召喚勇者は死にました   作:黒桜@ハーメルン

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14 勘違いと先入観って消えないんだな……

「結構時間かかったな……」

 

 解体を終えた黒大蛇の運搬を終えた後、武器好きな3人に捕まった。なんでも一回だけでもいいからオレが剣を創るところをみたいらしい。押しに負けて、魔力消費の少ない一回だけ魔力剣でやった。

 それで終わればよかったんだが…だいたい予想通りにもう一回と頼まれる。結局5回ほど実演して、それでもアンコールする三人を他のアラクネたちが押さえつけて、そこから逃げて現在に至る。

 

 スライムたちは相変わらず定位置だ。ただ、食後(蛇の核と一緒に肉を少し分けてもらった)だからなのか、いつもよりダラーっとしている。

 

「ところで、今度はどこに向かっているんだ?」

「集会場ですね。ただ、今から行くところは【物作り】たちの使うところです」

「物作り?服とか武器とか、あとは家とか作っているのか?」

「武器は【狩人】が自分で調達するので作っていませんが、それ以外はそうですね。あとは食物の加工とか」

 

 へえ。生活を支える職業、といったところかな。

 

 そこからは適当な雑談をしながら歩き、五分ほどでその集会所に着いた。

 

 村の中央南あたりに位置するその建物は奥に細長く、そして今までで一番ぼろい。てか、いつ崩れてもおかしくないと思えるようなありさまで、隣接しているかなり広い建物がしっかりしたものに見えてくるほどだ。

 

「……たしか【物作り】って家建てるんだよな…?」

 

 思わずつぶやいてしまう。

 

「どうも【物作り】達は自分らのことに疎いらしくて。仕事場も雨風さえしのげればそれでいいと前に言っていましたし」

 

 オレの気持ちを察したのか、ラピスが回答をしてくれた。

 

 そのままラピスは入り口にかけられた布に手を伸ばし、先に中へと入っていく。

 

 後に続いて入ると、視界の飛び込んできたのは――

 

 下半身が蜘蛛、上半身が筋肉質な人間の男の魔物たち――数は5人――が壁際に置かれた机に向かい、黙々と裁縫をするという、どことなく地球の工場みたいな雰囲気のある風景が目に飛び込んできた。

 

(アラクネって男もいたんだな)

 

「……白髪さん、大丈夫そうですね」

 

 意外そうにラピスがそう聞いてくる。

 

「え?いや……なんかおかしいところあるのか?」

「いえ……外からの人がここに来ると、だいたいみんな驚いてたものでして」

 

 うーん……マッチョが裁縫をやってるのがシュールに見えるからなのか?

 実際、優と幸助と3人で暮らしていたから、家事とかも男3人で済ます必要があり、裁縫とかそういったものはすべて優の仕事だったから筋肉質な男の裁縫姿なんて見慣れている。

 

「あ?誰だ。……ってお前さんか。ここに来たってことは、今回はそこの白い嬢ちゃんか? なんでスライムを抱いて頭にのせてんだ」

 

 どうやらこちらの存在に気付いたようだ。奥で裁縫をしていた一人が手足を止め、声をかけながらのしのしと歩いてくる。つーか嬢ちゃんって。見た目少女でも中身男なんだが。

 ……あれ、スライムのことを突っ込まれたのこの村に来てから初めてじゃん。

 

「いえ、白髪さんは……まあ、昨日色々ありまして。簡単に言うと、私の恩人でお客さんですね。しばらく滞在するので、こうして顔合わせに村を回ってるんですよ」

 

 ちゃっかりスライムのことはスルーするラピス。

 

「へえ。お前ら3人が助けられるって、その嬢ちゃん、本当に人間か?【物作り】の俺らには強さなんてよくわからんが、前にお前ら3人組が『並みの冒険者じゃ歯が立たない』って褒められていたの聞いたことあるぞ」

「まあ、白髪さんは人間じゃないですし」

 

 お、ラピスナイス!そのまま嬢ちゃん呼びも訂正してくれるとなお嬉しい。

 

「なぬ?つまりその子は俺らと同じような魔物なのか?いろんな人間の話を聞いたことがある俺でも、そんな魔物は聞いたことねーぞ」

「……白髪さんの種族は、その……」

「……ああ、なるほどな。済まねえな嬢ちゃん、気ぃ悪くしちまったか?」

 

 ラピスが言葉を濁らせたことに、何かを察したようで謝られる。

 ……やっぱり種族の勘違い解くべきか。

 

「あのー。実はだな……」

「今ちょいといいかい?」

 

 オレの言葉に、聞いたことのある声が被る。

 入り口の方を見ると、そこにはこの村の村長、アラルがいた。

 

「一応先客がいるんだがな……それで、今日はいったい何の用だ?」

「おっと、それはすまないね……簡単に言うと、今日開こうと思うのだが、できるかい?」

「ふむ……狩人たちの成果によっては、できると思うが……」

「あ、その点なら問題ないです。行けばわかりますが……」

 

 そういってラピスも話に入っていった。が、オレは全くついて行けない。いったい何の話をしているんだ?

 

「ふむ。こういっているのだし、頼めるかい?」

「ま、そうだな。やってやらあ。……済まねえな嬢ちゃん。急用が入っちまったから、また今度話そうや」

 

 そういうと男は部屋の中にいた他の男たちを連れて、奥の出入り口からどこかへ行ってしまった。話についていけなかったオレは、頭上にはてなを浮かべることしかできない。

 

「…もしかして、何か大切な話でもしていたかい?」

 

 アラルが苦笑を浮かべながら、そう聞いてきた。

 

「いえ、雑談してただけなので、大丈夫です」

「ならよかった……というのもおかしいかね。……ところで、今から何か予定はあるかい?」

「予定……なあラピス、まだどこか行くところってあるのか?」

 

 完全に任せっきりだったので、オレが知っているはずもない。ラピスにそう聞くと、帰ってきたのは首を横に振るといったジェスチャーだった。

 

「む? ラピス、とな?」

「あ、いえ、多分これからしばらく世話になるんだし、オレとしては呼び方があればって思ってそう呼んでいるだけです」

「ほう……」

 

 興味深そうにそう頷くと、アラルはニヤリと笑う。しかしそれも一瞬だけ、すぐに表情は元に戻った。

 

 ……なんだったんだ? 今の。

 

「なら今から私の家に来ないかい?昨晩はあまり話せんかったが、私もお前さんには興味があってな」

「オレはかまわないですけど……」

 

 ラピスはどうするんだ?という気持ちを込めて、ちらりと見る。

 

「あ、なら私はあっち手伝ってきますねー」

 

 そういって、ラピスも奥の出入り口から出ていく。思いっきり気を使わせてしまったから、あとで謝っとこう。

 

 先を行くアラルに続いて歩くこと数分、結構近かったのでほんの数分で村長宅に着いた。

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「ほう。そのような魔物までいるのか」

「ええ、剣が通らなくてその時は多少焦りましたよ」

「それでも倒してしまったのだろう? あの3人でも倒せない魔物を圧倒したのだから、大した強さだ」

「ええまあ、熱に弱かったようで、赤魔法を打ったらあっさりと倒せましたね」

 

 アラルとの初対面の時は厳格そうな人だと思ったが、話してみると意外と気さくな人だった。話題が尽きない、というほどではないが、会話が弾む。かれこれもう2時間以上は話しているだろう。今話していたのは、オレが過去に狩ったことのあるロックタートルという魔物についてだ。

 かなり前のことで、当時の魔力じゃあのくそ硬い甲羅を切れるほどの武器を作れなかったんだよなあ。今の長剣を使えば、確実に切れるだろうが。

 そういえば、長剣創ってから魔法ってほとんど使ってないな。

 ふとそんなことを考えるが、所詮どうでもいいことだったので、すぐに頭から消え去った。

 

「というか、圧倒はしていませんよ? 大蛇に気付かれないように、隙を見て不意打ちしただけですし」

 

 そして、アラルの性格に対して思ったことがもう一つある。

 

「そう謙遜せんでいい。娘に聞いたところ、我らの武器じゃかすり傷しか与えられないような硬い鱗を、あっさりと切ったのだろう?たとえ良い武器を使ったとしても、相応の技量がなければできないはずだ。お前さんは間違いなく強い」

 

 この人、驚くほどに裏表がない。今のような褒め言葉も、すべて本音なのだと確信できる。

 

「……ありがとうございます」

 

 純粋な好意にはあまり慣れていないので、そう返すことしかできなかった。

 

「ところでお前さん、一つ聞きたいことがあるのだがいいかい?」

「何でしょう?」

「お前さん」

「どう、とは?」

 

 あまりにもあやふやな質問に、つい聞き返してしまう。

 

「そのままの意味さ。見ていて感じた違和感とか、そういったことがあれば教えてほしい」

 

 返事の声は、先ほどとはトーンが全く違う。それだけで、真剣な話だということが分かった。

 

 しばらく考えてから、ゆっくりと口を開く。

 

「……他の人と、多少の距離があるように感じましたね」

 

 そう考えたのに、根拠と呼べるような根拠はない。本当に、なんとなく感じたことだ。

 

「……そうか」

 

 アラルはそうつぶやいただけだった。しばらくの間、沈黙が部屋の中を支配する。

 

 やがて、それを破ったのはアラルだった。

 

「あの子は少々出自が特殊でな。心配だから共に狩りをしている娘に聞いたりしているのだが…」

 

 その言葉は、オレに発せられたわけではなく、どちらかというと独り言のようだった。

 

「お前さんよ、1つ、いや2つ頼みがある」

「何でしょう?」

「恐らくお前さんは、あの子とともに行動することが多いだろう。その時に何か新しく感じることがあったのなら、私に教えてほしい。ああ、別に教えると言ってもことあるごとにじゃなくて、話す機会があるときにで構わない」

 

 ふむ、それくらいなら問題ないな。

 

「わかりました。それで、もう一つというのは?」

「……あの子に対して、両親のこと、特に父親のことを聞いたりしないでほしい。詳しくは言えないけど…」

「……いえ、詳しいことは大丈夫です」

 

 昨日の夜にラピスにうっかり聞いてしまった時の反応で、嫌だということは十分にわかっている。むしろあれで分からない奴っているのか?

 それに……

 

「親を失う気持ちは、オレも知っていますから」

 

 今こそ吹っ切れてはいるが、過去のオレもその手の話題が嫌で、小学生の時に親なしとバカにしてきた同級生を殴って脳震盪を起こしたこともある。

 ラピスの感情も、完全にではないが共感できるものなのだ。

 

「……助かる」

 

 そういって、アラルは頭を深々と下げた。

 

「さて、しんみりとした話はここまでにして……おそらくもう集まってるから、そろそろ行こうかね。」

 

 立ち上がりながら発せられた声には、先ほどまでの真剣さはない。雑談をしていた時の抑揚に戻っていた。

 

「なら、オレもそろそろ帰りますか」

「何言ってんだい。お前さんも行くんだよ」

 

 ? 今からいったいどこに行くんだ?

 

「それはまあ、来てからのお楽しみだ。ついてきな」

 

 よくわからないままだが、言う通りにすることにした。

 

 実を言うと、オレの能力、魔力感知を使えば村全体を調べることくらいできる。が、それをしようとは思わない。ついてからのお楽しみって言われたんだ、先に知っちゃあ野暮ってものだろう。

 

 歩くこと数分。どうにも知ってる道しか歩いていないなと思っていたら、たどり着いたのは一度入ったことのある、物作り達の集会所の横の建物だった。

 

 ……あ、なるほどそういうことかな?

 

 魔物の身体は人間時と比べて聴覚と嗅覚が敏感なので、この時点でオレはすでに何があるのかを察した。

 

 布のかかっていない入り口から入ると、まず見えたのは大勢の人だ。4脚の長卓に、奥2つに男性、手前2つに女性が座っている。長卓の上には、大量の料理が並べられていた。

 

「え、あの子なの?」

「そうよ。最初に会った時は私もそう思っちゃったけど、本当にすごいのよ。これくらい太い木をばっさりと切っちゃったし」

「あんな嬢ちゃんがか? オレの娘と同じくらい小さいぞ? ……やっぱり人は見かけによらねえなあ」

 

 そして、オレへの興味も高いよう。今のような会話があちこちから聞こえる。

 

「お前さんの席はそこだ、ひとまず座ってくれ」

 

 そういってアラルが指さした卓は、ちょうどオレの正面にあり、同時に部屋の正面であろう方向にある。

 座布団が2つあったが、アラルが奥の一つに座ったためオレは手前に座った。よくは知らないが、こういう席のことを上座って呼ぶのだろうか?

 

「皆の物、沈まれ」

 

 族長の一声で、すべての会話が消えた。それに満足するように一度頷くとアラルは立ち上がり、そして話し始める。

 

「まずは、彼を紹介しようと思う。おそらくみな知っているだろうが、彼には我らの同胞の危機を助けてもらった。なんでもその相手は鉄よりも硬い鱗を持っていたそうだが、それを一発で切り裂くほどの実力の持ち主だ」

 

 驚きの声がいくつか上がる。おそらくそれはオレの所業に対してであり、きっと彼の部分に反応したのではないと信じたい。

 

「さて、お前さん。一言何かお願いしたい。挨拶でも、何でもいい」

 

 いきなりこっちに振られる。いや、ちょ、急に言われても思いつきませんって。

 だが、周りがそんなオレの心情に気付くはずもない。期待のまなざしに負けて、しぶしぶ立ち上がった。

 

「えーっと、はい。こんにちは?先ほど紹介された……名無しの魔物です。呼び方は好きにして構わないです。一番呼ばれているのは……髪の色から、白髪ですかね?」

 

 もうグダグダであった。仕方ないだろ!? ここ数ヶ月まともに会話とかしたことないんだしさあ、そもそも生前でもこういうことほとんどなかったんだからさあ!

 

 だが、周りの誰もが気にした様子がない。ええい、こうなりゃやけくそだ! ついでに今まで訂正できなかった勘違いも訂正してやる。

 

「このスライムたちはオレの仲間?というよりペットですね。ほとんどオレと一緒に行動してますけど、仲良くしてあげてください。もちろん人は食べませんよ。それと最後に一つ、オレは女じゃなくて男です!」

 

 一気にそういうと、そのまま座った。部屋の中は「え…嘘…」とか「本当に…?」といった驚愕の声が飛び交っていたが、そのすべてがオレの最後の発言に対してではないと信じたい。

 

「さて、それでは皆の者。同胞を助けてもらった感謝の意と、これからしばらく滞在する彼に歓迎の意を込めて、今日は存分にもてなそう!」

 

 アラルが話し終わると同時に、室内が沸きあがる。

 オレが連れて行かれた先は、宴会場でした。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「はい、あーん!」

「あ、あーん」

「白髪ちゃん、こっちもこっちも!」

 

 宴会の開始から約十分。早々にアラクネのお姉さんたちに捕まったオレは、このようにかわいがられて?いた。中には初対面の人もちらほら……いやこれちらほらっていうか、半分以上がそうだな。

 

「いやあの、オレあまり食べる方じゃないから、もうお腹いっぱいなんですけど」

 

 この言葉はほとんど嘘である。そもそもの話、この体に普通の食事はほとんど意味がない。ぶっちゃけた話、無駄にしていると言っても過言ではない。

 ではなぜ食べているのかと思うだろうが、それはまあ、純粋にうまいからだ。

 なにせ魔物になってから八か月、サバイバル生活で食べたものなんて核を除いたら皆無なのだ。食べ物の味なんて忘れきっちまてる。今の状態なら納豆だろうとシュールストレミングだろうと美味しく感じるだろうな。いやシュールストレミング食ったことないけど。

 

 ただ、自分の食事をほったらかして世話されるのも申し訳ないので、彼女らから逃げることを試みた。

 

「大丈夫よ! 全然苦しそうじゃないから、まだまだいけるわ! それに、昨日から何も食べてないんでしょ!」

 

 そして見事に失敗する。

 

「いやあむぐっ!?」

 

 こうなったらもう直接言おうと思って口を開いた瞬間、でかい肉を詰め込まれた。

 

「全くもう、子供はちゃんと食べないとだめよ? あなたのペットたちだってあんなに食べているのに」

 

 ペット?あ、スライムのことか。自分でそう紹介しておいて忘れかけるって…

 そこまで考えて、スライムたちがいないことに気付く。慌てて周りを視ると…

 赤スライムは隣のお姉さんたちの輪の中心で多くの人から、緑スライムは人の輪から外れたところでラピスに抱かれながら食べ物をもらっていた。

 

「ほら、あれくらい食べなきゃだめよ?はい、あーん」

「あーん」

 

 驚いたな、まさか緑がオレ以外に気を許すとは。出会った時からだけど、緑ってすごい臆病なんだよな。オレに完全に気を許すのに一週間はかかっていたのに、それがまさか会って一日目の人に懐くとは……

 

「ほらこっちも。はい、あーん!」

「あーん」

 

 まあ、悪いことではないな。ラピスとはこれからしばらく一緒に住むし、むしろずっと警戒しているほうが失礼にあたる。

 

「なんだ、まだまだ余裕そうじゃない」

「え?」

「ほら、料理はまだまだあるし足りなかったらまた作ってもらうからじゃんじゃん食べて!」

 

 あ、やばい。考え事をしたせいで、周りがよく見えてなかった。

 

「「「はい、あーん!」」」

 

 ……もういいや、どうにでもなれ……

 

 それから一時間後。おおよそ10人前は食っただろうオレは、アラクネたちが満足するとともに料理が残り少ないことに気付き慌てて自分の食事を確保しに行ったことで、やっと解放された。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「散々な目にあった……」

「はっはっは!嬢ちゃん……いや、男だから坊ちゃんの方が正しいか?」

 

 手持無沙汰になったオレは、男性陣に混ざって話すことにした。ほぼ全員が初対面ではあるが、彼らはそれを気にした様子もない。

 

「……正しいはずなのに、違和感が大きいのはなぜだろうか」

「こまけ―ことは気にすんな! というか坊ちゃん、大勢の女に囲まれてキャーキャー言われるなんざ羨ましいじゃねーか!」

「いや、あれは愛玩動物に対するキャーキャーだと思うんだけど……」

 

「それでも言われたいってのが男ってもんだろ!」

 

 そういって隣に座る会話相手――【物作り】の集会場で話した、アラクネ男性の中で唯一の顔見知り―は手元の水呑を取り、中身を一息に飲み干した。まるで酒でも飲むようなそぶりであったが、匂いからして酒ではないようだ。

 

「ッか~! やっぱり仕事後の一杯は格別だな!」

 

 よう、だ……え、おっちゃんなんで顔赤くなってんの?なんで目がとろんとしてきてんの?

 

 わけがわからず目を白黒させるオレを見て、周りから笑い声が漏れた。

 

「アハハ、いや反応が予想通り過ぎてね。外の人間が来るときも宴会を開いているんだけど、彼らも君みたいな反応をするんだよ。」

 

 右斜め前に座っていた、アラクネ男性としては珍しい、華奢な体つきの男が答えてくれた。

 

「いや、それはいいんだけど……酒ではなさそうなのに、なんで酔っているんだ?」

 

 地球には存在しないアルコールの入った飲み物とかなのか?

 

「人間は“さけ”とやらで酔うようだけど、僕たちは人間じゃないからね。今飲んだ木の葉を煮でできる飲み物や、あとは外の人間が持ってくる炒った豆を煮てできる黒い飲み物で酔うんだよ。黒いのは希少だからホント数年に一度飲めるかどうかだけど」

 

 木の葉と炒った豆を煮てできる飲み物……それってお茶やコーヒーのことか?

 ……そういえば、蜘蛛はカフェインで酔うってどこかで聞いたことがあるぞ。アラクネも一部が蜘蛛だから、その体質を持っていてもおかしくはない、か?

 

「それにしてもよお、白髪の嬢ちゃんって、なんかところどころ人間みたいだな。今の反応もそうだが、その見た目や“敬語”を使うところとか。嬢ちゃん実は人間ってことはねーか?」

「……証拠を見せたりできないけど、オレはれっきとした魔物だ」

 

 何気ない一言。その一言は、まさに真実の的の中心を射ていた。

 

 返す言葉には、どこか薄暗さがある。それがいったい何なのかは、自分でもよくわからなかい。

 

「はっはっは! いや別に嬢ちゃんを疑っているわけじゃねーんだぜ? それに、どっちであっても、俺たちが嬢ちゃんを歓迎することには変わりねーぜ!」

「……ありがとう」

 

 予想外のうれしい言葉に、そう返事することしかできなかった。

 

 ……それにしても、いつの間にか呼び方が嬢ちゃんに戻ってるな。オレってそんなに見た目が男らしくないのだろうか……

 

(なあ、ルシファー(お断りします)まだなんも言ってねーじゃねーか!せめて最後まで聞けよ!)

(姿を変える理由が存在しません。それに私もその姿を気に入っているので、マスターの要望は却下します)

 

「ほら、嬢ちゃんも飲め!嬢ちゃんの歓迎会なのに、嬢ちゃんが楽しまないでどうする!」

 

 ……もう、どうにでもなれ……

 

 その後、性別のことを諦めたオレはやけになったようにお茶を飲み、盛り上がった会話は自分を含めた全員が寝てしまうまで途切れることはなかった。

 

 




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