バディファイト ZERO   作:無料太郎

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大分、投稿が遅れました……。見てくださっている方には申し訳ないです。

その代わり、ご安心ください。今回も安定のファイト無し!

では、どうぞ!



会議

「それでは臨時の意見交換会を始めます。皆さん、お疲れでしょうがもう少し、お付き合いください」

 

 タスクが進行役となって、俺達はそれぞれの知る情報をシェアする事になった。情報は主にバディポリス、シオウさん個人、俺、エンペラーを含むゼロワールド組が話せていないものを基本とする。会場は大広間、豪華な装飾が施された長方形のテーブルを囲む。プロジェクター代わりにタスクのモンスター、《竜装機 ウインチスカ》の投影能力を使用する事となった。……何となくだが、ウインチスカよ、申し訳ない……。

 

「そんじゃまずは俺らだな!イデア、ぶちかますぜ!」

 

『おう!やってやろうではないか!』

 

「……ファイトする気なんすか、あんたら……」

 

 そんなツッコミなどお構いなく、2人は映像が投影された壁の前に立つ。

 

「えー、俺たちからはまず、“ワールディアス・インシデント”についておさらいからだ。この場には知らないヤツもいるしな」

 

 確かに初めて聞く。しかし同時に俺は“ワールディアス”を知っている。まさか……。

 

「零人、お前はもう予想はついてるだろ?……お前が巻き込まれた事件だ」

 

 やっぱり……!待てよ、だとすると……。

 

「シオウさん、俺たちだけじゃない。恐らくはエンペラーの父親、先代のエンペラーも犠牲になっているかも……」

 

『そう言えばさっき、零人と私が先代の部屋でデッキを見つけた時、写真立てに写っていました。先代様とエンペラー様、そして彼のご両親が……』

 

『エンペラーよ。お前はどこまで事態を知っている?』

 

『ふむ……。そこまで言われてやっと繋がった。確かに我が父は死んだ、11年前にな。そしてその原因が先から名の出ている“ワールディアス”という事か……。それにまさか、零人の両親とも繋がりがあったとはな』

 

「……ただの繋がりじゃない。俺の記憶が正しければ、父さんと先代は11年前には既にバディだった。しかもあの写真はそこから4年前、つまり15年前に撮られたものらしいんだ」

 

 言い終えると、エンペラーは心底、驚いた顔をしていた。まさか知らなかったのか?

 

『……まさかバディだったとは……。済まない、我は本当に知らなかった。何せ、父からバディの名前を教えられていなかったものでな』

 

「成程。ま、これで皆がこの事件を知っている訳だな」

 

『では多少は省いていいな。シオウ、次に行くぞい!』

 

「ああ。実はさっき、“ワールディアス”の自称仲間とファイトしました!はい拍手!」

 

「……あ、もしかしてさっき、追いかけて来てたアイツか?」

 

 瞬間的に黒白竜とパーカー男を思い出す。言われてみれば確かに、敵として動いている雰囲気はあった。……割と失敗してる様だけど。

 

「零人、ご明察!ヤツの名はラグナ。偽名でドラコ・アルマードと名乗っているみたいだな。んで、偽名の“ドラコ”と“アルマード”はそれぞれ、ヤツの人格と対応している」

 

「人格と対応……つまり、多重人格という事ですね?」

 

「察しがいいねぇ~、タスクちゃん。正にそーいう事!普段……つーか本来は“ラグナ”が本名、そいつが偽名で“ドラコ”を名乗ってる。だが感情が昂ると、“アルマード”が表面に出て来るって所かね」

 

『そのファイトは我らも見ていた。使用したのは[地獄]デッキだったな』

 

『ドロップを増やして強くなっていく戦法です。私にはかなり腕利きに思えました』

 

 俺からしたらデュークもかなりスゴイ気するが……。ファイトを見ていないから分からないが、あの男、相当のファイターなのか。

 

「さて、俺からはこれでラスト。真偽不明だが、ワールディアスのバディと思しき名前は聞けた。“鍵屋 錠”というらしい。この中でこの名前に聞き覚えのある奴はあるか?」

 

 鍵屋……人の名前を覚えるのは得意じゃないんだよな……。記憶の中では確か居なかったはず。周りを見渡すと案の定、誰も声を上げない。

 

「サンキュー。取りあえず帰ったらソッコー検索だな。俺たちの報告は以上!」

 

 

 

 *

 

 

 

 次に立ったのはエンペラーだった。お供3人は座ったまま、恐らくは全員の情報を纏めたのだろう。

 

『我らからは総意として情報を出そう。まずは先に使ったゼロフォースについて』

 

「さっきアンタが毒物だとか何だとか言ってたやつか」

 

『そうだ。そもそもゼロフォースとは、“選択した対象の異常な部分を、平常値に戻す”能力を指す』

 

 平常値に戻す……一体どういう事なんだ?ちらと見ると、タスクとジャックは考え込んでいる様だった。一方のシオウさんとイデアは頭を抱え込んでいた。

 

『異常な部分――つまり怪我や不調などを、そうなる以前に戻す。平たく言えば傷や病気を治すという事だ。モンスターならそれで終わりだが、人間においては話しが変わって来てしまう』

 

『どうなると言うんだ?』

 

 ジャックの問いに対し、エンペラーは目を伏せて答えた。

 

『人間にも治す能力は有効だ。しかし、あくまで傷病を回復させるだけで、体力を回復させる訳ではない。それどころか逆に体力を奪ってしまうのだ』

 

『この空間全域には先代のゼロフォースが発動したままなの。それ自体は死と同時に、少しずつ薄まっては来ているんだけど……』

 

 死後も外界から、ここを守り続けられるだけの強大な力……か。それだけ先代――エンペラーの父親は人間から何かを守りたかったのか?

 

『デュークの言うとおり。ゼロフォースの出力は初期の半分以下、およそ4割程にまで落ち込んでいる。しかしそれでも、シオウが耐えられない位、人間にはこの力は危険という訳だ』

 

「すみません、エンペラー。質問があります」

 

 タスクだった。何となくだが、俺と同じ事を考えている気がした。

 

「人間には毒、というのは分かりました。では何故、僕や零人さんはこの空間に居ても大丈夫なのですか。更に言えば、先程の零人さんの姿……。あの高密度のオーラがゼロフォースなら、彼も無事じゃ済まないのでは?」

 

 やっぱり……。さっきのは《ゼロフォース》のカードを手にした後に起こった。そしてエンペラーの言葉を信じれば、俺はあの時点で倒れていたはず。それにもう1つ、気になる事がある。

 

「……じゃあ、ついでに俺からも。シオウさん、アンタは力に中てられて体力不足で倒れた……。て事は、身体のどっかが回復しているんじゃないのか?」

 

『ふむ……まずは我から答えよう。タスクよ、まず、ゼロフォースの影響には個人差がある。より強大な力を宿す者なら通常よりも長く、耐える事が可能だ。内なる力で外からの力を防げば良いからな』

 

 ふうっ、と息を吐くと、再びエンペラーは話しを進めた。俺にはその一瞬の吐息が、まるでこの続きを話したくなさそうな、そんな風に見えた。

 

『しかし中には、力を自らの糧にしてしまう者もいる。例えば……零人の父親や、零人自身。見つけたのが両親のデッキというなら、少なくともそのどちらかはゼロフォースを扱えたという事。デッキにカードが残っていたのが何よりの証拠だろう。そして零人もまた、その血を受け継ぐ存在……』

 

「ゼロフォースに中てられず、それを使いこなせても変じゃない、ですか……。分かりました、ありがとうございます、エンペラー」

 

「じゃ次は俺な。零人、悪いがよく分からんのよ。どっか怪我したとかさぁ、あったような無かったような」

 

 いや、俺の方が分からんわ。単純に「知らん」で事足りるだろ、オッサン。敢えて言ってやらないけど。

 

「何となーく、胃のムカムカが無くなった気がするけどなぁ」

 

 いやそれ、間違いなく体調不良が治ってんだろ?アホなんですか、バディポリスさん?

 

『そう言えば我も多少なりとも、負傷や不調は無くなっているな。エンペラーよ、治せる範囲はどの程度なのか教えてほしい』

 

『どの程度?大概の傷病は治癒する筈だが……』

 

『例えば、身体の一部を欠損した場合は?失う前まで戻せるのか?或いは死者の蘇生は可能なのか?』

 

 うわぁ、またおっかない話しが始まった。でも、さっきみたいな危ない状況を考えると、確かに重要な問題でもある。

 

 その時、ほんの一瞬だけ、イメージが浮かび上がって来た。

 

 赤黒く染まった床、何かがその上に存在している。直ぐに“両親”だと気付いた。あらぬ方向へ首が回り、顔には眼球が付いていない。うつ伏せに倒れているはずなのにつま先はこちらを向いている。よく見ると腕も片方が、千切れていた。ぐちゃぐちゃとした紐状の物体が薄明かりの中で鈍く輝く。

 

 見てはいけない。見たくない。俺は必死に叫ぶ。しかしどれだけ拒んでも、肉塊となった両親をいつまでも見させられる。ワールディアスの“食事”風景を否応なしに観察させられる――。

 

『……分からない。それ程の重傷病者は今まで知らないからな。だがもしかすると、両方とも不可能かもしれない』

 

『失った部分も命も戻らん、という事か。……ん、零人?』

 

「零人さん、顔が真っ青ですよ?大丈夫ですか?」

 

 目の前が少しずつ黒く染まる。思い出したくない筈の記憶が、俺の世界を覆っていく。息が、苦しい……。倒れてしまいそうだ……。

 

「お前、記憶が戻りつつあるのか?」

 

 シオウさんだった。俺は他人に、自分の過去を忘れている事を明確に話した覚えは無い。何なら彼とは今日、知り合ったばかりだ。何でこの人が、それを?

 

「……記憶、は……少しだ、け……」

 

『どんな?どんな光景だ?我らに教えてくれ、って、あぁでも、無理はするなよ?』

 

 汗が止まらない。顔を上げるのが辛く、テーブルを向いていないと吐き気に襲われる。頭が、痛い……。

 

『ちょっと待ってて!』

 

 デュークは席を外すと、駆け足で部屋を出ていった。少しして再び現れた彼女の手には、円筒状の容器が握られていた。

 

『はい、お水。これで少しは楽になるといいんだけど……』

 

「……サ、ンキュ……」

 

 容器を受け取ると中身を一気に飲み干す。ふうっと息を吐くと、少し落ち着きを取り戻している事に気付いた。

 

『大丈夫か?』

 

 エンペラーが心配そうに訊ねてくる。俺はもう一度、深呼吸をしてから答えた。

 

「……ああ、何とか……。すまん、話しを逸らせちまって」

 

『いや、謝るのは我らの方……。どうやらトラウマを刺激してしまったようだな。悪かった』

 

「そんなに気にすんなよ、エンペラー。それで話しの方なんだが……シオウさん、俺さ……」

 

 言葉を発しようとした瞬間、身体全体が、椅子が、テーブルが、斜め右に浮いた。考える間もなく、その場にいた全員が床に叩きつけられた。

 

 何があった?把握する前に、何処からか泣き声が聞こえた。その大きな叫びはまるで子供のような……。そう思った直後、また強い衝撃に襲われる。何かが崩れるような音がした。

 

『ぬわっ!!何だ、何があった!?』

 

「……やっと追いつきました、バディポリスの皆さん……」

 

 立ち込める煙の向こう、大広間の入口から男が歩いて来る。その声の主を、その姿を俺は知っている。あの日、タスクとファイトをし、シオウさんとも戦い、そして追跡してきた男。

 

「龍炎寺タスク、竜神シオウ……。さっきはやってくれやがりましたねぇ……」

 

「よぉ、ラグナ君!元気してるかい?」

 

「その名で呼びますか。……僕はドラコ、あなたなら分かるんじゃないですか?」

 

 姿を現したラグナ――いや、ドラコか――は、先のタスクの攻撃による物なのだろうか、全身傷だらけになっていた。腕や口からは血が流れて、右足を引きずるように歩く。あまりに痛々しい姿だが、彼は気にも留めない。

 

「バディポリスにゼロワールドのモンスター、そして無我零人……。皆さんが一堂に会するなんて、僕達にとってはありがたいですねぇぇ……!」

 

『何度も負けて、撃ち落とされて……僕は今、イライラが最高潮なんだ!誰でもいいから潰させてくれよ!!』

 

 ラグナの背後には白黒竜が、月明かりに照らされ、身体を輝かせながらこちらを睨みつけている。奴らはどうやら城壁を破壊して侵入したらしい。そして先程聞こえた泣き声の原因がやっと分かった。

 

『うわぁぁぁん!!』

 

『たすけてーー!!』

 

『エンペラーさまーー!!』

 

 白黒竜が3人の子どもたちを掴んでいる。恐らくモンスターなのだろうが、エンペラー達のように鎧を着けていない。全くの無防備であの子達は捕らえられているのか……。

 

「「……その子らを離せ、この外道が!!」」

 

 沸々と怒りが込み上げて来る。抵抗できない相手を蹂躙して尚、身勝手な欲望だけを押し付けるなんて……。セリフが被る辺り、どうやらエンペラーも同じ気持ちだったようだ。

 

『貴様ら!そんなに他者を潰したいのなら、我と零人を相手にファイトしてみろ!』

 

「おや?皇帝さまと“操り人形”が相手ですか?」

 

『お前らみたいなちっぽけな存在、僕らの敵にすらならないんだよぉ!!』

 

「……何だよお前ら。ファイトするのにそんなに煽るかよ、ビビってんのか?」

 

 2人の目つきが変わった。何となくではあるが、人格が変わったとかじゃない。ラグナは今、穏やかな人格のまま、明確に殺意を持った。白黒竜も興奮を押さえきれないといった様子だ。

 

 怯えは無い。激情に飲まれる気も無い。俺達の持つ思いは明確な物が1つだけ。

 

『奴らを倒すぞ、零人!』

 

「……て事で、シオウさん、タスク。俺達がファイトしていいか?」

 

 エンペラーが立ちあがり、2人の方を向く。俺も続けて身体を起こすと、エンペラーと同じ方を見る。

 

「ったく、しゃーねーな……」

 

「いやダメですよ!?零人さんは一般人、無茶な事はさせられな……」

 

「責任は俺が取る!!だからぶちかまして来い!!」

 

『零人、エンペラー。お前たちのファイト、見物させてもらうぞ!』

 

 シオウさんとイデアの言葉に驚き、同時に背中を押された気がして嬉しかった。タスクは大きく息を吐くと、まるで諦めたかのような顔をした。

 

「仕方ないですね、シオウさんも零人さんも。……分かりました。ここは零人さんにお任せします」

 

「サンキューな、タスク」

 

『2人とも。これはあくまでバディポリスの案件、一般人であるお前たちが戦う意義は無いぞ?』

 

『承知している。しかしジャックよ、我らは高尚な意義が無くとも戦う』

 

「あの子らを守る為に勝手に動く。それでどうだい?」

 

 背後から竜の咆哮が轟く。相手はもう僅かな時間すら待ちきれない様だ。

 

「いつまで待たせるつもりですか?こちらはいつでも構いませんが……」

 

『潰させてよ、壊させてよ、早くグチャグチャにさせてよぉぉぉ!!』

 

『待たせたな、下郎共!』

 

「……んじゃ、行ってくるよ」

 

『……私はタスクの家族。ならば、その言葉も覚悟も信じようではないか。行って来い、零人!エンペラー!』

 

 歩きながらコアデッキケースを取り出す。今まで幾度も使ったデッキを、最高のバディを俺は信じる。ケースの中央、クリスタル部分を押すと、たちまち眩い光に包まれた。

 

「始めようか、ラグナ」

 

「僕はドラコだ!!」

 

「2つのゼロが重なって、新たな未来が今、始まる。ルミナイズ、『ビギニング・ゼロ』」

 

「天に満ちるは聖なる煌めき!ルミナイズ!輝け、『天救聖光』!」

 

「「オープン・ザ・フラッグ!!」」

 

 





はい、という訳で次回、零人とラグナのファイトになります!

先に言ってしまうと、この時点でのゼロワールド強化……もとい調整はありません。活動報告でのやり取りを知っている方、すみませんがもう少しだけお待ちください。

これからも投稿の期間が空く事が多くなるとは思いますが、どうか温かい目で見ていただけると幸いです。

余談ですが活動報告の方はたまに更新するかもです。

ではまた次回!

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