賛否あるかと思いますが広い心でご覧ください
「さあて、今回は戦刃むくろ殺しの犯人を捜す学級裁判な訳ですが…忘れてたけど皆戦刃むくろって誰か知ってる?」
「一応エレベーターの中で説明は聞いたけど…」
「実際見たこともねえような奴の裁判っつてもなぁ…」
「正直、どうでもいいっていうか…」
「……」
「ま、そうだね。でも死体になっちゃった以上仕方ないからね。犯人を当てないとオマエラがお仕置きされちゃう訳だし…。そういう訳で、張り切ってきましょー!」
「…犯人は霧切響子、貴様しかいないッ!」
「…あらら?またこのパターン?」
厳しい目つきで霧切を睨みながら十神が断言する。
「…一応聞くけど、その根拠は何?」
「決まっている。貴様には昨晩からのアリバイが無い。俺たちには明確なアリバイがある。その上、死体が発見されたとき俺たちは共に行動していたが貴様は行方知れずだった。…死体の状況から考えても、貴様しか犯行が可能な人間はいない!」
「ど、どういうこと?死体の状況って…?」
「貴様ら、あの死体を発見した時死体はどんな様子だったか憶えているな?」
「へ?…えーと、確か覆面してて白衣かけられてて、ナイフが刺さってて…」
「…そうではない、死体は濡れていたか乾いていたかと聞いているんだ」
「え?そういえば…乾いてたね」
「そうだ、あの死体は乾いていた。…あの植物庭園は午前7時30分になると自動的にスプリンクラーによる放水が始まる。そして俺と葉隠は昨夜午後10時頃に植物庭園を見回ったが死体など存在しなかった。もしそれ以降から死体が存在していたとすれば死体はその影響で濡れている筈だ。だがあの死体は乾いていた。つまり、死体は放水が行われた7時30分以降にあそこに放置されていたということになる。…死体発見時刻は9時頃。つまり犯行が行われたとすればその間の時間しかない。だがその時間俺たちは体育館に集まっていた。故に犯行は不可能だ。…よって霧切、貴様しか犯人はあり得ないのだよ!」
十神の言及に、霧切は静かに反論する。
「…それは確固たる証拠とはなりえないわ」
「何?」
「死体にビニールシートを被せておけば、放水の時間死体を濡らさずに済む…。現に植物庭園の倉庫から濡れたビニールシートが見つかっている。このトリックを使えば犯行時刻を絞られなくなる。…昨晩10時以降からのアリバイの特定は不可能よ」
「…だがそうだとしてもオレや葉隠、朝日奈、腐川は昨晩からずっと体育館で作業をしていた。途中で退室したものも居ない。…俺たちには確固たるアリバイがあるぞ」
「そそ、そうよ!」
「…待って、苗木君と江ノ島さんは…?」
「ああ、僕と江ノ島さんは昨晩はずっと僕の部屋にいたんだ」
「…部屋に?何故?」
「それは…その…」
「眠れなくてね…眠くなるまで話してたんだけど、気が付いたら朝になってたんだ」
「…そう」
事前に説明を聞いていたために、霧切も不自然に思われないよう納得する。
「…だが凶器はどうだ?凶器もお前が犯人だということを物語っているぞ?」
「凶器って…あのナイフだよね?あれ?でもあのナイフって苗木が…」
「…あれは偽装だ」
「え!?」
「あのナイフは白衣の上から刺さっていた。あれが致命傷と考えるとあの刺さり方はどう考えても不自然だ。おそらく苗木を嵌めるために留守を狙って持ち出したのだろう」
「じゃ、じゃあ凶器は何?」
「おう!モノクマファイルによると、あの刺し傷の他に左胸のでっかい切り傷と後頭部を鉄パイプ程度の太さのもので殴られたような痕があったと書いてあるべ。でもあの死体にはでっかい切り傷なんて無かった。だから致命傷は後頭部の傷、つまり、凶器は鉄パイプだべ!」
「馬鹿は黙ってろ」
「はあ!?」
「凶器なら既に見つかっている。…武道場あるジュラルミン製の矢だ」
「矢って…あれ!?」
「…ちょっとナヨくない?あれで殺すのは無理臭いけど…」
「矢を束ねてガムテープで括ればそれなりの強度と太さにはなるだろう」
「毛利三兄弟の「三矢の訓」理論だべな!」
「黙れ」
「…けれど、それなら私じゃあなくても誰でもできたんじゃあないかしら?」
「フン。貴様としたことがうっかりだったな。貴様の部屋から武道場のロッカーの鍵が見つかったのだよ。その鍵で開いたロッカーの中に確かにあったぞ、ジュラルミンの矢と血糊の付いたガムテープがな…」
「…鍵?そんなもの…私は知らないわ」
「この期に及んでまだ白を切るか。見つかったのは鍵だけではないのだぞ!」
そう言って十神は懐から霧切の部屋のベッドから見つけた戦刃むくろの生徒資料を取り出した。
「それは…」
「戦刃むくろに関する生徒資料だ。これがお前の部屋から見つかったということは、お前は以前から戦刃むくろの事を知っていたということになる。つまり、つい先日までこいつの存在を知らなかった俺たちとは違い、貴様は戦刃むくろに対して明確な殺意をもって行動することが可能だったということだ。…どうだ?これでもまだ言い逃れするか?」
「…私は、犯人じゃない…!」
「…いい加減見苦しいぞ!」
「私が犯人じゃないということはあなた自身が分かっている筈よ。私は自室の鍵をあなたに預けている。…鍵が無い以上私は自分の部屋に入ることは出来ないわ。私のスタンドは遠隔操作できないからスタンドにさせることも不可能。…これでも私がその鍵と資料を持ち込んだと言い張るつもり?」
「…チッ、確かにな…」
(…霧切さんにとってもアレはどうやら予想外だったみたいだな。もしここで僕がマスターキーのことを話してしまえば霧切さんには反論なんてできない筈なのに、敢えて鍵の事をアリバイの証明に持ち出すなんて打つ手が無くなってきているんだろう。…信用してもらえると思えば少し嬉しくもあるんだけどね)
そう、苗木にはここで彼女の矛盾を指摘し彼女を追い詰めることが可能だった。しかし苗木はそんなことはしない。彼女が犯人ではないということは苗木自身がよく分かっているからである。
(…けれどそうなると一体誰が霧切さんを嵌めようとしてるんだ?鍵を持っているのは十神君だけど、十神君達には決定的なアリバイがある。よって皆はシロだ。江ノ島さんに関してもあの時僕を助けてくれてからずっと一緒に居てくれたのは事実だろうし犯人とは考えにくい。…とすると、例の髪留めの持ち主が犯人なのか?ちょっとしか見えなかったけどあの能力があれば確かにあちこち出入りすることは出来そうだし…。ってことはアレは戦刃むくろじゃあないのか。でも一体どうやって鍵も無しに霧切さんの部屋に…)
と、そこで苗木の脳裏に電流が走る。
(…待て、鍵も無しに?そうだ、もう一人居たじゃあないか。鍵を必要とせずに学園のあらゆる場所を出入りできる奴が…!そいつは…)
「…っつーことは霧切っちにも犯行は無理っぽいんけ?」
「でも、霧切ちゃん以外にアリバイが無いのって…」
「…貴様らしか居ないな、苗木、江ノ島」
「ふぇ?」
「貴様らのアリバイは貴様ら同士が証人となることで成立している。口裏を合わせればどうとでも改ざんできる、それにどちらかが嘘をついているという可能性もある」
「そ、そんな…!?」
「特に怪しいのは貴様だ江ノ島。貴様の『エアロスミス』は遠隔操作型のスタンドな上に戦闘機の姿をしている。爆薬の一つや二つぐらいはあっても不思議じゃあないし、レーダーとやらで俺たちの行動を監視していれば怪しまれないよう行動することもできなくはない」
「…う…うぅ…」
「どうした?何か反論があるなら言ってみろ?」
「わ、私は…」
「……」
彼女は悩んでいた。ここで苗木に協力してもらえば自分のアリバイを証明することはそう難しいことではない。しかし、ここで自分への疑惑を晴らしてしまえば次に疑われるのは苗木だ。
『あの子』ならともかく『奴』はそうなればその期に乗じて無理やりにでも苗木を犯人に仕立て上げかねない。そんなことになるぐらいなら、いっそここで自分がクロとして処刑されることが最善の手なのではないか。彼がそれを望まないことは百も承知だが、彼を失うくらいならその方が彼女としてもずっとマシであった。
そして、彼女は決断する。
「…私が」
「待ってくれ十神君。まだアリバイがない奴が一人いるじゃあないか」
しかしそんな彼女の決意は、その守るべき対象によって水を差される。
「…何?」
「い、居るんけそんな奴!?」
「で、でも皆ちゃんとアリバイがあるよ?」
「も、もしかして、ここに居ない奴…!?」
「いや、ちゃんとここに居るよ」
「何だと…!?どういうことだ!一体誰なんだそいつは!?」
「…決まっているじゃあないか」
「……まさか…!」
皆が混乱する中苗木は己の視線の先にいる人物…もとい物体を指差しその名を告げる。
「…モノクマ、お前だ」
「……へ?」
『な、なんだってーッ!!?』
こともあろうにモノクマを容疑者呼ばわりし始めたこの事態に、皆の驚愕は収まらない。
「どど、どういうことだべ!?モノクマが犯人なんけ!?」
「馬鹿なッ!そんなことが…」
「…あり得ない、と言い切れるの?」
「そ、それは…」
「そもそもおかしいと思っていたんだ。モノクマが急に動かなくなったかと思うと霧切さんの姿が見えなくなったのを見計らったかのように死体が発見された。どう考えても都合がよすぎる。そうなると僕たちの誰かが高度なトリックで犯行を成し遂げたと考えるより…全部黒幕のマッチポンプと考えたほうが辻褄が合う」
「ちょ、ちょっと待ってよ!」
流石に予想外だったのか、モノクマが慌てて反論する。
「なんで僕が犯人なのさ!?僕が戦刃むくろを殺すことに何の意味があるっていうんだい?それに、根拠はなんなのさ!?」
「…理由は大きく分けて二つ。一つは、お前が動かなくなったのは昨晩の深夜から今日僕らが情報処理室に入るまで…つまり午前9時過ぎまでの間。そうだよね、十神君?」
「あ、ああ…」
「おかしくないか?どうしてわざわざ犯行予想時刻になっていきなり動かなくなったのか?僕らを情報処理室におびき出すためだけなら、別に朝一でそれらしいことをすればいいだけのことなのに。…お前が動かなくなったのは僕らを誘導するためだけじゃなく、あの現場を創っていたからじゃあないのか!?」
「ギクゥ!?」
「そ、そうなの!?」
「ち、違うよ!僕がそんなことをする訳がないじゃあないか!」
「もう一つの理由は、霧切さんの部屋にあった鍵と資料だ」
「そ、それがなんだってんだい!?」
「確かに鍵のかかった部屋に入るにはその部屋の鍵が必要だ。…だがお前なら鍵のかかった個室に自由に出入りすることができるんじゃあないか?実際舞園さんが殺される直前に僕の部屋に来たときは、扉を開けずに出入りしてきたんだ。お前なら鍵をかけたまま霧切さんの部屋に忍び込んで、部屋に鍵と資料を置いてくることができたはずだ!」
「ギクギクゥ!?」
「あ、アンタどうなのよ!説明しなさい!」
「だ、だから違うって!それに、さっきから言ってるじゃあないか!僕が戦刃むくろを殺すことに、どんな意味があるっていうのさ!?」
モノクマの反論に対し、苗木は声のトーンを若干落として答える。
「…そのことだけど、あの死体は本当に戦刃むくろのものなのか?」
「へ?」
「なんだと…!?」
「ど、どういう意味だべ!?」
「…あの死体が戦刃むくろのものだと最初に断言したのは誰か、憶えてる?」
「え?それは…」
「霧切っち…は知ってたけど最初じゃあねえよな?…あ」
「そう、最初にあの死体が戦刃むくろのものだと言ったのは、他ならぬモノクマ、お前自身だ」
「にゃ、にゃにい!?」
「確かにあの死体には戦刃むくろの特徴があった。けれど、それは別に彼女と確定できるような物じゃあない。最悪後からの細工次第でごまかせるようなものだ。だから、もし別人だった場合、詳しく調べられれば戦刃むくろではないということが露呈してしまう。お前はそれを回避するために死体に爆弾を仕掛けて死体が誰のものなのか分からなくしたんだろう!」
「そ、そんなことはないよ!」
「け、けれど…。仮にそれが本当だったとして、…じゃああの死体は誰なの?」
「…生物室にあった死体安置カプセル。あそこにはランプがついたカプセルが9つあった」
「9つ?…あれ、一個多い?」
「そうだ。つまりあそこには今までに死んだ皆の死体とは別に、もう一つ死体が在った筈だ。生憎確認はできなかったけど、お前はその一つを引っ張り出して戦刃むくろに仕立て上げたんじゃあないのか!?」
「……」
苗木の畳み掛けるようなモノクマへの言及を皆驚きの表情を浮かべながらもどこか得心が言ったような様子を見せる。そんな中霧切は口を挟むことはせず、ずっと黙り込んでいた。…しかし、内心はかなり焦っていた。
(まずいことになったわ…。苗木君のことだからこの可能性に至ることを予測しておくべきだった…!このままモノクマを追い詰めれば、アイツへの疑いを深めることは出来る。…けれど、あのモノクマがそれを想定していないとは考えられない…!)
霧切もまた、モノクマがこの事件に関わっていることは分かっていた。しかし、あのモノクマがその可能性に至った人物にみすみす好き放題言わせておくわけがない。江ノ島も同じことを考えていたらしく、顔を青ざめ不安そうに苗木とモノクマをキョロキョロと見ている。
「そもそも、今回の学級裁判自体がどうにもきな臭い。霧切さんがいない時を見計らったかのように起こった今回の事件。どう考えても霧切さんを嵌めようとしているとしか考えられない」
(お願い、もうやめて…!これ以上あいつを追い詰めたら、あなたの身に危険が…ッ!)
そこで霧切の頭にさっきの苗木の言葉がよぎった。
(あの言葉…いざというときは自分を切り捨てろということ…!?苗木君がそんなことを言うなんて、考えられない。そんな…)
「……」
「どうなんだモノクマ!犯人でない証拠があるなら、ハッキリ言ってみろ!」
「…ハイ、時間切れー!」
「…は?」
黙り込んでいたモノクマから出た言葉がそれであった。
「…どういうこと?時間制限なんて今まで無かったわよ」
「いやー、今までの学級裁判がダレてダレてめんどくさかったからさ、今回から時間制限を設けました!そういうことだから、もうオマエラ喋らなくていいよ」
「…自棄を起こしてごまかすつもりか?」
「はぁ?」
「この時点で、最も容疑が濃厚なのはお前自身だ。このまま投票タイムを迎えれば、お前に票が集まるのは目に見えているぞ」
「そ、そうだよ!苗木の推理が本当なら、犯人はアンタってことじゃん!」
「秘密を知った俺たちをまとめて始末するために、マッチポンプで霧切を嵌めようとしていたとは…。少々驚いたが、貴様にはお似合いな姑息な手だな」
「そうだべそうだべ!お前はここでお終いだべ!」
「…ふ~ん。そうだね、確かにヤバいかもねえ。…苗木君の言っていることが本当だったらね」
「…何?」
「この期に及んでまだ言い逃れするか?」
「いいや、別にそんなつもりはないさ。僕が犯人だと思うならそうすればいいさ。…それができたらの話だけどね」
「ど、どういうことだべ!?」
「皆の手元の投票スイッチを、よーく見てごらんよ!」
「投票スイッチ?」
モノクマに言われ皆は手元に設置された投票スイッチに視線を落とす。各スイッチには生徒のドット絵がそれぞれ描かれており、誰のスイッチかを見分けることができていた。そして、やがて苗木がその言葉の真意に気が付いた。
「…ッ!そういうことか、貴様ッ…!」
「え?え?どういうこと!?」
「…スイッチの数と絵を数えてみろッ!」
「へ?えーと…、苗木っち、霧切っち、舞園っち……全部で15個あるけどそれがどうか…ああッ!」
「そうだ…、このスイッチにはモノクマを指名するためのスイッチが無い…!つまり、モノクマをクロに指名することができないんだッ…!」
「そ、そんな…!」
「うぷぷ、ごめんね。まさか僕をクロに指名するなんてシチュエーションは考えてなかったからね!次からはつけておくよ」
「何が考えてなかっただ…貴様は最初からこのことを想定したうえでスイッチに自分の物を加えなかったのだろうッ!」
「はて?なんのことやら?…さて皆さん、そろそろ犯人を決めて貰ってもいいですかなあ?」
「で、でも…」
「決めろったって…」
「…奴を指名できない以上、俺たちの中から犯人を決めるしかない。…例え間違っていたとしてもな」
「じゃ、じゃあ私たちどの道皆殺しじゃないッ!」
「あー、安心してよ!クロはちゃんと皆の中にいるからさ!」
「何ィッ!?」
「ま、マジでか!?」
「マジマジ、大マジだよ!だから正しいクロを当てれば皆は大丈夫だから安心してね!」
「で、でも私たちの中にいるって言われても…」
「アリバイが明らかではないのは霧切、江ノ島、…そして苗木。こいつらの誰か一人ということか」
「…けど、一体誰が…」
「……」
押せ押せムードから一転、窮地に追い込まれた皆は誰に投票すべきか混乱していた。そんな中で、霧切と江ノ島は覚悟を決めた。
(…ここまで、かしら。モノクマの行動からして、ここで私が名乗り出ればおそらく黒幕は私をクロとして扱うでしょう。悔しいけれど、後の事は苗木君にお願いするしかないわ)
(…ここで苗木君を死なせちゃ駄目…。だったら、私が名乗り出るしかない。最悪、学園の秘密を暴露すれば『あの子』も否が応でも私をクロにせざるを得ない筈。…ごめんね、苗木君)
『キョーコ…』
『…ジュンコぉ~』
二人は一つ息を吸い、そして名乗り出ようとする。
「「…私が」」
「…僕は昨晩、あの覆面の彼女に会った」
『!!?』
しかし、そんな二人の名乗りを遮ったのは、他ならぬ苗木であった。
「…おい…!」
「ま、マジか…!?」
「ああ、僕は昨晩あの覆面の彼女に会った。それは間違いない」
「で、でも苗木昨日は部屋にいたって…!」
「アレは嘘だよ。江ノ島さんが途中で寝ちゃってね。それでちょっと部屋の外に出た時に…ね」
「ほほ、本当なの…!?」
「…嘘、嘘だよッ!」
突如として江ノ島が癇癪を起こしたかのように叫び出す。
「…嘘じゃないさ。あの後江ノ島さん寝落ちしちゃったんだよ。それでしばらく寝かしてあげようと思って部屋を出たんだ」
「嘘だ嘘だッ!私はずっと起きてた!寝ちゃったのは苗木君の方だよ!だから私がその間に…ッ!」
「それは寝ている時の夢だったじゃあないかな?僕は江ノ島さんが寝ている所をちゃんと見てたよ」
「違う違うッ!苗木君じゃないッ!私が、私がやったんだ!」
「ど、どうしたんだべ江ノ島っち…?」
「キャラ変わってんじゃない…?」
豹変した江ノ島の錯乱ぶりに皆も思わずポカンとする。そんな彼女をいなしながら、苗木はなおも自白を続ける。
「それに僕の容疑を証明する証拠はまだある。死体に刺さっていたナイフは僕の部屋にあったものだし、霧切さんの部屋にあったっていう武道場の鍵を最初に見つけたのは僕だ。実はあれはあそこにあったんじゃあなくて僕が最初から隠し持ってたんだよ」
「な、苗木君…!?」
「…あなた、どういうつもり…!」
「どういうって…僕が犯人だから名乗り出ただけだけど?」
すっとぼけたような様子の苗木に霧切も江ノ島も激しく動揺していた。
(苗木君の馬鹿…!そんなことをしたら、苗木君を殺したがっている黒幕が黙っている筈が…!)
「おやおやおや?これは予想外!まさか苗木君が犯人だったなんてねぇ~。道理で僕を無理やりにでもクロにしようとしていた訳だ。自分の容疑をごまかそうとしていたなんたねぇ~」
「じゃ、じゃあやっぱり苗木が…?」
(やっぱり…!このままじゃ間違いなく苗木君がクロに…)
と、そこで霧切の頭の中で裁判場に入った時の苗木の言葉と今までの苗木の言動、そして苗木の思考がかっちりとかみ合い、ある一つの考えに至る。
「苗木君…、あなたまさか…!」
「……」
「…認めん、認めんぞ苗木!貴様が、こんな茶番の犠牲になるなど…!」
「認める認めないとかじゃなくて、もう決まっていることなんだよ。十神君」
「貴様はッ…!この俺にこんな惨めなことをさせるつもりかッ…!」
「嫌だ…、嫌だよ苗木…。私、そんなことできないッ…!」
「朝日奈さん、やるんだ。君たちが生き残るためにも、僕の覚悟を貫き通すためにも…!」
「そ、そんな…!」
「…本当にいいのかよ、苗木っち…?」
「あ、アンタはそれでいいのぉ!?」
「葉隠君、腐川さん。君たちの思ったとおりにすればいい。それですべてが終わるんだ」
「やめて…!やめて苗木君ッ!」
「どうして、どうしてあなたはッ…!」
「…始めろ、モノクマ!」
「はいはい!潔いことはいいことです!それじゃあ、張り切っていきましょー!」
「駄目ぇぇぇぇぇッ!!!!!」
江ノ島の悲鳴など意に介さず、スイッチが押されたことでスロットが回転し始める。いつにも増して緊張感を帯びたかのようにスロットは静かに回転する。それを見ながら、霧切達は奇跡を信じていた。もしかしたら違っているかもしれない。ひょっとしたら票がきれいに割れて、クロが指名されないかもしれない。そんなあり得ない奇跡を信じていた。これまで自分たちに希望を与えてくれた、苗木を失いたくないという気持ちの為に。しかし、そんな彼女たちの期待を嘲笑うかのようにスロットはゆっくりと止まり…苗木の顔を指し示した。
「ピンポーン!その通り!今回の戦刃むくろ殺しのクロは、苗木誠君でしたーッ!」
「……」
「う、嘘…」
「馬鹿なッ…!」
自分たちが決めたこととはいえ、実際に苗木が犯人だったという事態に皆が戸惑う中、苗木は優しげな笑みで声をかける。
「…いいんだ、皆。これでいい。後は…僕が終わらせる」
「な、苗木っち…?」
「な、なによそれ…」
意味深な言葉に皆首を傾げていたが、その意味を察した江ノ島と霧切は怒りと悲しみがごちゃ混ぜになったような複雑な表情で苗木を見つめる。
「駄目…そんなの駄目…!」
「どうして…あなたがそこまでしなければいけないのッ…!」
「…霧切さん、江ノ島さん…ごめん。でも、もう決めたことだから。だから…ごめん」
「…ッ!」
「…えー、名残惜しい雰囲気ではありますけど、さっさと始めちゃいましょー!」
そんな重苦しい空気をモノクマの陽気な声が吹き飛ばす。
「は、始めるって…」
「もちろん、おしおきだよ!今回は、『超高校級の幸運』の苗木誠君の為に僕自らとっておきのおしおきを用意しましたー!では張り切っていきましょー!おしおきターイムッ!!」
「…来い、『覚悟』はできているッ!」
「…許さない、絶対に許さないから…苗木君…ッ!」
「嫌だよ、嫌だ…苗木くぅぅぅんッ!!!」
モノクマがせり上がってきたスイッチを木槌で叩くと同時に、苗木の足元がぽっかりと空きその穴に苗木は落ちていく。とっさに江ノ島が駆け寄り苗木の手を掴もうとするが、それはあともう数センチというところで苗木の手に触れることすらなく空振り…苗木は暗黒の中へと消えていった。
次の更新ですがダンロンの舞台を見に行ってくるので少々遅くなります
帰ってきたらハイテンションで書き上げますのでお待ちください