妖怪こと青波お爺様は孫に弱い   作:ブハラ

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第5話

 国立魔法大学付属第一高校ー通称第一高校は、国立魔法大学へ多くの卒業生を送り込み、優秀な魔法師を輩出しているエリート校だ。

 しかし、その内実は極めて残酷なモノである。

 ブルーム(1科生)とウィード(2科生)という明確な区別が存在し、入学の時点から優等生と劣等生が存在するのだ。

 

 魔法の世界には、甘い理想論など介在する余地がない。

 徹底した才能主義と、残酷なまでの実力主義。それがいみじくも魔法の世界なのである。

 そうー同じ新入生でも平等ではないのだ。例えそれが血を分けた兄妹であったとしても。

 

 

 +++

 

 

 第一高校入学式当日。新入生の青信は開会の2時間前という余りにも早すぎる時間に第一高校へと着いていた。

 勿論、青信とて馬鹿ではない。開会の時間は正確に把握していたのだが、もしもに備えて早く来ていたのだ。

 しかし、いくら何でも早すぎたのか、校舎を歩きながら「早く来すぎたかな」とボヤく青信。

 

 そんな青信は椅子に座り、制服の乱れを直していた。衣服の乱れは心の乱れの精神である。

 青信の制服には、客観的に見て目立つ8枚花弁の第一高校エンブレムが刺繍されている。

 これこそが、青信がブルームであるという証だ。

 

 第一高校には、魔法実技の個別指導を受ける権利を有する1科生と、そのスペア要員である2科生が存在する。

 1科生の制服には第一高校の花のエンブレムが刺繍されているが、2科生の制服には、それが刺繍されていない。

 その為、1科生をブルームと呼ぶのに対して2科生をウィードと呼ぶのである。

 

 そんな1科生と2科生は基本的に仲が悪く、一緒に居る事はない。それも当然だろう。

 しかし、何事にも例外というモノは存在するのだ。この兄妹はまさにその例外だった。

 

 「納得出来ません!」

 「まだ言っているのか?」

 

 青信の座る椅子から少し離れた場所。そこでとある兄妹がー否妹が兄に詰め寄っていた。

 この兄妹は司波兄妹である。妹ー司波深雪は兄ー司波達也への学校の評価に関して疑問を抱いているのだ。

 

 「何故お兄様が補欠なのですか?入試の成績はトップだったじゃありませんか!」

 「あのなあ深雪。魔法科学校なんだから、筆記より実技が優先されるのは当然じゃないか」

 

 兄妹であるのに、その制服には違いがある。妹の制服にはエンブレムが刺繍されているが、兄にはそれがない。

 それはすなわち、妹は1科生であるが、兄は2科生であるという事を示していた。

 深雪はそれが我慢ならなかったのである。自分の大好きな兄がどうして2科生という不当な扱いを受けているのかと。

 

 「そんな覇気のない事でどうしますか!魔法だって本当なら」

 「深雪!」

 

 達也の弱気な発言を深雪が厳しく叱咤する。

 しかし、それ以上に強い口調で名前を呼ばれて、深雪はハッとした顔で口を閉ざした。

 

 「分かっているだろ?それは口にしても仕方のない事なんだ」

 「……申し訳ございません」

 

 項垂れた深雪の頭にポンと手を置き、艶やかで癖のない長い黒髪をゆっくりと撫でる達也。しかし、そんな達也の視線は深雪ではなく、物陰へと向けられていた。

 達也が物陰へと視線を向けている事に、深雪も気が付いたのか、達也と同じように物陰へと視線を向ける。

 

 「そこの物陰に隠れているのは分かっている。隠れてないで出てきたらどうだ青信」

 「いやー兄妹のラブコメの一幕を邪魔するのは悪いかと思って」

 

 達也の言葉に、そんな軽い調子で物陰から出てきたのは青信だ。深雪は物陰に人が居る事に気が付けなかった上に、出て来たのが青信だった為に驚きを露わにする。

 達也は、そんな青信の言葉にため息を吐く。

 

 「別にラブコメの一幕をしている訳ではないが」

 「ごめんごめん冗談。でも、2人が言い合っているのは早朝とは言え中々目立ってたよ?」

 

 その言葉に反応したのは深雪だ。自分と兄との言い合いを青信に見られていたというのは、深雪にとっては恥ずかしかった。

 

 「一体何処から見ていたんですか?青信さん」

 「「納得出来ません!」からかな」

 「殆ど全部じゃないですか」

 

 そう抗議するように言う深雪。しかし、そんな抗議も何処吹く風。片手を頭の後に置くと「いやーごめん」と笑みを浮かべる青信。そんな青信の態度に深雪は毒気を抜かれていた。

 

 「それにしても、随分と早いんですね」

 「うん。念の為にって思って早く来たら早く着きすぎてね。深雪さんは総代のリハーサル?」

 「ええ。お兄様は私の付き添いです」

 「成程そう言う訳ね」

 

 青信と深雪と達也が各々の事情を把握した所で、青信は時計を確認した。その時計は、深雪の総代としてのリハーサルの時刻が迫っている事を示していた。

 

 「そう言えば、そろそろ深雪さんのリハーサルの時間じゃないの?」

 「深雪。青信の言う通り、時間だ。俺は本番を楽しみにしているからリハーサルに行ってきなさい」

 

 青信と達也に言われて深雪も時計を確認すると、確かにリハーサルの時刻が迫っていた。「行って参ります」と会釈をして、深雪の姿が講堂へと消えたのを確認する達也。青信はそんな達也に、入学式まで暇を潰そうと提案した。

 

 携帯端末に表示した構内図と見比べながら歩き回る事5分。視界を遮らない程度に配置された並木の向こう側に、3人掛けのベンチの置かれた中庭を発見した。

 青信と達也は、そのベンチに腰を落ち着けると、軽い世間話をしていた。そんな2人の様子を、在校生が奇妙なモノを見るかのように、見つめていた。

 

 2人の居る中庭は、準備棟から講堂へと通じる近道のようで。式の運営に駆り出されているのであろう在校生が、2人の前を横切って行く。

 彼ら彼女らの左胸には第一高校のエンブレム。通り過ぎるその背中から、無邪気な悪意が零れ落ちる。

 

 ーあの子、ウィードじゃない?

 ー補欠なのに張り切っちゃって

 ー何でブルームとウィードが一緒に居るんだ?

 

 青信は、そんな悪意の含まれた言葉に苦笑した。

 第一高校にはブルームとウィードという区別というか差別が存在するというのは知っていたが、ここまでとはーと。

 達也も同じ気持ちなのか、ため息を吐いた。

 

 「何か……随分と差別意識があるみたいだね」

 「そうみたいだな」

 

 

 +++

 

 

 在校生からの奇異の目に晒されながら、青信と達也で雑談などをして時間を過ごしていた。入学式まであと30分。

 そんな2人に、声が掛けられる。その声は、青信にとってはよく知る声であった。

 

 「新入生ですね?開場の時間ですよ……ってあら?青信くん?」

 

 そうー声を掛けてきたのは、第一高校の生徒会長を務めている十師族ー七草家の長女。七草真由美だった。

 

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