ふかふかのベッドにくるまれて、生きてきた中で一番心地よい眠りから覚めた。
昨日はご飯食べた後何したんだっけ?幸せすぎて覚えてない。これが幸せボケというものか。
「お嬢様、お目覚めでしょうか。」
この声は、執事の紅羽さん。
「はい、起きてます。おはようございます。」
「マナーの先生がお見えです。」
…マナー。マナー…行儀作法の事。
今、船の上だよね?どっから来たんだ。
「いかがされますか。」
「3分下さい、支度を整えます。」
隣のベッドに寝ているベラを起こす。顔を洗って歯を磨き、二人でテキトーにタンスやらを開いて服を探す。
「ベラ、早く。あと10秒。」
9、8、7、6、5、4、3、
「「紅羽さん、お待たせしました。」」
ギリギリセーフとはこの事。
「ギリギリセーフ…ではありませんわ!乙女の支度が3分で終わってたまりますか。」
誰だこのおばちゃん。
「お嬢様方、こちらマナーの先生、「血まみれ婦人」です。」
血まみれ?どっかの蛇寮の幽霊みたいな名前だな。
「血まみれにはみえませんけど。」
「シッ、馬鹿ね。血まみれになるほど虐められた事があるのよ。きっと。…ほら、あの体型だし。」
「聴こえていますわよ。血まみれ婦人とは敵名ですわ。」
…血まみれになるほど弱いのか。
「相手を切り刻んで、返り血で血まみれになるんです!二人とも何て失礼なのでしょう。少しはお父上を見習ってはいかがです?」
お父上?あぁ、すいませんね、まだ見習う程話した事ないもので。
「オホン、まぁ
何かさっきから失礼なおばちゃんだな。このブタ子ちゃんが。
「ですが、ご安心を…この、私が、貴女方を立派なレディへと変えて差し上げるわ!」
ヤダな。この人にマナーを教わるのか。
「ではまず初めに…そこの貴女!」
ビシッと手のひらで指された。私か。
「なんです「レディがズボンなんて履くんじゃありません!」」
ズボン履いちゃいけないの…つまりスカートを履けと?
あんな脚がスースーするヒラヒラを?まるで襲ってくれと言わんばかりのあの服を?冗談じゃない。着るわけないだろう。
「スカート舐めちゃいけません!」
「そうだそうだ!」
ここでベラが先生側に着いた。裏切り者め。
「そんなにズボンがよろしいのなら、いいでしょう。紳士マナーでも習ったらいかがです?そこのスカートの貴女だけついてらっしゃい。」
紳士マナー…金払ってもらってる先生が授業放棄していいのかよ。
まぁ、お父上殿が満足いく上品さがあれば紳士マナーでもいいや。誰に教わろうかな。身近に思い当たる人いないな。
「、…お嬢様、まだ間に合います。追いかけてはいかがでしょう?」
…、
いるじゃん、近くに。お父上殿が満足いく上品さを持っていて人に教えられそうなの。
「紅羽さん、マナー教えて下さい。」
「私は一介の執事にございます。」
「執事でも物事を教える事は出来ますよね。」
「失礼ながら私は紳士マナーと執事教養しか存じ上げてません。」
「ならば紳士マナーを。」
「紳士マナーは男子が教わるものです。それにお嬢様にはもう先生がいるでしょう。」
「その先生に紳士マナーをしろと言われたので。」
…お父上様に言いつけるぞ。
「…かしこまりました。この紅羽、喜んでお嬢様にマナーをお教えしたくございます。」
勝った…!ダディパワー良いね。
物語始まってからはじめての平和な1日。