何言ってんだ。人間生きるか死ぬかってなったら走り回るくらい簡単に出来るんだよ!!(暴論)
――さて。
ヤーナムの街も大方回り終わっただろうか。歩いて行ける区画は全部行ったはずだし、これといって何か落ちてる様子もなさそうだったから、そろそろ街を出ても良い頃合いかも。
それにしても大通りの門の前でキャンプファイヤーしてた獣さん達は怖かった。豚さんやコンクリートを持った大男さんよりも遥かに怖かった。数の暴力というのだろうか、全く勝てる気がしない。獣狩りさんだったらああいうのにも果敢に立ち向かったりするのだろうか……私には到底無理そうだ。
これで街を出ようとした道中でも同じように獣さんが沢山集まってる場所とかあったらどうしよう。……いや、止めておこう。考え始めたらキリがない。
それじゃあさっさと向かって――
「な!? 何で獣が……どこから入った!?」
――あれ?
今さっき通った場所から男性の声が聞こえた。少し戻って様子を見てみると、民家の窓に人影らしきものが見える。人がいるであろう家は何軒かあったが、ドアをノックしようが窓を叩こうが何処も彼処も狂ったように笑ってるばかり。けど、今の男性は確かにちゃんと言葉を発していた。
獣がどうって言ってたはずだけど、もしかしてこれは助けに入った方が良いのかしら。
「んんんんー!! まだ死ねんッ!!」
「うわああああ!?」
そうこうしてる内に、なんと先程の声の主と思しき男性が窓を突き破って飛び出してきた。
え、っていうか今窓ガラスだけでなく鉄格子も破壊しなかった? この人何? 身体鉄か何かで出来てるの?
「はぁ……はぁ……まったく、何故私がこんな目に遭わなければならないのか……ん?」
完全にフリーズしてた私に気付いたみたい。見た目は……おじさんって感じかな。とりあえずおじさんと呼ぼう。
「お嬢ちゃん、こんな所で何をして……いや、今はそれどころじゃない。逃げるぞ!」
「え、あの、ちょっと!?」
おおっと話を聞く暇がないよー?
私の家にいた女の子みたいに一歩的にまくし立てて自己完結して襲って来るとかは止めてね?
「ふぅ……ここら辺でいいかな」
いくらか離れた民家の一階で呼吸を整えるおじさん。此処、本当は一階と二階で合計四人くらい獣さんがいたけど、暗闇に紛れて背後から斬ったり火炎瓶投げて撃退した後なので今はもう誰もいない。先に片しといて良かった。じゃないとまた走って逃げる羽目になるところだった。
「お嬢ちゃん、大丈夫かい?」
「はい。私は全然……というか、何で逃げてたんですか?」
何となく予想はつくけど、念のため。
「ああ、家の中に急に獣が現れてね……仮に万全の状態でも戦うのは無理だというのに、今私は病を患ってしまっていて思うように体が動かない。本来はベッドから出ることもままならなかったし、獣に殺されようが人として死ねるならそれも良いと考えていたんだけど……何でかな。気付いたら体が動いていたんだよ」
おじさんは愉快そうにクックックッと笑う。
「結局、私もまだまだ生きたかったってことなんだろうね。それで、外に出たところに君がいたから連れて逃げたという訳さ。あのままあそこにいたら、お嬢ちゃんが獣に襲われてしまうからね」
「そうだったんですか。でも、一匹くらいなら私が狩ることも出来たかもしれませんね」
「……お嬢ちゃん、まさか獣狩りの……?」
「いえ厳密には違います。生き延びる上でどうしても必要だったので、獣狩りの方から色々教わって弱い獣一匹ならどうにか狩れるようになったというだけです。でもそろそろ物資的にも余裕が無いし、もう街を出ようかと思いまして」
「なるほど……それに私も同行するって言うのは、有りかい?」
「構いません。一応聖堂街を目指す予定なんですけど、大丈夫ですか?」
「ああ。むしろ願ったりだよ。あの獣狩りの人は聖堂街に向かった。万が一ではあるが……もしかしたら、逢えるかもしれないからね」
あの獣狩りの人。名前を言われた訳でもないのに――何だろう、私はその人を知っている気がする。
私も、獣狩りさんにはもう一度だけでいいから逢いたい。
私のお願いを聞いてくれたお礼、まだ言えてないから。
でも――今の私を見たら、もしかして獣狩りさん、ビックリするかな?
「ふふふ。それじゃおじさん、行きましょうか」
「ああ。目指すは聖堂街の――」
「「オドン教会」」