国立魔法大学付属第一高校ー通称第一高校は、国立魔法大学へ多くの卒業生を送り込み、優秀な魔法師を輩出しているエリート校だ。
しかし、その内実は極めて残酷なモノである。
ブルーム(1科生)とウィード(2科生)という明確な区別が存在し、入学の時点から優等生と劣等生が存在するのだ。
魔法の世界には、甘い理想論など介在する余地がない。
徹底した才能主義と、残酷なまでの実力主義。それがいみじくも魔法の世界なのである。
そうー同じ新入生でも平等ではないのだ。例えそれが血を分けた兄妹であったとしても。
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第一高校入学式当日。新入生の青信は開会の2時間前という余りにも早すぎる時間に第一高校へと着いていた。
勿論、青信とて馬鹿ではない。開会の時間は正確に把握していたのだが、もしもに備えて早く来ていたのだ。
しかし、いくら何でも早すぎたのか、校舎を歩きながら「早く来すぎたかな」とボヤく青信。
そんな青信は椅子に座り、制服の乱れを直していた。衣服の乱れは心の乱れの精神である。
青信の制服には、客観的に見て目立つ8枚花弁の第一高校エンブレムが刺繍されている。
これこそが、青信がブルームであるという証だ。
第一高校には、魔法実技の個別指導を受ける権利を有する1科生と、そのスペア要員である2科生が存在する。
1科生の制服には第一高校の花のエンブレムが刺繍されているが、2科生の制服には、それが刺繍されていない。
その為、1科生をブルームと呼ぶのに対して2科生をウィードと呼ぶのである。
そんな1科生と2科生は基本的に仲が悪く、一緒に居る事はない。それも当然だろう。
しかし、何事にも例外というモノは存在するのだ。この兄妹はまさにその例外だった。
「納得出来ません!」
「まだ言っているのか?」
青信の座る椅子から少し離れた場所。そこでとある兄妹がー否妹が兄に詰め寄っていた。
この兄妹は司波兄妹である。妹ー司波深雪は兄ー司波達也への学校の評価に関して疑問を抱いているのだ。
「何故お兄様が補欠なのですか?入試の成績はトップだったじゃありませんか!」
「あのなあ深雪。魔法科学校なんだから、筆記より実技が優先されるのは当然じゃないか」
兄妹であるのに、その制服には違いがある。妹の制服にはエンブレムが刺繍されているが、兄にはそれがない。
それはすなわち、妹は1科生であるが、兄は2科生であるという事を示していた。
深雪はそれが我慢ならなかったのである。自分の大好きな兄がどうして2科生という不当な扱いを受けているのかと。
「そんな覇気のない事でどうしますか!魔法だって本当なら」
「深雪!」
達也の弱気な発言を深雪が厳しく叱咤する。
しかし、それ以上に強い口調で名前を呼ばれて、深雪はハッとした顔で口を閉ざした。
「分かっているだろ?それは口にしても仕方のない事なんだ」
「……申し訳ございません」
項垂れた深雪の頭にポンと手を置き、艶やかで癖のない長い黒髪をゆっくりと撫でる達也。しかし、そんな達也の視線は深雪ではなく、物陰へと向けられていた。
達也が物陰へと視線を向けている事に、深雪も気が付いたのか、達也と同じように物陰へと視線を向ける。
「そこの物陰に隠れているのは分かっている。隠れてないで出てきたらどうだ青信」
「いやー兄妹のラブコメの一幕を邪魔するのは悪いかと思って」
達也の言葉に、そんな軽い調子で物陰から出てきたのは青信だ。深雪は物陰に人が居る事に気が付けなかった上に、出て来たのが青信だった為に驚きを露わにする。
達也は、そんな青信の言葉にため息を吐く。
「別にラブコメの一幕をしている訳ではないが」
「ごめんごめん冗談。でも、2人が言い合っているのは早朝とは言え中々目立ってたよ?」
その言葉に反応したのは深雪だ。自分と兄との言い合いを青信に見られていたというのは、深雪にとっては恥ずかしかった。
「一体何処から見ていたんですか?青信さん」
「「納得出来ません!」からかな」
「殆ど全部じゃないですか」
そう抗議するように言う深雪。しかし、そんな抗議も何処吹く風。片手を頭の後に置くと「いやーごめん」と笑みを浮かべる青信。そんな青信の態度に深雪は毒気を抜かれていた。
「それにしても、随分と早いんですね」
「うん。念の為にって思って早く来たら早く着きすぎてね。深雪さんは総代のリハーサル?」
「ええ。お兄様は私の付き添いです」
「成程そう言う訳ね」
青信と深雪と達也が各々の事情を把握した所で、青信は時計を確認した。その時計は、深雪の総代としてのリハーサルの時刻が迫っている事を示していた。
「そう言えば、そろそろ深雪さんのリハーサルの時間じゃないの?」
「深雪。青信の言う通り、時間だ。俺は本番を楽しみにしているからリハーサルに行ってきなさい」
青信と達也に言われて深雪も時計を確認すると、確かにリハーサルの時刻が迫っていた。「行って参ります」と会釈をして、深雪の姿が講堂へと消えたのを確認する達也。青信はそんな達也に、入学式まで暇を潰そうと提案した。
携帯端末に表示した構内図と見比べながら歩き回る事5分。視界を遮らない程度に配置された並木の向こう側に、3人掛けのベンチの置かれた中庭を発見した。
青信と達也は、そのベンチに腰を落ち着けると、軽い世間話をしていた。そんな2人の様子を、在校生が奇妙なモノを見るかのように、見つめていた。
2人の居る中庭は、準備棟から講堂へと通じる近道のようで。式の運営に駆り出されているのであろう在校生が、2人の前を横切って行く。
彼ら彼女らの左胸には第一高校のエンブレム。通り過ぎるその背中から、無邪気な悪意が零れ落ちる。
ーあの子、ウィードじゃない?
ー補欠なのに張り切っちゃって
ー何でブルームとウィードが一緒に居るんだ?
青信は、そんな悪意の含まれた言葉に苦笑した。
第一高校にはブルームとウィードという区別というか差別が存在するというのは知っていたが、ここまでとはーと。
達也も同じ気持ちなのか、ため息を吐いた。
「何か……随分と差別意識があるみたいだね」
「そうみたいだな」
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在校生からの奇異の目に晒されながら、青信と達也で雑談などをして時間を過ごしていた。入学式まであと30分。
そんな2人に、声が掛けられる。その声は、青信にとってはよく知る声であった。
「新入生ですね?開場の時間ですよ……ってあら?青信くん?」
そうー声を掛けてきたのは、第一高校の生徒会長を務めている十師族ー七草家の長女。七草真由美だった。