エンペラーと出会った次の日。俺はいつものように登校の準備をしていた。
『零人、何をしているのだ?』
「学校に行く準備だ」
『その服は昨日も着用していたが?』
「そりゃそうだ、うちの学校は制服着用が義務なんだ」
『食事は?済ませたのか』
「いつもゼリー飲料だよ。朝からガッツリ食べるの、苦手なんだ」
『一日の始まりは美味なる食事から!朝に食わねば士気も上がらん。さあ、食らえ!』
「食わねーよ!ああもう!さっきからオカンか、お前は!」
訂正。……俺はいつものように登校の準備をしようとした。そして相棒にジャマされている。
「うわっ、もうこんな時間!」
『遅刻は厳禁だな。……よし、我がバディの為だ。一肌脱ごうではないか』
「どういうこと?」
『手を握れ、零人』
言われるまま、エンペラーの手を握る。何をする気だ?
『いざ行かん!バディの学校へ!』
すると、エンペラーが震え始めた。地響きのような音も聞こえる。足元から煙が立ち込めて、まるでロケットの打ち上げみたいな……?
「ちょ、お前、まさか!」
『テイク、オフ!』
掛け声と共に足が浮いた。と思う間もなく、すごい勢いで上に加速し始めた。
「ここ家の中だぞ!止まれよ~!」
願いも空しく、天井はぶち破られた。だが加速は止まらない。間違いない、こいつ、このまま学校に行く気だ。……つーか飛べるのかよ、お前。
『これなら間に合うぞ、零人!』
眼前に広がる青空の美しさに、笑みがこぼれる。ああ、こんなに綺麗だったんだ。
「もう、どうにでもなれ……」
*
『着・陸!』
エンペラーが足から、ゆっくりと下り立つ。本当なら20分弱の道が、僅か数分で校庭に着いてしまった、のはいいが……足の震えが収まらない。
『いかがだったかな、空の旅は?』
「あ、ありがとう。助かったよ。……暫くは飛ばなくていいかな」
うむ、と満足そうな顔になると、エンペラーはカードに戻った。なぜに喜ぶんだ?
「うわぁ……」
当然といえば当然だが、歩いていた生徒も、教員もこちらを見ている。
「む、む、無我くーーん!?」
岡流斗先生が走って来る。あからさまに動揺を隠せていない。
「おはようございます」
「ああ、おはよう。……じゃなくて!今のモンスターは何だったんだですか!?」
「あー……俺のバディ、です」
「バディ!?あ、じ、じゃあ彼女はその為に?」
すぐに事態を把握した。多分、コアデッキケースの受け渡しだろう。何時に家を出るか分からないなら、目的地に先回りして、そこで渡せばいい。俺の場合はたまたま学校だった、ということになる。
「すぐ行きます。応接室ですよね、こういう時は」
「あ、ああ」
俺は岡流斗先生と一緒に、応接室に向かった。2回ノックし、ドアを開けると、校長先生が座っていた。その向かいには、ステラさんではない女性がいた。この学校の制服を着ているが、バディポリスではないのだろうか。
「誰?」
「私は
思わず首を傾げる。肩にかかるくらいの茶髪、ぱっちりとした目、ふっくらした唇。可愛らしいその顔は割と俺好みだ。ただ、この子に会ったこと、あったっけ。
「覚えて、ないかな……」
「ちょっと待って、すぐに思い出すから」
まずいまずい。本当に記憶にない。よく分からないものは、自由ではないが思い出すのに、眼前の美少女のことはよく覚えていない。
「はぁ……、もう大丈夫だよ。転入したてだもん、まだ分かんないよね」
「ご、ごめん」
「はい、これ」
そういうと彼女は四角いものを手渡してきた。
「えっ、これってまさか、コアデッキケース?」
「うん」
「何で君が?こういうのってバディポリスの仕事だろ?」
彼女はこの学校の制服を着ている。タスクたちを知っているからか、バディポリスのような気がしないのだ。
「あ、知らない?私もバディポリスなんだよ。といってもまだ見習いだけどね」
「そうなのか?」
前言撤回。すごくバディポリス感が出ている。もうそれにしか見えない。
「さあどうぞ、零人くんのコアデッキだよ」
コアデッキケースを受け取る。うん?何か急に名前呼び?……俺も名前で呼んでいいのかな。
「お、おう。ありがとう、えっと、……七瀬」
「――っっ!う、うん、あの、その、ど、どう致しまして……」
七瀬がうつむく。やっぱり、ほぼ初対面で馴れ馴れしくしすぎたかな。
「これが、俺の……」
改めてコアデッキケースを見る。全体は黒く、真ん中のコアが一層、青く輝いて見える。
「失礼しまーす!」
不意に男子生徒が入って来た。首にヘッドフォンをかけている。制服を着崩し、何かチャラい。
「え?無我?バディポリス?何がどうなってるんだ?」
俺、知り合いだったっけ?必死に頭を回転させる。あ、確かこいつは……。
「……
そうだ、音峰ソウタだ。まだ皆の顔と名前が合っていないから自信はないが、確か同じクラスだったはず。
「僕が呼びました」
「校長先生が音峰を?」
すっかり忘れてた。先生たち、居たんだっけ。
「おい無我!お前、昨日バディポリスから出てきたろ?俺、心配になっちまって校長に言ったんだ。あいつ大丈夫かな、って」
「それで事情を聞いて、彼を呼ばせてもらいました」
「それで、呼んだ理由は?」
「バディファイトしよーぜ、無我!」
「いや、話しを聞けよ、お前」
「他に理由なんて無い!やっとバディとデッキを持ったんだ、やることはやらねーと、だろ?」
「そういうことです。無我くん、音峰くんとファイトしてみてください」
「こいつらも早く、演奏したがってんだ!」
何で急に、そんな話しになっているんだろう。でも、さほど嫌でもない。
「音峰、お前、バディファイトが好きなんだな」
一通りカードは確認した。デッキも作った。正直、俺も試してみたいと思っていたのだ、ゼロワールドの力を。だから。
「……分かった。やろうぜ、音峰」
「そうこなくっちゃ!後、ソウタでいいぜ!」
「ファイトだ、ソウタ……!」
次回、やっとゼロワールドのファイトが始まる!
ちなみに、ソウタくんはオリカと普通のカードを使う予定です。