「おいおい、こりゃあいったいどういうことだ? ここはてめえらみてーな女子供が来るところじゃあねーぞ?」
そういってこちらへと、縦にも横にも大きな男が歩み寄ってくる。背中には鉄塊のような大剣、かつて優が使っていたものよりも大きな一振りを担いでいる。
……参ったな。面倒ごとの予感しかしねえ。
「……どちら様っすか?」
「ああ? このお方を知らねーだとぉ? なめてんのかわれぇ!?」
「てめえ、初めて見る顔だなあ。よそもんか? ああん?」
「処す? 兄貴こいつ処す?」
ユズハの問いかけに、大男の背後から3人の中肉中勢な男が3人食いついてくる。メンチを切ってくるその姿は、ヤクザというよりは粋がるチンピラにしか見えない。
「いや、あんたたちには聞いてないっす」
あっさりと言い放つユズハ。ちょ、おまそれ……
「な、なんだと!? なめやがって!」
「よそもんが粋がってんじゃねーよ! ぶっ殺すぞ!」
「処しましょう! 兄貴こいつら処しましょう!」
ほら言わんこっちゃない。こういう輩に真面目に返しても火に油なんだよ。
さてどう収集付けようか。そう思った時、元凶の大男が口を開いた。
「待てお前ら。ガキなんてやったところで面白くも何ともねえ」
「いや、しかし……」
「そんなもんより、もっと楽しいことがあるだろ?」
「!?」
チンピラABCは、その言葉にはっとする。
「おい、ガキ。俺は今すこぶる機嫌が悪い。お前みてーなガキがここにいるせいでなあ」
高圧的に、威嚇するように大男がしゃべる。ガキって、まあ確かにユズハはひょろいし童顔気味だからガキに見えるかもしれないけどさ。
「本当なら今すぐにでもてめえをぶちのめしてえところだが、俺たちにも慈悲はある。……言いたいことはわかるよなあ?」
「……何が言いたいんすか?」
ユズハのだるそうな返しに、大男の額に青筋が浮かぶ。が、どうやら取り巻きと違い我慢は知っているようで、咳ばらいを一つ。そしてユズハの耳に顔をよせ、小声でつぶやいた。
「てめえの横の女3人、ここに置いて消えろ。そうすりゃあ許してやるよ」
あーはいはい、そういうパターンね。聞こえないように小声で話したんだろうけど、丸聞こえだっての。
……ってえ、女3人? まさか、それにオレも入っているのか?
う、なんだが鳥肌が……
「……さいですか。それで、結局どちら様で?」
ユズハはそういってあくびを一つ。思わず吹き出しそうになるほど鮮やかな話題転換に、大男の手はその背中の大剣へと伸びていた。
「それ以上はやめておきな?」
が、その手は途中で止まる。いつの間に動いたのか、オリヴァーが大男の手を掴んでいた。
「誰だ! ……あ、あんたは!?」
「やあ。久しぶりだね、ヴァイン。……もう少し周りを見るようにした方がいいよ」
「周り、だと……!?」
そういわれ、大男――ヴァインはやっと気づいたようだ。オレ達の正面にアンナとアドルフが座っていることに。そして、オリヴァーが出てきた理由に。
「ッチ!」
オリヴァーの手を振り払い、ヴァインは舌打ち一つ。そのまま取り巻きABCを連れてギルドから出て行った。
「ふう~……何とか収まったかな。大丈夫かい?」
「……いや、ある意味大丈夫じゃない」
一応鳥肌は止まったけど、精神ダメージがヤバい。ここまで嫌悪感が強いとは……もう二度とナンパなんてしない自信あるわ。したことないけど。
「……言葉のみで吐き気を感じたのは初めてです……」
ヴァインの言葉はラピスにも聞こえたようだ。眉をひそめて口を押えている。
「? 2人ともどうしたの?」
「ディナにはわからないことだよ……一生わからなくていい、というかわからないままでいてくれ」
ディナの純粋さが唯一の救いだわ……
「それにしても、一体何しに来たんすかねえあの豚は?」
ぐでーっと椅子の背にもたれかかったままのユズハ。恐喝された本人なのにぴんぴんしてんな。
「いや、全然怖くないっすよあんなの」
それには同意するが。
「なあオリヴァー。とりあえずここから出ないか? あいつらがいつ帰ってくるかわかんないし、正直もう会いたくない」
「ははは……そうだね、旅帰りだし、僕たちも少しゆっくりしたい気分かな」
へえ……全くそう見えないけど、やっぱり疲れはあるのかね。
結局、明日の昼にギルド集合ということで今日はもう解散することになった。
「ブラン君、これを」
ギルドを出たところで、オリヴァーが何かを投げる。何かじゃらじゃらとしたものが入った布袋で、結構な重みがあった。
開けて見ると、中身は金貨一枚に大銀貨数枚、銀貨と銅貨が10枚ほど入っていた。
日本円に換算すると、十数万円分くらいはある。
「結構な大金じゃないか。どうしてオレに?」
「そりゃあブラン君、今日の宿はどうするつもりだったんだい?」
「普通に野宿で……あ」
そうだ、ここはもう町なんだった。こんなところで野宿でもしたら不審者扱いまっただなし。全員黒いコートなのも合わさって、発見=即通報だ。
「いや、でもこれは多すぎだろ。せいぜい銀貨5枚あれば泊まれるはず」
「サービスだよ。それくらいあれば半月は生活できるはずだ……身分証がないと、街の外に出たら入るのが大変だし」
……なるほど。ということは一週間街から出られない可能性があるってことか。
「なら、ありがたく借りておこう」
「……もらうとは言わないんだね」
苦笑するオリヴァー。まあ、どこかで返すつもりだしな。孤児院育ちなためか、金銭関係に細かい性格は簡単には治らないものだ。
「それじゃあ、また明日」
「ああ」
お互いに手を振り、逆の方向へと歩き出す。オレ達は宿外に、オリヴァーたちはそれぞれ自分の家に。
その後、大き目の宿に泊まろうとしたら身分証明できないやつを泊めるわけにはいかないと追い出され、同じようなことが3回も繰り返され、これでダメだったら野宿しようと覚悟を決めて入った、”止まり木”という小さい宿で無事泊まることができたという出来事があったがそれはまた別のお話である。
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「試験?」
「うん。一週間に一度、冒険者になりたい方が受ける試験があるのよ」
時刻は昼の少し前あたり。オリヴァーたちが来る前に冒険者として登録でもしておこうと考え受付のレヴィに話したところ、そのような答えが返ってきた。
「あ、でも合否がある試験じゃなくて実力を測るためのものでね。よほどのことがなければ最低でもランク1冒険者にはなれるし……あ、ランクってわかる?」
「流石にわかるよ」
ちなみに余談ではあるのだが、魔物のレートはこの冒険者ランクから定められていたりする。具体的に言うと、Eレート魔物はランク2の冒険者五人が協力すれば確実に倒せる程度、そこからランクが一つ増えるたびにレートも上昇し、SSレートの魔物に対応するのがランク10だ。最も、SSレート魔物なんてほとんど存在しないが。
「実力ある人にランク1から初めてもらうのは効率が悪いってことでね。最高ランク4まで跳ぶことができるのよ」
「へえ……その試験、やらないってのは?」
「無理だと思うよ。新人は全員行うのが決まりだから」
だろうな。できれば早く冒険者になって身分証もらいたかったんだが……一週間ってのはこういうことか。
「次となると……確か4日後だったかな? うん、ちょっと確認してみる」
そういうとレヴィは窓口の奥に消える。
4日後か……一週間後とかじゃない分助かったけど、それまで暇だなあ……面倒ごと覚悟で2日間外に出るか?
と、そこでギルドのドアが開いた。オリヴァーたちが来たのかな?
「あ、兄貴! 昨日のガキが!」
違った。昨日のデブ&取り巻きだ。会いたくないがために昨日は解散したのになんでまた……
「よお、昨日ぶりだなあ?」
ほら来たよ、デブが早速ユズハに絡んだよ。昨日よりも威勢がいいし。
「今日の俺はついてるなあ……ガキ、てめえらの保護者はいねえぞ?」
オリヴァーたちがいないから安全だと思っているらしい。にやつくその顔は見ていてひどく不愉快になるものだ。
「……いや、だから何が言いたいんすか?」
昨日と同じく煽り一回で青筋を浮かべるヴァイン。こいつ、我慢は覚えていても挑発耐性はねーんだな。
「……そうだな。てめえみたいなガキじゃあ理解できねえようだからはっきりと言ってやる。死にたくなかったら女どもを置いて、2度とここに来るんじゃねえ」
「嫌っすよ」
あたりまえだが、即答である。
「……そうか、なら望み通り――」
「ヴァインさん!? いったい何を……」
ヴァインが背中の剣に手を伸ばす。ここまでは、昨日とほとんど同じ流れだ。違うのは、その手を止める人間がいない点。ちょうど戻ってきたレヴィの眼には、ユズハが大剣で真っ二つにされる光景がありありと浮かんでいただろう。
もっとも、そうはならないが。
ユズハに当たる直前、ガギィィィンといった金属音とともに大剣が停止する。その刀身は一本の短剣が刺さっており、まるで空中に縫いつかれたようにびくともしなかった。
「な……!? なんだ!?」
驚くヴァイン。必死に剣を抜こうとしているが無駄だ。そんな脂肪だらけの筋肉でオレの『縫界』を破れるわけない。
「レヴィさん。こういういざこざって、ギルドが仲介したりしてくれるのか?」
「え? あ、ちょ、ちょっと担当の人呼んでくる!」
きょとんとしているレヴィは、オレの言葉にはっとしたようにそう言いまた奥に駆けていった。
「て、てめーら! 兄貴に何しやがった!」
「何もしてないっすよ?」
嘘じゃない。だって何かしたのは剣に対してだし。
「くそ! 兄貴の仇だ!」
「調子に乗りやがって! 死にさらさあ!」
取り巻きABCが殴りかかろうとしてくる。だがその動きは、まるで時間が止まったように途中で止まった。
「ラピス、ナイスだ」
3人の動きを止めた正体は、ラピスの糸だ。天井と床から伸びる糸が絡みつき、一歩踏み出すことを許さない。
これで、取り巻きどもの確保が完了した。
油断大敵ってやつだ。
にっくきガキの後頭部を狙い、俺は拳を握る。一体どんな奇術を使ってやったのか知らんが、剣が動かない以上どうしようもない。それに俺から気をそらしているこのガキを黙らせることくらい、剣を使うまでもない簡単なことだ。
「しねぇぇぇぇぇ!」
突き出された拳がガキの頭にぶち当たると、赤い血が吹き出す――俺の手から。
声にならない痛みが腕に走った。まるで大樹でも殴ったようだ。
ガキにダメージはない。俺の方を見て、薄く笑ってやがる。怒りが込みあがってくるが、2撃目を入れることはできなかった。
「やあやあブラン君、昨日の今日でまた会ったね?」
「……レヴィさん。なんでギルマスが?」
「人事の人に話したんだけど、いきなりギルマスが現れて……僕が請け負うよって言ったから任せたんだけど、どうかしたの?」
「……いや、何でもない」
怖いから会いたくないなんて、言ったところでもうどうにもならないだろう。
「そんなに嫌わないでよブラン君。僕は君に会いたかったんだからさ」
「……だからそこが
あからさまに嫌な顔をしてアピールするも、ネブラは気にした様子がない。
「ッチ、ギルマスか……」
「ヴァイン君、また問題でも起こしたのかい? 一応両者の言い分は聞くけど……ラピス君。彼らを離してあげてよ」
やっぱりわかるか。ホント、このギルマスは油断なんねーな。
「……わかりました」
オレが頷いたのを見て、ラピスの糸が緩められる。急に拘束が外れたので、取り巻きどもは床にしりもちをついていた。
「さて、一体何があったんだい?」
「このガキともが喧嘩を売ってきたから買っただけだ。ギルマスの出る幕じゃねーぜ」
最初から嘘をつくヴァイン。それにしても、見た目も身長もガキなギルマスなのに素直に従うんだな。
「ブラン君、今なんか失礼なこと考えていなかった?」
「考えてませんよ」
「……まあいいや、それで、ブラン君は売ったのかい?」
「むしろ売られましたね」
人の食後を邪魔されて女をおいていけって脅される……これをどうやったら喧嘩を売ったと言えるのだろうか。
とりあえず、オレはギルマスに事の顛末を説明する。時折ヴァインの「嘘つくんじゃねー!」とか「ガキは説明もちゃんとできねーのか?」といった声が挟まれたが、ネブラ笑顔を向けるとあっさりと黙った。
「ふむ、全く話が合わないねえ。直接見た人が他にいない以上、うかつに判断することもできないし……」
困ったなあ、とネブラはケラケラと笑う。いやいやいやいや、どう考えても先に手を出したのはヴァインだってわかるだろ。それくらい事細かに説明したはずだぞオレ?
「そうだねえ、ここは冒険者らしく決闘で解決するってのはどうだい?」
決闘。冒険者同士でいざこざが起きて、ギルド員じゃあ仲介できなさそうな時に行われるものだ。勝った方は負けた方に言い分を飲ませることが可能で、過去に奴隷に売られたものがいるほどの危険なものでもある。
「全然かまわねえ……なあ?」
そういってヴァインは取り巻きに笑いかけると、同じような下卑た笑いを返した。
……狙いバレバレすぎんだろ。
「ブラン君はどうだい? 断ることもできるけど、その場合面倒なことになるよ?」
「……そうだな。受けてたつ」
ギルマスの狙いはだいたいわかる。別にそれを叶える義務も借りも何もないのだが、オレはその提案に乗ることにした。
「え!? 大丈夫なの!?」
レヴィはオレが受けるとは思っていなかったようだ。まあ、確かにはた目からは何が起きたのかわからないしな、心配するのも仕方ない。
「うんうん、そういってくれると思っていたよ」
そういうネブラは、ひどく楽しそうである。
「それじゃあ、明日の今と同じくらいの時間にでも行おうか」
「ああ、わかった」
「ガキども、逃げんじゃねーぞ?」
小物感満載な捨て台詞を言って、ヴァイスは冒険者ギルドから出て行った。
「じゃ、僕も仕事に戻るね~。……明日の仕事分、今日で終わらせなきゃ!」
職員用と書かれた扉を開け、ネブラも帰っていった。
残されたのは、魔物四人と受付嬢一人。何故かぼーーとした感じのレヴィだったが、突然オレの肩をわしづかみにするとものすごい勢いで揺さぶり始めた。
「ブランさん! やっぱり決闘なんてやめた方がいいよ! あの人たち人格は悪いけど結構強いんだよ!? 腕っぷしでランク五はあるんだよ!?」
「ちょ、ま、ストップ、ストップ!」
声をかけるも、レヴィの手は止まらない。ちょ、え、力つよ!?
「レヴィちゃん、ストップ!」
その声は、入り口の方からだ。ユズハとディナでも全く止まらなかったレヴィが、その声一つでピタッと止まる。
「あ、アドルフだ!」
どうやら、オリヴァーたちがやっと来たようだ。
「遅れてごめんなさい。この二人が全然起きなかったの」
「ごめんごめん。……それで、一体何があった?」
レヴィの慌て様から察したのだろう、真剣な顔つきでオリヴァーはそう聞いた。
「――という感じに、決闘することになった」
昨日食事をとった席と同じ席で、オレは事の顛末を説明する。
「またあの馬鹿たちか……ホント、反省しないわね」
あきれたように、アンナがため息をつく。オリヴァーは表情に苦笑を浮かべ、アドルフはいつも通りの無表情。ただ組まれた手のその指が、怒りを表すようにせわしなく二の腕を叩いていた。
「ちょ、ちょっと! 皆さんそれだけですか!? もっとこう、ブランさんたちを止めたりしないんですか!?」
「うーん、大丈夫なんじゃない?」
「そうね。ガツンとやっていいと思うわ!」
「……(コクコク)」
レヴィの必死の訴えかけは、しかしオリヴァーたちには届かなかったようだ。え? え? と理解不能と言いたげな表情をするレヴィ。
「むしろ俺は、ヴァインたちが少し心配かな?」
「何言ってんのよ。あいつらの今までの悪行を考えたら受けてしかるべき罰でしょ」
「オレは悪魔かなんかなのか?」
流石にそこまでひどくやらねえよ。せいぜい骨をいくらか折るくらいだっての。
「え? なんでブランさんそこまで信頼されてるの? もしかして実はすごい人なの?」
「あれ? そういえば言ってなかったっけ? ブラン君、僕たちより断然強いよ?」
「……え?」
まあ、こんな見た目じゃあ絶対そう見えないだろうな。|あのデブ(ヴァイン)もそう思って絡んできたわけだし。
「俺の方が剣一本多いはずなのに、模擬戦をするといつも防戦に追い込まれるんだよね」
「魔法をぶつけあっても、絶対に私のが押し負けるし……」
「……力でも、ブランには勝てない……」
「あ、あとオリヴァーはいつも口足らずだから付け加えると、ディナちゃんもユズハ君もラピスちゃんもかなりすごいわよ?」
固まるレヴィ。返事がない、ただの屍のようだ。
「というか、今更なんだが勝手に受けちまったけど問題ないか?」
「なし!」
「同じく、何も」
事後確認になっちゃったけど、2人は文句などないよう。
「え? 選択権あるんで――」
「お前は強制な」
勘違いしたユズハはばっさりと切り捨てるが。
と、ここでレヴィが復活。
「……ごめんなさいブランさん、そんなにすごいお方だとは知らずに馴れ馴れしい態度を……」
「ちょ、レヴィさん!?」
やめて! そんなよそよそしい態度だけはやめて!
「普通でいいから、普通な接し方でいいから!」
「え? そう? ならそうする」
……この人、意外に順応性が高い?
「ところでレヴィ、俺たちのところにずっといるけど仕事はいいのかい?」
「どうせこの時間、来る人なんてほとんどいませんよ」
「ははは、なら、ちょっと働いてもらおうかな?」
「え? 働く?……」
直後、レヴィの顔が真っ赤に染まった。
「……何を考えたのかはだいたい想像できるけど、そういうことじゃないわよ」
「え!? あ、そ、そうですよね! あはははは……」
その後、品物の納品を行うついでにオレが元の10割増しな報酬をオリヴァーたちに渡したところレヴィが立ったまま気絶したというのはちょっとした笑い話だ。
アデゥラルには、外壁の他にももう一つの壁が建っている。貴族街と、その他を隔てる壁だ。街の中央部に位置する貴族街には、平民は無断で立ち入ることはできない。
できないはずなのだが、どう見ても貴族には見えないような服装の人影が四つ、貴族街の裏通りを歩いていた。
ヴァインと、その取り巻き達である。
「兄貴、どうするつもりで? 確かに決闘に勝てば上玉が手に入りやすが、あいつら、妙な魔法使いますぜ?」
一人がそう聞いた。沸点の低い彼らでも一応は冒険者。このままでは分が悪いということは、4人の誰もが理解していた。勝てないと言わないのは、果たして矜持なのかそれとも本気で思っているのか。
「黙ってついてこい」
振り向くこともせずそれだけ答えるヴァイン。尊敬する兄貴に言われちゃあ、取り巻き達は従うことしかできない。
やがて4人は、一つの大きな建物の裏口にたどり着く。
「兄貴……ここは一体?」
「あ? ポルコ商会の、その親玉の住んでる館だ」
「ポルコ商会!?」
ヴァインの答えに、取り巻きどもは声を荒げてしまう。
「静かにしろ! バレて捕まりてーのか?」
だが取り巻き達が動揺してしまうのも仕方のないこと。なにせポルコ商会はこの街の三大商会の一つ、それもこと武具に限定して言えば最大の商会であるのだ。
そんな大商会に、一体我らが兄貴はどんなようがあるのか。取り巻き達の興味半分尊敬半分期待半分の五割増し目線を浴びながら、ヴァインは目の前の扉をノックする。
コン、コンコンコンコン、コンコン
暗号じみた拍子だ。いや、実際に暗号となっているのだろう。
「……あなたでしたか、どうぞ、中へ」
少し待つと扉が開かれ、燕尾服を着た男が出てくる。
この館の使用人なのだろう。踵を返す男に、ヴァインら一同は後をついて行く。
通されたのは、20畳ほどの広々とした客間。その壁に大剣を立てかけると、ヴァインは中央に置かれたソファにどかっと座った。
「それで、本日は一体どのようなご用件で?」
ヴァインの正面に座り、男はそう尋ねる。
「そうせくなトレメル。客人が来たってのに、茶の一つも出ねーのか?」
「……少々お待ちを」
明らかに煽るようなヴァインの言葉に、しかしトレメルは反応を示さない。
数分もすると、盆を片手に男が戻ってくる。
4人分の紅茶が卓上に置かれる。なんの遠慮もなくヴァインがそれを手に取ると、一気に飲み干した。
「はぁ!やっぱうめーな! ほら、てめーらも飲んどいたほうがいいぜ?俺らの稼ぎじゃあ絶対に飲めねー高級品なんだからよ」
「……ヴァイン様。茶をたかりに来たわけではないのでしょう? 私も暇ではないので、早く本題に入っていただきたいものだ」
無礼千万としか言いようのない態度。そんなヴァインに、トレメルはすっと目を細める。
「まあまあ怒んなって……そうだな、お前の主にとって、飛びつきたくなるようなおいしい話だ」
決闘に、専用の場所はない。そもそも行われるのが稀なので、需要が供給に足りえないのだ。そんなわけでここアデゥラルのギルドでは、訓練場が決闘の場として使われている。
訓練場の大きさは縦50m横60mほど、二メートルほど高さの壁で囲まれており、外から中の様子は見えない。また、訓練場の地面は縦横2mほどの石で敷き詰められており、中央がリングのように一段高くなっている。
時刻は昼食前、太陽がまだ少し傾いているときに、ヴァインたちはやってきた。
「ほう? 逃げずにおとなしく待つことはできたようだな」
会って一言目が挑発である。こいつら、挑発以外の言葉も言えないのか?
「お前らと違って、逃げる理由なんてどこにもないからな」
だが予想外なことに、ユズハの挑発(本人にそのつもりはなかったが)一発で青筋を立てるような奴らが、オレのあからさまな言葉にただにやついたままだった。その眼には、自信がありありと浮かんでいる。
「は! その強気、どこまで持つか楽しみだな!」
ヴァインはそう言い残すと、オレの前を通り過ぎていった。その背中を見たとき、オレはあることに気付く。
(武器が新しくなってんな……アレが自信の元とみて間違いなさそうだ)
オレが昼に刺した大剣は、ただ無骨で巨大、そしてろくに手入れがされておらず刃がボロボロになった大剣だ。それが今では、表面に複雑な模様が彫られた銀色に輝く大剣に変わっていた。
(ルシファー、念のために解析を頼めるか?)
(かしこまりました)
まあ、武器が変わった程度でどうこうなるとは思わないが……用心に越したことはない。
「ごめんごめん、少し遅れちゃったよ」
と、そこでネブラがやってきた。心なしか、午前中より少しやつれている気がする。
「と、全員そろっているみたいだね」
訓練場にいるのは、オレ達四人とヴァインら四人、そしてネブラのみ。オリヴァーやレヴィたちは、酒場の2階にて観戦だ。このギルドの二階は、ちょうど訓練場が見えるところにバルコニー席があるのだ。
「それじゃあ、ルール説明をしよう。といっても簡単。一対一の試合を人数分行うだけ、それぞれの勝ちが多いほうが最終的な決闘の勝者だ。ただ今回は偶数なため、勝ちが同数となった場合は大将戦に勝った方を勝者とする」
ふむ、確かに単純だ。それだけにルールの曲解とかによる面倒ごとも起きなさそうで、オレとしては助かる。
「個々の戦いは、どちらかがリタイアするか気を失った時点で終了とする。万が一相手を殺してしまった場合は、問答無用で殺害側が敗者だ。……それじゃあ、最初の選手を決めてね」
「なら、オレが行くっす」
最初の立候補はユズハ。特に問題はないので、そのまま出てもらうことにした。
対する相手は、取り巻きのどれか。おそらく、取り巻きA、のはずだ。覚えていたくないやつらなので確証性はない。
ネブラの指示に従い、2人は壇の上に上がる。ここで少し意外だったのが、取り巻きAがちゃんと構えをとっていたのだ。先ほどの態度から終始なめてくるんじゃないかと思っていたのだが、どうやら腐っても中ランク冒険者のようである。ちなみにユズハは構えていない。いつものようにけだるげに立ったままだ。あ、今あくびした。
2人が位置に着いたことを確認し、ネブラが手を上げる。そして、振り下ろされると同時に、開始の合図が響き渡った。
読んでいただきありがとうございます