ダンガンロンパ~黄金の言霊~   作:マイン

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裏切りの果てに

ガチャリ

『やあ!待っていたよ苗木君、霧切さん!』

「…こんなところに隠してあったのね」

セレスが処刑された日の夜、学級裁判の際にセレスからあるものを渡された苗木は、霧切を伴って大浴場の更衣室にやって来た。そこのロッカーの一つに渡されたもの…『ロッカーの鍵』を使って開けると、そこには行方不明だったアルターエゴが鎮座されていたのであった。

 

「…セレスさんは、約束だけは守ってくれたんだ。僕たちが黒幕と闘うために、アルターエゴの存在だけは隠し通してくれたんだ」

「今回の事件の伏線として仕組まれたものでしょうけど、あの二人がアルターエゴにご執心だった以上いずれバレる可能性があったことも考えれば、二人には悪いけど全面的に否定することもできないわね…」

アルターエゴから解析状況を聞き、明日にはもう少し詳しいデータのサルベージが完了することを確認すると、霧切はふと苗木の方を向いて話しかける。

 

「苗木君…。あなたに教えておきたいことがあるの」

「教えておきたいこと…?」

 

 

 

 

 

 

霧切からの情報を基に、苗木が向かったのは二階にある男子トイレであった。

 

「…ていうか捜査中とはいえ女の子が男子トイレに入るのってどうなのさ…?ええと…,掃除用具入れはっと…」

デリカシーの感じられない霧切に少し心配しながらも、苗木は教えられたとおりに掃除要具の入ったロッカーを開け、そこの壁を押す。すると、そこの壁がまるで忍者屋敷の隠し扉のように反転し、その奥に薄暗い空間があるのが確認できた。

 

「成程…。確かにトイレは脱衣所と同じで監視カメラもモニターもない。何かを隠すにはうってつけ…ということか」

感心しながら中に入ると、そこには何やら本棚や机などが無造作に置かれており、部屋というより物置という感じの一室になっていた。どうやら電気も流れているらしくコンセントや光ケーブル端子の類があるのを確認しながら部屋を漁っていると、本棚の中にとある一冊の本を発見した。

 

「なんだこれ…?『希望ヶ峰学園生徒名簿』って…、もしかして図書室にこの手の本が残ってなかったのはここに隠されていたからなのか?…どう考えてもモノクマの仕業としか考えられない。とすれば、やはり黒幕は学園関係者…いや、もしかしたら希望ヶ峰学園の生徒…?」

流石に考え過ぎか、と首を振って名簿を開くとその中から一枚の紙切れがひらひらと落ちてくる。苗木が気づいてそれを拾い上げると、そこにはなにやら書かれていた。

 

「…ここから出てはいけない…?」

 その紙切れに集中していた苗木は気づかなかった。

 

 

 

 背後にいつの間にか忍び寄っていた、覆面をした一人の人物に。

 

 

 

 

 

 

 

「『キング・クリムゾン』…ッ!」

ドス…ッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目の前で『キング・クリムゾン』の当身によって気絶し倒れ伏した苗木を前に、その覆面の人物は考えていた。

 やはり苗木誠は見ていて飽きない。自分の頭脳を持ってしてもこいつの行動や理念だけは理解できない。故に面白い…しかし、だからこそ危険でもある。先ほどから自分の中でやかましく殺せと命令している『アイツ』の言うとおりこの場で殺してしまえば今の生き残りメンバーではどう転んでも自分に辿りつくことはできないだろう。しかし、そんなことをしてしまえばついさっき調子に乗って自分の体を使って派手にやった『アイツ』を増長させてしまうし、なにより面白くなくなってしまう。

 そんな風に考えていると、

 

「…苗木君を、どうするつもり…?」

振り返らずとも声の主は分かっていた。男子トイレの入り口で複雑な表情を浮かべている江ノ島だ。その傍らには、明らかに敵意を孕んだ雰囲気で機銃の銃口を向ける『エアロスミス』が滞空している。

 

「…撃たないんだ?」

『ム…ジュンコから大体の事情は聞いてっからよぉ~、…俺としては今すぐトムとジェリーに出てくるチーズみてえにしてやりてぇんだけどよぉ~、わざわざ待ってやってんだよぉ~。…だからよ、できれば撃たせねえでくれよ』

「質問に答えて…。苗木君を殺すの?」

「…その通りって言ったら?」

 

 

 

ドギュウゥゥンッ!

 『エアロスミス』から放たれた弾丸が、覆面の人物の傍を掠め背後の壁に命中する。弾痕から硝煙が噴き出す中で、江ノ島が先ほどより鋭い威圧感を放って言う。

 

「させない…。苗木君は私が守る。苗木君の為にも、…あなたの為にも…」

「…へえ。残念の癖に逆らうのですか?」

いきなり丁寧な口調になった覆面の言葉にも、江ノ島は一切動揺することなく受け答えをする。

 

「あの時あなたは私を殺そうとした。だったらこの計画においてもう私は必要ない筈。私がどう動いたとしても、どうせあなたには全て計算されているだろうし別に問題ないはずだよ?」

「……確かに、貴様がどう動くのかは全て分かっている。よかろう、ならば精々好きに動いて、この舞台を盛り上げてみるがいい。……ん?…チッ、誰かが呼んでいるようだな」

今度は威圧的な口調になった覆面は、なにやら通信を聞くような素振りをした後倒れた苗木をちらりと見るとそのまま男子トイレを後にする。

 

「じゃあ悪いけど、ココでのことを見逃す代わりにここにあるものぜーんぶ片付けといてね!…けどね、覚えておいてね!苗木君は私のモノなんだから!どう転んでも、アンタたちには渡さないから諦めた方がいいよ!じゃあねー!バッハッハーイッ!」

去り際に嫌にハイテンションな口調でそう言い残し、覆面は立ち去って行った。

 

「……………」

覆面が立ち去った後、しばらく立ち尽くしていた江ノ島であったが

 

 

「……ッハァァァァ…!こ、怖かった…!」

大きく息を吐くとそのままその場にへたり込んでしまった。

 

『…ジュンコよぉ。俺さ、実際この目で見るまでお前から聞いたアイツの事半信半疑って奴だったんだけどよぉ……マジでヤベェ~ぜあいつ…!多分その気になったら俺たち殺されてただろうなぁ…』

「…けど、それでもやるしかないよ『エアロスミス』。苗木君を守ることだけが、今の私にできる唯一のミッションなんだから…」

震える足に力を込め、ゆっくりと立ち上がると江ノ島はスッ、と脱力して一旦思考を放棄し、再び偽りのキャラクターを被り覆面に言われたことを実行すべく部屋の中のものに手を掛けるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ぎ!苗木!起きなよ!」

「…う、んん?」

自分の体が揺れる、いや揺らされている感触とぼやけて聞える自分を呼ぶ声に反応し、苗木の意識は覚醒した。痛む首筋を抑えながら顔を上げるとそこには心配そうな眼でこちらを見る江ノ島の姿があった。

 

「痛つつ…江ノ島さん?なんでここに…?ていうか、一体何が…?」

「霧切に聞いたんだ。この部屋を見つけた時にアタシも一緒にいたからここの事は知ってたんだよね。…で、アンタに何があったとかについては残念なことに分かんないんだよね。アタシが来たときにはもうアンタは気絶してたんだし…」

「気絶…?僕は気絶してたの?…じゃああの時の痛みは誰かに殴られでもしたのだろうか?けれど、一体誰が…」

と、そこで苗木は周りの様子が自分の記憶とは少し違うことに気が付いた。

 

「…無い」

「へ?」

「本棚から本が無くなっている。それに机の上にあった小物も全部…。江ノ島さん、君が来た時からこの状態だったの?」

「え!?…あ、ああ~そうそう!アタシも変だと思ったんだけど、多分アンタを気絶させたっていう奴の仕業なんじゃあないの?」

「…そうか、そうだよね。クソッ、まだ碌に調べてもいなかったのに厄介なことをしてくれるよ。…霧切さんに怒られなきゃいいけど…」

「大丈夫だって!霧切もそんな心の狭いやつじゃあないんだからさ!ほら立てる?そろそろ夜時間だし部屋に戻ろ?」

江ノ島の手を借りて立ち上がると、二人は寄宿舎へと戻っていった。その道中

 

 

 

…ガン…ッ!

「…ん?」

階段を下りて一階の廊下に出た時、苗木はふと体育館の方から何かを感じた。

「?どしたの苗木?」

「…いや、今なんか音がしたような」

「音?」

「うん、なんだか…何かがぶつかりあったような音みたいな…」

 不審に思い、苗木と江ノ島は体育館へと向かう。入り口の鉄の扉をこっそりと開けて中を覗くと…

 

 

 

 

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…!

「うぷぷぷぷ…」

 

「…………」

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…!

 

 異常な殺気を迸らせながら睨みあう、モノクマと大神の姿がそこにはあった。

 

 

「…ど、どうなってんのコレ…!?」

「分からない…、けれど大神さんのあの殺気は尋常じゃあない。…まさか、モノクマと一騎打ちをしているのか?」

茫然とする二人の眼前で、膠着していたモノクマと大神が動き出す。

 

「おおおおおおおおおおッ!!」

「クマアアアアアアアアッ!!」

 雄叫びを上げてその場を跳び出すと、互いに肘を突き出して鍔迫り合いとなる。が、それも永くはもたず弾かれるように一歩下がると、今度は拳と蹴りの応酬が始まった。

 

「HAAAAAAAAAAAAAAAAAAAッ!!!!」

「KUMAAAAAAAAAAAAAAAAAッ!!!!」

拳がぶつかり合い、蹴りが交差し、何度もぶつかり合う。身長192cmの大神と体長推定60cmのモノクマ。3倍以上の体格差があるにも関わらずその攻防は互角のものであった。戦闘能力で考えるなら二人の力量は並の近接タイプのスタンドと変わらないであろう。『霊長類最強』の通り名で知られる大神はともかくあのモノクマのどこにそんなパワーがあるのか分からないが、二人の闘いは苛烈を極めた。

 

「どりゃあッ!」

「むぅんッ!!」

やがて互いの跳び蹴りが交差し合って着地したところで、一旦闘いは中断され再び均衡状態へとなった。

 

「…どういうつもりだい?話が違うじゃあないか?」

「我はもう決めたのだ。もう退かぬ、もう媚びぬ、もう省みぬとな。ここで貴様を倒し、この血塗られた学園生活を終わらせるとな…!」

「…!やっぱり大神さんは本気でモノクマを、…いや黒幕を倒すつもりなのか…!?」

「ちょ、ちょっとそれは無謀だって!モノクマに逆らったらどうなるかはアタシの時に分かっている事じゃん…!」

「確かに…。けど、あの大神さんが無策でモノクマに挑むとは考えられない。どうするつもりなんだ…?」

 

 

 

「…ふうん、けどいいのかなあ?忘れた訳じゃあないよね?人質の事…」

「ムッ…」

人質、というワードに大神は一瞬顔を強張らせるが、すぐに平静の表情へと戻る。

 

「…いや、もはや気にする必要は無かろう。既に貴様は終わっているのだからな…」

「はえ?……ッ!?」

と、首を傾げたモノクマが突如苦しみだした。

 

「ぐええ…、く、苦しい…」

「最初は理解できなかった。何故我にこのような力が与えられたのかということがな。…しかし、今なら理解できる。この力はこの時の為に、貴様を殺すためだけに存在していたのだということがな…!」

「ぐ、ぎ…ぎ…」

「冥土の土産に教えてやろう。我のスタンドの名は『キング・ナッシング』。能力は『相手の臭いを追跡する』能力。モノクマ、貴様についた黒幕の臭いを基に本体の場所までこっそり移動させていたのだ。自らをジグソーパズル状に変化させることでいかなる場所にも侵入することができるスタンドだ、どこに隠れていようと逃れることはできん。遠くまで動かせるぶん力こそ乏しいが…貴様を絞殺できれば十分だ…ッ!」

「ぎゃあああ…ッ!や、やめてくれぇぇ…」

「さらばだ、モノクマ。いや、黒幕よ…」

 声にならない断末魔を残し、モノクマはぐったりと地面に倒れ伏した。

 

「や、やったの…?」

「分からない…大神さんの策自体は見事だった。強靭なパワーを持つ自らを囮とすることで、遠隔追跡型のスタンドの事を隠し黒幕を暗殺する。…けれど、もし黒幕が僕の想像通りのことをしていたのなら…!」

 外から様子を伺っている二人の眼前で、大神はモノクマがピクリと動かないのを確認すると大きく息を吐き出し虚空に呟く。

 

「終わったぞ、朝日奈…皆。これで全てが…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、何が終わったって?」

 聞こえる筈のないその声に、大神がハッとして声の方を向くとそこには先ほど苦しんで倒れたはずのモノクマがケロッとした状態で立っていた。

 

「馬鹿な…!貴様の本体は確かに殺したはずだッ!!」

「うぷぷ、そうだね、君にはそう感じただろうねえ。…けどね、君が見ていたものは本当に現実だったのかなぁ?」

「何…!?」

「…クッ、やはりそうだったのか…!」

「ど、どういうこと…!?」

「恐らく大神さんは黒幕を殺したと錯覚させられてたんだ。何らかのスタンド能力によって…!」

「じゃ、じゃあ黒幕のスタンドは『幻覚を見せる能力』のスタンド…?」

「いや、大神さんのスタンドは視覚ではなく嗅覚で相手を判断するスタンド。流石に臭いまでごまかせるような幻覚を操るスタンドをあの一瞬で展開できたとは考えられない。…となるとやっぱりそうとしか考えらえない…!」

「な、何…?」

「黒幕は僕らのスタンド能力を全て知っているんだ。ついさっき分かったばかりの大神さんのも、まだ分からない朝日奈さんのも…。そして、おそらく黒幕は僕らのスタンド能力にある制約を付け加えてるんだ。…『スタンド能力を黒幕を殺すため及び学園からの脱出に使用することはできない』とね。その制約にかかるような行為をすると大神さんのように能力を無効化されてしまうんだ」

「そ、そんな…」

 苗木の予想はほぼ当たっていた。正確にはそうしたのは黒幕ではなくスタンドのDISCを用意したエンリコ・プッチの『ホワイトスネイク』であった。『ホワイトスネイク』はスタンド能力をDISC化するだけでなく、『幻覚を見せる』能力も持っている。プッチはこの能力を応用し、スタンドのDISCに黒幕にとって良くない行動、謀反や脱走などの行為をした場合強制的に幻覚状態に陥らせるよう設定していたのである。

 もっとも苗木達にとってはそんなことは知る由もないのだが、少なくともスタンド能力を駆使した黒幕への反逆行為は無駄だということは理解できていた。

 

「ぬうう…」

「ま、今回は君のそのマヌケ面が見られただけいいけど…やっぱり何かしらの罰を与えないとねえ…」

「…何をするつもりだ…?まさか…!」

「あー、心配しなくても良いよ。君の大事な人には手は出さないし、エロ同人みたいなことをする気もないから…つーかんなことしても誰得だよ!…ま、明日を楽しみにしておくことだね、うぷぷ~!」

 好き勝手に言い残し、茫然とする大神を残してモノクマは去っていった。己が策を看破され途方に暮れる大神、そこに

 

ガラッ…

「!?」

「…大神さん」

「苗木、江ノ島…!?」

「あ、あはは…」

扉を開け、苗木と江ノ島が体育館へと足を踏み入れ声をかける。

 

「何故お主等がここに…!」

「ちょっと眠れなくてね…御免、さっきの事は全部聴かせてもらったよ」

「…そうか」

「あ、あのさ!気にしなくていいから!大神がイイ奴だってことは分かってるからさ、だから…」

「…気を遣わずとも構わぬ。先ほどの事は全て事実だ。いくら人質を取られていたとはいえ我が皆を裏切っていたのは紛れもない事実。どれだけ糾弾されようとも覚悟はできている。皆の為ならばこの命を投げ打っても構わん…」

 すべてを失ったかのように弱弱しく話す大神。そんな彼女に苗木は

 

「…違う。それは違うよ大神さん」

 慰めるどころか逆に叱咤し始めた。

 

「何…?」

「な、苗木…?」

「大神さん、そんなものは本当の覚悟ではない。本当の覚悟は犠牲の心なんかじゃあない、覚悟とはッ!暗闇の荒野に進むべき道を切り開くことだッ!」

「…進むべき道を…切り開く…」

「大神さん、君にはその覚悟ができていた筈だ。大切な人を守るために、邪悪に手を染める決して正しくはないけれど強い『覚悟』が。…確かに今君はその覚悟の根底を失ったのかもしれない。けれど、まだ大神さんには大切なものが残っている筈だよ」

「…大切なもの」

 大神の脳裏に浮かんだのは、このコロシアイ学園生活において自分を一切疑うことなく友として傍に居てくれた朝日奈、外でモノクマに捕まっている両親と道場の仲間たち。そして、自分が唯一勝てなかった相手であり自分にとって最愛の男性であるあの男。

 

「それが残っている限り、大神さんの『覚悟』は決して消えはしない。僕らは誰も君が犠牲になることなんて望んじゃあいないんだ。たとえ先が見えなくとも、その『覚悟』があればいくらだって立ち上がれる。どれだけだって闘える。僕はそう信じている…だから改めてお願いするよ。僕らと一緒に闘ってくれ。君の大切な人を守るために、僕らの『希望』を守るために、君の力を貸してくれ、大神さん…」

 前で引っ張るのでもなく、後ろで押すのでもなく、隣に立って共に闘う。苗木は膝をついてしまった人間に対し、十神のように突き放すことも、広瀬康一のように寄り添うこともしない。ただ隣に立って自力で立ち上がるのを待つだけだ。冷たく感じる人もいるだろうが、それは自分の信じた道に無理やり引き入れるようなことはしたくないという苗木の無意識の優しさの表れでもあった。

 

「…今やっと分かった気がするぞ。黒幕が何故お主を恐れていたのかということがな…」

 そしてそのあり方を大神は理解してくれたようであった。先ほどより晴れやかな顔で苗木を見る大神。そして

 

バラバラバラバラッ!!

その大神の背後にジグソーパズルのようなピースが出現し、それはやがて人の形を成した。

「これが我がスタンド『キング・ナッシング』。お主を信じてこの姿を晒そう。…そして約束しよう。もうモノクマに屈したりなどせぬ。たとえ最期の一瞬であろうとも『希望』の為に闘うと誓おう」

「うん、一緒に行こう。そして、皆でここから出るんだ!!」

「…そうだよね、諦めたら駄目だもんね!」

 誰もいない体育館で誓った約束。それが果たされるものであることを、苗木は心の底から願うのであった。

 

 

 

 

 

「…だからこそ、お主は生きねばならん。我の命にかけても、お主に『希望』をつないで見せよう…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…っつー訳で、これがアタシの『エアロスミス』でーっす!」

『よろしくなぁ~!』

 明くる日、すっかり寂しくなってしまった朝食会にて江ノ島は自身の『エアロスミス』の紹介をしていた。

 

「へぇ~、戦闘機のスタンドかぁ~!かっくいいなあ~!」

「喋ってるのって、中にいるパイロット?」

『そうだぜぇ~!俺がこの『エアロスミス』を操ってんだよぉ~!』

「『エアロ…スミス』…なんでかな、またどこかで見たことがある気がするんだけど…?」

「どっかのテレビで似たようなの見ただけなんじゃあねーか?」

「…ともかく、彼女の索敵能力は今後非常に重要になってくるわ。江ノ島さん、よろしくお願いね」

「りょーかい!」

人数は少なくなったものの、だからこそ結束し合おうという気持ちも濃くなった。しかし、苗木と大神、江ノ島の脳裏には、昨晩のモノクマが言い残した『罰』という言葉が未だに離れずにいた。

 

 その後彼らは、新たに開かれた四階の捜索を開始した。その最中の事

 

「苗木君、ちょっといいかしら?」

「…霧切さん?」

 各部屋を物色していた苗木に霧切が声をかけてくる。

 

「どうしたの?」

「…あなた、何か隠していない?」

「ッ!…どうして、そう思うんだい?」

「…今日のあなたは少しモニターや校内放送に対して神経質になっているように感じたの。普段なら一切気にする様子なんてないのに、今日に限ってはしょっちゅうモニターに視線が行っていたりしたわ。…なにか、モノクマに知られたくないことがあるのかしら?」

「……」

 霧切の問いに、苗木はしばらく押し黙る。

 

「…今は、何も言えない。多分、言う必要がないからね」

「…それは、私の事を信用していないということかしら?」

 ぽつりと呟かれた答えに、霧切はどこか悲しげな視線でその意味を問う。

 

「違う。霧切さんの事を信用していない訳じゃあないんだ。…ただ、このことは僕の口から話す訳にはいかない」

「…どういうこと?」

「僕がこの事実を話してしまうことは簡単だ。けれど、そこにはきっと僕の主観からの無意識の改善が加わってしまう。霧切さんには、誰かの感情が混ざった情報ではなく、客観的な混じりけのない真実を知ってもらいたいんだ。その事実に対して僕の答えを基にした結論ではなく、霧切さんが自分で出した答えを持ってほしい。…だから、今は言えない」

「……」

 どこか試されてるような物言いに少し眉をひそめる霧切に苗木は背を向ける。

 

「…直に皆その事実を知ることになると思う。その時に、霧切さんがどういう対応をするのか。…僕は霧切さんの判断を尊重するよ」

「……」

 意味深な言葉を残し、苗木は再び調査を再開すべく歩き出していった。

 

 

 

 

四階には小さなコンサートホール並の設備を完備した音楽室、プロテインから各種毒薬などの劇薬に至るまで揃った化学室、机の上に花が置かれた余り縁起のいいとは言えない職員室、鍵が掛かっていて入ることのできない情報処理室、男女トイレに二つの教室、そして―

 

「鍵が掛かった『学園長室』…か」

「どう考えても…怪しいよね、やっぱり」

 捜索を終え、再び食堂へと集まった苗木達は誰もが感じたその疑問を口にする。

 

「情報処理室の方も気にはなるけど…やっぱりこちらが本命と考えるべきね」

「モノクマの正体が本当に学園長だとすれば、あそこには何らかの情報があるとみて間違いないだろう。本人がいるかどうかは別として、やはり調べておきたいところではあるな」

「それもそうなんだけど…」

「けど鍵がかかってんかんな……あ、そーだ!霊長類最強のオーガならあんな扉ぶっ壊せんじゃね?ていうかスタンド使えば苗木っちやここに居ねえけど十神っちでも…」

『コラコラコラコラーッ!!』

 突如モノクマがモニターに出現し、憤った様子で叱り飛ばす。

 

「も、モノクマッ!?」

『そうだよ、モノクマだよッ!オマエラ、学園長室の扉をぶっ壊そうだなんてどんだけスクールウォーズなんだよ!!…ふう、ルールで縛るような真似はしたくないんだけどね…っと』

 モニターの向こうでモノクマが電子パネルのような物を操作すると、電子生徒手帳から音が鳴り、確認するとそこには新たな校則が追加されていた。

 

「『鍵が掛かった部屋のドアを破壊、及び許可なしに開錠することを禁ずる』…」

『フゥ~、一安心。これで今夜も熟睡して眠れるよ…』

 恍けた顔でそう言い残しモニターは再び消える。昨晩の事で何かあるのかと警戒していた苗木達もとりあえずホッとする。しかし、これでもう手がかりを手に入れる術は失われたと言っても過言ではない。落胆する一同であったが、不意に朝日奈が声を上げる。

 

「…そうだッ!まだ私たちには『アレ』があったじゃない!」

「『アレ』って…もしかして?」

 朝日奈の言う『アレ』の事を思い出した面々に、朝日奈がモノクマに聞こえぬよう小声でその名を復唱する。

 

「…アルターエゴ!苗木に聞いたんだけど、今日あたりある程度解析が済んでるって話じゃん?なにか分かるかもしれないから行ってみよーよ!」

 今は亡き不二咲が遺した希望を信じ、苗木達は脱衣所へと向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後に待ち受けている、残酷な事態への不安を抱えたまま。

 




今回ここまで。書き溜めしとかないと…
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