19.ネーミングセンス
「んんぅー!」
ベラが嬉しそうに身体を伸ばす。私も多分ニヤけているだろう。なんたって目的地に着いたのだから。
「二人とも、着いておいで。」
父様はそう言ってさっさと階段を使って降りていく。
「やっと着いたんだからもう少しのんびりしても良いのに…お父様はせっかちね。」
「何言ってるの。ここはもう、敵地だよ。」
父様の次に後継者の位を得た私が、そのすぐ後にベラが続いた。マナーの先生二人はもう降りているらしい。
地上に着くと目の前には黒塗りの高級そうな車が1つ。乗れという事か。
「これが車ね。私初めて見たわ。」
車に興味津々なベラを残して私はとっとと乗る。随分と広いな。
「おや、君は興味ないのかい?」
「興味は、なくはないです。でも、足を止める程の価値とは思えませんでした。」
「この車は君達の言う、表の人間でも一生乗れないかもしれない車だよ?」
「私はこれからずっと乗るのでしょう?」
そう聞き返すと、父様はニヤニヤ笑ってそうだねと言って黙った。
この国はとても進んでいる。車なんてあちこちにあるだろう。それに一々反応はしない。
反応なんて、他者の顔色を伺う奴のする事だ。もしくは自分の感情に従順な奴。
ベラが目をキラキラさせて車を見ている間、束の間の沈黙ができた。元々自分からは話さない父と私の二人だと、車内から音が消えた。
暇なので窓から外を見る。上の世界ほど高い建物が在るわけじゃないが、だからと言って下の世界ほど汚いわけでもない。何と言うか、無駄に飾ってない、平和そうな所だ。
今私が乗っているこの車は工場の裏の様な所にいるが、その少し隣には平たい家が大量にある。想像よりキラキラしていない。屋根などは茶色で目に優しい色だ。
「驚いたかい?」
「えぇ。それなりに。…ここに住む人は皆ハズレの個性でもひいたんですか?」
出なきゃ表の世界の住人なのにこんなキラキラじゃない家住まないよな。
「…鯉影、自分の個性についてどう思っている?」
「どうとは?」
「僕はね、1つ、2つ個性があるだけじゃたかが知れてると思うんだ。」
父様は何が言いたいんだ?個性は生まれ持っての能力。数に関してはどうしようもない。それこそ、在るもので頑張るしかないだろう。
「在るもので頑張るしかない。確かにそうだ。けど、増えるとしたら?」
「それは素晴らしいと思います。けど、不可能だ。」
「不可能?そんな事はない。かの有名なゲーテはこう言った。『人類にとっての本来の研究対象は人間である』とね。僕も同じ意見だよ。僕らは僕らを知るべきだ。人類の可能性ってやつをね。」
…父は何が言いたいんだ。全く意図がわからない。個性は増えたり減ったりはしない筈だ。だから個性婚なんてものまで出来たのに。
「父さ「お父様、おまたせしました!」…」
ベラが勢いよくドアを開けた。
それと同時に眩しい光が入ってくる。普段から帽子を被っている為、久しぶりに目にあたった日光は痛い。
「二人して何を話してたんですか?鯉影は涙目だし。」
「…いや、今後の話を少し、ね。」
父様はさっきの話をベラにはしないらしい。まぁ、個性が増えようが減ろうが、私は今の力に満足しているからいいが。
満足…うん、しているさ。きっと。多分。
ベラが乗ったことで車は発進した。移り変わる景色をぼーっと見ながらも頭では個性の事を考える。個性とは、特殊能力の事を言う。発端は中国・軽慶市。「発光する赤子」が産まれた事からだ。
だが、よく考えるとおかしいな。個性は
「二人とも」
「何ですか。」
「僕達は家族になったわけだけど苗字はどうする?元のを名乗りたいならそうすれば良いし、新しく自分で作りたいならそうすれば良い。」
苗字?名前の後だか前だかにつく表の世界の住人の証か。てっきり父様のを使わせてもらうんだと思ってたけど。自分でつけられるならそれに越した事はない。
「苗字ね…何か、心踊るわね。」
「うん。良いの考えないと。」
「あまり変なのは辞めた方がいいよ。一生名乗らなきゃいけない名だからね。」
私はそうだな…やはり鷹が入るのが良いな。でも、今世は鷹関係ないんだよな。やっぱ個性を元に考えよう。
風…雷。嵐?いや、安直すぎる。どうしようかな。あ、ちょっとずつ変えていけば…
風+雷=嵐→天候→天
錬金術→等価交換→買い物→腹減った→食いっけ→喰いっけ
天喰い…
ありそうな名前にはなったな。だが、錬金術→喰は違うか?いや、今更変えまい。
「父様、決めました。私は天喰がいいです。」
「…どうやってその苗字になったのかは……聞かないでおこう。」
うん?立派な理由があるのに。
「じゃあ、私もそれにする。」
あれ、ベラも?心踊るって言ってたからてっきり自分のを考えるんだと思っていたが。
「私、ネーミングセンスないみたいでさっきからお父様に却下されてるのよ。私は
……あぁ、そう。