召喚勇者は死にました   作:黒桜@ハーメルン

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時間間違えました、新章です


2章 辺境都市アデゥラル
25 始まりの町と、最初の関門


 森を抜けた先は、広大な黄色い草原だった。見渡す限り草ばかり。ポツリポツリと生えている木以外、視界を遮るようなものはほとんどない。

 

 そんな草原を、進む馬車が一つ。

 

「あれが見えるかい?」

 

 御者台からオリヴァーの声が聞こえた。御者台に顔をだしオリヴァーの指さす先を見ると、数十キロ先に城壁らしきものが見えた。

 

「もしかして、アレか?」

「うん。アレが俺たちの住む町、アデュラルさ」

 

 アデュラル。話に聞いていた、辺境の都市だ。まだまだ遠いはずだが、それでも圧倒的な存在感を放っている。

 

「主、もうすぐ着くっスか?」

 

 座って寝ていたはずのユズハがそう聞いてきた。沈め目をこするその姿は、全然寝たりなさそうである。

 

「あと2時間、ってとこかな?」

「なら、あと一寝はできそうっすね。着いたら起こしてほしいっす……」

 

 そう言い残し、ユズハは再びコートの襟に顔を沈めた。馬車に乗ったのは5時間ほど前、一晩寝たはずのユズハは馬車に乗った瞬間今みたいに寝ていて、逆に疲れないのか? と思えてくる。

 

 

 旅路は順調だ。村を出てからの5日間、特に何も起きていない。せいぜい魔物の群れを数郡相手にしたくらいだ。

 

 ラピスもディナも特に問題ない。今はディナがラピスの膝の上で、摘んできた花などを食べている。

 え? 花の楽しみ方が違う? ディナだから仕方ない。

 

「はむはむはむ……なんかこれ美味しくない」

 

 紫の野苺みたいな植物を手に持ちながら、ディナがそうつぶやく。珍しいな、ディナが好き嫌いをするとは。いやそこら辺に生えてる植物を食べる時点で好き嫌いもくそもないか? 

 

「ディナちゃん、それ、毒草よ?」

「ぶ!」

 

2人の隣に座るアンナのカミングアウトに思わず吹き出す。ちょ、毒草!? 大丈夫なのか!? 

 

「ディナ。大丈夫?」

 

 上から覗き込んでそう心配するラピス。どちらかというとかわいらしい顔つきなラピスであるが、こうしてみるとお姉さん感が出ている。

 

「大丈夫だと思うよー? 同じような味、何回か食べたことあるし」

 

 おいおい、てことはアレか? 今までまずいと感じていたのはすべて毒だったのか? ……道理で持って帰ったとき誰も食べなかったのか……

 

「ディナ。それ食べないんだったらくれっす」

 

 またいつの間に起きたのか、というかもしかしたらずっと眠っていないのかもしれないユズハがそう言って手を差し出す。

 

「いいよ。ほーい!」

 

手に持っている紫野苺を、ユズハ向かって放るディナ。ユズハがそれをキャッチすると口に入れ、そのまま飲み込んだ。

 

「……うーん、いまいちっすね」

 

 ディナとはまた別の意味で顔をしかめるユズハ。これで二人とも毒草を食べたわけだが、ユズハの心配はオレ達の誰もが全くしていない。

 

「まあ、そこら辺に生えている草だし仕方ないだろ」

 

 外を軽く見渡すだけでも、黄色の中に紫が混ざっているのがちらほら見える。この草原では、結構ありきたりな草のようだ。

 

「ちなみにアンナさん、これどのくらいの毒っすか?」

「えーっと……3日間お腹壊す程度?」

「つくづくいまいちっすね……」

「はむはむはむ……ん? アドルフ、これは?」

 

 本来は荷物を置くだろう場所に、アドルフは座っている。予定にないオレ達がついてきたことで、座るスペースが無いのだ。連れて行ってもらっているオレ達がそこに座るべきなのだろうが、アドルフは頑なにそれを聞き入れなかった。ちなみに今荷台に荷物はほとんどない、彼らが取引で得たものはオレのアイテムボックスに収まっている。

 

 さて、そんなアドルフが背負っていた袋から取り出したのは一枚の干し肉。彼はそれをディナに差し出した。

 

「……腹がへってるなら、食べていい」

「ホント!? ありがとう!」

 

 ディナはそれを受け取ると、一気に全部口の中に放り込んだ。

 

「ちょっとアドルフ? 保存食も限りがあるんだから注意してよね?」

「ははは、アドルフは本当にディナちゃんを気に入っているからね。……それにアンナ、もうそろそろつくんだしいいんじゃないかな?」

「それはそうだけど、あんたたちは時々やりすぎなのよ。金銭管理している私の身にもなってほしいわ」

「……報酬、もらった分だけ増やしておこうか?」

 

 別に文句を言ってるわけじゃないんだろうけど、何回も貰ってるせいで申し訳なくなってくる。

 

「いやいやいやいや。アドルフが勝手にやったことなんだから、気にしないでいいよ」

「それに、今もらう予定の分だけで十分多いわよ? ……って、そういえばあなたはこっちの常識は知らないんだったかしら」

「あれで多いのか? ディナの2食分にしかならないんだが……」

「……ディナちゃん、そんなに大食いだったんだ……」

 

 それからも会話が会話を呼び一時間後。オレ達は無事に、城壁までたどり着いた。

 

 城壁の高さは、約20m。すべて石で組まれたそれは、近くで見るとかなり迫力のある物だった。防壁としては、申し分ないだろう。こんなのを崩せる魔物など、早々いるとは思えない。

 

 時刻は昼過ぎ。なのにというか、だからというか、高さ10mもある城門には、100メートルを超える長蛇の列ができていた。

 

「……これ、並ばないとダメなのか?」

 

 見たところ、進みもかなり遅い。いったいいつになれば入れるのか、考えるだけでも萎えるものだ。

 

「いや? アレは外来者用だよ」

「……つまり、オレ達は並ばないといけないと」

「いや、必要ないよ?」

 

 おかしい、話がかみ合わないぞ? 

 

「オリヴァー、ちゃんと説明してあげなさいよ」

 

 アンナがあきれ顔でため息をつく。

 

「あの列はね、商隊の人たちが並ぶところなのよ。税を取るためってのもあるけど、治安の為っていうのが大きいわね。……だから、身分を証明できない流れ者とかもそこに並ぶことになるわ」

「それだとオレ達もじゃないのか?」

 

 身分証なんて持ってるわけない。こちとら(転)生後1年過ぎなんだ。

 

「私たちが証明するから問題ないわ! こう見えても冒険者ランクは7と高いし、信頼もあるわよ」

「へえ……」

 

 なんというか……異世界、緩いな。ちなみに冒険者ランクは1が最低で10が最高。上に行くほど人口は少なく、オリヴァーたちはアデュラル現役2番目らしい。

 

「あ、その顔は信じてないって顔ね?」

「いやいや、信じてるって」

 

 ジト目で見てくるアンナに、つい苦笑が出てくる。ホントはちょっと疑ったってことは黙っていた方がよさそうだ。

 

「それで、ならオレ達はどこに?」

「ほら、あそこさ」

 

 オリヴァーが指さすは門の右側。御者席に出てみると、たしかにそこには、馬車十台ほどのみとはるかに短い列が存在していた。

 

「馬車がなかったらもっと早い入口もあるんだけどね」

 

 オリヴァーはゆっくりと馬車を進め、その最後尾に着く。列事態に差はあっても検査に差は無いようで、こちらの列も非常にゆっくりとした進みだった。

 

「……オレ達、ホントにこっちで問題ないのか?」

 

 無性に心配になり、ついそう聞いてしまう。何事もないのにこういうところはやはり日本人らしさが抜け切れていないようだ。

 

「問題ないよ、検査といっても大部分が荷物だから。聞かれることも名前とか、目的とか……」

 

 言いながらはっとするオリヴァー。同時に、オレも問題に気付く。

 

「……オレ、まだ名前ないじゃないか……」

「……まずいね。白髪クン呼びがすっかり定着してたから失念してたよ」

「……どうしようか……」

「……今決めるしかないんじゃない?」

 

 そうするしかないか……

 

 御者席に出ていたオレは車内に引っ込み、同行メンバーに事の次第を話す。そして熟睡中のユズハを叩きおこし、会議を始めた。

 

 

「それでは、白髪さんの名前について誰か案がある方」

 

 司会兼進行役はラピス。その言葉に、真っ先に手を上げたのはディナだ。

 

「はい! 太郎!」

「なんでそう来る!」

 

 なんでいきなり日本一多い名前が出てくるんだよ! 異世界にきてまでその名前はないだろ! 

 

「ディナ、それじゃあ格好良さがない。もっとクールなのが主にはふさわしいっすよ」

 

 お? ユズハがやる気に満ちた表情をしているぞ? これはもしかしたらもしかするかもしれない。

 

「ディオ・ブ……」

「ちょっと待てィ!」

 

 慌てて止めに入るが、何故怒られたのかユズハはよくわかっていない様子。首をかしげながら聞き返してきた。

 

「……主、何か問題があるっすか?」

「大ありだ! 共通点全くねーだろ!」

 

 あんなに筋肉ねーし、そもそも見た目が百八十度逆だわ!

 

「あるじゃないっすか。ほら、両方人間やめてるし」

「何も上手くねーよ!」

 

 というかなんでこいつ知ってんだよ……

 

「ユズハ、主はそんなのじゃあ満足しないよ! やっぱり花子みたいな普通なのが……」

「いやソレ全然普通じゃない」

 

 違和感バリバリだから。渋谷を戦国武将が歩くくらい違和感あるから。

 

「なら、ルーク・スカイ……」

「それもどっかで聞いたことあるやつ!」

「なら、美紀帝(ミキティー)!」

「最近のになった! モダンなのになったけど!」

「なら、エドワードエルリ……」

「そろそろ自前のネーミングセンス発揮してくれ!」

「なら、アルフォンスエルリ……」

「ディナに伝染(うつ)っちまってんじゃねーか!」

 

 ヤバい、本格的に収集がつかなくなってきた。

 

 どーすんの、これ……

 

 

 

 まるで漫才であるかのような、主従ペットのやり取りを見守る4人。大人と幼女のボケを半幼女が反論している様子は、ほほえましいものに見えるのだろう。

 

「それにしても、結構おかしな話だよね」

 

 オリヴァーがぽつりとつぶやいた。

 

「おかしな話ですか?」

「うん。だって、君たち3人に名前があるのに、その主の彼が名無しなんだよ?」

 

 そういわれ、確かにと納得するラピス。同時に、ふと過去に聞いたことを思い出した。

 

(そういえば、白髪様はかつて人間だったと言っていましたね……なぜ名を持っていないのでしょうか?)

 

 違和感を感じるラピスであったが、すぐに思い直す。

 

(名があったとしても、それを名乗らないのは何か理由があるのでしょう。わざわざそれを聞こうとも思いませんし、聞く必要があるとも思えませんね。ついて行くと決めた以上、私は従うだけです)

 

 盲目的な考えであるが、ラピスが聞いたところで答えは変えてこなかっただろう。こだわり続ける本人ですら、その理由を理解していないのだから。

 

「おっと、行き詰っている様子だ。そろそろ俺達も参加しよう」

 

 顔だけ車内に突っ込んでいたオリヴァーは、そういって車内に潜り込む。そして空いているユズハの隣に座ると、難しい顔の3人そっちのけに名前案を出し始めた。

 

「……私も少し考えてみましょうか」

 

 オリヴァーの乱入により再び騒がしくなった車内、ラピスのつぶやきは、誰に聞かれるもなく消えていった。

 

 

「……よし、問題ないな。通っていいぞ。……次の組!」

 

 衛兵の指示に従い、馬車が前へと進む。中にいた者たちはすべて馬車から出て、代わりに入った衛兵が荷物をチェックし始めた。

 

「……まずいですよ……」

 

 名前が決まらないまま、ついに順番は次にまで回っていた。オリヴァーの乱入で現地民の意見をいただけると思っていたのだが、まさかのオリヴァー、ネーミングセンスが壊滅的である。アンナは名づけは苦手だと言って辞退、アドルフはそもそもあんま喋らない、つまり現参加者にはネーミングセンスなししかいないのだ。

 

 時間的猶予は、もってあと2、3分。絶望的なこの状況を、打破するだけの妙案を思いつくのは不可能に近かった。

 

「……こうなったら、妥協するしかないのか……」

 

 微妙なラインのは何個も出てきている。が、日本感性なオレには受け入れがたいものでもあった。

 

「なら、やっぱりオレの考えたセフィロスがいいっすよ!」

「いや、ディナの考えた白吉がいいと思う!」

 

 やめて、そんな期待に満ちた目でオレを見つめないで。妥協するにしてもその二つはないから! 

 

「……というか主、俺たちの意見全否定するくらいなら自分でも考えてくださいよ」

 

 ふてくされた様子のユズハにそういわれて、オレは言葉に詰まった。

 

「いや……それはその、アレだ、ほら、おかしな話だろ? 自分に名づけなんてさ?」

「いや、そうでもないよ。出世して改名する人なんて結構多いし」

 

 捻りだしたわずかな反論は、異世界の常識に一刀両断される。

 

「ほら、オリヴァーもそういってるんですし主も考えましょ。ダメ出しはするっす」

 

 ダメだし以外がほしいです……いや、そもそもダメ出しするのか? 今までされた記憶がない、無条件で肯定ばっかされてる気が。

 

 こんなやり取りでも時間は容赦なく進んでいく。諦めて思考を切り替えたオレであったが、まったく思いつかない。人間ダメ出しは得意でも発案は難しいのだ。

 

 こりゃあマジで妥協案でどうにかするしかねーのか……?

そう考え始めたとき、ずっと不参加だったラピスが口を開いた。

 

「ブラン、というのはどうでしょう?」

 

 車内の注目がラピスに集まる。少し恥ずかしそうなそぶりを見せるが、ラピスはそのまま言葉をつづけた。

 

「あまりよく覚えてないんですが……たしか、母と旅をしたときに聞いた異国の言葉だったと思います。意味は純粋とか、誠実とかだったかと」

 

 純粋、誠実……オレには全く似合わねーな。

 

「……あ、えっとその……どうでしょうか?」

 

 おずおずといった感じに尋ねるラピス。その表情には緊張がありありと浮かんでいる。

 

 まあ、もしこれが性格に合った名前を付けろコンテストとかだった場合、予選落ちする程度の的外れさではある。だが……

 

「ナイスだラピス! それで行こう!」

 

 今はそんなコンテストは開催していない。オレがいいと思えば、それで決まる。今までの名前がひどかったのもあるが、それを除いてもオレはラピスの案が気に入った。

 

「いいじゃないっすかブラン。オレのネーミングに負けず劣らずのかっこよさを感じるっす!」

 

 いやユズハ、お前自前のネーセン一回も発揮してねーから、不戦敗だから。

 

「うんうん! 流石ラピ姉だよ!」

「いやー、俺も結構頑張ったつもりなんだけどね……一撃でノックアウトされちゃったか」

「ブラン……うん、いい名前じゃない。同じ名前は聞いたことはないけど、近い名前は結構あるしいたって不自然さはないわね」

 

「……(コク)」

 

 やはりしゃべらないアドルフ。だがその頷きは、賛成ということなのだろう。ディナが関係していないと表情も全然変わらないんだよな。

 

「あの、本当にいいんですか? 名前なんて初めて考えましたし、ユズハやディナみたいに工夫もしていないですよ?」

「いいんだよ。オレもみんなも気に入っているから、問題ないだろ?」

 

 ネーセンなしも、現地民も全員賛成の満場一致。そこにいったいどんな問題があるとでも? ……ネーセンなしの同意は時によっては問題かもしれんが、少なくとも今は問題ない。

 

「ありがとよ、ラピス」

 

 オレの言葉に、ラピスの顔に不意打ちを食らったような驚きが現れる。が、すぐにそれは照れたような笑みに変わり、

 

「……どういたしまして、ブラン様」

 

 そういって右手で頬をかいた。

 

 

 

 最大の関門であったオレの名前。それを突破したオレ達に隙はなく、無事に城門を通ることができた。

 

 広い大通りを、馬車は進む。窓から見える風景は初めて見るはずなのに、どこか懐かしさを感じるようなものだった。

 

 行きかう人々に、賑わう店頭。色とりどりに飾られた看板や客引きの声は、世界が違っても似るものなのか。

 ただまあ似ていても違いはある。一番大きな違いは、行き通っている人々の方だろう。

2メートルを超える毛むくじゃらの大男、紫にも近い肌の長い耳を持つ女性、はたまたは蜥蜴の頭部を持った傭兵らしき人と、オリヴァーたちの話を裏付けるように異種族の人々が自然に生活をしていた。

 

「……すごいな」

 

 思わずつぶやきがこぼれる。ファンタジーの町と言われて思い浮かべるような光景を、まさか現実に見ることになるとは。

 

「まあ、俺達にとってはこれが普通だからね。じきに慣れてくるよ」

 

 これなら、オレ達がいたところで何ら問題はなさそうだ。むしろ、ここまで容姿の違った種族が多いとなると、オレ達が異種族だということを見抜ける人の方が少ないだろう。

 

(……いや、普通にいないか。オレ達四人全員見た目はただの人間だし)

 

 まあ、バレても何ら問題ないという点では非常に助かる話だ。

 

 

 馬車に揺れることさらに10分。街の華やかさから置いてけぼりにされたような、しかし閑散という言葉とは程遠い、五階建てほどの石造りの建物の前にオレ達は降り立った。

 




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