召喚勇者は死にました   作:黒桜@ハーメルン

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24 旅立ち

「村を出る、ですか……」

 

 翌日の朝、ログハウスにいるラピスにオレは自分の意志を伝える。真冬の早朝の今、突然のオレの言葉にラピスは擦り合わせていた手を止める。

 

「ああ。……前にオレは元人間だって言っただろ?」

「ええ、それに関係が?」

「オレが人間やめてまで生きてるのには目的があってな。……そのためにここから出て外の世界に行くことにした」

「……そうですか」

 

 返事をするラピスの声は低かった。それだけで、優柔不断なオレの昨日の決心が揺らぎかける。

 

「それは、寂しくなりますね」

 

 笑顔のラピスだが、明らかに無理をしているとわかるものだった。

 

「っ! なあ……」

 

 お前も一緒に行かないか。出かけたその言葉を、どうにか抑えることに成功する。

 

「? どうしましたか?」

「いや……何でもない」

「……そうですか」

 

 ラピスはそう返事をすると、扉から出て行った。直前、何かをつぶやいたようだったがうまく聞き取れなかった。

 

「……主、言わないでいいんっすか?」

 

 いつの間にか人間体になっていたユズハにそう聞かれる。オレはそれに、ただ首を横に振った。

 

 

 

 翌日、スライム2人を狩りに送り出してから、オレは宴会場に泊まっているオリヴァーたちのところへ行き、戻るときにオレ達を連れて行ってほしいと頼んだ。自分らだけで行くより彼らと行けば問題が起きにくいだろうと打算的な考えだったが、彼らは快く受けてくれた。もちろん、ただで、というわけではない。ちゃんと対価は支払うつもりだ。

 

「それで、いつくらいにここを出るんだ?」

「だいたい10日後の予定だよ」

 

 10日後か……それまでに、やることはやっておかないとな。とりあえずまずは、あいさつ回りでもするか。

 

 

 まず最初に、隣の【物作り】の集会場に行く。いつも世話になっているおっちゃんは多少残念そうだったが、「しっかりやれよ!」と励ましの言葉をくれた。

 

 次に、【狩人】の集会場に向かう。ギリギリ狩りに出る前のようで、赤髪黒髪もいた。

 彼女らの反応は劇的だった。オレがここを出ると言った途端、驚きの声が室内に響き渡る。そして、「え、嘘?」「冗談でしょ?」といった声はだんだんと「そう……残念ね」「さみしくなるわね」といった声に変わり、最終的には「行かないでほしい」という声が出て、中には泣いている人もいた。まあ、そのほとんどが武器愛好組だったけど。

 

 ラピスは、集会場にはいなかった。

 

 赤髪黒髪に狩りに行かないかと誘われたが、どうも今日はそういう気分になれなかったので今日は辞退した。代わりにいかにもお腹が減ったという様子のディナとユズハを置いてきたから、問題はなかろう。

 

 集会場を出るとき、ふと会っていない人がいることを思い出す。族長のアラルだ。

 族長の仕事があるアラルは、基本的に村の一か所にとどまっていない。家にいることもあるし、集会場にいることもあるし、村の中を歩き回っている可能性もある。

 

 とりあえず一回族長宅に行って、いなかったらまた探せばいいか……そう思い歩いていると、村の広場から子供の声に混じって知っている声も聞こえた。

 

「ほれ、高い高い!」

 

 ちょうどオレが今探しているアラルが、子供たちと遊んでいた。子供たちを代わりばんこに抱き上げては高い高いをしている。

 

「アラルさん」

「ほーれほれ! ……ん? お前さんか。どうしたんだい?」

「ちょっと話……報告がありまして」

「……なにやら、大事な話のようだな」

 

 抱き上げていた子供を地に降ろし、オレに向き直るアラル。先ほどまでの柔らかそうな雰囲気からは一変、族長としての顔に変わっていた。

 

「いや、そこまで大きな話じゃないですよ」

 

 あまり重大に受けられてもオレが困る。苦笑するオレを見て、アラルの表情も若干和らいだ。

 

「……近々、この村を出ようと思います」

「……具体的な日は決まっているのかい?」

「10日後かと。今、村にきている『来客』たちとともに行きます。目的地は、人間の社会なので」

「なるほど……まったく、どこが重大じゃあないんだい」

 

 くっくっく、と笑うアラル。いや、地竜の件と比べたら断然重要じゃないと思うのだが。

 

「できればお前さんにはもっといてもらいたかったんだが……そういえば、村の掟には外の世界へ行くことを禁ずるものがあったな」

「残念ながら、オレはよそ者ですから」

「今更それを言うか……私含めて、村の全員がお前さんを同胞同然に思っているだろうに」

「……それでも、オレは行きますよ」

 

 グラグラの決心だが、だからと言って曲げるつもりはない。アラルも、元からオレを止める気など初めからないのだろう。

 

「時間はある。今のうちにやることやっておきな」

「わかっていますよ」

 

 

 

 夕方になって、ディナとユズハが帰ってきた。少々心配だったが、何事もなく狩りを終えることができたらしい。赤髪が「すごい食うから収穫がいつもの半分に……」って愚痴ってたのは想定内だ。

 その後帰ってきた2人を引き連れて、オリヴァーたちのところへ行った。外の世界に行くと決めた以上、知るべきことは多い。常識とか、社会の仕組みとか……なにせこっちの世界では人間としての生活より、魔物としてのサバイバル生活の方が長いのだ。エインズで学んだものなんて、結構忘れている。

 

 話の最後に、ノクタニアに行った後の身の振り方について聞かれる。冒険者とやらになると答えると、3人は心配そうだった。まあ、ユズハはともかくオレとディナは見た目が子供だから、それも仕方ない。戦えることを示すために、明日ともに狩りに行く約束をして今日はログハウスに帰った。

 

 ラピスは、帰ってこなかった。

 

 次の日も、その次の日も。

 

 オレが出るまでに2回あった狩りの日にも、彼女に会うことはなかった。魔力感知で探っても、反応が見つからない。

 流石に心配になって黒髪と赤髪に聞いても、心配ないとの一言。居場所を知っているようだったけど、教えてはくれなかった。こうなってしまうと、オレもどうしようもない。

 

 そして、時間はあっという間に過ぎていった。

 

 

 旅立ちの前日

 

 アラルに呼ばれたオレは、今アラルの家に来ている。何の用事かは、まだ聞いていない。

 出された果実水を一口飲み、オレは口を開く。

 

「それでアラルさん、今日は何の用で?」

「用というほどものじゃないさ……最後に、お前さんとゆっくり話をしたいだけだ」

 

 正面に座るアラルは、そういって苦笑した。

 

「話……ですか。確かに、アラルさんとゆっくり話したのは来た当初以来ですね。……それで、どんな話がご所望で?」

「そうだな……お前さんから見た今のあの子について聞かせてもらおうか」

「ラピスですか……そうですね」

 

 少し考えて、オレは言葉を紡いでいった。

 

「いい方向に、成長しているかと……地竜の件以前に有った他人との距離も、埋まっているように感じました」

 

 アラルは頷いて、先を促してきた。

 

「それに、本音を言うようにもなりましたね……今まで狩りの時はいつも意見を言わない彼女が、やはりあの件以来言うようになっています。この間も……」

 

 オレの話を、アラルは静かに聞いている。時折相槌を打ってはいたが、話を遮っては来なかった。

 

 そしてオレの話が終わると、自分のを一口飲んでアラルが一言。

 

「お前さんは、あの子を気に入っておるのだな」

「……まあ、否定はしません」

「ふむ……話が変わるが、お前さんは自分の旅に、あの子についてきてほしいと思っておるか?」

「……なぜそんな質問を?」

「なに、少し気になっただけさ。もし望むのなら、特例で許可を出してもいいと思っている……あの子も、お前さんのことをひどく気に入っているようだしな」

「……だめですよ。彼女にはここでの生活があります。それをオレが邪魔していい理由なんてないですよ」

 

 やっと周りとうまくやっていけそうなのだ、オレについてきたらその努力が無駄になる。

 

「連れて行きたいという気持ちは否定せんのかね?」

 

 オレはその言葉にうなずいた。

 

 打算的に考えると、彼女の能力は極めて珍しく極めて有能だ。黒色魔力を手に入れたオレでも黒色魔法は使えなかったので、精神攻撃ができる彼女はきっと重宝することになるだろう。

 打算的に考えなくても、やはりオレは彼女に来てほしいと思っている。気に入っているから、来てほしい。理由なんてそんなもんだ。

 

「いや、お前さんの気持ちがわかれば十分だ。すまないね、湿っぽい話になってしまった」

 

 それからは、何気ない雑談が続く。この村はどうだったか、外の世界ではどうするのか……話すうちに日は落ちて、夜が始まっていた。

 

 

「それでは」

「ああ」

 

 短い挨拶を交わし、白髪は帰っていった。門で曲がって見えなくなるまで、私はそれを見送る。

 

「白髪はもう帰ったよ」

 

 そう声をかけると、部屋の壁がめくれ青髪の子、ラピスが中から出てきた。

 

「聞こえていただろう? ……あやつに何か言わんでいいのかい?」

「……はい。……私には、理由がないので」

 

 理由、かい。どうもこの子は父親に似てどこか強情なところがある。それがいいことか悪いことかは状況が判断するだろうけど……少なくとも、今は悪いほうに働いているな。

 

(そんな表情をするくらいなら、素直になればいいだろうに)

 

 今にも泣き出しそうな、何かに怒っているかのような、そんな表情。正直、見ていられないね。

 

 ……少しだけ、手助けするかの。

 

「今から私は、独り言を言う」

 

 私の突然の宣言に、ラピスは驚いている。が、かまわずに私は言葉をつづけた。

 

「この村には、かつてとある風習があってな」

 

 ラピスは、何も言わずただ言葉の続きを待った。

 

「我らアラクネに名を与えるのは、与えられる者が与える者を主と認めたとき。……忘れ去られた風習さ」

 

 背中越しでも、ラピスが息を飲んだのがわかる。

 

「……従者が主のそばにいずに、どこにいるというんだい?」

 

 振り返りながら、私はそう告げる。

 

「……ありがとう、ございます」

 

 彼女はそれだけ言うと、踵を返して去っていった。

 

 ……しまったね。最後のは独り言というのは無理があるかの。

 

 風に揺れる入り口の布を眺めながら、どう言い訳をしたものかと私は微笑んだ。

 

 

 

 翌日、村の門にて

 

「それじゃあ、達者で」

 

 朝一だというのに、村のほとんど全員がオレ達の見送りに集合していた。

 

「……いってらっしゃい」

「うあーん! 白髪ちゃんやっぱり行かないで!」

「ディナちゃんが……私の癒しがぁぁぁ……」

 

 若干違う声も混ざっているが、赤髪黒髪がそれらの声を黙らせている。何というか、馬鹿なこと言う後輩を殴る先輩、のような絵面だ。

 

「白髪よ、ここを出るのは何も追放ってわけじゃない。いつでも帰ってきていいさ、私たちはみんな歓迎する」

「アラルさん……ありがとうございます」

「オリヴァー、お前さんたちもまた来ておくれ」

「ええ、もちろんですよ」

 

 オリヴァーはそういうとアラルと固い握手を交わした。

 

 「白髪の嬢ちゃん、受け取りな!」

 

 そんなおっちゃんの声とともに、突然何かが飛んできた。

 

「うおっと! ……これ、何が入っているんだ?」

 

 飛んできたのは2つの布袋だ。片方の感触は柔らかく、もう片方は固い。

 

「餞別だ! 中を見てみろ」

 

 言われた通り、まず柔らかいほうの袋を開く。

 中に入っていたのは、4着の黒いコートだった。ただし大きさも仕様も四者四様。

 

「嬢ちゃんら全員の分が入ってる。破れたりしても自然に治る布で作ったから、戦うときにでも着てくれ」

 

 そんな服が存在するって、完全にファンタジーじゃあねーか。いやここファンタジーの世界だけど。

 

「こんな服を作れるって、初めて知ったぞ」

「あーいや、誤解しないよう言っとくと、それ作ったの俺じゃねー。あの青い髪の嬢ちゃんだ」

「ラピスが?」

「ああ。なんか新しい能力が手に入ったとか言っててな。初めて見たときは俺も驚いた」

 

 いつの間に……

 

「俺が作ったのはもう一つの袋の方だ」

 

 今度はそっちを開いてみる。出てきたのは、4足のブーツ。大きさも

「地竜の皮で作ったブーツだ。嬢ちゃんいつも靴を壊していただろう? そいつなら壊れない自信あるぜ」

 

 思わず苦笑する。まあ確かに20足以上は壊してたからなぁ……自信作ももらったその日に壊しちゃったし、悔しかったんだろう。

 

「ってアレ、4足? 一足多いぞ」

「ああ、それでいいんだよ」

「??」

 

 そういえばコートも一着多かったけど、一体何なんだろう。

 

 よくわからないままそれらをアイテムボックスにしまおうとすると、おっちゃんに止められた。装着品だから今使ってみてほしい、とのことだ。

 

「こいつが白髪の嬢ちゃんので、こいつはディナちゃんの。このでけーのがユズハの坊ちゃんのだ」

 

 おっちゃんがオレに渡したのは、フードがなく裾の長いコート。しかしそれは他の3つと違いボタンで留めるのではなく、腰回り、胸部に水平に、右の鎖骨に沿うように斜めにつけられたベルトを使って止めるという特徴的なものだ。

 

 細部まで調整がされているらしく、ブーツもコートもぴったり。地球のコートにある動きにくさも、不思議なことにこれにはなかった。

 

「主!どう!?」

 

 そういって一回転するディナのコートは裾が短いが、対照的に袖が長くまた肘上あたりでボタン止めされている。ディナに似合った非常にかわいらしい格好なのだが、残念なことにボタンをかけ間違えていた。

 

「ディナ、ずれてるっすよ」

 

 そう言いながら、ユズハがしゃがんでボタンを直す。ユズハの服は元の世界の冬によく見る、確かダッフルコートって名前のコートに非常に似ている。唯一の違いは、背中に水平に切れ目が見えるくらい。

 

 ディナの裾も、ユズハの切れ目も2人の能力を考慮して設計されたものものだろう。しかしその設計者のラピスは、最後だというのにどこにも見当たらなかった。

 

「……いったいどこに行ったんだろう」

 

 何かが変わるわけでもないのに、ついそんなつぶやきが口からこぼれる。

 

「白髪クン。そろそろ出よう」

「……ああ、わかった。ディナ、ユズハ、行くぞ。……それじゃあ、また」

「ああ、またな!」

 

(せめて別れの挨拶くらいはしたかったな。あんな別れ方は、すっきりしない)

 

 十日前の自分の行動を後悔するも、もう遅い。踵を返して歩き出そうとしたその時

 

「ちょ、ちょっと待って! 靴紐が、靴紐がまだ結べてない!」

 

 どうやらディナは、靴紐結びに苦戦しているようだった。

 

 

 

「それじゃあ、ここからは俺達が先導するよ」

「ああ」

 

 森をある程度進んだところで、オレ達はあらかじめ決めていた陣形になる。先頭にオリヴァー、その左右後方に近接戦闘の得意なディナとアドルフが、最後方はオレが立つ。魔法が主戦力のアンナとユズハを囲うような形だ。

 

 オレが彼らに頼んだのは護衛ではなく、案内だ。なのでオレ達が戦うのは当然と言えよう。一回見せたことがあるので彼らもオレ達の戦力を知っている。決して引かれたりはしていない。

 

(にしても、そんなに警戒する必要はないと思うんだがなぁ……)

 

 オリヴァーの歩みは、非常に慎重なものだった。一歩一歩、確かめるように歩いている。

 

「魔力感知でも、何もないってわかってるし……」

「いえ白髪さん。警戒はするに越したことはありませんよ?」

「それもそうか……ん?」

 

 久しぶりに聞く、ここにいるはずのない声。驚いて横を向くと――――

 

「私に気付かないあたり、注意力が落ちてるようですし」

 

 声の持ち主、ラピスがオレの隣を歩いていた。

 

「え? え?」

 

 わけがわからず混乱する。魔力感知では何も視えなかったのに、いつの間に……というか、なぜここに……

 

「来ちゃいました」

「いや、来ちゃいましたってお前……」

「あ、ラピ姉!?」

 

 ラピスの存在に気付いたディナの歓喜の声がオレの言葉を遮った。

 

「ラピ姉、どうしてここに?」

 

 ユズハのその質問は、オレの心を代弁したものである。

 

「私も白髪さんについて行くことにしたんですよ」

「え!? じゃあ、一緒に旅できるの?」

「ええ」

 

 やったー! と一際大きい歓声を上げるディナ。オレは完全に蚊帳の外に追い出されていた。

 

「ちょ、ちょっと待て。ラピス、細かいごたごたは今は置いとくとして……ついてくるって、本気なのか?」

「はい。本気ですよ」

「……掟があるから村には帰れないぞ?」

「大丈夫です。挨拶はすでに済ませてます」

「……面白い旅になるかはわからないぞ?」

「楽しくなくても面白くなくても私は一向にかまいません」

「……村と違って安全は保障できないぞ?」

「ご冗談を。白髪さんのそばほど安全な場所はありませんよ」

 

 ダメだ。まったく引く気がない。

 

「……もう一度だけ聞くけど、本気なんだな」

「はい」

 

 答えるラピスの瞳に確たる意志が宿っているのが見えた。

 

「私、ラピスラズリはこの名を授けた我が主に忠誠を誓うとともに、旅路への同行の許可をいただきたい」

 

 突然の仰々しい物言いに、笑いがこみあげてくる。

 

「フフフ…………いつからオレはお前の主になったんだ……?」

「私たちにとって名を与えれられるということは与えた人物を主と認めることと同義らしいですよ?」

「フフフフフ……アッハッハッハーㇵッハッハ!」

 

 もうだめだ、我慢ができない。オリヴァーたちがいるにも関わらず、オレは大声で笑い始めた。

 よくよく考えると、オレには彼女を止める理由なんてない。誘わなかったのは彼女に気を使ってだし、その本人がいいっていうならもう文句なんて出ないのだ。むしろオレもついてきてくれるのはうれしく思う。

 

「ハッハッハッハ……ハー、ハー……あー、なるほどね……こういうことだったのか」

 

 一つ多かったコートとブーツ、おそらくこの、背中にいくつもの切れ目が入ったコートを作ったのもあのおっさんなのだろう、その余りの意味を、オレはやっと理解することができた。

 

 アイテムボックスからその2つを取り出し、ラピスに渡す。

 

「これは……私は3着しか作っていないはず……?」

 

 渡されたものを見て、ラピスはひどく驚く。

 

「どうやら、あのおっさんお前がこうするってわかってたようだぜ。……旅立つ奴が同行者に餞別を送るって、ずいぶんとおかしな話だな」

「……仕方ないじゃないですか。昨日決心したんですから」

 

 頬を膨らませるラピス。不満を表したはずのその表情は、全く説得力を持たないものだった。

 

「ははは……それじゃあ、これからもよろしくな。ラピスラズリ」

「はい!」

 

 差し出したオレの右手を、ラピスは強く握り返した。

 




読んでいただきありがとうございます
一章はこれで終わりです。幕間を挟んで二章に入りますが、二章からは3日に一回の更新にします。あと、書きだめもあまりないので途中で止まりますがご容赦を

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