召喚勇者は死にました   作:黒桜@ハーメルン

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21 おかしな進化

 気が付くと、上も下もわからなくなるような白い空間にいた。

 

「……既視感あるなー」

 

 転生前に来た空間で間違いない。こんな独特な風景、他にあるとは思えないのだが――

 

「……なーんでオレここに来たんだ?」

 

 前回とは違い、記憶はある。朝起きたら村の近くに地竜が来てて、ラピスと2人で倒しに行って、オレもラピスもかなりの無茶をしてやっと倒して――

 

 え? もしかして無茶のし過ぎで死んじゃった? 

 

「安心してください、今回は死んではおりませんよ」

 

 声とともに、足元から人型が現れる。転生時ののっぺら坊とは違い、今回はちゃんと“人”だった。

 

「……なんでオレの姿」

 

 ただしその“人”は、転生後のオレだったが。

 

「私の姿形はどうでもいいことです。……それよりマスター、2つ報告が」

「報告?」

「はい。まず、マスターは黒色魔力を取り入れすぎたために、精神の一部が侵食されました」

 

 え

 ちょ、それまずくない? いや確かに後先考えずに取り込んだオレが悪いんだけど……もしかしてオレがここにいる理由って、ソレ? 

 

「いえ、あくまで一部です。私もできる限り止めましたので、主導権はマスターにあります」

 

 あー、よかった。てっきり体乗っ取られたからここにいるのかと思ったよ。軽く腕三本分取り込んだし。

 

「てことは、今オレの中にはあの魔力が存在するってことか?」

「そういうことです。そしてそれは、半ばマスターの魔力となりました」

 

 オレの魔力になった? どういうことだ?

 

「精神の一部が侵食、同化した影響です。半ばというのは、双方の大部分が分離されているためです」

 

 よくわからんが、そういうことだって思っとこう。

 

「……ちなみにそれでオレにデメリットは?」

「ほとんど存在しません。逆にメリットとして、黒色魔力が扱えるようになりました」

 

 てことは……あの防御力を手に入れたってことか? この体の欠点である紙防御じゃなくなるのか? 

 

「そういうことになります。ただ、使用時に唯一のデメリットがありますが……実際に試すときでいいでしょう」

「それで、もう一つの報告というのは?」

「私の能力が新しく解放されました」

 

 ……へ? 

 

「え? 解放? 剣創るのと剣浮かすのだけじゃないのか?」

「正確に言うと、回収した、というべきなのでしょう。そして調べてみたところ、あと3つ未回収能力が存在していました」

 

 合計5つの能力……他の神格がどうかはわからないのだけど、多いな。

 

「へぇ……解放された能力ってのは?」

「重力干渉です」

 

 おっふ……またなんかすごいの来た。まさか残り全てがこんな感じなのか? 

 

「というと、自分にかかる重力なくして浮いたり、逆に敵にかかる重力を強めてつぶしたりできるってことか?」

「はい。応用方法は多いかと推測します」

 

 ふむ、まあ起きた後にいろいろと試してみるか。

 

「報告は以上です」

 

 ルシファーの言葉とともに、オレの意識は遠のいて行った。

 

 

 

 そして次に目が覚めて最初に見た者が、自分のお腹に乗る赤い髪の幼女(裸)、というわけである。

 

 ……おまわりさん、こいつです。

 

「あ! 主が起きた!」

 

 オレがぼーっとしていると、馬乗り幼女がオレの眼を見てうれしそうに叫ぶ。

 

 ……この幼女はどこの子なのかなんでオレを主って呼ぶのかツッコミどころが尽きない。一体オレが寝ている間に何があったというんだ。

 

 オレが驚きに身動き一つとれないでいると、ログハウスの扉が開かれた。

 

「白髪さん、起きたよう……」

 

 入ってきたラピスの言葉が、途中で途切れる。「え?」といった表情で目をぱちくりさせていた。

 

 ……この状況、どう説明しよう。

 誤解されること間違いなしのこの状況。だがラピスが次に発した言葉は、予想もしないものだった。

 

「あれ? スライムの赤い子ですよね? その姿どうしたんですか?」

 

 ……一体オレが寝ている間に何があったというんだ。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「――なるほど、つまりお前は今日気づいたらその姿になっていたってことか」

 

 オレの確認に、幼女――赤スラはこくこくと頷く。裸はさすがにまずいので、棚にあった布を巻いてもらった。

 

(……ルシファー、これどう思う?)

 

 (進化ですね。知識などを与えることで促してはいましたが、人間の姿をとるのは予想外でした)

 

 お前が犯人か!

 

「というか、ラピスはなんでわかったんだ?」

「魔力を視たら、すぐにわかりましたよ?」

 

 そういわれてなるほどと納得すると同時に、少しの意外さも感じていた。

 

「赤の魔力、よく覚えていたな」

「この村の人なら、全員覚えています。……ところで、赤の子に何が起きたのか、わかりましたか?」

「ああ、どうも進化したらしい」

「……! それはおめでたいことですね」

 

 一瞬、進化って言葉が通じるか心配してしまったが、どうやら問題ないらしい。そしてめでたいことらしい。

 

 ……ん? 

 

「緑、お前は進化してないのか?」

 

 ラピスの懐にいる緑に聞くと、うなずきが帰ってくる。どうやら2匹同時に進化したようだ。にしても姿が変わってないということは進化先が違うのか? 

 

 オレが首をひねっていると、緑はラピスの懐から出て赤の頭に登る。

 

「えっとねー、人間の姿になれるって」

 

 どういう原理か知らないが、赤は緑の言葉を代弁できるみたいだ。

 

「あ、そうなのか。なら一回なってみてよ」

 

 ちょっと興味がある。赤がこうなったんだ、一体どんな風になるのだろうか。

 

「うーんと……面倒くさいって」

 

 おい。

 面倒くさいってなんだよ面倒くさいって。ちょっとなるだけだろ。

 

「……わかった、ちょっと離れてだって」

 

 そういわれたので、壁際による。赤も緑を下ろすと、ハンモックの上に登った。

 

 部屋の中心にいる緑が、形を変えていく。伸びた体は上に1m90cmほど、がっしりとしたその体は人間の性別だと男に分類されるものだ。

 

「主、これでいいっすか?」

 

 色が肌色に変わると、緑はけだるげに言葉を発した。

 

「……ああ、一旦戻ってくれ……」

 

 頭を押さえながら、そう答える。もしここにラピスがいなかったら、オレは声一杯叫んでいただろう。

 

 なんせ、その容姿が人間時代のオレだった。

 流石に丸々一緒というわけではないが、9割オレだ。残りの一割は、身長の違い、いや成長したオレと考えれば9割9分に上がるかもしれない。一分は髪の色である。

 

 てか、緑ってオレの人間姿知らないはずだよな。たまたまその姿になるって、どんな確立だよ。

 

(いえ、マスターの記憶にある容姿を情報として与えたので、偶然ではないかと)

 

 やっぱりお前の仕業か! ! 

 

「……なあ緑、その姿じゃなくって、他の姿にはなれないのか?」

 

 スライムに戻り赤の頭でぐでーっとしている緑にそう聞くが、横に振るようなしぐさが返ってきた。ノーってことなのだろう。

 

(個体としての造形は進化時に確立されていますので、無理ですね)

 

 ……これから毎日自分を見ることになるのか……

 

「ところで白髪さん、赤や緑っていうのはこの子たちの名前じゃないですよね?」

「うん? ああ、適当にそう呼んでいるだけ」

 

 区別がつけられればいい、ってくらいの気持ちだ。

 

「なら、進化もしたことですし名前を付けたらどうですか?」

「ほう」

 

 ラピスの提案は、なるほど名案かもしれない。人間体になったことだし、名前くらいはあったほうがいいだろう。

 

「名前? 名前もらえるの?!」

 

 赤もうれしそうだ。目をキラキラさせて右に左に揺れている。

 

 にしてもどうすっかな。名前って考えるの結構難しいんだよね。

 

 ……よし、ラピスみたいに色から取ろう。まずは赤だけど……レッド、スカーレット、クリムゾン、カーディナル……レッドはそのまんま過ぎるし、他のは長いから切るしかない……スカーレットは切ってもだめだな……リム……ディナ……よし、ディナにしよう。

 

「赤、お前の名前はディナだ」

「ディナ……うん、わかった!」

 

 気に入ってくれたようで、赤――ディナは満面の笑顔だった。

 

 それじゃあ、次は緑だが……エメラルド、は切ってもしっくりこないし……和名で……萌葱色(もえぎいろ)織部(おりべ)柚葉色(ゆずはいろ)天鵞絨(びろうど)……ユズハかな。ちょっと男の名前っぽくないかもしれないけど、まあいいだろう。

 

「緑、お前はユズハでどうだ」

 

 オレの提案に、緑――ユズハは縦に揺れる。問題ないみたいだ。

 

「それじゃあ、ディナ、ユズハ。これからもよろしくな」

 

 2匹はオレの言葉に、大きくうなずいてくれた。

 

「それで白髪さん。久しぶりの平和な日ですが、今日は何をしますか?」

 

 今日、か。いろいろとやりたいことはあるけどまずは――

 

 

 

 入り口の布を除けて中に入る。いくつもの机が並んでいる部屋の中、目的の人物はいつも通り奥の方にいた。

 

「誰だ……お、嬢ちゃんか。なんかずっと寝てるって聞いたが、もう大丈夫なのか?」

 

 おっちゃんはオレ達の姿を見ると仕事の手を止め、オレ達のそばまで歩いて来た。

 

「ああ、心配させて悪いな」

「はっはっは!心配はしとらんぜ!嬢ちゃんならきっと問題ないってな!」

 

 なんだろう、信頼されているからだと思うのだが、なんか微妙な感情になる。

 

「それで今日は一体……嬢ちゃんが増えてる?」

 

 入ってきたディナを見て、おっちゃんが首をかしげる。

 

「あー……なんというか、こいつはいつもオレが頭にのせてたスライムだよ。進化したらこうなった」

「進化か! そいつぁめでたい!」

 

 やっぱりめでたいようだ。てことはアラクネも進化するのか? 

 

「それで、ここに来た理由なんだが……こいつらに服を作ってくれないか?」

 

 オレの依頼に、男は不思議そうに聞き返す。

 

「かまわねえが……こいつら? 小さい嬢ちゃんだけじゃないのか?」

 

 あ、そっか。ユズハは人間フォームとってないからただのスライムにしか見えんもんな。

 

「ああ。ユズハ」

 

 ラピスに抱かれていたユズハに、人間体になるよう言う。ユズハは地面に降りると、瞬く間に形を変えていった。

 

「そいつも進化してたのか……それにその姿、人間の男だな」

「まあ、なんでこうなったのか知らんが……頼めるか?」

 

 オレの不安に、おっちゃんはニヤッと笑い返す。

 

「問題ねぇ。任せな!」

 

 おっちゃんは他のアラクネ達に声をかけると、すぐに2人の採寸を開始した。

 

 

「うぅーごわごわするー……」

 

 2時間後、2人の服が完成した。

 ディナの服装は下が黒いショートパンツ、上が白いシャツに紅い半そでパーカー。そろそろ冬だというのにひどく寒そうな服装だ。

 

「なんか変な感じするー! 主ー、脱いでもいい?」

「ダメだ」

 

 最も、ディナ達は寒さを感じていなさそうだが。

 

「主、歩くの面倒くさいんでスライムに戻っていっすか?」

 

 ユズハは、黒いズボンに深緑色のワイシャツを腕まくり、その上に黒のベストを着ていた。執事風のできる男な服装だが、ユズハのけだるげな表情が台無しにしている。いや、オレの顔なんだけどね、自分の顔ってここまで気だるげなものだったんだ。

 

「ダメだ。てかお前、そんな性格だったのか?」

 

 確かに自分で動くことなんてほとんどなかった気がするけど、まさかのだらけ魔だったとは。

 

 もはやあの何処か癒されるような可愛さはそこにはまるでない。

 

「ところで主ー、今どこに向かってるの?」

 

「森だ」

 

 村に持ち帰っていない地竜の核の回収と、新能力の実験をしたい。ちなみにラピスはなんか用があるようで【物作り】の集会場に残っていた。まあ、別れ際に「早めに帰ってきてください」って言ってたし、アレかな。

 

 オレの森という一言に、ディナは途端に目を輝かせる。もう何を考えているのかすぐに分かったが、ごめんよ。多分期待は外れる。

 

 

 門を出るときにも門番に二人が誰かなのを聞かれたが、スライムが進化したというと納得して祝ってくれた。

 

 20分ほど歩いたところで、地竜の死体を見つける。よかった、野生の魔物に持っていかれなかったみたいだ。

 

 死体の背中に登り、背骨左側にナイフを突き立てる。そのまま縦にナイフを引き表皮と肉の間にナイフを差し込み、硬い鱗を取り去る。

 

 肉を少しずつ切り開いていくと、深い紫色の、オレの頭以上は大きいんじゃないかと思うほど巨大な、割れた地竜の核を発見した。

 

「……思ってたより綺麗だな」

 

 魔力が真っ黒だったから、てっきり核も真っ黒かと。いや真っ黒なのよりこっちの方が食べるときの抵抗感が少ないから全然いいんだけどね。

 

 頭部大の核はもちろん口に入らないので、シャツの裾から中に入れて胸元に当てる。そのままゆっくりと押し込み、核の半分がオレに吸収された。

 

 続けてもう半分の核も体内に押し込む。一瞬入りきるのか? と割とどうでもいい疑問を持ったが、無事に全部入ったので本当にどうでもいい疑問に終わった。

 

 魔力量を確認すると……わーお、まさかの2.5倍。オレが核を多少削ってたのも考えると、つまり地竜はオレの1.3倍ほどの魔力量があったってわけか。

 

「ねえねえ主!これ食べていい?」

 

 ディナが地竜をつつきながらそんなことを言う。隣のユズハも、立ったまま目でオレに訴えていた。

 

 うん、つまり期待というのはこういうことだ。スライムの時は食いしん坊だったのに人間体になったら違うとかそういうことはないのである。

 

 しかし、どうなんだろう。地竜って外皮も骨も結構いい素材になるから、とっておいた方がいい気はする。肉はどうか知らんけど。

 

「今はダメだな。一回村に持って帰って、使わない部分を聞かないと」

「ええー、いいじゃん主がやっつけたんでしょ?」

 

 いや、ダメージ量で言ったらラピスもなかなかだぞ?というかラピスが魔法で削ってくれてなかったらぶっちゃけ勝てるかも危うかったと思う。

 

「多分肉とかはいらないってなるだろうからさ。一日くらい待ってくれ」

「むー……ディナお腹減ったー!」

「主、オレもそろそろ我慢できないんでディナと狩りに行っていいっすか?」

 

 いやいや狩りって、戦闘能力ないお前らがどうやって……アレ?もしかして戦闘能力あったりする?

 

(ディナはそこら辺の中型種であれば問題ない程度の戦闘力を持っています)

 

 うん、全く持って十分。大型種なんて滅多にいないし、いざとなれば逃げれば大丈夫だろう。

 

「主、どうしたの?」

「うん?ああ、いや何でもない。それで、狩りに行きたいんだっけ?」

「……ダメ?」

 

 頭半分ほど低いディナが上目遣いでオレを見つめる。まるで子犬のようなそのしぐさに、果たしてきっぱりとノーと言える人間はいるのだろうか。

 

「いいけど、危なくなったらすぐ戻って来いよ?」

 

 そもそもオレはノーという気は無かったが。

 

 途端に満面の笑顔に戻るディナ。そしてオレ達2人が止める暇もなく一気に駆け出し、あっという間に姿が見えなくなった。

 

「え、ちょ、ディナ? オレも行くんすからちょっと待ってくださいよ!」

 

 慌ててディナの後を追いかけるユズハ。まるで娘を追いかける父親のようだな。出会った時はディナの方が保護者っぽかったのにどこで入れ替わったんだろうか。

 

 さて

 

 あの2人はおそらくしばらくの間帰ってこないだろう。今なら、誰かを巻き込む心配をする必要はなさそうだ。

 

 転がる地竜の死体をアイテムボックスに回収し、オレは思いっきり背筋を伸ばす。

 

 実験の時間が来た。

 




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