あれから3年経った。
この3年間、母とずっと汚い部屋で過ごし続けた。掃いても掃いても綺麗にならない部屋で、毎日ボロボロになって帰ってくる母。
毎日が地獄の様だったけど、どんなに気分が悪くとも休まない母は、二人分の生活費を稼ぐのに必死なのだろう。
そんな母を助ける為に私はスリを覚えた。きっかけは同じ様な立場の先輩の子が誘ってくれたから。
ここに来る客にぶつかるというのは論外。
スリしたての頃、調子乗ったスリ仲間が、お母さんの客にぶつかって次の日死んじゃったから。
あれは怖かった。
私達は孤島って所に住んでいる。ヒーローが来れない場所だ。
そしてこの島は二つに分けられている。
右半分は上の世界(ノーブル)って呼ばれてる。
お金持ちの人が遊びに来る所。
もう一つは下の世界(ダンプ)っていって、
私みたいに捕まった人々が安いお金で働く所。上の世界の人に買ってもらったら、ここから出る事ができるって聞いた。
だから、私達は同じ島に住むダンプの大人からスキを見て盗む。
ここにヒーローはいないから、盗られた方の自業自得だ。
失敗して、捕まったら死ぬんだろう。 けど私は失敗しない。
お母さんの為にも、失敗なんて絶対するものか。
「鯉影、何処に行くのですか?」
「お母さん…、お外で遊んできます!」
「危ないから、お母さんも…」
「大丈夫っ、行ってきます!」
バタンッ
…ふう。
お母さんにはスリをしているという事は言ってない。心配かけたくないから。
歩き慣れた裏道や屋根の上を走り、目的地に行く。
「やっと来たわね!もう、毎回待たせて!!」
前方から高い声が聞こえる。
「怒んじゃないの。鯉影んとこはお母さん病弱なんだから。」
もう一つの少し大人びた声。
ここの子供達は、外の世界の子供よりも早熟らしい。ここに入る時に頭に薬を入れて、リミットを外すんだって。
「コナー、ベラ、おまたせ。」
「全くよ!」
「今日は何処でスろうか。」
コナーが腕でスリをする動作をしながら言う。
「そうだねー、今日は〜」
こうして、いつもと同じようにスリをした。当然のように私に失敗の二文字はない。
「じゃ、また次回。」
「コナー、鯉影、バイバイ!」
「うん。また今度ね、ベラ。鯉影もっ、ってもういないか。」
帰りに茶葉を盗んで家に入った。お母さんが好きなやつだ。この頃元気無いから喜んでくれるだろう。
「ただいま帰りました!」
… 返事がない。
あれ?お母さんがベッドに居ない。この頃気持ち悪いって言ってたし。何処に行ったんだろう。トイレかな。
"う…うぇ…、ゴッホ…ホッ…"
「お母さん⁉︎、どうしたの、…病気に!」
「う…、鯉影、お帰りなさい。楽しんで来ましたか?」
「そんな事より!」
「…別に病気って訳ではありません。
……貴女は、弟と妹ならどっちがほしいかしら。」
子供…
私、知ってる。コナーのお母さんがこの間言ってた。
私のお母さんやコナーのお母さんの仕事だと子供はできない方が
良いって。
子供を生まれない様にする言葉、確か…
「おろす?ことは出来ないの…?」
「っ!何処でそういう知識を得てくるのですか、全くもう。
はぁ、無理です。
…私の雇い主がそれはそれで客が増えるんじゃないかと…」
…、 嫌な奴…あのデブっちょ三段腹が。
「そっか。…これからは私も出来るだけ手伝います!一緒に頑張ろう?」
「…貴女にはただでさえ、色々やって貰ってるのに、これ以上は母親としての私が許さないのです。
どうか、自分の為に時間を使って下さい。」
自分の為に時間を使ってる人…ダメだ。嫌な奴らしか頭に浮かんで来ない。嫌いな目を向けてくる奴らしかいない。
「私は、お母さんと一緒に居たいから。ちゃんと自分の為に時間を使って生きてるよ。」
お母さんを安心させる為に精一杯の笑顔を向ける。
「…そうですか。ならば、私も頑張らなくては。」
お母さんもとても綺麗な、でもちょっと悲しそうな笑顔を私に向けて笑った。お母さんは困った時、いつもその顔をする。私は結構この笑顔が好きで、ちょっと前まではわざと困らせたりした。
この母の困った笑顔がもうすぐ私以外にも向けられると思うと、まだ見ぬ種違いの兄弟に、少し嫉妬した。
さっき、投稿したばっかなのにもう読んでくれてる人がいて、驚いてます。