「……は?」
「いや、その『は?』はこっちが言いたいんだけど」
獣を狩ると決めた時から数時間。空に赤い月が昇り始めた頃。
鴉みたいな女の狩人さんから話を聞いたり、落ちてた武器を拾ったりしつつ何匹か獣を狩った私は、何か今後利用出来そうな道具は置いてなかっただろうかと一度自分の家に戻ってきた。ついでに血で汚れた服も替えたかったし。
で、家に入った私が最初に目にしたのは――
「あなた誰?」
私とほとんど同い年くらいの、知らない女の子だった。
完全に誰もいないと思ってたのに人がいるものだから、ビックリして心臓止まるかと思った。物陰から獣になった人が飛び出して来るのなんかより遥かに心臓に悪いと思う。しかも手には見覚えのあるリボンが握られている。あれは……もしかして私が豚さんの内臓に埋め込んだリボン……なのかな?
やたらと真っ白いけど、洗濯でもしたのだろうか。
「何で……生きてるの?」
女の子が口を開く。
は? って言った次の言葉がそれか。というか質問にはちゃんと答えて欲しい。
「何でって言われても困る。むしろそんなことよりあなたは誰なのかっていうのと、人の家で勝手に何してるのかを訊きたいんだけど」
「……どうでもいいでしょ。そんなの」
どう考えてもよくはない。仮にも家主である私からすれば大問題だ。
女の子に注意を向けつつ、少し視線を動かして家の中の様子を確認。これといって大きく変わったところはないが、要所要所で物が動かされた跡が見て取れる。何かを良い物でもないかと物色していたようね。本当に他人の家で何してくれてるのだろうか。
「やっと……やっとリボンが私のものになると思ったのに……!」
「ああ、そうそう。そのリボンも何で持ってるのか知りたいんだけど」
「……あなたには関係ないでしょ」
「いや関係ないっておかしいよね。先ず人の家に勝手に入ってる時点で関係ないも何もないし」
「うるっさいわね! それより、何であなた生きてるのよ!? 獣狩りの夜に外に出たんでしょ!? 何で……」
「またそれ? 何でって言われても……」
「ただの人間が外に出て無事なはずないのに! 獣に襲われたら、狩人でもない限りひとたまりも――」
「襲われはしたけど、まあ何人か返り討ちに出来たし。無問題」
「はあ!?」
うん。まあそう言いたくなるのはちょっと分かる気がする。自分でも普通じゃないなとは感じてるから。
「返り討ちって……は? あなたが? 獣を?」
「そうよ」
「…………嘘でしょ。じゃあこの……狩人の人が持って帰って来たリボンは……」
「多分それ、私が捨ててきたリボンだね」
「…………はあ……?」
女の子はそれっきり頭を抱えてうわ言の様に「そんな」とか「何で」とか繰り返すだけになってしまった。どうしよう。全く以て会話にならない。正直怒りを通り越して面倒くさくなってきた。
「はあ……じゃ、もういいよ。もう何も訊かないからさ」
「……そうよ。そうだわ」
「あなたが誰とか何の目的がとか訊かないから」
「此処で私がヤっちゃえば同じことじゃない」
「このまま大人しく出て行ってくれないかしら」
「大丈夫。包丁を体に突き刺せばいくらこの子でも……」
「そうすればこの件は無かったことに――」
「このリボンは私の物……あなたはもう! 死んでいればいいのッ!!」
してあげるって、言おうと思ったのに。何で包丁なんて持って向かって来るのかなあ。
というか――
「人の話ちゃんと聞けって言ってるでしょ馬鹿あああああああ!!」
心の叫びと共に
よろけるか転ぶかするだろうな、くらいに考えてたのだけれど、私の蹴る力が強かったのか何なのか――
「あ」
「……え?」
窓に頭から突っ込んで、そのまま姿が消えてしまった。少し遅れて聞こえてくる鈍い音。
あーあ……落ちちゃったなアレ。
「殺っちゃったかー。でも今のは人の話を聞かないあの子が悪い。私悪くない」
絶対に私は悪くない。