召喚勇者は死にました   作:黒桜@ハーメルン

17 / 37
16 アラクネ達と初めての――

 翌日、まだ東の空も明るくならないうちに起きた。外は真っ暗であり、こんな時間帯に活動するのはオレを除いて夜行性の魔物くらいだろう。スライムたちも起きていない。

 

 扉を開けて、外に出る。なにも見えないが、魔力感知を使えば問題ない。そのまま音を立てないように、森に入った。

 

 さて、なぜオレがこんな時間に行動しているのかというと、昨日言っていた能力の実験を行うためだ。一応、知っていそうなルシファーにも聞いてみたが

 

(私も初めて知りました。咄嗟に解析はしたのですが、時間があまりにも短かったので詳しいことは何も)

 

 とのことだった。まあ、逆に言えば解析できるから、実験で詳しいことがわかるのは間違いない。

 

 200メートルほど歩いただろう。ここらへんなら、ある程度物音が出たとしても誰かが起きるということはないはずだ。

 

 まずはシンプルなナイフを一本、小さいのと性能をうんと落としたことによって少ない魔力で生み出せた。

 それを使って、木の幹を切ってみる。ついたのは、かなり荒い傷だった。

 試しに手で触っても切れない。せいぜいペーパーナイフほどの切れ味だ。

 

 次に、物を混ぜてみる。幸いにも、過去にオレが狩った魔物のほとんどはスライムたちの餌となっているが、骨や牙といった食べられない部位は残っていた。

 適当に一本の骨を取り出し、創りかけのナイフに触れさせてみた。

 

 振れた端から、骨が消えていく。30センチの骨の半分ほどが消えたところで、短剣は完成した。

 色は、やはり骨のように白い。形も、なんというか、ワイルドな感じになっている。

 

 作るときのイメージを変えたわけじゃない。どうも、物質を混ぜると混ぜたものに性質が引きずられるようだ。まあ、オレが創るものなんてヨーグルトのプレーンみたいな形ばっかだし、バリエーションが出ていいかもしれないな。

 そして――

 木の幹を切ってみると、ついた傷の粗さは減っていた。

 多少性能の上昇もあるようだ。

 

 それからも、色々な素材を混ぜたナイフを創っては試し、創っては試しを繰り返した。

 

 数十本を創ったところで、ある程度のことが分かった。

 ルシファーの解析結果と合わせてまとめると

 

 創り途中ならば物質を剣に取り込むことができ、その性能は取り込んだ物質のみで作られる剣の性質を下回ることはない。また、意識すれば体積以上の物質を取り込むこともでき、その場合頑丈さが上がっていた。

 

 例えば、土や木材を取り込んでもゴミ性能な剣しかできないし、魔物の素材、特に強力な魔物ほど性能は良くなっていた。ルシファー曰く、魔素を多く含んでいるほうがよりいいものになるらしい。魔素の塊である核を混ぜたらどうなんだろうって気になるが、持ち合わせがなかったのでまたの機会に試すか。

 

 さて、できることはほとんどやっ――てない、まだラピス用の武器を作っていなかった。

 

(うーん、何で作ろうかな)

 

 アイテムボックスを開いて、よさそうなものを探す。

 結局、湖の畔で見つけた氷晶を使うことにした。

 この氷晶は氷の結晶のことではなく、この世界の魔法金属の一種。ちなみに魔法金属とは魔法的な性質を持つ金属のことでありこの氷晶の場合、魔力を流すことで周囲を冷却する性質を持っている。ソースはルシファー。

 

 まあ、素材としては申し分ないだろう。能力を発動し、ちゃっちゃと創る。

 できたのは、藍色の透明な短剣だ。

 

(解析した結果、また新しいことが判明しました)

 

 うん? 新しいこと? 

 

(はい。どうやら素材が魔力的性質を持つ場合、それが剣に受け継がれるようです)

 

 ほう。てことは

 

 短剣に魔力を流し、水に触れさせてみる。かなりの速さで水は凍っていった。

 

 こいつは面白いな。

 

 さて、今度こそやることがなくなったから戻るとしよう。まだ東の空がわずかに明るくなったかといった時間だけど、早い人はもう起きているかもしれないな。

 

 来た道をそのままに、ログハウスに帰る。隙間から灯りが見えたから、どうやらラピスはすでに起きているようだ。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「あ、白髪さん。こんな朝早くにどこ行っていたんですか?」

「まあ、ちょっとね。というか、まだ明るくもなっていないのに、起きるの早いな」

「…………昔からの癖でして」

「ふーん、まあ悪いことじゃないか、早起きは三文の徳っていうし」

「三文の……? どういう意味でしょう?」

「早起きするのはいいことだって意味だよ。オレのいたところのことわざ……言い回しだ」

 

 そういいながら、ハンモックに腰かける。ちなみにオレは早起きしない派だ。三文って現代日本の通貨に直すとだいたい100円もいかないらしいから、だったら寝ていた方がましだ。

 

「ことわざ……ですか。不思議なものですね」

「不思議なのかねぇ? あ、そうだそうだ」

 

 アイテムボックスを開き、さっき創った短剣を取り出す。

 

「ほい、昨日言ってたやつな」

「昨日……あ、武器を作っていただけるという話のですか?」

「そうそう。扱いやすい短剣にしたけど、よかったか?」

「はい。ありがとうございます。……きれいですね」

 

 オレが渡した短剣を眺めて、ラピスがそうこぼした。

 

「あ、そういやそれちょいと面白い性質ついてるんだよ」

「面白い性質ですか?」

「ああ、その短剣魔力を流すと周囲を冷やすんだよ」

「魔力?」

 

 あ、やっべ。

 

「ごめんごめん。魔力ってのは……」

 

 よくよく考えてみると魔法そのものがあまり知られていないのに魔力なんて用語が通じるわけがないな。

 

「……よくわかりませんが、魔法の元、ということですか?」

「うーん、まあそれで合ってるよ」

「ふーん……ところで、その『魔力』とやらはどうやって流すんですか?」

「あ、あー……」

 

 結局、ラピスに魔力操作について一から教えることになった。

 

 

 太陽がそこそこ高い位置まで登ったころ、オレ達はログハウスを出た。

 日の出から二時間ほどだろうか? どうやら狩りは朝一に始めているわけではないらしい。まあ確かに初日に集会所に行ったのは日の出3時間後くらいだったけどアラクネ達は出発前だったな。

 

 ラピスはこの3時間ほどで、すでに魔力操作がかなりのレベルになっている。魔力の放出、調整はお手の物で体外に出した魔力の操作もある程度が可能になっていた。わかりやすく言うと、オレの一か月間の努力に3時間であっさりとたどり着いたということだ。

 そして驚くことに、ラピスは生まれつき魔力感知ができるらしい。放出した魔力を指さして「見えるか?」って聞いたらあっさりと「見える」って返された。わかってたら魔力の説明もする必要がなかったってのに……

 そういえば、そのあとにラピスに「魔法を教えてほしい」って頼まれたな。オレとしてはかまわないのだが、アラクネには魔法の適正はあるのだろうか? 

 

(個体によって違います。アラクネにも“種”は宿るのでそれに左右されます)

 

 え? そうなの? てっきり人間にしか宿らないのだと思ってたわ。

 

(実際のところは知性ある生物なら宿ることが出きます。というか、その論理ですとマスターに私が宿ってることがあり得ないことになりますよ?)

 

 いや、オレ元人間だし、というかすでにルシファーとして覚醒してるし。

でも困ったな。こんなところに鑑定の間みたいな場所ってあるわけないから調べられないじゃないか。

 

(多少大雑把になりますが、可能です)

 

 流石相棒。帰ったら早速やるか。

 

 そんなやり取りのうちに、集会場に着いた。ちなみに赤スライムはいつも通りオレの頭上にポジショニングしてるが、緑はラピスの懐に収まっている。よっぽど懐いているみたいだ。

 

「おはようございまーす」

「おはようございまーす」

 

 布をくぐりながら挨拶をする。

 

「おお、おはよう」

「白髪ちゃん、おっはー!」

 

 中にいたのは赤髪とそのほかに三人がいた。全員知った顔である。

 

「早速で悪いのだが、武器の方を頼めるか?」

「ああ、大丈夫だ」

 

 そう答えると赤髪はそそくさと裏口から出て、すぐにくそでかい袋を引きずって戻ってきた。予め準備でもしてたのか。

 

「こいつらを使ってくれ」

 

 袋の中身は、大量の素材。それも昨日黒髪が持ってきた量の二倍はある

 

「……多すぎない?」

「白髪殿の武器作りはどれくらい使うかわからなかったのでな。それに実のところ、あまり使うことが多くないからどんどん溜まってく一方なんだ」

「そうなんか……ところで、どんな武器がいいんだ」

「ああ、言ってなかったか。あたいは双剣だ。ただ、短い剣じゃなくて、長剣の二刀流といったほうがわかりやすいかもしれない」

「なるほどな……」

「この材料で作れそうか?」

 

 若干心配そうに聞いてみる。

 

「問題ない。あの黒髪の剣を創ったんだぞ?」

 

 そういうと、赤髪が安心半分呆れ半分といったような表情をして笑った

 

「はっはっは……あの後あいつに見せてもらったが、確かにアレが作れるのなら大丈夫だな」

「ははは……もう始めちゃってもいいか?」

「ああ、大丈夫だ」

 

 許可も出たので早速素材を選び始める。魔素を含む方がよりいいものができるので、魔力感知による選別だ。

 

 最終的に使う素材は元の3分の1ほどの量になったが、軽く長剣4本分の体積はある。

 

 さてと、準備は整った。

 

 『創剣』を発動。右手から出た魔力が剣の形、オーソドックスな長剣の形を取り始める。どうせ素材を混ぜたら変わるのだからここでこだわる必要はない。

 

「おおお…………」

 

 黒髪、ではなく他にいた二人のだ。限界まで顔を近づけて凝視してくる様子はひどく既視感がある。

 ……こいつらも愛好家か……宴会の時じゃ普通だったから気づかんかった

 

「すまない、彼女たちは白髪殿の能力をぜひ一度見てみたいって言ってきかなくてな。邪魔なら引っ張って出すが……」

「いや、問題はない。ただ触らないでくれよ? 何が起きるかわからないし下手したら顔を持っていかれるかもしれない」

 

 朝の実験では生き物までは試していない。ていうかまず生きたまま素材にすることとか基本ないだろ。

 

 オレの忠告に二人は首を縦にぶんぶんと振った。それでも顔を遠ざけたりしないところに二人の本気を感じる。

 

 数分経つと剣の形が安定してきたので、空いている左手で素材を適当にとって剣に混ぜた。

 

「「「!?」」」

 

 これには、愛好家二人だけじゃなく赤髪も驚いている。やはり骨が粉になって消えていく様子は摩訶不思議なのだろう。

 

 あっという間にすべて取り込まれたので、左手でどんどん追加していく。最終的に選別した素材の半分ほど取り込んだところで剣を完成させた。

 

 一メートルほどの細い刀身。大黒蛇の鱗も混ぜたのでいろは黒になっているが、形状はやはり予定とは違いワイルドになっている。

 

「……もうできたのか?」

「片方だけだけどな」

 

 同じ作業を繰り返し、ちゃっちゃともう片方も創る。

 

 だいたいの形は同じだ。が、やはり細かい差異がいくつもある。二つ一組で扱う双剣としては少々まずいかもしれない。まさか形が勝手に変わることにこんなデメリットがあったとは……

 

「……一応、できたな」

「何か問題でも起きたのか?」

 

 赤髪が不思議そうに聞き返してきた。

 

「見た通り、同じ形にできなくてね。……とりあえず振って見てくれ。なんか違和感を感じたらまた作り直すから」

 

 そういって、ポーンと投げ渡す。

 

「どう見ても同じに見えるのだが………………というより、あたいたちは武器を手作りしてるから同じ形の物なんて使うことないぜ?」

「それもそうだが……武器は万端な方がいいだろ?」

「ははっ。確かにそうだな」

 

 赤髪は陽気に笑うと、その場で構えた。ちょ、室内でやるのかよ!

 

 そんなオレの内心を赤髪が知る由もなく、“試し振り”を始めた。

 横に切り、縦に切り、突き。時には両手同時に、時にはバラバラのタイミングで仮想的に対して攻撃をしている。武道の型みたいなものでもあるのだろうか? その動きは洗練されており、まるで演武のようであった。

 

「……ふう」

 

 思わず見とれているうちに演武が終わった。一応幸助の双剣術も見たことはあるのだが、ここまできれい、というか洗練された感じではなかった気がする。

 

「で、使い心地はどうだった?」

「問題ない。むしろ今までで一番使いやすいほどだ」

「それならよかった」

「ねえ、それが新しい剣? 「なにそれかっこいい!「というかさっきのもう一回やって!」」」

 

 会話が途切れた瞬間、赤髪に大勢の人が群がった。剣の製作途中か、演武途中に来たのだろう。

 

 結局、赤髪が解放されたのは一時間ほど経った後だった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「……私も呼んでほしかった」

「寝坊したお前が悪い」

 

 黒髪の拗ねたような愚痴を、赤髪がばっさりと切り捨てる。赤髪解放五分前に集会所に来た彼女は、オレの刀剣製造を(もう一度)見たかったらしい。

 

「……寝坊じゃない。いつもあの時間だから」

 

 どうやら常習犯のようだ。

 

「はいはい、ならいつもから早起きしましょうね」

「……むぅ」

 

 ラピスの正論に、ぐうの音は出ないようでそう唸った。

 

 

 黒髪も合流したことにより、オレと3人は森に出ていた。もちろん、狩りである。3人もずっと狩りをしているから別にオレがいる必要はないのだが、「一緒に行こう」って誘われて断るほどオレは無粋じゃない。

 ちなみにもちろんのことスライムたちも一緒である。相変わらず赤スライムはオレの頭上、緑スライムはオレの懐だ。

 

 しかし、魔物がいない。かれこれ20分ほどは歩いているはずなのだが、オレの魔力感知に一体も引っかからない。

 3人は周りを警戒していないように見えるから、いないのが自然なのだろうか? 

 

 だがオレのその考えは、次の瞬間間違いだと知る。

 

「……いました。向かって右斜め方向に3匹」

 

 突如、ラピスがそうつぶやいた。

 

「え?」「距離はどれくらいだ?」

「400メートルほどです」

「了解だ。ああ、白髪殿。こいつは特殊な技能を持っていてな、遠くのことがよくわかるらしい」

「ほら、朝に白髪さんが『魔力感知』って呼んでいた能力ですよ。いつもはこういう風に使っているのです。」

 

 驚いた。

 いやホントに驚いた。なにに驚いたかというと、生身の脳なのに『魔力感知』で広範囲を見れることに対してだ。

 

 魔力感知で収集する情報はハイスぺなこの体ですらルシファーの補助がないと処理が追い付かないほどの量。それを生身の脳で処理しきるとか、どんな頭してんだ。

 

(おそらく、視る範囲を境界線ギリギリに集中しているのでしょう。それでも常人では処理しきれる情報量ではありませんが)

 

「それにしても驚いたな。前まではせいぜい300mまでじゃなかった?」

「そうなんですよね……白髪さんのおかげでしょうか?」

 

 いや違うだろだろ絶対。オレがしたことなんて魔力操作を教えたくらいだぜ? 

 

「……おしゃべりはそこまで。行くよ」

 

 黒髪のその言葉に、二人が気を引き締めた。赤髪を先頭に一列縦隊をとると、ラピスの指し示す方向に走りだした。

 

 1分ほど走ると、オレも魔物の存在を感知する。大きさは一メートルほど、体型は太く短い蛇のような魔物――たしか、アースワームだっけな――が3匹。たいした相手ではないが、オレとしては相手したくない魔物だ。

 

「キシャァァァァァァァァァァァ!!」

 

 なんせ、超キモイ。短い胴体には口以外のパーツが何もなく、その口もナツメウナギのようでとにかくキモイ。さっきは短い蛇といったが、芋虫といったほうが表現としては正しいかもしれない。

 

 だがそんなキモイ魔物であろうと、獲物には変わりない。ラピスを除いたオレ達三人はそのまま突っ込む。

 

「はああ……!」

 

 二人の見事な連携に、アースワームは一分も耐え切れずその命を失った。

 

「残りにひ……き……」

 

 連戦に身構えていた赤髪は、オレの方を見て言葉が続かなかった。

 

「……さすがね」

「うん? いやまあこいつらあの時の蛇より何段も弱いし、大したことじゃないぞ?」

 

 残りの2匹は、オレがすでに狩っていた。実際こいつらは動きも鈍重だし、体が硬いってわけでもないから苦戦する理由がないんだがな。

 

「……まあ、白髪殿がすごいのはみんな知ってるからいいとして。血の匂いで他の魔物が寄ってくるから、こいつらを解体して早く離れよう」

「ん? 解体?」

「ああ、何か問題が?」

「いや、オレの魔法があるから必要ないんじゃないかって思ったんだよ」

 

 そういうと、一瞬赤髪ははてなマークを頭上に浮かべるが、それはすぐにビックリマークになった。

 

「……ああ! そういえばそうだったな。頼めるか?」

「勿論」

 

 アイテムボックスを開き、念動力で地蟲を持ち上げて中にぶち込む。青い体液がべっとりついててマジで触りたくない。過去に狩ったときもほとんど使っていない『操剣』を使って解体したほどだ。

 

「ところで気になったんだが、解体したものはどうやって持って帰っていたんだ?」

「私が袋を作って、そこに入れて持って帰ってました」

 

 へえ、糸で作る袋ね。なんかすごい蜘蛛っぽいな。

 

「さて、いつもは収穫を置きに一回帰っているが……白髪殿、このまま狩りを続けても平気か?」

「ああ、問題ない」

 

 もとより一日中の狩りには慣れている。

 

 再び森の中を獲物も留めて歩きまわる。が、なかなか獲物が見つからない。いや小さな魔物であればちょくちょく見つかるのだが、食えないやつだったり狩ってもうまみが少ない奴ばっかりであった。

 

 そして昼も過ぎて太陽が傾いたかなーって感じる時間帯。ラピスが一匹の魔物を感知した。

 

「……いました。ここから前方に一匹、かなりでかいです」

 

 ちなみにラピスの感知じゃあ魔物の形まではわからないらしい。

 

「それと、かなりの速さでこちらに向かってきています。」

「なるほど……待ち伏せをした方がいいな。アレを頼むぞ」

 

 アレ? 

 何のことかわからないオレだったが、どうやらラピスに対しての言葉だったらしい。

 

 服の裾から蜘蛛の脚を出すと、糸で何やら作り始めた。そしてできたそれを、近くの木の根元に張り巡らせる。

 

「今何やってるんだ?」

「……罠を張ってる」

「ああ、なるほど」

 

 確かに、待ち伏せするなら使うべき手段だな。しかし、糸の罠ってますます蜘蛛っぽい。

 

「終わりました」

 

 まだ一分もたってないのに、すでにスタンバイできたようだ。

「それじゃあ、誘導は頼んだ。白髪殿、私たちは獲物が罠にかかったら強襲する」

 

「了解」

 

 オレの返事を聞くと、赤髪は罠の真上の木の上に登る。上からの攻撃をするようだ。

 オレは、多少遠くの木の幹に待機することにした。大黒蛇を倒したときと同じようにやる算段である。

 

 十秒ほどで、魔物がオレの感知範囲に侵入する。

 

「こいつは……」

 

 その姿を視て、少々驚いた。

 形はほとんどただのトカゲと同じだ。だがその大きさは優に5メートルを超えており、そして何よりその頭には巨大なとかさがついていた。

 

(確か……バシリスクといったっけな?)

 

 名前と特徴は知っていたが、視るのはこれが初めてだ。

 バシリスクは、竜に最も近い魔物だと言われている。その姿もさることながら、一番の理由はその戦闘力だ。

 竜種で一番弱い魔物はヒュドラだが、そのヒュドラとほぼ同格らしい。ならなぜヒュドラだけ竜種に数えられているのかというと、その個体数の少なさだ。

 少ないゆえに、危険性は多少低くなる。それなら個体数も多いヒュドラを竜種としてカウントすることで、注意を促そうと考えたのだろう。

 

(……ま、オレにとってはどうでもいいことだ。石化能力を持っているらしいけど、一発で仕留めるから関係ないな)

 

 身を潜め、じっと接近を待つ。

 

(……ところで、なんでコイツは走っているんだ? あんな遠くからじゃあ、オレ達の匂いを感じたとは思えないし……)

 

 ふとそんな疑問が頭をよぎるが、バシリスクが見える距離まで接近してきたのですぐに思考から消えた。

 

 PI―――――――――――!

 

 黒髪が口笛を吹いた。それに気づいたバシリスクは餌を見つけたとばかりに進路を変え、一直線に向かって行く。

 

 罠にかかるまであと5秒、4、3、2、1

 

「ギュルゥゥゥ!?」

 

 バシリスクが転んだ。ラピスの作った罠は足に糸を絡ませるもののようで、抜け出そうと必死にもがいている。

 

 その上から赤髪が飛び降り背中に一撃を加えた。突然の痛みに、バシリスクはさらに激しくもがき始めた。

 

 正面に立っていた黒髪が、頭に大剣で一撃を加える。が、暴れているため直撃はせず深い傷を与えただけとなった。

 目の前の小さい生き物に攻撃されたことに気付き、バシリスクはそれを初めて敵だと認識した。

 首をもたげ、その口を開く。こんな矮小な生物、石化ブレスを放てばたちまち死ぬだろう。

 だが、ブレスを吐くことはできなかった。放つ直前に、オレがその動きのなくなった首を両断した。

 

「……ナイスタイミング」

 

 剣で防御態勢をとっていた黒髪は、サムズアップとともにそう言った。

 

「それにしても、こいつは何なのだ? 始めて見るな」

 

 へえ、やっぱりここら辺に住処があるわけではなさそうだな。ならなんでこっちまで来たのか……待てよ? こいつは走っていた……急いでいた。何故急ぐ必要があった? 

 

「おーい、白髪殿。とりあえずこれの収納を頼んでいいか」

「ん? あ、ああ。わかった」

 

 念動力で持ち上げ、下に開いたアイテムボックスに落とし入れた。

 ……あれ、何考えてたっけ? ま、いっか。

 

「にしても、ラピスの糸ってすごい丈夫なんだな。こんなでかいのが暴れても切れないなんて」

「いえ、いつもは結構早く切れるのですが……魔力を込めてみたからでしょうか?」

「え? 魔力を込めた?」

「はい。なんとなく丈夫になるような感じがして試してみたんっですが……何か問題でもありましたか?」

 

 驚いた。今日は驚いてばかりだな。

 無色魔法には『強化リインフォース』という基礎魔法があって、それは今みたいにものに魔力を流して強化する基礎的な魔法だ。だけど教えていないのになんとなくでそれを使うとは……

 あれ? でもラピスって糸にずっと触れていたっけ? ……まあ、いいや。

 

 

 そのあとも森の探索を続けたが、バシリスクがいたせいか魔物が全く見つからなかったので村に帰ることにした。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 すっかり日の落ちた村の中を、満足したような顔のラピスと疲れたような顔をしたオレが歩いている。

 

 

 村に帰った後。オレ達は集会所に向かった。今日が狩りの日の人たちはすでに帰ってきており、オレ達が入ると今日の成果はどうだったのかを聞かれた。

 疲れた原因はそのあとだ。オレが今日の成果であるワーム三体とバシリスクを出すと、アラクネたちが沸き上がり、色々と聞かれたあげく何故か宴会が始まったのだ。

 

 そこからは一昨日と同じく、アラクネ達に甲斐甲斐しく世話され続けたってわけだ。しかも今回は男性たちがいなかったので、逃げ場所すらない。結局のところ、宴会が終わるまで耐え続けるしかなかった。

 

 

「白髪さんどうしました? そんな疲れたような顔をして」

「いや……大丈夫だ」

 

 ちなみに満足そうなのは、ラピスだけではなくスライムたちもだ。今は赤スライムはオレの頭上で、緑はやはりラピスの懐でぐっすりと眠っている。こいつらが消費した食料は実にワーム二匹分、今日の成果の半分ほどであった。そりゃ満足するわな。

 

 ログハウスの扉を開け、中に入る。

 

「さて、ラピス。今朝お前はオレに魔法を教えてほしいって言ったな」

 

 ハンモックに座り込んで、オレはそう切り出した。

 

「はい。……何か問題でも?」

「いや、ちょいと魔法を教える前に調べることがあってね」

「調べること?」

「ああ、ラピスの魔法適性を調べる」

 

 オレの言葉に、ラピスは途端に心配そうな表情になった。

 

「あ、適正が全くないって人はむしろ珍しいから大丈夫だと思うぜ?」

「そうなんですか……お願いします」

 

 安心させようとするも、ラピスの表情から不安は消えない。まあ確かに、珍しいからと言って自分がその珍しいにならない保証はないからな。オレがそのいい例だ。

 

(さて相棒、どうすればいいんだ?)

(まず楽になれる姿勢になってもらってください)

 

「とりあえず、横になってくれ」

 

 素直にハンモックの上に寝るラピス。

 

(胸に手を当てて、ラピスさんの体内を循環するように魔力を流してください)

 

 む、胸か……いや、オレに下心なんてないから問題はないはずだ。

 

「今から魔力を流すから、苦しかったら行ってくれ」

 

 ラピスが頷くのを確認してから、オレは魔力を流し始めた。

 

「んっ……」

「大丈夫か?」

「あ、はい。問題はないです。ちょっと声が出ちゃっただけなので」

 

 本当に問題がなさそうなので、オレはそのまま続けた。

 

(完了しました)

 

 五分ほどで、ルシファーのそんな声が聞こえた。

 

「終わったぞ……って寝てる?」

 

 どうやら寝てしまったらしい。オレの声に反応を示さなかった。

 

(まあ、明日教えればいいか……それで、どうだったんだ?)

(ラピスさんの魔力は、黒色でした)

(黒色?)

(はい。マスターの無色と同じで、現代ではほとんど使い手がいません。というのも、黒色魔力というのは後天的な魔力なのです)

(……どういうことだ?)

 

 魔力の性質は先天的に決まるんじゃないのか? 

 

(詳しい説明は省きますが、黒色魔力は負の感情によって発現するものです)

(……負の感情っていうと、恨みや怒りか?)

(はい。……それで、何故使い手がいないかという話に戻りますと、黒色魔力が発現した者は、高確率で魔力に自我を飲み込まれる。簡単に言うと、理性が無くなります)

(ラピスにそんな様子はなかったぞ?)

(稀なケースなのでしょう)

(簡単に言い切るなぁ……)

 

 それにしても、負の感情、か……

 

 魔力が変わってしまうほどの恨みや怒り……ラピスの過去には何があったのだろうか。




読んでいただきありがとうございます
この作品はr15です
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。