私はヴィラン…多分   作:まったいら

11 / 25
11.上の世界

あれから男は言葉通り、ダンプから出る手続きをしてくれた。今はこの島の家の前。

「準備は整った?誰かにお別れは言わないのかな。」

 

「別に、別れ言うほど仲いい人居ないんで。」

そっけなく言う私。それとは反対に、

 

「あ、じゃあ私行ってきます。」

っとベラは言った。

あれ、ベラそんな仲良い人居たんだっけ?

 

「私を売った父親の所にお別れを。」

 

あぁ。売った娘が会いに来て、外の世界に行くなんて聞いたらそりゃ嫌な気分になるわな。

 

嫌がらせしに行くのかよ。

 

「君は親にお別れを言わないのかい?」

 

「親いないんで。」

 

「…そうか。」

この人といるとなんか調子狂うな。優しいのが上部なのか心からなのか分からない。

 

男は少し思案顔をしてから

「君達二人とも親がいないなら、僕がそれになってあげよう。」

 

突拍子もないことを言う。親が居ないならなってやるって…親ってそうやってなるものじゃないだろう。

 

「君達は今どこにも存在していない人間なんだ。そうだろう?」

 

「貴方が私達の父親という事ですか?」

 

「不満かな?」

 

「いえ、ただ、私達は二人とも生みの父親には良い思い出がないので。養子縁組の件は喜んでお受けしますが、父という存在だとどう接して良いか、よくわかりません。」

 

「そのくらいの距離感が僕にとっては心地いい。養子縁組の手続きをしてくるよ。」

 

男はあの時の黒い液体とは違う何かで闇に消えていった。

あんな不気味な人と家族になるのは嫌だが、結果をみると、とても良いことだ。男と養子縁組をする事で私もベラも表の世界に行ける。上の世界の住人(ノーブル)になれる。これはチャンスなんだ。

 

「おかえりベラ。」

 

「ふふふっ…ただいま。お父ちゃんの顔、貴女にも見せたかったわ。」

 

「そう。良かったね。でも、もう父じゃないよ。さっきの男と養子縁組する事になったから。」

そう言うと驚いて、次の瞬間には勝手に決めるなと平手がとんできてた。痛い。

 

「ねぇ、そういえばあの人の子になるって事は私達苗字変わるって事よね。まだあの人の事「なんか怖い人」としか知らないのに」

 

「うん、変わるね。けど名前なんて所詮ただの符号。誰を呼んでるか解りさえすればなんでも良いんだよ。」

 

「あんた自分の養父をずっと「あの人」呼ばわりするつもりじゃないでしょうね…」

 

「そんな訳ないじゃないか。」

 

「こっち向いて喋ってくれる?」

 

その後、「あの人」の部下らしき人が来て、家を後にした。

 

この島に空港は無い。使えるのは船だけだ。そして、この島にある浜辺で、使用可能なのは上の世界(ノーブル)にしかない。他の浜辺の前には、巨大な壁があって使えないのだ。ので、

 

「ここが上の世界…キラキラ光ってる。」

 

「凄いわね。色んな色がある。」

 

上の世界に来た。遠目からでも高い建物がたくさん見えていたが、近くで見ると迫力がある。

色んな所をくるくる見回していると、部下らしき人に小部屋に連れてかれて、

 

「お嬢様方、まずはそのお召し物を変えましょう。」

と、半ば強引に服を着替えさせられた。確かに、上の世界(ノーブル)の人は私達を汚物の様に見ていた。この部下も今の私達と一緒にいるのは嫌だろう。けど、

 

「私はこれにして下さい。」

私はスカートがあまり好きではないんだ。それしかなかったら仕方なく着るけど。

 

「大変心苦しいのですが、私の目にはそれを着てしまうと、男性に見えます…」

 

「構いません。こっちの方が見栄えが良いでしょう?」

別に、二度とここの島の人々には会わないんだ。一瞬性別を間違えられようが知った事か。

 

「左様ですか。」

男も別に見た目が良かったらいいらしい。また、港へ案内し始めた。

 

 

お金を少し稼げる様になったと思っていたが、この服は自分が着た事なさそうな高価な服だった。今まで着ていた服が、まるでボロ切れだ。いや、上の世界の人(ノーブル)にとっては事実ボロ切れなんだろう。

 

「この船のSロイヤルスイートルームでお父上様がお待ちです。」

 

お父上様…まあ、そうなんだけど、

 

「慣れないわね。…お父上様だってよ。」

 

そう、慣れない。そもそも父親が一日も居なかった人生だ。急にお父上様とか言われても「あ、はい。」としか思えない。

 

「ここがSロイヤルスイートルームでございます。では、私はここで失礼します。」

 

案内役が一礼して去っていった。意を決してドアをノックする。

 

「どうぞお入り下さい。」

 

中からドアが開けられ、執事服が目に入った。

 

「私、執事の紅羽と申します。どうぞ宜しくお願いします。」

 

執事…どうやら私達の養父は余程の金持ちらしい。あ、この島に出入りしてる時点で金持ちか。

 

「やぁ、遅かったね。ちょっと早いけど夜ご飯にしようか。」

 

そう言ったのは長テーブルの奥の、王様が座る様な椅子に座った養父だった。

それから長テーブルに次々と料理が運び込まれる。

 

「席に座って。好きなもの食べていいから。」

 

それはそれは高価な物ばかりで驚いた。最初は毒が盛られていないか警戒したが、一口食べたら、次の瞬間には全部胃袋に消えていた。

 

死ぬほど美味い。

あまりの美味しさに次々と運び込まれる料理にがっつく。

 

これもあれも私のだ!

 

よくみるとベラも似たような事をしていた。

 

「…君達は良い(ヴィラン)になるのは確かだ。けどその前にテーブルマナーを覚えようか。僕の可愛い娘達。」

 

口元は笑ってるが、声のトーンがこわい。

 

がっついたのが悪かったのか私達のマナーは、専用の先生が雇われて徹底的に直される事となったのだった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。