知らない天井だ。
いや、よく見たら天井じゃない。頭だけがはみ出るように卓に突っ伏して寝ていたようで、視線の先は床だった。
頭だけを起こして、周りを見る。男は卓に突っ伏すように、女は床や卓の上で横になって寝ていた。
それにしても、昨日の記憶が朧だ。男性陣で話をしていたところまでは覚えているのだが、会話の内容といったものがさっぱりだ。
こういうとき記憶がない原因は大体酔いによるものだけど、酒は飲んでないしな。雰囲気酔いってやつか? いやでも雰囲気酔いで記憶って無くなるのか?
少し考えるが、早々にまあいいやと割り切る。こうして忘れるってことは別に対して重大な話をしていたわけでもないのだろう。
とりあえず体を起こそうとすると、背中に重みを感じた。見ると、赤スライムが寝ている。頭まで登ってこなかったのは、オレの体勢が体勢だったからかな。
赤スライムを横に退かして、今度こそ体を起こした。そういえば、緑がいないな。
さっき見たときはいなかったから、視て探す。すると、いた。ラピスに抱き枕にされながら寝ていた。
起こさなくていいか。
足音を立てないように歩き、こっそりと宴会場を出る。本日も天気は快晴で、洗濯物でも干したらあっという間に乾いてしまうだろう。
影の長さから推測すると、日の出から2時間ほどか。転生後は大体日の出とともに起きていたから、大寝坊もいいところだ。
さて、どうすっかな。
外に出たのはいいものの、特に何かをするとか考えていたわけではない。
そんなわけで、村をぶらぶらしてみることにした。昨日も見て回っていたが、全部みたわけではないし、それでも暇になったら森に行って一狩りすればいいだろう。
直進して右に曲がって左に曲がって。しばらく適当に歩いていると、ちょっとした広場に着く。そこでは、6人の子供たちが追いかけっこをして遊んでいた。
見たところ、全員が人間の足だが、女の子なのか?顔がどう見ても男の子なのもいたから、確信が持てない。
「あ、白いおねーさんだ!」
一人がオレに気付き、走り寄ってくる。そういえばこの子見たことがあるな、確か、宴会にいたはずだ。てか確か赤スライムに食べ物あげてたから、いたのは間違いない。
「おねーさん、こんなところでどうしたの? 赤ぷよは?」
赤ぷよ……スライムのことか。確かにぷよぷよしているから、合ってるな。
「ああ、起きたのはいいけど赤ぷよや他のみんながまだ起きていなくてね。暇だったからこうして村をみて回っているんだよ」
「だったらさ、一緒に遊ばない?すっごい楽しいよ!」
「うーん、そうだね。いいよ、何する?」
よくよく考えたら気が抜けないサバイバル生活をずっとしてきたんだ、たまには童心に帰って思いっきり遊ぶのもいいかもしれないな。
第一ラウンド……鬼ごっこ
アラクネの子供たちの足はかなり早かった。ルシファーに聞いてみると、100m10秒ほどらしい。この世界の人間にとっては、ある程度の鍛錬をしていれば出せる速さだ。ただ、子供でもこの速さというのはやはり魔物だからなのだろうな。
第二ラウンド……かくれんぼ
ぶっちゃけかくれんぼが一番大変だった。なにせつい最近ここに来たオレと、生まれたころから住んでいた子供たち、どちらに地の利があるのかなんて一目瞭然だ。おかげでオレが鬼になったときは、全員探し出すのに一時間近くかかって、最後に見つけた子なんて軽く寝ていた。魔力感知を使ったらすぐに終わっただろうが、遊びにそんな反則技を持ち出しても面白くないので使わなかった。
第三ラウンド……球落とし
ノーバンといったらわかりやすいかもしれない。何人かでボールを蹴り上げ、最初に落とした人や、あらぬ方向に飛ばした人が負けとなる、小学生とかがよくやっている遊びだ。
何回も勝負した結果、オレが落としたのは実に4割ほど。これは手加減をしたわけではなく、普通に下手だっただけだ。
ボールの落ちる位置はわかる。蹴るタイミングもわかる。わからなかったのは、ボールを上に蹴る蹴り方だった。
元々オレは運動神経がとてもいいとは言えないし、サッカーとか何かスポーツをしていたわけではない。知ってる蹴りなんて、こっちに転移してから習った体術くらいだ。人を蹴る蹴りで、うまくボールを蹴れるはずがない。だいたい変なところに吹っ飛ぶ。
おかげで散々な結果になっている。ただまあ、後半に多少は慣れてきたことで、4割に収まった。
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「疲れた~……」
現在の時刻はだいたい正午。流石に午前中遊び通したら子供たちの体力もなくなったようで、木陰で休んでいる。
「のどは渇いてるかい?」
オレがそう聞くと、こくんと頷く。
魔法を使って水を生むか。あ、でもコップがないな。取りに行くのは面倒くさいし……こうすれば問題はないか。
魔法で水球を生み出し、魔力制御の要領でそのまま空中に浮かせる。魔力とは違って実体だからか、少し難しいな。
「え……おねーさん! 水が宙に浮いてる!」
いきなり現れた水に、子供たちは大驚きしている。中には怯えた様子の子も。
「あ、ごめんごめん。あの水はオレの魔法だから、安心して」
「まほー? まほーってなに?」
「えっと、魔法っていうのは……」
アレ? 魔法って何なんだ?知ってるのが当たり前だから、説明が思いつかん。
(魔法とは、生命体が魔力を介して……)
待てルシファー、そんなオレが理解できなさそうな模範解答子供に言ってもちんぷんかんぷんなだけだろ。
「……魔法っていうのは、今みたいな不思議なことのことだよ」
そうそう、こんな感じの回答なら子供たちにもわかるはずだ。
実際、子供たちは「へ~~」といった感じに水球を見つめていた。
「……ってアレ?」
今の、誰の声だ?
咄嗟に後ろを振り向く。そこに立っていたのは――
「……どうも、一昨日ぶり」
オレが助けた3人組のうちの一人、黒髪が立っていた。服装は相変わらずで、見ているオレの方が暑くなりそうだ。
「……いつからそこに?」
「……ついさっきから。あなたが子供たちと休んでいるのを見て気になった」
答える声は、どこか眠そうな感じがする。初対面の時はテンションが高かったけど、こっちの方が普段なのだろう。
「……あなたに用があって探していたし、ちょうどよかった」
「オレに用?」
「……うん。まずはお礼。助けてくれて、ありがとう」
「……助けたのはたまたまだって」
「それでも助けてくれたことに変わりはない」
「……まあ、受け取っておくよ。それで、他の用ってのは? “まず”って言ってたんだから、あるんだろう?」
「先に言われた……まあいいけど、一つお願い」
彼女が口にしたお願いとは――
「私の武器を、作ってほしい」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
10分後、【狩人】の集会場にて。
昼頃だからなのか、オレたち以外誰もいない。
「それで、どんな武器がいいんだ?」
「私より長くて、横幅も私以上に広い剣」
え? つまり大剣ってことか? しかもロマン武器方面の。
「……もしかして、できない?」
「ああ、いや、ちょい驚いただけだ。なんていうか、体格的にそういうの使うのはあの……髪が赤色の方かと思ってさ」
「……それが普通なの?」
「いや、ただのオレの偏見だ。気にしなくていい」
「なら、できそう?」
「うーん、試してみないとわからないな」
剣のくくりに入っていれば『創剣』で作り出せるはずだが、オレが確信できなかったのはオレの魔力が持つかという点だ。
『創剣』の消費魔力は、創るものの性能、そして体積によって変動する。今まで作った剣って細身な奴ばっかりだから、大剣を作るとなると10倍以上の魔力を使うことになりそうなのだ。
「今から素材もらってくるから、それで試してみて」
そういうと黒髪はあっという間にどこかに行った。いきなりすぎて、止める暇もなかった。
素材って、別に必要ないんだよな。あ、でも黒髪に言ってなかったから、オレのミスか。あとで謝っておこう。
というか試すって言ったけど、『創剣』ってあまりむやみに試せる能力じゃないんだよな。消費が大きいから、一日に何回も使うことができない。
(なあルシファー。今のオレの魔力は大剣を創るのに十分か?)
とりあえず、オレよりもオレの体に詳しいルシファーに聞いてみた。
(マスターの構想通りのを創るのなら少々危険、といったところでしょう)
危険かあ……ここならそんな危険が沸いてくるようなこともないと思うけど、念には念を入れて魔力は残したい。
(制御能力がもう少し高ければ魔力も十分な量余るのですが……“解放”を行えば、十分な域にまで達することが可能です
(……アレはいやだな……)
“解放”というのは、神格の能力を完全に引き出すためにリミッターを解除すること、らしい。正確なことはオレが理解できなかったが、おそらく認識としてはあっているはず。
“解放”すると、人それぞれのメリットとデメリットが発生する。詳しいことは省くが、むやみに“解放”を使うことはしたくないとだけ言っておこう。
性能を落とすのは論外だ。
しかし困ったな……いっそ後で森に出て一狩りするか? 魔物の核でもあれば、それを魔力に還元できるんだが……
あ、そういえば黒大蛇の核まだ取り込んでなかったっけな。あれなら十分な量の魔力を補充できるはず。
「……お待たせ」
少し待つと、黒髪が両手で大量の素材――大半が骨で、少し皮らしきものもあった――を抱えて戻ってきた。
「何が必要?」
「ああ、実はオレの能力で作るから、素材は必要ないんだよ。わざわざ持ってきてもらったけど、ごめん」
「能力?」
「あー……説明難しいな。とりあえず見ていてくれ」
「わかった。」
そういって黒髪は抱えていた素材を地面に降ろす。そして、オレの横に正座で座った。
さて、始めるか。
体内にある魔力を意識し、突き出した手のひらから放出。同時に放出した魔力が剣の形をとるよう制御した。
この時点では、まだ肉眼では見えない。そのため横の黒髪もすでに創り始めているとはわからず、まだかまだかとそわそわしていた。
少しすると、ぼんやりと見えるようになった。黒髪がそれを見た途端、当たるんじゃないかというくらいに顔を近づけてそれを凝視する。
5分ほど経つと、ぼんやりとした剣の輪郭もはっきりしたものへと変化しており、例えるならガラスで作った剣、といったところだろう。
完成までもう少しというところで問題は、突如起こった。
「ッ!?」
背中に衝撃が入り、吹き飛びかける。剣に集中していたせいで、全く気づくことが出来なかった。
咄嗟に地面に手をつき、ロンダートの要領で前に回りながら後ろを向く。敵である可能性もあったため、手にあった大剣をいつでも振れるよう構えた。
が、それは杞憂となる。
いたのは、敵などではなかった。驚いたような顔のラピスと、その腕に抱えられてダラーっとしてる緑のスライム。そして、ついさっきまでオレが立っていた場所で赤いスライムがぴょんぴょんとはねていた。
…………なるほど。状況から察するに、オレにぶつかってきたのは赤の奴か。こりゃああとでとっちめる必要があるな。
「……びっくりした。」
全然驚いてなさそうに、黒髪がそう漏らす。
「えーっと……ごめんなさい!」
ラピスはそういって、頭を下げた。
「目が覚めたときに白髪さんがいなかったので、この子たちと一緒に探していたんですが……まさか、見つけた途端飛び込むなんて……」
「あー、いやラピスは悪くない。全部こいつのせいだし、何なら教育できてなかったオレの自業自得でもあるから、気にすんな」
(申し訳ありません、マスター。接近は察知していたのですが、かなりの近距離だったため警告が間に合いませんでした)
いや、ルシファーのせいでもないな。完全に赤の奴が悪い。後でとっちめておく必要があるな。
「……ところで、それってもう完成?」
黒髪のその言葉に、一瞬何のことかわからなかったが、すぐに剣の話をしているのだとわかる。
「いや、多分失敗し、た? アレ?」
タックルされたことで魔力制御は確実に乱れたから、ギリギリの魔力で作りかけていた大剣は魔力に戻って霧散しているはず……手に持っているこの大剣はなんだ?
そして、もう一つ違和感を感じる。黒髪の運んできた素材、結構な量あったそれは一部が、具体的にはオレが地面に手を付けたあたりにあったものがぽっかりと無くなっていた。
「え……失敗? その剣が?」
首をかしげる黒髪。声音には少々驚きも入っていた。
改めて、手に持っている剣を見てみる。
左右非対称、片刃の刀身は白く非金属的な、骨に近い色をしている。中心に一つ、剣先よりの方に一つ直径10センチほどの穴が開いており、爬虫類の頭蓋骨のようにも見えた。
剣が素材を取り込んだ? 状況からして、そうとしか考えられない。
いや、考えるのは後回しにしよう。
「いや……多分完成だな。試して見てくれ」
そういって手渡す。黒髪はそれを軽く振ってみたり叩いてみたりしていると、表情が見る見るうちに驚愕したものへと変化していった。というかあの体でよくそんな大剣が振れるもんだ。
「……ちょっと試し切りしてく。」
いうが早いか、あっという間に出入り口から出てどこかへ走り去った。
取り残されたオレとラピスは唖然としてしまい、奇妙な沈黙が生まれていた。最もスライムには及ばず、動かないオレをこれ幸いに頭へ上ってくる。
「すまない、ここに……あれ、白髪殿じゃないか」
突然背後から声が聞こえた。見てみると、後ろにいたのは、オレが助けた最後の一人、少しだけ話題にも出てきた赤髪だった。
「一昨日ぶりだな、昨日の宴会は楽しんでいただけたか?」
「あ、ああ。それなりにな」
「そうかそうか、それは何よりだ!」
あっはっは、といった感じに赤髪は笑う。
「と、そうだそうだ。あいつを見なかったか?」
その言葉はオレに向けられたものではなく、ラピスがそれに答える。
「さっきまではここにいたんですが……白髪さんが持っていた武器を受け取ったら、いきなり『試し切りしてくる』って言ってどこかに行っちゃいましたよ」
「武器?」
「ああ、オレが作ったんだよ。アラルさんとも武器を提供するって話はしていたし」
「……なるほど、全くあの武器馬鹿は……今日は守りの日だというのに勝手に森に、それも1人で行くとは……」
そういって赤髪はこめかみに手を当て、ため息を一つ。
だがその赤髪の様子よりも、一つ気になったことがあった。
「守りの日?」
「ああ、白髪殿が知らないのも無理はない」
そして赤髪は【狩人】たちの決まりごとについて説明してくれた。
重要なのは
森に行くときは複数人で行くこと
森に一日狩りに行ったら次の日は休み、その次の日には村の守りを行うこと
村の守りの間、基本的には森に出ないこと
この3つだ。黒髪思いっきり破っているじゃないですか。
「いつもはしっかりしているのだが、ホントにこと武器に関係するとな……」
「あはは……そういえば、ラピスはここにいて平気なのか? 一緒に森にいたのだから、今日は同じ村守りの日じゃないのか?」
「まあ、私はちょっと他の人と戦い方が違いまして……」
「え? そうなの?」
「まあ、その分あたいたちにできないことをやってもらってるから、かなり助かってるよ。……ところで白髪殿。あたいからも一つだけ頼みがあるのだが、聞いてもらえないだろうか?」
うん? なんだ?
「その、だな……あたいの武器も作ってほしいのだ」
ああ、そういえば大蛇相手に壊れたんだっけな。
「かまわないけど、今日は無理だな。さっきの一本で魔力が尽きた。明日なら創れる」
「……そうなのか。明日は狩りの日だからできればその前に作ってほしかったのだが……」
「ああ、大丈夫。十分ほどで終わるから」
「そうなのか? なら、明日の朝にまたここに来てくれ!」
オレがコクリと頷くと、赤髪は入ってきた裏口から出て行った。心なしか、少しうれしそうに見える。
部屋の中は再び二人だけとなる。
「そういえば、ラピスの武器は壊れていないのか?」
「私のですか……壊れてしまっていますね。ただまあ、あまり戦うことはないので、ありあわせでも大丈夫ですよ」
「ふーん……ちょっと気になったんだけどさ、ラピスってどんな戦い方をするんだ? あの二人のはだいたい察しがつくんだけど、それと違うって言ってたからさ」
「うーん……正面から戦わない、といえばいいんでしょうか? 糸を使って罠を張ったり、死角から投げナイフで攻撃したり……」
わーお、邪道寄りの戦い方だったよ。いや、別に邪道はいけないってわけじゃないよ?つーかオレだって不意打ちで一発の戦い方好んでるし。
それにしても、投げナイフか。生前は使っていた投げナイフも、転生してからは全く使わなくなったな。 まあ、単純に必要なくなっただけだが。
今の身体なら、剣一本でたいていの魔物は倒せるからな。
と、オレの話はどうでもいい。
「……いざというときのための武器くらいはあったほうがいいな。一つくらい作っとくか」
「え? いや。必要ないですよ。いざというときの武器ってほとんど使うことないと思いますし、白髪さんの負担になっちゃいます」
「いや、全然負担はかかんないんだけどな……そうだな、剣を創ることで一つだけ試してみたいことがあったから、それでできたものをあげるってのは?」
試してみたいっていうのは本当だ。大剣に起こった現象、それが偶然だったのか必然だったのか、それによって剣に出た影響など確かめてみる必要がある。
「それでしたら……ありがとうございます」
そういって頭を下げた。
ふと、アラルの言葉を思い出す。彼女曰く、出自が少々特殊。ラピス敬語はそれによるものなのだが、この気遣いもそうなのだろうか。
2日間で、オレはいろいろなアラクネと関わっているが、あまり遠慮をしないなと感じている。もちろん悪口ではない。なんと表現すればいいのかよくわからないが、オレはそんな彼らの性格が好きだ。
ただ、ラピスの性格は彼らと違ってどちらかというと……
そこまで考えて、頭を振る。世話になっているとはいえ、オレは部外者だ。プライベートなことをどうこうできる立場じゃない。
「ところで白髪さん、今日も村を案内しますか? 正直な話、あまり行くところはないんですが……」
結局その後、村の中を再びブラブラして、再び会った子供たちと夕方まで遊んで、その日を終えた。
読んでいただきありがとうございます
ところで全く関係ないんですけど、10部のアクセス数が異常に多いのはなんででしょうかねえ……