七つの感情ストラトス   作:銀の巨人

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キタイ×ト×キタイ

臨海学校2日目。今日は午前中から夜までISの各種装備試験運用とデータ取りに追われる。しかしそれは一般生徒の話で、各国の代表候補生の専用機持ちは大量の装備が待っている。

ノアの場合はアメストリスから送られて来た装備等は特に無かったので、エマとペアを組んで武装の調整やデータ取りを行う。

 

因みに現在地は昨日のビーチから少し離れたIS試験用のビーチで四方に切り立った崖に囲まれている。

この場に一学年の全生徒がそれぞれ班ごとに作業していても有り余るくらいのスペースはある。

 

そしてノアを含めた専用機持ち達は少し離れた場所で千冬の前に集まっていた。何故かそこには箒の姿もあったので全員が疑問に思っていた。

 

シャル「何で篠ノ之さんが此処に?」

 

ノア「箒、もしかして・・・!」

 

箒「あ、あぁ。実は・・・」

 

千冬「それは私がーー「ちーちゃぁ~~~~~ん!!」・・・」

 

この声を聞いて箒と千冬はあからさまに嫌な顔をする。崖の上から飛んで来たこの異常生命体の正体は篠ノ之 束だった。

 

束「やぁやぁ!会いたかったよちーちゃん!さぁ、ハグハグしよう!愛を確かめーーぶへぇ」

 

一直線に千冬へ飛びかかってきた束に対して一切の容赦の無いアイアンクローが顔面にクリーンヒットする。

 

千冬「うるさいぞ、束」

 

束「相変わらず容姿の無いアイアンクロー、ありがとうございますっ!」

 

嬉しそうに笑いながらアイアンクローから抜け出す。全力では無いにしろ千冬程のアイアンクローから抜け出すのは普通なら困難だ。これは束もまた遥か超人である事を示唆していた。

 

束「やあ!箒ちゃん!しばらく見ない間に大きくなったね!と・く・におっぱーーって待って待って、嘘嘘冗談だよぉ!だから居合切りの構え解いて!?」

 

箒「次私の間合い入ったら切ります」

 

束「それじゃあ束さん何も出来ないよ~。それよりも何処から出したのその刀、具現化系か何か?」

 

等と2人のやりとりをエマ以外はぽかんと眺めていた。

 

束「おや?そこにいるのはノーくんじゃないか!久しぶりだねぇ!あの日の運命的な出会い、忘れた事はあんまり無いよ~!」

 

ノア「確かいつぞやの・・・あ、ピエロさんでしたね。お久しぶりです。今日も一段とピエロらしいですね」

 

束「どういう社交辞令!? でも、そういうの嫌いじゃないぜ?」

 

ノア「・・・」

 

束「唐突に無視しないで!?」

 

ノアに気づいた束はやはりぶっ飛んでいた。妹に一蹴されて尚良くそのテンションが続くなとある意味ノアは感心していたところ、束がずっと黙っているエマの存在に気がつく。

 

束「あ、君がノーくんの妹のエーちゃん?はじめまして、私は篠ノ之 束と申します!貴方の事が好きです!」

 

エマ「・・・エマ・エルリック。貴方の事は・・・嫌いです!」

 

その瞬間この場の空気が凍りつく。ノアが見る限りではエマがここまで嫌いだと意思表示するのは一夏を除いては初めてだ。

因みに束は口で「がーん」と言ってはいたが、そこまでダメージは受けていない様に見えた。元々の性格がああ言う感じなので気にする事は無い。

 

ノア「エマ・・・どうしたんだ?篠ノ之博士とは初対面だし、確かに鬱陶しいとは思うが特に嫌う理由は無い筈だろう?」

 

束「そうそう鬱陶しーーーえ?」

 

エマ「・・・私にも分からない。何故か分からないけど、あの人は潜在的に嫌い・・・」

 

明確な理由も無く嫌うのはあまり良いことでは無い。それはエマも承知の上だろう。しかし分かってはいても、どうしても嫌いなものは誰にでもあると思うのだが・・・

 

ノア「篠ノ之博士、うちの妹が申し訳ないです。妹に変わって謝罪します。それと箒もごめんな、目の前で・・・」

 

束「いやいや良いんだよ~。束さんもノーくんとエーちゃんといっくんとちーちゃんと箒ちゃん以外どうでもいいからねぇ♪ アハハ〜」

 

箒「いや、気持ちは分かる。以前は私も嫌いだった」

 

束「え?」

 

そっぽを向くエマの変わりにノアが謝罪する。束と箒もその謝罪を受け取り気にしていないと言うが、それで良いのかとノアは苦笑いする。

 

千冬「束・・・お前は何しに来たんだ?」

 

束「あ、そうだった!さぁ箒ちゃん、大空をご覧あれ!」

 

束の指示に従って箒や他の生徒達も一斉に空を見上げ、エマは横目で何かを警戒する様に束を見ていた。

 

ズドーン!と空から銀色の物体が落ちて来て、束の合図で物体はISへとマジックの様に変化した。

 

束「じゃじゃーん!これが箒ちゃんの専用機こと《紅椿》!全スペックが現行ISを上回る束さんお手製ISだよ!」

 

太陽の反射でキラキラと輝く赤い装甲。そして最新鋭機にして最高機能のISだ。

 

束「さぁ箒ちゃん、今からフィッティングとパーソナライズを始めようか!」

 

箒「え・・・し、しかし・・・」

 

予想よりも遥か上を行く機体に萎縮してしまっていた。箒の頭の中は自分がこの機体に見合った実力を持っているか、その資格はあるのかと言う疑問でいっぱいだった。

その上姉が見せる期待の眼差し、もし失敗したらこれが失望の眼差しに変わると思うと怖くてますます《紅椿》に乗る勇気が出なかった。

 

ノア「箒、大丈夫だよ」

 

箒「ノ、ノア・・・」

 

その事を察したのはノアだけじゃない。セシリアや鈴も同じだった。

少し離れた所で不満の声を漏らす他クラスの生徒が数名いたが、それは全て1組の生徒達によって鎮圧されていた。

 

セシリア「箒さんは今まで計り知れない努力をして来ました。その実力は、下手な代表候補生にも引けを取らないレベルまで達していると言っても過言ではありませんわ」

 

鈴「そうね、それでも自信が無いならあたしが訓練に付き合ってあげてもいいわよ?あたしと甲龍であんたとその機体をギタギタにしてあげるから!」

 

ノア「箒、君は良く頑張ったのは事実だ。何なら僕達が太鼓判を押そう。だから胸張ってその機体を手にするといい」

 

箒の両肩に両手を置き、横から顔を見せ真っ直ぐ《紅椿》を見据え、最後に箒の背中を押した。

 

箒「・・・ありがとう」

 

3人に礼を言って束の指示に従い《紅椿》に乗り込む。束のリモコンの操作1つで自動的に膝を落とし操縦者が乗り込みやすい姿勢になっていた。

そしてコンソールを開いて指を滑らせ、さらに空中投影のディスプレイを六枚ほど呼び出すと同時進行でキーボードを叩いていた。

 

束「箒ちゃんの戦闘スタイルに合わせて尚且つ遠距離にも対応できる万能型だからすぐに馴染むと思うよ!」

 

箒「な、なるほど・・・」

 

姉妹にしては距離がある、たかが数年会っていないだけでここまで溝が深まるものなのかとノアは首を傾げる。しかしエルリック兄妹が例外なだけで普通はこうなのかもしれない。

 

因みにこれは余談だが、箒は以前は束が嫌いだった。その理由は束がISを発表してから元いた小学校を転校する事になり一夏と離れ離れになったかららしい。しかしIS学園に入学してからはその憎悪も薄れ、今では少し苦手ぐらいになった。それとは別に昔は束に対して辛く当たってしまった事を若干後悔しておりどう接したらいいか分からなくなっているが、それでもお構い無しにグイグイくるので少しずつ僅かではあるが関係の修復に向かっていた。

 

束「よーし、調整終わり!所要時間約3分、超速いね。さすが束さん!」

 

ケーブルを外し箒は手足を動かして見る。

 

束「それじゃあ試運転も兼ねて飛んでみてよ。箒ちゃんのイメージ通り動く筈だからさ」

 

箒「はい、それでは飛びます!」

 

そう言うと箒は目を閉じて意識を集中される。次の瞬間、《紅椿》はものすごい速度で飛翔した。その急加速の余波による衝撃波で砂埃が舞う。

 

シャル「は、速い・・・」

 

ラウラ「驚異的なスピードだな・・・」

 

ノア「まさかここまでとは・・・」

 

《紅椿》のスピードにノアですら驚いていた。単純なスピードだけでなら《最速》にも通ずる。

箒も思っていた以上のスピードが出た為多少機体に振り回されていた。

 

束「次は刀使ってみようか。右のが『雨月』左が『空裂』ね。武器特性データを送るよん。あ、そーだ!ねぇノーくん。紅椿の試運転にちょっとだけ戦ってよ」

 

ノア「僕、ですか・・・?」

 

武装のデータを送ると同時にノアに箒の相手を頼む束にノアも不意をつかれた。

 

束「そそ。本当はミサイル発射させようとしたけど、ちーちゃんに怒られちゃうかなって思ってやめたんだ~。それに今の箒ちゃん相手ならノーくんが最適だしね。お願いっ!」

 

ノア「・・・分かりました」

 

承諾するとノアは《ディザイア・S》を纏い箒の近くまで上昇した。その様子をエマは気に入らないと言う目で眺めていた。

 

箒『ノア、話しは聞いた。さっそく始めよう!』

 

ノア『あぁ、来い!』

 

ノアの合図と共に箒は雨月を抜刀し斬り掛かる。ノアもフォースサーベルで受ける。一旦剣を弾きノアはなるべくビーチから離れようと後退する。

そのノアに向けて雨月を振るうと刃部分から複数のエネルギー弾を放出された。全て躱された光の弾丸は漂っていた雲を蜂の巣にする。

 

ノア「(なるほど、スピードと射程距離はアサルトライフル並か・・・)」

 

雨月の性能に一瞬驚いて固まった箒は、我に返ってすぐさま空裂も抜刀し又もやノアに向けて放つ。

今度は斬撃に合わせて帯状の攻性エネルギーが放たれた。しかも振った範囲に自動で展開する仕様のようだ。

 

ノア「(この2つを組み合わされたら厄介だな・・・)」

 

箒「これなら・・・やれる!」

 

そう意気込むと逃げるノアを追尾して雨月を上下左右に放ち逃げ場を無くし、空裂で一直線にノアの背後にエネルギー刃を放つ。

 

ノア「ッ・・・ハァッ!」

 

背後迫るエネルギー刃に気づいたノアは即座に振り返り持ち手のスイッチを押す。フォースサーベルがエネルギーを纏い文字通り光刃剣となって箒のエネルギー刃を一刀両断する。

 

箒『やはり一筋縄では行かないな・・・ノア!』

 

ノア『箒だって、正直ここまでやるとは思わなかったよ。これなら・・・・・・少し本気を出しても、良さそうですね・・・』

 

箒「(雰囲気が変わった!? どうやらここからが本番のようだな・・・!!)」

 

ホムンクルスの力を発動させたノアに箒は冷や汗をかいて覚悟を決めると突然千冬の声が聞こえた。

 

千冬『そこまでだ!エルリック、これは試運転だと言っただろう。本気を出してどうする! 篠ノ之もあまり調子に乗るな!』

 

ノア&箒『す、すみません!!』

 

千冬『それよりも緊急事態だ。今すぐ降りて来い!』

 

緊急事態と言う言葉を聞いて2人はすぐに地上に向かう。よく見たら一般生徒達は使用していたISを急いで片付け初めており、専用機達は他の先生に誘導されて旅館に戻って行くのが見えた。

 

箒『一体何があったんだ?』

 

ノア『分からない・・・けど、穏やかじゃない事は確かだね』

 

 


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