あれから男は言葉通り、ダンプから出る手続きをしてくれた。今はこの島の家の前。
「準備は整った?誰かにお別れは言わないのかな。」
「別に、別れ言うほど仲いい人居ないんで。」
そっけなく言う私。それとは反対に、
「あ、じゃあ私行ってきます。」
っとベラは言った。
あれ、ベラそんな仲良い人居たんだっけ?
「私を売った父親の所にお別れを。」
あぁ。売った娘が会いに来て、外の世界に行くなんて聞いたらそりゃ嫌な気分になるわな。
嫌がらせしに行くのかよ。
「君は親にお別れを言わないのかい?」
「親いないんで。」
「…そうか。」
この人といるとなんか調子狂うな。優しいのが上部なのか心からなのか分からない。
男は少し思案顔をしてから
「君達二人とも親がいないなら、僕がそれになってあげよう。」
突拍子もないことを言う。親が居ないならなってやるって…親ってそうやってなるものじゃないだろう。
「君達は今どこにも存在していない人間なんだ。そうだろう?」
「貴方が私達の父親という事ですか?」
「不満かな?」
「いえ、ただ、私達は二人とも生みの父親には良い思い出がないので。養子縁組の件は喜んでお受けしますが、父という存在だとどう接して良いか、よくわかりません。」
「そのくらいの距離感が僕にとっては心地いい。養子縁組の手続きをしてくるよ。」
男はあの時の黒い液体とは違う何かで闇に消えていった。
あんな不気味な人と家族になるのは嫌だが、結果をみると、とても良いことだ。男と養子縁組をする事で私もベラも表の世界に行ける。
「おかえりベラ。」
「ふふふっ…ただいま。お父ちゃんの顔、貴女にも見せたかったわ。」
「そう。良かったね。でも、もう父じゃないよ。さっきの男と養子縁組する事になったから。」
そう言うと驚いて、次の瞬間には勝手に決めるなと平手がとんできてた。痛い。
「ねぇ、そういえばあの人の子になるって事は私達苗字変わるって事よね。まだあの人の事「なんか怖い人」としか知らないのに」
「うん、変わるね。けど名前なんて所詮ただの符号。誰を呼んでるか解りさえすればなんでも良いんだよ。」
「あんた自分の養父をずっと「あの人」呼ばわりするつもりじゃないでしょうね…」
「そんな訳ないじゃないか。」
「こっち向いて喋ってくれる?」
その後、「あの人」の部下らしき人が来て、家を後にした。
この島に空港は無い。使えるのは船だけだ。そして、この島にある浜辺で、使用可能なのは
「ここが上の世界…キラキラ光ってる。」
「凄いわね。色んな色がある。」
上の世界に来た。遠目からでも高い建物がたくさん見えていたが、近くで見ると迫力がある。
色んな所をくるくる見回していると、部下らしき人に小部屋に連れてかれて、
「お嬢様方、まずはそのお召し物を変えましょう。」
と、半ば強引に服を着替えさせられた。確かに、
「私はこれにして下さい。」
私はスカートがあまり好きではないんだ。それしかなかったら仕方なく着るけど。
「大変心苦しいのですが、私の目にはそれを着てしまうと、男性に見えます…」
「構いません。こっちの方が見栄えが良いでしょう?」
別に、二度とここの島の人々には会わないんだ。一瞬性別を間違えられようが知った事か。
「左様ですか。」
男も別に見た目が良かったらいいらしい。また、港へ案内し始めた。
お金を少し稼げる様になったと思っていたが、この服は自分が着た事なさそうな高価な服だった。今まで着ていた服が、まるでボロ切れだ。いや、
「この船のSロイヤルスイートルームでお父上様がお待ちです。」
お父上様…まあ、そうなんだけど、
「慣れないわね。…お父上様だってよ。」
そう、慣れない。そもそも父親が一日も居なかった人生だ。急にお父上様とか言われても「あ、はい。」としか思えない。
「ここがSロイヤルスイートルームでございます。では、私はここで失礼します。」
案内役が一礼して去っていった。意を決してドアをノックする。
「どうぞお入り下さい。」
中からドアが開けられ、執事服が目に入った。
「私、執事の紅羽と申します。どうぞ宜しくお願いします。」
執事…どうやら私達の養父は余程の金持ちらしい。あ、この島に出入りしてる時点で金持ちか。
「やぁ、遅かったね。ちょっと早いけど夜ご飯にしようか。」
そう言ったのは長テーブルの奥の、王様が座る様な椅子に座った養父だった。
それから長テーブルに次々と料理が運び込まれる。
「席に座って。好きなもの食べていいから。」
それはそれは高価な物ばかりで驚いた。最初は毒が盛られていないか警戒したが、一口食べたら、次の瞬間には全部胃袋に消えていた。
死ぬほど美味い。
あまりの美味しさに次々と運び込まれる料理にがっつく。
これもあれも私のだ!
よくみるとベラも似たような事をしていた。
「…君達は良い
口元は笑ってるが、声のトーンがこわい。
がっついたのが悪かったのか私達のマナーは、専用の先生が雇われて徹底的に直される事となったのだった。