「それでは取り調べを始めます。いいですね、零人さん」
タスクの発言に戸惑う。何でこんなことになったんだ?
話しは少し前まで遡る。
「着いたよ。ここがバディカード管理庁本部ビル」
「分かりやすく言えば、バディポリス本部だ。滝原さん、ちょっと」
本部に着くなり、2人は離れた場所でこそこそと話し始めた。途中でハプニングはあったが、無事にバディポリスに到着した。
『さて、零人よ。我らはこれからどうすればよいのだろうか?』
「とりあえずエンペラーは取り調べだろうな」
『事実を話せばよいのだろう?ならば恐れることなどないな』
「そりゃそうだ。そういえば俺、エンペラーに聞きたいことがあるんだけれど」
『何だ、改まって?』
「俺たちさ、昔どこかで、会ってたりする?」
エンペラーは何も答えなかった。困惑しているのだろう、眉間にシワを寄せている。
あれ、何だろう、この感じ。心がざわついている。自分の中の記憶とエンペラーの態度に、不安がよぎる。
そういえばさっきの記憶は、小さい頃のものだろうか。でもあまり鮮明ではない。本当にあの記憶は、正しいのか?
「2人とも、いいかな」
呼んだのはタスクだった。どうやら、滝原さんとの話しが終わったらしい。
「話し合った結果、エンペラーの聴取は滝原さんにお任せすることになった」
「何があったのか、しっかり聞かせてもらうぞ」
『ああ、当然だ』
「そして零人さんの聴取は、僕が担当する」
「……は?」
その後、俺たちは本部の中に連れて行かれた。暫く歩いて、エンペラーより先に、ある一室に入れられる。
『健闘を祈っているぞ、零人』
そう言い残し、エンペラーと滝原さんは歩いていった。タスクは部屋に入ってこない。ぐるっと中を見回す。中央には机があり、向かいあうように椅子が2脚、置かれている。ドアの近くにも1人用の、小さい机と椅子。窓も時計も無い。
「お待たせしました」
少ししてタスクが入って来た。その後ろから、バディポリスの制服を纏った金髪の女性が歩いてきた。
「ステラ・ワトソンです。記録係として、立ち会わさせてもらいます」
「それでは取り調べを始めます。いいですね、零人さん」
ステラさんがドアの近く、タスクが中央の席に着く。手を使い、座るように促され、突っ立ったままの俺も着席する。
「ある程度のことは調べさせてもらいました。あなたが5歳の頃、何者かに誘拐・監禁されていたことも」
手元の資料を読みつつ、タスクが言う。いきなり重い一撃が飛んできた。確かに俺は昔、1か月の間、知らない誰かによって捕らえられていた。それも両親ともどもだ。
「一家総出で監禁生活だったよ。あまり覚えてないけど」
「では、その中でご両親が亡くなられたことは?」
「……知ってる。その時の様子も含めて」
「《ワールディアス》とは何ですか?」
「――っ」
急に脂汗が噴き出す。さっきの記憶の中でも出てきた単語だ。
「それは……」
「救出直後にあなたが発した言葉です。“ワールディアスが食べた!あいつが食べたんだ!”」
「え……?」
「覚えていませんか?」
不意に頭が痛くなった。息は荒くなり、鼓動が速くなる。抜け落ちた記憶が蘇るような気がした。
“助けて!”
“大丈夫か!?”
“もう、心配いらないぞ”
“ほら、これ”
“これは……?”
“お守りさ。君が、バディファイトをずーっと”
「……好きでいられるように……」
頭痛が治まって来た。タスクは少し困った顔をしたが、記憶に関することだからか、あまり追及はしてこなかった。
「……ごめん、変なこと、言っちゃたな……」
「そんなことより大丈夫ですか?一度、休憩を挟みましょうか」
「……いや、いい」
「分かりました。ではこれが、最後の質問になります。なぜあなたはエンペラーを助けようとしたんですか?」
すぐには返せなかった。軽い吐き気と疲労感で、いっぱいいっぱいになっていたからだ。
「……似てるって思ったんだ」
「似てる?」
「どうしようもなく不安で、怖かったあの時の記憶が、ふっと出てきて……重なったんだよ。助けを求めていた、昔の自分と。だから、黙っていられなかった」
タスクはこちらをじっと見つめている。嘘偽りがないか、信じるに値するかを見極めようとしているのかもしれない。
「タスクや滝原さんには、悪いことしたな。公務執行妨害かな、俺」
「そんなことはありませんよ」
「えっ」
「見ず知らずのモンスターを助けるような人は、中々いないんですよ。あったとしても見返りを要求することがほとんど。あなたのように心から“助けたい”と思い、実行する人はすごいと思います」
「そう、かな」
「バディポリスの任務を妨害したのは、今回は不問とします。司令も了承しています」
「エンペラーは?どうなるんだ?」
「あっちも聴取は済んだみたいですね。エンペラーもまた、アクシデントでこちらに来てしまったようだし、零人さんとバディになったので強制送還も出来ない」
「じゃあ、あいつは」
「これからもあなたのバディですよ、零人さん」
よかった。これで正式に俺とエンペラーはバディとして認められた。
その後、本部ビルを出た俺は、先に出ていたエンペラーと再会した。本来ならコアデッキケースが貰えるそうだが、学生が出歩くような時間でないことから明日、届けられるらしい。
「あ、そうだ」
一応、タスクに訊ねておこうと思った。《ゼロワールド》についてだ。
「聞いたことあるか、ゼロワールドなんて」
「僕は無いんだ。ジャックは?」
『私も聞いたことはない。滝原の言うことには、エンペラーもよく分からないらしい』
「どういうこと?」
『本人は生まれたときからずっと、ゼロワールドから出ていないそうだ』
「エンペラーにもゼロワールドのことは分からない、のか?」
また1つ、疑問が増えた気がする。多分この先、もっと増えて行くんだろう。俺の欠落した記憶が戻るまでは、こんな思いをし続けることになるはずだ。それでも。
「分かった、ありがとう」
俺はこいつを信じて、歩いていこう。そう心に誓い、相棒を呼んだ。
「帰ろう、エンペラー」
『うむ、宜しく頼むぞ、零人』
エンペラーがカードに戻る。他のゼロワールドのカードも一緒に、俺の手のひらに収まった。束となった彼らをズボンのポケットにしまい、俺たちは本部ビルを後にした。
エンペラー自身も分からない、ゼロワールドとは何なのか?零人との関係は?この先、彼らを待ち受ける運命とは一体?