抱き着いてこないでよ!」
「そんなこと言わないでくれぇ~!俺が無実だって分かんだろ?助けてくれだべぇ~!」
「…ああ分かった分かった!できる限りのことはしてみるからとりあえず離れて!」
「きゃっは!オッサンキモッ!ホモかっつーの!」
「情けないよ葉隠!苗木に縋ってないで男らしく白状しなよ!」
騒ぎ立てる葉隠たちを見て江ノ島がハア、と嘆息し…それを無視して立ち去ろうとする霧切を見て耳元で呟く。
「…黙っとくつもり?アンタが見つけたあの『場所』のこと…」
「…今言う必要はないわ。下手に情報を教えて皆を混乱させたくはない。そんなことをしてら苗木君に要らぬ気遣いをさせてしまうでしょうしね。…学級裁判が終わったら教えるつもりよ、それまで黙っててもらえるかしら…?」
「…仕方ないか、苗木の為だもんね」
「…随分彼の肩を持つのね?」
「……まあね」
立ち去っていく霧切を見送りながら、江ノ島は誰にも聞こえないような小さな声で呟く。
「…彼しか、いないから。『あの子』を『絶望』させられるのは、もう苗木君しかいないんだから…」
霧切と江ノ島、そして現在容疑者最有力候補の葉隠を加えて再び捜査が再開された。苗木が向かったのは保健室。あの時山田が殺されていた『と思われる』現場であった。
「さてと…」
保健室に入った苗木が近づいたのは、部屋の中央付近に残った山田のものと思われる血だまりである。苗木はその血だまりに手をやり、再びその言葉を口にする。
「『ゴールド・E』…!」
放たれた生命エネルギーが血だまりに流れ込み、石丸の時と同じように血だまりから一匹の蜂が這い出てくる。
「この血が本当に山田君のものなら、こいつは山田君の死体の元に飛んでいくはず…」
しかし、蜂は飛び上がったかと思うと山田のところへ向かうどころか出口とは反対方向に飛んでいき、保健室の隅にある冷蔵庫の扉に止まる。苗木がその冷蔵庫の扉を開け、中に入っていたものを確認すると、そこで苗木は確信する。
「…やっぱり山田君はあの時生きていたんだ。とすれば、あの時彼は何らかの方法で心臓を止め己の死を偽装した。そして真犯人、クロの手で蘇生されて僕らに気づかれないよう行動を始めた。…とすればやっぱり犯人はあの時僕らと共に行動していた誰かということになる。真犯人としては僕らが山田君と鉢合わせないように皆を誘導する必要があったはずだ。そしてなおかつ、山田君を蘇生させることができた…つまりあの時山田君の死体に近づいていた人物となると………まあ、葉隠君が嘘を言っているのならそれで終わっちゃうんだけどね」
一人考え込む苗木であったが、その心中には犯人に近づいているという確信と共に得も知れぬ不安のようなものが渦巻いていた。
「なんだろう…。なんでかよく分からないけれど、凄く嫌な予感がする…」
不安な表情で、苗木は上の階で捜査をしている筈の彼女の名を呟く。
「霧切さん…大丈夫かな…」
美術倉庫で死体の捜査をしていた霧切は、他の皆が触れることが無かった山田と石丸の死体にも何の躊躇いもなく手を伸ばし、その結果かなりの証拠を得ることに成功し、『ムーディ・ブルース』の能力により事件の真相をほぼ理解していた。
「…これで大体の事件の流れは分かったわ。あとはあとはどうにかして犯人を炙り出すかなんだけど…その辺は彼に任せましょう」
今回も事件の推理そのものを苗木に託し、自分はサポートに回ることを決めた霧切りは、フゥ、と息をついて独白する。
「もう少し…あと少しでこの学園の全てが解放される。その時になったら分かるのかしら…?私の目的も、私自身のことも…」
『そうだな。だが霧切響子、貴様がその『真実』に触れることは永久に無い』
「ッ!!?」
突然聞こえてきた聞き覚えのない声に寒気を感じその場を飛び離れると、今しがた自分がいた所に紅い閃光が迸った。
「…何者ッ!?」
その閃光、貫手を放った張本人はおおよそ人とは思えない姿をしていた。全身をピンクに近い紅色の格子模様のタイツを着込んだような見た目をしており、ぎょろっとした目の能面のような顔の額には同じ顔がもう一つついていた。明らかにスタンドとしか思えないようなそいつは自身の攻撃を避けた霧切を見て、見下したかのようなため息をついて言う。
『…フン、ドブネズミらしく逃げるのは達者なようだな。だがそれもいつまでもつか見ものだな…』
「質問に答えて…!あなたは何者?誰のスタンドなの?この事件の犯人?それとも…黒幕?」
『それを説明する必要はない。小娘、貴様はここで死ぬのだからな…』
「…そう、けれど黙って殺されるつもりはないわ」
その言葉と共に、霧切の背後から『ムーディ・ブルース』が出現する。
『やれやれ、また呼び出しか。今度は一体……ッ!?』
けだるそうに現れた『ムーディ・ブルース』であったが、目の前のスタンドを見た途端声がそこで途切れ、さらに微かに震え始める。
「…どうしたの?『ムーディ・ブルース』…?」
『…逃げろ…、キョーコ…ッ!!』
かすれた声で絞り出された警告。その声には怯えと同時に怒りすら感じられた。
『俺たちではどうあっても奴には勝てねぇ…、だから逃げろキョーコ!急いで人目の付くところに所に逃げるんだッ!!』
「どういうこと、あなたのスタンドを知ってるの?」
『…会ったことはねえ、見たとしても一瞬だから多分覚えてねえ。けれど分かっちまった…、音だけ聞いてブルドーザーだと分かるぐらいにハッキリ分かっちまった…ッ!奴は…ッ!』
『…お喋りが過ぎるぞレオーネ・アバッキオ。貴様は俺の『絶頂』を脅かす危険分子だ。アイツの都合などもはやどうでもいい。貴様らはッ!今ここで、始末するッ!!』
『ムーディ・ブルース』がその正体を口にすると同時に、そのスタンドは己の能力を発動させた。
『『キング・クリムゾンッ!!!』』
その瞬間、世界は確かに停止した。いや、ただ止まったのではない。ピクリとも動かない霧切の足元が崩れていく。足元だけではない、壁が、彫刻が、世界そのものが崩れていき、そこには霧切と『ムーディ・ブルース』、石丸と山田の死体、そしてその崩れた世界の中で悠然と歩き出す『キング・クリムゾン』のみが存在している。
『『時間』を『消し去って吹き飛ばした』。今この『消し飛んだ時間』を認識しているのは私だけだ。この事件の中で起きた事象は誰も認識することができない。聞こえていないだろうが、例え今貴様が私に反撃したとして、私にはその軌道が手に取るようにわかる。そしてその後には『結果』だけが残る。そう…』
『キング・クリムゾン』は霧切の前に立つと、再び手刀を作ってそれを振り上げる。そして
『貴様が死んだという『結果』だけがなぁーッ!!』
霧切の頭部目掛け手刀が振り下ろされた瞬間、消し飛んだ時間が再び動き出す。目の前のちっぽけな少女一人を殺すのにもはや能力は無用と考えてのか、それともただ単に油断しただけなのか。『キング・クリムゾン』は能力を解いた、解除してしまった。そんな『キング・クリムゾン』の視界にたまたま入ったもう一つの能力、『墓銘碑(エピタフ)』に映った未来は―
霧切へと手刀が届く寸前に、見覚えのある『戦闘機』の機銃によって手に孔が開けられる自身の姿であった。
『何ッ!!?』
「『エアロスミス』ッ!!」
驚くと同時に聞こえた声の方向から、ラジコン飛行機サイズの戦闘機が来襲しそれから放たれた機銃の弾丸が『キング・クリムゾン』…ではなく美術倉庫の入り口付近に隠れていたその人物に殺到する。
『グッ!?』
予知していたおかげで間一髪で躱したものの、移動したことでスタンドの射程を外れてしまったのか霧切へと振り下ろされた手刀が当たる直前に『キング・クリムゾン』は消滅する。
「ッ!?」
『い、今のは…!』
突然の出来事に驚く霧切と『ムーディ・ブルース』が倉庫の外に目を向けると、そこにはある生徒と一機の戦闘機が浮かんでいた。
『ヒョォーッ!間一髪だったなアバッキオォ~ッ!!』
「間に合ってよかった…!」
戦闘機の中から聞こえてくる陽気な『声』にその生徒も同調する。その二人を見て、今しがた撃たれかかったその人物は憎々しげに口を開く。
『何故だ…、何故貴様までここに居るッ…!?』
『ハッ!テメエの好き勝手にさせる訳ねぇーだろぉーがよぉ~ッ!』
「…これ以上その『体』で下らないことはさせない…!『あの子』の為に、私はあなたと闘うッ!」
普段とは全く異なる口調で喋る『彼女』と戦闘機に、その人物はゆっくりと立ち上がりながら叫ぶ。
『許さん…許さんぞッ…!今回はここで退いてやるッ…、だが次に会った時が最後だ!そこの霧切響子とレオーネ・アバッキオもろとも殺してやるぞッ!『エアロスミス』…いや、『ナランチャ・ギルガ』!そしてそこの『裏切り者』ッ!!』
捨て台詞を残し、そいつは『キング・クリムゾン』で壁の一部を破壊すると、その奥へと入っていきその直後に再びそこから破壊音が生じる。二度の衝撃により生じた瓦礫の雨を避け、その場所を見ればそこはもう瓦礫に埋もれ、もはや何があったのかすら分からない状態になっていた。
『…レーダーからどんどん離れていくぜぇ~、いいのかよぉ~?』
「別にいい…。今私が会ったところで、あの子には何もしてやれないから…」
右眼に装着された二酸化炭素を探知する『レーダー』が示すここから離れていく一つの光点を見送りながら『彼女』はそう言う。
「…それが本来のあなた、という訳かしら?」
声に反応して見やれば、先ほど助けた霧切が『ムーディ・ブルース』を従えこちらを見ている。
「どうして、私を助けたの?」
「…あなたが死んだら、苗木君が悲しむ。だから助けた。…それだけだよ」
『…チッ、あいつ俺たちの知らねえところで随分とモテてやがったみてえだな…』
『ホントだぜぇ~!絶対俺の方がかっこいいってのによぉーッ!!』
まるで親友のように言葉を交わすスタンド同士とは真逆に、本体の二人の会話は淡々としたものであった。
「…一つだけ聞かせて。あなたはどちらの味方?黒幕?それとも私たち?」
「……」
先ほどの『裏切り者』という言葉の真偽を遠回しに聞くその問いに、『彼女』はしばらく考えた後に答える。
「…私は『あの子』の剣だった。『あの子』はそれを望んでいたし、私もそうすることでした『あの子』に報いることができなかった。…でも、『あの子』は私を要らないと判断した。もう私には戻るべき鞘は無くなった…」
だから、とそこで『彼女』は顔を上げ霧切と向き合って言葉を続ける。
「私が味方するのは、苗木君だけ。もう苗木君しか、『あの子』にはいないから。私にできるのは、苗木君を『あの子』の前に連れて行くことだけだから。…だから、私はどんな時も苗木君の味方。…そしてあなた達が苗木君の味方である限り、私はあなた達の味方だよ」
その答えに霧切はしばらく『彼女』を見つめ、しばらくしてフッ、と笑う。
「…苗木君の味方、か。…いいわ、中途半端に日和った答えなんかよりはよっぽど信頼できる答えだったわ。…信用するわ、あなたの言葉を、あなた自身も」
キーンコーンカーンコーン
『……………フゥ。…あ!遅刻したんじゃあないですよ!ちょっとそこの川を鮭が上ってたからクマとしては見過ごすわけにもいかず……と、とにかく!学級裁判、おっぱじめまーすッ!!』
モニターが映ってもしばらく出てこなかったモノクマが捜査時間の終わりを告げる。遅刻の原因を知る二人は、その放送を聞くと顔を見合わせ美術室を去る。
「行きましょう。あなたの目的の為にも、私の目的の為にも、まずはこの学級裁判を乗り越える必要があるわ」
「うん…そうだね」
『彼女』はそこで一旦顔を伏せ、次の瞬間には普段通りの笑顔とノリに戻っていた。
「じゃあちゃっちゃと行こうか霧切!」
「…そうね、行きましょう―
江ノ島さん」
『ムーディ・ブルース』と霧切響子。
『エアロスミス』と江ノ島盾子。
かつて苗木と共に『キング・クリムゾン』と闘った二つのスタンドが今、主を変えて再び彼と共に歩もうとしている。
その先にあるのは希望か、絶望か。
『真実』の時は、そう遠くの事ではない。
今回ここまで