前回とは打って変わって、零人たちのお話しです!
難しい話しや、暗い話しは無い、はず?
チーム結成から僅か1日。1時間目が始まる前に、俺たちは生徒会室に来ていた。校内ファイト大会は生徒会の主催になっていて、岡流斗先生が休み時間に受け付けを担当している。
「はい、4人チームで『フューチャーゲイザー』。これで登録完了です。大会まで2週間、頑張ってください!」
パソコンを操作した先生が笑顔を向けてくる。こちらも笑顔で返そうとするが、上手く笑えているかは分からない。
「ったりめーだ!絶対、優勝してやるぜ!」
「……お、音峰くん……あの、あ、朝なので、声を、落として……」
「お前はニワトリか?」
「すみません、岡流斗先生。騒がしくしてしまって」
「いえ大丈夫。謝らなくてもいいですよ、戸村さん」
「ほら、行くぞ」
俺たちが生徒会室を出ようとすると、先生が「あ、無我くん」と呼びとめた。皆を先に行かせて、先生の方に戻る。
「どうしましたか」
「いや。まさか無我くんが大会に、友達と一緒に出るなんて、と思いましてね」
「何かまずかったですか?」
「とんでもない!むしろ嬉しいんです。君が一歩、前へ踏み出してくれたことが」
「そうですか?……そんな感じは無いですけど」
「まあ、無我くんらしいですね」
俺らしいってどういうことだろう。あえてそこには触れなかった。考えても分からない気がしたからだ。先生に挨拶をして部屋を出ると、3人が待っていた。
「よっし、零人も来たし、大会に向けて活動予定を立てるぞー!」
「お前は具体的にどうしたいんだ?」
「まずは皆の実力が見たいなー。七瀬ちゃんとトウカ先輩はどんなデッキかなー」
「棒読みは無視するが、確かに気になるな」
「そうだ、放課後に『キャッスル』に行こうぜ!そこで作戦会議だ!」
「ソウタくんにしては悪くない考えだね」
「……わ、私はバイト、お休みなので……その、だ、大丈夫、です……」
まあ確かにその方が良い。俺も少し、デッキの調整がしたかったし。
「……お前の考えに乗った」
*
放課後。俺たちは店長に頼んで、『キャッスル』の一部のテーブルを使わせてもらえることになった。
「じゃあ最初は、七瀬ちゃんのバディについて!紹介してくれぃ!」
「テンションがおかしいな、このバカ」
「いつものことでしょ。じゃあ出てきて、《ケットシー》!」
七瀬の合図に合わせて、彼女のカバンが輝きだした。
『ニャニャせ!やっとお披露目ニャのだ!』
「……猫だ」
「猫がバディかよ!?」
「……猫さん、かわいい……」
帽子を被り、剣を携え、長靴を履いた、人語を話す猫が現れた。
『猫じゃニャいのだ!僕はケットシー。レジェンドワールドで鍛冶仕事を任されていた、立派なモンスターニャのだ!』
突然、背後から異様な雰囲気を感じ、振り返る。そこにはトウカ先輩がいた。なぜか目を輝かせ、頬が緩んでいる。と思ったら、いきなり猫……もといケットシーに向かい、駆け出していた。
「……猫さん!その……もふもふして、いい、ですか……?」
「えーと、トウカ先輩?落ち着いてください、ね?」
『もふもふしていいのはニャニャせだけニャ!後、僕はケットシーだニャ!』
「ソウタ。先輩を止めるぞ」
「先輩、猫好きなのか?」
2人がかりで何とか、トウカ先輩の進撃を抑え込んだ。まさかここまで積極的になるとは。
「じ、じゃあ次は先輩のバディをお披露目ってことで、よろしい?」
「猫さん……もふもふ……ハッ!す、すみません……私は、その、バ、バディが、いなくて……」
「……ファイトは出来ますか?」
「は、はい……」
「なら問題ないな」
「トウカ先輩!私たちのチューナーになって下さい!」
ファイターがデッキ調整をする時には大抵、実戦形式で行う。その際の相手役がチューナーだ。
「……わ、私で……よければ」
「トウカ先輩がチューナーか!よろしくっす!」
「……は、はい……!」
「じゃ、早速なんだけど、七瀬ちゃんとファイトしてもらえないっすか?2人の力が見たいからさ!」
「いきなりすぎるだろ……」
「……わ、私は、大丈夫……です……。と、戸村さん、は……?」
「私も準備オッケーだよ!ファイトしましょう、トウカ先輩!」
お互いにデッキを取り出すと、シャッフルを始める。
「さっきのを見ると、七瀬ちゃんはレジェンドワールドの[妖精]軸かな」
「……問題はトウカ先輩だな。どんなデッキなのか」
「楽しみだな!」
「先輩、お互いにシャッフルしましょう!」
「あ、……は、はい……」
そうしてお互い、念入りにシャッフルを行なう。その様子を見ながらズボンのポケットからコアデッキケースを取り出す。エンペラーにもこのファイトを見てもらおうと思ったからだ。
「ん?何か落ちたぞ」
「え?……本当だ、サンキュー」
ソウタが拾ってくれたそれは、お守り袋だった。俺にとってすごく大切な代物だ。
「何か、ボロっちいな」
「……ああ。昔、入院してた時に、ある人にもらってな」
「入院?何かあったのか?」
「まあ、いろいろと。正直あまり、覚えてないけどな。これをくれた人のことも、俺が入院してたってことも」
「ふーん……。んでさ、その中身、何が入ってんの?」
「カードだよ。エンシェントワールドの《竜撓不屈》って魔法だ」
俺は中身を取り出す。俺自身、久しぶりにこのカードを見る。
「確か【対抗】で、ライフを+2するんだっけ」
「そうだ。そしてこのカードの名前の元は、“不撓不屈”という四字熟語だ」
「フトウフクツ……どういう意味?」
「強い意志をもって、困難にくじけない……だったかな」
なぜこのカードをもらったか、よく分からない。誰がくれたのかも判然としない。ただ、少なくとも《ワールディアス》が関わっているのだろうとは思う。だからこそ、ソウタにそこまで伝える義務は無い、はずだ。
「おい、2人とも、準備できたみたいだぞ」
「マジか!よく分からん話し聞いてる間に終わってた!」
……こいつがバカで良かった。心からそう思った。
「トウカ先輩、特殊フラッグじゃなさそうですね」
「う……。と、戸村さんも、……普通の、フ、フラッグ、ですね……」
互いに手札6枚、ゲージ2枚、ライフ10からスタートするみたいだ。どちらも通常のフラッグ。内、七瀬はレジェンドワールドだろう。
「じゃ、お互いに準備できたみたいだね。先攻と後攻は俺が決めてやんよ」
そう言うとソウタは、ポケットからコインを取り出した。どうやらコイントスで決める気らしい。協議の結果、七瀬が表を、トウカ先輩が裏を選択した。
「んじゃ行くぞ、そーーれっ!」
高く上がったコインが回転しながら落ちてくる。ソウタは素早い手捌きで、左手の甲を押さえた。ゆっくりと右手を退けると、コインは裏を向いていた。
「裏ってことは、トウカ先輩の先攻っすね」
「ひゃっ!……わ、私の、先攻……」
「負けませんよ、先輩!」
「……わ、私の、方こそ……!」
「じゃ、始めるぜぃ!バディ……ファイッ!!」
「「オープン・ザ・フラッグ!」」
次回、七瀬とトウカの卓上ファイト!