青信の魔法ー「流星群」は余りにも特殊すぎた。空間の光分布に作用する収束系の系統魔法と言えば、簡単そうだがその内実はそうではない。何せ、使い手が青信を入れて2人しか居ないのだ。
そしてもう1人の使い手はあの四葉真夜。当代最強の魔法師の1人と目されている程の人物で、「夜の女王」の異名を持つ。
そして、その四葉真夜は名前の通り四葉家の人間だ。
四葉家は単なる十師族の内の1つではない。その括りに入れるには余りに強大で恐ろしい存在だからだ。
名前を聞けばどんな魔法師も恐れ戦く。
それは、日本だけではなく世界で見てもだ。四葉の恐ろしさは、あの大漢の崩壊が余りにも有名だろう。
そのネームバリューは、魔法師界に限定されるなら東道家すらも上回る。
そんな四葉家の人間ーしかも現当主と同じ「流星群という」魔法を有する。
もし、それが何らかの形で世間に明るみに出た時には四葉家に殺されそうではあるが、現実は決してそうはならない。
何故なら青信の祖父ー青波は四葉家の大スポンサーだからだ。大スポンサーの孫を殺すなど、いくら四葉家でも出来ないだろう。
そうー東道家は四葉家の大スポンサー。実際には東道家の方が立場としては上なのである。
だからこそ、こんな無茶すぎる頼みも四葉家は断れない。
青信を四葉真夜に師事させたいという頼みをー
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最初に東道青波の頼み事を聞いた時の真夜の感情は困惑だった。
東道青波という人間は、ある意味四葉家が最も警戒するべき人物だ。「政財界に巣食う妖怪」の異名の通り、青波という人間は恐ろしい程の権力と冷酷な思考を有している。
今は、四葉家の大スポンサーという立場だが、それがいつ変化するかも分からない。また青波が単なる味方だとは四葉家も考えてはいなかったからだ。
そんな青波だが、これまで四葉家に対して金銭的な援助以外に、何か強制的にこうしろという注文を付ける事はしていない。
しかし、今こうして青波は四葉家現当主である真夜に直接頼み事をしたのである。まずその事に対する困惑があった。
そして、真夜の困惑はその頼み事の内容に対しても向けられた。
東道家ー東道青波は四葉家の大スポンサーである。そんな青波の頼み事は如何に四葉家と言えど断ることは出来ない。
一体どんな無茶な頼み事をされるのかと考えていたのだが、実際にされた頼み事は予想の斜めを行くモノだった。
青波の孫ー青信を真夜に師事させたいーという頼み事。
青波の代理人から、秘匿回線を通じて伝えられた今回。真夜はしばらく考えた後に、その頼み事を受ける事を伝えた。
単純に東道青波からの珍しい頼み事を断る事が出来なかったという事もあるが、真夜としても青波の孫ー青信の事が気になったのだ。
代理人を通じて伝えられた内容には、青信が「流星群」を使うという事も含まれていた。
四葉家の人間でない者ーそれも大スポンサーの孫が自分と同じ「流星群」を使うという事に興味を抱いたのである。
「私と同じ「流星群」を使う魔法師……それにしても、それがあの方のお孫さんだなんて」
自室で「面白い事もあるものね」と呟く真夜。あの方とは、勿論東道青波の事である。
しかし、真夜は内心ではそんな余裕はなかった。東道青波は四葉家に対して上から物を言える殆ど唯一の存在。
そんな恐ろしい程の権力を持つ青波の孫ーどんな存在なのか得体が知れないからだ。
そんな存在が自分に師事する事になるなど、四葉家として特に真夜としては余りに面倒な厄介事であった。
東道家に男の子が生まれたという事は知っていたが、深く詮索する事はいくら四葉家と言えども出来ていない。
黒羽家を使うなど本気で調べれば、分からない事もないかもしれないが、それはリスクが高すぎる。
東道家もまた四葉家と同じように秘密主義的な面があるのだ。
真夜は突然の厄介事に、珍しくため息を吐いた。
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そんな大人たちの考えなど露知らず、まだ6歳の青信は久し振りの祖父とのお出掛けに意気揚々としていた。
青信は基本的に習い事などで日々のスケジュールは埋まっており、偶に外に出掛けても、堅苦しいパーティなどに参加しなければならず休みの日に何処か出掛ける事がなかったからだ。
それに、大好きな祖父とのお出掛けというのも、青信としては嬉しいのである。
それは青波も同じ気持ちなのか、久し振りに孫と出掛ける事が出来て機嫌が良さそうだ。
小原という執事に先導されて、四葉家の本邸に着いた青波と青信は重要な客として丁重にもてなされていた。心なしか、四葉家の人間たちには緊張の色が伺える。
来賓用の部屋で待つ青波と青信。青信は出されたオレンジジュースを美味しそうに飲んでいた。
しばらくすると、部屋の扉が開かれる。そうして現れたのは、四葉家現当主の四葉真夜だ。
「お待たせして申し訳ありません」
「構わんよ。大して待ってないしな」
そんな謝罪の言葉と共に入って来た真夜。青波が挨拶を返す。部屋には否が応にも緊張感が走る。そんな緊張感をいい意味で破壊したのが青信だ。
「こんにちは!僕の名前は東道青信です!」
子供らしい無邪気で元気な口調でそう挨拶した青信。青信のそんな態度は、部屋の緊張感を幾分か和らげた。
真夜もそんな青信に注目する。整った顔に、純粋そうな笑顔。
口にも顔にも出さないが、祖父である青波とは対照的だと内心で考えてしまう程だ。
「私は四葉真夜といいます。よろしくね青信君」
「よろしくお願いします!真夜お姉さん」
「あら。お姉さんなんて言ってくれるの?」
青波からしばらくの間、この真夜という女性に魔法を教わる事を聞いていた青信は、よろしくお願いしますと真夜に挨拶をする。
当の真夜は、自分をお姉さんと呼んだ青信にすっかり毒気を抜かれていた。真夜は若く見えるが、実際の年齢はそれより遥かに高い。
「随分と可愛いお孫さんですね」
「そうだろう。儂の自慢の孫だよ」
真夜は青信の祖父である青波にそう言った。孫バカの青波は、真夜に孫を褒められて機嫌が良さそうだ。
四葉真夜と東道青信の邂逅は、恙無く行われた。