ダンガンロンパ~黄金の言霊~   作:マイン

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もう少しで第一部完!…の後どうしよっかな…


疑念

「皆…本当にゴメンなさい!」

 モノクマが去った後、地上に戻ろうとしていた苗木達に朝日奈が頭を下げる。

 

「私の勝手な思い違いで、皆を殺しちゃうところだった…。謝って済むことじゃないだろうけど、それでも…本当にゴメン!」

「気にしなくていいよ朝日奈さん。あいつが遺書を取り換えなければこんなことにはならなかったんだ。悪いのはモノクマだよ」

「そうだべ!俺はもう気にしてねえから、朝日奈っちも気にすんな!」

「でも…」

「…いい加減にしておけ。あの程度のことで俺が死ぬはずが無いだろう」

「…苗木と霧切がいなかったらヤバかったくせに…」

「…チッ、黙れ。…そうやって何度も謝られるほど俺は落ちぶれてはいない。そんな下らんことをしている暇があったら黒幕を倒すために尽力することだ。貴様の能力は俺たちの中でも抜きんでている。持て余すことはこの俺が許さんぞ」

「…うん、分かった。私頑張るね…」

「…あん?ちょーっとちょっと何その言葉づかい!まさかアンタ白夜様に惚れてんじゃあないでしょうね!?」

「だ、誰がこんな噛ませ眼鏡なんかッ!」

「か、噛ませ…!?」

「わ、私が好きなのは…」

 慌てた朝日奈がちらりと熱い視線を向けたのは、ポカンとした表情で自分を見る小さいけれどとても頼りになるあの男。

 

「?」

「と、とにかく!こいつに惚れるなんてあり得ないんだから!」

「ちょっと待て貴様!今の噛ませ眼鏡とはどういう意味だ!」

「…何?否定できるの?」

「まあ今までの行いの結果だべな。ぶっちゃけ霧切っちと苗木っちだけでここまで来たようなもんだし、…つーかその理屈で行ったら俺ら噛ませ以下だべな」

「ちょっと!いくらなんでもアンタと一緒にしないでよ!」

「黙れッ!おい貴様!ちょっと優しくしてやればつけ上がって…」

「テーメェ!白夜様噛ませ呼ばわりとはいい度胸じゃあねーの!ホントの事だからって言って良いことと悪いことがあんだぞ!白夜様意外とデリケートなの知らねーのか!?」

「…貴様ァ!噛ませ噛ませと連呼するんじゃあないッ!わざとだろ!」

 その視線はその場の喧騒に紛れて特に目に留まることはなかったが、向けられた先である苗木は意味深な視線に首を傾げる。

 

 

 

とその時、苗木の身に悲劇が襲い掛かる。

 

 

 

 

※これはイメージです

 

 

「マグネットパワーッ!プラース!!」

 

「マグネットパワーッ!マイナース!!」

 

 

「「クロース!ボンバーッ!!!」」

 

 

 

ズギャァァァァァンッ!!!!

 

「ぎにゃあッ!!?」

 自分の脛と脹脛めがけて突き刺さったつま先のサンドイッチに、苗木はしっぽを踏まれた猫のような奇声を上げて飛び上がった。驚いた皆が振り向くと、そこには涙目で足を抑えて蹲る苗木の前後に不機嫌丸出しの表情の霧切と江ノ島が立っていた。位置からするに、脛目掛けて放たれた一切の躊躇のない一撃が霧切、脹脛目掛けて放たれた無駄のない強力な一撃が江ノ島のものであろう。

 

「…ふ、二人とも…。僕なんか悪いことしたっけ…?」

「…別に」

「…何でも」

 苗木の問いに短くそう答えると二人は朝日奈をちらりと睨む。当の朝日奈はその視線に対し小首をかしげるだけであったが、その視線には紛れもない敵意が込められていた。

 

(何かしら…この気持ち。よく分からないけれど…例えるなら愛用の手袋を誰かに無断で使われた気分だわ…)

(…迂闊だった。そういえば朝日奈さんもそうだった。…以前の私ならこんな気持ちにならなかったのに…ずっとこうしていたからかな?)

 二人の複雑な心境とは裏腹に、今度は苗木のうめき声がその場に響いていった。

 

 

 

『…悪く思うな。俺たちだって馬に蹴られるのは御免なんだ』

『女ってやっぱ怖ぇなぁ~…』

 

 

 

 

 

 

 

「痛たたた…これ絶対青痣になってるよ…。なんか僕霧切さんと江ノ島さんの機嫌を損ねるようなことしたかなぁ…?」

 学園へと戻った苗木達は部屋へと戻り、明日からの黒幕打倒に向けて休息を取っていた。苗木もリフレッシュの為に今日は部屋のシャワーではなく大浴場へと向かっていたのだが、先ほどの一撃がまだ効いているのかその足取りは重かった。

 

「まあ愚痴っててもしょうがないか…早くお風呂に入ろう…」

 ふらふらとした足取りのまま苗木は脱衣所に服を脱ぎ棄てるとタオルを腰に巻いて大浴場へと入っていった。

 

「ふう……あれ?」

 と、苗木はそこで湯気の先に誰かがいるのを見つけた。

 

「おかしいな…?今日は男子の入浴の日だったのに…。おーい!誰かいるの?」

「ッ!?」

 と、苗木が声を掛けながら一歩踏み出すと

 

 

 

 

 

ヴヴンッ!

「ッ…と、お?」

 突如として感じたまるで世界が歪んだかのような違和感にその場に膝をついた苗木が再び顔を上げると、そこのはもう人影は存在していなかった。

 

「…何だったんだ今の?見間違いだったのかな…」

 と、そう思った苗木が扉を閉めようと振り返り…すぐさまその考えを否定する。

 

「…いや、確かに誰か居たんだ。でなければ、この状況が説明できない」

 苗木の視線の先には、不自然に半開きになったロッカーとその下に乱雑にうち捨てられたバスタオルがあった。バスタオルはまだ使ったばかりのようで湿っており、ロッカーも今しがた叩きつけるように締めたかのように未だにその余韻を残して動いていた。

 

「他の皆がお風呂に行くとは聞いていない。とすれば、やはりアレは黒幕…!…だがこの大浴場から出る以上、この出入り口を通るしか脱衣所に向かう方法はない。となると必然的に僕とすれ違う筈なのに…まったく何も感じなかった。おそらく何かの能力だろうけど、超スピードならすれ違った時に何か感じる筈だし、催眠術だとしてもあの湯気の中で僕に正確にかけるのは困難だ。だとすれば一体どうやって……?」

 と、考え込みながら苗木が扉を閉めて再び風呂場へと戻ると、先ほど人影を見かけた辺りである物を発見した。

 

「これは…髪の毛?…けどこの髪の毛の色って…」

 苗木が見つけた髪の毛。その色は薄いピンクがかったブロンド。そんな髪色の人間など、この学園には一人しかいない。

 

「…江ノ島さん…のなのか?いや、けれどあの時江ノ島さんは僕と一緒に居たはずなのに…。これは一体…?」

 湯船に浸かりながらその髪の毛を眺めて、苗木はそのことに考えを巡らせていくのであった。

 

 

 

「…まあ何はともかく『ゴールド・E』で調べてみれば済むことか」

 シャワーから上がって着替えを済ませた苗木は大浴場から出ると先ほど見つけた髪の毛を手に『ゴールド・E』を呼び出す。

 

「…んっ!」

 手から溢れだした生命エネルギーを受け、既に抜け落ちてただの物質となっている髪の毛はみるみる姿を変え、一匹のテントウムシへと姿を変える。

 

「あとはこいつの帰巣本能に従って追いかければ持ち主の所へ辿りつけるはず…」

 テントウムシはふらふらと飛びあがると羽音を響かせ校舎の方へと飛んでいき、苗木もその後をついていく。テントウムシは一階を通り過ぎ二階、三階と階段を飛んで上がっていき、やっとのことである部屋の入り口の扉に止まった。

 

「ここは…」

 その部屋とは、鍵が掛かっていた筈の『情報処理室』であった。

 

「てっきり学園長室かと思っていたけれど…ここに隠れていたのか。まあ、監視カメラの映像をチェックする以上妥当だとは思うけどね」

 そう言いながら苗木はダメもとで扉のノブを回すが…やはり鍵が掛かっており入れない。

 

「…まあそううまくいく筈もないか」

「コラーッ!苗木君なにやってんだ!?」

 と、愚痴る苗木を後ろから怒鳴りつけたのはモノクマであった。

 

「…何、性根の悪いウサギ…じゃなくてクマか。…がここに逃げ込んだらしいから追いかけてきたんだけれど…何か知らないかな?」

「ギクゥ!?…な、何のことかな?中には誰も居ませんよ?そ、そんな事よりもうすぐ消灯時間なんだから早く部屋に戻った戻った!」

「へえ…そうか…」

「…苗木君?」

 と、焦るモノクマに不審な視線を送っていると廊下の先から霧切が現れて声をかけてきた。

 

「あなた…どうしてここに?」

「ああ霧切さん…。なに、ちょっとかくれんぼしていただけさ。…もっとも捕まえ損ねちゃったけどね」

「ああ!霧切さんまでなにやってんのさ!?いいからオマエラ、とっとと寝ろ!」

「…そうね、戻りましょう苗木君」

「そうだね…」

 ぷんすかしながら自分たちを追い立てるモノクマを尻目に、苗木と霧切はその場を立ち去った。

 その道中、

 

「…ところで霧切さん、君はどうしてあんなところに?」

「…そうね。どうせ後で呼び出そうと思っていたからちょうど良かったわ」

「…?」

 と、霧切は苗木に体を寄せ、耳元に口を当てる。

 

「…?霧切さ…」

「『戦刃むくろ』…希望ヶ峰学園第78期生、16人目の高校生…」

「ッ!?」

「くれぐれも注意しておいて…彼女はきっと、黒幕に繋がる何かを知っている筈だから…」

 そう言い残し、霧切はさっさと先に行ってしまった。後に残された苗木は今しがた教えられた事実に混乱していた。

 

「戦刃…むくろ。16人目の高校生、…その人が黒幕なのか?だとすれば…この髪の毛は…まさか…」

 苗木が手にした黒幕に関するもう一つの手がかり。それは霧切の言葉を組み合わさって、苗木をある一つの仮定へと至らせた。

 

 

 

「江ノ島さんが…戦刃むくろ…!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 明くる日、新たに5階への道が開かれた苗木達は決意を新たに捜索を始めようとしていた。

 

「うし!新しい所、今度こそ脱出への手がかりを見つけるべ!」

「…ふん、逃げることを考えるのも結構だがそれよりも探さなくてはならない物を忘れた訳じゃああるまいな?」

「…分かってるよ。さくらちゃんが遺してくれた、最期のメッセージ…。絶対に『矢』を見つけてこなくちゃね!」

 あの裁判の後、解散前に苗木は皆を片付けられる前の娯楽室へと集め、大神の遺した『矢』のダイイングメッセージを見せた。始めこそ半信半疑な表情を皆も浮かべていたが、大神の遺書に記されていた『黒幕が恐れているモノ』という言葉から黒幕の弱点に繋がる何かかもしれないという可能性を感じ、今日の捜索での重点的なポイントとすることに決めていたのである。

 

「けどさ、一応案内図には武道場があるって書いてあるけど…なーんか違う気がするんだよね」

「ええ…、大神さんがモノクマとコンタクトを取っていた以上矢があると思わしき場所…武道場の存在を知っていてもおかしくはないわ。けれど…ただの矢を恐れているというのは少し変だとは思うわ」

「あるいは何かの暗示なのかもしれんな。矢そのものではなく、矢に纏わるなにか…それこそが黒幕への対抗策になるのかもしれん。…大神の遺言を鵜呑みにするのなら、だがな」

「まあたそんな言い方して…素直じゃあねーべな」

「さくらちゃんはそんな嘘はつかないよ!きっとなにか手がかりがあるんだって、頑張ろう!えいえいおー!」

 わずかながらも手がかりがあるということが心の支えとなったからか、皆は特に悲観した様子もなく探索を始めていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…江ノ島さん、ちょっといいかな?」

 皆が別れた直後、苗木は探索へと向かおうとする江ノ島を呼び止めた。

 

「ん?なーに苗木?デートのお誘い?」

「いやそうじゃなくって…江ノ島さん、変なこと聞いてもいいかな?」

「変なこと?」

「…戦刃むくろって、知ってる?」

「ッ!?」

 その名を聞いた瞬間、江ノ島が被っていた偽りのキャラクターの鉄面皮が確かにひび割れた。

 

「な、なんで…!?」

「…どうやら知ってるみたいだね」

「…な、なんのこと?アタシはそんな陰気そうな名前の女なんか知らないって…」

「…僕、戦刃むくろが女子なんて言ってないんだけれど」

「え、…ちょ、それ、は…」

 言い逃れしようとするほど彼女の本来の性格である残念っぷりが仇となりどんどん嵌っていく。苗木はその揺らぎに対し一切躊躇することなく切り込んでいく。彼女の鉄面皮は問答が進むとともにどんどんと壊れていった。

 

「…もう一つ聞きたいんだけど、江ノ島さんって昨日大浴場に来なかった?」

「き、来てない来てない!昨日は部屋のシャワーに入ってたから…」

「…これ、なんだか分かるよね?」

 そう言って苗木が取り出したのは昨晩大浴場で見つけた、江ノ島の髪と同じ色の髪の毛。

 

「ッ!それ…」

「江ノ島さんの髪の毛…だよね?勝手で悪いけど、昨日これに生命を与えて出所を探らせてもらった。そしたら情報処理室の部屋に辿りついたんだ。…江ノ島さん、君は昨晩どこにいたんだ?」

「え…、あ、あ…」

 もはや彼女は江ノ島盾子でなくなりつつあった。そんな彼女に止めを刺すべく苗木がなおも言い募ろうとした時

 

「…江ノ島さんなら昨日はずっと部屋に居たわよ」

 横から霧切が割って入ってきた。

 

「え…?」

「霧切、さん…?」

「私が苗木君と鉢合わせる前、私は江ノ島さんと彼女の部屋で一度会っているわ。時間的に考えても苗木君が4階に来る以前に彼女が部屋にいたことを考えると、彼女が情報処理室に来ることは不可能よ」

「…じゃあ、この髪の毛は」

「大方黒幕が彼女の罪を被せようと小細工をしたんじゃあないかしら?まんまと引っかかったみたいね」

「…その様、だね。ごめん江ノ島さん、僕の思い違いで気分を悪くさせちゃって…」

「え…、い、いいよいいよ!全然気にしてないからさ!苗木も黒幕の事が気になって過敏になっちゃってるんだって!もっと楽に行こうよ!」

「そうだね…。ありがとう、じゃあ僕はもう行くね…本当にゴメン」

 霧切の証言に反論を出すこともなく、苗木は申し訳なさそうに何度も江ノ島に詫びをして探索へと向かっていった。そして彼の姿が見えなくなった後、江ノ島は深く息を吐いてその場にへたり込む。

 

「ハァ~…、あ、危なかった…」

「…あなた、いくらなんでも打たれ弱過ぎよ。もう少し反論すればいいじゃない」

「うう…、そんなこと言っても、私じゃ苗木君を言い負かすことなんてできないし…。それより霧切さんこそいいの?苗木君を騙すようなことなんかして…」

「…仕方ないのよ。今彼が真相を知ってしまったら、間違いなく一人で黒幕と闘おうとするわ。…闘った…といっても闘いにすらならなかったけど、一度あいつと相対した私にはわかる。今の苗木君が黒幕と闘っても、確実に殺されてしまう。それだけは、何としても避けなくてはならないわ」

「…うん、苗木君だけは絶対に守る。私にはもうそれしかないんだから…」

 霧切と江ノ島。皆より一歩先の真実を知る二人が下したこの判断。しかし、二人は見誤っていた。黒幕を絶対に倒すという苗木のダイヤモンドよりも固いその意志を。そしてその意志の理由が、このコロシアイ学園生活だけではないということを。

 

 

 

 

 5階をうろうろしていた苗木は通りすがった部屋の一つ一つを虱潰しに調べていった。

 

「でっかい花だべなあ…」

「『モノクマフラワー』だって…。まったく、植物にまで腹立たしい名前を付けてくれるよ…」

「苗木っち!植物をなめたら駄目だべ!あいつらは何もしないふりをして俺たちを監視しているんだべ!いつか巨大なバラの植物怪獣になって人間たちを根絶やしにしに来るんだべ!」

「そんな高尚な植物がいてたまるか。ていうかどこのビ○ランテだそれは」

 巨大な花を持つ『モノクマフラワー』を中心とした植物庭園で、苗木は葉隠とそんな談笑をしていた。

 

「…ん?あの小屋ってなんだべ?」

「あれ?…さあ、物置なんじゃないの?肥料とかが入ってると思うけど…」

 葉隠が指差した一角にある木造の小屋に入ると、そこには確かに肥料や腐葉土、スコップやツルハシ、ビニールシートといった手入れの道具が置かれていた。

 

「…みたいだべな。脱出の手がかりも『矢』もなさそうだべ」

「そうだね……ん?」

 と、小屋を去ろうとした苗木の眼がツルハシを見た瞬間に止まる。

 

「ど、どうしたべ苗木っち?」

「…葉隠君、このツルハシの持ち手の所の字を見てよ」

「字ぃ?」

 怪訝な表情を浮かべたまま葉隠は苗木の指差したところに彫られている文字を見る。そこには確かにこう書かれていた…『暮威慈畏大亜紋土』と。

 

「あれ?…これって、どっかで見たような…」

「うん。…これは大和田君の学ランに刺繍されていた文字、大和田君がリーダーを務めていた暴走族グループの名前と同じだよ」

「えっ!?…つーことは、これは大和田っちのツルハシだってのか!?けど大和田っちは…」

「…そうだ、大和田君は2階までしか解放されていない時点で殺されている。だから大和田君の私物がこの場所にあることはあり得ない筈なんだ。…けど、実際、これはここにあった」

「も、モノクマの悪戯なんじゃねーの?考えても見ろって!大和田っちは族なんだべよ?ドカタとか大工でもねーのになんでツルハシなんて持ってるんだべ?」

「…確かに、そう考えるのが自然のなのかもしれない。けれど…何かが引っかかる。何かが…」

 

 

 

 

 

『…俺は世界一の大工になってやる。そしたら苗木、テメェの屋敷も建ててやっからな!』

 

「ッ!?」

「ど、どうしたべ苗木っち!?また立ちくらみか?」

「…だ、大丈夫。ちょっとくらっと来ただけだから…」

「疲れてんだって。…思えば苗木っちはずっと頑張って来たんだから、これ終わったら少し休むべ」

「ああ…、ありがとう」

 葉隠に助けられながらふらつく足取りで苗木は植物庭園を後にする。そのツルハシへの違和感を抱いたまま。

 

 

 

 

 

葉隠と別れた後、苗木は武道場へとやって来た。

 

「武道場…、大神さんのダイイングメッセージの『矢』があるとすればここにしかない筈なんだけど…」

 あまりいい予感がしないまま武道場へと足を踏み入れると、そこには既に先客がいた。

 

「あ、苗木!来たんだ!」

「朝日奈さん、君もここに?」

「うん。いろいろ考えたんだけど…やっぱり実際に見てみないと分かんないからさ」

「そうだね…。で、矢は?」

「あ、うん。これ」

 そう言って朝日奈は傍にあったロッカーの中から矢束を取り出した。矢は一般的なイメージの木でできたものではなく、競技用の金属製らしく持ち上げた朝日奈も重たそうにしている。

 

「大丈夫?これ、結構重いよ…」

「どれどれ…っと。…確かに重いね。しかも…、かなり頑丈な奴だね」

「えっと材質は…あ、英語だ。なにこれ?じぇ…?じょ…?」

「…ジュラルミン、なんじゃあないかな?」

「そうそうジュラルミン!…って、なんだっけ?」

「ドラマとかでよく見る大金が入ったスーツケースみたいなのがあるだろ?あれの材質もジュラルミンさ。強度の割に軽いから野球の金属バットとかにも使われてるらしいよ」

「へぇ~、苗木物知りだね!…で、どう?なんか関係ありそう?」

「…どうかな、これだけ頑丈だと確かに武器として使えなくはないけれど、黒幕がこんなものを恐れているとは考えられないな」

「…そうだよね。ハァ~、私空回りしてばっかだな。昨日もなんでか分からないけれど『オアシス』で学園を出ることができなかったし…」

 学級裁判の後、朝日奈は外に助けを求めるべく『オアシス』で学園を脱出しようとしたのだが、そうしようとした途端スタンドが発現しなくなり結局その目論見は水泡と化してしまったのである。

 

「…まあそう気を落とすことはないよ。確かにこの矢が黒幕に有効かは分からないけれど、何かしらの関係があるかもしれないし…例えば刺すことでなにかの反応が…」

 

 

ズキンッ!

「ッづあっ!?」

 と、その瞬間、苗木の右腕に激痛が走り、思わず声を出して持っていた矢束も落としてしまう。

 

「だ、大丈夫苗木ッ!?」

「…だ、大丈夫…。ちょっと痛んだだけだから…」

 朝日奈に心配を掛けぬよう朗らかに笑みを浮かべてこそいるものの、右腕の痛みは引くことなく未だにズキズキと体の内側から響いてきていた。

 

(なんだ…これ…?こんなこと、今まで無かったのに…ッ)

「…ホントに大丈夫?苗木頑張りすぎなんだよ、今日は早めに休んだ方が良いよ」

「ハハ…、朝日奈さんにも葉隠君と同じこと言われちゃったな…。…うん、そうするよ。でもまだ行くところがあるから…じゃ、僕行くね…」

「あ、うん…。……苗木!無理しちゃ駄目だよ!死んじゃったら嫌だからね!」

「おおげさだって…、じゃあ後でね」

 心配そうに見送る朝日奈に笑みを返しながら、苗木は次の場所へと向かう。

 

 

 

 

 もしこの時に『ゴールド・E』を発現していれば、苗木は気が付いたであろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『ゴールド・E』の右腕、苗木が痛みを覚えた場所と同じところが、ピシリと、ひび割れていることに。

 




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