召喚勇者は死にました   作:黒桜@ハーメルン

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日付間違えました


28 決闘

 酒場2階、バルコニーにて。

 

 決闘が行われるという噂でも広まったのか、バルコニーの席はすべて埋まっている。そこに飛び交う会話の大半は、訓練場に立つブランたちに対する憶測であった。見たことのない顔だ。女子供が決闘するのか? 相手は誰なんだ? 

 

そんな中、バルコニーのフェンスに体重をかけ、オリヴァーたち4人は立って訓練場を覗き込む。周りの会話など意に介した様子もなく、ただ決闘の開始をのんびりと待っていた。

 

 と、そこでバルコニー席が喧騒に包まれる。大半の人から発せられた驚きの声は、訓練場に入ってきたヴァインを見たためであった。

 

「相手があのヴァインって、本気か?」

「人間としてはクズだけど、実力だけはあるからな……かわいそうに……」

 

 そして彼らの次の言葉は、ブランたちの正気を疑うようなものや憐れむようなもの。オリヴァーたち以外、誰もブランたちが勝つとは思っていなかった。

 

「あわわ……やっぱり、やめた方がよかったんじゃあ……」

 

 訂正しよう。オリヴァーたちと一緒に立っていたレヴィも、周りの声に引きずられ始めている。順応性が高いのは、こういうときでも同じなのだ。

 

「やっぱり彼らが心配かい?」

「……はい」

 

 オリヴァーの言葉に、レヴィは顔を赤らめて頷く。確かにレヴィはブランたちの実力を見たことがあるわけじゃないので、不安になるのも仕方のないことだ。例え事前に聞かされていても、それを本心から信じることは難しい。

 

「まあ、ギルマスが審判を務める以上は、誰かが死ぬことはないと思うよ」

「でも……」

「大丈夫さ。俺を信じてよ」

 

 思い人にそういわれては、レヴィも反論ができない。のどまで出た言葉を飲み、視線を訓練場――壇上の上に立つユズハに移した。

 

 

 

「それでは……はじめー!」

 

 ネブラの声は見た目相応の子供声。そのために、どこか締まりのない決闘の開始である。

 

 だがそんなことは戦う当人にとってはどうでもいいこと。合図と同時に、取り巻きAはユズハ向けて剣を突き出した。

 

「食らいやがれ!」

 

威力の乗った、決して素人には出せない突き。ヴァインのと同じく銀色に輝く剣先が、ぼーっと立ったままのユズハの額を貫き鮮血を散らせる――取り巻きAには、その光景が目に浮かんでいたのだろう。

 

 だが、甲高い音とともにその光景は幻想に終わった。銀の剣は弾かれ、その反動をもろに食らった取り巻きAは痛みに剣を落としかける。

 

 すかさず距離を置く取り巻きA。一方攻撃を食らったはずのユズハは、まるで蚊に刺されたかのように額を掻いただけだ。

 

(このガキ、どんだけかてーんだ!?)

 

 敬愛する兄貴の拳が通らなかったのは見ている。が、まさか自分の武器――ポルコ商会の最高級品ですら効かないというのは予想外にもほどがあった。

 

(まあいい! この剣の真の力を使えば手も足もでねーはずだ!)

 

 だがすぐに切り替えて、取り巻きAは呪文を唱え始める。ほんの数時間前に教えてもらった、真の力を引き出すためのものだ。

 

「『身刃強化』」

 

 鍵言葉(キーワード)とともに、取り巻きAの剣が二倍ほどの大きさに増大、そして重量が増したはずのそれを、取り巻きAは片手で軽々と持ち上げていた。

 

「……でっかいっすねー」

 

 ソレを見たユズハは相変わらず呑気である。むしろ、興味がほとんどないのではないか? そんなユズハの態度に、沸点がエタノールな取り巻きAは頭に青筋を浮かべる。

 

 「死にさらさあ!」

 

 もはやルール忘れたんじゃね? と思うような物騒な言葉とともに取り巻きAが跳躍する。そして落下の威力を乗せた一撃がユズハの脳天に炸裂し、壇を構成する石が蜘蛛の巣状にひび割れていった。

 

 

 

「な、な、……なんなのあの剣!?」

 

 突如巨大化する剣。レヴィはそれを見て、大いに驚いていた。

 

 いや、レヴィのみではない。酒場にいるほとんどの人が、驚きの声を上げていた。

 

「ちょ、オリヴァーさん!? 巨大化しましたよ!? 今剣が巨大化しましたよ!?」

「ああ、うん、ちゃんと見えたから。とりあえず落ち着こうよ」

 

 今にも叫びだしそうなレヴィを、オリヴァーがなだめて落ち着かせる。彼らがバルコニー席内で平常な、数少ない人間であった。いや、驚いてはいるのだが、レヴィ含めた他の人間とは理由が違うので取り乱しはしなかった。

 

「あ、す、すみません……と、そうだユズハ君は!?」

 

 取り巻きAの一撃により、訓練場は土煙に覆われている。そのため今の状況は見ることができないが、取り巻きAが放った一撃をレヴィはしっかりと目にしていた。

 

 レヴィの背中に、冷たい予感が駆け抜ける。やはり、あの一撃では手も足も出ずに……

 

「大丈夫さ。ユズハ君はアレくらいじゃあ傷一つつかないよ」

 

 そんなレヴィの心を読んだかのようにオリヴァーはそういう。そしてそれを裏付けるかのように土煙は晴れ、巨大な剣の刃を掴み立っているユズハが現れた。

 

 

 

「な……!?」

 

 目の前の光景を、取り巻きは信じることができない。なにせ、自分の必殺の一撃が止められたのだ。しかも腕一本で。一体どれほどの力があれば止められるのだろうか。驚きのあまり思考が停止しかけていた取り巻きAは、今度こそ剣を離してしまった。

 同時に、巨大化していた剣は元の大きさへと戻る。取り巻きAが剣を離したことで、燃料であった魔力が供給されなくなったからだ。

 

「さて、今度はオレの番っすね」

 

 銀色の剣を、ユズハは無造作に放り投げる。そしてストレッチでもするように肩を回しながら、ゆっくりと取り巻きAに近づいて行く。

 思わず、といった感じで、取り巻きAは一歩後退った。

 

「食らえ……せい!」

 

 素人丸出しのパンチが、取り巻きAの腹に炸裂。

 

「……は?」

 

 ダメージはゼロである。再び繰り出される素人パンチを、取り巻きAは片手で受け止めた。

 

「せい! はあ! とう! やあ……っととと」

 

 ダメージゼロ、ダメージゼロ、ガードされて最後は空振り。バランスを崩したユズハはたたらを踏む。

 

 両手をグーパーグーパーさせるユズハ。やがて何かを悟ったように口を開いた。

 

「あー……審判、降参しまーす」

 

 そう宣言して、颯爽と取り巻きA背を向けるユズハ。

 

「「「「……はあああああああああああああああああああ!?」」」」

 

 今まで一番の驚きが、バルコニー席を襲った。

 

 

 

「ただいまっす」

「お疲れ。流石に無理だったか」

 

 訓練場の端に戻ってくるユズハをねぎらう。この結果は予想していたことでもあるので責めるようなことはしない。

 

「そうっすねぇ……使えば余裕だと思うんすけど、流石にこの状態じゃあ」

 

 実のところ、ユズハはこの戦いでほとんど本気を出していない。それはユズハがだらけて出さなかったわけではなく、オレがそう指示していたのだ。

 

 ユズハとディナの能力は、非常に特殊なものである。通常の生き物の域から確実に乖離したもの。それ故に、むやみに人前で使わせることはできないのだ。

 

 敵の剣が巨大化したときは少々驚いたが、ユズハがやられる心配はしていなかった。いざとなれば、能力を使っていいとも言っていたし。

 

 それにしてもあの剣、実に面白いな。決闘に勝ったときの報酬はアレにしてもいいかもしれない。

 

(いえ、その必要はありません。すでに解析は終えました)

 

 お、流石相棒仕事が早い。それで、あの武器は一体どんなものなんだ? 

 

(魔法の媒体となる武器、というのがちょうどいいかと。あの表面に彫られている模様は魔力回路でして、魔力を流すことで魔法が発動する仕組みです)

 

 なるほど、ということは、魔道具に近いものなのか。

 

(ん? あいつ、詠唱もしていなかったか?)

 

 魔力を流すだけなら詠唱はいらないと思うのだが……

 

(詠唱を行ったことで、それ以降は魔力が半自動的に供給されていました。おそらく近接戦闘の為の仕様でしょう)

 

 あー、そういや魔法使いながらの近接戦闘ってできる人が少ないんだったか。思考が追い付かないとか何とかで。

 ……生前じゃあ優とか幸助とかリオさんとかが普通に使ってたし、オリヴァーも普通に使ってるんだよなあ。あれ? オレの知ってる人間って実はすごい人だらけ? 

 

 まあ、そんなことはどうでもいいとして

 

「そんじゃ、次の試合だが……ディナ、ラピス、どっちが出る?」

「うーん……ディナはどっちでもいいや」

「なら、私が行きますね」

 

 なんの問題もなく即決。ラピスは割れた壇上に上がり、戦いの相手を見据えた。おそらく取り巻きの……処す処す言っていたCの方だと思う。他の二2と比べて体が丸い。

 

「……おでは相手が女だろうと、手加減は一切しない。おでに処されるか痛い目に合わないよう降参するか、好きな方を選べ」

 

 おお? まさかの降伏勧告か? 余程勝つ自信があるみたいだな。

 だがまあ、そんなんじゃあうちのラピスを降伏させることはできない。なんせ地竜を相手取ったこともあるんだ、ぽっちゃりの脅しなんてかわいいもんだろ。

 

「そうですね。なら、3番目のあなたを処すを選ぶことにします」

 

 すまし顔でラピスはそう言い放つ。途端に、背後上方の酒場バルコニーが沸きだった。

 

「いいぞ! もっと言ってやれ!」

「ははは! ダニエル相手にそこまでいうか! 嬢ちゃんいい度胸してるぜ!」

 

 へえ、ダニエルって名前なのか。どうでもいいな。

 

 しかしどうやら、今のラピスの発言で観客たちは完全にこっちの味方らしい。だからと言ってどうこうあるわけじゃあないが、まあ、気持ち的にね。

 

「……その選択、後悔するじゃねーぞ?」

「さあさあ、言いたいことは全部試合に込めてね。それじゃあ第二試合、開始ー!」

 

 第一試合の緊張感はどこに行ったのか、緩さマックスの合図で第二試合が始まった。

 

 

 

 開始とともに、ラピスの指が素早く動く。そしてダニエルの方も、最初から本気のようで詠唱を始めていた。

 

 一足先に、ラピスの糸が剣に絡みつく。そのまま体の方にも伸ばそうとしたところで、剣が燃えた。

 

「『炎剣』!」

 

 燃え盛る剣。それがダニエルの武器に埋め込まれた魔法のようだ。持っている彼に、熱さを気にしている様子はない。

炎が糸を伝るより早く、ラピスは糸を放棄。次の手を打とうとしたところで、ダニエルがラピスに剣を振りかざしていた。

 仕方なくラピスは攻撃を諦め、回避に徹する。燃え盛る炎の剣を紙一重で躱し、何とか距離をとることに成功した。

 

「……おでのいったことが分かったか? 燃えたくなかったら、さっさと降参しろ」

 

 剣を担ぎあげ、ダニエルはそういった。意外と取り巻きーズの中では良心があるのかもしれない……? 

 

 しかしその降伏勧告は、おそらく自信過剰で言っているのではないのだろう。なにせ糸と炎、相性は最悪といってもいい。もしオレがラピスを知らなかったら、きっと勝てないだろうと考える。

 

「そうですね……確かに私とあなたの相性は良くないのでしょう。おそらくこのままじゃあ、私が負けます」

「わかってんなら、早く降伏し……」

「だが断ります」

 

 どこのおしゃれヘアー漫画家だと突っ込みたくなるようなセリフを、ラピスは堂々と言い放つ。対するダニエルは、何を言っているんだという風に眉をひそめていた。

 

「このままでは、と私は言いましたよ? なら、もう少し本気になればいいだけです」

 

 そういうと同時に、ラピスの背中、コートに空けられた6つの穴から、蜘蛛の足がはい出てきた。

 

「……そんな飾りが増えた程度で図に乗るな。おでの炎に糸が通じないのは変わんねえ……!?」

 

 ラピスを睨むダニエルの視界に、きらりと光る何かが映る。咄嗟に剣を薙ぎ払うと、幾本もの糸を切った感覚と、空中には十を超える炎が灯った。

 

 いつの間に……とダニエルが思う暇もなく右足に糸がかかる。それを突き刺して燃やすと、今度は左手が糸に縛られた。

 

 切っても燃やしても、次々に糸が絡まってくる。右手に持った一本の剣じゃあ、四方八方から迫りくる糸に対応できなくなってきたのだ。

 

 ダニエルは焦りだすも、攻撃の密度はどんどん上がっていく。そしてついに、ダニエルの右手が糸に捕まってしまった。

 

 咄嗟に左手に剣を持ち替え、右手の糸を燃やす。が、その持ち替えたことによるラグは、ダニエルにとって致命的なものとなった。

 

 地を這っていた糸が、ダニエルの両足をとらえる。それによりバランスが崩れ、咄嗟に地面に触れた左手も捕獲。そして剣を持つ右手にも糸が絡まり、ついにダニエルはしゃがんだ姿勢で指一本動かせなくなった。

 

「さて、これで詰み、ですね」

 

 ゆっくりとダニエルに歩み寄るラピス。そしてダニエルの眼のすぐ前にしゃがむと、笑顔のまま

 

「あなたは私に降参を勧めましたが、私はあなたに勧めたりはしません。少々痛いかもしれませんが、気絶するまで我慢してくださいね」

 

 同時に、ダニエルの首周りの糸が少しずつ引っ張られていく。慌てて口を開こうとしたが、ラピスの拘束はそれすら許さなかった。

 

 そして10秒後、ダニエルは意識を失った。

 

 

「ふぅ~、緊張しました」

 

 戻ってきたラピスに第一声がそれである。いやお前、緊張っていうか結構ノリノリだったよな? □ハン決めてきたよな? 

 

「つーか、とどめの刺し方がえぐすぎんだろ……」

「そうですか? あの方法は私の知る限りで最も早く気絶させる方法なんですが……」

 

 ……まあ、確かに早いけどさ。それまでの演出トラウマものだよ。上の観客席も未だにざわめいているし。

 ……一瞬両手で肩を抱いて悶えている人間が視えた気がするんだが、きっと見間違いだ、うん。

 

「まあ、それはあんなこと言ってきた仕返しですよ……これでも私、結構怒っているんですよね」

 

 そういってフフフと笑うラピス。おかしいな、病み属性が追加されている気がするんだが? 

 

「ま、まあ、とりあえずお疲れさん。結構いろいろと危なかったように見えるが無事でなによりだ」

 

 特に最初、当たるかと思って一瞬飛び出しかけた。ルールなんて知ったこっちゃない、仲間の安全の方が大事だ。

 

「……あれ? ところでディナは?」

 

 そういえばさっきから姿が見えない。次だというのに一体どこに行ったのだろうか。

 

「ディナなら、もうあそこにいるっすよ」

 

 ユズハが指し示すのは訓練場中央。すでにディナはスタンバイしており、対戦相手の取り巻き……Bと何やら言い合っているようだった。

 

「いつの間に……って、何か問題でもあったのか?」

 

 少し心配になるが、ディナが一歩前に進んだとき、ギルマスが双方を止めた。そして始まりの合図である右手を、高く上にあげる。

 

「第三試合、はじめー!」

 

 合図の終了と、轟音が鳴り響いたのはほとんど同時であった。

 

 

「こんなガキの相手でいいとか、ずいぶんと俺は運がいいみてーだなあ! ああん?」

 

 見え透いたような挑発を、取り巻きBは目の前のディナにかます。仲間が悲惨な負け方をしたというのに、彼の様子は余裕そのものであった。

 

「人を見た目で判断しちゃいけないよ? おじさん、そう習わなかったの?」

 

 対するディナは、いたって真面目な顔でそう返す。純粋なディナには、その程度の挑発は通じなかったようだ。

 

「誰がおじさんだガキ! ぶっ殺すぞああん?」

 

 両手に持つ直槍をディナに向け、青筋を立てる取り巻きB。どうやらコイツは、4人の中でも一番沸点が低いようだ。取り巻きAがエタノールなので、だいたいアセトン、といったところだろう。

 

「ったく、こんなガキまで引っ張り出してくるとか、てめえらのリーダー頭おかしいんじゃねーか? しょっぱなに戦ってすぐに降参するしよぉ」

「何言ってるの? 主はまだ戦ってないよ?」

 

 ディナのその発言に、取り巻きAは一瞬目を丸くする。そしてそれが指している人物が誰なのか察したようで、取り巻きAは声に出して笑い始める。

 

「うあはははははっはっは! てことはアレか? てめえらの主ってのはあの白いガキの子とか?! こいつぁ傑作だぜ!」

 

 明らかにブランを馬鹿にするような発言。流石のこれには、ディナも怒りを覚えるところとなった。

 

「……主を馬鹿にしないで」

 

 さっきより一段低くなった声で、ディナはそういう。当然だが取り巻きBがその程度でやめるわけなく、むしろより笑いを大きくしていった。

 

「なるほど! ガキの脳だから強いやつ2人を先にやらせたのか! だがルールをわかってないようだな? いくら先に2勝したところでよお、大将戦で勝てばこっちのもんなんだよお! ……おっと、そもそも一人は手も足も出ていなかったなあ。こりゃあてめえらが勝つなんて万が一にも起こらねえぜ!」

 

 よくもまあ、ここまで他人を煽れるものだ。というか、手も足も出なかったのは自分仲間もだということを取り巻きBはまるで気づいていないのだろうか? 矛盾だらけのその挑発に、しかしディナは拳を強く握りしめる。

 

 そして一歩踏み出したその足は、ネブラの手によってやんわりと止められた。

 

「まだ試合は始まってないから、我慢ね。……君も、言いたいことは試合が始まってからにしな」

 

 ネブラのその言葉に、ディナはしぶしぶと足を戻す。取り巻きBも、それ以上笑うのを止めた。

 2人の様子を見て、ネブラは満足そうに頷く。そして右手を上げ、開始の合図を放った。

 

 

 取り巻きBは、自分に何が起きたのかまったく理解できなかった。それは子供を相手とることへの油断か、それとも鎧を着ていることから生まれる慢心か。気付いたときには、自分の体はすでに吹き飛ばされていたのだ。そして、状況を飲み込む時間も与えられず、彼の意識は闇へと落ちていった。

 

 

 バルコニー席にて

 

 あまりにも早い決着に、観客一同は言葉を失っていた。

 

 いや、おそらくその大半は、状況を飲み込めていないだけだ。一体どうやったら、あんな小さな体から人一人を吹き飛ばす力が発揮されると想像できるのだろうか。

 

 静まったバルコニー席は、やがてざわめきに埋め尽くされる。それは出来事を確認する声だったり、誰何の言葉だったり……

 

「……オリヴァーさん。本当に、ディナちゃんたちって、何者なんですか……?」

 

 レヴィも、そのうちの一人だ。想像の斜め上を行く彼女らの強さに、ただただ驚きが頭を埋め尽くしていた。

 

「……残念ながら、さっき話したこと以上のことは何も聞いてないんだよ」

 

「ラピスちゃんとは過去に2、3回あったことはあるのだけれど……今のラピスちゃん、昔とは随分と違うのよね。ディナ君やユズハ君は生まれたてといっても過言じゃないし……」

 

「え? 生まれたて?」

「あら、そういえば言ってなかったかしら?」

「言ってないも何も、生まれたて?ってどういう意味?」

「それは……まあ、いいかしら」

 

 言っていいものか一瞬悩んだのだが、すぐに大丈夫だろうとアンナは判断する。本人たちも特に言わないでほしいとは言っていなかったし、まあ、レヴィなら大丈夫だろうと。

 

「実はね、レヴィ。ディナちゃんとユズハ君って人間に見えるけど違うのよ」

「え? いやまあ、あそこまで強い人間がそうそういるわけないし……やっぱり亜人種?」

「いえ、亜人種じゃなくてね……」

 

 

 レヴィの話し相手が完全にアンナに変わった一方。

蚊帳の外になったオリヴァーは2人の会話を聞いていたが、何とはなしにふと周りを見まわした。特に理由のない、無意識の行動であったが、その時オリヴァーはある違和感を見つけた。

 

一人の男だ。白いワイシャツに黒ズボン、その上に燕尾服を羽織ったいわゆる正装というものをしており、ひどく場違い感がある。また彼のその、周りの喧騒から離れたようなひどく冷静な態度も違和感を強めるものとなっていた。

 

(見ない顔だ。服装から考えると、どこかの貴族の従者、ってところかな?)

 

 高ランク冒険者なだけあって、貴族の相手をすることも少なくない。その時の貴族の付き人は、だいたいそのような服装をしているのを覚えていた。

 

(それにしても、一体何故こんなところに?)

 

 貴族が冒険者に用があるなんてことは多くない。せいぜい依頼がある場合か、私兵としてスカウトするかの2択に絞られている。さらに後者は極めてまれだ。

 

(依頼するだけならわざわざこっちに来る必要もないはずだし……かといってスカウトにしても訓練場にいるのはヴァインたちとブラン君たちだけだし……)

 

 まさか、ブラン君たちを? いやでも、彼らはここに来たばっかり。例え噂が広まっていたとしても慎重な貴族が動くとは考えられない。ヴァインたちって可能性もあるけど……

 

(悪名ばっかり広まっている彼らを取り込む貴族なんて、それこそいないなあ)

 

 いわば暴れ馬に馬車を引かせるようなもの。よほどうまい御者でもいない限り大怪我間違いなし、好んでやる人間なんていないだろう。

 

「大将戦、はじめ!」

 

 どうやら考え事をしてるうちに、最後の試合が始まってしまったようだ。わからないことは仕方がない、オリヴァーは思考を切り替え、ブランの戦いに目を向ける。

 

 

 

 迫りくる大剣を、最小限の動きでひらりひらりとかわし続ける。細かい装飾のされた大剣は、地面に当たるごとに敷かれている石を割っていった。

 

 縦の攻撃じゃあ分が悪い。そう判断したのか、ヴァインの攻撃が横薙ぎに変わる。

 最初の一撃は、首を狙ったものだった。リンボーダンスをするように、後ろに反ることでそれを躱す。ヴァインは剣の勢いのまま一回転すると、今度は中段に剣が迫ってきた。

 軌道を読み、タイミングよく剣へ向かって跳ぶ。そして大剣の腹に手をつけ、ハンドスプリングの要領で一回転。頭上を大剣が通り過ぎ、白銀の髪が舞い散った。

 

「……つくづくふざけたガキどもだ」

 

 振り抜いた剣を構え直し、ヴァインはそう毒づく。今までのやり取りは、どちらも本気ではない。ヴァインは武器の能力を使っていないし、オレはそもそも武器すら取り出していなかった。

 

「そうか? オレにとってはお前らも十分ふざけていると思うんだが」

 

 はっきりとした怒気を込めて、オレはそう返す。

 

「ああ? ガキ、俺たちのどこがふざけてるってんだ?」

「人が食後にゆっくりしているときに因縁つけてきたり、人の仲間脅してきたり……」

「は!」

 

 聞かれたので答えたら鼻で笑われた。

 

「いいかガキ。てめえに教えてやるよ」

 

 余裕の表情でしゃべりだすヴァイン。別に聞く気は無いのだが、オレは黙って続きを待つ。

 

「この世の中はな、弱肉強食だ。強いものは横暴が許され、弱いものは奪われる。ここじゃあてめえが弱者で、オレが強者なんだよ!」

「……」

「俺があの馬鹿どもと同じくよええと思っているんなら、そりゃあ勘違いだ。……てめえなんかじゃあ、俺には勝てねえよ!」

 

 脅すように、大剣を地面へと叩きつける。すると、たたきつけた箇所から爆発が発生し、ヴァインごと周囲の石を巻き込んだ。

 

「ガキ、さっさと降参しろ」

 

 周囲の石はことごとく破壊されていたが、ヴァイン自身にはダメージが見られない。おそらくこれが、奴の剣の魔法なのだろう。

 

 今までで一番気持ち悪い、背中に悪寒の走るような笑みを浮かべて、ヴァインは剣を肩に構えた。

 

「そうすれば、今まで味わったことのない快感を与えてくれる奴のところに連れて行ってやるよ……命は保障しねえがなあ!」

 

 一瞬。今までの動きとはかけ離れた速さで放たれた大剣は、オレの脳天めがけて振り下ろされる。

 

 リング全域を巻き込んだ、特大の爆発が発生した。

 




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