──和菓子屋『オノデラ』厨房──
小野寺母「へえー、君が私に直々にお願いごとねー。小咲と春を下さい!とか?」けらけら
一条「ぶふっ!!違いますよ!急なお願いですし、難しいことは十分承知してます、でも」
春(ん?この声はお母さんと……楽先輩だ。なんでまた楽先輩がうちにいるの)
小野寺母「あんたにはうちの店を手伝ってもらってる恩もあるからね、とりあえず話は聞くよ」
一条「では……小野寺さん!お願いします!春ちゃんを僕に貸してください!!」
小野寺母「……は?」
春(……は?)
──数分後──
一条「───ということでして」
小野寺母「ふーん、つまりあんたのとこで祝い事があるから、料理の手伝いを春に頼みたいと」
一条「はい。もちろん給料も出ます」
小野寺母「はぁ、いやに真剣だから何かと思えば。良いよ、好きなだけこき使いな。春の予定もあるけど、あんたの為なら喜んで手伝うと思うよ」
一条「良いんですか!ありがとうございます!」
がらがら!
春「ちょっとお母さん!何勝手に決めてるの!?」
小野寺母「あら春、ちょうどいいところに。別にいいじゃない、『いちじょうせんぱい』のお手伝いができるんだからあんたも嬉しいでしょ?」
春「なっ///なんでそうなるの!」
小野寺母「テスト勉強手伝ってもらったでしょ?点数上がったかもって喜んでたじゃない。恩返ししてあげなさいよ」
春「それとこれとは話が別だよ!だいだい、楽先輩も何でお母さんに頼むんですか!?直接言ってくださいよ!」
一条「いや、親父からこういうことは親に先に話を通すものだって……頼む!春ちゃん!急にコックが来られなくなっちまって、人手が足りないんだ!手を貸してくれ!」
春「急にそんな事言われても……」
春(でも、勉強教えてもらって助かったのはホントだし、別に断る理由も無いかな)
春「はぁ、しょうがないですね、まったく。今回だけですよ?」
一条「ホントか!ありがとう、恩にきるよ!」ずいっ
春「わかりました、わかりましたから!」
春(うぅ、笑顔が眩しい///てか顔近すぎ!!)
春「あっ!お姉ちゃんは?お姉ちゃんにも手伝ってもらいましょうよ」
春(お姉ちゃんが楽先輩の家に行く口実になるし!)
一条「えっ、いや……小野寺は、さ……あれだろ?」
小野寺母「坊やの家で集団食中毒なんて、ちょっと洒落にならないんじゃない?」
春「そうじゃなくて!お姉ちゃんがいれば盛り付けはばっちりですよ!あっという間に豪華なお食事会です!!」
一条「確かにな……よし、小野寺にも頼んでみるか」
小野寺母「そういえば春、アンタいつから坊やのこと下の名前で呼ぶようになったの?楽先輩、なんて」
春「あーあーあー!!お母さんには関係ないでしょ!」
小咲「ごめん!その日はるりちゃんと劇団四季のアラジンを見に行くの。数ヶ月前から予約してたからどうしても見に行きたくて……」
一条「げ、劇団四季!?わ、悪い、ぜひそっち行ってくれ、こっちは大丈夫だから」
小咲「ごめんね、一条君。春と一緒に頑張ってね!」
小咲(うぅ、一条君に良いところ見せるチャンスだったけど……でも一条君の家族に料理を振る舞うのはもうちょっと練習してから///)
~~数日後~~
春「お、おじゃましま~す」そわそわ
一条「いらっしゃい、春ちゃん」
春(はうっ///浴衣姿の楽先輩、かっこいい//)
竜「いらっしゃいませ、小野寺さん!今日はあっしらの為にわざわざありがとうございます!」
春「は、はい!ふ、不束者ですが、よろしくお願いします。」ぺこり
──一条家厨房──
きょろきょろ
春「かなり本格的な設備ですね」
一条「あぁ、大体の料理はここで作れるぜ」
春「そういえば、橘先輩はいらっしゃらないんですか?料理が上手と聞いていたので、てっきり来てるのかと」
春(彼女がいる男の人に公衆の面前で抱き着くような人だけど、たしか料理は得意ってお姉ちゃんが……あ、ひょっとして橘先輩も千棘先輩と楽先輩の秘密を知ってるのかな?だ、だからって、人前で楽先輩に抱き着いていい理由にはならないけど!)
一条「あぁ、橘か。今回の食事会は集英組が主催するから、警視総監の父親に止められたんだよ。あいつらが橘に危害を加える訳ないけど、警察のスキャンダルになったらまずいからな」
春「なるほど、大人の事情ってやつですね」
一条「そういうことだ。よし、さっそく始めるか」
春「はい!やるからにはとびきり美味しい料理を作っちゃいましょう!」
春(先輩には普段から和菓子屋の手伝いしてもらってますし、今度は私の番です!先輩に更なる恩を売るために頑張っちゃいます!)
とんとんとんとん
春「先輩、こっち切り終わりました」
一条「サンキュー春ちゃん、そのままこっちの鍋に入れて味付けしてくれるか?」
春「了解です!」
どばどばどば~
春「うわ~こんな大量の醤油一気に使うなんて、滅多にできる経験じゃないですよね。なんか爽快、給食のお姉さんにでもなった気分です!もう空っぽになっちゃいました」ぽいっ
一条「ははっ、確かに普通なら一カ月は持つくらいの量だよな。あ、砂糖とみりんもそこの棚に入ってるから、出してもらっていいか?」
春「は~い」
春(なんか、先輩と料理するの楽しいな。何気ないお喋りができるのが嬉しい、なんてこれじゃあ私ただの片思いしてる女の子みたい……)
春「よし、後はこれをかき混ぜれば……うっ、重たい」
一条「そっちの残りは俺がやるよ、春ちゃんはちょっと休んでてくれ」
春「あ、ありがとうございます」
春(先輩やっぱり優しい……どうしよう、お姉ちゃんとくっける為に頑張るはずなのに、私の方がどんどん……)
一条「よし、いい感じだな。春ちゃん、味見してもらえるか?」
春「あっ、はい」
ぱくり
春「うん、美味しいと思います!あ、でも楽先輩の家の方の舌に合うかはちょっとわからないかもです」
一条「じゃあ俺も味見しようかな」
春「はい、ぜひ──先輩、あーんしてあげましょうか?」
春(お姉ちゃんと一緒にいるときみたいに……)
一条「えっ、な、なんで急に?」
春「この前のお返しですよ。どれだけ恥ずかしいことか分かってないみたいですしね。はい、あーん」にやにや
春(お姉ちゃんにしてもらったときみたいに……)
一条「うっ///わーったよ、食べりゃいんだろ?」ぱくり
春(私でも、ドキドキしてくれますか?)
一条「んー……うん!美味しい!味付けもバッチリだよ」
春「そ、それは良かったです」
春(やっぱり違うんだよね……もうちょっと恥ずかしがって欲しかったな~……ていうかこれ、私の方が恥ずかしいかも//)
がさがさ……ばっ!
風ちゃん「いや~良いもの見れました!」
一条「うおっ!」
春「きゃあ!え、風ちゃん!?こんなところで何して─っていうか今の見てたの!?」
風ちゃん「舞子先輩のアシスタントやってるんだ~。ん?ばっちり見てたよ。なんなら写真も─」
春「ぎゃあぁ!もう!もう!風ちゃんはみんなのとこで写真撮って!こっちは良いから!」
風ちゃん「あれ?ひょっとして一条先輩との二人きりを邪魔されて怒っちゃった?」ひそひそ
春「ちーがーう!!そんなんじゃないってば!」
風ちゃん「はいはい、じゃあ頑張ってくださいね!」
とことこ
きぃーばたん
春「はぁはぁ、まったく……来るなら教えてくれればよかったのに」
一条「いやーびっくりした、風ちゃんも来てたんだな」
春「なんで先輩も知らないんですか」
春(うぅ、風ちゃんになんて言い訳しよう……別に悪いことしてるわけじゃないけど、なんか罪悪感が)
~数時間後~
一条「はぁ、終わった~」
春「ふぅ、もうヘトヘトですよ」
一条「ホントにありがとな、春ちゃん。まじで助かったよ」
春「当たり前です!私ですからね!」
一条「ははっ、ほんとにな。あぁそうだ、春ちゃんの分の料理もあるんだよ。持ち帰っても良いけど食べてくか?」
春「そうですね……せっかくなのでここでいただきます」
一条「オッケー!準備するからちょっと待っててな」
春(もうちょっと楽先輩と一緒にいたい……今日は頑張ったし、これくらいのわがままは許してくれるよね)
竜「あ、小野寺さんお疲れさまっす!いや~ホントにありがとうございました!」
春(……許してもらうってなんだろ)
竜「あー小野寺さん?」
春「ひゃいっ!」
竜「大丈夫っすか?お疲れなら客間で横になれますぜ?」
春「あ、あぁ、いえ、大丈夫です」
竜「そうっすか?」
春(楽先輩の近くでは、小野寺ってお姉ちゃんのことが多いから気づかないや)
一条「お待たせ、春ちゃん。こっち用意してあるから、一緒に食べようぜ」
春「はい、ありがとうございます……む、楽先輩と二人きりで、ですか?」
一条「まあ、うん、そうだな」
─お食事部屋─
春&一条「いただきま~す!」
春「もぐもぐ……美味しいです!」
一条「俺たちで頑張って作ったからな」
春「なっ///そういう恥ずかしいこと平気で言わないでください!」
一条「ホントのことだろ?俺も春ちゃんも全力だったしな」
春「はいはい」
一条「えぇーもうちょっと乗ってくれよ」
春(本当に……楽しかったですよ?でも。楽先輩は、どうでしたか?)
─一条家玄関─
一条「今日はホントにありがとな、春ちゃん」
春「こちらこそ、いい経験になりました」
一条「そう言ってもらえて嬉しいよ」
春「それでは失礼します」
一条「あぁ、またな!」
とことこ……くるり
春「お姉ちゃんが来れなくて、残念でしたね楽先輩」
春(っ……何言ってるんだろう私)
一条「ん?みんな俺たちの料理に大満足だったよ」
春「そ、そうですよね」
春(気を遣ってくれてるのかな……)
一条「……実はな、春ちゃん」
春「ど、どうしたんですか?」
一条「俺って普段から集英組の奴らにご飯作ってて、たまに面倒くさいって思うこともあってさ」
春「まあ、たくさん作らなきゃですもんね。よく分かります」
一条「そ。だから今回だって、いつも以上に大変だしあまり気乗りしてなかったんだ。でも、春ちゃんがいたから、楽しく作れたし、最後までずっと頑張れたよ」
春「楽先輩……」
一条「本当にありがとな、春ちゃん」
春「は、はい!どういたしまして!」
てくてくてく
春「うー、まだ心臓がばくばくしてる……楽先輩が、私との時間を楽しんでくれた……私を、お姉ちゃんの妹じゃなくて、私としてみて見てくれてた……嬉しい嬉しい嬉しい!!!!」
風ちゃん「それは良かったね、春」
春「うんうん、本当に嬉し……うひゃ!」
風ちゃん「ふふ、なんかデジャブ」
春「もおー風ちゃん!」
風ちゃん「ははは、ごめんって。良かったね、一条先輩と近づけて」
春「ちがう!!違うって!!そーゆー事じゃなくて!!!」
風ちゃん「まあまあ、お詫びに一条先輩とのツーショットあげるからさ」ぴら
春「え?ツーショットって?……」
春(わっ私が楽先輩に『あーん』てしてるとこ///なんかどっちも顔赤いし//)
春「いつの間にこんなの撮ったの!?」
風ちゃん「良いでしょ?額に飾って机に置けば?」
春「だれが!そんな!お姉ちゃんみたいなこと!!」
小咲「うん?私がどうかしたの?」
春「うぎゃ~~~~!!!!」
小咲「ど、どうしたの?春」
風ちゃん「小咲先輩、これ見てくださいよ。一条先輩と春が仲良く料理を─」
春「や、やめてえええええええええ!!!!!!!!」
おわり
かたん
春(うぅ、ホントに額に入れちゃった。ある意味先輩とのツーショットだし……もう写真を撮るチャンスなんか無いのかな。二人で、また……)
がちゃ
小咲「春ーご飯だってよー」
春「はーい」
小咲「ん?写真飾ってある。前はなかったよね、どれどれ──」
春「あー!ダメーー!!!」
がしゃん!
ほんとにおわり
読んでくださってありがとうございました!