「もう逆再生してないわね。」
ベラが化け物から離れながら言う。
「うん、でも結構嫌な倒し方になったよ。」
死ぬまで殺し続けるのは、例え化け物相手だとわかっていても、嫌な気分になった。
さっきみたいに吐き気がするかと言われるとそうでもない。
慣れたからだろうか。
「帰ろっか。」
例えそうだとしても、こういう事には慣れたくないな。
「そうね。」
お互いに口数が少なく、沈黙が流れた。
脳無のパンチで空いた穴を見るに、ここは地下数階。だいぶ落とされたようだ。
「何かここ、さっきよりも不気味ね。」
「変なフラグたてないでよ。」
しかし、ベラの言う通りだ。確かに不気味さで言えば地下の方が高い。
「あまりここら辺はうろつかない方がいいね。早く上に戻ろう。」
そう言って手を地面につく。すると、眩い光が生じてだんだんと身体が上の方へ上の方へと登っていった。それと同時に心も少し和らぐ。
「これ、ちょっと楽しいじゃない。錬金術ってすごいのね。」
さっきまで表情がずっと悪役チックだったベラも、いまは少し楽しそうな顔をしている。
「床の材料を集めて上に伸ばしているんだよ。はい、一階にご到着。」
そう言って地面から手を離す。うん、楽しかった。そう思って一階を見渡すと、視界の隅に角でぶつかったおじさんが見えた。いや、見なかった事にしよう。
…
「鯉影、帰ろっ。さっきの奴の仲間とか居たらやだし。」
そう言って手を引いたベラは、さっきの悪役顔に戻っていた。嫌なもの見せちゃったかもしれない。
でも、「仲間」は笑えない。ベラは言っといてそう思ってない声だった。けど、仲間がいる事は多分あっていると思う。だって、ぶつかったおじさんが
"この脳無、暴走してッ"
って言っていたのを聞いたから。少なくとも暴走個体が珍しいくらい、いるんだろう。冗談じゃない。
「うん、帰ろう。」
そう言って繋いだ手に力を入れた。私は魔王城に挑む勇者じゃないんだ。例えこの工場が世界破壊を目標にしていようが知ったこっちゃない。今は無事に家に帰る。それだけだ。
手を繋いで二人で出口まで歩く。
あと、三歩。
あと二歩。
あと一……!?
足が動かない。何だこれ。足が沼みたいのに浸かって取れない。てか臭っ。
「鯉影この黒い液体、どんどん私達を飲み込んでる。」
黒くて下がどうなってるかもわからない。もう腰まで来た!何なんだよコレ。
「うっ!うぇ、、」
口に入った!不味い。だいたいこの液体は何で出来てるんだ?こんな真っ黒で臭いのなんて。
「うっ、鯉影!あぶっうぇ…」
ベラがもう鼻あたりまで浸かってる。ベラが連れてかれる…この!潜って下から押してやる。
ブクッゴブォ
「ゴッホウォッホ、うぇ…臭…」
何か黒い液体は何処かに繋がっていたらしい。
ボトッ…
「うぇ、うっえ、コホッ。…マズっ」
ベラも来たみたい。無事でよかった。
しかしここはどこだ?さっき見たどの階とも似つかない。何か高価そうな部屋だ。
「やぁ、君達。」
…⁉︎ 油断した!
何かとても禍々しいものが自分達の近くにいる。身体中から汗がでてきた。自然に私の身体はベラを庇う体勢になった。
「そんなに警戒しないでくれ。」
口調は優しげだけど何か違う。
「貴方は?」
「僕はここの責任者と少し話し込んでいただけさ。」
…こんな危なそうな人と話し込んでいた責任者。脳無といい、何なんだよ。
「私達も要件が済んだので帰る途中なんです。」
ベラが答える。声は緊張を隠しきれていない。
「へぇ、なら僕が出口まで案内してあげるよ。」
…ベラめ、余計な事を。無事に帰れたらいいけど。
ベラは素直に男の後を歩いて行く。私はその四メートルくらい後を離れて歩く。
私が警戒している事を理解してる癖に無視を決め込んでいるという事は、コイツは大丈夫な奴なのか…
はたまた、こんな子供一人、警戒するに値しないという事なのか。
「おじさま、ここは何階ですか。」
「ここは地下四階だよ。」
大丈夫。少し入り組んでるけど、今来た道はちゃんと覚えている。男とベラがたわいない会話をしている間にこの工場の大方の作りを考えていく。この工場は外から見ると3階建ての様だが男が言ったように地下四階くらいまではあるだろう。さっきの戦闘で行ったし。
「フフッ。」
ふと男が立ち止まった。
「いや、しかし、君達は真反対の様で同じ考え方をするんだね。二人とも僕に対して凄い警戒している。
そこの帽子の子はいつでも逃げれる様にこの工場の設計を頭に叩き込んでる。
一方の君は、僕から情報を引き出そうとしている。
いやぁ、君達、…気に入ったよ。」
男は私達に振り返り、先程とは似ても似つかない獰猛な笑みを見せた。
「脳無はどうだった?」
…コイツ、やっぱ敵か!って当たり前か。
「ベラ!」
「わかってるわ、よ!」
ベラが指を固めて男を刺そうと動いたが、男は私達より遥かに速かった。
「良いと思うよ、人を殺す事に躊躇しないその姿勢。」
男がベラの後ろに立つ。
何かする前に私がその間に入り、拳を振り上げる。
「小規模だが、二万八千度の電撃だ。悪く思うなよ!」
まだ拳から出すのは制御しきれていない為、変なのしか出させなかったが、当たった。確実に死んだだろう。
「私、鯉影の後ろにいて良かった…あれまだ上手く出来ないんじゃ無かった?」
「…まぁ。でも殺す気でやらなきゃこの人には勝てないと思ったんだ。私に人を殺せる力なんて雷しかないし。」
土煙の向こうにあるであろう男の死体を想像した。
「もう行こう。」
ベラの背を押して階段を探そうとしたその時、
「驚いた。姿勢も好きだが個性も二人ともいいね。ますます気に入った。」
私とベラの両方の頭に誰かの手が置かれた。
私もベラも動けない。動こうとした瞬間頭が消し飛ぶビジョンが見える。
「…うん。状況判断力も素晴らしい。
ここで君達に選択肢をあげるよ。
僕に首を切り落とされ呆気なく死ぬか、僕に従ってこの地獄から這い出るか。
何、悪い様にはしないよ。ただ僕は後継者がいなくてね。」
「…後継者っておじさんまだピンピンしてるし、必要ないでしょうが。」
「いや、保険だよ保険。」
「…後継者という事は、一人だけですか?もう一人は殺すと?」
「いや、どちらかはその後継者の下について貰おうかな。」
ベラと目線だけでやり取りをする。どちらが良いかは、お互いの意思を確認しなくとも決まっていた。
「「先程はとんだ無礼を。よろしくお願いします。」」