対福音の作戦会議が終了して数十分。途中で飛び出して行った一夏は旅館から少し離れた海岸で海を眺めていた。
実は先程大部屋にノアが入って来た事に一夏は気づき、しばらく様子を見ていたらノアが作戦に参加すると知って悔しくなり、ここまで来てしまった。
一夏「何であいつは信じれて、俺の事は信じてくれないんだよ・・・千冬姉・・・!」
千冬に信頼されていない事を嘆くが当然だ。今までノアや鈴にして来た事、そこで何を言われたのかこの男にはその言葉は届かなかったようだ。
一夏「くそっ!ノアの奴、参加しないって言ったくせに・・・許せねぇよ!」
参加しないと言ったのはエマなのだが・・・本人の知らぬ間にまた一夏はノアに対して憎悪の炎を燃やす。
一夏「どうすればあいつより強く、信頼されるようになるんだ?」
一夏は悩み必死に考えて出した答えはこれだ。
一夏「そうだ!俺がノア達よりも早く福音を倒せば、千冬姉にも見直される!しかもノアに一泡吹かせられるし、結果を残せばエマだって俺のISを整備してくれる筈だ!」
悪手だ。ここまで来ると笑うしかない。まさに道化、する事が全て空回りしている。
そこで福音と戦うという事は、本来戦う場所ではないので完全に教師達の範囲外だ。もちろん福音の通り道にある土地には注意喚起はされているが、あくまでも避難所に避難するくらいだ。もし一夏と福音が戦う海上の近くに町や村があったらどれ程の被害が出るだろうか。そこを考えない時点で周りから信頼させる訳がない。
それを一夏は全く考えずに向かおうとしていた。
白式を展開させてさっそく飛ぼうとした時、突如後ろから話しかけられる。この声には聞き覚えがあった。
束「いっくん~ど~こ行〜くの~?」
一夏「た、束さん!?」
急に現れたのでびっくりした一夏は思わず白式を解除してしまう。相変わらず神出鬼没の兎だ。
一夏「と、止めないでください!俺はどうしてもあいつをーー「止めないよん♪」・・・え?」
束「束さんはね。悩めるいっくんの為に手助けをしに来たんだ~」
止められると思っていた一夏は束の言葉で思考が停止する。
束「いっくん、ちょっとだけ白式を見せてね」
そう言うと空中投影ディスプレイを3枚出して白式の待機状態にコードを数本差し込みプログラムに繋げる。そして3枚のキーボードを1人でほぼ同時に操作している、その上鼻歌まで歌っている。
束「~♪~♪ーーーーはい、終わったよ!」
一夏「な、何をしたんですか?」
束「ふふん!良く聞いてくれました!今やったのは福音の現在地が常に把握出来るプログラムを白式に突っ込みました!まぁこの件が終わったら外してあげるから、心配無用!」
一夏「さ、流石束さんですね・・・」
もう無駄に反応するのは辞めたようだ。それは得策だと思う。
束「そして移動用のエネルギーパックを取り付けたので《
一夏「へぇ~そうなんですか・・・って、ええぇぇぇ!!!?」
流石に流し切れなかった一夏を大声を上げる。咄嗟とは思えない程の手際の良さ流石は世界が認める天才と言った所だろう。
追加で補足すると即興での作業だったので、一度エネルギーを使い切ってしまったらもうその時点で通常のエネルギー消費に自動で切り替わり、二度と回復が出来ない。つまり使い捨てのマッチの様なものでエネルギー量は大体一往復が限界だ。
束「本当なら箒ちゃんと2人で行ってきて欲しかったんだけどね~」
一夏「・・・え!?ノアとじゃなくてですか?」
束「うん!紅椿と組むなら白式の方が相性良いしね~」
その言葉を聞いた一夏はガッツポーズを取り内心で大喜びしていた。
一夏(やった!束さんはノアじゃなくて俺を信じてくれている!さすが束さんだ!)
束「ノーくんが行ったら箒ちゃんの晴れ舞台が台無しだし、いっくんぐらいしか居なかったんだよね~」
一夏「え?今何か言いました?」
束「いいや、何でもないよ~♪」
呟きは喜ぶのに夢中だった一夏には聞こえていなかった。
束はただノアだと強過ぎる為、福音を単独で撃墜してしまう事を予想する。かと言って他の専用機持ちは束にとってゴミ同然の存在。ゴミに物事頼むなどちゃんちゃらおかしいと考え一夏に白羽の矢が立った。
一夏「ありがとうございます、束さん!!」
束「はーい、行ってらっしゃ~い!」
白式を展開し福音を追跡する姿を手を振りながら見送った束の顔は怪しい笑みを浮かべていた。
ーーーーーーーーーーー
一夏が勝手に出撃した同時刻、ノアや専用機持ち達はセシリアの量子変化の手伝いをしていた。
因みにシャルとラウラ、鈴にも換装装備があったのだが時間が無かったので一人に集中した方が良いと言う指示を貰っていた。
ノア「セシリア、この機材ここに置いておくよ」
セシリア「はい、ありがとうございます!」
シャル「ノア、そこにある小型モニターを持ってきて」
ノア「分かった」
ノアは整備に関しては自身の機体なら多少出来るが他人の機体は無理なので主に機材の運搬作業をしている。
ノア「(エマが入れば速攻で全員分終わるんだろうけど・・・どこに行ったんだろう? 部屋には居なかったな・・・)」
何故か居ないエマに疑問を抱くが、今はシャルに機材を持って行く事にした。
とりあえず運搬作業は一通り終わったので一息つきながら辺りを見渡すと、目線の先で箒が竹刀を持って素振りしていた。
箒は結構前に束との調整を終えていたので時間があったようだ。
ノア「心ここに在らずって感じだね」
箒「ノ、ノア!分かるのか・・・?」
箒の剣筋に違和感を感じていた。その事に気づいたノアはこれでは任務に危険が生じると思い箒に質問する。
ノア「まぁ、こんな状況だからね」
箒「そうか・・・実は一夏の事が気がかりで・・・」
箒の懸念の理由は一夏にあった。部屋を飛び出して行ったきり姿を見せないので箒は心配していた。
ノア「なるほど・・・箒は優しいな・・・」
箒「あっ、すまない。ノアは一夏の事をあまり良く思っていないんだったな・・・」
ノアが一夏に対して嫌い意識がある事を知っていた箒は若干気まずそうに軽く謝るが、ノアは別に謝ることでは無いと返す。
ノア「いや良いんだ・・・それよりも《紅椿》の調子はどう?」
箒「あぁ、絶好調だ。今すぐにでも出撃できるぞ!」
ノア「その調子だ。とにかく箒は冷静に行動するんだ。そうすればきっと上手く行くよ」
箒の意気込みにノアは笑顔で親指を立て、どんな時でも冷静出いることを教える。
そんな中、千冬と真耶が血相を変えて走って来る。何か分からないが嫌な予感がしたのはノアだけじゃなく他の皆もそうだった。
真耶「た、大変です~!お、織斑君が・・・織斑君が一人で福音の所へ向かってしまいました!」
全員「「「!!!!??」」」
嫌な予感はしていたが・・・正直ここまで最悪な事だとは誰も考えていなかったので目を見開いて驚く。
ノア「あのバカ!何考えてんだ!」
箒「一夏・・・何故だ・・・!」
鈴「本っ当、救えないわね!」
セシリア「相変わらず愚かな人ですこと・・・」
ラウラ「流石に擁護出来んな・・・」
シャル「はぁ~・・・」
ノア、鈴、セシリアは悪態をつき、箒は何故一夏がそのような暴挙に出たのか理解できずに困惑し、ラウラは別に一夏が嫌いと言うわけでは無かったのでそこまで言わなかったが擁護は出来なかったようだ。シャルは頭を抱えながら深いため息をついていた。
千冬「総員直ちにISを展開し、あのバカ者を止めて来い! もし福音と接触してしまったのなら・・・周囲の被害を最小限に抑えつつ福音を打て!」
千冬の怒声で我に返った専用機持ち達はISを展開しようとしていた・・・しかし、箒以外は誰もISを展開していなかった。否、出来なかったのだ。
鈴「な、何で!?甲龍!甲龍!!」
シャル「ISを呼び出せない!?」
ラウラ「くそっ!何故だ!」
セシリア「一体何が・・・!?」
ノア「やばい・・・ISが展開できるのは、箒だけ!?」
箒「そ、そんな・・・」
ISを展開出来なくなっていた専用機持ち達は困惑している。
千冬「・・・仕方ない。篠ノ之、お前が全速力で追って一夏を連れて戻って来い!」
真耶「織斑先生!!」
千冬「これしか方法が無いんだ・・・!」
困惑している専用機持ち達を見て即座に箒に指示を出す。真耶もそれを止めようとするが、他の教師陣は全て手が空いておらず千冬はこれしか無いと諦める。
それ即ち任務失敗を意味する。
エマは部屋を居らす行方不明、束も紅椿の調整が終わったらどこかへ行ってしまって行方不明ときた。もう詰みだと千冬は歯を食いしばる。
しかし、まだ諦めていない者がここにいた。
ーー鋼の意思を継ぐ男がここに!
ノア(くっ・・・どうする!考えろ、僕!!)
プライド(標的が海の向こうでは我々も手の出しようがないですね・・・)
ラース(スロウスの最速で水の上を走って行く事はおそらく可能だが距離があり過ぎる故、とても福音まではノアの体が持たんな・・・)
エンヴィー(例え持ったとしてもその後どうやって福音と戦うのさ。相手は空にいるんだろ?)
グリード(こりゃ、本格的にあの嬢ちゃんに頼るしかねぇかもな・・・)
ラスト(錬金術で足場作って移動するのも現実的では無いわね・・・錬成速度を考えると時間が掛かり過ぎるわ・・・)
ノア(なら、一か八か最速で福音の所まで行って錬金術で足場を作って戦うしか・・・)
エンヴィー(そんなの反対だね。制空権を取られてる上に足場も破壊される様な場所で戦うなんて勝率は絶望的だよ。それにノアが死ねば多分、僕達ホムンクルスも消滅するんだから)
ラスト(素直じゃないわね。はっきり死んでほしくないって言えばまだ可愛げがあるのに)
エンヴィー(そ、そんなんじゃない! 適当な事言ってんじゃねーぞ!!)
プライド(今はそんな場合ですか! 時と場合を考えなさい!)
グリード(あっ・・・そうだ! 俺の力で全身を固めてあの嬢ちゃんの機体にしがみつくってのはどうだ?)
エンヴィー(だから相手は空だって言ってんだろ!)
グリード(その後は錬金術で足場作って戦えばいいじゃねーか!)
エンヴィー(肝心な所が一緒だろうが!)
ノア(でも、確かにそれなら可能かもしれない。けど・・・強欲の力が紅椿の出すソニックブームにどれだけ耐えられるかの問題だ)
グリード(へっ、俺は”最強の盾”だぜ?舐めんな!)
ノア(そうだな・・・これに賭けるしかもう方法はーー)
エマ「ーー待って下さい!!」
ノア「エマ!?」
専用機持ち達は困惑し千冬は悔しそうな顔をしている中、箒は1人で向かう覚悟をしている。ノアは一か八かの案を千冬に伝えようとした瞬間、整備服姿のエマが現れた。
しかし何故か服が汚れており急いでここに来たのか息切れをしていた。
ノア「エマ、お前今までどこに!?」
エマ「ごめんお兄ちゃん。さすがに部屋の中で作業する訳にはいかなかったから、女将さんに頼んで地下室に連れて行ってもらってたの。それよりも今の状況は?」
千冬「あぁ、実はーー」
旅館の地下室で何らかの作業していたエマは今の状況を聞き、それを千冬が答えた。
エマ「・・・なるほど。全く・・・相変わらず愚かな人です。何故そのような思考に辿り着いたか理解出来ませんね。っとそんな事より、先ずは皆さんのISですね・・・」
エマはノアのISの待機状態である銀時計を見て直ぐに小型の空中投影ディスプレイを開き、ケーブルを銀時計とキーボードに繋げると眉をひそめる。
エマ「これは・・・多分ハッキングされてる。それによってコードが書き換えられて、ISを呼び出せないんだと思う・・・」
ノア「何!? 僕のがそうなってるって事は、皆も・・・」
シャル「だ、誰がそんな事を・・・」
エマ「これは推測でしかありませんが、おそらく篠ノ之 束博士の仕業でしょう」
エマの発言に誰も驚かなかった。この短時間でIS程の高度な機械をハッキングしコードを書き換える等、寧ろ束にしか出来ないだろう。
それに箒の紅椿だけ無事と言うのはあまりにも不自然だ。
ノア「エマ、このハッキング・・・どうにかなるのか?」
エマ「任せてよ、お兄ちゃん!これなら15分・・・いや、10分で解除するよ!」
そう意気込むエマはものすごいスピードでキーボードを叩く。
箒「織斑先生!私に出撃許可を下さい!」
千冬「なに?」
箒の発言にエマ以外が反応する。エマにも聞こえていたが今はハッキングの解除に集中していた。
箒「早く行ってあげないと・・・一夏が・・・!」
千冬「っ!・・・分かった・・・出撃を許可する」
一夏を心配する箒の訴えは言葉が無くとも千冬には伝わっていた。千冬も箒と同じで一夏が心配なのだ。
箒「ありがとうございます!」
エマ「それは得策とは言えませんね」
箒「エマさん・・・!?」
突如声をかけられた事で箒は動揺するが、エマは気にせず作業しながら話を進める。
エマ「いくら篠ノ之 束博士がパーソナライズとフィッティングを行ったとは言え、専用機を貰ってから1日も経ってないですよね?そんな状態で行けば何かしらの問題があるかもしれません。それでも行くんですか?」
箒「あぁ、一刻も争う事態何だ、行かなければならない!」
エマ「・・・忠告はしましたよ」
箒の答えを聞いたエマは一言も喋らなくなり、キーボードを叩く速度を上げる。その顔は先程よりも真剣なものとなっていた。
無関心に見えてかなり心配しているようだ、その事にノアとシャル、ラウラ、鈴、セシリアは理解していた。
千冬「篠ノ之、約束しろ。福音とは戦うな、既に織斑が福音と接触している場合は何があっても決して攻めず防御に徹しろ! 無論、周辺の被害は抑えるように!」
箒「はい!!」
決意に満ちた返事をした箒は一気に上昇しあっという間に高度三百メートルまで飛翔していた。
箒「衛星リンク確立・・・情報照合完了。福音は・・・そこか!」
福音の位置を確認すると装甲が開き、そこから強力なエネルギーを噴出させ福音の下へ向かう。そのスピードは瞬時加速を上回り、もうノア達からは見えなくなってしまった。これでまだ最大速度じゃないのが紅椿の恐ろしい所だ。
箒「目標到着まで後二十秒・・・」
ハイパーセンサーの視覚情報ではこの時点で一夏が福音に瞬時加速で奇襲を仕掛けるところだった。
旅館から27キロ程離れた場所で福音は飛行していた。常に瞬時加速で福音の下へ向かった一夏にもう追いつきそうなので、箒は改めて紅椿のスピードに驚く。
箒(間に合わなかったか・・・これで福音との戦闘は避けられない・・・!)
福音も一夏の存在に気づいたようで、もう戦闘は避けられないと判断しやるしかないと覚悟を決めて戦闘準備を整える。